あの後、ワカモの肩を借りて治療の受けられる場所を目指して歩き出した俺様。
だがその後すぐに俺様の事を捜索するために部隊を編成して動いていたらしい万魔殿の元宮先輩が俺様を発見したらしく、血相を変えながら近寄ってきた。
そして問答無用でワカモに銃を向け、同じくワカモも銃を抜いて応戦しようとしたため俺様は慌てて2人に対して事情の説明を行った。
元宮先輩は俺様が無茶をしたことや、ワカモと組んでいた事に怒り心頭と言った様子だったが「今はそんな場合じゃない」とワカモに対して俺様の引き渡しを要求。
ワカモも苦い顔をしながらそれに同意したため、俺様はその場で万魔殿に引き渡されてトリニティの救護騎士団にて医療活動をしている救急医学部の氷室先輩の元へと向かう事になった。
なお、ワカモは俺様を引き渡すと「また会いましょう」と言い残して何処かへと飛び去っていった。
奴には感謝しても仕切れない恩が出来てしまったな。
……とは言え、次に会う時は敵同士だ。
どうせまた俺様の傷が癒えたら襲撃してくるだろうし、今度こそは負けねぇからなワカモ!
……まぁテロリストに恩を作ってしまったと言う事実は怖いけど、今はそのことは後回しにしておこう。
その後、元宮先輩に支えられながらトリニティの救護騎士団の本部へと運ばれた俺様。
トリニティの生徒から憎悪の籠もった目で見られつつも救護騎士団の鷲見先輩や朝顔等の部員に迎え入れてもらえた俺様は、すぐに集中治療室へ運ばれて氷室先輩による緊急手術を受けた。
その結果無事に弾丸は摘出され、傷口の縫合も完了。
なお、氷室先輩はこれほど大口径の弾で撃たれたにも関わらずこの程度の負傷で済んだことを驚いていた。
なんでも防弾チョッキが衝撃を吸収していたとは言え槌永の放った弾丸は俺様の内臓の一部を傷つけていたらしく、損傷してすぐに再生したような跡があったらしい。
恐らく、薬子先輩のあの緑色の薬のおかげだろう。
半ば押し付けられる形で受け取ったあの薬だったけど、彼女には本当に感謝しなければいけない。
まぁ一つ注文をつけるとすれば死ぬほどマズかったことだが……良薬口に苦しとも言うし、命が助かるのであれば贅沢なこと言ってる場合ではないからな。
今度山海経へ行ったら、錬丹術研究会に顔を出してチーズを大量にプレゼントしておくとしよう。
……んで話は逸れたけど、まぁなにはともあれ弾丸を提出してもらった訳だな。
俺様はそれを確認後、即座に動こうとしたのだが氷室先輩と元宮先輩に首根っこを掴まれて制止され正座させられたのちに死ぬほど叱られてしまった。
流石に俺様もそこまで言われると謝るしか無かったな……
その後、たまたまトリニティ内にて事態の収集を図るために動き回っていた先生と顔を合わせた俺様。
先生は俺様を見るなり涙を流しながら抱きついてきた。
“ダヅミィィィ!!!無事でよがっだぁぁぁ!!!”
「ちょ!?先生!?死ぬ!俺様死ぬ!い、息が……!」
なおその際、先生が加減を知らずに尋常じゃないほどデカいその豊満な胸に俺様の顔を抱え込んでいたせいで窒息しかけたのはここだけの話にしておこう。
なお先生はそんな俺様の状態を見て青い顔をしながら謝ったあと、すぐに目を吊り上げて無茶をしたことをしこたま叱られてしまった。
聞いたところによると、先生は俺様が殿となってアリウススクワッドから逃がしている最中に救急医学部の救急車の中で風紀委員会や万魔殿にすぐに連絡をとり、俺様の援護兼捜索のための部隊を編成するように指示を出してくれていたらしい。
それを聞いた風紀委員会の天雨行政官と、元々俺様のために部隊の編成をしてくれていた京極先輩が連携して俺様の捜索を行ってくれていたとのことだ。
風紀委員会や万魔殿のみんなにもそうだけど、先生にもさんざん迷惑や心配をかけてしまったな。
本当に申し訳ない事をしたと反省するしかない。
その後、俺様は白州先輩の事を急いで先生に説明した。
先生はすぐに補習授業部と協力して白州先輩を追うことを約束してくれたので、とりあえず一安心だ。
あとは補習授業部の皆と先生に任せて、白州先輩が無事で居てくれることを祈る。
