転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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もう少しだけ続くよ日常回
変わらずトリニティでのお話になります


羽川ハスミと仲正イチカと丹花タツミ

「ふぁぁ……」

 

大きなあくびをしつつ、のんびりと道を歩く俺様。

ふと空を見上げるとそこにはキヴォトス特有の大きな輪っかと共に、さんさんと輝く太陽の姿があった。

実に良い天気だ。散歩にはもってこいの日だろう。

 

時は昼下がり。トリニティ総合学園内の一角にて。

今日も今日とてエデン条約関係の仕事のためにトリニティに訪れていた俺様は仕事を終え、ゲヘナへと帰還するためにすっかりと見慣れた道を歩いていた。

 

なんと言うか、トリニティに来ることにもすっかり慣れてしまったよなぁ……

最近はトリニティの生徒に対する俺様への視線も悪意よりは「また来てんのかよお前」って呆れの感情に近いものになっている気がしているくらいだ。

まぁ、視線を感じるってのは相変わらずなんだけどな。

 

銃声と爆撃音の絶えないゲヘナとは違う静かなトリニティの雰囲気は嫌いではないんだけど、なんか空気がジメジメしてるのだけはどうにかならないもんなのかね。

 

「帰ったら何すっかなー。」

 

俺様は目尻の涙をジャケットの袖で拭いつつ、そんな事を呟きながら歩を進める。

今日のトリニティで行う仕事は全て終了済みだ。

この後は特に予定もないため、ゲヘナに帰ったら久しぶりに趣味の食べ歩きに行くのも良いかもしれねぇ。

それに最近は非番の日に梅花園へ行く頻度も減ってしまったし、梅花園に顔を出しに行くのもいいかもな。

……とは言え、流石に今の時間から何の連絡もなしに押しかけるのは迷惑かもしれねぇな。

 

なら、ここは思い切ってトリニティでまだ見ぬ美味い店を探してみるのも有りかもしれない。

なんやかんやでトリニティ総合学園駅からトリニティ総合学園へ来るまでの道にはたくさん飲食店があるし、中にはいくつか気になる店もあったからな。

まぁゲヘナの制服を着てるから周囲の視線がちょいとばかし気になるのがたまにキズだけど……

トリニティってだけあって値段は張るだろうけどその分美味いもの食えそうだし……うーん、悩ましいところだ。

 

「……おや?タツミさんではありませんか。」

 

そんな事を考えつつ、トリニティの正門へと向けて歩を進めている時だった。

ふと、俺様の背後から聞き覚えのある声がかけられる。

思わずそちらを振り向くと、そこには正義実現委員会特有の黒いセーラー服を身にまとった羽川先輩の姿があった。

 

「こんにちは、羽川先輩。」

「こんにちはタツミさん。貴方がトリニティに居るとは珍しいですね?」

「今日はちょっとエデン条約関係の仕事で桐藤先輩に会ってきましてね。今はその帰りって所です。」

「そうだったんですね。」

 

納得したような表情を浮かべる羽川先輩。

……それにしても、やっぱりいつ見ても思春期の男子高校生を絶対に殺すと言う意思を感じる格好である。

なるべく視線を顔に固定しておかねば……

 

「羽川先輩はパトロールですか?」

「はい、エデン条約の前なので不良の取り締まりを強化しなければなりませんから。」

「そうなんですね、お疲れ様です。今度また仕事でトリニティに来る事があればプリンでも持ってきますよ。」

「本当ですか?ありがとうございます!」

 

そう言ってずいっと俺様に体を近づけ、目をキラキラさせる羽川先輩。

羽川先輩、ほんと甘いものに目がないよなぁ……まぁ女の子らしくて微笑ましいけども。

モモトークではよくダイエットしなきゃって言ってるけど俺様はいっぱい食べる羽川先輩は見ていて気持ちいいから好きなので是非そのままで居て欲しいものである。

……ってか、タッパとスタイルが規格外なんだから体重が増えるのは普通のことだと思うしそんなに気にしなくても良いと思うんだけどなぁ。

 

「……その、タツミさん。」

 

俺様がそんな事を考えていると、急に真剣な表情を作った羽川先輩からそんな声がかけられる。

 

「ん……?どうしました?羽川先輩。」 

「その、コハルの件なのですが……」

 

……下江の?

