とある昼下がりのこと。
ゲヘナ学園、万魔殿の議事堂の執務室にて。
「……ん?何してるんだイブキ?」
今日も今日とて書類仕事をするために執務室にこもっていた俺様は、クレヨンと画用紙を持って俺様の隣にやって来ていたイブキに対して声を掛ける。
「あ、お兄ちゃん!えへへ、お兄ちゃんの似顔絵を描いてたんだよ!ほら!」
イブキは俺様に対して満面の笑みを浮かべるながらそう言うと、ブカブカの袖で画用紙をつかむとそれを俺様に対して見せてきた。
その画用紙には一目見て俺様だと分かるほど精巧な絵が描かれている。
「おぉ!良く描けてるし特徴もキチンと捉えている……これはまさに俺様だな!流石イブキ!この天才めー!」
「えへへ!お兄ちゃんに褒められちゃった!」
こんな精巧な似顔絵をこの歳にして描けるなんて……やっぱりイブキは紛れもない天才だな!
さすがはイブキ、可愛いし絵もうまいし頭も良くて更に可愛いなんて本当に俺様には勿体ないほどの妹だ。
うぉぉぉぉイブキ最高!イブキ最高!!
「よーしイブキ!ご褒美に肩車をしてやるぞ!」
「……ねぇお兄ちゃん。イブキ、肩車もいいけどお兄ちゃんのお膝の上に乗りたいなー?」
「お、そうか?なら俺様はお仕事しながらここに座ってるから、好きなだけ乗ると良いぞイブキ!」
「わーい!ありがとうお兄ちゃん!」
イブキはそう言うと、俺様にトテトテと近寄ってきてぴょんと俺様の膝の上に飛び乗った。
俺様は丁度いい位置に来たイブキの頭を撫でてやる。
「えへへ……」
イブキは俺様に頭を撫でられると、途端にふにゃふにゃとした笑みを浮かべて気持ちよさそうに目を細める。
うーん、可愛い。あまりにも可愛い。
見てみろよこのイブキの笑顔を。これを見て可愛いと思わないやつがいるだろうか?
否、そんな奴がこの世に存在するわけがないだろう。
なんてったってイブキは世界で一番可愛いんだからな!
「ねぇお兄ちゃん!」
「ん?どうしたイブキ?」
「イブキね、お兄ちゃんのことだーい好きだよ!」
俺様はそのままニコニコしながらイブキの頭を撫ででやっていると、イブキは花の咲いたような笑みを俺様へ向けてくると心底嬉しそうな声色でそう言ってきた。
「ゴハァ!?」
そのあまりにも天使な笑顔と言葉に、俺様は一瞬意識が持っていかれかけるがなんとか踏みとどまる。
ふぅ、危ねぇ危ねぇ……危うく我が妹の可愛さに昇天しちまうところだったぜ……
流石はラブリーマイエンジェルイブキだ。
この尊さは他の誰にだって真似できるものではない。
いやー流石は俺様の妹だな!イブキ最高!!
(さて……イブキ成分も補充したし、もうひと頑張りすっかな。)
俺様の膝の上でクレヨンを使ってお絵かきを再開するイブキを見やった俺様は再び軽く頭を撫でると、内心でそう思いながら残った書類へと向き直った。
内容はもちろんエデン条約に関する書類である。
前々からエデン条約関連の書類は数え切れないほど処理してきたけど、調印式がもう目と鼻の先まで迫ってきている今は当然の事ながら書類の数も増えているからな。
まぁもっぱら中身は会場の調整やら、当日の出席者の確認やらの最終調整なのでサインと印鑑のみで良いものも多いんだけどそれが重なるとかなりの時間を取られちまうのもまた事実だ。
それに最近は仕事仕事でイブキに構ってやれる時間も減ってきちまってるからなぁ……今日はこの書類が終わったらイブキにとことん付き合ってやるとしよう。
俺様は内心でそう気合を入れると、近くにあったペンを手にとって書類にサインを書き始めた。
そう言えば、あのトリニティでの狐坂が不良を陽動して起こしやがった騒動から今日で数日が立つ。
あれから相変わらず毎日のようにモモトークで連絡をしてくるシスターフッドの若葉先輩や伊落に加えて、この前の共闘の時に連絡先を交換した仲正先輩や静山からもモモトークが来るようになった。
まぁ内容自体は他愛もない話なんだけど、まさか羽川先輩だけじゃなくて他にも正義実現委員会の部員とこうしてモモトークをする仲になるとは思わなかったなぁ。
いやはや、人生ってのは本当に分からないものである。
なお、羽川先輩は何故か以前にも増してモモトークで送られてくるメッセージの量が増えた気がするな。
この前はなんか補習授業部の阿慈谷先輩が正実のクルセイダー戦車を強奪して白州先輩と海へ行こうとしたとかで一悶着あった……との愚痴が送られてきていたし。
いや、何やってんだよ阿慈谷先輩。
あなたそんな破天荒なキャラでしたっけ?
