転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

5 / 138
今更ですがこの小説にはオリジナル展開が多々含まれますのでご了承くださいませ。

評価、感想ありがとうございます!


狐坂ワカモと丹花タツミ

ーーードォォォォォン!!!ーーー

 

「クソが!生身の人間に戦車の主砲を撃つなボケェ!」

 

戦車から放たれ、高速でこちらへ飛来する砲弾。

俺様は飛来したそれをスライディングしながら物陰に飛び込んで回避する。

直後先ほどまで俺様が居た場所が爆発し、道路を木っ端微塵にし瓦礫の山へと変えていた。

 

“タツミ!”

「大丈夫だ先生!生きてますよ!」

 

そう言いつつ、俺様はブークリエをクルセイダー戦車へと向けて引き金を引く。

放たれた銃弾はクルセイダーに命中するが……

 

「クソ!装甲が硬すぎる!ショットガンじゃビクともしねぇ!」

 

トリニティ総合学園の制式戦車、クルセイダー1型。

巡航戦車であることからウチの虎丸とかよりは装甲が薄いはずだが、やはり俺様のショットガンでは戦車の前では豆鉄砲も同然のようだった。

それに何よりマズイのが、戦車の主砲の砲撃を喰らいでもしようものならひとたまりもないという事だ。

恐らくヘイローのある先輩方でも大怪我は必須だし、俺様が喰らおうものなら骨も残らない可能性がある。

胃から酸っぱいものがこみ上げるか、頬を手のひらで叩いて恐怖心を吹き飛ばす。

 

銃の弾丸であれば俺様の持っている盾でいくらでも防げるが、戦車の主砲はそうはいかない。

恐らく盾なんか木っ端微塵になっちまうだろうし、下手すりゃ貫通してそのまま俺様が死ぬ可能性すらある。

これはもう仕方ないので、戦車の主砲の攻撃は各自で避けるように動いてもらうしかないだろう。

とは言え、前衛を務めている以上は後ろに下がることは許されないことも事実だ。

敵は戦車だけじゃない。戦車の周りの不良どもの攻撃からも後衛を守る必要がある。

俺様は戦車の周りの不良の放つ弾丸を盾で弾き、後衛の射線の邪魔にならないように立ち回る。

 

「クルセイダー戦車の相手をしなければいけませんが……一体どうすれば……」

 

インカム越しから七神代行の苦しそうな声が聞こえる。

と言うか、そもそも戦車なんて生身で相手するモンじゃないだろ。いくら先輩方にヘイローがあるとは言えこっちには対戦車用の兵器なんて無いんだぞ。

せめて迫撃砲なり、航空支援なりがあればいいんだが……

 

「チィ!」

 

そんな事を考えた瞬間だった。

独特な機械音とともに、戦車の主砲が俺様たちへと向けられる。狙いは……守月先輩か!

 

“スズミ!戦車がキミを狙っている!避けるんだ!”

「はい!」

 

すかさず先生の指示が飛ぶ。

守月先輩は前転して身を隠していた遮蔽物から飛び出すと、弾幕をかいくぐって別の遮蔽物へ滑り込む。

 

ーーーズドォォォォォン!!!ーーー

 

その次の瞬間、さっきまで守月先輩が隠れていた遮蔽物が轟音とともに瓦礫へと変わる。

 

“スズミ!戦車の周りへ閃光弾を!”

「分かりました!閃光弾投擲!」

“ユウカ!電磁シールドを切らさないで!なるべく物陰から戦って!ハスミはクルセイダーへの牽制をお願い!”

「分かりました!」

「承知致しました。」

“タツミ!閃光弾を食らった子を制圧するんだ!”

「了解ッ!」

 

先生の指示が飛ぶ。

俺様は盾から身を乗り出すと、ブークリエを構え引き金を引く。フルオートで放たれた銃弾が不良どもにクリーンヒットし、バタバタと倒れていく。

戦車こそ撃破できないものの、戦車の周りに居る不良どもの数はもう指で数えられるほどになっていた。

 

“次弾来るよ!警戒して!”

 

そんなことをしているうちに、クルセイダーは装填を終えたらしく再び機械音を立てながら砲塔を回転させる。

次の狙いは……クソ!羽川先輩か!

 

“ハスミ!”