 

「タツミさん、本当にありがとうございました。コハルから聞いたのですが、補習授業部で勉強をする際にタツミさんが通話を繋いで付きっきりで勉強を教えてくれたと言っていたので……」

「あ、その件ですか。別にそれくらいどうって事ないっすよ。それにテストに合格できたのは俺様じゃなくて下江が頑張った結果なんで……礼には及びません。」

 

軽く頭を下げつつそういう羽川先輩に対して、俺様は頭を上げてくれとのジェスチャーをしつつそう言った。

前に桐藤先輩にも言ったけど俺様のやったことは勉強を見てやったことくらいだからな。

前述の通りテストに合格できたのは下江本人の頑張りの結果なので、礼を言われるほどのことではない。

 

「それでもお礼を言わせて下さい。貴方のおかげで私はまた可愛い後輩と一緒に正義実現委員会の活動をすることが出来ます。コハルを助けていただいてありがとうございました、タツミさん。」

 

そう言って、再び頭を下げてくる羽川先輩。

……まぁここまで純粋に礼を言われて受け取らないっていうのもそれはそれで失礼に値するだろう。

ここは素直に受け取っておくとしよう。

 

「どういたしまして。これくらいお安い御用ですよ!」

 

それに、俺様とて礼を言われて悪い気はしないからな。

しかし甘いものの前以外でここまで嬉しそうな表情を浮かべている羽川先輩は初めて見たかもしれない。

羽川先輩、本当に下江のことが好きなんだな。

下江も羽川先輩を尊敬しているみたいだし、いい先輩後輩関係かもしれない。

なんだろう、良い師匠って意味では俺様が銀鏡先輩に向けている尊敬の念と似たような感じなのかもな?

 

まぁ実際羽川先輩は正義実現委員会の副委員長だけあってめちゃくちゃ強いし、ポジションも下江と同じ後衛だから色々とシンパシーも感じているんだろう。

それに羽川先輩は後衛と言えどある程度の近接戦闘ならこなせるし、常に後ろから前衛の障害となる敵を撃ち抜いてくれるから安心して背中を任せられるしな。

俺様もシャーレの奪還戦で羽川先輩に背中を預けて戦った事があるから非常に良く分かる。

 

あとは冷静そうな見た目とは裏腹にちょっと熱くなりやすい性格さえなんとかなれば……って感じだろうか。

まぁそれに関しては俺様も人の事は言えないんだが……

 

「それにしてもタツミさんに付きっきりで勉強を教えてもらえるとは……何と羨ましい……」

「……え?なんか言いました?」

「いえ、なんでもありませんよ。」

 

……そうか?ならいいんだけど。

なんか最近俺様と話してるとめっちゃ小さい声で独り言を言う人が多いような気がするんだよな……

何故なのだろうか。謎である。

 

「あ、そうだ羽川先輩。今からパトロールに行くんですよね?」

「はい。少し駅前までの道のりに不良がたむろしていないかを確認しに行こうと思っていたところです。」

「ならご一緒しても構いませんか?俺様さっき仕事終わったんで駅まで行こうとしてたんすけど、道のりが同じなら一緒に行きません?もちろんついでにパトロールのお手伝いもさせてもらいますので。」

「ふふ、もちろん大丈夫ですよ。」

「本当ですか?ありがとうございます!」

 

柔らかな笑みを浮かべて頼みを了承してくれた羽川先輩に対し、俺様は頭を下げて感謝の言葉を述べる。

羽川先輩はモモトークでは良く話すけど実際にあったのは結構久しぶりだし、是非対面で話したい。

それに、パトロールするなら頭数は多いほうが良いだろうからな。ついでにパトロールも手伝うとしよう。

 

