果たして彼女達の運命は……
あれから空崎委員長の病室を飛び出した俺様、先生、空崎委員長の3人はアリウススクワッドを発見したとの先生の報告を元に彼女達の元へと向かうため、救護騎士団本部の廊下をかなりの速度を出して早足で歩いていた。
「先生、戦況はどうなってる?」
俺様は先生に状況の確認をしつつ、歩を進めていく。
あ、ちなみにだけど俺様がアリウススクワッドの元へ行くことに関しては先生からゲヘナとトリニティの生徒達にしっかりと説明をしてくれたらしい。
当然最初は猛反発を食らったけど、先生が傍に付いていることと俺様の強い意志だと言うことを説明すると渋々ではあるが引き下がってくれたとのことだった。
中でも特に万魔殿の皆や風紀委員会の皆、羽川先輩などがかなり反対したとの事だったからな……
その辺りには改めて後で俺様からしっかりと説明をする必要があるだろう。
本来であればせめて万魔殿には自分で説明したかったんだけど、事情が事情だから仕方ない。
……あとはみんなには頭を下げなければいけないな。
なお、その際にアリウスが悪い大人から強要され、恐らくやりたくもないだろうこんな大規模テロを引き起こさざるを得なかった背景も先生は皆に説明したそうだ。
反応は様々だったらしい。
納得する人、不服そうだが理解はしてしてくれる人、同情する人、それでも許せないと憤る人、だからなんだと殲滅戦をすべきと訴える人。
彼女達に対する感情は1人1人違っていて、それは様々なものだったそうだ。
だけど、誰1人として彼女達を無条件で許すという人は居なかったとのことだった。
そりゃそうだ、俺様だってアリウススクワッドには幸せになって欲しいけど無条件で許すつもりなんてない。
連中にはしっかりと罪を償ってもらわなければ。
先生には感謝しなければいけない。
……それにしても、いくら俺様が怪我を負わせられたアリウススクワッドにもう一度会うっつったって全員が全員そんなに血相を変えて慌てるほどのことなのか?
“うん、古聖堂へ姿を現したアリウススクワッドをゲヘナとトリニティの総戦力が包囲しているって聞いてるよ。”
「……まずいな。いくらユスティナ聖徒会が無限に湧いてくる程の戦力があるとは言えそこまで完全に包囲しているなら殲滅戦になってもおかしくはないぞ。」
“そうだね。彼女達にも事情があったとは言えゲヘナやトリニティのみんなからしたらテロリストにしか見えていないはずだ。早く行かないと……”
「あぁ、アリウススクワッドの連中が危険だ……!」
俺様は苦い顔をしてそう呟きつつ、更に歩くスピードを早める。
アリウススクワッドにはユスティナ聖生徒って言う得体の知れない味方の他にも、奴らと同胞であるアリウス分校の生徒達も居たはず。
対してこっちはゲヘナの万魔殿と風紀委員会、トリニティの正義実現委員会とシスターフッドがアリウスを完全に包囲していると来ている。
戦闘が始まった頃はアリウスを包囲できるほど奴らの規模が小さくなかったことを考えると、こちらとの戦力差が着実に縮んできているのだろう。
そして現状、ほぼ無限に湧いてきているであろうユスティナを持ってしてもアリウススクワッドが包囲されているということは彼女達の戦力がほぼ尽きたと見ていい。
確かにアリウススクワッドはテロリストだ。
けど、このまま殺す勢いで殲滅戦に移るのはまずい。
連中には情状酌量の余地はあるんだ。
なんとしてもそれだけは阻止しなければ……!