俺様から見た阿慈谷先輩は真面目な常識人って感じだったから、まさかそんな事をしでかすとは思ってもみなかったので最初に聞いた時は大層驚いた記憶がある。
……まぁでも阿慈谷先輩ってあのペロロとか言うキモい鳥が関わると頭のネジが外れたような行動を取っていた気がするし、もしかしてわりと破天荒な人なのかもな?
閑話休題。
ちなみに、2日前にエデン条約関係の仕事でもう何度目か分からないトリニティに赴いた際に改めて剣先委員長からはこの前間違えて攻撃された件の謝罪をされた。
その際に何故かティーパーティーのホストである桐藤先輩からも一緒に謝罪されたのだが、まぁあれは状況が状況だったし本当に不可抗力だったわけだからな。
俺様としてはマジで微塵も気にしていないし、こんなことで外交問題になるのも嫌なので気にしないでくれと伝えておいた。
そもそも、元はと言えばその原因を作ったのは不良を陽動して暴動を起こしやがった狐坂だからな。
剣先委員長や桐藤先輩は何も悪くないのに謝罪しなければならないとは、つくづく政治とは面倒なものだ。
なお、案の定桐藤先輩は青い顔をしていたので胃薬を渡したら力なく笑いながら受け取ってくれた。
……けど、あれは相当疲労が溜まってるな。目の下にクマも出来ていたし、恐らく何日か眠れてないのだろう。
まぁ聖園先輩の件があって相当ダメージを受けている中での今回の件だからな。
恐らくティーパーティーのホストである桐藤先輩の耳にも暴動の件は入っているだろうし、建物や道路の復興の手配をするのも桐藤先輩だろうからなぁ……
ただでさえエデン条約直前ということもあって忙しくしている中で、余計な仕事をするのはキツいだろう。
今度彼女と会う機会があったら、栄養のある料理を作って食わせたあとにベッドに叩き込んでおくとしよう。
ったく、エデン条約前に桐藤先輩に余計な仕事をさせてんじゃねーぞ狐坂の野郎……!
ちなみに狐坂はその後の帰り道に当然のように襲撃を仕掛けてきやがったため、全力で戦って今回も引き分けに終わって逃げられてしまった。
ったく、次にあったら絶対にぶちのめしてやるからな!
覚悟しておけよあの狐女……!
んで話は変わるんだけど、その際にテロの現場に居合わせて怪我人の治療行為を行っていた救護騎士団の鷲見セリナ先輩や同級生の朝顔ハナエからもトリニティに行った時にわざわざ出向いてくれて礼の言葉をいただいた。
俺様としては当然のことをしただけなので礼なんて別に構わないんだけど、あんなにいい笑顔で言われてしまっては断るわけにも行かないので素直に受け取っておいた。
救護騎士団も結構怪我人が出てて大変だっただろうから、色々な意味でお疲れ様である。
なお、本来なら救護騎士団の団長自ら礼を言う予定だったらしいのだが諸事情により代理で鷲見先輩と朝顔が俺様に礼を言ってくれたようだ。
まぁわざわざそのために団長の手を煩わせるのもなんだし、ある意味良かったと言えるかもしれないけどな。
そう言えば、最近はモモトークにてアビドスの黒見から連絡が来る頻度も結構多くなっている気がする。
黒見とは柴関ラーメンに通っているうちに向こうからの申し出でモモトークを交換してたまに連絡を取り合うくらいだったのだが、最近はお互いの近況などを報告し合う事が多くなってきていたりする。
あとは何故か成り行きで同級生である奥空ともモモトークの交換をして最近はちょいちょい悩みを聞いている。
破天荒な先輩ばかりのアビドスにおいて真面目な奥空はやはり色々苦労しているようで、この前なんか2時間くらい愚痴に付き合っていた気がするなぁ……
それと、なんでも最近何やら黒見がリゾート利用券だかなんだかをビンゴ大会で当てたらしく小鳥遊先輩を助けた時の礼も兼ねて俺様を誘ってくれてるんだが……
俺様としてはどうせならアビドスのみんなと先生で楽しんできて欲しいんだけど、何故か黒見は俺様を結構熱心に誘ってきている上にアビドスの皆や先生も是非来てくれという歓迎ムードなんだよなぁ。
いや、黒見や奥空はともかく俺様はアビドスの先輩方とはあまり交流がないんだしそんな男がリゾートへ行くのに一緒についていくのは正直どうかと思うんだけど……
まぁ、黒見がここまで熱心に誘ってくれてるんだ。
結局アビドスに行く行くって言いながら仕事で忙しくて行けてないから、むしろいい機会かもしれないし。
それに好意を無下にするのはあまり良くないだろうからな……現状は言葉に甘えて行く方向で考えている。
それにしてもリゾートか……水着用意しとかねぇとなぁ……
あとは柴関ラーメンにも最近は忙しくなってるせいでほとんど行けてないからな……
また今度時間を見つけて大将に会いに行くとしよう。
その他には相変わらず梅花園のシュン教官やココナ教官とか、竜華先輩や薬子先輩とか、給食部の愛清先輩とか牛牧からひっきりなしにモモトークが来るくらいだな。