まぁエデン条約前のこの時期に正義実現委員会と万魔殿が一緒に居るのはどうなんだって話だけど、俺様はシスターフッドとも交流しているし今更だろう。

それにエデン条約が締結されたら、もちろんすぐにとは言わないだろうけどゲヘナとトリニティ間での交流も増えるから今から親交を深めるのは悪いことでは無いと思うしな。

桐藤先輩との調整も今のところ問題はないし、このまま順調に行きそうで何よりである。

 

「でしたら、せっかくなら駅前までの道のりで私の知っている美味しいお店を紹介しましょうか?パトロールと言っても最近はエデン条約前ということもあって平和なので、時間は十分あるかと思いますけれど。」

「いいんですか?いやー実はこの後食べ歩きでもしようかと思ってたんですけど、ゲヘナに帰るかトリニティで食ってくか迷ってまして……羽川先輩おすすめの店なら絶対外れはないでしょうから是非お願いします!」

「ふふっ、任せて下さい。タツミさんに満足していただけるお店を紹介しますよ。」

 

俺様と羽川先輩はそんな会話をすると、お互いに顔を見合わせて笑顔を浮かべる。

羽川先輩とはよくモモトークで食い物に関しての話をするんだけど、流石食べるのが好きな羽川先輩だけあって彼女の勧めてくる店にハズレはないんだよな。

俺様も食べることは好きだし、それに食事をしてて料理やイブキのためのお菓子作りのアイデアをもらえたりするから飲食店を巡るのが趣味ってところもあるし。

 

「……ハッ。い、勢いでつい誘ってしまいましたけどこれはよくよく考えたらデートなのでは……?」

「……?どうかしましたか羽川先輩?」

「へっ……い、いえ!ななななんでもありませんよタツミさん!」

「そ、そうですか?」

 

何やら小声でぶつぶつと呟いた後、顔を赤くしてワタワタと慌て始める羽川先輩。一体どうしたんだろうか?

 

「と、とにかくそうと決まれば善は急げです!早速向かいましょうタツミさん!」

「えっ……?は、羽川先輩!?」

 

羽川先輩は俺様に近寄ってきたかと思うと、俺様の腕をものすごい力で掴む。

そして、俺様はそのまま顔を赤くした羽川先輩に引きずられるようにトリニティの街中へ向かうのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それでですねタツミさん。ここのパフェは美味しくて量も多いのでおすすめでして……!」

「そうなんですね、それはチェックしておかないと……」

 

トリニティ総合学園駅へ向かうまでの道のりにて。

あれから羽川先輩に手を引かれ、パトロールのついでにトリニティの美味い店を教えてもらうことになった俺様は羽川先輩と並んでトリニティの街中を歩いていた。

 

先程から羽川先輩は目をキラキラとさせながら道中にある飲食店を指さしながらそこのおすすめメニュー等を教えてくれており、心なしかその表情もたいへん楽しそうなので何よりである。

俺様としてもいくつか気になる店があったし、イブキのために羽川先輩がプリンの美味しい店を紹介してくれたりしているのでありがたい。

……それにしても、予想はしていたけど羽川先輩の紹介してくる店が甘い物を主に取り扱っているカフェやスイーツ専門店なのが少し気になるところではあるけども。

 

俺様も甘い物は決して嫌いじゃないし、パフェやプリンはむしろ大好きなんだけど個人的にはオムライスとかパスタみたいなガッツリ系の飯屋も知りたいわけで。 

まぁ羽川先輩は甘い物が大好きだしトリニティもどちらかと言えばゲヘナや山海経みたいに食堂等のガッツリ飯屋ではなくて、カフェ等の軽食屋が多い傾向にあるからそれは仕方ないことではあるんだけどな。

 

……それにしても、流石はトリニティだ。

先程からおすすめされる店の食品サンプルに付いた値札を見ているが、どれもこれも値段がゲヘナの飲食店の数倍はしやがるものばかりだ。

まぁその分羽川先輩が勧めてくる辺り味は保証されているんだろうが……お嬢様学校の名は伊達じゃないな。 

 

「あ、羽川先輩。そこの足元に段差あるので気をつけてくださいね。」

 

