転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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飛行船から降下したタツミ
彼の戦いが始まる


積み上がった恨みと丹花タツミ

「大丈夫か!?」

「貴方は丹花タツミ……!?」

「向こうに救急医学部の簡易テントがある!その子を連れて早くそこへ向かえ!」

「わ、分かった!ありがとう!」

 

「大丈夫ですか!?」

「あ、貴方はゲヘナ生……!?離してください!ゲヘナの生徒に助けられるくらいなら死んだ方がマシです!」

「なんてことを言ってるんですか!つべこべ言わずにサッサと手を取ってください!」

「くっ……!背に腹は代えらませんか……!」

「そこの正義実現委員会の方!この人を頼みます!」

「え!?は、はいっ!」

 

瓦礫に埋まった生徒達を出来るだけ助け、まだ動ける生徒に声をかけながら俺様はひたすら戦場を走る。

 

「な、なんだお前は……うわぁ!?」

「邪魔だ!どけぇ!」

 

目の前のガスマスクを被ったアリウス生を盾を使って殴りつけて地面に叩き伏せ、すかさずブークリエを構えて引き金に添えた人差し指に力を込める。

耳元で火薬の爆発音と共に放たれた散弾は前方のアリウス生に着弾し、そのまま地面へと案内した。

俺様はその隙間を縫って前進すると、ひたすら瓦礫と炎と灰で染まった戦場を駆け巡る。

 

(クソ!アリウスの生徒が多すぎる……!)

 

内心舌打ちをしつつ、俺様は息の上がる体を酷使してひたすら足を動かしていた。

謎のガスマスクを被った見慣れない制服の集団、恐らくアリウスの生徒であろうと思われる連中。

もう何人そいつらを地面に転がしてきたかは分からないが、とにかく数が多すぎるのだ。

下手すれば一個中隊レベルで居るのではないか?と思うくらいワラワラと沸いてくるアリウス達。

しかし、それよりも問題なのが……

 

「……」

「チィ!さっきからなんなんだよお前らは!?」

 

俺様の前方に現れ無言でこちらに銃を構えてくる、ガスマスクに青白く生気のない肌をしたシスターのベールを被った謎の女子生徒達。

俺様はそいつらに接近すると懐へ潜り込み、盾で攻撃を防ぎつつ格闘術やブークリエで制圧しにかかる。

 

「……!」

「そこで寝てろ!」

 

3人のガスマスクを被った生徒を即座にその場に叩き伏せた俺様は、盾を地面に突き立てた。

それにしても、一体何なんだこのガスマスクを被った青白い肌の連中は……

 

初めはシスターフッドの人達かとも思ったのだが、まだ動ける風紀委員会や正義実現委員会の生徒達に銃を向けていたし、そもそもアリウスと戦闘せずに連携して襲い掛かってきている事からそれはないだろう。

確かに頭からベールを被ってはいるが、よく見ると身に纏っている衣装はシスター服を改造したレオタードのような物みたいだしな。

しかもガスマスクを被って顔を隠していることから、詳しくは分からないけど恐らくアリウス側の人間であることは間違いないなさそうだ。

 

(しかし、この手応えのない感覚……なんだこれは……)

 

盾を持ち上げて再度駆け出しながら、俺様はぐるぐると思考を回す。

先程からアリウスや謎のシスターと何度も戦闘を繰り返しているが、アリウスの生徒は盾で殴りつけたりブークリエを当てると確かな手応えがあるのだが、謎のシスターの方は倒せはするものの全く手応えがないのだ。

盾で殴りつけてもまるで空を切っているような感覚……まぁ、キチンと無力化は出来るから良いんだが。

あの青白い肌と言い、手応えのない不思議なこの感覚と言い……幽霊とでも戦ってる気分だぜ、まったく。

 

「そこの貴様!止まれ!ここから先へは……!」

「うるせぇ!どきやがれ!」

 

目の前に立ち塞がったアリウス生を盾で殴り飛ばし、進路をこじ開けてひたすら進む。

そうこうしているうちに恐らく調印式が行われる場所だったであろう、古聖堂の中心部に辿り着いた。

あれだけの破壊力の巡航ミサイルを撃ち込まれていながら修繕がしっかりされていたのか元々頑丈なのかは分からないが、古聖堂の中心部はギリギリでその原型を保っていた。

急いで瓦礫の山を掻い潜りながら古聖堂の中心部へ突入すると、そこには倒れた正義実現委員会の生徒に銃を向けて引き金を引こうとするアリウス生の姿があった。

 

