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「私達を助けに……だと!?」
「あぁ、そうさ。」
「何言うのかと思えば、この期に及んで良くもそんなふざけたことを……!」
「さっきお前らと戦った時も散々言ったけど、お前らの後ろに悪い大人がいることなんてお見通しなんだよ。」
更に錠前に一歩近寄り、俺様は語気を強める。
「ふ、ふざけるな!私達の後ろに大人など……!」
「いるに決まってんだろ。その【目】をしているのに俺様にそんなバレバレの嘘が通じると思うな。」
そもそも白州先輩が言ってたからな。
【マダム】とかなんとかって。詳細は分からないけど、そいつが黒幕なのは間違いないだろう。
「だ……だったらなんだと言うんだ!!!」
「お前達はそいつの命令で自分たちの心を殺し、やりたくもないこんなことをやってる……早い話が虐待されてるってことだ。そうだろ?」
「何度も言わせるな!私達の後ろに大人などいない!」
なんつーか、錠前も結構頑固な性格をしているよな。
経験者である俺様にはバレバレだっつってんだろうが。
「そもそも何故貴様が私達を助けるなどと言う訳のわからない思考になる!?私達は貴様を傷つけたんだぞ!?それでいて敵である私達を救うなど、ふざけるのもいい加減にしろ!!!」
「ふざけてなんかいねぇよ。俺様は至って真面目だ。」
あぁそうさ、ふざけてなんかいない。
バカにしたければいくらでもすればいいさ。
そんなことくらいで俺様がお前達を助けるのを辞めると思ったら大間違いだぜ?なぁアリウススクワッド。
「お前達に言いたいことは戦ってる最中に散々言ったけどよ……なぁ錠前。秤。戒野。槌永。お前らさ……辛かっただろ?苦しかっただろ?」
「……!」
「お前達がどのくらいの時から【そいつ】に支配されているのかはわからないけどよ、やりたくもない事をやらされて、自分の心を押し殺して、逆らうことも出来ずにそいつに従い続けることが苦しくないわけがない、辛くないわけがない。」
俺様の言葉に秤の体が跳ねる。
そう、辛くないわけがない。
こいつらは今だって苦しみ続けているんだ。
本当は泣きたいはずだ、もうこんな事辞めたいはずだ。
それでもこいつらはテロを続けている。
後ろにいる悪い大人に逆らうことが出来ないから。
そうすることでしか自分達の身を守れないから。
そうしないと、明日を生きることすら出来ないからだ。
……まったく、本当に反吐が出る。
子どもはてめぇらの思い通りに動く道具じゃないんだ。
そんな気もしらねぇで、きっとこいつらを裏で操っているやつはいまも呑気な顔をしているのだろう。
……許さない。必ずしばき倒して、ヴァルキューレに突き出して一生をかけて償ってもらうからな。
「俺様には痛いほどよく分かるって言ったよな?分かるさ、俺様だって経験者なんだからよ。」
「だから……だからなんだと言うんだ!?」
「ここまで言っても分からないか?……これ以上お前達にそんな思いはしてほしくないってことだよ。」
「……!!」
俺様は言葉を続ける。
「いいか錠前、お前はバカの一つ覚えみたいに虚しいって言ってるけどよ。そんなわけがないだろうが。」
「ふざけるな!殺意と憎しみに満ちたこの世界であらゆる努力は無意味!虚しさこそこの世界の真実だ!」
「……それが虐待されている大人から植え付けられた、偽りの虚しさだったとしてもか?」
「なんだと……!?」
……本当は分かってんだろ?錠前サオリ。
じゃなきゃ、俺様の言葉にそんなに狼狽える筈がない。
「いいか錠前。世界は虚しくなんて無い。俺様にもそう思ってた時期はあったけど、変わることが出来た。」
俺様はこの世界に来て、たくさんの大切な人達からたくさんの大切なものをもらった。
そのおかげで前世の事でスレることなくまっすぐに育ち直すことが出来た、変わることが出来たんだ。
「アリウススクワッド、お前達は過去の俺様だ。大丈夫だ、きっと変われるさ。安心しろよ、ここにはお前達を守ってくれる先生だっているんだからな。」
「うるさいうるさい!やめろ!もうやめてくれ!」
錠前は頭を抱えながら手にしたアサルトライフルを地面に落とすと、そのまま膝を付く。
俺様はそんな錠前の元まで近寄ると、目の前に同じように膝を付いて視線を合わせると手を差し伸べる。
「錠前、俺様の手を取ってくれ。そりゃお前達は許されないことをしたぞ?こんなクソみたいな事をしたんだからしばらくは矯正局で反省しなきゃいけないだろうけど、それが終わったらまた一から歩き出せばいい。その権利はお前達にだってある。」
「言っただろう!私達はもう戻れないんだ!こんな人殺しを受け入れてくれる場所なんてあるわけがない!」
「……安心しろ、そんなことはねぇよ。罪を償うって約束できるなら俺様はお前達を受け入れてやる。」
錠前、人は一度の過ち程度で終わりゃしないんだぜ?