そんな事を考えていると、店の紹介に夢中になっている羽川先輩の前に少し大きな段差が現れた。

羽川先輩は足元の段差が見えていないのかそのまま段差に差し掛かろうとしたため、俺様は手で彼女を制しながらそう言う。

 

「あ、本当ですね……ふふ、ありがとうございますタツミさん。」

「いえ。羽川先輩が怪我でもされたら大変ですからね。気にしないで下さい。」

 

しっかりと段差を認識しながらお互いに乗り越え、俺様と羽川先輩は顔を見合わせてそんなやり取りをする。

これを言ったら本人は怒るだろうけど、羽川先輩って背が高い上に色々と規格外の大きさだから足元がかなり視認しづらいと思うんだよな。

なので、せめて一緒に居る間は彼女の足元には気を配って羽川先輩が転ばないよう気をつけているわけだが。

 

「……こういうさりげない所なんですよね。」

「ん?さりげないって何がですか?」

「いえ、なんでもありませんよ。それよりもあちらのカフェもおすすめですよ。あそこはシュークリームが特に美味しくて……」

 

俺様からの質問をかわし、再びお気に入りの店を指さしながらキラキラとした表情で語り始める羽川先輩。

なんかうまくはぐらかされてしまったけど、さりげないってどういう意味なんだ……?

 

「た、大変っすハスミ先輩!」

 

そんな事を考えていた、まさにその時だった。

突然俺様と羽川先輩の後ろから慌てたような女子生徒の大声が木霊する。

俺様は肩をビクリと震わせ、反射的にそちらを振り向くと……そこには額に汗を浮かべながらこちらへ走り寄ってくる黒いセーラー服を着た正義実現委員会の制服を着た生徒の姿があった。

 

「や、やっと見つけたっす……!」 

 

長い黒髪を揺らしつつこちらへとやって来る彼女。

その顔には特徴的な糸目が浮かんでいる。

そんな糸目の生徒はこちらへと駆け寄ってくると、ぜぇぜぇと肩で息をしながら両手を膝に当てた。

 

「イチカ!?そんなに慌ててどうしたのですか!?」

「は、ハスミ先輩……げほげほっ!」

 

羽川先輩は驚いたように目を見開くと、イチカと呼んだ生徒に駆け寄ると肩に手を当てる。

イチカと呼ばれた生徒は何かを言おうと口を開くが、走ってきた影響かむせ込んでしまいうまく言葉を発せずにいる様子だった。

 

正義実現委員会の生徒がここまで慌てて羽川先輩を探している……どう考えてもただごとではない。

恐らくなにか自分たちの手には負えない事態が発生したのだろう。暴動か、それともテロ行為か……

いじれにせよ、それを羽川先輩に伝えるために探してトリニティの街中を全力疾走して来たって感じだろう。

 

……あの様子だと相当長い距離を走ってきたんだろうな。

恐らく相当喉が乾燥しているはずだ。

そんな状態だと何か言おうにも喋りにくいだろう。

事情を聞きたいのは山々だが、まずは彼女の事を少し休ませてやる必要がある。

 

そう判断した俺様は肩掛けカバンから持ってきていたスポーツドリンクを取り出すと、糸目の彼女の横まで歩いて行って手にしたペットボトルを差し出した。

 

「どうぞ、飲んで下さい。」

「えっ……い、いいんすか?それは君のじゃ……?」

「構いません、俺様は今喉乾いてないんで。それよりも喉乾いてるでしょう?遠慮せずに飲んで下さい。」

「で、でも……」

「大丈夫です、口は付けてませんから。それともやっぱりゲヘナの生徒の渡すものなんて飲めませんか……?」

「いや……ありがとう、恩に着るっす。」

 

イチカと呼ばれた生徒は少し迷った様子を見せたがやがてそう言うと俺様の手からスポーツドリンクを受け取ってキャップを外し、ボトルを傾け中身を勢い良く煽る。

喉を鳴らしてごくごくとスポーツドリンクを飲み込んでいく彼女を、羽川先輩は隣で心配そうに見つめていた。

 

「んく……んく……ぷはっ!」

 