大量に送られてくるモモトークを捌くのはちょっとばかし骨が折れるものの、みんな忙しい中時間を割いて俺様にメッセージを送ってくれているのにそれを無下にするのは相手に対して失礼だからな。
もちろん全員に時間を見つけては返しているぞ。
まぁ、もっぱら最近はそのせいでスマホとにらめっこする時間が多くて若干目が痛い気がするがな……
まぁ、そんなこんなで今の俺様はゲヘナとトリニティを往復しながら調印式へ向けての最終調整をしている真っ只中と言うわけだな。
……エデン条約が無事に締結されれば、エデン条約機構であるETOの仕事は増えるだろうがゲヘナの治安は間違いなく今よりはマシになるはずだ。
ゲヘナの世紀末じみた治安など今更だが、やはりその辺を歩いていたら建物が爆破したり手榴弾が転がってくるような自治区でイブキが生活するのは不安でしかない。
外出時には万魔殿の誰かが付き添うようにしたり、普段は万魔殿の議事堂で必ず誰かの目の届く場所に居てもらっているがそれでも不安なものは不安なのだ。
確かにエデン条約関係の仕事はしんどい。
毎日積み上がった書類の山を崩さなきゃならないし、トリニティにも頻繁に訪れないとならない。
そりゃシスターフッドや桐藤先輩みたいな偏見の無い人もいるけど、やっぱトリニティへ行くと敵意のある目を向けられることが多いからな。
けど……そんなものはエデン条約が締結されれば些細なことだ。
俺様が苦労するだけでゲヘナの治安が改善され、イブキにとって安心できる地になるなら俺様はいくらでも働いてやるし、いくらでも苦労してやる。
「お兄ちゃん?難しい顔してどうしたの?」
「……いや、なんでもないぞイブキ。」
心配そうに俺様の顔を覗き込んでくるイブキに対し、俺様はイブキの頭に手を置いて左右に動かす。
イブキは初めの方こそ少し困惑した表情をしていたが、やがて花の咲いたような笑みを浮かべた。
「えへへ!」
うーん、やはり天使だ。
この笑顔を見ると仕事の疲れなんて吹っ飛んじまう。
そう、この笑顔を守るためなら。
俺様はいくら働いても、いくら疲れても苦ではない。
「……ねぇお兄ちゃん。」
「ん?どうした?」
「最近お仕事でずーっと忙しくしてるみたいだけど……無理は絶対にしないでね?イブキとの約束だよ!」
「イブキ……あぁ、分かった!イブキとお兄ちゃんとの約束だ!」
……なんというか、流石はイブキだな。
イブキは一見すると無邪気でポワポワしているように見えるが、その実人の事をよく観察して本質を突いたり気遣ってやることの出来るとても聡明な子だ。
本当、俺様やゲヘナなんかにはもったいないくらいに純粋ないい子である。
俺様は苦笑しつつイブキが差し出してきた小指に自分の小指を絡めると、そのまま指切りをするのだった。
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時刻はすっかり日も落ちて辺りが暗くなった頃。
あの後エデン条約関係の大量の書類を無事に捌き切った俺様は、イブキと手を繋いで寮へ帰るために万魔殿議事堂の廊下を2人で歩いていた。
「よーし、今日は久しぶりにお兄ちゃんが夜ご飯を作ってやるぞイブキ!」
「ほんとに!?やったー!」
「あぁ!なにか食いたいものはあるか?」
「えっとね!じゃあイブキハンバーグが食べたい!」
今日は久々にイブキに飯を作ってやれそうだったためイブキにそう問いかけると、イブキから笑顔でそうリクエストが返ってくる。
「よっしゃハンバーグだな!じゃあ寮に帰ったらお兄ちゃんと一緒にお買い物に行くとするか!」
「わーい!お兄ちゃんとお買い物だー!」
俺様がそう言うと、イブキは笑顔を浮かべながらとても嬉しそうにそう言った。
そのあまりの天使具合に俺様の意識が一瞬昇天しかけそうになるが、ぐっとこらえて歩を進める。
さて、ハンバーグってことはひき肉やら何やらが必要だから寮に帰ったらスーパーに行くとしよう。
ついでにそこでデザートのプリンも買ってしまえばいいだろうし、久しぶりにイブキに飯を作ってやるんだからせっかくなら本格的な物にしてやりたいしな。
ハンバーグなら俺様の得意分野だから、今日は久しぶりに腕を振るうとするか!
「キキキ!良く来たなシャーレの先生!このマコト様と万魔殿一同が歓迎しよう!」
「……ん?」
俺様がそんな事を考えながらイブキの手を引いて万魔殿議事堂の出口へと差し掛かった時だった。
ふと、外へと続く万魔殿のエントランスホールにて耳にタコが出来るほどに聞いた愉快そうな声が響く。
俺様は若干げんなりしながらエントランスに出ると、そこでは羽沼議長とシャーレの先生が何やら向かい合って会話をしているのが見えてきた。
その横にはいつも通り棗先輩が控えており、そして何故か不機嫌そうな風紀委員会の天雨行政官の姿もある。
……何故先生と天雨行政官が万魔殿にいるのかは分からないけど、何か用事でもあるのだろうか?
