「えっと、燃料は満タンだし外装も大丈夫。プロペラに欠けもないし、乗組員の編成も出来てるし……」
俺様はブツブツと独り言を言いながら、片手に抱えたバインダーのチェックリストに印を付けていた。
今日はエデン条約調印式が行われる当日。
長年敵対関係にあったゲヘナとトリニティが遂にお互いの手を取り合う、キヴォトスにおいて歴史の1ページに刻まれるであろう記念すべき日だ。
その当日の朝、俺様は今回エデン条約の式場まで向かうために羽沼議長が購入して来たと言う最新型の飛行船の最終チェックを行うため、ゲヘナの空港に朝から赴いて飛行船に乗り込み最終確認を行なっていた。
まぁ飛行船の確認自体は前に万魔殿の整備班が行っているのだが、今日はエデン条約調印式の当日だからな。
もし飛行船に不備があって墜落でもしたら目も当てられないので、こうして俺様自らが二重チェックとして最終確認を行っているわけだ。
「……しかし、どこでこんなもん手に入れてきたんだあのアホ議長は。」
どれもこれも最新型の設備が整っている飛行船の内部を見つつ、俺様はそう呟いた。
この飛行船の設備は素人の俺様からしてみても最新の技術がふんだんに使われている事が分かるくらいで、とても高性能な飛行船であることが伺える作りになっている。
なんなら自動操縦システムも付いてるし、下手すりゃミレニアム製だと言われても違和感の無いくらいの性能だ。
ちなみに、何故わざわざ条約の会場まで行くのに飛行船を買ったのかアホ議長に聞くと……
「キキキッ!我が万魔殿の威厳を最大限に知らしめるためにはド派手な登場が必要だろう?」
……と、ドヤ顔で話していた。要は見栄のためである。
いや、まぁ確かに今回のエデン条約の調印式では俺様達万魔殿はほぼゲヘナ側の主役と言っても過言ではないので威厳は必要かもしれないけど、だからってここまで高性能な飛行船を買う必要はないんじゃねえのか……?
そんなくだらんことをせんでも普通に会場入りすれば良いだろうにつまらん事に予算を使いやがって……と言うか、そんな予算があるなら風紀委員会や給食部に予算を回してやれと声を大にして言いたい。切実に。
「……ん?」
そんな事を思いながら飛行船を巡回しつつチェックを終えていき、いよいよ最後の項目である船内のエンジンルームに差し掛かった瞬間だった。
エンジンルームに入室すると、ふと俺様の目にエンジンの傍に積み上げられた大量の木箱の山が目に入る。
「……なんだこれ?」
最新型の設備ばかりの船内で明らかに浮いている物体を不自然に思った俺様は、その木箱に近寄る。
そして何気なしに木箱を見ていると、ふと木箱に何かが貼られているのに気が付く。
「取り扱い注意……可燃性……?」
そう、木箱にはそんな言葉の書かれた黄色と黒のシマシマのシールがご丁寧に一箱一箱に貼られていた。
……ってか、取り扱い注意かつ可燃性って間違いなく火薬か何かの類なんじゃねぇのか?
「おいおい、誰だよエンジンルームなんて場所にこんな危ないものを置きやがったのは……!」
百歩譲って倉庫か何かに積むなら分かるけど、エンジンルームなんかに火薬を置いてみろ。
何かの拍子で爆発でもしようものならこの飛行船は地面へと真っ逆さまだぞ……!?
「はぁ……こりゃ無理にでも最終チェックを申し出といて正解だったな。」
仮にこのまま飛行を開始して、エンジンの熱か何かで火薬が爆発でもしようものなら目も当てられない。
マジで自分の目で確認しておいて良かったぜ。
……しかし、整備班はこんな危険なものがエンジンの隣に置かれているのに気付かなかったのか?
俺様みたいな素人でもこんな危ない物がエンジンの側に置かれていたらマズいだろって分かるのに、整備班が気付かないのは不自然なんだが……?
