転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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ついに始まったエデン条約調印式編
ミサイルが撃ち込まれた光景を見たタツミはどうなるのか


燃え上がる怒りと丹花タツミ

羽沼議長が購入したという最新型の飛行船に乗り込み、エデン条約の調印式が行われる古聖堂へ向かっていた俺様達万魔殿一行。

段々と近づいてくる古聖堂の大きさに圧倒されつつもいよいよ行われる式典へ向けて思いを馳せていると、俺様達の乗っている飛行船の真横を巡航ミサイルらしきものが通過して古聖堂に着弾し、大爆発を引き起こした。

 

ーーードカアァァァァァァン!!!ーーー

 

「きゃぁっ!?」

「うっ……な、なんて爆風なの……!」

「っ!イブキッ!」

 

あまりの爆風と衝撃波に飛行船の船体が激しく揺れ、俺様は咄嗟にイブキを抱きかかえる。

そのままイブキを抱きしめながらしばらくその場で踏ん張っていると、船体の揺れは徐々に収まり始めた。

 

「大丈夫かイブキ!?」

「う、うん。イブキは大丈夫だよお兄ちゃん。」

「そうか、良かった……」

 

腕の中で不安そうな表情を浮かべながらもぎこちない笑顔をするイブキを見て、ほっと息を吐いた俺様はそのままイブキの頭を撫でる。

ひとまずイブキが無事でよかった。

そうだ、他の万魔殿のみんなは……?

 

「キキキ……ものすごい揺れだな……」

「はぁ……また面倒そうなことが……」

「い、いったい何が起こったのよ……?」

「ふむふむ、これは大スクープの予感がしますね!」

 

……良かった、全員怪我はないようだ。

と言うか元宮先輩、アンタ巡航ミサイルが古聖堂に着弾したってのに何を呑気なことを……!?

そうだ!巡航ミサイルっ……!

 

「……っ!すまんイブキ!」

「えっ……?お、お兄ちゃん!?」

 

俺様はイブキの頭からそっと手を離すと飛行船に備え付けられた窓に大慌てで駆け寄り、窓枠に手をかけながらその中をのぞき込む。

そして、その窓の向こう側には阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。

 

巡航ミサイルらしき爆発物が着弾した古聖堂は、先ほどまでのその威厳ある姿は影も形もなく……見るのも憚られるような無残な瓦礫の山と化していた。

その瓦礫の山の中の所々からは炎が立ち上っていて、黒煙に混ざって灰が風に吹かれて舞い上がり辺り一面が赤色と灰色に染まっている。

破壊された古聖堂の中では、会場の警備をしていたらしい風紀委員会と正義実現委員会の制服を着た生徒があちこちで倒れているのが確認できた。

その中には治安維持部隊のみならず、一般の制服を着たゲヘナやトリニティの生徒の姿も見える。

 

「チィ……!」

 

あまりにも現実味のない状況に頭が真っ白になりかけるが、俺様は脳みそを無理やりフル回転させた。

 

この状況を整理しよう。

まず分かっているのは、あの巡航ミサイルで古聖堂が間違いなく悪意を持って攻撃されたということ。

あんな古聖堂を丸々吹っ飛ばせるようなミサイルが誤射によって発射されたとは考えられない。

間違いなく、何者かがエデン条約の妨害をするために放ってきたと考えていいだろう。

 

だが、一体誰がなんのために?

そもそもトリニティには対空防御システムが完備されていたはずだ、それを超えるようなスピードのミサイルが突っ込んできたってことなのか……?

まさかラムジェットエンジン?だが、いくらミレニアムでもまだそこまでの技術は持っていないはずだが……

いや、だがミサイル一発でこの爆発の規模は明らかに過剰だと言わざるを得ない。

だとすると、最初から古聖堂に爆薬が……?

 

いや、だとしてもあそこまで必死にエデン条約を締結させようとしていたトリニティ側がこの土壇場でゲヘナを罠に嵌めるなんてのは考えられない。

そもそもゲヘナだけを吹き飛ばすならトリニティの主要人物が集まっている古聖堂にミサイルをぶち込むってのは共倒れも良いところだ、トリニティの仕業ではない。

もちろん俺様たちゲヘナもこんなことは計画してない。

だとすると第三者しか……まさか……!