俺様はポケットからスマホを取り出して時刻を確認すると、幸いまだそこまで遅い時間ではなかった。
なら、話を聞いていく時間くらいはあるだろう。
棗先輩が付いているとは言え、天雨行政官がいるなら羽沼議長からどんな嫌みが飛び出すか分かったもんじゃないからな……
そう思った俺様はイブキに視線を送ると、イブキは何も言わずにコクリと頷いてくれた。
流石は俺様の妹だ。お兄ちゃんは嬉しいぞ!
……まぁそれはともかく、イブキからの許可も得た俺様はイブキの手を引いて4人の居る場所へ近づいていく。
“うん、ありがとうマコト。”
「さて先生。万魔殿の議長であるこのマコト様に協力の申し出とは悪くない判断だ。シャーレと万魔殿の力を合わせれば、風紀委員会如き簡単に潰せるだろう!」
“……うん?”
俺様とイブキが彼女達に近寄っていくと、羽沼議長がどや顔を浮かべながらそんな事を先生に対してのたまっているのが耳に入ってくる。
……相変わらずバカな悪巧みをしているようで何よりだ。
先生を見ると訳が分からないと言ったような表情を浮かべているが、まぁ無理もないだろう。
「……あの、そういう会話は相手がいないところでしたほうが良いですよ?マコト議長。」
そんな羽沼議長の姿を見て、天雨行政官はジト目を送りながらそう言った。
ご尤もである。と言うか思っていても口に出すようなことじゃねぇだろ……まぁ羽沼議長らしいけどさ。
「フン、何を言っているアコ行政官。わざと聞こえるように言っているに決まっているだろう?」
「こ、このタヌキッ……!」
そんな羽沼議長は深く被った帽子の下からドヤ顔を覗かせると、天雨行政官を見下すようにそう言い放つ。
その言葉を受けた天雨行政官は額に青筋を浮かべ、今にも食って掛かりそうな程に表情を歪めた。
……このままでは十中八九喧嘩になるな、流石に止めに入ったほうがいいだろう。
そう判断した俺様は羽沼議長に向かって口を開く。
「おいバカ議長。さっきから黙って聞いてたら何アホなことばかり言ってんすか。」
ため息を吐きながら羽沼議長にそう声をかける俺様。
「……ん?イブキにタツミではないか。」
羽沼議長は俺様に突然声をかけられた事に一瞬驚いていたが、すぐにいつものどや顔を浮かべるとそう言った。
俺様が発言したことにより、その場の全員の視線が俺様とイブキに注がれる。
“やぁタツミ、イブキ。こんばんは。”
「こんばんは先生。こんな時間までお疲れ様だぜ。」
「こんばんはせんせー!万魔殿へようこそ!」
“ふふ、ありがとうタツミ。イブキ。”
俺様とイブキが先生に挨拶をすると、先生は笑顔を浮かべながらそう発言する。
イブキの無邪気な笑顔に、羽沼議長や天雨行政官も笑顔になりその場の雰囲気が少しだけ緩和された様子だ。
うーん、流石はイブキだ。登場するだけで場の空気を和ませちまうとは、俺様は誇らしいぞ!
「ところで、先生は今日は何で万魔殿に来たんだ?」
“うん、実は私もエデン条約の調印式に参列することになったからさ。今日はその件でマコトに挨拶に来たんだ。”
俺様は先生が何故万魔殿に居るのか尋ねるためそう問いかけると、先生からはそんな返答が返ってくる。
……なるほどな。そういうことだったのか。
“トリニティのナギサには今朝伝えてきたら、今度はゲヘナの生徒会長であるマコトにも伝えておこうと思って。”
「そうか。わざわざすまねぇな、先生。」
俺様と先生は顔を見合わせると、互いに苦笑した。
本来であればエデン条約の調印式はゲヘナとトリニティが合同で行う手筈だったから先生は参加する予定ではなかったんだけど、まぁトリニティで聖園先輩のクーデターやらアリウス関連やらで色々と問題があったからな……
それにゲヘナはゲヘナでトップがこんなんだし、何かしでかさないとも限らない。
まぁ先生の場合はそういう懸念があるってよりは純粋に生徒のことが心配で……みたいな理由なんだろうけど。
ったく、そういうところは先生のいいところなんだけどもっと自分を労ってくれよな。
……つか、平和条約を結ぶのであれば本来連邦生徒会の主導のもと中立地帯でやんのが普通な気がしなくもないんだけどこの前連邦生徒会の七神代行に会いに行った時は全然興味なさそうな反応されちまったからな。
まぁ彼女も連邦生徒長が失踪してそれどころじゃないんだろうけど、流石にちょっとくらいは協力してくれてもいいのでは……と思わなくもない。
桐藤先輩を初めとしたトリニティの首脳陣や俺様を初めとしたゲヘナの首脳陣の間で準備を進めて調印式はもう目前まで迫って来ているわけだが、エデン条約は未だに反対意見の多い不安定な条約である事は間違いない。
それにここはキヴォトスだ、当日に不満を持った生徒がなにか問題を起こさないとは限らないだろうからな。