そりゃ錠前達がこんな未曾有のテロを引き起こした犯罪者ってのは事実だし、もしかしたら悪い大人の指示で本当に人だって殺しているのかもしれないけど……
お前達がキッチリ罪を償うと言うのであれば、再び人生をやり直す権利はあるのだから。
「そりゃ生きてりゃ苦しいことはあるぜ?けど、それ以上に楽しいこともたくさんあるんだ。お前達にだってきっとやりたいことが見つかるはずだ……だから、一緒に行こう。アリウススクワッド。」
嘘偽りのない、俺様の心からの本心。
錠前は涙を流して一瞬手をこちらへと伸ばすが、やがてハッとしたような表情になると俺様の手を跳ね除ける。
「ふざけるな!騙されないぞ!」
「……この期に及んで何を騙す必要があるんだ?」
「私達を救うなど世迷言を抜かすな!敵を助けたいなどというバカがどこにいるんだ!」
「お前の目の前にいるだろ?この手が見えないのか?」
「信じられるか!敵の手など取れるわけがない!」
錠前はそう言って叫ぶが、傍に落としているアサルトライフルを拾い上げようともせずに俺様の目をまっすぐに見据えてきている。
……濁りきった目だ。
恐怖、諦め、怯え等色々なものが混ざっている、まさにこの世に希望なんてないって確信したような目。
けど、それと同時にどこか救いを求めているような目。
俺様は散々こう言ってるが、錠前の気持ちも分かる。
錠前の立場を前世の俺様だと仮定して見てみると、本来なら敵であるはずの人物が大怪我をさせたにも関わらず自分を助けよう等とのたまっているのだ。
そりゃそう簡単には信用できるはずもないだろう。
それは分かっている……分かってるけど……
頼む、信じてくれ錠前。
俺様はお前達を傷つけるつもりはない。
「貴様が何を思っているかは分からないが、その行為は善意じゃない!自身が誰かを救うことで、ただ自己満足しているだけの1人遊びにすぎないだろう!?」
……そうだな。それは否定できないかもしれない。
実際、アリウススクワッドを救うことに関しては殆どの人達が反対ないし懐疑的な目を向けているのは事実。
そう考えるとこれは俺様の自己満足なのは間違いない。
「丹花タツミ、貴様はヒーローなどではない!ただ自分に酔っているだけの、薄汚い偽善者だ!」
「はは……偽善者か。」
……確かに、そうなのかも知れないな。
俺様は前世では満たされなかった親からの愛を埋めるために人助けを始めたけど、それは人の事を思ってではなくて自分が足りないものを埋めるための行動だった。
だからそういう意味では俺様は偽善者だったのだろう。
「確かに、俺様のこの行動は偽善なのかもしれない。」
今だって、余計なお世話だって言われることもある。
善意の押しつけをしていたこともあるかもしれない。
だけど……それでも……!