それに、アリウススクワッドの後ろに彼女達から搾取をしている大人が居るであろうと思われることも同時に伝えて、願わくば彼女達も救ってあげて欲しいことを先生には頼んでおいた。
先生はその言葉を聞くと手の平に爪が食い込むほど拳を握りしめたあと、必ずアリウススクワッドを救ってみせると言ってくれた。
……なら、もう安心だ。あとは先生に任せるとしよう。
そして俺様は今、患者着を着させられて救護騎士団の部室のベッドの上で寝かされている。
しかも俺様の個室の前には勝手に脱走しないように救急医学部の部員の誰かの見張り付きという厳重さだ。
ここまでやる必要があるのかと首を傾げざるを得ないけど、氷室先輩からも今は体力の回復を優先しろと言われてしまったからな……大人しくしておくとしよう。
ちなみにゲヘナの生徒である俺様が救護騎士団の病室で寝かされている理由だが、先生の「今はゲヘナもトリニティも関係なく助け合う」と言う指示のおかげだ。
そのおかげでゲヘナとトリニティの間にある壁はほんの少しだけ薄くなったようで、今は救護騎士団の活動に救急医学部の部員達も協力している様子。
そのため風紀委員会の負傷者も現在救護騎士団にてお世話になっており、万魔殿の幹部達や天雨行政官みたいな役職持ちの生徒もトリニティ側と連携するために頻繁にトリニティへと出入りする様になっている。
……まぁ主戦場が古聖堂である以上はトリニティに拠点を構えるほうがいいだろうからな。
流石は先生、的確な判断と言えるだろう。
先生から今のゲヘナとトリニティの話を聞くと、案の定大混乱に陥っているらしく中にはお互いの仕業だと思って戦闘をしている連中も居るんだとか。
今は仲間割れをしている場合ではないことは火を見るよりも明らかなのでゲヘナは先生の指示のもと万魔殿と風紀委員会が連携して、トリニティは先生とシスターフッドの指揮を臨時で執っている浦和先輩が事態を収束させるために必死に動いてくれているそうだ。
なお万魔殿の方は完全にふさぎこんでしまった羽沼議長が現状使い物になる状態ではないらしく、臨時で京極先輩が万魔殿の舵を握っているとのこと。
……ったく、何をやっているんだかあの議長は。
こんな時だからこそ、アンタの力が必要なんだろうが。
なんだかんだ言いつつもあの人は万魔殿の議長、腐ってもゲヘナのトップなんだ。
いざという時には頼りになるのを俺様は知っている。
俺様が動けるようになったら一発ぶん殴って、何を言われようが引きずってでも連れ出してやるからな。
そして、風紀委員会の方も今トップである空崎委員長が重体で俺様と同じくベッドで寝かされているためこちらも天雨行政官が代わりに指揮を執っているらしい。
風紀委員会は空崎委員長や古聖堂内の警備担当だった部員達以外は古聖堂の外で待機中だったため比較的軽傷な人が多いらしく、天雨行政官もケガをしているものの動ける範囲であるため今は忙しなく動いているとか。
クソ、俺様の到着がもう少し早ければ空崎委員長も守れてたかもしれねぇのに……!
……ほんと、自分の無力さが嫌になってくる。
そう思った俺様はみんなが必死になって動いている中でこうしてベッドで寝ているだけなんて出来るわけもなくて、何度も何度も何か出来る範囲での手伝いを申し出ているのだが全て却下されてしまっている。
万魔殿や風紀委員会、氷室先輩からはもちろんだが何故か怪我の癒えた羽川先輩、補習授業部のみんな、シスターフッドの皆さんからも怒られてしまった。
いや、ゲヘナのみんなはまだ分かるけど何故にトリニティの方々からも怒られたんだろうな……?
と言うか、もう何人から怒られたか分からんぞ?
多分だけど会う人全員から説教をされている気がする。
なんだか、もう一生分のお説教をされた気分だぜ……
……もちろん、それが俺様を心配してくれてのことだってのは分かっている。
だからお説教に関しては甘んじて受けることにしよう。
そして、何故か俺様を叱った生徒達は皆一様に殺気立っておりただ事ではない雰囲気を醸し出していた。
……良くはわからないけど、アリウスとの戦闘の現状が乏しくないのだろうか?