「これでとどめだ、羽川ハス……」

「その手をどけろクソ野郎!」

「ん……!?なんだお前……ぐはぁ!?」

 

足に力を入れて全力でアリウス生に駆け寄ると、ブークリエの弾丸を惜しむこと無くフルオートで発射する。

散弾銃を至近距離で全弾浴びたアリウスの生徒は、そのまま声を上げて地面に倒れ込んだ。

俺様はそれを確認すると、地面に倒れている正義実現委員会の生徒へと目をやった。

 

「う、うぅ……」

「羽川先輩……!?」

 

俺様は驚愕して目を見開く。

そこに倒れていたのは見間違うはずもない。

正義実現委員会の副委員長、羽川ハスミ先輩だった。

 

「羽川先輩っ!」

 

俺様は周囲に敵影が無いことを確認すると、慌てて盾とブークリエを床に置き羽川先輩を抱き起こした。

体のあちこちから出血しており、制服はボロボロ。

恐らく限界ギリギリまでアリウス生や謎のシスターと戦闘していたであろうことが伺える。

俺様は素早くカバンの中を探ると、応急処置キットを取り出して素早く止血を行う。

 

「大丈夫ですか!?羽川先輩!」

「うぅ……た、タツミさんですか……?」

「はい!そうです!丹花タツミです!」

「ぶ、無事だったんですね……良かった……」

 

羽川先輩はボロボロの体でそう言うと、無理やり作ったような笑顔を浮かべる。

 

「た、タツミさん……貴方にお願いがあります……!」

「何を言ってんすか!早く救急医学部のテントへ……!」

「先生を……追ってください……!」

「えっ……!?」

 

俺様がそのまま羽川先輩をお姫様抱っこして持ち上げようとすると、羽川先輩は俺様の腕を掴んでそう言葉を口にする。

 

「先生……!?どういうことですか羽川先輩!?」

「せ、先生は生きていますタツミさん……!ミサイルが着弾して瓦礫の山に埋まっていたのをシスターヒナタが助けてくださいました……!」

「若葉先輩が……!?」

 

……ということは、恐らくシッテムの箱のバリアが正常に機能したのだろう。ひとまず先生は生きているらしい。

その事実に、俺様はとりあえず胸を撫で下ろす。

 

「はい……幸い先生にお怪我はありませんでした……」

「……それはこんな状況ではいいニュースですね。」

「はい……ですがその後にアリウスとユスティナ聖徒会が現れて包囲され……私達はゲヘナの風紀委員長に先生を託し、先生の退路を守るためにここに残ったのですが……」

「空崎委員長に……?」

 

……良かった、空崎委員長も動ける状態なんだな。

ひとまず、空崎委員長が先生の護衛をしているのなら安心だ。彼女はゲヘナはおろかキヴォトスでも匹敵する者が少ないくらいの実力の持ち主。

いくらアリウスやユスティナ聖徒会とやらが束になってかかってこようが、遅れは取らないだろう。

 

「そういう事なら先生は彼女に任せておけば……」

「いえ、違うんですタツミさん……ゲヘナの風紀委員長は恐らくミサイルを受けたのかボロボロの状態で……」

「……何ですって?」

 

……マズい、それなら話は変わってくるぞ。

空崎委員長はキヴォトスでは最強格だ。

あんな雑魚どもに後れを取ることはありえないだろう。

……が、それは空崎委員長が万全の状態ならの話だ。

手負いの状態でひたすら湧き続けるアリウスやあの亡霊シスターを相手にするのは、いくら空崎委員長と言えども流石に分が悪いと言わざるを得ない。

万全の状態なら問題はないだろう。

けど、手負いの状態ならいずれ限界は来る……!

 

「私達は彼女を信じて先生を託しましたが、どこまで持ち堪えられるかは分かりません……行ってくださいタツミさん……!私達は大丈夫なので、先生とゲヘナの風紀委員長を助けてあげてください……!」

「で、でも羽川先輩を放っておくわけには……!」

 

いくら空崎委員長と先生が危険とはいえ、ボロボロの羽川先輩をここに置いていくわけにはいかないだろ……!

