ヒエロニムスを前にしたタツミはどうするのか
突如古聖堂の地面を突き破り、俺様たちの前に姿を現した赤いローブを羽織った巨大なバケモノ。
そのバケモノを前にして、俺様達は言葉を失っていた。
(な、なんだこいつは!?)
俺様は内心で舌打ちをしつつ即座に盾を構え直すとブークリエにマガジンを差し込んでチャージングハンドルを引き、チャンバーに弾丸を送り込む。
そして、そのまま銃口を目の前のバケモノへ向けた。
「こ、これは……!」
「まさか……あの教義が完成した……?」
(教義だと……?)
俺様が盾の後ろに先生を隠しながらバケモノを睨みつけてると、秤の口から聞き慣れない言葉が飛び出す。
……どうやら、秤はこいつの正体を知っているようだ。
「いや、でも……これはレベルが違う……!」
「どういうことだ……!?」
秤の焦ったような言葉に、錠前も焦りを見せながらそう口走る。
「先生、どうする?」
“なるほど……どうやら反則みたいだね。”
先生の指示を仰ぐためにそう問いかけると、先生はバケモノを睨みつけながら胸のポケットへ手を入れる。
そしてそのままポケットから1枚のカードを取り出した。
“出来たら出さないで終わらせたかったけど……”
先生はそのカードを苦い表情で見つめつつそう言った。
太陽の光に反射され、キラキラと光る1枚のカード。
その輝きは今この場ではとても頼もしく見えると同時に……どこか危うさも孕んでいるように感じた。
なんだろう、あのカードを先生に使わせてはいけないような気がする。うまくいえないけど、何と言うか……
あのカードを先生が使うと、なにか取り返しのつかないことになってしまうような……そんな予感がした。
「……先生。指示をもらえるかしら?」
そんな事を考えていたときだった。
今まで俺様たちの一歩後ろで事の顛末を見守ってくれていた空崎委員長が、愛銃のデストロイヤーを構えながら俺様の横に並び立った。
“……ヒナ?”
「あのバケモノが一体何なのかは分からないけど、あんなモノを野に放つわけにはいかない。必ずここで始末しないといけない……そうでしょう?」
……確かに、空崎委員長の言うことはご尤もだ。
あのバケモノは手にしている槍を俺様達の方へ向けて突きつけてきているし、外見だけで判断するのはアレだけどどう考えたって有効的な存在には到底見えない。
あんな物をキヴォトスに放つわけにはいかないだろう。
必ずここで仕留める必要がある。
“ヒナ……それはありがたいけどアレは……”
「問題ない。あの程度のバケモノよりもゲヘナの温泉開発部や美食研究会の方がよほど骨がある。伊達に普段から問題児たちとやり合ってないわ。」
空崎委員長はどこか誇らしげな表情を浮かべながらハッキリとそう言いきった。
……まぁ確かに、あんなバケモノよりも美食研究会や温泉開発部の方が強いだろうと言われれば納得せざるを得ない説得力があるのは確かだろうな。
“でも、ヒナ1人に任せるわけには……”
「何いってんの先生!私達だっているんだからね!」
「今こそ補習授業部の力を見せるときですっ!」
「うふふ♡そういうわけなので先生、私達にも指示を頂けますか?戦う準備は出来ていますから。」
“みんな……”
先生が苦い顔をしながらそう言っていると、補習授業部の阿慈谷先輩、浦和先輩、下江の3人が次々とそれぞれの銃を構えながら先生の傍へと駆け寄ってくる。
「……アリウススクワッドのリーダーとして、せめてもの償いだ。先生。私達の命、好きに使ってくれ。」
「はぁ……こうなったらもう仕方ないね。やってやろうじゃん。」
「わ、私もやるんですかぁぁぁ!?」
「……けじめはつけないといけないからね。」
ふとその横を見れば、アリウススクワッドも先程まで地面に置いていた銃を手にとっておりそれぞれがバケモノを睨みつけて臨戦態勢を取っていた。
全員やる気は充分なようだ。
これは俺様も負けていられないだろう。
俺様はブークリエのチャージングハンドルを少しだけ引いてチャンバーに弾丸が送られていることを確認すると、そのまま盾を構えて一歩前に出ようと……
“……待ってタツミ、どこへ行くつもりなのかな?”