そういう意味では絶対的に中立であり、更にいざというときには超法的権限を行使できるシャーレがバックに付いてるってのは両校にとって非常に心強い。
「キキキ……では改めて先生。風紀委員会を潰すために我が万魔殿と協力を……」
俺様がそんな事を考えていると、全く空気の読めない羽沼議長からそんな言葉が飛び出した。
「おい話聞いてなかったのかアホ議長!今回先生はあくまでエデン条約に参列するから、形式的にも改めて挨拶に来てるだけだバカタレ!」
「何ィッ!?な、なら我々との協力は……?」
「するわけねぇだろ!そもそも何の協力だよ!?」
俺様は思わず羽沼議長に食ってかかると、羽沼議長はマヌケ面をしながら心底驚いたようにそう言った。
その横では棗先輩がいつものように呆れ果てた表情を浮かべつつ、特大のため息を吐き出している。
いやほんともうお疲れ様ですとしか言いようがない。
あとでサボり部屋に差し入れを持っていくとしよう。
と言うか、先生はシャーレの仕事で忙しい中わざわざ時間を割いて万魔殿まで挨拶に来てくれてんだぞ……!
くだらねぇことで先生の時間を取らせんじゃねぇよ……!
「……ふっ、そうか。なるほど。まぁ楽しみはあとに取っておくことにしよう……キキキキキッ!」
「はぁ……このバカはホントに……」
なんか、もうここまで通常運転だと逆に安心感さえ感じてしまうのは俺様もだいぶ毒されてんだろうなぁ……
そんなことを思いつつ、俺様は羽沼議長にゲンコツを食らわせるのだった。
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結局その後もアホな悪巧みを延々と垂れ流す羽沼議長をゲンコツすると共に説教した俺様だったのだが、やがて羽沼議長は「この後人と会う予定がある」と言って棗先輩を連れてそそくさと去っていってしまった。
正直まだまだ言い足りないのだが、まぁひとまずは厄介な事にならなかったから一安心と言ったところだな。
それにしても羽沼議長、人と会うって言ってたけどあの人今日そんな予定入ってたっけな……?
……まぁ考えても仕方ないか。それに羽沼議長だって個人的な用事の1つや2つくらいあるだろうからな。
そんなこんなで、俺様はその場に残った先生や天雨行政官と軽く会話をしていて今に至る。
「まったく!何なんですかあのタヌキは……!」
そんな事を考えていると、腕を組みながら憤慨したような様子の天雨行政官がそう言葉をこぼした。
「タツミ!貴方はマコト議長にどんな教育をしてるんですか!」
「いや、俺様にそれを言われても困るんすけど……不快な思いをさせちまったのは申し訳ありませんでした。」
キーッ!と言う擬音が聞こえてきそうな程の表情でそう口にする天雨行政官に対し、俺様は頭を下げる。
まぁそりゃあんなに堂々と風紀委員会を潰すなんて言われたら怒らない方がおかしいだろうからな……
この場に空崎委員長が居なくて良かったとさえ言える。
「まぁ、もういいです。私も少し大人気ありませんでしたし、彼女がバカな事を言うのはいつものことなので流せなかった私も私ですから……」
「……すみません、天雨行政官。」
「ごめんねアコ先輩。あとでお兄ちゃんとイブキがマコト先輩にめっ!てしておいてあげるから!」
「……ふふ。ありがとうございます、イブキ。」
イブキがブカブカの袖をぶんぶんと振りながらそう言うと、天雨行政官は先程までの不機嫌そうな顔に少しだけ笑みを浮かべるとイブキの頭を優しく撫でた。
天雨行政官に頭を撫でられたイブキは初めはぽかんとしていたが、やがて嬉しそうな笑みを浮かべる。
……良かった、どうやら機嫌を直してくれたようだ。
しかし、失礼かもしれないが一度怒り出したらかなり面倒な天雨行政官の怒りをここまで簡単に沈めるとは……
やはりイブキはすごいんだな、と感心する他ない。
基本的に風紀委員会からは羽沼議長の所業によりあまり好かれていない万魔殿ではあるが、そんな風紀委員会の面々もイブキにはだだ甘だという一面があってイブキのことは大層可愛がってくれている。
そんなイブキも風紀委員会の面々のことはとても尊敬しているようで、特に空崎委員長には自分の描いた絵をプレゼントしたりもしているようだ。
実を言うと風紀委員会の面々って羽沼議長が嫌いってだけで、その他の万魔殿の面々に関しては我関せずって感じだからそこまで険悪じゃなかったりはするけどな。
まぁ嫌がらせをしてるのはほぼ羽沼議長だけだし、当然と言えば当然ではあるんだろうけど。
特に空崎委員長や棗先輩は苦労人同士気が合うのか、たまに2人で話し込んでいるところを見たことあるし。
“アコも元気だった?”