だとすれば、俺様とてのんびりしてはいられない。
一刻も早くこの傷を治して復帰しなければ……
まぁそういうわけで、俺様はベッドでゴロゴロしながら体力の回復に努めていると言うのが現状だ。
……意外に寝てるだけってのも暇なんだなと思わなくもないから、ほんとに何か出来る事があれば良いんだけど。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お兄ちゃん。」
「……はい。」
「イブキは今とっても怒っています。」
「……はい。」
「何でかは分かるよね?」
「……はい。」
「じゃあ、何か言うことは?」
「……ごめんなさい。」
救護騎士団の俺様に宛てがわれた病室にて。
俺様はベッドの横に立って目の笑っていない笑顔を浮かべるイブキからお説教をされていた。
イブキの目は赤く腫れており、恐らくここに来るまでに散々泣き腫らしたであろう事が想像できる。
「……お兄ちゃんが無事で本当に良かった。」
そう言って表情を陰らせるイブキ。
……妹を泣かしちまうなんて、情けなくて涙が出そうだ。
ごめんなイブキ……こんなバカなお兄ちゃんで……
「イブキ、本当に心配したんだからね?」
「……分かってる。本当にごめんな、イブキ。」
「謝っても許さない。お兄ちゃんは怪我をしないって約束したのに、怪我をして帰ってきてるんだもん。」
「い、いやその……それは本当にごめんとしか言えねぇ……すまないイブキ……」
「イブキ前から言ってるよね?お兄ちゃんはもっと自分の事を大事にしてって!盾を使って女の子を守るのは良いけど、お兄ちゃんの体を使って守るなんて駄目に決まってるでしょ!?」
「……はい。すみません。」
……おっしゃる通りすぎて何も言えない。
俺様の手を握りながらとんでもない圧を出すイブキに対して、俺様は平謝りすることしか出来なかった。
ちなみにワカモを庇って負傷した件についてはその場にいた元宮先輩には事情の説明のために話したのだが、それ以外の人には話していないため俺様の負傷は表向きには戦闘中の負傷と言うことになっている。
……が、どういう訳か元宮先輩は万魔殿のみんなと先生にだけはその事を伝えたようで目のハイライトが消えた皆からは追加のお説教をされるハメになってしまった。
そりゃ確かにヘイローがないのに銃弾を自分が受けるなんて我ながら無茶な事をしたと思うけど、あのままワカモが銃弾を食らっていたらどうなっていたかは分からないからな……彼女を守れたことに悔いはないさ。
「まったく、いくら協力してくれたとは言えテロリストを庇って負傷するなんて……そんな事をする子なんてキヴォトス中を探してもタツミくらいよ?」
「本当ですよ!私達がどれだけ心配したと思ってるのタツミくん!私もそうだけど、サツキ先輩なんて泣きすぎて吐きそうになってたんだからね!?」
「ちょ、チアキ!?それは言わない約束って……!」
そんな事を考えていると、イブキの反対側からベッドの横に立っている京極先輩と元宮先輩からそんな言葉が俺様に対してかけられる。
京極先輩、吐きそうになるほど心配してくれたのか。
本当に申し訳ないことをしてしまったな……
「まったくもう!お人好しなのはタツミくんの良いところだけど、度が過ぎるのは良くないと思うよ!」
「ちょっとスルーしないでよ!?……まぁ、それに関しては私も同感よ。タツミ、貴方はもっと自分のことを大切にしなさい。これは先輩命令よ。」
「……分かりました。すみませんでした。お二人とも。」
安心したような、怒ったような。
そんな表情が混ざった顔を俺様に向けてくる京極先輩と元宮先輩に対して、俺様は頭を下げる。
「……それに、帰ってきたらイロハちゃんにもきちんと謝っておきなさいよ。イロハちゃん、普段の冷静さが見る影もないほど取り乱してたんだからね?」
「……そうですね。そうします。」
棗先輩の事を思いつつ、俺様はそう言った。
現在棗先輩は先生の要請により戦車部隊を率いて風紀委員会と協力し、未だにどこかから沸き続けているユスティナ聖徒会との戦闘に赴いているらしい。
俺様はベッドで寝ているからこうして平和に会話ができているが、その陰ではみんなが必死に戦っていることを思うと自分の無力さが本当に情けない。
棗先輩には出撃前に少し顔を合わせて話をしたが、きちんと謝れては居ないからな……
帰ってきたら謝って、要求されるのであれば好きなだけ一緒にサボりに付き合うとしよう。
「……それにしても、羽沼議長はまだ?」
「……えぇ。塞ぎ込んだまま自分の部屋から出てこないわ。」
俺様がそう問いかけると、京極先輩は苦い表情を浮かべながら苦しげにそう言った。
あの後、トリニティの空港に飛行船を停めて急いで古聖堂まで駆け付けた万魔殿の皆は怪我人の多さやミサイルの規模に絶句してしまったそうだ。