とりあえず止血して包帯は巻いたが、とてもまだ満足に戦える状態とは程遠いはずだ……!

 

「わ……私達なら大丈夫です……タツミさん。」

「でも……!」

「タツミさん……今トリニティの首脳陣はほぼ壊滅状態です……シスターフッドのサクラコさんも行方が分からずティーパーティーのナギサさんも同様です……!」

「なんですって……!?」

「お、恐らく生きているとは思いますが……こんな状況で先生にまで何かあっては、本当に収拾がつかなくなってしまいます!」

「それは……!」

 

……確かに、羽川先輩の言う通りではある。

ティーパーティーもシスターフッドも壊滅状態ならトリニティ側の舵を取れる人物は現状存在しない。

ゲヘナ側としても空崎委員長はギリギリ無事なものの風紀委員会はほぼ壊滅状態。

万魔殿は羽沼議長が事態の収拾に動いてくれるか分からない以上、このまま状況を放置していると最悪ゲヘナとトリニティ間の戦争になりかねない。

ただでさえ混乱していて、俺様の助けた中にはゲヘナとトリニティのお互いの仕業だと思い込んでいる生徒達もいた。一刻も早く事態の収拾を図らなければならない。

そのためには、現状先生に頼む他ないのは分かる。

分かる……が……!

 

「行ってくださいタツミさん……!」

「くっ……!」

「わ……私達は大丈夫ですっ、タツミさん!」

 

苦しそうな表情でそういう羽川先輩を前に歯ぎしりしていると、俺様の後ろから声が掛けられる。

慌ててそちらへ振り向くと、そこには気絶した剣先委員長を脇に抱えた若葉先輩の姿があった。

 

「若葉先輩!?剣先委員長も!無事だったんですね!」

「はい、なんとかこちらは鎮圧できました……」

 

肩で息をしながらそういう若葉先輩。

だが、彼女も着ている服はボロボロだし頭から被っているベールも穴が空いたり一部が焼け焦げている。

体には小さな傷がたくさんあり、激戦を終えた後だということがありありと伺える。

 

「シスターヒナタ……」

「ごめんなさいハスミさん、援護に向かえなくて……」

「いえ……気にしないでください……それよりも、今は先生を守らなければ……!」

「……そうですね。」

 

若葉先輩はそのままこちらへ歩み寄ってくると、羽川先輩の横にしゃがみ込んだ。

 

「……行ってください、タツミさん。ハスミさんとツルギさんは私に任せてください。」

「若葉先輩……」

「大丈夫です。私はまだ動けますし、戦えます。それにシスターフッドに所属している身として、負傷者は必ず助けます。それが今私に今出来ることですから。」

 

若葉先輩は羽川先輩をもう片方の手に抱えながら、俺様の目を真っ直ぐに見て真剣な表情でそう言った。

 

「……分かりました。俺様は行きます。」

「タツミさん……ありがとうございます……!」

「大丈夫です。えっと、先生と空崎委員長はどちらへ向かったか分かりますか?」

「それでしたら、あちらの方へ向かわれました。私達が退路を守って進路はゲヘナの風紀委員長さんが切り開いているので、そこまで危険はないはずです。」

 

若葉先輩が顔で方向を示してくれる。

俺様は床から盾とブークリエを拾い上げると、示してくれた方向へ向かって歩き出した。

 

「……2人をよろしくお願いします、若葉先輩。」

「はい、お任せください!……それとユスティナ聖徒会にはくれぐれも気を付けてください、タツミさん。」

「ユスティナ聖徒会と言うと……もしかして、あの青白い肌の?」

「はい。数百年前に消えたはずの戒律の守護者たち……理由は分かりませんが、彼女たちが今になって現れて私たちと敵対しています。」

 

ユスティナ聖徒会と言うと、確かシスターフッドの前身である組織……だったはずだと記憶している。

なるほど、あのガスマスクを被った青白い肌のシスターはそのユスティナ聖徒会と言うことなんだな。

若葉先輩の話では数百年前に姿を消したらしいが……どうせアリウスが何らかの方法で蘇らせたんだろう。

まぁ細かいことはどうでもいい。要はそいつらも敵。

ならやることは簡単。出会ったらぶちのめす。

それだけだ。

 