「……っ!」

 

チラリと後ろを確認すると、羽川先輩は不良に投げられた手榴弾を投げ返した直後だった。

そのせいで戦車の砲撃への反応が一瞬だけ遅れる。

考えるより先に体が動く。

 

「羽川先輩!」

 

俺様は盾をその場で投げ捨てると、羽川先輩へと向かって走り出す。その瞬間に戦車から爆発音が聞こえた。

なりふり構ってはいられない。

俺様は羽川先輩の体に手を回すと、そのまま彼女を地面へと押し倒して体の上下を入れ替えつつ倒れ込む。

背中に硬い感触がしたあと、俺様達の頭上を紙一重のタイミングで戦車の砲弾が通過し後方で爆発が起きた。

 

「羽川先輩!大丈夫ですか!?」

「……はっ!は、はい!大丈夫れすっ!」

“ハスミ!タツミ!大丈夫!?”

「大丈夫だ先生!俺様も羽川先輩も無事だぞ!」

“よ、良かった……”

 

インカムから先生の安堵する声が聞こえてくる。

 

「……ハスミさん、顔が真っ赤のようですが。」

「ふぇ!?だ、断じてそんなことはありませんっ!」

 

続いてインカムから何処か冷めたような火宮の声が聞こえると、羽川先輩は何やらワタワタと慌て始めた。

そう言われてみると、羽川先輩の顔が赤いような……?

 

……って、呑気に寝てる場合じゃない!

クルセイダーをなんとかしないと!

俺様は羽川先輩をそっと体の上からどかすと、そのまま遮蔽物を飛び出して投げ捨てた盾を拾い上げる。

 

「タツミさん!?」

「うぉぉぉぉっ!」

 

そして素早く盾を持ち上げると……そのまま盾を前に突き出し、クルセイダーへ向かって走り出した。

 

“タツミ!?”

「ちょ、何やってるのよ!?」

 

インカム越しから先生や早瀬先輩の焦った声が聞こえるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

クルセイダーの主砲は遠距離爆撃には適しているが、ゼロ距離への砲撃は不可能なはずだ。

つまりある程度離れたクルセイダーの射程距離よりはゼロ距離まで接近したほうが砲撃される危険はない。

それにこの手のデカブツは懐へ飛び込まれると対応に困るはずだ。

戦車の周囲の不良がほとんど倒れている今が、戦車へと接近する最大のチャンスだと俺様は見た。

俺様の独断で申し訳ないとは思いつつ、必死にクルセイダーの車体の元へと走る。

 

「撃て撃てぇ!」

「邪魔だ!どけ!」

 

そんな俺様を見て眼の前に居た不良は銃を向けてくるが、放たれた銃弾を盾で防御しつつ俺様はそのまま勢いに任せて盾を構え体当たりをぶつける。

 

「ガハッ!?」

 

走ってきたスピードと俺様の体重をモロに載せた盾の殴打を食らった不良は、そのまま後ろへと吹き飛ぶ。

 

「こっちだデカブツ!」

 

そのままクルセイダーの車体まで接近した俺様は、クルセイダーの車体を盾でぶん殴った。

ジーンとした痛みが肩から腕を通って全身に伝わる。

 

“タツミ!なんて無茶を……!”

「説教なら後だ先生!俺様がヘイトを稼ぐからその間にこいつをなんとかしてくれ!戦車を破壊できなくても中の操縦してる奴らを倒せたらなんとかなるはずだ!」

“……分かった!後でお説教だからね!”

 

どことなく怒気を孕んだ先生の声を聞いていた次の瞬間、クルセイダーに取り付けられていた機銃の部分から金属音が聞こえてくる。

恐らく弾が装填されているのだろう、俺様は近くにいる不良を盾で殴り付けると機銃との間に盾を割り込ませる。火薬の爆発する音と共に、盾に衝撃が走る。

 

「このやろ……うわぁ!?」

 

盾で機銃の攻撃を防いでいると、俺様の死角から銃を撃とうとして来た不良が狙撃を受けて倒れる。

チラリと後ろを見ると、羽川先輩がコッキングをして排莢を行っているのが見えた。

 

「カバーします、タツミさん!」

「ありがたいです!よろしく頼みます、羽川先輩!」

「タツミくん!怪我はないですか!?」

「大丈夫だ火宮!」

 

俺様がクルセイダーまで接近したことにより、心なしかクルセイダーの動きに焦りが見え始めた。

クルセイダーの周りに残った数少ない不良どもは先輩方の銃撃でバタバタと倒れていき、俺様はクルセイダーの足元をウロウロしつついつでも乗り込んで制圧出来るよう準備を……しようとした瞬間だった。

 

クルセイダーの側面をとったことにより、俺様の視界にシャーレの建物の入り口が目に入る。

そこには、先ほどまで俺様たちを攻撃してきていたこの騒動の首謀者である狐の面を被った女。狐坂ワカモの姿があったのだ。

彼女はシャーレの入り口のドアに手をかけていた。

 

「狐坂ワカモ……!?」

「……あら?」

 

全くの予想外の出来事に、俺様は思わず奴の名前を口走ってしまった。

その言葉を聞いた瞬間、狐坂はこちらを向く。

狐面ごしに奴と目が合う。

 

「あらあら……フフフ、見つかってしまいましたか。」

 

狐坂はよく通る声でそう言うと、シャーレの扉から手を離して銃を構えたかと思うとそのまま地面を蹴る。

そしてそのまま俺様へと接近してきて……っ!?