中でも特に羽沼議長のショックは大きく、当初はそれでもなんとか事態の収集を図るために部隊の編成を行ってい指示を出そうとしていたらしいのだが俺様がアリウススクワッドと戦闘を開始した報告を先生から受けた途端に心が折れてしまったらしい。
その後は貸し与えられているトリニティ側から用意された臨時の議長室に閉じこもり、京極先輩達が声をかけても完全に塞ぎ込んでしまっているそうだ。
ちなみに、羽沼議長がこんなことをした理由に関しては飛行船の着陸地点へ向かうまでに飛行船内で羽沼議長からみんなに対して詳しい説明があったらしい。
内容はアリウスと共謀してのトリニティへの攻撃と、風紀委員会の殲滅。
まぁ本人がミサイル着弾直後に言ってた内容だな。
……恐らく、羽沼議長からしたらいつもの嫌がらせの延長線上のことだったのだろう。
それがアリウスと共謀してミサイルを古聖堂へ撃ち込むなんてのはイカれているとしか言いようがないけど、羽沼議長からしてみたらここまで大ごとになるなんてのは想定していなかったんだろうな。
その証拠に事態の直後は部隊の編成をして指示も出そうとしてるし、京極先輩の話によると先生の指示には素直に従っていたらしいし。
正直、直接手を下していないとは言え羽沼議長のやった事は許されていいことではない。
アリウスがミサイルを撃とうとしていることを黙認して調印式を滅茶苦茶にした挙句、これだけの規模の被害と怪我人を出しているんだ。
それに、間接的とは言え悪意を持ってトリニティや風紀委員会への攻撃を黙認したのは事実だからな。
少なくともトリニティ側への正式な謝罪は必要だし、下手したらエデン条約だって白紙になってしまうだろう。
しかも、羽沼議長は先生までをも巻き込んでいる。
シャーレは連邦生徒会の下部組織だ。下手をすれば連邦生徒会の七神代行からも詰められかねないだろう。
いくらシッテムの箱があるとは言え、先生はヘイローのないキヴォトスの外から来た人。
俺様と同じで銃弾1発で命を落としかねないんだ。
到底許される話ではない。
……けど、だからといってそれがここで羽沼議長が塞ぎ込んでいていい理由にはならない。
先生は言っていた。間違いは誰にでもある。
大切なのは間違いを犯した事自体ではなく、間違いを反省してそれを繰り返さないようにする事だと。
アリウススクワッドにも言ったけど、過去に戻ることはできないから今回の事を無かったことには出来ない。
……だけど、反省して前に進むことは出来る。
恐らく、羽沼議長は公にはかなり糾弾されるだろう。
下手したらゲヘナの議長からの降格もあり得るし、しばらく矯正局に入って反省しろと言われるかもしれない。
……それでも、俺様は羽沼議長の事は個人的には許してやりたいと思っている。
理由は分からない。アリウスに騙されていたからかもしれないし、俺様が甘いだけなのかもしれない。
けどとにかく、俺様は羽沼議長を許してやりたいんだ。
羽沼議長は馬鹿だ。それはもう馬鹿だ。
いつも無駄に偉そうだし、下らない悪巧みをしてるし、外交の場では態度でかいし、イブキの取り合いになって喧嘩することもあるし、風紀委員会に喧嘩を売って何度返り討ちにあっても全く懲りないし……
本当に……ほんっとうに世話の焼ける先輩だ。
けど羽沼議長はああ見えて身内……と言うか風紀委員会以外にはわりと優しいし、気に入った奴が多少失敗をしてもあまり気にしない良く言えば大きな器を持っている。
俺様も前線に出始めたばかりで失敗ばかりしていたころは羽沼議長に何度も励ましてもらったし、ようやく戦果を挙げられた時は自分のことのように喜んでくれた。
それに羽沼議長は人使いは荒いけど、きちんと仕事を振る奴を選んで的確な仕事を振っている一面もある。
外交の場でも態度はでかいけど、その実キチンとゲヘナのことを考えて真剣に交渉をしている場面もあるんだ。
羽沼議長は俺様に目をかけて、万魔殿の仕事を「お前なら出来る」と言ってたくさん振ってくれた。
もちろん最初は失敗ばかりだった。期日内に書類仕事が終わらずに迷惑をかけてしまった事など片手の指では足りないし、その度に不甲斐なくて泣きそうになった。
けど、羽沼議長は「初めてにしては上出来」だと俺様の仕事ぶりを褒めてくれたんだ。
そのうえで「次は期待している」とも言ってくれた。
この人の期待に応えたい、その一心で俺様は万魔殿に入ってから必死に仕事をこなしてきた。
そのおかげで、俺様は今や仕事がどれだけたくさんあってもこなすことが出来ている。
羽沼議長は俺様を認めてくれた。
そのおかげで俺様は今、自信を持ってここに居る。
……そう、俺様は羽沼議長に救われた。
彼女は俺様の恩人でもあるんだ。
それに、あんな世紀末じみたゲヘナでトップを張れる程の人物なんて羽沼議長しかいないだろうからな。
そう、万魔殿の議長は羽沼マコトだ。