「……けど、けどな!お前達を助けたいってこの気持ちに嘘はねぇんだよ!」
そう、この気持ちだけは嘘じゃない。
信じてもらえなくたって良い、たとえどれだけお前達から罵声や懐疑的な目を向けられたって構わない。
そもそも錠前や秤達からすれば俺様や先生は敵なんだ。
そりゃ信じれるわけがないだろう……けどな!
「偽善だってなんだっていい!例えこの気持ちが偽りのものだって構わない!それでも、俺様はもうお前達に苦しんでほしくない!幸せになってほしいんだ!大人に支配されなくてもいいって知ってほしい!世界は虚しくなんてねぇって分かってほしいんだ!これ以上、俺様と同じ目に合ってほしくないんだ!!!」
俺様は声を張り上げ、両手を広げて訴える。
「そりゃお前達は敵だ!俺様に銃弾をぶちこんでくれやがって何も思わないわけがない!正直に言うと恨みだって怒りだってある!よくもエデン条約をぶち壊しやがったなとか!羽沼議長を騙しやがったなとか!ゲヘナとトリニティの生徒を数え切れないほど傷つけてくれたなとか!一緒に戦ってくれたワカモを傷つけようとしてくれたなとか!俺様の苦労を水の泡にしてくれたなとか!」
叫ぶ、叫び続ける。
「けど!それでも!俺様はそれ以上にお前達にもう苦しんでほしくないんだよ!言っとくけどな、俺様は例え何と言われようがその程度でお前達を助けることを諦めるほど意思の弱い男じゃねぇぞ!」
錠前の両肩を掴み、俺様は声を張り上げる。
「だから……一緒に来い、錠前!アリウススクワッド!俺様がお前達をマダムとか言うクソ野郎から守ってやるよ!安心しろ!お前達には指一本も触れさせねぇ!」
そして、錠前の目を真っ直ぐに見据えながら俺様はハッキリとそう言い切った。
錠前は一瞬だけ俺様を鋭い目で睨みつけてきたが、やがて瞳から透明なものがにじみ出てくる。
「何故だ?私はお前を殺そうとしたんだぞ?お前に私達を助ける義理なんて……」
「言っただろ、お前達は過去の俺様なんだよ。お前たちの抱えてる辛さは……誰よりも分かってるさ。」
そう言って、俺様は錠前の頭に手の平を置いた。
「……良く頑張った。あとは俺様達に任せろ。」
「……っ!」
俺様は笑顔を浮かべながらそう言う。
錠前は一瞬大きく目を見開いたかと思うと、彼女の目からは大粒の涙が溢れ出て来ていた。
「リーダー……」
「サオリさん……」
そんな錠前を心配したのか、後ろで俺様たちのやり取りを見守っていた戒野と槌永が錠前の横へ出てきた。
「もうユスティナ聖徒会はまともに動作していない。ETOが2つになった時点で戒律は意味をなくしつつある。」
「残った聖徒会も、アンプロジウスも……もう……」
「手札がないね。私達の負けだ。」
そう言うと、戒野は手にしていたスティンガーミサイルを地面に投げ捨てるとその場で両手を上げた。
続いて、同じように槌永も携えていたスナイパーライフルを地面に置くと控え目に両手を上げる。
「……サオリ、もう諦めよう。」
「……白州先輩?」
俺様が錠前の頭を撫で続けながらそんな彼女達を見つめていると、いつの間にか白州先輩が俺様の隣まで歩み寄ってくるとその場にしゃがみ錠前に視線を合わせる。
その後ろからは補修授業部の面々と空崎委員長がこちらを心配そうな目で見つめていた。
「もうこんな事は辞めるんだ、サオリ。」
「アズサ……どうして、どうしてお前だけ……私達は一緒に苦しんだじゃないか。絶望したじゃないか。この灰色の世界に。全てが虚しいこの世界でお前だけが意味を持つのか……?お前だけが青空の下に残るのか……?」
……もう無理をする必要はないんだ、錠前。
お前だって青空の下に残ったって良いんだ。
だから羨ましがらなくて良い、恨まなくてもいい。
もうそんな必要なんてねぇんだからよ。
「……私だけじゃない。サオリたちだって残れるし、変われるよ。例え世界が虚しくても、私はそこからまた足掻いて見せる。だから……一緒に行こう、みんな。」