 

ーーーガァン!!!ーーー

 

咄嗟に構えた盾に狐坂の蹴りが突き刺さる。

どんな銃撃よりも激しい衝撃に俺様の体が揺れた。

 

「クソ……逃げたんじゃなかったのか!?」

「貴方達があちらに気を取られている間にお邪魔するつもりだったのですが……見つかってしまっては仕方がありませんもの。」

 

狐坂はそのまま少し後ろへ跳躍すると、手にした歩兵銃に弾を込めてコッキングする。

 

「狐坂ワカモ!?撤退したはずでは!?」

“タツミ!大丈夫!?”

「大丈夫だ!こいつは俺様に任せてくれ!先生達はクルセイダーを頼む!」

 

流石に俺様1人でクルセイダーと狐坂を同時に相手にするには命がいくつあっても足りないだろう。

すぐそばに居る以上横槍が入らないとも限らないが、今はこのイカれた女を何とかしなきゃならねぇ。

チラリと横目で先生達を確認すると、電磁シールドを展開した早瀬先輩がクルセイダーに肉薄しその後ろから守月先輩と羽川先輩が攻撃していた。

どうやら接近の足がかりにはなれたらしいな。

あとは戦車に乗り込んで中の乗組員を倒せればクルセイダーは無力化出来るはずだ。

クルセイダーや不良もそちらの対応で手一杯らしく、俺様と狐坂の周囲には誰も居なくなっていた。

 

「あら……私を無視して他の女性に夢中だなんて……フフフ、妬いてしまいますわよ?」

「狐坂……目的は何だ。」

「あらあら……つれないお人ですわね?」

 

狐坂は腕を組んでため息を吐く。

サラサラとした黒髪が風に乗ってゆらゆらと揺れる。

その姿は息を呑むほど綺麗で一瞬敵である事を忘れそうになるが、ブンブンと頭を振ってその思考を飛ばす。

 

「貴方に教えて差し上げる義理はありませんが……まぁ良いでしょう。実はこの建物に連邦生徒会が大事にしているものが運び込まれたとの情報を得ましたので、壊さないと気が済まない……と思いまして。」

「……は?」

 

なんだって?

……壊さないと気が済まないってなんだよ?

 

「あぁ……久しぶりのお楽しみになりそうです。ウフフフ♡」

 

そう言うと、狐坂は心底楽しそうに笑い始めた。

……もしかしてコイツ、俺様が想像してるよりもヤベーやつなんじゃないのか?

なんというか、流石矯正局に収容されてただけのことはある。それくらいヤバいオーラを感じる。

と言うか、コイツが壊そうとしているのってもしかしなくてもシッテムの箱だよな?

おいおい……壊されたらヤバいどころの話じゃないぞ。

最悪先生の手に渡らなくなってしまう可能性がある。

それだけは絶対に阻止しないといけない。

 

「悪いが、そいつを壊させるわけにはいかないんでな。お前はここで足止めさせてもらうぞ!」

 

俺様は一度深く深呼吸すると、ブークリエの照準を狐坂に合わせストックを肩に押し当ててそう叫んだ。

狐坂はその場に佇み、首を軽く傾げる。そして、俺様の事を狐面の後ろから見据えてくる。

 

「ウフフ……積極的な殿方は嫌いではありませんよ?」

「……そいつはどうも。」

「ですが、あまりがっつくのは減点ですね。女性をエスコートする際はもっと優しくしてくださらないと。」

「このっ……!おちょくってんのか……!」

 

狐坂は銃を肩に担ぐと、狐面の口元に手を当ててくすくすと笑いながらそんなことを口走った。

明らかに見下されている。

その事実に俺様は頭に血が上るのを感じるが相手はあの災厄の狐、狐坂ワカモだ。

悔しいが実力では狐坂の方が圧倒的に上だろう。

 