俺様は彼女以外の議長なんて認めるつもりはない。
なんとしても早く戻ってきてもらわないと困る。
「……タツミ。今のマコトちゃんには貴方の言葉が必要だわ。私達も声をかけているけど全く効果がなくて……」
「そうですね……私も何度か声をかけに行ったのですが今は誰にも会いたくないの一点張りで話を聞いてもらうことすら出来ませんでした。」
「……けど、もしかしたらタツミの話なら聞いてくれるかもしれないわ。」
京極先輩と元宮先輩はがっくりと肩を落としつつ、暗い表情でそう言った。
「……イブキ、マコト先輩のやった事はダメなことだと思う。そのせいでお兄ちゃんも怪我をしちゃった。イブキは……それは絶対に許せない。」
続いて、イブキも俺様の手を握りながら口を開いた。
「でも……それでも、イブキは元気のないマコト先輩は見たくないよ……いつものマコト先輩がいい。イブキはお兄ちゃんも大事だけど、マコト先輩のことも同じくらい大事だから……!」
「イブキ……」
しょんぼりとしながらそう言うイブキ。
俺様はイブキの頭に手を置き、そのまま頭を撫でる。
まったく、イブキにこんな表情をさせるなんて……
羽沼議長には文句を言ってやらねぇとな。
……まぁ、俺様も人のことを言える立場ではないけど。
「……そうね。イブキちゃんの言う通りマコトちゃんのやった事は許されることじゃないわ。けど、私だってあんなマコトちゃんを見たいわけじゃない。」
「私も同感です。マコト先輩はやっぱり椅子にふんぞり返って高笑いをしている方が似合いますからね。」
いや、それはそれでどうなんだ元宮先輩。
まぁ確かに塞ぎ込んでいるよりはその方があの人らしいっちゃらしいかもしれないけどよ……
……ったく、あの人の強みはどんなことがあってもへこたれない鋼のメンタルだったはずなんだがな。
「だから……タツミ。怪我をしている貴方にこんな事を言うのもすごくしのびないだけれど……」
俺様がイブキの頭を撫でながらそんな事を考えていると、京極先輩が神妙な顔つきで話しかけてくる。
そして彼女は真剣な表情になると、その口を開いた。
「……マコトちゃんを助けてあげて欲しい。タツミ。」
「言われなくてもそのつもりですよ、京極先輩。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……とは言え、ああは言ったもののやはりすぐに動ける状態ではないとの診断を氷室先輩から下された俺様はその後もベッドの上で体力の回復に努めていた。
早く羽沼議長に声をかけに行きたいのは山々だが、氷室先輩や万魔殿の皆が睨みを利かせている以上は病室を抜け出せるはずもなくベッドで横になっている俺様。
そしてそんな俺様の病室には、静かになるタイミングがない程たくさんの人が見舞いに訪れてくれた。
「タツミさんっ!無事で……無事でよかったですっ……!」
「ちょ、若葉先輩ぐるじいでず……」
「し、シスターヒナタ!?そんなに強く抱きしめたらタツミさんが気絶されてしまいますよ!?」
(む、胸に顔が埋まって息ができねぇ……!)
「あ……あわわっ!すみませんタツミさんっ!」
「ぷはっ!ぜぇぜぇ……い、いえ大丈夫です。気にしないで下さい若葉先輩。」
「……でも本当に良かったです。タツミさんが凶弾を受けて怪我をされていると聞いて気が気ではありませんでしたからね?」
「……それに関しては本当に申し訳ないとしか言えねぇ。心配をかけてすまないな伊落。」
「はい、タツミさんがご無事で何よりです。」
(う……めちゃくちゃいい笑顔で罪悪感が……)
「それとその……私もそうですけど、特にシスターヒナタの取り乱しようが他の方よりもすごくて……」
「う、うぅ……!本当に良かったですタツミさんっ!」
「こんな風に……あっ!?シスターヒナタ!?」
「わぷっ……!?」
「し、シスターヒナタ!?何故またタツミさんに対して抱擁を……!?」
「タツミさん……!貴方がもし生死を彷徨うようなことがあったら私は……うぅ……!」
(い、今まさに生死を彷徨ってるんだが……!?)
「タツミさん……!タツミさんっ……!」
「シスターヒナタ!?タツミさんが窒息してしまいますよ!?それと何故若干顔が赤いのですか!?ひ、ヒナタさん!?」
扉を破壊せんばかりの勢いで病室に入室してきた若葉先輩に抱きしめられ、それを伊落が咎めたり。
「羽川先輩、剣先委員長。ご無事で何よりです。」
「……それはこちらのセリフだ。」
「タツミさん……申し訳ありません、私が先生を追ってくれと言わなければこんなことには……」
「何を言ってるんですか羽川先輩。俺様はちょっと怪我しちまいましたけどこんなのすぐ治りますし……」
「……いや、すぐには治らんだろう?」