「……私は殲滅すべきだと思うのだけど。」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、吐き捨てるようにそう言う空崎委員長。
彼女の眉間にはシワが寄り、納得がいっていないという様子が表情にありありと表れていた。
「すみません空崎委員長。さっきも説明しましたけど黒幕はアリウススクワッドではなく、後ろにいる黒幕なんです。彼女達はただの操り人形にしかすぎません。」
俺様は空崎委員長に視線を送り、真剣にそう言った。
ちなみにだが、空崎委員長には病室を出てここに来るまでの間に先生と一緒にアリウススクワッドが悪い大人に虐待されて操り人形にされていると言う事を説明した。
もちろん俺様が虐待されていたって過去や転生者であることは伏せた上で、だけどな。
その事を聞いた空崎委員長は複雑そうな表情をしつつもやはりそれでも怒りの方が勝っているようで、彼女達を救うことに関しては気が乗らない様子だった。
しかし、それでも彼女は「先生がそこまで言うならアリウススクワッドへの攻撃はしない。それに何よりケガをさせられた当事者であるタツミが許すなら私が出しゃばるべきではない」と言うことで、あくまでアリウススクワッドが攻撃してきた場合のみ俺様と先生を守るために戦うことを了承してくれた。
けど、ああは言ってもやはり強い怒りがあるのだろう。
「それでも、アリウススクワッドは先生やタツミ、私の部下やゲヘナの生徒、それにトリニティの生徒にだって多くの傷を付けてくれた……私は、それが許せない。」
手を強く握りしめ、その場でプルプルと震えながら怒りを堪えたようにそう言う空崎委員長。
……空崎委員長だって大切な風紀委員会の部下たちがミサイルに巻き込まれたり、ゲヘナの治安が良くなるはずだったエデン条約を壊されたことに対してアリウススクワッドに強い恨みや怒りがあるはずだ。
けど、それを飲み込んで俺様や先生の頼みを彼女は引き受けてくれている。
……本当に感謝しかない。
そして同時に申し訳ない。
アリウススクワッドを救ってやりたい、なんてのは極論を言えば俺様のただのワガママでしかない。
彼女達へ怒りを向ける人達は大勢いる。
そりゃ当然だろう、だってアリウススクワッドはエデン条約を破壊したテロリストなんだからな。
かく言う俺様だって連中に対して完全に恨みや怒りが無いと言えば嘘になる。
けど……それでも俺様は彼女達を助けてやりたいんだ。
俺様と同じ苦しみをこれ以上味わってほしくないんだ。
だから、これは俺様のワガママなんだ。
そんなワガママを自分の怒りを押し殺してまで引き受けてくれた空崎委員長には本当に感謝してもし切れない。
“……ヒナの気持ちは分かるよ。私だってアリウススクワッドに対して何も思わないわけじゃない。”
「先生……」
“……けど、タツミの気持ちもわかるからね。それにアリウススクワッドだって私が守るべき大切な生徒だ。それを子どもの事を道具としか思っていないような大人の元へ置いておくわけにはいかない。”
先生は拳を握りしめながら、決意したような表情でそう言い切る。
「……分かった。2人がそこまで言うなら私はもう何も言わない。約束は約束だから、私はアリウススクワッドを助けるために説得をする先生とタツミの護衛をする。」
“ごめんねヒナ、ありがとう。”
……本当に、空崎委員長は大人だ。
過去の自分と重なるって理由だけで、こんな未曾有のテロを起こしたテロリストであるアリウススクワッドを救おうとしているようなクソガキの俺様とは違って何倍も何百倍も大人だ。
本当に申し訳ない。それしか言葉が出てこない。
「……すみません、空崎委員長。」
「こっちこそ申し訳ないわタツミ。一度した話を蒸し返してしまって。」
「……いえ、空崎委員長の怒りはご尤もだと思います。俺様だって彼女達に怒りや恨みがないわけじゃありませんからね。必ず連中には罪を償ってもらいます。」
「……えぇ、そうね。」
俺様が申し訳なさそうにそう言うと、空崎委員長は苦笑しながらもそう言ってくれた。
「さぁ、行きましょうタツミ。貴方にはアリウススクワッドを説得するっていう大仕事がある。こんなところでへこたれている暇はないわよ?」
“うん、行こうタツミ。彼女達を助けに。”
「先生……空崎委員長……はいっ!行きましょう!」
本当に……本当に、今の俺様の周りには優しくて頼りになる頼もしい人達ばっかりだ。
俺様は2人に感謝しつつ、アリウススクワッドの元へと向けてひたすら歩を進めるのだった。
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救護騎士団の本部を出て、アリウススクワッドの待ち構えている瓦礫の山となった旧古聖堂へ辿り着いた俺様と先生と空崎委員長の3人。
「私には、好きなものがあります!」
そんな到着したばかりの俺様達の耳に、突然聞き覚えのある大きな声が飛び込んできた。
何事かと思いそちらの方を見ると、そこでは阿慈谷先輩が瓦礫の山の上に登って大声を張り上げている姿があった。
(……阿慈谷先輩?)
