タツミ達の運命は……
ーーードガァァァァァァァン!!!ーーー
「な、なんだ……!?」
突然遠方で爆撃音が鳴り響いたかと思うと、俺様達の正面のビルに撃ち込まれた迫撃砲だと思われる攻撃。
その攻撃を受けたビルは崩壊を初め、轟音と地響きとともにあっという間に瓦礫の山に変わった。
「タツミさん!お怪我は!?」
「大丈夫だワカモ。ピンピンしてるぞ。」
……まぁ、腹の中に弾丸はまだ残ってるけどな。
「……リーダー。ティーパーティーの傘下の砲撃部隊みたい。予想より早かった。」
「なんだって……!?」
いつの間にか錠前に近寄っていた戒野がそう言う。
錠前はその言葉を聞くと、ハッとしたような表情になり白州先輩から手を引っ込めてアサルトライフルを再度構えた。
「それに反対側からは50mm迫撃砲……風紀委員会の予備部隊かな。こっちも想像以上に早いね……ヒナを逃がしたのは痛手だったかもしれない。」
……なんてタイミングで砲撃して来るんだ。
「チィ……!」
……けど、恐らく風紀委員会やティーパーティーに悪意はまったくもってないはずなんだよな。
アリウススクワッドは客観的に見たら今回の事件を引き起こした犯人……攻撃されても仕方ない犯罪者ではある。
彼女達が被害者でもあるのはあの【目】があったから俺様には理解できただけで、それが分からなければ単なるイカれたテロリストでしかない。
それに、俺様はアリウススクワッドを止めるために1人残って先生や空崎委員長を逃がしている。
その後にワカモが援護に来てくれて一緒に戦ってくれたからこそ俺様はまだこうして立っていることが出来ているけど、あのまま1人で戦い続けていたらいつかは膝を付いて命を奪われていたかもしれない。
……そして、それを知る術は彼女達には無い。
優しい彼女たちの事だ。すぐさま出撃できる部隊を編成して、俺様の援護に来る可能性は充分考えられる。
クソ、確かにアリウススクワッドと未だに交戦しているのであればこの砲撃での支援は願ったり叶ったりだ。
けど、今まさに白州先輩と錠前が手を取り合おうとしていた状態では間が悪いとしか言いようがない……!
「……リーダー、どうする?」
「目の前には丹花タツミや災厄の狐……それに加えて風紀委員会やティーパーティーの部隊か。分が悪いとしか言えないだろうな。」
錠前はぐるりと周りを見渡すと、苦しげな表情を浮かべてそう吐き捨てる。
そして、秤を守る様にその周りをぐるりと取り囲んだ。
「サオリ……!」
「危うく戯言に惑わされてお前の手を取るところだったが……そういう意味では風紀委員会やティーパーティーには感謝しなければならないな。」
そう言って、錠前は白州先輩を睨みつける。
クソ、仕方ないとは言えあまりにも間が悪すぎる……!
「vanitasvanitatumetomniavanitas。全ては虚しい。そう、何もかも最後には無意味。まずはお前のいた場所からだ、アズサ。お前が少しでも身を置いていた場所……木の一本、枝の一本すら残さず消し去ってやる。」
「……そんなこと俺様がさせると思うのかよ?」
こうなってしまっては……もう実力行使しかない。
俺様は盾とブークリエを構えると、錠前を睨み付けた。
「……何が目的だ?サオリ。」
「いいだろう。何が起きているか教えてやろう。」
白州先輩は再度手にしたアサルトライフルを錠前に向けると、錠前を鋭い目で睨みつける。
錠前はその目を見て鼻で笑うと、やがて口を開いた。
「私達はエデン条約を奪い去った。」
「……」
「条約が締結される古聖堂に巡航ミサイルをねじ込み、邪魔者達を片付けた。そして我々が条約の内容を捻じ曲げたのさ。」
「……は?」
……何を言っているんだ?
「理解できない、と言う顔だな?」
「当たり前だろ。逆に今ので理解出来ると思うのか?」
「……私達にはトリニティとしての資格がある。」
錠前の言葉を補足するように戒野が説明を始めた。
「この条約は第一回公会議の再現。あの時まではそれぞれの派閥が権力を持っていたけど……第一回公会議でそれが一つになってトリニティとなった。私達、アリウスを除いてはね。だから私達は何も変わってない。形式としては権限を持ってる。」
戒野は続ける。
「トリニティとゲヘナの間で紛争が起きた時、エデン条約機構がそこに介入して紛争を解決する……これがエデン条約。ただそこに、エデン条約機構はアリウススクワッドが担うと書き加えた。それだけ。」
「そ、それだけでは対して意味がないように思えますが戒律は本物なので、複製【ミメシス】出来れば……」
……複製だと?