「……まぁいいか。積まれてたもんは仕方ねぇし。」
俺様はため息を吐きながらそう呟くと、木箱をなるべく刺激しないように持ち上げた。
ともかく、こんな危険物を飛行船内に積んでおくわけには行かないからな。
そもそもエデン条約の調印式は平和の祭典だ。
そんな所へ向かうのに火薬の山を積んで行くなんてそもそも言語道断だしな。
この火薬は全て飛行船の外へ持ち出しておくとしよう。
「クソ、仕事を増やしがって……!」
そう吐き捨てつつ、俺様はエンジンルームに積まれた大量の木箱を飛行船の外へと運び出すのだった。
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「あー……疲れた……」
ゲヘナ空港、第3ターミナル前の待合所にて。
結局、あのあと大量にあった木箱を全て飛行船の外へと運び出して危険物回収業者に回収依頼を出した俺様。
その後もエンジンルームのチェックや、万が一があったときの為の緊急脱出用のパラシュート等の準備を終えた俺様は空港の待合所のベンチに座ってスポーツドリンクを飲んでいた。
「……予想はしていたけど、人が多いなぁ。」
人で溢れかえり、ざわざわとした空港内を見つつ俺様は息を吐き出しながらそう言う。
今日はエデン条約調印式の当日と言うことでゲヘナとトリニティは共に休日扱いとなっており、両校の街中は人で溢れていてちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。
ゲヘナ空港でもエデン条約の調印式を見学しに行く人が飛行機に乗るのを待っているようだし、いかにエデン条約の調印式が注目されているかがよく分かる。
そのためスクープを求めてクロノス放送局のパパラッチ共もその辺をウロウロしており、俺様も仕事中にも関わらず何度もインタビューをされたっけな……
あいつら自分達のスクープのためなら人の都合なんてお構い無しだからな……
そんなんだからSNSとかで煙たがられるんだぞ……
そう言えばクロノスと言えば、今日は動画投稿サイトでエデン条約調印式の様子を生中継していた気がする。
……会場の様子も気になるし、ちょっと覗いてみるか。
そう思った俺様はポケットからスマホを取り出すと、アプリの中から動画投稿サイトを開く。
「えーっとエデン条約調印式生中継……これだな。」
そしてクロノスのチャンネルに飛んで赤文字で生放送中と書かれたサムネイルを見つけた俺様は、そのサムネイルを親指でタップした。
『この動画をご覧の皆さん、こんにちは!クロノススクール報道部のアイドルレポーター、川流シノンです!』
そして動画の再生を開始すると、スマホのスピーカーからハツラツとした元気の良い声が聞こえてくる。
スマホの画面にはゲヘナとトリニティ、それぞれの校章が映し出されておりその右側にはマイクを持ったポニーテールに褐色肌の生徒が映し出されていた。
……格好についてはもう触れないでおこう。正直、この程度なら天雨行政官よりはマシだろうし。
『本日は遂に締結されるゲヘナ学園とトリニティ総合学園のエデン条約!その調印式の現場に来ております!』
「……ちょっと声がでかいな。」
スマホのスピーカーから聞こえてくる声量が大きいため、周囲の迷惑にならないように俺様は配信の音声のボリュームを下げた。
『私は今、通功の古聖堂の前にいるのですが……』
配信の中の川流レポーターがそう言うと、通功の古聖堂と呼ばれた建物が映し出される。
その前ではお互いの学園の大きな旗を持ったゲヘナの万魔殿とトリニティのティーパーティーの生徒がズラッと整列しており、お互いにガンを飛ばし合っている光景が映る。
『すでに現場は熱がこもっており、互いに譲らまいと張り詰めた空気になっております!』
……まぁ色々言いたいことはあるけど、とてもじゃないがこれから手を取り合おうと言う学園同士の雰囲気ではないのは確かだな。
『誰かが一歩間違えれば、この場が大惨事になりそうなほどの雰囲気です!感じられますでしょうか、この空気感!』
「……胃が痛くなる程度には感じるな。」
『犬猿の仲とでも言いましょうか、呉越同舟と言いましょうか!私達のよく知るゲヘナとトリニティの様相ですね!盛り上がってまいりました!』
……いや、何も盛り上がってないんだが?