「それは……まあまあですかね。でも意外でした。先生がエデン条約に参列されるなんて。」
“うん、ゲヘナとトリニティの大切な日になるだろうからね。私もこの目で見届けたいんだ。”
先生はそう言うと、柔らかな笑みを浮かべた。
確かに、エデン条約の調印日はゲヘナとトリニティとっては大きな意味を持つ大切な日になる事は間違いない。
なんてったって、今までキヴォトスでいがみ合ってきた2校が互いの手を取り合う日なんだからな。
少なくとも、キヴォトス史に残る出来事なのは間違いないだろう。
「それは良いんだけど、寝不足で目の下にクマを作って来ないでくれよ先生。」
“うっ……だ、大丈夫だよ!しばらくはユウカに当番を頼んであるし、エデン条約の調印式までには書類整理を全て終わらせちゃうからさ!”
「本当だろうな……?」
あからさまにワタワタと慌てながらそう言う先生に対して、俺様はジト目を向けながらそう言った。
なんか、先生って結構しっかりしてるように見えるけどシャーレに行くとデスクの上がぐちゃぐちゃだったり昼飯がパンだけだったり案外ズボラだったりするからな。
……早瀬先輩に叱られている姿が目に浮かぶなこりゃ。
あとは服をその辺に脱ぎ散らかしてたり、熱いからってシャツ1枚で仕事してたり……ったく、いくらキヴォトスに男が少ないからってもうちょっと羞恥心ってもんを持って欲しいもんだぜ。
と言うか、早瀬先輩って確かミレニアムのセミナーの会計だって言ってた気がするんだけど……
自分の仕事もあるだろうに、そんなに頻繁にシャーレの当番に行ってて大丈夫なんだろうか?
まぁ俺様も早瀬先輩とは一緒に当番やったことがあるから、あの計算能力や事務処理能力の高さに頼りたくなるのはめちゃくちゃよく分かるけどな。
流石ミレニアムの会計を任されているだけの事はある。
「……あ、タツミ。ネクタイが曲がってますよ?」
苦笑いを浮かべる先生を見ながらそんな事を考えていると、俺様の横でイブキの頭を撫でながらイブキと会話をしていた天雨行政官がそう話しかけてくる。
「え?あ、ほんとだ……」
言われた通り俺様は自分の胸元へ目を落とすと、そこには綺麗に締めていたはずのネクタイがやや曲がった状態で鎮座しているのを発見した。
と言うかよく見たら結び目もほどけかかってるな……さっきまで羽沼議長を大声で叱りつけてて暑かったから、首元をパタパタしていたのが原因だろうか。
なにはともあれ、サッサと直さねば……
「すまねぇ先生。見苦しいもん見せちまったな。」
“ううん大丈夫。私もアコに言われて今気づいたから……”
「すみません天雨行政官……面目ないっす。」
「まったく仕方ないですね……貴方は仮にも万魔殿、調印式ではゲヘナの代表として参列するんですから身だしなみには気をつけてくださいね?」
「申し訳ないです、すぐに直しますので……」
俺様がそう言って頭を下げ、手を自分の首元へ伸ばそうとした瞬間だった。
天雨行政官はイブキの頭から手を話すと、コツコツと靴音を立てながら俺様に近寄ってくる。
そして俺様の前に立つと、ネクタイに手をかけた。
「ちょ、ちょっと天雨行政官!?ネクタイくらい自分で直せますって!?」
「うるさいですね!いいからじっとしててください!」
俺様は慌てて体を引こうとするが、天雨行政官にネクタイを掴まれていることによりそれは叶わなかった。
そうこうしている間にも、天雨行政官は慣れた手つきでネクタイの結び目を整えると曲がったネクタイを綺麗に正していく。その手つきに淀みはない。
いや、それはめちゃくちゃありがたいんだけど天雨行政官の距離が近すぎてそれどころじゃないんだが……!
これ、もうちょっと近づいたら色々当たらないか!?
(きょ、距離が近すぎるって……!)
そんな慌てる俺様の内心を知ってか知らずか、天雨行政官は真剣な表情をしてネクタイを整え直している。
くっ……ここまで真剣にやってくれてるのに離れてくれとは言いづらいし……!
「……お兄ちゃん?」
“青春だなぁ、羨ましい……”
い、イブキ?何でそんなにむくれてるのかは分からないけど顔が怖いぞ?そんな顔しちゃいけません!
あと先生はその生温かい目をやめろぉ!何感慨にふけってんだ!そんな暇があるなら天雨行政官に距離が近いぞって声を掛けてくれ……!
真剣にやってくれてるからありがたいんだけど、こうも色々と近いとまずいだろ……!