「ユスティナ聖徒会。戒律の守護者にして、トリニティの伝統的な武力集団だ。まぁ正確にはその複製だが、戒律を守護する存在だ。すなわち、私達エデン条約機構を助ける存在と言うことになる。」
……そういうことかよ。
「トリニティとゲヘナの敵対行為は神聖なる戒律への違反行為。つまり紛争の原因であり鎮圧対象だ。」
なるほど、ようやく合点が行った。
つまり早い話があの青白い肌のシスター達はアリウススクワッドの味方であり、トリニティとゲヘナの生徒に敵対する存在だということ。
そして恐らく、鎮圧対象はゲヘナとトリニティのみのため百鬼夜行所属のワカモには反応しなかったこと。
そして何より、こいつらの本来の目的。
それは恐らくゲヘナやトリニティへの復讐も含まれていることは間違いない。けど、真の狙いは……
「……ようやく理解した。この襲撃は単に各学園の首脳部を狙ったものでもなければ、事態を混乱させるのが目的でもない。エデン条約の書き換え、それによってあの不思議な兵力を確保することが狙いだったのか……」
そう、アリウススクワッドの本来の目的。
それは単なるエデン条約の破壊ではなく、ユスティナ聖徒会と言う兵力の確保が目的だったと言うこと。
そして恐らくそれは……彼女達を後ろで操っている、悪い大人の指示によって行われたことだろう。
ユスティナ聖徒会のシスター達は戦ってて思ったけど全く手応えがないし、触れて無力化こそ出来るものの何処からともなく湧いてきてキリが無かった覚えがある。
そいつらを使って何をするつもりなのかは分からねぇけど、いずれにせよこのままではマズいことは確かだ。
「アズサ。お前の裏切りによって多少計画にズレは生じたが……まぁ誤差の範疇だ。本来ならこの場に来るのはミカだと読んでいたのだが……あのバカはもう使えないからな。となると危険分子はナギサだったが……幸いにも何の疑いも無く調印式に参加した。シスターフッドまで処理できたのは、まぁ予想外の成果だったが……」
錠前はそこまで言うと、一旦言葉を区切る。
そして、再度口を開いた。
「以上が私達の目的だ。理解したか?」
「……あぁ。」
なるほど、よく分かった。嫌ってほど理解したよ。
そんな心底どうでも良くて、くだらないことのために調印式の会場に巡航ミサイルを撃ち込んでたくさんの人を傷つけたってことをな……!
こんなことをして何が目的なのかは知らねぇが……
絶対に……絶対に許さねぇぞ……!
「フン……それは何よりだ。そして、私達は今から殲滅戦を開始する。我々を苦痛に追いやった、憎きトリニティとゲヘナに……!」
錠前は俺様を睨みつけると、憎悪の籠もった口調でそう言い切る。
「……リーダー。そう行きたいけどゲヘナとトリニティの野営地から制圧戦用の戦車が発進したのを確認した。もうすぐ両学園の制式戦車部隊がここを通る。」
「そ、それに古聖堂の外に待機していたゲヘナとティーパーティーの予備兵力も動き出してます!」
俺様と錠前がお互いに睨み合っていると、錠前の後ろで秤を庇うように立っていた戒野と槌永から焦ったような報告が聞こえてきた。
恐らく、いくらユスティナ聖徒会がアリウススクワッドの味方をするとは言え流石にゲヘナとトリニティの戦闘部隊を相手にするのは分が悪いのだろう。
連中の表情には明確な焦りが見える。
……確か、古聖堂の外には確か風紀委員会の天雨行政官や銀鏡先輩も待機していたはずだ。
なら空崎委員長が重傷な今、天雨行政官が代わりに指揮を執って風紀委員会の部隊を編成してこちらへ向かってきている……と言う可能性が一番高いと言えるだろう。
古聖堂の外はミサイルの爆心地の外側だから、比較的動ける状態の生徒も多いと思われる。
それにゲヘナの制式戦車部隊と言えば、超無敵徹甲虎丸を初めとした棗先輩が率いる万魔殿の戦車部隊のことで間違いないだろう。
ウチの戦車部隊と風紀委員会が一緒に進軍してるのは少し不思議な光景だけど、流石にこの状況で万魔殿と風紀委員会で内輪揉めをしている場合ではないからな……
とにかくゲヘナ側の戦力は大体把握できた。
問題はトリニティ側の兵力だが……こちらも迫撃砲を運用できるくらいの戦力が残っているならそれなりの規模の部隊だと見て良いだろう。