白州先輩はそう言って微笑むと、涙を流す錠前に真っ白な右手を差し伸べた。
「もう終わりにしよう、錠前。お前達だって前を向いて良いんだ。だって世界は虚しくなんてない、希望に満ち溢れてるんだから。」
俺様は先程まで大量の雲で覆われていたにも関わらず、今は雲一つなくさんさんと太陽の輝いている大空を見上げながらそう言った。
……そう、あの大空みたいにお前たちの心にかかった分厚い雲だってきっと晴れるときが来るさ。
きっと、お前達にだって熱中できる物が見つかる。
きっと、お前達にだって大切な人が見つかるはずだ。
そして……お前達を守ってくれる頼りになる人もな。
「……私達の負けだよ、アズサ。ヒーローさん。」
錠前に向かって手を差し出し、それを掴もうとしている錠前を見ながらそんな事を考えているときだった。
突如、錠前達の横に仮面の割れた秤が歩み寄ってくる。
彼女は誰が見ても分かるほどにはボロボロであり、正直怪我の具合で言えば俺様よりもひどいんじゃないかと言う有り様だった。
「姫!?だ、ダメだ!喋ると彼女が……!」
(……喋るとなにかまずいのか?)
「大丈夫、もう全部終わりだから。」
秤は手にしたサブマシンガンをゆっくりと地面に置くと、そのまま3人と同じく両手を上げた。
「それにどちらにせよ、彼女は私を生かしておくつもりは無かったはず。だから良いの。」
「……どういうことだ?秤。」
「事情があるの……結構複雑な事情がね。」
「……?」
さっきから秤の言っている言葉の意図が読めない。
どういうことだ?何故秤が喋るとマズい?
……と言うか、こいつは俺様とやり合っている時に普通に話していたよな?
見たところ秤は目も見えているようだし、耳も普通に聞こえているようだ。なら手話を使う意味は薄いはず。
にも関わらず秤は手話を使ってアリウススクワッドと意思の疎通を図っていた。
……何か理由があるんだろうな、間違いなく。
「もうやめよう、サオリ。」
「……やめる?アリウスに帰るということか?帰ったところで私達は殺されるだけだぞ?」
錠前は秤に向かって何もかもを諦めたような表情でそう言った。
……クソ、どこまで外道なんだ。マダムとかいう野郎は。
お前にとっちゃ作戦を遂行できなかったやつは自分の手元に置いておくことすら許せない程器が小さいのか?
こいつらを殺す?
そんなの、俺様が許すわけがねぇだろうが。
「……だから逃げよう、一緒に。」
「逃げる……?」
「うん。アズサが……そして、そこでサオリに必死で呼びかけてくれたヒーローが教えてくれた。いつからか持っていたこれは……私達の憎しみじゃないって。」
「秤……お前……」
秤は割れたマスクから真っ赤な瞳をのぞかせ、俺様の目を真っ直ぐに見つめながらそう言ってくる。
「この憎しみを私達は習った。それからずっと、私達のものだと思いこんでいた。アズサはきっとそれに気づいたんでしょう?」
「……うん。」
「アズサは色々なことを学び、様々な経験を得た……いい大人に出会えたんだね、アズサ。そして自分のいるべき場所を見つけた。だから、みんな。」
秤はそこまで言って言葉を区切ると、一旦息を吸う。
そして、言葉の続きを口にした。
「……逃げよう。この場から、アリウスから。いつの間にか植え付けられた、私達のものじゃない憎しみから。」
「逃げるだなんて……そんな……」
「……いや、秤の言うとおりだ錠前。」
俺様は折っていた膝を伸ばして立ち上がると、秤へ一歩近寄りながらそう言う。
「秤の言う通り、その憎しみはお前達が本来持ってるもんじゃない。悪い大人から押し付けられた犬も食わないようなクソみたいな価値観でしかない。そんな何の価値もないものからは逃げたって良いんだ。」
「だ、だが……」
「別に逃げるのは恥じゃないぞ?そんなアホみたいな教えを守っていたらお前達が壊れちまう。実際、もうお前たちの心は限界を迎えてるみたいだしな。」
俺様はアリウススクワッド1人1人の表情を確認しつつそう言葉を続けた。