 

「まさか……アリウス分校か……?」

 

アリウス分校。

かつてトリニティが一つの学園にまとまる際に最後まで反対し、トリニティを追放されて表舞台から姿を消したと言われている組織。

その過程からトリニティを激しく憎み、同時に元トリニティであることからゲヘナにも激しい憎悪を持っていることが予想される組織。

どう考えてもその経歴から、間違いなくエデン条約を面白くないと思っているであろう組織。

そして……俺様の唯一覚えている【原作の知識においてエデン条約編の敵】として出てきた学校。

 

思い返せばそうだ。

元々アリウスはエデン条約の阻止のために白州先輩をスパイとしてトリニティへ送り込み、桐藤先輩の暗殺を虎視眈々と狙っていた。

エデン条約を阻止するためなら人を殺すことさえ何とも思っていない、イカれた組織なことは間違いない。

結果的に白州先輩がアリウスを裏切ったことによって桐藤先輩は助かり、その後外患誘致やクーデターを企てた聖園先輩も捕まったから作戦は失敗。

この件は解決したものだとばかり思っていたけどここで仕掛けてきた……まだ諦めてなかったと言うことか!?

 

「くそ、アリウスッ……!!!」

 

俺様は思い切り飛行船の壁を殴りつけた。

畜生……っ!許さねぇ……許さねぇぞアリウスッ!

俺様達ゲヘナや、トリニティが頑張ってきたものを全て台無しにしやがって……!

 

窓の外では、まだ動ける両治安維持部隊の部員達が必死に血を流して倒れている生徒や、一般の参列者の救助活動をしているのが見える。

 

「……っ!」

 

その光景を見て、血が上りかけていた俺様の頭がスーッと冷静になっていく。

そうだ、今考えるべきことはこんなことじゃないだろ!

理由はどうあれ、目の前で助けを求めている人が大勢いるんだ!なら助けに行かないとならないだろ!

それに、古聖堂にはシスターフッドの歌住先輩達やティーパーティーの桐藤先輩、風紀委員会の空崎委員長達も居るんだぞ……!

それに何よりも……

 

「先生……!」

 

そう、先生もエデン条約に参列するために古聖堂に到着したとの連絡を俺様は飛行船に乗る前に受けていた。

と言うことは、先生はこの巡航ミサイルによる爆撃をモロに食らっていることになる。

 

先生には俺様と同じでヘイローがない。つまりキヴォトス人とは違って、銃弾一つでも死の危険がある。

いくら先生にはシッテムの箱があるとは言え、この巡航ミサイルの攻撃に対してそのバリアがどこまで機能してくれるかは未知数だろう。

一刻も早く助けに行かないと、先生の命が危ない……!

 

「キキキキキッ!」

 

そんな事を考えて、俺様が脱出用のパラシュートを引っ掴んで飛行船のハッチを開けようとした瞬間だった。

その場に羽沼議長の愉快そうな笑い声が響き渡る。

 

「おい、この状況で何を笑って……!」

「成功だっ!これぞ計画通り!キヒャヒャヒャッ!」

「……は?」

「マコト先輩?一体何を……?」

 

成功……?計画通り……?一体何のことだよ……!?

 

「これで邪魔者は全て消える。ティーパーティーも、あの目障りだったヒナも!分かるかイロハ、タツミ。これぞ一石二鳥というやつだ!」

「おい!何を訳の分からねぇことを……!」

「ん?分からないかタツミ?なら説明してやろう。」

 

羽沼議長はそう言って腕を組むと、ニヤリと笑って口を開いた。

 

「何を隠そうこのマコト様は、トリニティを恨んでいるアリウスと前々から結託していたのさ!」

「……は?」

「ティーパーティーの内紛も、クーデターも、私は最初から知っていた。全ては今日の計画のために!」

 

唐突に羽沼議長から発せられた、衝撃の事実。

そのあまりにも受け入れがたい真実を前にして、俺様の胃の中のものが逆流しそうになる。

 

「いつの間にそんな事を……つまり先輩は、最初からエデン条約を結ぶ気は無かったと?」

「ああ、そんな事これっぽっちも興味などない!私の関心はずっと、邪魔者共を片付けることだけ!」

「いつまで経っても、何度会談に行っても姿を現さないティーパーティーの奴らを引きずり出すためにあくまで条約に同意するフリをしていたのさ。まぁ、最後の方は諦めて会談に出席して来たが……今更というやつだな。」