「ご忠告感謝します、若葉先輩。」

「はい、くれぐれもお気をつけてください!」

「ありがとうございます若葉先輩。それでは……」

「た、タツミさん……!」

「……羽川先輩?」

 

そして俺様が足を踏み出して走り出そうとした瞬間、羽川先輩から声が掛けられる。

 

「先生を……よろしくお願いします、タツミさんっ!」

「……はい!任せてください!」

 

俺様は力強くそう答えると、羽川先輩に親指を立てる。

そして背を向けると、地面を蹴って走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

走る。走る。ひたすら走り続ける。

 

「……」

「どけ!邪魔だ!」

 

目の前に現れるユスティナ聖徒会のシスター達。

それらを盾で殴りつけ、ブークリエの散弾を叩き込み、ひたすら地面に叩き伏せながら俺様は走る。

 

「クソ!まだ追いつかないのか……!?」

 

羽川先輩と剣先委員長を若葉先輩に託して古聖堂を飛び出したからもう随分と走り続けているが、空崎委員長と先生の姿が見えて来ない。

恐らくここを空崎委員長が通ったのは間違いないはず。

その証拠に道中のアリウス生は全員が地面に転がっており、敵は若葉先輩から説明を受けたユスティナ聖徒会の気味の悪いシスターがちらほら出てくるのみだ。

 

「くっ……無事で居てくれ二人とも……!」

 

とっくに足には乳酸が溜まり、膝が笑いかけている。

アリウスやユスティナ聖徒会との戦闘のおかげで体は限界ギリギリだし、細かい傷だってたくさん受けている。

だが、止まれない。止まるわけには行かない。

先生や空崎委員長が既に安全な所に避難を終えているなら、それはそれでいい。問題はまだ戦闘中の場合だ……!

 

羽川先輩の話によると、空崎委員長は巡航ミサイルを受けてボロボロの状態。

あれから時間はかなり立っているし、そろそろ限界が来ていてもおかしくはない……!

 

「……っ!」

 

そんな事を考えながら震える足を無理矢理動かして少し開けた場所に飛び出した俺様の前に、とんでもない光景が飛び込んで来る。

 

そこにいたのは、体中から血を流して地面に倒れ伏したボロボロの空崎委員長。

そして、その後ろで彼女の名前を必死に呼びかけながら空崎委員長を抱き起こす先生の姿だった。

幸い先生に怪我はないようだ。恐らく空崎委員長が自分の身を削ってでも守りきったのだろう。

 

“ヒナッ!ヒナッ……!しっかりして……!”

(クソ、間に合わなかったか……!)

 

俺様は内心で間に合わなかった自分を殴りたい気持ちが湧き上がるが、すぐに先生達に駆け寄るため足を出す。

そして、二人の正面で対峙している集団へ目を向けた。

 

ユスティナ聖徒会と呼ばれる、ガスマスクにシスター服を着た集団の中で一際目立つ四人組。

キャップをかぶった女、フードにガスマスクの女、スティンガーミサイルらしき物を持った女、バカでかいスナイパーライフルを構えた女。

そんな四人組が、先生の正面で彼女と対峙していた。

 

「さて……では貴様もここで始末しておくとしようか。シャーレの先生。」

 

俺様が先生達に駆け寄るために走っていると、集団の先頭に立っているキャップを被った女がそう言った。

そして、奴は手にした銃を先生に向ける。

 

(……っ!)

 

それを見た俺様は、更に地面を勢いよく蹴る。

その瞬間に、奴は手にした銃の引き金に手をかける。

クソ、やらせるかよ……!!!

 

「あぁぁぁぁっ!」

 

それを見て、先生の腕の中で肩で息をしていた空崎委員長が先生を守るために体を起こして前に出ようとする。

マズい、あれ以上ダメージを受けたら……!

クソ!間に合え、間に合え、間に合えェッ!!!

 

“ヒナ!?ダメ!それ以上はっ!”