クロノスは相変わらずだな……そんな事を思いつつスポーツドリンクを一口飲むと、今度は通功の古聖堂の全体像が画面に映し出される。
『ご覧ください!ここが今回の調印式の会場である古聖堂の様子です!物凄い威圧感ですね!』
川流レポーターのそんな声とともに映し出される、トリニティに存在する通功の古聖堂。
その見た目はシスターフッドの本部の大聖堂と同じく西洋ヨーロッパ風の見た目をしており、所々に飾られている十字架がその神聖さを表していた。
……そう言えば、先生からは既に通功の古聖堂に到着していて現在はシスターフッドの若葉先輩に古聖堂を案内してもらっているとの連絡がモモトークで来ていたな。
先生の方もしっかりと準備が進んでいる様で何よりだ。
また古聖堂で会ったら挨拶をしておこう。
『どうしてこの場所が選ばれたのかということにつきましては、ある筋の情報によるとゲヘナ首脳陣からの提案ということです!これは意外!』
そう。今回のエデン条約の調印式が通功の古聖堂で行われることになったのは、この前のエデン条約機構の打ち合わせで羽沼議長と共にトリニティでティーパーティーのホストである桐藤先輩と話し合いが行われた際に羽沼議長が提案したからである。
聞くところによると、通功の古聖堂はトリニティ総合学園が一つの学園としてスタートするきっかけとなった第一回公会議が行われた歴史ある場所らしい。
横でその話を聞いていた俺様は羽沼議長がトリニティに対してそんな気の利いた提案が出来るのかと驚いたが、どうやらそうではないらしく単にデカくて威厳のある場所の方が格好いいだろが!とのことだった。
……まぁ、実に羽沼議長らしい提案と言えるだろう。
ともかく羽沼議長の思考がどうであれ、そこがトリニティにとって大きな歴史を持つ場所で有ることは変わらないため桐藤先輩はそれを了承した。
そして長らく放置されて廃墟も同然となっていた古聖堂には大規模な修繕が行われ、今回の式典が行われる場所として生まれ変わった……と言うわけだな。
と言っても、修理されたのは式典に使われる場所のみのようでその他は変わらず廃墟のままらしいが……まぁ今後修理されて行くことだろう。
『少々話は変わりますが、トリニティの第一回公会議。そしてそこで定められた戒律は当時のユスティナ聖徒会と言う強力な集団が守り続けたと言われています。』
「……そういや歌住先輩がそんなこと言ってたっけ。」
『果たしてそれが関連しているのでしょうか、本日はトリニティのシスターフッドもこの調印式に参加していることが確認されています!』
川流レポーターのそんな声が聞こえてくる。
そう。この前トリニティに行った時に歌住先輩から聞いた話なのだが、シスターフッドの前身はユスティナ聖徒会と言う組織だったらしいのだ。
ユスティナ聖徒会がどういう組織なのかは知らんがまぁ簡単に言うと【約束の守護者】みたいなもんらしい。
俺様はシスターフッドのことを単なる慈善団体だと思っていたので、その話を聞いた時は大層驚いたけどな。
まさかそんな秘密のある組織だとは思わなかった……まぁ別に知ったところでさほど興味もないんだけど。
ユスティナ聖徒会は当時のトリニティの中でも中立的な立場だったらしく、そのため後身であるシスターフッドも今までは原則政治活動には関わらず、独自の体制で活動していたらしいのだが……この前の聖園ミカ先輩のクーデターのおかげでそうも言ってられなくなった。
現状のティーパーティーの状態は桐藤先輩は健在だが聖園先輩は牢屋で謹慎処分、百合園先輩は人前に顔を出せる状態にないとかなり不安定なものとなっている。
そのため不安定なティーパーティーの補佐も兼ねて今までの政治不干渉を撤廃し、今後はトリニティの政治にも関わっていく姿勢に移行するとのことだ。
なので、今回のエデン条約の調印式に関しても見届け人兼桐藤先輩の補佐として参列する事に決まったらしい。
『これまで対外的な活動を禁じていたシスターフッド……先ほどのユスティナ聖徒会が歴史の中に消えた今、その組織の後身を自任する……そういう意味合いがあるのでしょうか?』
……まぁ、概ねその認識で間違いないだろうな。
『さぁ、トリニティ総合学園に吹き荒れる政治の嵐の行方は果たして……はい?難しい話は良い?視聴率とアクセスが落ちる?』
「……おい、これ生配信だよな?」
『政治もやってられませんが、デスクからの圧力もやってられませんね!しかし私達には言論の自由が……』
川流レポーターがそこまで言うと、突然配信の画面が真っ暗になり合成音声にて「ただいま映像が乱れております、復旧まで少々お待ち下さい」との言葉がスピーカーから流れてくる。