「はは……そ、それに結果的に先生と空崎委員長をギリギリで逃がせたのは羽川先輩が背中を押してくれたおかげですからね!あの言葉がなければ先生や空崎委員長も大怪我してたかもしれませんから……感謝こそすれど、謝ってもらう必要はこれっぽっちもありませんよ。」
「タツミさん……ありがとうございます。そう言ってもらえると少し心が軽くなります。」
「私もあの時は気絶してしまっていたからな……お前には申し訳無いと思っている。」
「気にしないでください剣先委員長。貴方も必死に戦ってくれてたんですから、誰も責めやしませんよ。」
「……そうか、感謝する。」
「イチカやマシロ、正実の共に戦った他の部員達もタツミさんのことを心配していました。元気になったらまた顔を見せてあげてくださいね。」
「はい、そうします。」
「しかし調印式を破壊するだけでは飽き足らずたくさんの人を傷つけ、あまつさえタツミさんにさえ怪我を負わせるなんて……許しませんからねアリウス……!」
「……あぁ。必ず鎮圧しよう。」
俺様が負傷した事に負い目を感じる羽川先輩や剣先委員長に対して気にするなと伝えたり。
「……タツミ。病室を脱走しようとしたりはしていないでしょうね?」
「ギクッ……お、俺様がそんな事する訳ないじゃないですか氷室先輩。」
「さてどうだか。貴方の事ですから、そのくらいなんとも無いと判断して飛び出していってもおかしくはありませんからね。」
(う……完全にバレてる……)
「タツミ。貴方に撃ち込まれたのは大口径のスナイパーライフルの弾です。貴方の応急処置の腕が良かったのと防弾チョッキのおかげで奇跡的にその程度で済みましたが、本来ヘイローのない貴方が受けていいようなものではありませんからね?分かりましたか?」
「……はい、すみませんでした氷室先輩。」
「分かってくだされば良いのです。さ、診察をしますので服を脱いでくださいね。」
術後の経過を見るために病室に訪れた氷室先輩から追加でお説教をされたり。
「タツミさん!お食事をお持ちしました!」
「ありがとう朝顔。助かるよ。」
「大丈夫ですか?お一人で食べられますか?もし辛いのであれば、ハナエが食べさせてあげます!」
「い、いや別に手を怪我してるわけじゃないから1人で食えるから大丈夫だぞ……?」
「はい、あーん!」
「いやだから大丈夫だって!?」
「ほらほら、遠慮せずに!」
食事を持ってきてくれた救護騎士団の朝顔に何故か食事を食わせてもらったり。
「タツミさん、バイタルを測りますね。」
「すみません鷲見先輩、忙しいのにこんなことまで……」
「何を言っているのですか。救護が必要な人に救護の手をといつもミネ団長は仰っていますし、それが我々救護騎士団のお仕事ですからね。」
「……ありがとうございます、鷲見先輩。」
「いえ、気になさらないで下さいね。」
バイタルを測りに来てくれた鷲見先輩と話したり。
「タツミくん……貴方という人は本当に……!」
「……すまねぇな火宮。」
「私、前にも言いましたよね!?貴方が怪我をしたら悲しむ人が大勢いると!」
「返す言葉もねぇ。本当に済まなかった。」
「……すみません、感情的になってしまって。けど……けどっ!タツミくんが無事で本当に良かったです……!」
「……ありがとう火宮。ごめんな。」
俺様のために泣きながら叱ってくれた火宮に礼を言いつつ、彼女の頭を撫でてやったり。
「スナイパーライフルで撃たれたって聞いたから血の気が引いてたけど、思ったより元気そうだな……?」
「見ての通りピンピンしてますよ!何なら今から戦場にだって……」
「やめとけ。またゲヘナのみんなとトリニティの連中と先生から総出で叱られたいのか?」
「うっ……しばらくは大人しくしときます。」
「でもお前が無事で本当に良かったよ。お前が撃たれたって聞いた時、私だって取り乱したんだからな?」
「……すみません、銀鏡先輩。」
「まぁ、これに懲りたらもっと自分を大事にしろ。いいなタツミ?」
「分かりました。肝に銘じておきます。」
「あぁ、しっかり銘じておけよ?」
「……そう言えば、空崎委員長の様態はどうですか?」
「救急医学部のセナ部長が緊急手術してくれたおかげでなんとか危機は脱したよ。今は病室で寝てるから、アコちゃんや私やチナツが交代で病室に付いてる。」
「そうですか。良かったです。」
「……ヒナ委員長、結構負い目を感じてたみたいだからまた動けるようになったら声を掛けてあげて欲しい。」
「分かりました、そうさせてもらいます。」
「頼む。……お前が無事で本当に良かったよ、タツミ。」
空崎委員長の状況を説明してくれつつも、俺様の身を案じてくれる銀鏡先輩に感謝したり。
「まったく……貴方という人はいつもいつも……!」
「あ、あはは……すみませんでした、天雨行政官。」
「本当ですよ!私はともかく、風紀委員会のみなさんがどれほど心配したと思ってるんですか!」