「まだ動けるのか、空崎ヒナッ……!」

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

そして引き金が引かれて銃弾が放たれた瞬間。

俺様は盾を構えて先生と空崎委員長の前に割り込むと、飛来する銃弾を全て盾で受け止めた。

 

ーーーズガガガガガガ!!!ーーー

 

金属が金属にぶつかるような音が周囲に木霊し、銃弾を受けた盾からは硝煙が立ち上る。

俺様は銃撃が止んだのを確認するとその場で盾を地面に突き立て、先生と空崎委員長を庇うように立ち塞がる。

 

「大丈夫か先生!?空崎委員長!?」

“タツミ!?”

「た、タツミ……!?」

 

盾で体を隠しつつ、後ろを向いて二人に声を掛ける。

 

“う、うん。ありがとう。助かったよタツミ。”

「た……タツミ……何故貴方がここに……?貴方は飛行船でマコトと一緒に居たはずじゃ……」

「まぁその、色々ありましてね……」

“い、色々って……”

「……今は詳しい話は後です、先生。空崎委員長。」

 

俺様は二人に被弾がないことを確認するとほっと息を吐き、そして目を吊り上げて目の前の集団を睨み付けた。

 

「よぉ……よくもこんなしょーもないことをしてくれやがったな?アリウスのクソ野郎どもが……!」

 

ドン!と盾を地面に叩きつけ、俺様はアリウスの連中を威嚇する。

 

「貴様……その制服、万魔殿か?」

「へぇ、よく知ってやがんなクソ野郎。何処で知ったんだ?それとも、ウチの議長から聞いたか?」

「私は確かに起爆装置を起動させたのに飛行船が墜落しなかった……まさか貴様の仕業か?」

「あぁ、あの火薬のことか?やっぱお前らの仕業だったんだなアレ……安心しろよ、お前たちが汗水たらして飛行船に運んだ火薬は全部降ろしといてやったぜ?」

「くっ……貴様……!」

「残念だったなアリウス。詰めがあめぇんだよ!」

 

目の前で苦しそうな表情を浮かべる、キャップを被ってマスクを付けた女。

そんな彼女に対して俺様はケラケラと笑ってやる。

 

「……トリニティの主要人物はすべて片付いた。ゲヘナも風紀委員会と空崎ヒナは始末したから後は羽沼マコトだけだったんだが……まぁいい。」

 

そう言うと、キャップの女はゆっくりと俺様に銃口を向けてくる。

 

「そちらは後で処理すればいい話……まずは、ここでシャーレの先生を始末させてもらおう。」

「へぇ?やれるものならやってみろよ?この俺様に勝てると本気で思ってるならな?」

 

俺様はその場でニヤリと笑ってそう言う。

それを見たキャップの女は、僅かだが顔を顰めた。

 

“……君達が、アリウススクワッド?”

 

そうして俺様とキャップの女が睨み合っていると、俺様の後ろで空崎委員長を支えている先生がそう発言した。

……アリウススクワッド?

何処かで聞いたことがあるような気が……?

 

『私はアリウススクワッドのリーダー……錠前サオリからの命令を受けて、ナギサのヘイローを破壊するためにトリニティに潜入したんだ。』

 

……そうだ、思い出した。

アリウススクワッドと言えば、白州先輩に桐藤先輩を暗殺する命令を出してトリニティに潜り込ませた連中。

つまり桐藤先輩の暗殺計画の裏で糸を引いていた、いわゆる実行犯と言ってもいいだろう。

 

「ふぅ……」

「えへへ……」

「……」

「……あぁ、そうだ。私達がアリウススクワッド。ようやく会えたな、先生。」

“やっぱり……!”

 

そう言って観念したように白状するキャップの女。

こいつがアリウススクワッドのリーダー……確か名前は錠前サオリだったはずだ。

そしてその後ろに居るガスマスクの女が秤アツコ、スティンガーミサイルの女が戒野ミサキ、スナイパーライフルの女が槌永ヒヨリ。

全員、白州先輩から聞いた特徴と一致する。

こいつらが、アリウススクワッド……!

 

「アズサが世話になったと聞いた。あいつには今から会いに行く予定だ。」

「おいおい、行かせると思ってんのかよ……!」

「……我々はトリニティに変わり、この通功の古聖堂で条約に調印した。」

“……どういう意味?”

 

俺様の言葉を無視し、錠前はそう語り始める。

 

「私達アリウススクワッドが、楽園の名の下に条約を守護する新たな武力集団……エデン条約機構になったということだ。」

「なんだと……!?」

“……!?”