それにトリニティの制式戦車部隊……クルセイダーの部隊も編成して運用できるなら、その規模は恐らくゲヘナに負けずとも劣らないくらいの大きさのはずだ。
それに羽川先輩や剣先委員長は若葉先輩が救出して救護騎士団へ運んでいるはずだ。
その辺りが早期復帰できているなら、戦力としては申し分ないだろう。
これだけの戦力があれば、いくら相手にユスティナ聖徒会が居るとは言えいい勝負は出来るはずだ。
……問題があるとすれば、この混乱した状況でゲヘナとトリニティがきちんと手を取り合ってアリウスのみを攻撃対象にできるかどうかと言ったところだろうか。
「そうか。なら、ここまで来たのなら連中に挨拶でもしてやろう……と言いたいところだが……」
「……うん。姫が怪我をしたせいでユスティナの顕現に陰りが見えている。今は姫の体力の回復に努めよう。」
「……そうだな。悔しいが一旦引く必要があるか。」
「幸いまだ戒律の更新はギリギリ必要なさそう。すぐに離脱しよう、リーダー。」
「くっ……仕方ない。」
錠前の顔が苦しげに歪む。
「……まぁいい。ユスティナ聖徒会は確保できた。目的を果たした以上はここでこいつらと戦闘してこれ以上姫が消耗するのは避けたい。ここは一旦退いて地下通路からトリニティの背後へ回り込むぞ。そこから姫の回復を待ってトリニティを崩し、その後にゲヘナを攻める。」
「……分かった。この状況じゃそれが最善だろうね。」
錠前と戒野はそう会話を交わすと、それぞれ手にした武器を俺様達と白州先輩に向けて構えてくる。
何故秤が怪我をするとユスティナ聖徒会の顕現に陰りが見えるのかは分からないけど、ともかく手負いのアリウススクワッドをここで逃がすわけには行かない……!
そう思い、俺様がブークリエの引き金に手をかけた……
ーーードガァァァァァァァン!!!ーーー
瞬間だった。
アリウススクワッドの少し後方に、迫撃砲が着弾して爆音と地響きとともに地面を大きく抉り取る。
先ほどまで道路だったものが瓦礫に姿を変えて爆風と共に散乱し、着弾地点から大きく黒煙と土煙が巻き上がり辺り一面を包み込んでいく。
「くっ……!」
この攻撃が風紀委員会の50mm迫撃砲か、ティーパーティーの砲撃部隊の攻撃かは定かではないけどこんなにバンバン爆撃してくるのは聞いてないぞ……!
着弾地点は全てアリウススクワッドの周辺だから、恐らくちゃんと弾道計算はしているはず。
なので、俺様達に当たる心配は無いと思うが……
「今だ!この煙に紛れて撤退するぞ!」
「わ、分かりましたぁ!!」
「了解。姫、肩を貸すよ。」
「……」
俺様がそんな事を考えていると、錠前の叫び声がその場に響いた。
そしてその指示を受けたアリウススクワッドは、黒煙と土煙に紛れて一目散に撤退を開始する。
クソ、普通ならありがたいはずの砲撃支援が今はアリウススクワッドが逃げるための煙幕として機能しちまってるのは最悪としか言いようがない……!
「……っ!待て、サオリッ!!!」
内心で舌打ちをしていると、アサルトライフルを構えながらそう叫んだ白州先輩が黒煙の中へ突入して行く。
「ここまで来て逃がすかよ……!」
ともかく、ここでアリウススクワッドを逃がすわけには行かない……!
そう思った俺様は、白州先輩の後を追うためにすぐさま地面を蹴ろうとするが……
「……ぐぅっ!?」
地面に足を踏み込んだ瞬間、スナイパーライフルの銃弾が直撃した右の脇腹に激痛が走った。
そのあまりの痛みに俺様は思わず地面に膝を付く。
そして、思わず応急処置をした患部を手の平で抑えた。
「タツミさんっ!」
「タツミ!?」
そんな俺様を見て、ワカモと白州先輩が叫ぶ。
そう遠くない距離にいたワカモは血相を変えながら俺様に駆け寄って来ると両膝を地面につき、倒れ込みそうになる俺様の肩に手を当てる。
「無理をなさらないでください!」
そう言って俺様の腕を自分の肩に回してくれるワカモ。
彼女の体温が伝わってくる。
「……すまんワカモ。」
「……いえ、お礼には及びませんわよタツミさん。」
俺様は力なくワカモにそう言うと、ワカモはさも当然かのようにそう言ってのけた。
クソ……それにしても、まさか自分でもここまで体力を消耗しているとは思わなかった……!