「はい。本当に申し訳ないです。」
「……ま、まぁ私もちょっとくらいは。ほんのちょーっとくらいは心配していないこともないですけどね!」
「……ありがとうございます、天雨行政官。」
「まったく……本当に……無事で良かったです、タツミ。」
指揮で忙しい中来てくれて、素直じゃないながらも俺様の心配をしてくれる天雨行政官に感謝したり。
ワカモを守れたことに後悔はない。
けど、冷静になればもっと他の方法だってあったかもしれない。盾を持って走るとか、狙撃手の槌永を無力化して狙撃を阻止するとか……余裕がなかったとは言え、自分の身を犠牲にしたのが軽率だったのは確かだろう。
……本当に、俺様の軽はずみな行動でこんなに色んな人に心配をかけてしまったな。
俺様はその後も病室に見舞いに来てくれる人達一人一人に頭を下げつつ、深く自分の行動を反省するのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……雨か。」
あれからどのくらいの時間が立ったのだろうか。
ベッドの上から窓の外を見た俺様は、降り注ぐ水滴と真っ黒な雲が浮かぶ空を見つめながらそう呟く。
先程までは色々な人が見舞いに訪れてくれて、あれほど騒がしかった病室も今は見舞いが落ち着いて俺様1人だけとなりすっかりと静けさを取り戻していた。
ちなみに、さっきまではずーっとイブキが病室に居て俺様に付きっきりになってくれていたのだがやはり羽沼議長のことも心配なようで一度話をしてくると元宮先輩に連れられて今は羽沼議長の元へ赴いている。
……イブキの話を聞いて少しは元気になってくれると良いんだけどな、羽沼議長。
「……みんなは大丈夫だろうか。」
耳をすませば、遠くから聞こえてくる銃声や爆発音。
それらを聞きながら俺様は手の平を握りしめる。
……俺様がこうしている間にも、ゲヘナとトリニティのみんなはアリウス分校と必死に戦ってくれている。
そんな中ベッドにこうして寝転がっているしかない事実に悔しさで歯ぎしりをしそうになるが、ぐっとこらえつつせめて皆が無事であるように祈るしか無かった。
「……雨が戦闘に影響を与えないといいけど。」
ただでさえアリウスとの戦闘はとても長引いており、激化の一途を辿っている。
そこへ突如降り出した雨……前線で必死に戦ってくれている彼女達の体が冷えないことを願うばかりだ。
ーコンコンー
「……ん?」
俺様が窓の外に降り注ぐ雨を恨めしそうに見つめていると、突然病室のドアがノックされる。
どうやらまた誰かが見舞いに訪れてくれたようだ。
「どうぞ。」
“失礼するよタツミ。”
俺様は入室を促すために口を開くと、その言葉から間を空けずに病室のドアが開いてそこからスーツを着た大人の女性……シャーレの先生が入室してきた。
「……先生?指揮の方はもう大丈夫なのか?」
首をひねりつつ、俺様は先生にそう問いかける。
そう。先生は現在大混乱に陥っているゲヘナとトリニティの両校をまとめ、一致団結させて事態の解決に当たらせるために指揮を取っているはずなんだが……
“うん、少し落ち着いたからね。ゲヘナはサツキとアコが、トリニティは体調の回復したサクラコが今は現場で指揮を取ってくれてるから。”
「そっか、なら良かったぜ。」
“……まぁ、誰かさんのせいでゲヘナやトリニティでタツミと親交のある生徒はみんな殺気立ってるんだけどね。おかげでブレーキをかけるのが大変だったよ。”
……うん?
なんで俺様と親交のある生徒殺気立ってるんだ?
誰かが煽ってるってことか?
「なんだなんだ、厄介なやつがいたもんだな。」
“あはは……本当にね。やっぱり大人びていても、まだまだ子どもなんだなぁって思えるよ。”
「……?」
先生は柔らかな笑みを浮かべると、俺様を安心させるかのような優しい口調でそう言った。
……一体、さっきから先生は何の話をしてるんだ?
「それより……歌住先輩は無事だったんだな。」
“うん。ミサイルの爆発に巻き込まれて瓦礫の下敷きになってたんだけど、幸い軽傷だったからすぐに助け出されて今はシスターフッドの指揮を取ってくれてる。それにナギサも無事だよ。今はまだ眠っているけどね。”
「……そうか。良かった。」
先生の言葉を聞き、俺様は安堵のため息を吐いた。
飛行船から降下して羽川先輩を助けた時、彼女から桐藤先輩と歌住先輩の行方が分からなくなっていると聞いていたからな……2人とも無事だったようで何よりだ。
“タツミ、体調はどう?大丈夫?”
「あぁ。だいぶ良くなったよ。氷室先輩と救護騎士団の鷲見先輩や朝顔のおかげだ。」
“……そっか。良かった。”
俺様の言葉を聞いた先生は安心したような表情を浮かべると、胸に手を当てて息を吐く。
“まぁ、タツミにはもう散々お説教したからこれ以上は辞めておくけど……今後は気をつけるんだよ?”