糸目の彼女はやがてペットボトルの中身をすべて飲み干すと、息を吐きながら口元を制服を袖で拭った。

 

「いやーありがとうっす!ハスミ先輩を探して街を走り回っていたのはいいんすけど、もう喉がカラカラで!」

「いえ、お役に立てたのなら良かったです。えっと……」

「あ、そう言えば自己紹介をしてなかったっすね。私は正義実現委員会所属の2年生、仲正イチカっす!」

「俺様はゲヘナ学園1年生の丹花タツミと言います。よろしくお願いします、仲正先輩。」

 

明るい声でそう言いつつ、こちらへと向けて手を差し出してくる仲正先輩。

俺様はその手を握り返し、軽く握手を交わす。

 

「うん。知ってるっすよ、丹花タツミくん。」

「え?俺様そんな有名なんすか?」

「もちろん!もう正実内では知らない人はいないほどには有名っすよ。そりゃなんてったって、あのゲヘナ嫌いなハスミ先輩のハートを……」

「い、イチカッ!?」

 

糸目だから良くわからないがどこか楽しそうにニヤニヤとしながら何かを言いかける仲正先輩を言葉を、真っ赤な顔をした羽川先輩が勢い良く遮る。

 

「た、タツミさんの前で何を言っているのですか!?」

「あれ?でもこの前私に散々愚痴ってたじゃないっすかハスミ先輩。タツミくんは鈍いからもう直接言った方がいいんじゃないのかって。」

「そ、それはそうですけれども……!」

 

……うん?2人は一体何の話をしているんだ?

 

「そ、そもそも私を探していたのであれば電話をするなりモモトークに連絡をするなり出来たでしょう!?何故自らの足で走り回る必要があるのです!?」

「いや何故ってそりゃ……ハスミ先輩が何度連絡しても出てくれなかったからっすけど?」

「え?そ、そんなはずはないでしょう!?」

 

仲正先輩がそう言うと、羽川先輩は慌てて自分の服のポケットからスマホを取り出して確認する。

初めは顔を赤くしながら目を吊り上げていた羽川先輩だったが、スマホの画面の視認した瞬間にみるみるうちに顔が青ざめていった。

 

「そ、そんな……ミュートになっていたなんて……」

「……まぁそんなところだろうとは思ってたっすけど。」

 

スマホを握り締めたままぷるぷると震えだす羽川先輩に対して、肩をすくめながらため息を吐く仲正先輩。

実は羽川先輩ってしっかりしてるように見えるけど、結構抜けているところもあったりするからな。

スマホをミュートのままにしちまうのは俺様もわりとやっちまうミスではあるんだけど、緊急事態っぽい今やっちまうのはちょっとばかしマズいのは確かだろう。

 

……なんというか、仲正先輩も苦労してるんだな。

どことなく親近感を感じざるを得ない。

 

「ハスミ先輩。デートで浮かれるのは良いんですけど、今度からスマホはちゃんと確認してくださいね?」

「で、デート!?ち、違いますよイチカ!?タツミさんとはあくまでパトロールをしていただけで……!」

「そうっすよ仲正先輩。それに羽川先輩みたいな素敵な女性に俺様みたいな奴は釣り合わんでしょう。」

 

そもそも俺様はゲヘナの生徒だしな。

それに、羽川先輩みたいな素敵な人には俺様なんてシスコンしか取り柄がないような男よりはもっとふさわしい男が現れるはずだろうからな。

確かにこの状況はデートなのでは?とちょっとだけ思ってないことも無かったけど、俺様の自惚れだろう。

実際に羽川先輩も否定しているわけだし、そんな考えはスッパリと捨て去ったほうがいいのは間違いない。

でも、今後も友人としての付き合いは続けたいけどな。

 

「……ハスミ先輩、このクソボケにはサッサと気持ちをぶつけたほうが良いのでは?」

「だから前に貴方に相談したんですよイチカ……」

 

俺様が内心でそんな事を考えていると、何故か羽川先輩と仲正先輩はため息を吐きながら俺様に視線を向けてそう言ってくる。

……うん?なんか一瞬で周囲の空気が冷えた気がするんだけど俺様の気のせいなのか?