……おい、これ放送事故だろ。
『し、失礼しました!話を戻しますが、エデン条約が締結されるとその後両者の首脳陣は古聖堂にてエデン条約機構の創設に同意することになります!するとトリニティとゲヘナはお互いの問題が起こった時に……もうややこしいので簡単に言いますと、これまでいがみ合ってきた事で有名なキヴォトスの2つの巨大な学園が遂に平和のために手を取り合おうとしているということです!』
そんなざっくりで良いのか……と思ったけどまぁ難しいことをつらつらと並べても仕方ないだろうからな。
このくらい簡潔な方が理解はしやすいだろう。
なるべく大衆にわかりやすい言葉を選んでいる辺り、腐っても報道レポーターなだけはある。
『ちなみに連邦生徒会にこのことについてインタビューを行うと【あまり興味ない】との返答が返ってきました!さすがは連邦生徒会!その大らかさはサンクトゥムタワーのように天を突き抜けるようですね!』
……それでいいのか、連邦生徒会。
曲がりなりにもゲヘナとトリニティが手を取り合うということは、キヴォトスのパワーバランスが大きく傾くと言うことになるんだぞ……?
そこの調整をするのが連邦生徒会の仕事だと思うんだけど、そんなスタンスで大丈夫なんだろうな……?
この前連邦生徒会に行った時に七神代行に話した時も我関せずって感じだったからな。
連邦生徒会長が失踪して大変なのは分かるけど、元々エデン条約を打ち出したのは他ならぬ連邦生徒会長なんだから少しくらいは協力してほしかったけど。
……まぁ、七神代行のあの疲労困憊な様子を見ると無理強いできないのも確かだから仕方ないけどな。
『それでは次に、このエデン条約に参加する各学園の主要人物につきましての紹介を……』
「おーい!お兄ちゃーん!」
そんな事を考えながらスマホを眺めていると、俺様の耳に聞き間違えることのない元気な声が飛び込んでくる。
俺様はその声を聞くやいなや速攻でスマホの動画サイトを閉じてポケットにねじ込むと、椅子から立ち上がり我が最愛の妹の声が聞こえたほうを向いた。
「イブキ!」
そこにはブカブカの袖をブンブンと振るイブキ、そしてその後ろには万魔殿のメンバーが全員揃っていた。
空港のターミナルに突然現れた万魔殿に周囲がざわつくが俺様はそんな事などお構い無しに速攻でイブキに駆け寄ると、頭に手を置いてそのまま撫でてやる。
「この人混みの中でよくお兄ちゃんが分かったな!」
「ふっふーん!イブキがお兄ちゃんを見間違えるはずがないのです!」
そう言って、腰に手を当ててふんすと胸を張るイブキ。
なんだこの可愛い生き物は。
はっ、もしかして天使なのでは……!?
そうだ、そうに違いない!やっぱりイブキは最高だぜ!
うぉぉぉぉぉっ!イブキ最高!イブキ最高!
「なにアホ面を浮かべてるんですかこのシスコン。」
「別にいいじゃないっすか棗先輩!つか、このイブキの笑顔を見たら誰でもそうなりますって!」
「そりゃ確かにイブキちゃんの笑顔はとても素敵だけど、そんなヘニャヘニャになるのはタツミだけなんじゃないかしら……?」
「なに、そのくらいイブキが可愛いってことじゃないっすか京極先輩!」
「そうね、それは否定しないけどね。」
「イブキちゃーん!こっち向いて〜!」
俺様をジト目で見てくる棗先輩、腕を組みながら呆れ笑いを浮かべる京極先輩、イブキにカメラを向けて秒間100連写をする元宮先輩。
うん、いつもと変わらない万魔殿の日常って感じだな。
エデン条約の調印式当日だから緊張しているかと思ったんだけど、リラックスしているようで何よりだ。
「キキキ……飛行船の最終チェックご苦労だったなタツミ。どうだ?問題は無かったか?」
「えぇ、特に問題はありませんでしたよ。」
俺様に近寄って来る羽沼議長に対して、俺様はなんでもないようにサラッとそう言った。
……まぁ本当はあの火薬の件で問題は発生してるけど、もしあの火薬が羽沼議長の指示で積まれたものだとしたら再度積み直せとか言われかねんので黙っておこう。
さっきも言ったけど、エデン条約の調印式に火薬なんて物騒なものを積んでいくわけには行かないのだ。
ちなみに羽沼議長のメンタルに関しては心配してない。
何せ完全アウェーだったティーパーティーでのエデン条約機構の会議でもあれだけ呑気に寛いでいた人だ。
そんな人が今更調印式程度で緊張するとは思えない。
なんなら紅茶おかわりしてたし、茶菓子も我が物で食ってたからな……
現に今もいつものアホ面を浮かべてるし大丈夫だろう。
え?俺様?