「そして、ずっと目障りだったヒナや風紀委員会の連中まで片付いた!これほどの成果はない!キキキッ!」

 

込み上げてくる尋常ではない吐き気。

俺様は片手の手のひらで口元を覆うと、フラフラとした足取りで目の前で戯言を垂れ流す羽沼議長へと近寄る。

 

「そのためにアリウスは多大なサポートをしてくれた。この飛行船だって私達の友好の証としての贈り物……敵の敵は味方と言うことだよ、キキキキッ!」

 

……なるほど、この飛行船はアリウスからの贈り物だったのか。

どうりで見たことのない技術が使われていると思った。

長年表舞台に姿を見せないアリウスなら未知の技術を持っていてもおかしくはないだろう、合点が行った。

そして……それは羽沼議長がアリウスと繋がっていたと言う【決定的な証拠】にもなるわけで。

 

「さあ、アリウスに連絡を。本格的にトリニティの殲滅戦を始めようじゃないか。ナギサにヒナ、私の邪魔者はもう居ない。今こそトリニティをキヴォトスの地図から……」

「ふざけんなよ、この大ボケ野郎がァァァ!!!」

 

俺様はその場で声がかれるほどの大声で叫ぶと、羽沼議長の胸ぐらを掴み上げた。

 

「た、タツミ!?」

「何故だ!何故こんなバカみたいな事をしたっ!?答えろ羽沼マコト!」

 

後ろで京極先輩の声が聞こえるが、そんなのは知ったこっちゃない。

俺様はそのまま飛行船の壁に羽沼議長を叩きつける。

 

「愚問だなタツミ。先程言っただろう?私はそもそもエデン条約などどうでもいい。憎きトリニティと風紀委員会を消すため、そのために今回は動いたんだ。」

「てめぇよくもそんな事をぬけぬけと……!この日のためにどれだけの人が頑張ったと思ってるんだ!?どれだけの人の犠牲があったと思ってるんだ!?」

「フン、そんな事どうでもいいだろう?さっさとこの手を離せタツミ。アリウスに連絡してトリニティの殲滅戦を始めなければならんのでな。」

「てめぇっ……!」

 

詫びれもせずにそう言う羽沼議長に対し、俺様の中の怒りが燃え上がっていく。

 

「そもそもエデン条約そのものが私からすれば茶番にしか過ぎない。長年いがみ合ってきたトリニティの羽根つき共と仲良く手を取り合うだと?冗談ならもう少し笑えるものを用意してほしいものだな。」

「本気でトリニティと手を取りたいって奴だって居るかもしれねぇだろ!少なくとも、俺様はエデン条約には賛成だった!トリニティにだっていい人はいる!」

「だが、トリニティには同時にゲヘナだと言うだけで差別をしてくる奴もいるじゃないか。この前私と共にトリニティへエデン条約機構の会議に行った時もそうだっただろう。忘れたのかタツミ?」

「それはっ……!」

 

羽沼議長の言う通り、確かにこの前のエデン条約機構の会議でトリニティへ行った時には散々トリニティの生徒からゲヘナ所属と言うだけで色々言われたのは事実だ。

角つきだの、汚らわしいだの、同じ空気を吸わないでほしいだの、さっさと死ねばいいのにだの……

それ以外にも俺様がトリニティへ仕事で行った時には憎悪の籠もった視線を受ける事が多いのは確かに否定できない事実ではある。

事実ではある……けど……!

 

「タツミ。確かにトリニティにもいい奴はいるだろう。だが【個人】と【組織】は違う。個人では仲良くなれても、ゲヘナ学園とトリニティ総合学園と言う組織同士として見た時に仲良くなれるとは私は思わん。」

「それはあくまでアンタの考えってだけだろうが!少なくともトリニティの桐藤先輩はゲヘナに歩み寄る姿勢は見せてくれたんだぞ!?それをこんな形で……!」

「あぁそうだな。初めに私が何度トリニティに行っても顔を見せずに代理を立てるばかりだったナギサが最後の最後で顔を見せてきたのは歩み寄りと言えなくもないだろうが……遅すぎたんだよ、奴は。」

 