した瞬間だった。
唐突に、俺様の後ろに居た先生からそう声がかかる。
「そんなの決まってる、もちろん前線だ。」
“……タツミ。私は言ったはずだよ。君はまだ重体なんだから、戦闘行為は絶対に禁止だって。”
「いや、それはそうだけどこの緊急事態でそんな事言ってられねぇだろ?」
そりゃ先生からは口酸っぱく戦闘行為は禁止だって言われたけど、それはあくまでアリウスやユスティナとの戦闘行為についてだ。
と言うか、あんなどう考えてもヤバいとしか言えないバケモノが現れているのに怪我人だからって引っ込んでることなんて俺様には出来ない。
「安心しろ、俺様はもう動ける。それにあんなバケモノに遅れを取ったりはしねぇよ。」
確かにあのバケモノは禍々しい雰囲気を纏っているし、見るからに手強そうなのは間違いない。
だがこっちにはゲヘナ最強の風紀委員長にトリニティでも屈指の武闘派集団である補習授業部、それに俺様と死闘を繰り広げて実力は十二分に理解しているアリウススクワッドの面々までいるんだぜ?
これだけの戦力が居るなら、多少苦戦はするだろうけどあんなバケモノを倒すことなんて造作もないはずだ。
それに、こっちにはそれに加えて先生までいるんだ。
あのバケモノが人知を超えた存在だろうと関係ない。
そして、彼女達が実力を100%発揮するためには前で攻撃を引き受ける奴が必要だろう。
なら、それは盾を持っている俺様の役目だろうからな。
「だから先生、前は俺様が引き受けるから指示を……」
“ダメ。絶対にダメ。”
そう考えた俺様は先生に指示を求めてそう言うが、先生は若干食い気味に強い口調でそう言葉を発する。
「な、なんでだよ先生!?確かに俺様は怪我してるけどもうこうやって動けるくらいには回復してんだぞ!?」
“タツミ。勘違いしないでほしいんだけど、君は本来ならまだ病室からでちゃダメなんだよ?私がそれでも君が病室から出ることを許可したのは、アリウススクワッドを救いたいって君の切実な気持ちがあったからこそ。”
先生は俺様に詰め寄ってくると、一目みて怒っていますと言わんばかりに目を吊り上げながらそう言う。
“その強い気持ちがあったからこそ、戦闘をしないならって条件付きで許可したんだ。例えそれはあんなバケモノが現れたとしても変わらない。”
「そ、そりゃそうかもしれないけどそれじゃ俺様が納得いかねーんだよ!俺様は皆を守るために盾を持ってんだぞ!?今戦わずにいつ戦うっていうんだ!」
“大丈夫。ここにはヒナだって補習授業部のみんなだってアリウススクワッドのみんなだっている。それに、ゲヘナとトリニティの治安部隊のみんなももうすぐユスティナの鎮圧が終わる頃だろうからね。そうなったら確実にこっちに加勢に来てくれることは間違いない。”
先生はそこまで言うと一旦言葉を区切る。
“だからタツミ。君は休んでいてほしい。君はもう充分頑張った。ゲヘナやトリニティのみんなをその身を盾にして守ってくれた。アリウススクワッドのみんなを絶望から守ってくれた。だから、今度は私達が君を守る番だ。”
俺様の目を真っ直ぐに捉えながら、先生は力強くそう言い切ってみせた。
“お願いだ、君を守らせてほしい。タツミ。”
「先生……けどよ……!」
……先生の言っていることは分かる。
確かに俺様は本当ならばまだ病室から出歩いてはいけないほどの大怪我をしているんだろう。
自分でも薄々感づいてはいたさ。
だって20mm弾なんてモノで腹を撃たれたんだぜ?