なんつーか、俺様の場合はエデン条約の調印式に出席するって緊張よりも羽沼議長がやらかさないかの心配のほうが勝ってると言うかなんというか……
まぁ全く緊張してないわけでは当然ないけども、緊張なんかしてる場合じゃないって言う方が正しい。
「よし、ならすぐにでも出航出来るな。早速だが飛行船に乗り込むとしようではないか。」
そう言うと、羽沼議長はコートを靡かせつつ今回俺様達が乗る予定の飛行船が停めてあるターミナルへと向かおうとする。
「あ、ちょっと待ってください羽沼議長。」
歩き出した羽沼議長に対して、俺様は声をかけた。
「ん?どうしたタツミ。」
「いえ、俺様達の準備は終わりましたけど風紀委員会の準備の方はどうかなと思いまして。」
「は?何故我々が風紀委員会なんぞの事を気にせねばならんのだ?」
「いや、今回の調印式では羽沼議長はもちろんすけど空崎委員長も立ち会うことになってるじゃないすか。あっちだってシスターフッドのトップが立ち会いますし、会場入りしているかは確認すべきなのでは?」
俺様は首を傾げると、羽沼議長にそう問いかける。
そう。今回のエデン条約の調印式に関してだが羽沼議長と桐藤先輩が壇上で握手するだけではなく、そこに空崎委員長とシスターフッドの歌住先輩も一緒に壇上に上がって立ち会うことになっているのだ。
まぁ本来なら二人だけで壇上に上がってもらえばいいのだが、一応ボディガードと言う名目だな。
ちなみにこれに関しては俺様が提案したものが通った形になる。
無事にこうして調印式の当日までたどり着けたものの、エデン条約ってのはやっぱりゲヘナとトリニティの間ではまだまだ反対派も多くいる条約な事は間違いない。
それこそ、この前の聖園先輩みたいにクーデターを起こしてまで止めようとする過激派もいるわけで……
そんなエデン条約に不満を持った連中が式典中に襲ってこないとも限らないからな。
まぁ風紀委員会と正義実現委員会。2つの学園の治安維持部隊が守ってる古聖堂を襲える学校なんて思いつかないが……テロの可能性は考えておくに越したことはない。
ちなみに羽沼議長は空崎委員長に護衛されるのを心底嫌がっていたが、何とか言いくるめた。
「風紀委員会から何か連絡はありましたか?」
「全くお前は心配性だな。このマコト様の部下なら風紀委員会など気にかけずにドンと構えていろ。」
「……質問に答えてください羽沼議長。風紀委員会から何か連絡はありましたか?」
「……ヒナになら車を貸しておいたぞ。直に出発すると言っていたから、もう会場に付く頃なんじゃないのか?」
羽沼議長は心底面倒そうにため息を吐くと、渋々と言った様子でそう発言した。
いや、連絡取ってんなら最初からそう言えよな……?
えっ……ってか羽沼議長、風紀委員会に車貸したのか!?
マジで!?明日槍降らねぇよな!?
「わ、分かりました。とにかく空崎委員長も会場へ向けて出発してるんですね。」
……って今は思考停止してる場合じゃない!