羽沼議長は歯ぎしりしつつ、語気を強める。

 

「奴が初めから会議に出席していれば、私とてさすがにここまではしなかったかもしれないが……」

「それは単なる責任転嫁だろうが!そもそもアリウスと共謀してミサイルを古聖堂に撃ち込むってのがイかれてるんだよ!正気なのかアンタは!?」

「フン、政敵を倒すためにイかれてるも何もないだろうタツミ?これは戦争なのだから使えるものは何でも使う。でなければ待っているのは死あるのみだ。」

 

羽沼議長はそう言うと、俺様の腕を掴んでくる。

だが俺様は負けじと羽沼議長の腕を掴んで握りしめた。

 

「さっきから詭弁を並べてゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ!そもそも古聖堂には風紀委員会もいるだろうが!何で同じゲヘナである風紀委員会まで一緒に始末しようとしてんだ!?」

「……お前も分かるだろう?私は前々から風紀委員会の連中が気に食わなかった。それだけの話だ。」

「だからって何も巡航ミサイルを撃ち込むなんて滅茶苦茶な真似をする必要があるのか!?アンタには血も涙もないのかよっ!?」

「……っ!血も涙もないわけあるかタツミッ!」

 

俺様がまくし立てていると、いきなり羽沼議長が大声を出しながらそう言葉を発した。

 

「いいか!私は風紀委員会が気に食わん!ヒナは私よりも有名だし、あのメス犬はいつもいつも噛みついてきて目障りだし、突撃隊長……はどうでもいいが、あのメガネはお前にいつもいつもちょっかいをかけてくるし……!」

「それが何だってんだよ!」

「だが、何よりも私が一番気に食わんのは、お前がアビドスに居る時に迫撃砲を撃ち込んだことに関してだ!」

 

羽沼議長は歯をむき出しにすると、そう叫ぶ。

 

「あ、あれはもう終わったことだろ!?天雨行政官はアビドスや大将に謝罪して許されてるし、そもそもアレは故意じゃなくて事故だったんだぞ!?俺様だって許してるし、何で本人じゃないアンタがいつまでも根に持つ必要があるんだよ!?」

「そんなもの、私の大切な部下に手を出されたからに決まっているだろうが!」

 

羽沼議長は体制を起こすと、今度は逆に俺様を飛行船の壁に押し付けてくる。

 

「ま、マコトちゃんっ!」

「黙っていろサツキ!いいかタツミ!お前はあれは事故だ、不可抗力だと戯言を言っているがな……その事故や不可抗力で私はお前を失うかもしれなかったんだぞ!」

「そ、それは……でも結果的に俺様は生きてるだろ!」

「あぁそうだ。しかしそれは結果論と言うやつだ!お前が死ぬかもしれないと言う可能性はあったんだぞ!」

「そ、そんなの滅茶苦茶じゃねぇか!」

「何が滅茶苦茶なものか!いいか!私はそれが何よりも気に食わんのだ!結果的にタツミが死ななかったから良いものの、タツミに許されたからといってタツミの優しさに漬け込んでヘラヘラと笑っている風紀委員会の連中が!心底気に入らんのだ!このマコト様はッ!」

 

ギリギリと俺様の手首を掴む手に力が籠もる。

 

「だから私は決めたのだ!風紀委員会にも、タツミと同じ目に遭ってもらうと!予測できない爆撃を食らう恐怖を奴らにも味合わせてやるんだとな!」

「だからって、それが風紀委員会にミサイルを撃ち込んでいい理由にはならねぇだろうがっ!」

「何を言っているんだタツミ。今回の爆撃は【不可抗力】だぞ?何せミサイルを発射したのは表舞台から姿を消したアリウスだからな。我々ゲヘナではない。」

「なんだと……!?」

「私がアリウスにミサイルの発射を辞めてくれと頼んだところで連中はトリニティに大きな恨みがある。どのみちミサイルの発射は止められんよ。さて、お前の理論では不可抗力であれば許されるのだったな?タツミ。」

「てめぇ……!良くもぬけぬけと……!あの時と今では状況がまるで違うだろうが!」

 

詭弁を並べやがって……!