……だが、だからといってそれがここでこいつを野放しにする理由にはならない。なってたまるか。

シッテムの箱の事だけじゃない。コイツを放っておくとまたこんな事件を起こしやがる可能性だってある。

そう何度も街を瓦礫の山に変えさせる訳には行かない。

それに、何もタイマンでこいつに勝つ必要はない。

先生達がクルセイダーを片付けたら、恐らくこちらへ加勢に加わってくれるはずだ。

俺様はそれまで時間を稼ぐだけでいい。

 

それに確か、原作だとこいつは先生を見た瞬間に逃げ出していたような気がする。

何故かは諸説あるから分からないけど、恐らく一目惚れだろうと言う説が濃厚だったな。

でも待てよ。一目惚れだとしたら先生が女なのってマズイのでは?いや、世の中には女性同士で愛し合う人達もいるから否定するわけではないんだが……

……考えても仕方ない。いくら災厄の狐と言えど先生の指揮が加わった先輩方が一緒なら鎮圧できるだろう。

先生を見て逃げ出さないなら、皆で倒すまで。

俺様は思考を整理すると、盾を地面に叩きつけ構える。

 

どこまで食らいつけるかは分からない。

だが、やるしかない。俺様はブークリエを握りしめた。

嫌な汗が頬と背中を伝う。

 

“タツミ!絶対に無理はしないでね!クルセイダーを片付けたらすぐそっちへ向かうから!”

「了解!それまでは持ち堪えて見せますよ!」

 

インカム越しに焦ったような先生から通信が入る。

俺様は少しでも先生を安心させるために歯を出して笑うと、力強くそう宣言した。

 

「タツミさん、相手はあの災厄の狐です。くれぐれもお気をつけて。」

「分かりました、任せてくださいよ!」

 

続いて七神代行からの通信が入る。

口調は平坦だが節々に危機感と心配を感じる物だった。

俺様は心配をかけないように声を張り上げる。

そして通信が切れたところで、狐坂に向き合い口を開く。

 

「待たせたな……さてと、悪いがアレを壊されるわけには行かないんでね!」

「あら、その口ぶりですとソレがどんなものかご存じのようですわね?」

「さぁ、どうだろうな?」

「ウフフ……動揺しているのがバレバレですよ。」

 

そう言ってクスクスと笑う狐坂。

くそ、やりづれぇなこいつ!

相手の方が格上なのは百も承知だが、ここまで余裕をかまされると流石に腹が立つぜ……!

 

「ちなみに、教えていただくことは……?」

「出来るわけねぇだろ。」

「あら、私は目的を教えましたのに……でしたら、貴方の体に聞いてみるしか無さそうですわね。」

 

そう言うと、狐坂は歩兵銃をこちらへと向けてくる。

俺様はそれを確認すると、盾を前に突き出す。

 

「行きますよ、精々簡単に壊れないでくださいね?」

「上等だ、かかってこいや狐坂ワカモォ!」

 

本日2度目の戦いの火蓋が切って落とされる。

狐坂は素早く手にした歩兵銃を俺様に向けると、そのまま引き金を引いてきた。

俺様は構えた盾でそれを防ぎ、ブークリエの引き金を引くために顔を出す。

 

「っ!?」

 

考えるより先に体が動く。

俺様はズラした盾を無理やり引き寄せると、そのまま体を覆い隠すようにして構えた。

 

ーーーガァン!!!ーーー

 

急接近してきた狐坂の銃床の攻撃が盾に突き刺さる。

そのあまりの衝撃に俺様の体が一瞬浮き上がった。

 

「……っの野郎!」

 

そのまま後ろに倒れそうになるが、右足を地面に叩きつけて踏ん張るとその勢いのままブークリエを狐坂に向けて引き金を引く。

フルオートで発射された弾丸はそのまま狐坂へと向かっていくが、奴は跳躍してそれをかわす。

弾丸を全弾かわすって一体ナニモンだよ!?

 

跳躍して距離を取った狐坂から再度射撃が飛んでくる。

盾でそれを防ぐと、再度狐坂が接近してくる。

 

「クソァ!」

 

狐坂は地面を蹴り疾走しながら俺様に接近すると、その場で一回転して足を伸ばしてくる。バックキックだ。

俺様は盾を大きく掲げると、両手で盾の持ち手を持って振り被る。

盾と繰り出されたキックが衝突する。

 

「ぐっ……!?」

 

瞬間、両手に伝わるあまりにも強い衝撃。

さっきの蹴りよりも勢いが乗っているのもあるだろうが、1発目は手加減していたとしか思えないほど威力に差があったのだ。

俺様は必死で盾の持ち手を掴んでいたが、衝撃の大きさに耐えきれずに手から盾が弾け飛んだ。

弾け飛んだ盾は俺様の後ろへ吹っ飛ぶと、落下時に大きな金属音を立てて地面に転がる。

 

「ウフ……これで身を守るものはありませんわね?」

 

狐坂は盾とぶつかった場所を手でさすると、コッキングを終えた歩兵銃をこちらへ向けてそのまま間髪入れずに引き金を引いてくる。

俺様は死の危険を感じ取り、すぐさまなりふり構わず近くにあった大きめの瓦礫の影に飛び込んだ。

 

(クソ!強すぎんだろ!)