思えば飛行船からパラシュートで飛び降りてからはずっと走り回って戦闘を続けていたから、俺様の身体はとっくに限界を迎えていたのかもしれない。
ユスティナ聖徒会に加えて、アリウススクワッドとも連戦に次ぐ連戦だったしな……
踏ん張って立ち上がろうにも足に力が入らない、激痛の走った脇腹はジンジンとした痛みがどんどん強くなる。
(けど……!)
……それでも、アリウススクワッドをここで逃がすわけには行かないんだ。
「……タツミ。私はサオリ達を追う。」
俺様が痛みに耐えながら患部を手で押さえていると、白州先輩が静かにそう言った。
……待て、まさか1人で行くつもりか!?
「ま、待ってください白州先輩……!危険すぎます……!」
「タツミ。私は元々ここへはサオリ達を止めるために来たんだ。元は私もサオリと同じアリウスに居た。なら、この件に関しての責任は取らないといけない。」
「そんなの、白州先輩が負う必要は……!」
「あぁ、ないかもしれない。けど、それでは私が納得出来ないんだ。」
白州先輩は決意の籠もった目を俺様へ向けてくる。
「……正義実現委員会、ティーパーティー、シスターフッド、ゲヘナの人達。それに何よりタツミだって。セイアが昏睡状態になったのも、学園がここまで破壊されたのも……全部私のせいだ。このままだとみんなまで危険になってしまう。」
……百合園先輩が昏睡状態なのは初めて知ったけど、今はそんな事はどうでもいい。
「学園が破壊されたりみんなを傷つけたのは白州先輩のせいじゃない!アリウススクワッドの、ひいてはその後ろにいる悪意のある大人のせいだ!」
「……ありがとう、そう言ってくれて。」
白州先輩はそう言って笑顔を見せると、手にしていたガスマスクを装着した。
「私には守りたいものがある。ヒフミ、ハナコ、コハル、先生……何より大切な補習授業部の仲間達。彼女達を守るためなら……私は何だって出来る。タツミ、お前の言う通りだ。私が例え虚しくても最後まで足掻くのは大切なものを守るためだから。」
「だけど、それでも一人で行く必要は……!」
「それに……これは、サオリ達に対する私からのけじめでもある。」
真剣な声色でそう言う白州先輩。
「それに、タツミは1人で残って先生やゲヘナの風紀委員長を守るためにサオリ達と戦ってくれた。……なら、今度は私の番だ。」
「あれは状況が状況だから仕方なかったじゃないですか!今はそうじゃないでしょう!?」
「何も変わらないよ。誰かが彼女達を止めないと……これ以上全てを奪われるわけには行かない。」
「それはそうかもしれませんが……!」
「……私のやろうとしていることはタツミがやったことと変わらない。1人でアリウススクワッドへ立ち向かう。状況は違うけど、行動だけ見たら同じことだ。」
「そ、それは……!」
「……ともかく、私はサオリ達を追う。彼女達を追って、アリウススクワッドを止めてみせる。」
白州先輩はそう言うと、アサルトライフルをその場で構え直しながら踵を返す。
「災厄の狐。」
「……なんですか?」
「……タツミの事を頼む。」
「えぇ、貴方に言われなくても。」
「……そうか、ありがとう。」
「ま、待ってください白州先輩……!」
そして白州先輩はワカモとそうやり取りをすると、そのまま走り出して黒煙の中へと消えていった。
「クソ……!ワカモ、俺様は大丈夫だ!それよりも早く白州先輩を追わないと……!」
俺様はワカモの肩を借りつつ最後の力を振り絞って立ち上がると、震える体を無理やり動かしてヨロヨロと足を一歩踏み出す。
「な、何を仰っているのですかタツミさん!?そのような立つのすらやっとの体で彼女を追えるわけが無いでしょう!?」
しかしそんな俺様を見てワカモはそう叫ぶと、慌てたような様子で肩を掴んでくる。
「離してくれワカモ!」
「嫌です!離しません!そもそもそんなボロボロの体を引きずって行ったところで何が出来るというのです!?彼女の邪魔にしかなりませんし、何よりアリウススクワッドには傷すら付けられずに今度こそ殺されてしまいますよ!?」
「そんなのは分かってるよ!でも、白州先輩を1人で戦わせるわけにはいかないだろ!?」
いくら白州先輩が元アリウスで戦闘技能に精通しているとは言え、相手はアリウススクワッドとユスティナ聖徒会なんだぞ……!