ま、まぁそういうことなら後の予定は現地で空崎委員長とすり合わせれば良いだろう。
空崎委員長には心労をかけて申し訳ないな……後で胃薬を渡しておくとしよう。
「聞きたいことはそれだけです。足を止めてしまってすいませんでした、羽沼議長。」
「フン。別に構わないさ……では、向かうとしようかお前達。」
そう言うと、再び飛行船の停めてあるターミナルへと向けて歩き出す羽沼議長。
俺様はイブキと手を繋ぐと、他の万魔殿のメンバーと共に羽沼議長の一歩後ろから彼女を追随する。
「それにしても珍しいですね。マコト先輩が風紀委員会に移動手段とは言え、車を貸し出すなんて。」
「キキキ……今回我々は最新型の飛行船で会場に入るからな。空を飛ぶ私達万魔殿に対し、情けなく地を這う風紀委員会……どうだ?見事な対比だとは思わんか?」
……いや、全く思わないんだが?
ってか、このアホ議長が風紀委員会に車貸すなんてどう考えてもおかしいって思ったけどそんなくだらん理由が絡んでたのかよ!
なんというか、まぁこのアホ議長らしいと言うか……
もはや通常運転すぎて安心感すら覚えるな。
そんな事を考えると、俺様が先程まで火薬を必死に運び出していた飛行船が見えてきた。
やっぱ、何回見てもバカデカいよなこの飛行船。
一体いくらしたのか想像もつかないんだが……
「わー!すっごくおっきいねお兄ちゃん!」
「ハハハ……そ、そうだなイブキ。」
そんな俺様の内心を知ってか知らずか、イブキは飛行船を見て目をキラキラと輝かせている。
「おぉ!これはまた見事な飛行船ですね!」
「キキキ!そうだろうそうだろう!何せこのマコト様の威厳がキヴォトス中に轟く日なのだからな!このくらいの飛行船で登場してもまだ足りんくらいだ!」
ドヤ顔を浮かべながらそう言う羽沼議長。
ほんとにこの人、見栄とイブキのためならなんでもやるんだからなぁ……
イブキのために何でもやるのは非常によくわかるが、見栄っ張りすぎるのも考えもんだぞほんとに。
ちなみに元宮先輩は飛行船の写真を撮りまくっていた。
どんな時でもブレないその精神が今は頼もしく見える。
「はぁ……またマコト先輩の悪い癖が……」
「と言うかこの飛行船とんでもなく大きいけど、一体いくらしたのかしら……?」
「……京極先輩。それは今は考えない方がいいかと。」
「そ、そうね……」
心底呆れ果てた表情を浮かべる棗先輩と、困惑したように腕を組む京極先輩。
はぁ……エデン条約が終わって万魔殿に帰ったら会計になんて言い訳するか今から考えておかないとな……
金額のことを考えると胃が痛くなりそうだ……とりあえず今はエデン条約を無事に結ぶのが何よりも大事。
金額のことはひとまず何も考えないようにしておこう。
この飛行船に乗って古聖堂に着いたら、いよいよエデン条約の調印式が始まる。
ここまで長い道のりだったし、エデン条約関連の仕事や書類も沢山こなしてきた。
それは俺様だけではなく万魔殿の皆もそうだし、恐らくティーパーティーの方々も同じはずだ。
その苦労がいよいよ報われる日……と考えたら、こんなにも嬉しいことはない。
エデン条約が無事に締結されたら、トリニティへは大手を振って行けるわけで。
そしたら正義実現委員会のみんなやシスターフッドのみんな、補習授業部にも気軽に会えるようになる。
それにゲヘナの治安も良くなって空崎委員長の負担も減るだろうから、言うことはないだろう。
まぁエデン条約機構であるETОの仕事は増えるだろうけども、今までに比べたら些細なことだろうしな。
そんな事を考えながら、その後も飛行船の搭乗口へと歩を進める俺様達。
途中でクロノスの中継カメラを見かけた羽沼議長がカメラ目線でドヤ顔をしたり、イブキが手を降ってクロノスのカメラマンが悶絶したり、イブキと一緒にカメラに手を振りながら俺様達は飛行船へと乗り込み、古聖堂へと向けて出発するのだった。
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『おっと、噂をすれば影!ゲヘナの万魔殿が新型飛行船に乗り込んで古聖堂へ向かうようです!』
「あっ、万魔殿のみなさんが出てきましたよ!」
『ゲヘナ学園の議長、すなわち生徒会長の羽沼マコトです!流石と言いますか、物凄いカリスマです!多分!あれがゲヘナの生徒会長としての威厳!』
「……なんかゲヘナの議長さん、すごくカメラ目線でドヤ顔していませんか?」