錠前も、秤も、戒野も、槌永も……どいつもこいつも、今にも死にそうな顔をしていやがる。
きっとこいつらの心は今にも折れそうになっているのだろう、それを悪い大人から教えられた偽りの虚しさや憎しみを無理やり真実だと思いこむことで自分達の心をギリギリの部分で繋ぎ止めていた……そんな所だろうな。
……ふざけやがって。
どれだけこいつらを追い詰めれば気が済むんだ。
「だから逃げたっていいんだ。むしろ逃げてくれ。その偽りの憎しみと、お前達が抱えてる絶望からな。それは決して悪いことじゃない、敵前逃亡じゃないんだ。」
「丹花タツミ……」
「……けど、偽りの憎しみから逃げるのは一向に構わないがこっから逃げ出すってのは無しだぞ?なぁ秤。」
俺様はそこまで言うと、秤の方を向き直る。
「お前、さっきこの場から逃げるって言ってたよな?悪いけどそれは許可できねぇな。お前達は確かに被害者だけど、同時にこんなテロを起こしやがった加害者でもあるんだ。責任は取ってもらうし、矯正局へ入ってしっかり反省もしてもらわなきゃならねぇ。」
そう、こいつらを許すためにはまず最低限反省と償いをしてもらう必要がある。
俺様はこいつらを許してやりたいし救ってやりたいと思うけど、それも矯正局で更生することが前提だ。
もしこいつらが反省する気などまったくないのであれば問答無用でこの場でボコボコにした挙げ句、ヴァルキューレに突き出してやるつもりだからな。
「お前達は逃げていいし、救われても良い。けど責任や犯した罪から逃げることは……この俺様が許さねぇ。」
「それは私も同じ意見だアツコ。皆には幸せになってほしいけど、それはそれとして皆はやってはいけないことをしてしまったから……私が言えた義理ではないが。」
俺様の意見に、白州先輩も同意する。
「……そうだね。分かったよアズサ、ヒーローさん。」
秤は俺様の言葉に少し考え込むような表情を浮かべていたが、やがて少しだけ笑みを見せるとそう言った。
……こいつの笑った顔は初めてみたけど、やっぱり女の子には険しい表情よりも笑顔のほうが似合うと思う。
「ってか、さっきからそのヒーローって呼び方辞めてくれないか?俺様はただのゲヘナの生徒であって、別にヒーローでもなんでもないんだが。」
「ううん、貴方はヒーローだよ。だって先生達を守るためにたった1人で私達に立ち向かって、怒りに任せて叩き潰さずに事情を汲み取って、怪我をさせられた相手を助けてくれようとしているんだもん。」
「……それはお前達が過去の俺様と同じ境遇だったからだよ。虐げられる辛さは誰よりも分かってるからな。」
「それでも、普通は自分のことを傷つけた相手の事を助けようなんて気にはならないよ。……ありがとう。」
「……なに、礼には及ばないさ。」
薄く笑みを浮かべる秤に対して、俺様は笑顔を浮かべながら親指を立てた。
何と言うか姫って呼ばれていて戦闘でもスクワッド全員から守ってもらうように戦っていたからてっきり箱入りのお嬢様なのかと思ったけど、どうやらこいつらの中で一番現実が見えているのは秤だったようだな。
「怪我は大丈夫か?」
「うん。流石にちょっと痛いけど、このくらいなら大丈夫。爆弾を食らったくらいじゃ私は死なないよ。」
何と言うか、流石キヴォトス人だとしか言えないな。
生身の人間が爆弾なんて食らったらそれこそ木っ端微塵なんだけど、まぁ深くは考えないでおこう。
……さて、そんなことよりも。
「さぁ立てよ錠前。一緒に行こう。」
俺様は秤から視線を外して錠前の元まで歩いていき、彼女の前でしゃがみ込むと改めて右手を差し出した。
「いいのか?私達はテロリストだ。こんな血に塗れたような、汚れた手でお前の手をとっても……」
「何度も言わせんな。お前達がしっかり今回のことを矯正局の中で反省する気があるなら、俺様はお前達を受け入れてやる。……な?先生。」
“……うん。タツミの言うとおりだよ。”