「これは元々、私たちの義務だった。本来ならば第一回公会議の時点で、私達が行使すべき当然の権利。」

 

錠前は続ける。

 

「だかそれを、トリニティが踏みにじった。私たちを紛争の原因、すなわち鎮圧対象として定義し徹底的に弾圧を行なった。これからはアリウススクワッドがエデン条約機構としての権限を行使し鎮圧対象を定義し直す。」

(……なるほど。)

「ゲヘナ、そしてトリニティ。その両校こそエデン条約に反する紛争要素であり、排除すべき鎮圧対象だ。」

“それは、つまり……”

「トリニティとゲヘナをキヴォトスから消し去る。文字通りに。この条約の戒律、その守護者と共に。貴様らは第一回公会議以来、数百年に渡って積み上げられてきた恨み……私達の憎悪を確認することになるだろう。」

 

つまり、こいつらの言い分は簡単に言うとこうだ。

トリニティが自分達を迫害して追い出したから、恨みがあるのでトリニティとついでにゲヘナに復讐すると。

……なるほど、実に分かりやすい理由だ。

 

それにしてもこいつら……なんて目をしてやがるんだ……

無理矢理動かされているような、感情を押し殺しているような、やりたくもないことをやらされてるような……

そんな先の見えない絶望に囚われた、濁った瞳。

まるで【昔の俺様】みてぇな……

 

「……っ!」

 

くそっ!今はそんな事はどうでもいいだろ!

そんなことを思い出している暇があんなら、どうやって先生と空崎委員長を逃がすかを考えろ……!

 

「だがその前に……改めて貴様を始末させてもらうとしようか。シャーレの先生……貴様が計画の一番の支障になりそうだと、彼女は言っていたからな。」

「……おいおい、何俺様を無視して楽しそうに1人で語ってんだよ。そろそろ話に混ぜてくれても良いだろ?」

 

俺様は一歩前に出ると、改めて先生と空崎委員長を守るように立ち塞がる。

 

「貴様……」

「先生と空崎委員長には指一本触れさせねぇぞ、イカれたテロリストどもがっ!!!」

 

俺様は盾で体を隠しつつ、腹の底からそう叫んだ。

 

「セナッ!こっち!!」

 

そして錠前に対してブークリエを構えようとした瞬間、後ろで先生に支えられていた空崎委員長が唐突にそう叫んだ。

あまりにもいきなりの出来事に錠前から視線をそらさずに内心で困惑していると、俺様達の後方から救急車のサイレンの音が聞こえてくる。

そのサイレンの音は猛スピードで接近してくると、俺様達のすぐ後ろでブレーキ音を立てて停止した。

……間違いない、救急医学部の所有している救急車だ。

ということは……

 

「救急車……!?」

「先生!委員長!こちらです!」

「氷室先輩!」

 

俺様の予想通り、そこには救急車から身を乗り出しこちらに声をかけてくる氷室先輩の姿があった。

 

「タツミ……!?何故貴方がここに……!?」

 

救急車から降りて俺様達に駆け寄ってくる氷室先輩は俺様の顔を見て一瞬だけ驚いた表情を見せるが、すぐに真剣な顔になると空崎委員長に駆け寄った。

 

「これは……なんてひどい……」

 

そして氷室先輩は空崎委員長の容体を見ると、苦しげな表情を浮かべて顔を顰める。

 

「すぐに応急処置に入ります!先生!タツミ!委員長を救急車へ!」

“う、うん!”

「分かりました!」

 

氷室先輩はそう叫ぶと、空崎委員長に肩を貸して起き上がらせる。

 

「……ごめんなさいセナ。」

「謝るのは後です委員長。まず貴方はその傷を治すことだけを考えてください。」

“セナ!私も手伝うよ!”