流石に多勢に無勢も良いところだろうが……!
それに……アリウススクワッド。
あいつらを野放しにしてしまったら、またいつテロ行為を仕掛けてくるかわかったもんじゃないんだ。
アリウススクワッドは悪い大人に操られているとは言え紛れもないテロリストであることに変わりはない。
すぐに追いかけてでも無力化しねぇと、また連中のせいで被害者が出てしまう可能性が高い。
それだけは……それだけはダメだ。
それだけはなんとしても阻止しないとダメなんだ!
もうこれ以上、悲しんだり傷ついたりする人を増やすわけには行かないんだ!
「……それはそうかもしれませんが、現実問題としてその体でどうやって彼女達を追うのですか?タツミさんは私に肩を借りないと立てないほどに消耗されているのですよ?その状態で彼女達を追えるとお思いなので?」
「そ、それは……!」
……確かに、それはワカモの言う通りだ。
今の俺様はボロボロだ。それこそ誰かの手を借りないと自分で立つことも出来ないほどには消耗している。
こんな状況でアリウススクワッドを追ったところで追いつけるわけがないし、仮に追いつけたとしてもこんな体では秒で地面に転がされることは間違いないだろう。
そして、そんな事をしたら結果的には白州先輩の邪魔にしかならないのは確かなわけで……
「クソッ……!!!」
あれだけデカい口を叩いておきながら、今の俺様はフラフラでマトモに歩くことすら出来ない。
悔しい、情けない、何をやってるんだ俺様は。
自分の無力さに頭がどうにかなってしまいそうだ……!
「タツミさん。私は先ほど申し上げましたよね?私はここで貴方を失いたくない……と。」
「……あぁ、聞いた。」
「その気持ちは今のタツミさんの姿を見てさらに強まりました。例え貴方が体を引きずってでも白州アズサやアリウススクワッドを追おうとするなら、私は貴方に何と言われようがそれを止めて差し上げます。」
ワカモは真剣な声色でそう言うと、俺様の眼の前までやってきて両肩を掴んでくる。
「そして、もしタツミさんがそれでも言っても聞かない分からず屋なのであればこのワカモが貴方を力付くでも止めてみせますわ。」
「お前……なんでそこまで……」
「……もっと自分自身を大切になさい、タツミさん。貴方の妹さんが悲しみますわよ?」
「……っ!」
ワカモにそう言われ、イブキの事が脳内によぎる。
……そうだな、イブキを悲しませるわけには行かない。
「……すまん。」
「ふふ、分かってくだされば良いのです。」
そう言って、ワカモは再びフラフラの俺様の腕を自分の肩に回してきた。俺様は彼女達の肩を借りてなんとかバランスを保ちつつその場で足を踏ん張る。
「……しかし事あるごとに俺様の命を狙うお前がそれを言うのか?ワカモ。」
「あら、貴方を壊すのは私なのですよ?それまでは貴方に勝手に壊れて頂くわけには参りませんので♡」
「……ま、そんな事だろうとは思ったけどよ。」
狐面に手を当ててくすくすと笑うワカモ。
なんか、もうこいつのブレなさには安心感すら感じる。
「……けど、それはそれとして白州先輩を1人で戦わせるわけには行かない。」
「……そうですわね。」
俺様はワカモの肩を借りつつ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらそう言った。
とりあえず今俺様が行っても役に立つどころか邪魔にしかならないのは確かだけど、だからと言って白州先輩を1人で戦わせていいということにはならない。
何か早急に手を打つ必要があるだろう。
そもそも、何故白州先輩は1人でここに来たんだ?
調印式の当日……つまり今日は補習授業部の皆と一緒に過ごすって祝勝会の時に言っていたのを覚えてるから、何か理由があって単独行動をしているんだろうけど……
……先生なら何か知っているか?