俺様は後ろで黙ってこちらのやり取りを見守っていてくれていた先生に話を振ると、先生はそう言葉を返して歩き出しそのまま俺様の横までやって来る。
“確かに君達は許されないことをした。でも、子どもが一度の失敗で未来が閉ざされるなんてことがあってはいけないんだ。大丈夫、君達の後ろにいる大人からは私が必ず守ってみせる。約束するよ。”
先生は自分の大きな胸を拳で叩きながら、アリウススクワッドを安心させるような笑みを浮かべて見せる。
「さ、いつまでもそうやって地面に座り込んでる場合じゃないぞ。お前には自分の足で立って歩いてもらわなきゃならないからな。」
「あぁ、タツミの言う通りだ。行こう、サオリ。」
「アズサ……丹花タツミ……!」
気づけば、錠前はいつの間にか目に涙をいっぱいに溜めて顔をクシャクシャにして泣きじゃくっていた。
俺様は白州先輩と顔を見合わせて頷くと錠前の右手を白州先輩が、左手を俺様が掴んで彼女を引っ張り上げる。
「ほら、使えよ。」
そして俺様は万魔殿のジャケットのポケットに手を突っ込むと、ハンカチを取り出して錠前へと渡した。
「……いいのか?」
「何いってんだ、当たり前だろ。」
「いや、でも……」
「遠慮すんなって、ほら。」
俺様は遠慮してハンカチを受け取ろうとしない錠前の腕を掴んで引き寄せると、手の平にハンカチを握らせる。
「別に、後で洗って返してくれりゃいいいからさ。」
「……すまない。」
「謝る必要なんてない。それと、そういう時はありがとうっつーんだ。ほら、言ってみ?」
「……ありがとう。丹花タツミ。」
錠前は俺様の言葉を聞いて不器用ながらも笑顔を作り、たどたどしいながらもしっかりとそう言った。
(……やっぱり、女の子には笑顔が似合うよ。)
それを見た先生や白州先輩の顔にも笑顔が浮かぶ。
心無しか、笑顔を浮かべている錠前の瞳は濁りきった中にも少しだけ光が宿っているように見える。
……良かった。本当に良かった。
もうこれ以上、こいつらが俺様と同じ苦しみを味わうのだけは絶対に許せなかったからな。
もちろん、すぐに錠前達に根付いた怒りや憎しみを消し去ることは出来ないだろう。
けど、彼女達はここからが本当のスタートなんだ。
あとは矯正局の中でしっかりと自分の罪と向き合って、青空の下での過ごし方を学べば良い。
彼女達はもう、理不尽な憎しみに縋りながら自分で自分の身を守る必要はない。
少しづつ、少しづつ。世界の色を知っていけば良い。
彼女達の世界はもう灰色ではないのだから。
「おう、気にすんな。このくらいお安い御用だ。」
「あ……あのぅ……」
「……ん?」
号泣して白州先輩に頭を撫でられている錠前を見ながらそんな事を思っていると、槌永が俺様に近寄ってきたかと思うとおずおずと声を掛けてくる。
それを見た空崎委員長は即座に手にしたデストロイヤーの引き金に手を掛けるが、俺様は彼女を手で制すると酔ってきた槌永へとこちらも一歩歩み寄る。
「どうした槌永?」
「そ、その……今更こんな事を私が言えた義理ではありませんが、すみませんでした。」
「ん……?何の話だ?」
「いえ、その、あの時に私は貴方をこの銃で撃ってしまいました。だからその、謝って許されることじゃないとは思うんですが、その……」
「あぁ……そのことか。いや、別にお前が謝罪なんてする必要はどこにもないぞ?」
「え、えぇっ!?」
俺様がサラリとそう言うと、槌永は目を見開いて驚愕したような表情を浮かべる。
「そ、それはもしかしてお前なんて許す価値もないから謝らなくてもいいってことですかぁ!?」
「……は?」
そして、槌永はワタワタと慌てながらそんなことを口走り始めた。
「や、やっぱりあんなこと言っておきながら許すつもりなんてないんですねぇ!?」
「は?いや違うって!?おい落ち着け槌永!」
「で、でも仕方ないですよね……私はタツミさんを20mm弾なんて物で撃ったんですし、許されないのは……」
「だーもう!落ち着けってば!」
おい錠前!お前こいつのリーダーだろ!?