 

ぜぇぜぇと荒い息をしつつ、内心で舌打ちをする。

恐らく1発射撃をしてから近寄って格闘攻撃をして来ていたのは俺様の盾を無力化するためだったのだろう。

射撃を盾で防がせ、視界が塞がってる間に近寄って盾を弾き飛ばす……実に無駄のない戦術だ。

俺様にはヘイローがないから、盾がないと遮蔽物のない場所で銃弾を防ぐすべがない。つまり死に直結する。

そんな事を考えていると、俺様の隠れていた瓦礫が狐坂の射撃により破壊される。

俺様はその場から飛び起きると、狐坂に突きつけられた銃口が目に入る。

 

「逃げ回っているだけでは私を倒せませんよ?」

「んなこたぁ分かってるんだよ!」

 

突きつけられた銃口をブークリエの銃床で殴りつけ、無理やり銃弾の軌道を変える。

直後に火薬の爆発音が響き、俺様の顔の横を放たれた銃弾が通過した。

 

(今だッ!)

 

狐坂の銃はボルトアクション式の歩兵銃。一発撃ったあとはコッキングをして排莢しなければならないタイプの銃だ。つまり連射することは不可能ということ。

つまり今が攻撃を通す絶好のチャンスだ。

俺様はブークリエを狐坂に突きつけると、そのまま引き金を……引けなかった。

狐坂が更に距離を詰めてきたからだ。

更に近寄られたことによりブークリエの銃口がズレる。

 

「このっ……!」

 

このまま引き金を引いても無駄撃ちになる。

そう判断した俺様は、即座にブークリエのストック部分で狐坂を押し返そうと構える。

同時に狐坂も手にした歩兵銃を器用にもコッキングしながら構え、お互いの銃が激突した。

何度目かわからない衝撃がダイレクトに体に伝わる。

 

「あら……案外頑丈なのですね?」

「こちとら伊達にゲヘナで生き残っちゃいねぇよ!」

 

ギリギリと金属同士のこすれ合う音と共に、俺様は手にしたブークリエに力を込めつつ軽口を叩く。

狐坂は強い。それもめちゃくちゃ。

戦っていて感じるが、恐らくこいつはまだ本気を出していない。それどころか本気の半分を出しているのかすら怪しいときたもんだ。

こっちは必死こいて戦ってるってのによ……!

空崎委員長クラス……とまでは流石にいかないだろうけど、キヴォトスの中でもトップクラスなのは間違いないだろう。

 

「私の見立てではもっと早く壊れるかと思ったのですが……」

「生憎頑丈さには取り柄があんでね!」

「フフ、その貧弱な体でですか?」

「黙ってろイカれ女!」

 

俺様はそう叫ぶと、鍔迫り合いをしている銃器の下を縫って膝蹴りを繰り出し狐坂のみぞおちを狙う。

その狙いを察知したのか、狐坂は後ろに跳躍して距離を取ると俺様の膝は空を切った。

 

「本当に頑丈だと思ってんなら本気で来いよ!」

「ヘイローのない貴方に私の全力をぶつけたらぐちゃぐちゃになってしまいますもの。いくら私でも流石に人を肉片にする趣味はありませんので。」

 

俺様の頭上を見ながら狐坂はそう言った。

……悔しいがそれに関しては狐坂の言う通りでしかない。

俺様は奥歯を食いしばる。

ヘイローのあるキヴォトスの生徒と、ヘイローのない生身の人間である俺様の間にはどう逆立ちしても越えられない壁がある。

それでも俺様は頑張った。この世界で生き残るため。

そして何よりも【イブキを守る】ため。

 

時には不良と戦った。

時には風紀委員会と協力して美食研究会と戦った。

時には万魔殿の皆で温泉開発部と戦った。

空崎委員長や、銀鏡先輩に稽古をつけてもらった事もある。その度生傷を付けてイブキに泣かれ、火宮や棗先輩に呆れられたこともある。

そして……何故か羽沼議長からは褒められたことも。

けど、そうやって死への恐怖を必死に克服しながら少しづつ少しづつ俺様は戦えるようになっていった。

頑張ったんだ、死にかけながら。

頑張ったんだ、血反吐を吐きながら。

頑張ったんだ……頑張ったんだよ俺様は……!