「ぅぐ……!」
そんな考えが頭の中をぐるぐると駆け巡って行くが、俺様はそれと同時に脇腹に鋭い痛みを感じてうめき声を上げた。
「……ともかく、まずは治療を受けられる場所へ行きましょうタツミさん。その弾丸を摘出してもらわなければなりません。白州アズサの事を考えるのはそれからでも遅くないのではなくて?」
「け、けどよ……!」
「大丈夫です。白州アズサは私が見たところ、ゲリラ戦に特化したエキスパートです。確かに正面からの戦闘ではアリウススクワッドに勝てないでしょうが、ゲリラ戦であれば互角以上に戦えると思いますわ。」
ワカモはサラッとそう言ってのける。
確かに白州先輩は戦闘経験が豊富だなぁとは感じていたけど……まさかワカモほどの実力者がそこまで評価する程だとは思わなかった。
……なら、彼女を信じるべきだろう。
今の俺様が無理やりこの体で援護へ行ったところで白州先輩の邪魔にしかならないのは確かだ。
そうと決まれば今は一刻も早くこの腹の弾丸を取り出してもらって、サッサと傷を直して再び戦場に出ることを考える事にする。
そして、先生や補習授業部のみんなに白州先輩の事を伝えなければならない。
「近くまでは送りますわよ、タツミさん。」
「……助かる。恩に着るぜワカモ。」
「ウフフ♡今回でタツミさんにはたくさんの貸しが出来てしまいましたね♡」
「……そうだな。お前には感謝しても仕切れないよ。」
「まぁ、タツミさんが素直に私にお礼を……♡」
「……なんだよ、悪いかよ。」
「ふふ……いいえ♡」
仮面の下から熱を帯びた声を出しながら、体をわずかにくねくねと動かすワカモ。
……ほんとにこいつはブレないよな。
「あぁ、今から何をしてもらうか考えるだけでも体が疼いてしまいますね……♡」
「……頼むから俺様でも出来る範疇の事で頼むぞ?もうこの際決闘になら幾らでも付き合ってやるけどよ。」
「一緒にお料理?それとも一緒にお買い物……それとも一晩一つ屋根の下で過ごして添い寝なども……ウフフ♡」
「おい話聞いてるかお前?俺様の出来る範疇でっつったよな?」
ってか料理や買い物はともかく、添い寝って何だよ!?
なんでテロリストとそんな事をしないといけないんだ。
……と言うか、今の今までアリウススクワッドと対峙してて気にする余裕無かったけどよく考えたら俺様ってこいつと……き、キスしたんだよな……
ふと、ワカモの横顔を見る。
狐面に隠れて表情は全く伺うことは出来ないが、サラサラの黒髪から甘い香りが漂ってくる。
「……っ!」
いや、何を意識してるんだ俺様は!?
こいつはテロリスト……災厄の狐なんて言う二つ名まで付けられるほどの大量破壊犯なんだぞ!?
そりゃ確かに俺様の事を叱ってでも心配してくれたのはいくらこいつとは言えちょっとだけ、ほんのちょっとだけは嬉しかったけどよ。
それに仮面を外して涙を流す彼女は不覚にも綺麗だって思っちまったし、無理やりキスされた時だってこいつの意外に童顔な顔とか柔らかい感触とか……
(だぁぁぁっ!!!)
と、ともかく!あんなのはノーカンだ!
あんなの、100%こいつが無理やりやって来ただけの事!
そもそもこいつは敵なんだぞ!?
それに、俺様の前世を含めての初めてのキスがあんなものであってたまるか!ファーストキスってのはもっとこう……ロマンチックであるべきなんだよ!
それを何が悲しくて戦闘中に大量破壊が趣味のテロリストなんぞに奪われないと行けないんだ……!
それと、そもそもそういう意味なら俺様は幼少期に何度かイブキと親愛のキスをしてるからな!
まぁもちろん邪な気持ちなんて1ミリもないし、そもそもして来たのはイブキからだった。
まぁとは言え、ほんとに小さい頃の話だから子どものおふざけで済む程度の話だろう。
けど、残念だったなワカモ!
俺様のファーストキスは既にイブキのものだったんだ!
決してお前のものではない!ハーッハッハッハッハ!!
ま、まぁいい匂いしたし柔らかかったし不思議と悪い気はしなかったけど……それたけだ!それだけだからな!?
勘違いすんじゃねぇぞワカモ!あれはノーカンだ!
本当の意味でのファーストキスが欲しいなら、俺様をお前に惚れさせてからにするんだな!
ま、俺様はイブキ一筋からそれは無理な話だがよ!