「この人がタツミの言ってたゲヘナの議長なのね……なんか、とても聞いていたような感じには見えないけど。」
「あはは……まぁ人は見かけに寄らないと言いますし、タツミさんが嘘を付くとも思えませんからね。」
『さぁそして、その後ろに続くはゲヘナ学園生徒会……つまり万魔殿のメンバー達です!おっと?なんとキヴォトスではほとんどお目にかかれない男子生徒が居ます!これはビックリ!えっと……情報によりますと、彼は万魔殿所属の1年生である丹花タツミとのことです!彼と手をつないでいる女の子は同じく1年生の丹花イブキ、との情報も入ってきました!どうやら兄妹のようですね!』
「あっ、皆さん見てください!タツミさんですよ!」
「散々話には聞いてたけど、こうしてみると本当に生徒会のメンバーなのねタツミって……」
「うふふ、何だか彼が万魔殿のメンバーと並んで歩いてるとすごく絵になりますね♡」
「隣で手を繋いでいるのはタツミが散々言っていた妹か……確かにこうしてみるとすごく可愛いな。」
「なんというか、お人形さんみたいですね♡ブカブカの万魔殿のジャケットもとても似合ってますし。」
「あっ、カメラに向かって手を振ってますよ!」
「あ、タツミも手を振ってるわね。」
「うふふ、リラックスできているようで何よりです♡」
『そしてトリニティ総合学園のティーパーティーのホスト、桐藤ナギサも古聖堂に到着したようです!両学園の主要人物が次々と集まってきています!』
「ナギサ様……頑張ってください!」
『そろそろゲヘナの風紀委員長も到着するとのことで周囲の雰囲気はますますヒートアップする一方!皆さん、引き続きこの様子をご覧ください!』
「……いよいよ、ですね。」
「そうだな、このまま何事もなく調印式が無事に終わってくれれば良いんだけど……」
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「準備は?」
「……問題なし。」
「は、はい!終わりました!チェックも出来てますし、色々と確認も……」
「あの人形との接触の方は?」
「……」
「そうか姫。なら問題無さそうだな。全ては整った。」
「こ、これから辛いことになっていくんですね、みんな苦しむんですね、ですが仕方ありません。」
「……そう、これがこの世界の真実。」
「ミサキ、巡航ミサイルは?」
「すでに発射済み。これから5分後に指定された座標のターゲットに着弾する。」
「チームⅡとチームⅢは?」
「通路の前で待機中です。時間に合わせて作戦地域に突入する予定です……」
「分かった。古聖堂の崩壊と同時に突入するぞ。ミサキとチームⅡはトリニティを、ヒヨリとチームⅢはゲヘナの方を頼む。チームⅡはツルギを、チームⅢはヒナに気をつけて動け。」
「了解。」
「は、はい!分かりました!」
「チームIとチームⅤは……」
「……」
「あぁ、通路に沿って地下へ。知っての通り一番重要な任務だ。」
「……」
「姫……分かっている。気分は悪いだろうけど、もう少し我慢してほしい。」
(……コクリ。)
「私は他に用事がある。それが終わり次第、チームⅤに合流予定だ。」
「では……行くぞみんな。」
「アリウススクワッド、作戦開始。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あっ、古聖堂が見えてきましたよ!」
「噂には聞いていたけど、すごく大きいわね……」
「キキキッ!トリニティの所有する建物と言うのが少々気に食わんが、まぁ今回の条約の場には歴史のある場所が相応しいだろうからな!」
「……単にデカくてカッコいいからって理由で指定した奴が何を言ってんすか羽沼議長。」
「いや、それだけではないぞタツミ。」
「……?」
「何せトリニティの連中の墓場になる場所だ。歴史や秩序が大好きな羽根つき共のことだ、死に場所には持って来いというやつだろう?」
「は?アンタ何を言って……」
「ねぇねぇ、なんか飛んでくるよー?」
「……!?」
「あれは……どうやら巡航ミサイルのようですが……」
「は!?み、ミサイルだと!?」
「ちょっと!あのままだと古聖堂に着弾するわよ!?」
「ちょ!落ち着いてくださいサツキ先輩!そうは言われましても、今からだと防ぎようが……!」
「チィ、クソがぁ!」
ーーードカアァァァァァァン!!!ーーー