 

そう言って、先生も空崎委員長の空いた方の肩を支えて両脇から空崎委員長を抱えるとそのまま三人は救急車へと向かって走り出した。

 

「逃がすかっ!」

 

そんな空崎委員長達を黙って見逃してくれるはずもなく、後ろからは錠前の鋭い銃撃が飛んで来る。

俺様は空崎委員長達の前に立ちはだかると、盾を使って飛来する銃弾から皆を守り抜く。

 

「おのれ!邪魔をするなっ!」

「うるせぇ!怪我人に向かって発砲すんじゃねぇよ!」

「ヒヨリ!やれ!」

「わ、わかりましたぁ!」

「チィ!やらせるかよっ!」

 

ひたすら飛んでくる銃弾を盾で受け止める俺様。

そうこうしているうちに、先生と氷室先輩は空崎委員長を救急車の中へと素早く運び込んでいく。

……よし、無事に救急車の中へと避難できたようだ。

 

すぐに空崎委員長はストレッチャーに寝かされ、氷室先輩による応急処置が始まっているのが確認できた。

氷室先輩の腕はゲヘナでも随一だから、あの様子だと空崎委員長の怪我もすぐにとは言わないが氷室先輩に任せておけばきっと治してくれることだろう。

ひとまず良かった、俺様はほっと胸を撫で下ろす。

 

“ヒナの避難は終わったよ!さぁタツミも早く乗って!”

「……悪いが先生。それは出来ない。」

“え……?”

 

俺様はブークリエのチャージングハンドルを引くと、盾を構えて救急車へ背を向ける。

 

「氷室先輩!そのまま先生と空崎委員長を連れて撤退してください!」

“えっ……!?”

 

盾が銃弾を防ぐ金属音に負けないように、俺様は声を張り上げてそう叫んだ。

俺様はジリジリと後ろへ後退し、今度は救急車を守るように盾を構えて立ちはだかる。

 

“何を言ってるのタツミ!キミも一緒に避難するんだ!”

「先生。このまま全員で撤退すると間違いなく連中の追撃が来る。そうなったら最悪救急車ごと破壊されて一網打尽にされかねないぞ。癪な話だけど、誰かが撤退する先生達を守るために殿を務める必要がある。」

“そ、それはそうかもしれないけど……!でもタツミを残してなんて行けないよ!”

「……大丈夫だ先生。俺様は死なねぇからよ。」

 

救急車に背を向けたまま、俺様は静かにそう言う。

 

“でも……!”

「先生!この混乱した状況で先生まで失ったら本当に収拾がつかなくなる!トリニティの首脳陣は壊滅状態だしゲヘナも機能してるとは言えない!先生の力が必要なんだよ!ここは俺様が引き受けるから、早く!」

“そ、そんなこと……!”

「ま、待ってタツミ……!」

 

俺様が先生に背を向けながら必死にそう訴えかけていると、苦しそうな空崎委員長の声が響いた。

 

「タツミ、殿なら私がやるわ……!」

「委員長!?怪我人なのだから動かないでください!」

 

ボロボロの体でストレッチャーから降りながら、デストロイヤーを構えつつそう言う空崎委員長。

氷室先輩はそんな空崎委員長の肩を掴み、救急車の中へ引き戻そうとしている。

 

「だ、大丈夫……!それよりも、タツミを1人でここに残していくわけには……!」

「……大丈夫です空崎委員長。俺様は死にません。それにそんな状態であなたが戦えるわけがないでしょう。」

 

空崎委員長は見た目からしてもうボロボロで、立っているのもやっとと言う状態だろう。

当然だ。巡航ミサイルをモロに受けて、それでも先生を守るためにアリウスやユスティナを蹴散らし、自分の身を犠牲にしてでも先生を守りきった。

これ以上空崎委員長に無理をさせるわけには行かない。

 

「行ってください、空崎委員長。」

「私はまだ戦えるわタツミ!大丈夫だからっ!」

「俺様なら大丈夫です。なに、こんなテロリストどもすぐに蹴散らしてそっちに合流しますから。」

「待ってタツミ!ならせめて一緒に……!」

 

俺様は安心させるようにそう言うが、なおも食い下がって無理矢理救急車から降りようとする空崎委員長。

 

「……っ!おい、空崎ヒナッ!」

 

そんなボロボロの状態でもなお戦おうとする空崎委員長に対して、俺様は声を張り上げて叫ぶ。

 

「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇぞ、空崎ヒナ!アンタは羽川先輩から先生を託されたんだろ!?なら守りきってみせろ!その信頼に応えてみせろ!それにアンタ自身ももうボロボロだ!とても戦えるような状態じゃないだろうが!勇気と無謀は違うんだぞ!?」