「……ん?どうかしましたか?タツミさん。」
「い、いや。別に何でもない。」
そんな事を考えていると、横顔を凝視していることがワカモにバレたらしく首を傾げてそんな事を言ってくる。
……まずい、何か話題を振らなければ。
「……そういやワカモ。お前は普段から俺様を壊す壊すって散々言ってるよな。」
「えぇもちろん。何せ、それが今の私の一番の目的と言っても過言ではありませんからね♡」
「……なら、今なら簡単に壊せるぞ?俺様は見ての通り手負いだ。お前がその銃の引き金を引けば俺様はあっという間にあの世行きなわけだが。」
「あら……私、前にも言いましたわよね?」
傷口を抑える俺様に対して、ワカモは首を傾げながら口を開いた。
「私が望んでいるのは万全の状態の貴方との死合。私と貴方の全てをぶつけ合って、その上で貴方に膝を付かせたいのです。無防備な貴方を壊したところで、何も面白くはありませんからね。」
……そう言えば、こいつはこういう奴だったな。
「それに、その傷は貴方が私を庇って出来たものなのですよ?そこに付け込むような真似を私がするはずがないのはタツミさんならよく理解しているのではなくて?」
……そうだな。ワカモはテロリストのくせして、変なところで律儀な部分がある。
決して自分を助けてくれた相手に恩を仇で返すようなやつでは無いと言うことは理解しているつもりだ。
聞くだけ野暮だったみたいだな。
「……やっぱ、お前ってイカれてるよな。」
「それは褒め言葉として受け取っておきますね?♡」
「はぁ!?どう考えても嫌味だわバカタレ!」
「ウフフ♡照れなくてもいいのですよ?♡」
「誰が照れるかアホ!呆れてんだよ!」
普段ならムカついて仕方のないこのやり取りも……不思議と、この時だけは嫌な気分はしない。
そして俺様はワカモとギャーギャーそんなやり取りをしながら、彼女の肩を借りて歩き出すのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「砲撃班の話によれば、タツミの姿をこの辺りで捕捉したので援護のために砲撃を行ったとの事でしたが……」
「……見事に瓦礫の山ですね。行政官、本当にタツミには当ててないんでしょうね?」
「はぁ!?当たり前じゃないですかっ!ウチの砲撃班は優秀なんですよ!?間違ってもタツミに当てることなんてあり得ませんっ!それに一発目はトリニティの砲撃で、ウチの砲撃は2発目からです!トリニティこそ、タツミに当ててないか心配なくらいです!まぁ現地にはトリニティの生徒もいたそうなので大丈夫だとは思いますが。」
「……そうですか。なら良いですけど。」
「くっ、早くタツミの捜索をしなければ!彼に何かあったら私は……私は……!」
「……何を言っているんですかアコ行政官。タツミがこの程度でやられるわけがないでしょう。」
「何を呑気なことを……!先生の話によれば、タツミは委員長と先生を逃がすために殿になっているんですよ!?無事である保証なんて何処にも……!」
「大丈夫です。何度も言いますけどタツミはこの程度ではやられません。」
「っ!!!万魔殿の戦車長!貴方は何故そんなに冷静なんですかっ!?何故そんなにも淡々として居るんですかっ!?タツミのことが心配ではないのですかっ!?」
「……貴方だけがタツミの心配をしていると思わないでいただけますか行政官?私だって万魔殿の皆さんだって大切な後輩が危険に晒されているんですよ?胸が張り裂けそうに決まっているじゃないですか。」
「なら、何故そんなにも……!」
「……私達は彼を信じていますので。そうです。信じて送り出したんですから……無事で居ないと承知しません。」
「っ!貴方、涙が……」
「……タツミの捜索を急ぎますよ、行政官。」
「……そうですね。」
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『……っ!サツキ先輩!タツミくんを発見しました!』
「分かったわ!すぐに保護してちょうだい!」
「はい!」
「チアキ先輩!お兄ちゃんは無事なの!?」
『うん、大丈夫だよイブキちゃん!見た感じ誰かの肩を借りながら歩いているみたいだけど、ちゃんと歩けてるみたいだから……えっ!?』
「なに!?ど、どうしたのチアキ!?」
『う、うそでしょ……?』
「チアキ先輩……?」
『……サツキ先輩。すぐに救急医学部のセナ部長に連絡してください!早くっ!』
「え!?ど、どうしたのよチアキ!?」
『タツミくんが……お腹に怪我をしていますっ!』
「なんですって……!?」
「そんな……お兄ちゃんっ!」
『それに一緒に居るのは災厄の狐……!?なんで彼女がこんなところに……!?』
「さ、災厄の狐……!?なんでテロリストが……!」
『とにかく私はすぐタツミくんを保護します!可能ならこっちに戦力を回してください!場合によっては災厄の狐との戦闘も辞しませんっ!』
「分かった!すぐに部隊を回すわ!」
「お兄ちゃん……!お願い……無事で居て……!」
「くっ!こんな時にマコトちゃんがいてくれたら……!」
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「先生ッ!タツミの様態は!?」
“お腹に大きな傷ができているらしい!負傷の度合いからしてスナイパーライフルに撃たれたのかもって……!”