その後ろでは補習授業部のメンバーである白州先輩、浦和先輩、下江の3人がそれぞれ別の表情を浮かべて阿慈谷先輩を見守っている。
アリウススクワッドを追って1人戦いに挑んでいたはずの白州先輩はボロボロの状態だが、戦闘が不可能になるほどの大きな怪我を追っている様子は無い様子だった。
(……良かった。)
白州先輩に怪我がないことを確認した俺様はホッと息を吐き、胸を撫で下ろす。
正直状況的に仕方がなかったとは言えアリウススクワッドを1人で追いかけていった白州先輩のことはずっと心配していたからな。
ひとまず無事な姿を見れて心底安心した。
……そして、阿慈谷先輩の正面ではボロボロになったアリウススクワッドの4人が彼女と対峙している。
「平凡で、大した個性もない私ですが……自分の好きなものについては絶対に譲れません!」
……いや、流石に阿慈谷先輩が平凡っていうのは無理があるんじゃなかろうか。
だって彼女、白州先輩と海に行きたいからって正義実現委員会のクルセイダーを盗んでドリフトまで決める結構やべーやつだぞ?
……まぁでも、自分の好きなものに関しては譲れないってところはいかにも阿慈谷先輩らしいけどな。
「友情で苦難を乗り越え、努力がきちんと報われて、辛いことはお友だちと慰めあって!」
阿慈谷先輩は声を張り上げ、言葉を紡いでいく。
「苦しいことがあっても、誰もが最後は笑顔になれるような!そんなハッピーエンドが私は好きなんです!」
……そうだな。それは俺様も同じだ。
バッドエンドの物語なんて、今時流行るはずがない。
「誰が何と言っても何度だって言い続けてみせます!」
そう、バッドエンドなんてのは……
「私達が描くお話は、私達が決めるんです!」
前世の俺様の物語だけでいいんだから。
「終わりになんてさせません!まだまだ続けていくんです!私の、そして私達の……!」
その間にも阿慈谷先輩は語気をどんどん強め……
「私達の
そして、一番大きな声でそう言い放った。
気がつけば先程まであれだけ降り注いでいた雨は降り止み、真っ黒な雲で覆われていた空からは眩しいほどに輝いている太陽が顔を覗かせる。
それは、まるで瓦礫の山の上で声を張り上げる阿慈谷先輩を照らし上げるスポットライトのようだった。
「あ、雨雲が……」
「気象の操作……?いや、これは……」
「奇跡……ですか?」
「奇跡なんて無い!まさか戒律が……?」
俺様達の目の前で唖然としたような表情でそう呟く戒野と槌永。
状況が飲み込めずに困惑していると、先生は何も言わずにその場から歩き出してアリウススクワッドへ歩み寄っていく。
“そのとおりだよ、アリウススクワッドのみんな。”
そして、彼女達へ向けてそう発言した。
「なっ……貴様は!?」
そんな先生を見て、錠前は目を見開いて驚く。
それは後ろの3人も同じ様子で戒野や槌永、何故かマスクが割れて顔が半分見えている秤も同様の様子だった。
“今ここに宣言する、私達が新たなETO。エデン条約機構だ。”
「なんだと……!?」
先生はアリウススクワッドに向けて淡々とそう宣言すると、錠前は更に驚いたように声を張り上げる。
だが、その声色は動揺している様子がハッキリと伺えるほどに混乱したものだった。
「貴様、何をした!?」
“私が連邦生徒会長の代理として、新たなETOの設立を宣言したんだよサオリ。ここにはゲヘナとトリニティの、万魔殿とティーパーティーの生徒達がいる。そしてここはかつて古聖堂があった廃墟……私が権限を代行すれば、私達にだってETOの設立は可能だ。”
「なんだと!?」
“本当はこんな手使いたくなかったけど、こうなったらもうどうしようもないからね。大人のやり方には大人のやり方で。それで生徒達が守れるなら、やらない理由はどこにもない。”