銃弾1発で死にかねない貧弱な身体。

そう呼ばれて馬鹿にされたことなんて何度もある。

そしてそれは事実だ。

分かってる……分かっているけど……

 

目の前の相手に手を抜かれて、暗に【お前なんて全力出したら死ぬじゃん】なんて言われて……

俺様だって男だ。

ここまでコケにされて、黙っていられるか!

 

「ふざけんな!狐坂ワカモ!」

 

俺様は、狐坂を殺さんばかりに睨みつけて叫ぶ。

狐坂が俺様に言った言葉は、連邦生徒会を出る前や戦闘前に俺様にかけられた言葉とはわけが違う。

 

先生や先輩方は、ヘイローのない身である俺様の身を案じて純粋に心配をしてくれたんだ。

そして、心配しつつも俺様に前衛を任せてくれた。

気持ちはわかる。

俺様も逆の立場なら心配するだろうからな。

先生達を責めるつもりなんて微塵もねぇ。むしろ最終的には信頼してくれたんだ。礼を言うべきだろう。

 

「フフ、これでも私なりに心配しているのですよ?」

「……舐めんのも大概にしろよ。」

 

だが、狐坂が俺様に言った言葉は違う。

一見すると俺様を心配するような言葉に見えなくもないかもしれないが……違う。

お前など取るに足らない相手だと、そう言ってるんだ。

そもそも銃を撃って殺そうとしてきたくせに、心配だなんてどの口が言ってやがる。

 

「確かに俺様にはヘイローがない。それは紛れもない事実だ。」

「えぇ……最初は少し力を入れて差し上げれば簡単に壊れるかと思ったのですけれど。思ったより頑丈でしたので少し驚いてしまいましたわ。」

「……つまりアレは全力じゃないって事でいいんだな?」

「先ほども言いましたが、私の全力をぶつけては貴方が肉片になってしまいますから……とは言え、手加減したままだと貴方が思ったより頑丈なのでどうしたものか……」

 

恐らく狐坂としては、とっくに俺様を気絶でもさせてシャーレに突入していることを想定していたのだろう。

小首を傾げてそんな事を言っている。

 

「……安心しろよ、狐女。」

 

最初は先生達がクルセイダーを倒すまで時間を稼ぐだけのつもりだったが……すまんな先生。

もう、我慢できそうにねぇや。

 

「お前如きの全力で俺様が死ぬわけねぇだろ!」

 

目の前のこいつに本気を出させてやる。

勝てなくてもいい。ボロ雑巾にされてもいい。

あのクソムカつく狐面を剥ぎ取って素顔を拝んでやる。

俺様を舐めんなよ、狐坂ワカモ。

 

ブークリエのチャージングハンドルを引く。

チャンバーから飛び出した薬莢が地面へと転がる。

 

「俺様はお前如きの全力を受け止められないほど安い男じゃねぇぞ、狐女!」

「……!」

「肉片になるかもしれない?上等だ!こっちはもとより死を覚悟してこの場に立ってんだよ!」

 

感情が昂るのを感じる。

俺様は足をダンダンと鳴らし、声を張り上げる。

 

「壊せるもんなら壊してみろ!肉片にできるものならやってみろ!俺様はそう簡単には死なねぇ!」

 

これ以上コケにされてたまるか。

俺様だって、キヴォトス人とやり合えるんだよ……!

今言った言葉通りってこと、教えてやるよ。

 

「俺様は、お前の全力を受け止める!」 

「俺様は、お前に壊されるほどヤワな男じゃねぇ!」

「だから本気で来いよ、狐坂ワカモォ!」

 

喉が枯れるのもおかまいなしに、俺様はそう叫んだ。

 

「……フフ。」

「どうした?今さら怖気づいたか?」

「まさか。ただ……」

 

狐坂は手にした歩兵銃をゆっくりとこちらへと向ける。

……奴が纏う雰囲気が一気に変わった。

 

「連邦生徒会の大事な物を壊せたらいいと思っていましたが、もっと壊したいものができてしまったかもしれませんね♡」

 