 

「私はアリウスと接触してそれに便乗しただけで今回のミサイルに関しては不可抗力だろう?私の一存でどうこうできる問題ではないのだから仕方ないと言う奴だ。」

「うるせぇ!百歩譲ってアリウスがミサイルを撃ったのが不可抗力だとしても、それを今日まで黙っててしかも便乗してトリニティと風紀委員会を攻撃しようとしたことに変わりはないだろうが!それにティーパーティーや風紀委員会だけじゃない、一般の生徒だって……それに何よりも、先生だって巻き込んでるんだぞ!?」

 

俺様は羽沼議長の胸ぐらを再度つかみ上げる。

 

「先生にはヘイローがないんだぞ!?俺様と同じで銃弾1発が致命傷になりかねないんだ!俺様を部下に持つアンタなら先生の脆さはよく知ってるだろうが!」

「フン、先生にはシッテムの箱とやらがあるのだろう?このくらいでくたばる事はないだろう。」

「そんなの分かんねぇだろ!そもそもあのバリアだって絶対じゃない!何かの原因があったら作動しないかもしれないだろうが!」

 

それに、何よりも……!

 

「ヘイローのない人間に爆撃するって、アンタがさっき言った風紀委員会が俺様に爆撃してきたって事と何が違うんだよ!?しかもアンタは直接じゃないとは言え、間接的に故意で先生に危害を加えてんだぞ!?」

「お前にはシッテムの箱はないが、先生にはある。そもそも前提条件が違うだろうタツミ。頭に血が上っているのは分かるが、詭弁を垂れ流すな。」

「黙れ!何故言わなかった!?何故相談しなかった!?ゲヘナとトリニティが力を合わせたら、それこそ巡航ミサイルなんて撃ち落とせたかもしれないだろうが!」

「何度も言わせるな。私はトリニティと手を組む気などサラサラない。もちろん風紀委員会ともな。」

「……そうか。アンタの考えは分かった。」

「キキキ……ようやく私の考えを理解してくれたか?」

 

俺様はがっくりと肩を落として下を向きながらそう言うと、羽沼議長は俺様の胸ぐらからパッと目を離す。

その隙を見逃さずに俺様は素早く飛行船の脱出用ハッチまで近寄ると、ハッチを勢いよく開けた。

 

「な、何をしているタツミ!?」

「羽沼議長。アンタの考えは分かりました。……これ以上話し合っても無駄ってこともね。」

 

俺様は緊急脱出用のパラシュートを身体に固定しながら、自分でも驚くほど冷え切った声でそう言う。

 

「……俺様の事をそんなに思ってくれてありがとうございます羽沼議長。こんな時じゃなかったらめちゃくちゃ嬉しかったと思いますし、憎まれ口を叩きながらもめっちゃニヤニヤしてたと思います。」

 

そう。口ではなんやかんや言ってるけど、俺様は羽沼議長のことは嫌いじゃないからな。

けど今回のことは……流石に擁護できない。

 

「羽沼議長。アンタは確かにバカだけど、俺様は良いバカだと思ってました。俺様、何だかんだ言いつつも羽沼議長のことは尊敬してたんですよ?言っても聞かない問題児ばかりのゲヘナでトップを張るなんて、普通のメンタルじゃやれない事だ。」

 

この人は普段はアホ面を浮かべてるけど、裏では努力を重ねていることも俺様は知っている。

 

「それになんやかんやでアンタは優しい所もあるし、基本はポンコツだけどいざという時は頼りになるし、トップの器だって持っていると思ってました。」

 

人の話を聞いていないようでその実ちゃんと聞いているし、上に立つ素質は充分に備えている人だ。

だから……だからこそ……

 

「だから俺様はアンタについて行こうと思った。だから俺様は万魔殿に入ろうって思ったんです。だから……信じてたのに……アンタはこんな事をする人じゃないって……俺様は……っ!!!」

 

気づけば、俺様の目からは涙が流れていた。

目から流れてくる涙を、俺様はジャケットの袖で拭う。

 

「何なんですか羽沼議長……!なんで俺様をそんなに心配してんすか……!悪役なら悪役らしく極悪非道で居てくださいよ……!そうじゃなきゃ……俺様はアンタを嫌いになれないじゃないですかっ!!!」

 

そうだよ、こんなことするくらいならきちんと悪役であってくれ。俺様を心配なんてしないでくれ。

そんなことをされたら……憎みきれないじゃないか。

 