「あぁ、分かったよ先生。もう色んな人から言われたからな……少しは自分のことを鑑みるよ。」
“うんうん、分かればよろしい。”
先生はそう言うと、腕を組んで満足そうに頷いた。
……まぁこんな事を言ってはいるものの、多分また誰かが俺様の目の前でピンチになったら俺様は同じことをしてしまうかもしれない。
その結果、またみんなをここまで心配させちまうかもしれないけど……それだけは、譲ることが出来ないんだ。
だって、俺様以外の奴が不幸になるなんてことはあってはならないんだから……
けど、方法は考えようとは本気で思っている。
流石にここまで大勢の人に心配をかけてしまって何も思わないほど俺様は軽薄な人間ではないつもりだ。
今後は自分の身を犠牲にするんじゃなくて【自分も、守るべき人も両方守れる】ような方法を取るつもりだ。
……もうこれ以上イブキを、みんなを泣かせるわけにはいかないからな。それは約束したい。
「そういや先生、白州先輩の件だが……」
“……うん。アズサの事は今補習授業部のみんなが必死に居場所を探して見つけようとしてくれてる所だよ。”
「……そうか。早く合流できるといいな。」
“……そうだね。”
こうしている間にも、白州先輩はアリウススクワッドと必死に戦ってくれているはずだ。
彼女が無事であってくれることを祈るしかない。
……それと、白州先輩と同じ苦楽を共にして来た補習授業部の3人も怪我なく帰ってきて欲しいものだ。
“……ねぇ、タツミ。”
「ん?」
俺様がそんな事を考えていると、先生から声がかかる。
何事かと思って先生を見ると、そこにはとても真剣な表情を浮かべた先生が俺様を見据えていた。
そのただならぬ雰囲気に、思わず姿勢が伸びる。
「先生?どうした?」
“えっとね、アリウススクワッドのことなんだけど。”
「アリウススクワッド?奴らがどうかしたのか?」
“タツミは救護騎士団の本部で私と最初に会った時に言ってたよね。アリウススクワッド、そしてアリウスの生徒たちは悪い大人に搾取されて駒にされているって。”
「あぁ……そうだったな。」
アリウススクワッドは前世で俺様が毒親に勉強を強要されていたときと同じ、やりたくもない事を心を殺して無理やりやっている目をしていたからな……
そりゃ分かるさ、だってあの目は前世で嫌ってほど鏡を見た時に目にしてきた忌々しい目なんだから。
「で、彼女達の戦闘データでも必要なのか?なら俺様は全員と戦ってるし、知ってる情報なら教えるが……」
“ううん、そうじゃない。”
先生はピシャリとそう言い放つ。
“タツミ……どうして分かったの?”
先生から発せられた言葉を聞き、俺様は硬直した。
なんでってそりゃ過去に同じような目にあったからだ。
だから俺様は気づくことが出来た。経験者だから。
経験した人間だから、同じ目をしているあいつらの後ろに搾取をしている悪い大人が居ると分かったんだ。
……けど、何せ気づけた理由は前世のことだしな。
俺様は転生者で前世で虐待を受けてました〜なんて、そんな漫画やアニメの中でしか出てこない様な世迷言を言ったところで信じてなんてもらえんだろう。
そう思った俺様は、とぼけるためにやけにパサパサとする口を開いて言葉を絞り出す。
「そりゃまぁ……なんとなくかな?」
“嘘だ。”
心臓が跳ねる。
先生は俺様の目を真っ直ぐと見据えてくると、その場から一歩俺様のベッドへと近寄って来る。
“なんとなくで、あんなに確信したように言い切れるはずがない。あんなに必死に訴えてくるはずがない。”
「そ、それは……」
“タツミは気づいてなかったかもしれないけど、アリウススクワッドを助けてほしいと訴えてるキミはものすごく悲痛な表情をしてたんだ。そう……まるで【過去の自分と重ねてるように】ね。”
口の中がパサパサする。冷や汗が滲み出る。
……なんとか、なんとか誤魔化さないと。
“ねぇタツミ。もう一度言うよ。”
先生はそこまで言葉を紡ぐと、一旦言葉を止めて息を吸う。そして……再度、静かに口を開いた。
“タツミはなんで……アリウススクワッドが虐待されているかもしれないってことが分かったの?”
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「イブキちゃん、落ち着いた?」
「……うん。お兄ちゃんの無事な姿を見たら安心した。もう大丈夫だよチアキ先輩。」
「そっか、良かった。」
(イブキちゃん、さっきまでかなり荒れていたものね……とりあえずは一安心だわ。)
「……でも、お兄ちゃんを傷つけてマコト先輩をあんな風にしたアリウスは絶対に許せない。」
「……そうだね。それは私だって同じだよ。」
「えぇ。けどイブキちゃん、気持ちはわかるけど怒りに呑まれてはいけないわ。マコトちゃんや私、チアキ、イロハだって気持ちは同じだけど……こんな時だからこそ、落ち着いて行かなきゃね?」
「うん。イブキが怒ってたらお兄ちゃんが心配しちゃうから……今のお兄ちゃんに余計な心配はかけたくない。ゆっくり休んで欲しい!」
「そうね、タツミの性格上私達が怒ってたらじっとしてなんて居られないものね。流石イブキちゃん、タツミのことなら何でも知ってるのね。」
「ふっふーん!イブキはお兄ちゃんの妹だもん!」
「おぉっ!流石はイブキちゃんですね!」
「ふふっ、じゃあイブキちゃん。タツミのためにリンゴでも剥いてあげましょうか?」
「分かった!うさぎさんにしたいな!」
「あ、それなら私が教えてあげるよイブキちゃん!」
「ほんと!?ありがとうチアキ先輩!」
「ふふっ……」
(……とは言えアリウス。タツミを傷つけてマコトちゃんを騙し、イブキちゃんを泣かせた罪は重いわよ。必ずこの代償は支払ってもらうから、覚悟しておく事ね……!)