早くなんとかしてくれ!
「アズサ……すまない……!」
くっダメだ!こいつ白州先輩の胸で号泣してるから今は頼れそうにねぇ……!
いやまぁそれ自体はめちゃくちゃ感動的な光景で微笑ましいのは間違いない。
「うわぁぁぁぁぁん!」
槌永がこんな状態じゃなければの話だけどな!
くそ、このままじゃ埒が明かない。
そう判断した俺様は、槌永の頭に手のひらを置いた。
「ふぇ?」
「……とりあえず落ち着け槌永。」
俺様の手の平が頭に乗った事で槌永は泣きわめくのを辞めて、俺様のことを口をポカンと開けながら見つめてくる。
……よし、なんとか落ち着いてくれたようだ。
正直この歳の女の子に気安く触るのはどうかと思うんだけど、なんかこいつからは末っ子属性というか妹みたいな雰囲気を感じたためついつい頭を撫でてしまった。
……まぁ、今はそんな事はどうでもいい。
「え?え?あ、頭を撫でて……?」
「勘違いすんな槌永。お前に謝らなくていいって言ったのは許さないって意味じゃない。」
「え?で、でもそれならどうして……」
「あの時は俺様もお前達も互いの命をかけて戦っていたんだ。なら敵を倒すために銃弾を相手へ撃ち込むのは当たり前だろ?それに、それを言うなら俺様は散々錠前や秤を盾で殴ったし散弾もブチ込んだからな。むしろ謝るなら俺様の方じゃないか?」
「あ、貴方が謝る必要がどこにあるんですかぁ!?」
「いや、たとえ話だから本当に謝る気はないぞ?」
「で、でも謝るというのなら仕方ありませんよね……しっかりとその謝罪を受け取りましょう!」
……こいつ、さては人の話を聞かないタイプだな?
「……おい、お前だけ問答無用で永久に矯正局にブチ込んでやってもいいんだぞ?」
「うわぁぁぁぁん!血も涙もないですぅぅぅ!!!」
少しドスの利いた声で俺様がそう言うと、槌永は何故か俺様の手の平にグリグリと頭を押し付けながらそう言って再び泣きわめき始めた。
「お、お前なぁ……」
……ったく、図々しいと言うかふてぶてしいと言うか。
何と言うか、アリウスで育っているはずなのに妙にポジティブ思考な気がするんだよなこいつ。
……まぁ、ネガティブ思考よりはよっぽどいいけど。
「はぁ……ま、銃で撃たれた件に関しては俺様はこれっぽっちも気にしてねぇよ。今は治療も終わってある程度は回復してるしな。だからまぁその、安心しろよ。」
「え、えへへ……あったかいですね……これが人の温もりというやつなんですね……」
「おい人の話聞けやコラァ!お前の矯正局の中でのメシを3食もやし弁当にしてもいいんだぞ!?」
「うわぁぁぁぁん!やっぱりこの人鬼畜ですぅぅぅ!」
「誰が鬼畜だお前コラァ!!!」
「……何やってんの、2人共。」
「……ふふっ。」
おい、そんな呆れた目でこっちを見るな戒野。
と言うかお前のチームメイトだろうがこいつ、呆れている暇があるならさっさとなんとかしてほしいんだが?
あと秤今笑っただろてめぇ!くそ!後で覚えとけよ!