 

これ以上空崎委員長に無理をさせるわけにはいかない。

俺様は喉が枯れるのもおかまいなしに叫び続ける。

 

「それに、こっからはアリウスやユスティナとの総力戦になるかもしれねぇだろうが!そうなったらアンタの力は必ず必要だ!先生と同じく、ここでアンタを失うわけにはいかねぇんだよっ!」

 

足を踏み鳴らし、腹の底から声を出す。

 

「いいからここは俺様に任せて早く行け!大丈夫だ!俺様はテロリストごときに負けるような男じゃねぇ!」

 

必死に訴える。後ろの3人に対して。

 

「氷室先輩!先生と空崎委員長を頼みます!」

 

ひとしきり空崎委員長に言葉をぶつけた俺様は氷室先輩に視線を向けると、真剣な表情でそう言った。

 

「行ってください!早く!」

「……分かりました。死なないでくださいね、タツミ。」

 

氷室先輩は苦虫を噛み潰したような苦しげな声色でそう言うと、先生と空崎委員長を救急車へ押し込む。

 

「大丈夫です。俺様は必ず生きて戻りますから。」

「はい。……行きますよ先生、委員長。」

「セナッ!!!」

“せ、セナッ!ちょっとまって……!”

 

先生と空崎委員長の悲痛な声が響くが、氷室先輩は2人を救急車へ引っ張り込むとそのまま扉を閉じる。

そして救急車のサイレンが再び点灯すると、エンジン音と共にサイレンの音が遠ざかっていく。

 

「……ありがとうございます。氷室先輩。」

 

俺様は軽く笑みを浮かべつつ、そうボソッと呟く。

そして深呼吸をすると、目の前のアリウススクワッドとユスティナ聖徒会の集団を睨みつけた。

 

「さてと……待たせたな、アリウススクワッド。」

「貴様……!」

「俺様が先生の退路を守る以上はここから先へ行けると思うなよ?このクソテロリストどもがっ!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「セナッ!すぐに車を戻してっ!」

“セナ!私からもお願い!このままじゃタツミが……!”

「……申し訳ありませんが、それは出来ません。」

“ど、どうして……!?”

「必ず生きて戻ると……彼が、タツミがそう言っていたからです。」

「あ、あれは私達を安心させるために言った言葉だわ!いくらタツミが強いと言っても、あの4人を相手にするのは流石に……!」

「では今から戻って何をすると言うのですか委員長。そのボロボロの体でタツミの横で戦うとでも?」

「そうよ!こんな所で寝てるわけには行かないわ!」

「私が見たところ委員長の体はすでに限界を超えています。巡航ミサイルを受けたことに加えて、道中で先生に飛んでくる銃弾すら身を挺して全てその身で受けている。正直、立っているのがやっとと言う状態です。」

「そ、それはそうかもしれないけどっ!」

「そんな状態でタツミの隣で戦う?無茶を言わないでください委員長。それに、怪我人が戦場へ出るなど救急医学部の部長として認めるわけにはいきません。」

「セナ!お願い!」

「委員長、貴方は緊急手術が必要です。何を言われようと救護騎士団の本部へとこのまま赴いて、そこであなたの治療をします。異論は認めません。」

「セナ……それでも……私はっ……!」

“ヒナ……ごめん、私のせいで。”

「……それに私は彼から先生と委員長を無事に撤退させるよう頼まれました。可愛い後輩からの頼みですからね。それに応えなければいけません。」

“……”

「先生、肩を落としている暇はありませんよ。今ゲヘナとトリニティは大混乱の真っ只中。私達には貴方の力が必要なのです。」

“……うん。そうだね。タツミが頑張っているんだ。大人である私がこんな所でクヨクヨしている暇はない。……今はタツミのことを信じよう、ヒナ。”

「せ、先生……」

“ヒナ。私からすぐにアコやマコトに連絡を入れて、タツミに援軍を送ってもらうように頼んでみる。それに……ゲヘナとトリニティの混乱も収めないといけない。”

「はい、今はタツミの事を信じましょう。彼を信じて私達は私達のできることを。」

 

「ただし……タツミ。貴方は必ず生きて戻ると言ったのです。絶対に無事で居なければ許しませんからね……!」

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