その瞬間、俺様は明確に【死】を感じ取った。

背筋が寒くなり吐き気がこみ上げる。

だが、今はアドレナリンの方がそれを上回っていた。

戦意がとめどなくあふれ出てくる。

俺様はニヤリと笑うと、ブークリエを構える。

相手にとって不足はない。

それに、俺様は死ぬつもりなんて微塵もない。

戦って少しでも抗ってやる。

 

「あれだけ情熱的に求められたら、答えないと女が廃ると言うもの。ウフフ……死なないでくださいね♡」

 

狐面のせいで、狐坂の表情は分からない。

だが、心底愉快そうな口調で奴はそう言う。

 

「行くぞ!」

 

深く深呼吸をし、息を吐く。

そして俺様は地面を蹴り、狐坂に向かって走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからの狐坂との戦いは激しさを極めた物だった。

狐坂は殺す気でこちらへ向かって銃撃を放ち、俺様の骨や肉を砕く勢いで突きや蹴り等の格闘攻撃をしてくる。

俺様はそれら全てをその辺にある障害物等で受けたり避けたりしつつ、ひたすら狐坂と対峙し続ける。

 

ーーービュオン!ーーー

 

風切音と共に俺様の真横を狐坂の蹴りが通過する。

俺様は蹴りを避けると、ブークリエを彼女へと向けて引き金を引く。

……が、真横に飛んだ狐坂によって銃弾は全て避けられてしまった。

狐坂は少し距離を維持しつつ歩兵銃の銃口をこちらへ向けてくるが、俺様は咄嗟に頭を低くして弾を回避する。

そのままの姿勢で一回転し、狐坂の足を狙って蹴りを繰り出すがそれも防がれる。

 

「チィ!ショットガン全弾避けるとかどんな反射神経してんだよ……!」

 

肩で息をしつつ、俺様は苦笑いを浮かべた。

なんだろうな。手足は乳酸がパンパンに溜まって痛ぇし狐坂の攻撃は1発1発が命を奪いかねないものだ。

俺様は相当肉体的にも精神的にも疲弊しているはずだが何故か戦う気力だけは無限に湧いてくる。

もしかして戦闘狂の気があったりするのか?俺様って。

 

「ウフフ……さぁもっと……!?」

 

そんな事を考えていたときだった。

突然狐坂が銃を降ろし、その場から大きく跳躍する。

奴が伸びのいた次の瞬間、狐坂が先ほどまで立っていた場所に弾丸が突き刺さった。

これは……羽川先輩の狙撃か?突然のことに俺様の頭はスーッと冷静さを取り戻していく。

 

“タツミ!大丈夫!?”

 

すると、先生からインカム越しに通信が入ってくる。

後ろを振り向くと、そこには煙を吹いて戦闘不能になっているクルセイダー戦車をバックにこちらへと走ってくる先輩方の姿があった。

 

「タツミくん!」

「早瀬先輩!そっちはもう終わったんですね?」

「えぇ、今から加勢するわ!」

 

そう言うと、早瀬先輩は電磁シールドを展開して俺様を守るように前に立った。

今まで昂っていた気持ちが消えていくのを感じる。

そうだ、俺様の本来の目的は時間を稼ぐことだったな。

それが成功したんだ。

 

「災厄の狐相手に見事な立ち回りでした、あとは私たちにお任せください。」

「先生、ご指示を。」

“うん、みんな行くよ!”

 

守月先輩と羽川先輩も俺様の前へ出ると、狐坂へと向けて銃を構える。

その光景を見て俺様はハッとし、早瀬先輩と共に前衛を張るべく前に出ようとする。

 

「タツミくん、傷を見せてください!」

 

……が、それは救急バッグを持って駆け寄ってきた火宮が立ち塞がったことにより阻止された。

 

「どいてくれ火宮!狐坂と決着を……」

「何を言ってるんですかっ!そんなに傷だらけで!」

 

そう言って包帯を取り出しながら腕を掴んでくる火宮。

確かに前転したときとか、瓦礫に飛び込んだときとかに少し傷は負ってるけど大したことでは……

 

「心配している人の気持ちも考えてくださいっ!あなたが死んだらイブキちゃんはどうなるんですか!」

「……っ!そうだな、俺様が悪かった。すまん……」

 

半泣きになりながら、悲痛な表情でそう言う火宮を見て俺様は何も言えなくなり謝罪する。

確かに今回は俺様の個人的な意地で狐坂を煽って一歩間違えたら死んでいたかもしれないのは事実だ。

イブキの事が頭に浮かぶ。

……全く、こんなんじゃお兄ちゃん失格だな。

そう思った俺様は、観念してブークリエを降ろす。

 