と言うか、なんで2人共そんなに呆れてるんだ……?

 

「いや、惚気を延々と聞かされるこっちの身にもなってくださいよハスミ先輩。」

「の、惚気ではありませんよ!?あくまで私はどうすればタツミさんに気持ちに気づいてもらえるかを……」

「世間一般ではそれを惚気って言うんすよ。」

 

そして、そのまま何故か視線を俺様に固定したまま押し問答を始める二人。……状況が良く分からない。

 

「……って、こんな事をしている場合じゃないっす!」

 

仲正先輩はしばしそのまま俺様を見ていたがやがてハッとしたような表情を浮かべるとワタワタと慌てだすと、羽川先輩の方を向き直ると口を開く。

そして彼女の口から飛び出してきた言葉は……衝撃的なものだった。

 

「ハスミ先輩、さっきパトロール中の部員から緊急で通報が入ったんすけど、なんでも災厄の狐が不良を陽動してトリニティで暴れてるとの事でして……!」

「……は?」

「狐坂が!?何やってんだあの野郎……!」

 

仲正先輩の口から放たれた衝撃の事実。

その事実を認識した俺様は思わず悪態をつく。

なお、羽川先輩は間の抜けた声を出しながらしばしその場で固まってた。……まぁ無理もないだろう。

何せあの七囚人のひとり、災厄の狐がトリニティの街中で大暴れしているというのだ。

俺様もうその報告をゲヘナで何度も聞いているから特段驚くことはないけど、狐坂と普段から対峙していない人からしたら衝撃的以外の何物でもない。

 

しかし、最近は狐坂からの襲撃の頻度が少しだけ減っているように思っていたから少しは大人しくなったのかと思っていた矢先にこれかよ……!

しかも今回は元から治安が世紀末なゲヘナではなく、キヴォトス基準では比較的治安の良いトリニティでのテロ行為と来た。早急に鎮圧しないとまずいだろう。

 

「とにかく現場に急いでくださいっす!ツルギ先輩もすぐに現場に向かうそうなので!」

「わ、分かりました!すみませんタツミさん、そういうことですので私はこれで……」

「いや……羽川先輩。それなら俺様も協力しますよ。」

 

羽川先輩は背中に背負ったライフルを手に取ると申し訳なさそうに頭を下げて駆け出そうとするが、俺様はそんな彼女に対してブークリエマガジンを差し込みつつそう声を掛けた。

 

「た、タツミさん!?お気持ちはありがたいのですが相手はあの災厄の狐なのですよ!?」 

「分かってますよ。ただこう見えても俺様、奴とはゲヘナやそれ以外の場所でも何度もやり合ってるので少しは力になれると思います。」

 

そう、狐坂とはもう何度襲撃を食らってその度に戦ってきたかなんて数えるのも億劫になるくらいには奴とはしょっちゅうやり合っているからな。

恐らく正義実現委員会の誰よりもやつに対しての戦闘経験が豊富な自負はあるし、対策も分かっている。

 

元より危険は承知の上だ。

それに……何よりも困っている人を目の前にして助けないなんて選択肢は俺様にはないからな。

 

「な、何度もやり合っているとは一体……?」

「奴とは腐れ縁みたいなもんでしてね。行く先で度々襲撃を食らってもう数え切れないくらいには戦ってきてるんですよ。」

「えぇ……?災厄の狐から何度も襲撃されて何度もやり合ってるって君は一体何者なんすか……?」

「まぁ色々ありましてね……それに羽川先輩はご存知だと思いますが、俺様は狐坂とシャーレの奪還戦でタイマンをしていたのは覚えていますよね?」

「だ、だとしても危険すぎます!それにタツミさんはトリニティに来ているお客様という立場なんですよ!?そんな方を戦闘に駆り出すなど……」

「なら今回の件は俺様のワガママって事にしといて下さい。羽沼議長にはうまいこと言い訳しときますんで文句は言わせません。それならいいでしょう?」

 