(……まぁ、でも。)
白州先輩の胸で号泣し、憑き物が落ちたように泣きじゃくる錠前。
俺様の手に頭を押し付けて泣きわめきながらも、どこか楽しそうな表情を浮かべる槌永。
そんな彼女達を見つめる戒野も相変わらずクールなものの口元が少し上がっているのが見える。
そして、そんな彼女達を見て嬉しそうに笑う秤。
……こいつらが笑えて良かった。
偽りの虚しさから解放されて良かった。
心からそう思う。
ーゴゴゴゴゴゴゴゴゴー
「……ん?」
そう思い、心の底から安堵しているときだった。
突如、俺様たちの立っている地面が激しく揺れ始める。
「な、なんだ!?地震か!?」
「こんな時に地震!?」
「いや違う……これはまさか……!」
あまりにも唐突な揺れに補習授業部や空崎委員長を含めたこの場の面々が困惑していると、秤がなにかに気づいたようにハッとした表情でそう呟いた。
その顔には明確な焦りが含まれている。
「秤……!?なにか知ってるのか!?」
「私の予想が正しければ、これは地震じゃない。これは恐らく、あの木の人形の……」
「木の人形……!?どういう事だ……!?」
良くわからないことを口走る秤に対して、俺様が更に質問を投げかけようとした瞬間だった。
ードゴォォォン!!!ー
突如、俺様たちの立っている場所から少し離れた場所の地面が何の前触れもなく爆発した。
俺様は即座に折りたたみシールドを展開すると、槌永を引き寄せてそのまま先生の前に立ち盾を構える。
あっという間に周囲を土煙が舞って視界を覆い隠し、瓦礫が周囲に飛散して盾にぶつかる音が反響する。
「くっ……」
盾から伝わってくる衝撃に腹の傷を刺激され、俺様は一瞬顔をしかめるが盾を持つ手に力を入れ踏ん張る。
“タツミ!?戦闘行為は禁止だって言ったでしょ!?”
「そんな事言ってる場合じゃねぇだろ!それよりも無事か先生!?怪我は!?」
“……タツミが守ってくれたおかげでしてないけど、あとでお説教だからね?”
「……お手柔らかに頼む。」
明らかに怒気を含んだ先生の言葉に冷や汗をかきながらそう応えた俺様は、盾の後ろに先生を隠し続ける。
あ、そう言えば反射的に行動したせいで槌永を抱きかかえたままやっちまったな。
……申し訳ないことをした、後で謝っておこう。
「あ、あわわわわ……!」
なお、何故か槌永は目を回して顔を真っ赤にさせているようだけど……熱でもあるのだろうか?
(……あとで氷室先輩に診察してもらおうかね。)
そんな事を考えているうちに徐々に土煙は晴れていき、全員の視界が段々とクリアになっていく。
「くそ、一体何が……!」
俺様がそう言いつつ、盾から顔を出した瞬間だった。
何の前触れもなく目に入ってきた【それ】を見て、俺様は言葉を失う。
そして、それはその場にいる全員も同様だった。
(……!?)
脳が理解を拒んでいる。
そんな得体の知れない【そいつ】は、そこにいるのがさも当然かのような立ち姿でその場に佇んでいた。
小さめのビル程はあろうかという背丈。
図体の割には細すぎる腕が、奴からは4本も生えている。
そいつは全身に真っ赤なローブを身に纏い、まるでシスターが祈りを捧げる儀式かのように両手を胸の前で組んでいるが……その手は明らかに人間の手ではなかった。
4本の腕のうち胸の前で組んでいない方の腕には装飾の施された槍のような武器を持っており、背中にはバカデカイ金色の飾りなような物を背負っている。
ローブを被っているせいで表情は確認出来ないが、奴の顔は真っ黒で見ていると吸い込まれちまいそうな……
まるで、暗闇のようだった。
俺様がキヴォトどころか、少なくとも前世を含めて今まで生きてきた中でも初めて見る理解不能な存在。
正真正銘の巨大なバケモノが……そこにはいた。
「なんだ……こいつは……!?」