先生は真剣そのものと言う表情を浮かべながら、キッパリとそう宣言した。
「まずいよリーダー。ユスティナの統制がおかしくなっている。」
「……!?」
「こ、混乱していますね……ETOを助けるというのが戒律ですが、今はそれが2つあって……」
槌永の言葉にハッとなって周囲を見渡すと、確かにユスティナの亡霊のようなシスター達は先程まで包囲していたゲヘナとトリニティの生徒と戦う手が確実に鈍っているように感じた。
……なるほど、これなら無限に湧き続けるであろうユスティナを無力化する事が出来るってわけか。
詳しい原理は分からないけど、これなら完全にアリウスを包囲しているこちらが圧倒的に有利だ。
アリウススクワッドに残された戦力は恐らくユスティナのみ、それを無力化出来たというのは大きいだろう。
しかし、先生も中々の策士だな。
済ました顔をして、結構えげつない事を考えるもんだ。
「知ったことかっ!!!」
俺様がそう考えていると、突然錠前がその場で洗浄全体に響き渡るほどの大きな声でそう叫んだ。
「ハッピーエンドだと!?ふざけるな!そんな言葉で世界が変わるとでも!?それだけでこの憎しみが、不信の世界が変わるとでも言うつもりか!?何を夢のような話を……!」
……まだそんな事を言ってるのか、錠前サオリ。
いい加減目を覚ませ、その憎しみがお前達が本来持って生まれたものなんかじゃ決して無い。
悪い大人から植え付けられた、偽りの憎しみなんだ。
「……空崎委員長、俺様は行きます。」
俺様は隣でデストロイヤーを携えながら佇んでいる空崎委員長に声を掛ける。
気がつけば、俺様は両手を強く握りしめていた。
いい加減、連中の目を覚まさせてやらないといけない。
そう強く決心しながら。
「えぇ。ただし、アリウススクワッドが先生やタツミに何かする素振りがあるなら即座に手を出すわ。」
「はい、よろしくお願いします。空崎委員長。」
淡々とそう言う空崎委員長に対して、俺様は軽く頭を下げる。
そして、その場から足を踏み出すと先生の隣まで瓦礫の山を踏みしめながら歩いていく。
「何がハッピーエンドだ!そんな戯言を……!」
頭を掻き毟りながらそう言う錠前をまっすぐに捉えつつ俺様はひたすら歩を進めていく。
そして、先生の隣まで辿り着くと……俺様は口を開いた。
「おいおい、趣味が悪いな錠前。今どきバッドエンドの物語なんて誰も望んじゃいねぇんだよ。」
「な……!?貴様は丹花タツミ!?」
俺様の言葉に、錠前は目を見開いて大きく驚いた。
まるで何故ここに居るんだと言わんばかりの表情だ。
「よぉ、さっきぶりだな。アリウススクワッド。」
「な、何故ここに居るんだ丹花タツミ!貴様はヒヨリの銃に撃たれて重症を負って撤退したはずじゃ……!?」
「あ?見くびってもらっちゃ困るな。あの程度の豆鉄砲で俺様がくたばるわけねぇだろ?」
歯をむき出しにして好戦的な笑みを見せながら、俺様は錠前へ向かってそう言い放つ。
「ま、豆鉄砲って……わ、私の使っている銃は20mm弾ですよぉ!?ヘイローのない貴方が食らったら、とてもじゃないけど無事じゃ済まないはずなのに……!」
「残念だったな槌永。いくら弾がデカいとは言え所詮は銃弾、俺様を殺したいなら次はロケットランチャーでも持ってくるんだな。」
「……」
「あ、有りえないでしょ……!」
「うわぁぁぁぁん!この人化け物ですぅぅぅ!」
……失礼だな、人を化け物呼ばわりすんじゃねぇよ。
まぁ正直死ぬほど痛かったし、俺様が生きているのは防弾チョッキと薬子先輩からもらった薬のおかげなんだけど今はそんな事を言う必要はないだろうからな。
「リーダー、まずいよ。先生と丹花タツミだけならともかく後ろにゲヘナの風紀委員長がいる。」