「……はい、終わりましたよ。」
俺様がそんな事を考えながら必死で無心になろうとしていると、ネクタイを直し終わった天雨行政官からそんな声がかけられた。
その声にハッとなった俺様が首元を確認すると、そこにはしっかりと首元が結び直されてピシッと真っ直ぐに伸びたネクタイの姿があった。
「あ、ありがとうございます。天雨行政官。」
「ふふ、どういたしまして。調印式当日はくれぐれも気をつけてくださいね?」
「分かりました。しっかり確認しておきます。」
普段とは打って変わって優しい笑みを浮かべながらそういう天雨行政官に若干ドギマギしつつ俺様はそう言う。
天雨行政官って基本的には空崎委員長の前以外では仏頂面で、俺様が風紀委員会へ行った時も塩対応だから不意に笑顔を見せられて少しドキッとしてしまった。
いつも羽沼議長とキーキー言い合いしてたり、すぐ怒ったり、空崎委員長のことになると頭のネジが外れたりするから忘れがちになるけどこうして見ると天雨行政官って本当に美人だよな。
あと口ではなんだかんだ文句を言いつつも実は世話焼きだったり、人の事を気遣える優しさも持ってるし。
その胸の横の空いた変な服さえなんとかなれば、本当に引く手あまただろうになぁ……
「タツミ?今なにか失礼な事を考えませんでしたか?」
「い、いえ。そんな事ないっすよ。」
こっちをジト目で見つつそう言う天雨行政官に対し、俺様は冷や汗をかきつつそう言う。
なんかやけに鋭いな?人の心を読むのはやめてくれよ……
“そう言えばアコ、ヒナにも挨拶してから帰ろうかなって思うんだけど今は仕事中?”
「はい。委員長は今所要でゲヘナの外に居られます。」
俺様がそう思っていると、先生から天雨行政官にそんな言葉が投げかけられる。
天雨行政官は先生へ向き直ると、質問に答えた。
……そう言えば、空崎委員長は明日まで仕事でゲヘナの外に出張に行くって話をこの前本人がしていたっけか。
「ヒナ先輩、お出かけ中なの?」
「あぁ。なんでも用事があるみたいだぞ。」
「そうなんだ。ヒナ先輩いつも大変そう……うーん、イブキもなにか手伝えないかな?」
うーん、と唸りながら難しい顔をして考え込むイブキ。
恐らくだけど空崎委員長はその気持ちだけで充分嬉しいと思うぞ、イブキ。
「じゃあ、イブキのその気持ちを空崎委員長が帰ってきたら伝えてみよう。きっと喜んでくれるはずだぞ。」
「うん、分かった!そうする!」
俺様がそう言うとイブキは満面の笑みを浮かべる。
それを見て、天雨行政官や先生も同じく笑顔になった。
うんうん、やっぱりイブキは難しい顔をしているよりも笑顔で居る方が100万倍可愛いぜ。
“……ヒナは相変わらず忙しそうだね。”
「はい。エデン条約が締結されたら、委員長のお仕事も減るとは思いますが……」
先生と天雨行政官は顔を合わせ、そんな会話をする。
そうだな……現状空崎委員長は不良の鎮圧に所要での出張をしたり、更には俺様がいくらか回収しているとは言え風紀委員会で捌かなければ行けない大量の書類仕事もこなしているからな。
彼女の業務量はそれはもうすごいことになっているし、天雨行政官もそうだが良く目の下にクマを作っている事から数日寝ていないことなどザラにあるだろう。
エデン条約が締結されれば、少なくともゲヘナの治安は今よりは確実にマシになるはずだ。
そうなったら、是非とも空崎委員長には長期休暇でも取ってのんびりしてきて欲しいものである。
「とにかく、先生の用事は終わりですよね?お帰りはあちらの方に……」
「……見送るわ。」
そんな事を考えていると、突如その場に聞き覚えのある声が響いた。
俺様達はその声に反応して一斉にそちらの方を向くと、そこには自分の背丈ほどもあるトレードマークのロングコートを羽織った空崎委員長の姿があった。
「え?い、委員長!?」
“ヒナ……?”