「スナイパーライフル!?そんな大口径弾を受けてはタツミの体では内臓が破損しているかもしれません!」
“そ、そんな……!”
「先生!私はすぐに緊急手術の準備をします!タツミが来たらすぐに手術室へ運び込んでください!」
“わ、分かった!”
「タツミ……!必ず無事に帰ると言ったでしょう……!途中で死んだら承知しませんからね……!」
“セナ……”
「許しません……!許しませんよアリウス……!」
“(……アリウススクワッドも私の守るべき大切な生徒だ。けど……君たちの犯した罪とは、きちんと向き合ってもらうからね?)”
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「おい!落ち着けハスミ!」
「離してくださいツルギッ!よくもタツミさんを……!絶対に……絶対に許しませんよアリウスッ!」
「だから落ち着け!お前1人で飛び出していったところで何になるんだ!」
「貴方はタツミさんが心配ではないのですかツルギ!」
「心配に決まってるだろう!」
「……っ!」
「私とてタツミには世話になった。アリウスに対して何も思わないわけがない!同じ気持ちなのはお前だけじゃないんだハスミ。イチカも、マシロも、先生も、ゲヘナの人達だってきっと同じ気持ちだろう。」
「……そうですね。危うく自分を見失うところでした。」
「あぁ……すぐにでも飛び出していきたいのは山々だがまずは傷が塞がってからだ。その後は……」
「えぇ。アリウスに制裁を。」
「あぁ……私の親友の想い人を傷つけた罪は重い。必ず奴らには代償を支払わせてやる……!」
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「タツミさん……どうかご無事で……」
「私があの時、タツミさんを引き止めていたらこんなことにはならなかったのでしょうか……」
「……いえ、ヒナタさんの責任ではありませんよ。」
「マリーさん……」
「……今は祈りましょう、ヒナタさん。タツミさんのために。」
「……そうですね。」
「そして……」
「はい。アリウスに神の裁きを……!」
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「そんな……タツミくんが……!」
「相変わらず無茶してあいつはほんとに……!」
「……イオリ。」
「……うん、わかってる。」
「アコ行政官に出撃の許可を頂いてきます。」
「私は装備の確認をしてくるよ。」
「……絶対にアリウスを倒しますよ、イオリ。」
「あぁ……私の可愛い後輩を傷つけてくれたんだ。この罪は必ず奴らに償ってもらうぞ!」
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「姉さん?どうしたの?」
「……ココナちゃん。ちょっと門主様のところに行ってくるわね。」
「えっ?それは別にいいけど……何かあったの?」
「今日、エデン条約の調印式があったじゃない?」
「あれ、そう言えば今日だったっけ?確かタツミさんが出席してるんだよね?」
「……落ち着いて聞いてねココナちゃん。その調印式で大きなテロが起こってるらしいわ。」
「えっ……!?た、タツミさんは大丈夫なの!?」
「えぇ、先生に連絡を取って無事なのは確認できたけど……大きな怪我をしているみたいなの。」
「そ、そんな……!姉さん!今すぐトリニティに……!」
「そうしたいのは山々だけど、子ども達を放って置くわけには行かない……だから、門主様にお願いして子ども達を代わりに見てくれる人を用意してもらえないか頼んでみるわ。」
「わ、分かった!私もルミ会長に相談してみるね!」
「お願いね、ココナちゃん。」
「うん!タツミさん、絶対無事で居てくださいね……!」
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「まさか……こんなことになってしまうとはな。」
「こんな事をしたらタツミのお人好しさ加減を考慮すれば奴が飛び出していくのは想定出来たはず……」
「これは怒りと野望に目がくらんだ私の落ち度だ……私の野望とタツミ、どちらが大切かなど言うまでもなかっただろうに……」
「私は……どんな顔をして皆に会えば良いと言うのだ……」
「……すまない。タツミ……イブキ……」