本来そんなもんを人体に撃ち込まれたらよくて体が真っ二つ、下手すりゃあっという間にひき肉になっちまうような代物だ。五体満足で立っていられるはずもない。
防弾チョッキと薬子先輩からもらった薬のおかげで命拾いしたけど、下手をすれば俺様はあそこで死んでいても何らおかしくはなかっただろう。
正直、今だって油断すると傷口の痛みで声が出そうになっちまうし立っているのだってしんどいのは確かだ。
……けど、それでも。
俺様は戦いたい。みんなを守りたいんだ。
もう誰も傷つけさせやしない。
空崎委員長も、補習授業部も、アリウススクワッドも。
万魔殿も、風紀委員会も、ティーパーティーも、正義実現委員会も、シスターフッドも……そして、先生も。
全部……全部、守りたいんだ。
何故なら、それは俺様の大切な人たちだから。
幸せになってほしい人たちだから。
“……納得がいかないって言う顔だね。”
「当たり前だ。俺様はもう誰にも傷ついてほしくない。だからあんなバケモノに好きにさせるわけにはいかないんだ。先生、俺様はあんたが俺様のことを意地でも止めるって言うなら、俺様は意地でも戦うからな。」
そう、この思いだけは例え先生が相手でも譲れない。
俺様以外の人間が不幸になるなんてことはあってはいけないことなんだ、そんな事は俺様が許さない。
我ながら頑固なのは分かっている、けど俺様って人間はこういう性分なんだから仕方ないだろう。
“……なら、皆の気持ちを聞いてみるといいよ。”
「……え?」
俺様が心の中で強くそう思っていると、先生は諭すような口調でそんな事を言ってきた。
どういう事かと俺様が困惑していると、そんな俺様のもとに空崎委員長が歩み寄ってくる。
「……空崎委員長?」
「タツミ。前から思っていたけど、貴方は自分のことを犠牲にし過ぎなのよ。もっと人に頼りなさい、もっと人に甘えなさい。少なくとも、私は可愛い後輩である貴方を守るためなら全力を尽くすことを約束するわ。」
空崎委員長は真剣な表情を浮かべながらそう言った。
「……それ、空崎委員長には言われたくないんですが。」
「それはお互い様でしょう?」
「……ははっ、そうかもしれませんね。」
確かに、俺様は何でもかんでも自分でやろうとしちまう癖みたいな物があることは否定できない事実だ。
そしてそれは空崎委員長も同じ……うん、やっぱりにた者同士かもしれないな。俺様と空崎委員長は。
「まぁそれはともかく、先生の言う通り貴方は本来なら病室から出てはいけないくらいの大怪我をしている。そんな貴方をここで戦わせるわけにはいかない。」
「それは……」
「だから、私に任せて欲しい。貴方を守らせてほしい。私が貴方に守ってもらったように。」
「……」
「心配いらない。私は守るべきもののために戦うだけ……今度こそ傷つけさせはしない。」
「空崎委員長……」
真っ直ぐに自分の思いをぶつけてくる空崎委員長に、俺様は言葉に詰まってしまった。
「それは私達だって同じですよ、タツミさん!」
そんな俺様の元へ、阿慈谷先輩がやって来る。
「私達はタツミさんとの付き合いは短いですが、タツミさんにはたくさんお世話になりました!」
「阿慈谷先輩……」
阿慈谷先輩はいつものポワポワした表情ではなくキリッとした表情を浮かべると、真剣な顔でそう言い切る。
「あぁ。それにタツミは1人で絶望に囚われていたサオリ達と対峙して戦い抜いて、更にはサオリ達の闇まで晴らしてみせた。それは私には出来なかっただろう、だからその恩返しをさせて欲しいんだ。」
「……なに、ただほっとけなかったってだけですよ。」
「私はバカだから事情はよくわからないけど、アンタが無茶をしようとしてるってのだけは分かるわ!1人で突っ走って無茶するなんて、そんなの許さないんだから!」
「……はは、耳が痛い話だな。」
「ふふ♡こう見えて私達はタツミくんにはかなりの恩義を感じているんですよ?見ず知らずの私達を助けてくれたことと言い、ゲヘナとトリニティなんて関係なく接してくれたことと言い……だから、恩には恩で返させて下さい。それが私達が今できることですからね。」
「浦和先輩……」
続いて、補習授業部の面々も続々と俺様の前までやって来るとそれぞれの胸の内を明かしてくれた。
……卑怯だぞ、空崎委員長。補習授業部のみんな。
そんな事言われたら……これ以上意地を張るわけにはいかないじゃないか。