「くっ……ここでお前が来るのか空崎ヒナ……!」
戒野はこちらに空崎委員長が付いていることに気がついたようで、錠前と共に苦い顔をしているようだ。
まぁ無理もないだろう。
今アリウススクワッドの状況は圧倒的に不利。
そこへ空崎委員長が来たなんて連中にとっては泣きっ面に蜂もいいところだろうからな。
「えっ!?た、タツミさん!?」
「あ、こんにちは阿慈谷先輩。さっきの啖呵めっちゃかっこよかったですよ!」
「そ、そうですか?えへへ……」
阿慈谷先輩はこちらの事を見ると驚いたような表情を見せたが、俺様の言葉を聞くと顔を赤くして照れ始める。
うーん素直だ。実に阿慈谷先輩っぽい。
「ちょ、ちょっとヒフミ!」
そんな照れ笑いを浮かべる阿慈谷先輩に、下江が慌てたように声を掛ける。
阿慈谷先輩はその言葉にハッとなると、ワタワタと慌てながら口を開いた。
「はっ!そ、そうじゃなくてタツミさん!何故こんな所に居るんですか!?貴方は確か大怪我を負ったと先生から聞いているのですが……!」
「あぁそれならこの通りもうピンピンしてますよ。氷室先輩の治療技術に感謝しないといけません。」
俺様はなんでもないようにケロッとそう言う。
まぁ実際はまだ傷口は痛むんだけど、アリウススクワッドの前で弱みを見せる必要はないからな。
それに阿慈谷先輩達を心配させないって意味でも、ここは強がっておいたほうがいいだろう。
「ほ、本当に大丈夫なんでしょうねタツミ!?」
「心配すんな下江。俺様はもう大丈夫だ。」
俺様のことを気遣ってくれる下江に対して、笑顔を浮かべながら親指を立てる。
「ふふ、それだけ元気なら本当に大丈夫みたいですね。コハルちゃん、タツミくんが大怪我をしたって聞いた時は泣きながら取り乱していましたものね?」
「そっ、それを言うならハナコだってめちゃくちゃ狼狽えていたじゃないの!」
「……うふふ♡」
浦和先輩はそんな下江をいつも通りからかいつつも、下江からそう反論を食らっていた。
……やっぱ、補習授業部のみんなにも心配をかけちまっていたみたいだな。
本当に軽率なことをしたと反省するしかないだろう。
「タツミ……」
「ご無事でなによりです、白州先輩。お怪我はありませんか?」
「完全には無事じゃないけど、皆のおかげでなんとか軽症で済んだ。皆には感謝しないといけない。そういうタツミこそ、ちゃんと治療を受けられたんだな。」
「えぇ、奴にしっかり送ってもらいましたからね。」
「そうか。あいつには感謝しないとな。」
「はい、めっちゃ癪ですけどね。」
俺様と白州先輩は互いに言葉を交わすと、顔を見合わせて笑いあった。
「アリウススクワッドに話があって来ました、話をさせていただいてもいいですか?」
「もちろん。お前の思い、サオリ達にぶつけてやれ。」
「……はい!ありがとうございます、白州先輩!」
俺様がそう言うと、白州先輩は笑顔で頷いてくれる。
その言葉を受け取った俺様は白州先輩達に背を向けてアリウススクワッドへ向き直ると、一歩前へ出た。
ふと、マスクの割れた秤と目が合う。
初めて見る奴の赤色の瞳は……どこか諦めたような、それでいて悲しそうな表情を浮かべていた。
(秤……)
今から俺様がこいつらに言うのは一方的なワガママだ。
こいつらはもしかすると救済を望んでいないかも知れないし、アリウススクワッドを救いたいって気持ちは俺様の独りよがりで滑稽な気持ちなのかもしれない。
だけど、そんなの関係ない。
ここまで来たらもう理屈じゃない、感情なんだ。
そう、俺様はアリウススクワッドを救ってやりたい。
悪い大人の手から解放してやりたいんだ。
苦しかっただろう、辛かっただろう。
その苦しみは……必ずここで終わらせてみせる!!!