「そうさ!こんなとんでもないことをしでかしたのに、俺様はアンタの事を嫌いになれないんすよ!」

 

なんでだろうな。

……理由は考えても分からないけど。

 

「アンタはやっちゃいけないことをした!でも、俺様がアンタから受けてきた優しさや信頼は間違いなく本物だった!何なんだよ!俺様はどっちを信じればいいんだよ!?どっちを……何を……あぁぁぁぁっ!!!」

 

頭をかきむしりながらそう叫ぶ。

体に力が入らない。俺様は膝から崩れ落ちた。

 

「お、落ち着けタツミ!私はそんなつもりでは……!」

「俺様は……何を……信じれば……」

「お兄ちゃんっ!」

 

俺様が涙を流しつつ思わず膝をついて蹲っていると、突然イブキの叫び声がしたかと思えば俺様の体を温かいものが包みこんだ。

 

「……イブキ?」

「大丈夫、大丈夫だよお兄ちゃん。イブキがいるよ。」

 

イブキは俺様に手を回して抱きしめてくれると、俺様の頭を小さな手で優しく撫でてくれる。

心がぐちゃぐちゃになりかけていた所に唐突にぶつけられた妹の等身大の優しさ。

それは俺様の涙腺を決壊させるのに充分だった。

 

「い、イブキ……」

「……うん、いいよお兄ちゃん。」

「すまん……うっ……う、うあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

恥も何もかも捨て、イブキにしがみついて泣きじゃくる俺様。

 

「よしよし……大丈夫、大丈夫だからねお兄ちゃん。」

 

そんな妹の胸で号泣するどうしようもなく子どもで情けない俺様を、イブキは優しく包みこんでくれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

イブキの胸で涙が枯れるまで号泣していた俺様だがやがて気持ちの整理をつけると、最後に目尻に溜まっていた涙を万魔殿のジャケットで拭う。

 

「……ごめんなイブキ。ダメなお兄ちゃんで。」

「ううん!ダメなんかじゃないよ!お兄ちゃんはどんなときでも世界一カッコいい自慢のお兄ちゃんだもん!」

「……そうか。ありがとうなイブキ。」

 

謝罪する俺様に対して、満点の笑顔でそう答えてくれるイブキ。

俺様はイブキの頭に手を乗せると、そのまま優しく撫でてやる。

俺様とイブキのそんな様子を見て少しだけ空気が軽くなるが、俺様が取り乱したことにより痛いほどの沈黙と共に重苦しい雰囲気が場に流れる。

そんな空気を破ったのは、まず元宮先輩だった。

 

「……マコト先輩、これはどういう事ですか?詳しい説明を求めます。」

 

普段の元気の良い、ハツラツとした声とは打って変わって驚くほど抑揚のない声でそう言う元宮先輩。

その声を皮切りに、京極先輩や棗先輩も口を開く。

 

「……マコトちゃん、今回の件は流石に私も怒るわよ?」

「マコト先輩。そもそもアリウスは下手したらトリニティ以上にゲヘナを憎んでいるんですよ?どうして私達と手を組むと思ったんですか?」

「……何ィッ!?」

「はぁ……またマコト先輩が騙されたと。それと今回の件は私も怒ってます。タツミを泣かせた責任はしっかり取ってもらいますからね、マコト先輩。」

「ま、待てお前達!私はそんなつもりは……!」

 

京極先輩と棗先輩に詰め寄られ、狼狽えながらタジタジになる羽沼議長。

そんな彼女たちを尻目に、俺様は再度脱出用のパラシュートの動作確認をする。

 

「……お兄ちゃん、行くんでしょ?」

「……あぁ。行ってくるよ。」

 

俺様を見つめつつ、どこか諦めた声でそう言うイブキ。

……イブキには敵わないな、本当に。

 

「気をつけて行ってきてね?それと、必ず怪我しないで帰ってくること!……約束だよ?お兄ちゃん。」

「あぁ、約束するよイブキ。必ず怪我せずにイブキの所に帰ってくるからな。」

 

俺様は立ち上がると、イブキの頭を撫でる。

 

「ま、待てタツミ!行くってここは飛行船の中だぞ!?一体何処へ行こうと言うんだ!?」

「決まってます、地上ですよ。」

 