「……興が冷めてしまいましたわね。」

 

消毒液の独特の香りと痛みを感じつつ、巻かれていく包帯を見つめていると狐坂がそう呟いた。

手にした歩兵銃を降ろし、腕を組んで佇んでいる。

 

「災厄の狐、狐坂ワカモ。あなたを拘束します。」

「これはこれは連邦生徒会の……」

 

後ろで先生を護衛していた七神代行が、所持しているマグナム型の大型拳銃を構えながらそう言った。

 

「……さすがに多勢に無勢、ですね。」

 

狐坂は煙を吹いているクルセイダーや地面に倒れて伸び切っている不良に目をやりつつ、首を振りながらそう言った。

 

「連邦生徒会の大切なものを破壊しようと思ってここへ来ましたが、今回は退くとしましょう。それに……」

 

狐坂は火宮に治療されている俺様に目を向けてきた。

狐面を被っているから表情は分からない。

だが、気のせいだろうか。とてつもなく背筋に寒気を感じるんだが……

 

「……フフ♡新しいお楽しみも見つけましたし、ね?」

 

いや、やっぱ気の所為じゃねぇなこれ!?

……おいやめろ火宮。そんな目で俺様を見るな。

 

「あっ、待ちなさい!」

 

そんな事を考えていると、狐坂は歩兵銃を肩に担ぎ直してからその場から大きく跳躍して距離を取った。

……どうでもいいけど、あの跳躍力人間辞めてるだろ。

 

「決着は次にお会いした時までお預け、と言うことで。それまで私以外の方に壊されないで下さいね?」

「……あぁ、当たり前だ。俺様は誰にも負けるつもりはない。もちろんお前にもな、狐坂。」

「ウフフ♡では、またお会いしましょう。」

 

そう言うと、狐坂は踵を返して走り始める。

 

「あっ、待ちなさい!……って逃げ足速っ!?」

 

早瀬先輩がサブマシンガンを構えて発砲しようとするが、それを超えるスピードで狐坂は走り抜けていきあっという間にコンクリートジャングルへと消えていった。

……やっぱキヴォトス人って人間やめてるんじゃね?

 

「あーもう!2度も逃げられるなんて!」

“アレは追いかけても追いつけなさそうだね……”

「オホン……紆余曲折はありましたが、なにはともあれシャーレの部室、奪還完了ですね。」

 

七神代行は拳銃をホルスターにしまいつつ、胸に手を当てて安心したようにそう呟いた。

そうだ、狐坂との戦いに集中しすぎて忘れていたけど今回の目的はシャーレの部室の奪還だったからな。

目的が無事に果たされ、俺様は安堵のため息を吐いた。

 

「……よし、終わりましたよ。タツミくん。」

「ありがとう火宮。助かったよ。」

「今回は切り傷や擦り傷だけでしたけど、次からくれぐれも無茶はしないように。良いですね?」

「うっ……はい、気をつけます。」

 

腰に手を当ててずいっと詰め寄ってくる火宮に対して、俺様は頭をかきながら謝罪した。

 

「では先生、建物の地下へ向かいましょう。」

“うん、分かったよリンちゃん。でもその前に……”

 

先生はそう言うと、満面の笑みを浮かべてこちらへと振り返ると俺様に視線をよこした。

そして、ツカツカと音を立てて俺様に歩み寄ってくる。

 

“タツミ、私の言いたいこと……分かるよね?”

 

……マズイ、目が全く笑っていない。

先程の狐坂とは全く違う威圧感に身の危険を感じ、俺様の背中から嫌な汗が吹き出す。

 

“タツミ、そこに正座。”

「いや、ちょっとまってくれ先生!危険なことをしたのは謝るが、あの状況じゃアレが最善だろ!?」

「タツミくん、早く正座してください。」

「火宮まで!?ちょ、ちょっとまってくれ!な?そもそも俺様は死ぬつもりなんて微塵もなかったって!」

“タツミ、正座。”

「わ、悪かったって先生!狐坂の件も俺様の個人的な意地だったことは認めるから……!」

「タツミさん、正座しましょうか。」

「羽川先輩!?ちょ、ほんとに許して……!」

“正座。”

「た、頼む許してくれ先生!あとここ道路なんだが!?せめてシャーレの中で……!」

“タ ツ ミ?”

「……はい。」

 

このあとめちゃくちゃ説教された。




プロローグに3話も使うってマジ?
筆が載っちゃいました、ゆるして…
次回からは時系列的にアビドス対策委員会編ですが、そんなにガッツリは絡まない予定です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。