「さて……待たせたな、アリウススクワッド。」
「丹花タツミっ……!」
憎悪に染まった表情で俺様を睨みつける錠前。
「丹花タツミ!貴様は何故そこまで足掻く!そこに何の意味がある!?そんなボロボロの体でなおも立ち上がって、貴様は一体何をしようとしているんだ!」
「何をしようとしてるかだって?決まってんだろ。」
そんな錠前の視線から目をそらすことはなく、俺様はまっすぐに彼女の目を見つめる。
そして俺様は錠前に一歩近寄ると、右手を差し出した。
「お前達を助けに来た。アリウススクワッド。」
「なっ……!?」
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「まさか……アリウスにそんな事情があったとはな。」
「私達はどうするのが正解なのでしょう……ここで怒りに任せてアリウスを殲滅するのは簡単ですが、それを果たして正義と呼べるのか……」
「……だから何だというのですかマシロ。それでも彼女達がタツミさんを傷つけ、このような大規模なテロを引き起こしたのは事実です。事情が事情とは言え、許すべきではありません。」
「そうっすよマシロ。どんな理由があってもタツミくんを20mm弾なんて私たちでも最悪大怪我をしかねない物で撃っていい理由にはならないっす。」
「それに関しては私も同意見だ。のっぴきならない理由があったとは言え、償いはしてもらわないとならん。」
「やはりツルギもそう思いますか。」
「あぁ……だが、感情のままにアリウスを殲滅するのは辞めたほうが良いだろうな。」
「……っ!何故ですか!?アリウスはタツミさんに危害を加えたのですよ!?それなのに……!」
「落ち着けハスミ。言っただろ、連中には償いはしてもらわないといけない。無条件で許されるなんてことはあってはならないし、私がそんな事は認めない。」
「なら……!」
「……先生も言ってただろう。他ならぬタツミ自身がアリウススクワッドを救いたいと言っていると。お前はタツミの思いを無下にするつもりなのか?」
「それは……そうかもしれませんが……!」
「……気持ちはわかるっすよハスミ先輩。いくらタツミくん自身がアリウススクワッドを罪を償えば許すつもりでも、私は今腸が煮えくり返ってるっすから。」
「イチカ先輩……」
「イチカ……」
「けど、他ならぬタツミくん自身がそう言ってるなら私は彼の意見を尊重してあげたいっす。……それでも、私は納得行かないっすけど。」
「……そうですね。タツミさん自身が彼女達を許すというのであれば私達がどうこうできる話ではありません。」
「……分かりました。後輩たちもこう言っているのであれば副委員長である私が怒りに身を任せるわけには行きませんからね。」
「あぁ……私だって気持ちは同じだぞ、ハスミ。」
「えぇ、わかってますよツルギ。ただ今は……」
「……ユスティナを蹴散らすのが先決だな。先生の策も上手くいったようだ、連中の動きが鈍り始めている。」
「はい、行きましょう!」
「はいっす!」
「了解です!」
「さぁ行くぞ!かかってきな虫けら共ォ!!!」
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「アリウスにそんな事情があったなんてな……奴らも奴らで苦しんでいたってことか。」
「だからなんだと言うのですかっ!アリウスはタツミを攻撃して彼に大怪我を負わせたのですよ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着きなよアコちゃん……」
「これが落ち着いていられますかっ!だいたい先生も先生ですっ!悪い大人に虐待されているからアリウススクワッドを救いたいだなんて、タツミと揃ってどこまでお人好しなのですかあの二人は!?」
「だから落ち着きなって。私だってアコちゃんと同じ気持ちだよ。確かにアリウススクワッドの境遇には同情するけど、それで連中が犯した罪がチャラになるってわけじゃないだろ?」
「はい、イオリの言うとおりです。タツミくんに大怪我を負わせ、エデン条約を滅茶苦茶にした代償はしっかりと払ってもらわないといけません。」
「あぁ、そうだな。」