俺様は脱出用のパラシュートが体にしっかり固定されたのを確認すると、脱出用のハッチに手をかける。

そう、羽沼議長と言い合いを続けていたから頭から抜け落ちていたが今地上は地獄なんだ。

脱出用のハッチから地上の様子を確認する。

 

血を流した生徒が倒れているのが見える。

自分も血だらけなのに必死に瓦礫の山から友人らしき生徒を助けようとしている生徒が見える。

救急車が走り回り、救急医学部の部員達が負傷者を簡易テントの中に運び込んでいるのが見える。

そして何よりも……

 

見慣れない制服を着たガスマスクの集団と、まだ動ける風紀委員会と正義実現委員会の生徒が戦っているのが見える。行かなければ。そして助けなければ。

こんな所でイタズラに時間を使ってる場合じゃない。

 

「ま、待てタツミ!お前が行ったところで……!」

「それでも行かないよりはマシです。」

「やめろタツミ!お前がそこまでする理由はないだろう!?私はお前を失いたくは……!」

「大丈夫ですよ羽沼議長。俺様は死にません。」

 

一呼吸置き、俺様は続ける。

 

「それに、誰かを助けるのに理由はいりませんから。」

 

……ま、そういうこった。

 

「羽沼議長。俺様を心配してくれてありがとうございます。けど、アンタがやったことは許されることじゃないんでそれはそれとして反省してください。」

「そ、それは……!」

「この流れだからあんま分かんないと思いますけど、俺様今腸が煮えくり返るくらい怒ってますからね?トリニティや風紀委員会の人をこんなに傷つけて、一般の生徒やヘイローのない先生まで巻き込んで……」

 

正直、許されることじゃないだろう。

 

「……まぁでも、それでもアンタを許してやりたいって思ってる自分もいるんですけどね。なんででしょうね?アリウスに騙されていたから?俺様が甘すぎるだけ?」

「タツミくん……」

「その口ぶりからしてミサイルを撃ったのはアリウスでそれに便乗しようとしただけのは本当なんでしょう。この飛行船も送られた物ってことはあの火薬もアリウスがこの飛行船を墜落させるための物なんでしょうし……アリウスは俺様たちも始末する予定だったんでしょうね。」

「か、火薬?なんのことだ!?」

「……ま、その件については帰ってきたらまたゆっくり話しましょうや。」

 

そう言うと、俺様は脱出用のハッチに片足をかけた。

大丈夫。パラシュートの使い方なら風紀委員会の降下訓練に何度も参加した時に習っている。

あの時は無理やり参加させられて天雨行政官にキレていたが、今は感謝しないといけないな。

 

「じゃ、俺様は行きますんで。」

「はぁ……こうなった以上言っても聞かないでしょうけど、死んだら承知しませんからね?」

「マコトちゃんはたっぷり絞っておいてあげるわ。その怒り、存分にぶつけてきなさい。」

「タツミくん!イブキちゃんは私達が責任を持って守ります!思いっきり暴れてきてください!」

「みなさん……ありがとうございます!」

 

やっぱりいい先輩たちに恵まれたなぁ……

俺様は頭を深く下げると、再度ハッチに手をかける。

 

「私達もすぐ合流します。地上で会いましょう。」

「分かりました棗先輩。よろしくお願いします。」

「……絶対に無事に帰ってくるんですよ。」

「もちろんです。じゃあ……行ってくる!」

「うん、いってらっしゃいお兄ちゃん!」

「ま、待てタツミ!」

 

イブキの笑顔と羽沼議長の焦る顔に見送られ、俺様は勢いよくハッチにかけた片足に力を入れた。

次の瞬間、俺様の体は飛行船の中から空中へと投げ出される。

 

「くっ……!思ったより風の抵抗があんな……!」

 

俺様は風紀委員会の降下訓練で習った通り空中で姿勢を制御しながら、徐々に地面に近づいていく。

地上に近づくにつれ炎の燃えあがる熱気や舞い散る灰が頬を撫でた。

あちこちで怒号や悲鳴が聞こえ、何かの爆発音や破裂音が絶えず響き渡っている。

むせかえる熱気が体を包み、火薬独特のツンとした匂いが鼻を突く。

まさに地獄絵図としか言いようがない状況だ。

 

「……よし、今だ!」

 

そしてもう少しで地上と言うところで、俺様は体に固定したパラシュートを開くために腰の器具を引く。

するとパイロットシュートが背中から飛び出し、引力に釣られて地面に引っ張られている俺様の力を使いパラシュートが勢いよく音を立てて開いた。

 

「よし、うまくいった……!」

 

そのまま体が少し引っ張られる感覚と共に、俺様の体はゆっくりと地面に向かっていく。

そして着地地点になりそうな場所を探していると、丁度謎のガスマスクを付けた生徒が俺様の目に入った。

……よし、まずはあそこに着地しよう!