確かに、正義実現委員会の治安活動にゲヘナの万魔殿である俺様が首を突っ込むのは良くないかもしれない。

こうして羽川先輩とパトロールするくらいなら大した問題にはならないだろうけど、治安活動に参加するということはトリニティ自治区で武力を行使するという事だ。

ゲヘナに所属している俺様が、テロリストの鎮圧という名目とは言えトリニティ自治区において武力を振るうというのはあまりよくない行為ではあるだろう。 

エデン条約前だから迂闊な行動は慎むべきだと思うし、恩を売った売られたって面倒な話もなりかねない。

 

……が、そんな理屈など今はどうでもいい。

俺様達がこうしている間にも狐坂は破壊活動を続けているだろうし、正義実現委員会の部員達は必死に彼女に立ち向かって市民の避難誘導をしているはずだ。

なら、そんな彼女達を助けるのに何を迷う必要がある?

ゲヘナだとか、トリニティだとかそんなの関係ない。

困っている人を助けるのに理由も理屈もいらないんだ。

確かに、羽川先輩の言うことは最もだと思う。

けど……例えそれが正しいとしても、狐坂が暴れているとなれば黙って見ているわけには行かない。

 

「ワガママを言っているのは承知の上です。ですが……俺様としても、ここで退くつもりはありません。」

 

俺様は羽川先輩の目を真っ直ぐに見据えキッパリそう言い切ると、そのまま羽川先輩に向かって頭を下げた。

 

「お願いします羽川先輩、仲正先輩。俺様も狐坂のテロ行為の制圧に協力させて下さい!」

 

そして、大きな声で2人に動向の許可を求めた。

そんな俺様の姿を見た羽川先輩と仲正先輩はしばし呆気にとられたような表情を浮かべていたが……

 

「……分かりました。ただし、危険だと思ったらすぐに退くこと。これが条件です。良いですね?」

「分かりました。ありがとうございます、羽川先輩!」

 

やがて、俺様の気迫に根負けしたのか条件付きで同行を許可してくれた。

そんな羽川先輩に対し、俺様は感謝の言葉を述べる。

 

「いいんすか?ハスミ先輩。」

「タツミさんの実力は本物です。こちらとしてもゲヘナやトリニティの関係が無ければ協力してくださるのは願ってもない申し出ではありますからね。」

「……ハスミ先輩が認めるなんて、すごいんすね。」

「あとは……タツミさんはこう見えて頑固なところがありますのでこうなったらもう止められませんからね。」

 

どこか諦めたような、それでいて困ったような笑みを浮かべながらそう言う羽川先輩。

 

「ははは……面目ないです。」

「それでは現場へ向かいましょう。イチカ、先導は任せましたよ。」

「はい!こちらっす!付いてきて下さい!」

 

羽川先輩の言葉と共に互いに顔を見合わせて頷きあった俺様達はそれぞれの武器を構え、仲正先輩の先導を受けて暴動の現場へと走り出すのであった。

 

「災厄の狐、よくもタツミさんとのデートを邪魔してくれましたね……!この狼藉、その身を持って償っていただきますよ……!」

(いや、デートじゃなかったんじゃないのか……?)

 

なお、その際羽川先輩の表情が阿修羅のごとく怒りに満ちていたのは俺様の心の中にしまっておく事にする。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あぁタツミさん、もうすぐお会いできますね……♡」

「このワカモ、最近はタツミさんがトリニティにばかり赴いていたので中々お会いできずに面白くなかったのですよ?」

「ですがようやくトリニティへの侵入経路を調べ上げ、こうして不良を陽動する事ができました。」

「……フフ、タツミさんのことですから私が暴れていると知れば必ず駆けつけて来るはず。」

「あぁ……このワカモ、今からタツミさんの事が待ちきれなくて体が疼いてしまいそうですわ♡」

「タツミさん。私は逃げも隠れも致しません。」

「さぁ……早く戦り合いましょう?ウフフ♡」




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現在調印式編鋭意執筆中ですので、満足して頂けるような物を書けるよう頑張ります!
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