「本当は私だってアリウスに対しては境遇が境遇とは言え、許したくない気持ちのほうが強いです。けど、タツミくん自身が彼女達を助けたいと言うなら……彼を信じて尊重してあげるべきでしょうから。」
「チナツ……」
「……そうですね。私も少し頭を冷やしたほうが良いかもしれません。とは言え、ヒナ委員長やタツミを傷つけた罪は重いですよ、アリウススクワッド……!」
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「包囲作戦は首尾よく行って、ゲヘナとトリニティの部隊で古聖堂までアリウスを追い込むことは出来ました。先生の作戦も成功したようですし、あとはユスティナ聖徒会を無力化するだけですね。」
「はい!あとは先生とタツミさんの説得がうまくいくかどうか……ですね。」
「アリウススクワッドにそんな過去があるなんて知りませんでした……けど、何故先生はともかくタツミさんがその事に気づけたのでしょうか?」
(まさかとは思いますが、タツミさんは過去に……?いや、でも今の彼からはその様な様子は……)
「……サクラコ様?」
「はっ……す、すみませんシスターヒナタ。少し考え事をしていました。」
「そうですか?ならば良いのですが……」
「正直に言いますと、私は事情を聞いた今でもアリウススクワッドの事を許すのには抵抗があります。……ですが、タツミさん本人がお許しになるというのであれば私達はそのお手伝いをするだけですから。」
「マリーさん……そうですね。私もアリウススクワッドに関しては怒りのほうが強いですが、彼女達もまた救いを求めているのは事実。」
「はい。彼女達に必要なのは神罰ではなく救済……行きましょう、ヒナタさん。マリー。」
『シスターがそんな顔しちゃダメですよ。』
「……シスターフッドとして、今なすべきことを!」
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「ちょっと!タツミくんは無事なんでしょうね!?」
「お、落ち着きなってセリカちゃん……」
「落ち着いてなんていられないわよ!何よ20mm弾って!そんなもの、私達だって食らったら無事じゃ済まないのよ!?それをタツミくんが食らっただなんて……!」
「大丈夫だよセリカちゃん。おじさんこのテロが起きた直後にモモトークで先生に確認したけど、タツミくんは撃たれて怪我こそしてるけど今はもう動けるくらいには回復してるってさ。」
「……え!?ほ、ホシノ先輩それ本当!?」
「うん、本当だよ。だから落ち着きなって。それに、何も心配しているのはセリカちゃんだけじゃないしね。」
「……そうだよセリカちゃん。私だってタツミさんのことはすごく心配だから。」
「アヤネちゃん……」
「ん、タツミにはお世話になった。そんな彼を傷つけたアリウスのことは許せない。」
「はい!少しお仕置きが必要ですね〜♧」
「うんうん。もちろんおじさんだって彼のことは心配だよ。……風紀委員長ちゃんと一緒で、タツミくんにも助けてもらっちゃったしね。」
「ホシノ先輩……」
「だからさセリカちゃん。先生やタツミくんが何を考えているのかは正直おじさんにも分からないけど……私達は、私達にできることをやろう。」
「……そうね。こんなところでグズグズしている暇はないわ。先生やタツミくんがアリウススクワッドを助けたいって言うなら……」
「うん、その手助けをしてあげよ?……さ、行こうか!」
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「……おや?貴方達は?」
「始めまして私は山海経高級中学校で梅花園の教官を務めております、3年生の春原シュンと申します。」
「同じく1年生の春原ココナです。」
「ご丁寧にどうも。私はゲヘナ学園の救急医学部に所属している氷室セナと申します。……しかし、何故わざわざこの様な時に山海経の生徒がこんなところに?」
「えっと、私達は万魔殿に所属している丹花タツミくんに色々とお世話になっているんですけど……」
(……なるほど、またどこかで引っ掛けて来た女というわけですか。ゲヘナのみならずトリニティや山海経でまで粉をかけるとは……後で少しお説教が必要ですね?)