 

「うぉぉぉぉぉっ!!!」

「ん、なんだ……うわぁぁぁぁっ!?」

 

俺様はパラシュートに備え付けられた器具を使って方向を調整し謎のガスマスクを付けた生徒を着地地点に設定すると、そのままその彼女の頭を蹴り飛ばした。

謎のガスマスクを付けた生徒……恐らくアリウスの生徒である彼女は完全に不意打ちを食らった型になり、そのまま蹴りの勢いにより吹き飛んで瓦礫に突っ込んで行く。

 

「よしっ、着地成功!」

 

そしてその勢いのまま俺様は地面に着地すると、急いでパラシュートを身体から切り離した。

その後、素早く折り畳みシールドを展開しブークリエにマガジンを差し込んでチャージングハンドルを引く。

そして、盾を地面に突き立てて周囲を警戒する。

 

俺様の着地した周囲ではボロボロの風紀委員会と正義実現委員会の制服を着た生徒達がちらほらとアリウス分校の生徒と戦っているのが確認できた。

……この状況なら、とりあえず風紀委員会と正義実現委員会の生徒は味方だと判断して良いだろう。

倒すべきはさっきのガスマスクの生徒達……すなわち、アリウス分校の連中と言うことで良いはずだ。

 

さて、まずやるべきことは何より先生の安全の確保だ。

先生にはヘイローがない。

シッテムの箱があるとは言え、それが絶対な物か分からない以上は悠長に構えている場合ではないだろう。

次に風紀委員会の空崎委員長や、正義実現委員会の剣先委員長、シスターフッドの歌住先輩達との合流。

そして最後に、ティーパーティーの桐藤先輩の保護。

……やることは多い。急がなければ。

 

アリウス分校……お前達にどんな理由があるのかは分からないし、どんな憎しみを抱えてるのかも知らねぇが……

エデン条約の調印式をぶち壊したこと。

ゲヘナとトリニティが手を取り合うのを邪魔したこと。

そして……何よりも、羽沼議長をそそのかしてこんな最低最悪の悪事への協力を持ちかけたこと。

……絶対に許さねぇ。許していいわけがねぇ。

必ずお前たちを叩きのめして、全員土下座して関係者に謝らせてやるからな!

 

「許さねぇぞ……アリウス分校!!!」

 

俺様は腹の底からそう叫ぶと、盾を構えて走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お、おいお前達!何故タツミを止めなかった!?」

「はぁ……マコト先輩なら分かるでしょう。ああなったタツミはもう止められません。きっと私達が何を言ったって飛び出していくでしょうからね。」

「……うん。イブキだって本当は嫌だよ。一緒に居てほしかった。でもお兄ちゃんがあんな顔をしてるのなら行かないでとは言えないよ……」

「イブキちゃん……」

「……すまない、イブキ。」

「……飛行船の着陸地点へ急ぎましょう。このままタツミを1人で戦わせるわけにはいきません。私は万魔殿で待機している戦車部隊に連絡を入れてきます。」

「よろしくねイロハ。さて……マコトちゃん。何故こんな事をしたのか……説明できないとは言わないわよね?」

「そうですよマコト先輩。私達に何の相談もなしにこんな事をするのは良くないです。今までのはスクープのネタになりましたけど、流石にこれは……」

「2人とも、今はマコト先輩を問い詰めるのは後回しです。まずはこの事態をなんとかしなければなりません。風紀委員会が壊滅的な打撃を受けた今、ゲヘナの指揮を取れるのはマコト先輩しかいないです。」

「……そうね。」

「マコト先輩。今は何も聞かないのでこの事態を収束させるために動きましょう。ただし……すべてが終わったらきちんと説明してもらいますからね。」

「……あぁ、分かった。」

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