空崎委員長の姿を見て、先生や天雨行政官は目を見開いて驚いたような表情を浮かべている。
……まぁ無理もないだろう。本来なら明日まで出張中のはずの彼女がここに居るのだから。
まぁ空崎委員長の事だから、多分仕事をサッサと片付けたから早めにゲヘナに戻ってきた……とかだろうけど。
「お疲れ様です、空崎委員長。」
「お疲れ様タツミ。イブキもこんばんは。」
「こんばんはヒナ先輩!お仕事はもういいの?」
「えぇ、思ったより早く片付いたから帰ってきたわ。」
空崎委員長はそう言ってイブキに近寄ると、イブキの頭を優しく撫でる。
彼女に頭を撫でられたイブキはすぐに笑みを浮かべ、気持ちよさそうに目を細めた。
「あのねヒナ先輩!」
「あら、どうしたのイブキ?」
「あのねあのね!もしヒナ先輩がお仕事いっぱいで大変ならイブキもなにか手伝えないかなって思って!」
「……ふふ、ありがとうイブキ。その気持ちだけで私は充分嬉しいわよ。」
イブキにそう伝えられた空崎委員長は一瞬目を丸くしていたが、やがて優しい笑顔を浮かべるとより一層イブキの頭を撫でた。
……うんうん、イブキの気持ちがしっかり伝わったみたいで何よりだ。
「い、委員長……」
「アコもお疲れ様。先生は私が送っていくから、アコは先に休んでいて頂戴。」
「あ、はい……分かりました。」
空崎委員長は天雨行政官にそう伝えると、名残惜しそうにイブキの頭から手を離して先生の隣まで移動する。
「ほら、先生。」
“うん分かった。ありがとうヒナ。”
そして先生は空崎委員長に手招きされて彼女の後に続くと、万魔殿のエントランスのドアに手をかけた。
「先生、今日は忙しい中わざわざありがとうな。大したもてなしも出来ずに申し訳ねぇ……」
“ううん、大丈夫だよ。”
「まぁその、なんだ。今度来てくれた時は茶でも出すから、また遠慮なく遊びに来てくれよな!」
俺様はそう言うと、笑顔を浮かべて親指を立てた。
“分かった。ありがとうタツミ。”
「それじゃ、先生をよろしく頼みます。空崎委員長。」
「えぇ、任せて。」
俺様はそう言って空崎委員長に頭を下げると、空崎委員長は軽く笑みを浮かべて頷く。
そして2人は万魔殿のエントランスのドアを開けると、そのまま外へと出て行った。
「……んじゃ、俺様達も帰るとしますか。」
「うん、かえろかえろ!」
2人を見送った後、俺様はそう呟きつつイブキに右手の手の平を差し出す。
イブキはそれを確認すると、自分の左手で俺様の手の平をしっかりと握った。
「そうですね。この後タツミは予定はあるのですか?」
「俺様ですか?今日の仕事は終わったんで久しぶりにイブキに夕飯を作ってやろうかと思いまして。最近は仕事でイブキに構ってやれてませんでしたからね……」
俺様がそう言うと、天雨行政官はしばし何かを考え込むような表情を浮かべた。
「えへへ、お兄ちゃんのハンバーグ楽しみだなー。」
ニコニコとした笑みを浮かべながらそう言うイブキ。
うーん、可愛い。やっぱりイブキは天使だな!
「そうだったんですね。……なら、よろしければ私もご一緒しても構いませんか?」
「えっ……天雨行政官も来るんですか?」
「な、何ですか!?私が行くとなにか都合が悪いことでもあるって言うんですか!?」
「いや、別にそういうわけじゃないっすけど仕事とかは大丈夫なんすか……?」
「ふん、今日の仕事なんてとっくに終わらせてやりましたよ!あの程度私にかかれば造作もないです!」
天雨行政官はドヤ顔を浮かべると、大きな胸を張りながらそう言った。
まぁ俺様としては別に構わないんだけど、イブキの許可を取らないと行けないだろう。
そう思った俺様はイブキに視線を向けつつ口を開く。
「そ、そうっすか?なら俺様は別に構いませんけど……」
「……うん、イブキも大丈夫だよ!アコ先輩、一緒にお兄ちゃんの料理食べよ!」
イブキは一瞬だけ考え込むような表情を見せたが、やがて笑顔になると天雨行政官に向けてそう言った。
まぁ、ハンバーグなんて2人分作るのも3人分作るのも対して変わらないからな。
少しスーパーで買う材料の量が増えるくらいだろう。
「じゃ、そうと決まれば買い出しにも付き合ってもらいますけど構いませんか?」
「分かりました。では私は一旦寮に戻って準備をしてきますので、お2人は校門でお待ちいただいても?」
「了解っす。」
その後言葉通り寮に戻って準備を整えてきた天雨行政官とスーパーへ買い出しに行き、ゲヘナの学生寮の俺様の部屋にてハンバーグを作って食った俺様達3人。
ハンバーグの調理は天雨行政官も協力してくれて、イブキと共にエプロンを付けて3人で調理を行った。
イブキは久々に食う俺様の料理を大層喜んでくれたし、天雨行政官も美味そうに食ってくれて後片付けまでやってくれたから充実した時間を過ごす事が出来た。
彼女には感謝しないとな。
なお、スーパーに買い出しに行った際にプリンの他におやつも買ってくれと珍しく駄々をこねていたイブキを天雨行政官が優しく諭してくれた事は印象に残っている。
……やっぱ、天雨行政官っていいお母さんになりそうだよなぁと思う俺様なのであった。
その翌日からはいつも通り万魔殿で書類を捌いたり、風紀委員会に顔を出したり、給食部の手伝いをしたり、不良どもが暴れているのを鎮圧するのを手伝ったり……
そんな騒がしい日々と並行し、エデン条約関係の仕事やトリニティへの外回り等の仕事もこなしつつ俺様は忙しい毎日を過ごしていた。
そして1日、また1日と時間は流れていき……
エデン条約の調印式、その当日を迎える事となった。
次回、いよいよ調印式編です