「先生からの情報でタツミさんが大きな怪我をしてしまったとのことなので、心配で山海経から飛んできました。タツミさんは今こちらに?」
「そうだったのですね。でしたら生憎ですが少し間が悪かったかと……先生とタツミは今、このテロの元凶をどうにかするために戦場へ出向きました。」
「えっ!?大丈夫なんですか!?タツミさんは怪我をしているんじゃ……!」
「はい。今は動けるほどにまで回復はしましたが、横っ腹に20mm弾を受けて緊急手術を行いました。」
「に、20mm弾!?私達でもそんなものを受けたらタダじゃすまないわよ……!?」
「そ、そんな状態で戦場に出るなんて無茶ですよ!」
「……私も何度も止めたのですが、どうやらタツミにはのっぴきならない事情があるようでして。貴方達は見たところ今到着したばかりのようですし……私から今回の券についての顛末についてご説明します。」
「そ、それはありがたいですが……よろしいのですか?」
「はい。タツミの関係者であるのなら貴方たちにも知る権利はあるでしょうから。」
「……分かりました。お願いします、セナさん。」
「はい。まずこのテロですが……」
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「大人から虐待を……ねぇ。」
「……ずるい、ずるいよ。そんな事を聞かされたら、優しいお兄ちゃんは絶対に許しちゃうもん。」
「イブキちゃん……」
「……マコト先輩。どうしますか?私はアリウススクワッドを許すことなんて出来ません。特にタツミに直接傷を付けたあのスナイパーに関しては。」
「それに関しては全くもって私も同感だ。正直、連中にはタツミに傷を付けてくれた礼をこのままたっぷりとしてやりたいのは山々だが、しかし……」
「当の本人であるタツミくんがそれを拒んで、彼女達を助けようとしていますからね。」
「……彼女達を助ける必要なんてありません。彼女達は確かに大人から虐待を受けていたかもしれませんけど、それがこんな事をしていい理由になるはずがない。」
「そうね。彼女達の境遇には思うところはあるけれど、それでもやっぱりこんな事をするのは良くないわ。」
「……ならどうする?タツミの意思を無視してアリウスの殲滅戦を行うか?」
「本当ならそうしてやりたいですよ。マコト先輩、私は今冷静に見えるかもしれませんけど……」
「あぁ、分かっているさ。内心は腹が立って仕方ないことくらい。私とてそれは同じことだからな。」
「……イブキは、お兄ちゃんがやりたいって言うならやらせてあげたいと思うな。」
「しかしイブキ……」
「アリウススクワッドのことはイブキは絶対に許さない。こんな事をしたし、お兄ちゃんに怪我もさせた。でも……お兄ちゃんがそうしたいなら、そうしてほしい。」
「……そうだな。イブキの言う通りだ。」
「……仕方ありませんね。あとでタツミには私が満足するまで膝枕の刑です。じゃないと許しませんからね。」
「あーっ!ずるいよイロハ先輩!イブキだってお兄ちゃんに膝枕してもらいたい!」
「ふふ、イブキはいつもやってもらってるではありませんか?たまには私に貸してもバチは当たりませんよ?」
「やだやだ!お兄ちゃんはイブキのなの!」
(……私も後でタツミに甘えさせてもらおうかしら。散々心配かけてくれたんだし、そのくらいしても許されるわよね?ふふっ。)
「よーし!ならまずは包囲したユスティナをしっかりと無力化しないとですね!」
「あぁ。行くぞお前たち。タツミに傷を付けてくれた礼、せめてユスティナに全力でぶつけてやれ!」