正直、戦いたいって気持ちは俄然としてある。
でも……ここまで皆に心配をかけてしまって、それでいてこんな胸の内を聞かされたらこれ以上俺様が戦いたいって言うのは彼女達にとって失礼に当たるだろう。
「……丹花タツミ。」
そんな事を考えていると、ふと錠前からも声がかかる。
「……言っておくけど、変なことをしたら承知しない。」
「大丈夫だ。もしそんなことをしたら今ここでその中のマガジンを全弾私に叩き込んでくれて構わない。」
「……そう。」
その光景を見て空崎委員長は錠前へデストロイヤーを向けて威嚇するが、錠前が少しだけ光の戻った目で空崎委員長の目を見ながらそう言うと空崎委員長は頷きながらデストロイヤーを引っ込める。
「どうした錠前?」
「……今更私がこんな事を言う資格はないかもしれない。謝って済まされるようなことではないと思うが、それでも謝らせてくれ。本当にすまなかった。」
「……バーカ。何言ってんだよ錠前。そもそも俺様とお前は敵同士だっただろ?なら互いの命を奪うために戦うのは至極当たり前のことだろ。」
「……だが、それでも謝らせて欲しいんだ。お前は私達を必死で救おうとしてくれていたのに、私は聞く耳を持たなかったのだから。」
「……それはお前のせいじゃない。マダムとか言うお前達を操っているクソみたいな大人のせいだ。」
そうだ、全ての元凶はそのマダムって奴なんだから。
だからお前がそんな辛気臭い顔をする必要はねぇのさ。
「お前は虚しいだのバニタスだの、クソみたいなそれを信じるしか道がなかった。それが間違ってると薄々思っていても、チームのリーダーである以上はチームメイトを守んなきゃいけないもんな?」
「……あぁ、その通りだ。」
「その、まぁ俺様はお前自身じゃないからお前がどれだけ苦しんだのかは知る由もない。けど、そんなクソみたいな教えにすがらなきゃいけないほどまでに追い詰められていたのは確かだろう。」
「……面目ない。」
「あんま気にすんな。確かにお前達は悪いことをしたけど、元を正せばそれはマダムってクソ野郎のせいなんだからよ。それにお前はチームのリーダーって重圧もあっただろう。その苦労は俺様なんかが軽々しく語って良いもんじゃない……本当によく頑張ったな、錠前。」
俺様はそう言うと、笑顔を浮かべながら親指を立てた。
「……丹花タツミ、一つ聞かせてくれ。」
「フルネームじゃなくてタツミで構わないぜ?おう、なにか聞きたいことでもあるのか?」
「あぁ。タツミ、何故お前は敵である私達のためにそこまで必死になれた?そこまで情けをかけた?何故そこまで……私達に優しくしてくれたんだ?」
「なんだ、そんなもん決まってるだろ。」
そりゃお前達が過去の俺様と重なったからってのも大きな理由の一つであることは間違いない。
けど、多分一番の理由はこれしかないだろう。
「人を助けるのに理由はいらないからな。」
そう、そもそも人を助けるのに理由なんていらない。
なぁそうだろ?ドラゴンマン。
「ふふ、そうか。お前は不思議なやつだな。」
錠前はそう言ったかと思うと、今までで一番穏やかな笑みを浮かべながらそう言う。
「なら、今度は私達にお前を守らせてくれ。」
「……いや、お前達に俺様を守る義理はなくねぇか?」
「何を言っている。お前は私達に命を狙われ、傷つけられながらも私達へ優しさを向けてくれた。そして……虚しさと言う檻から解放してくれたんだ。私達が命をかける理由はそれで充分だ。」
「……確かにお前達を助けたのは事実だけど、それは同情したからって理由が大きい。だからこれは俺様の自己満足なんだから、気にする必要はないんだぞ?」
「だとしても私達はお前に救われた。それに、確か人を助けるのに理由はいらないんだろう?タツミ。」
「……はは、こりゃ一本取られたな。」
……分かった、俺様の負けだよ。
ここまで言われたらもう俺様が戦う理由はないだろう。
大人しくみんなに任せるとしよう。
……アンタにはやっぱり叶わないよ、先生。
「それにしても錠前、そんな顔もできるんだな。そっちの方が仏頂面よりもよっぽど良いと思うぞ?」
「そ、そうか?褒められた事などないからなんだかむず痒いな。」
「なに、お前は美人なんだから笑ってりゃ良いんだよ。その方が似合ってるんじゃねぇか?」
「なら、今度笑顔の練習でもやってみるとしよう。」
「それが良いと思うぜ。」
若干驚いたような表情を浮かべながらそう言う場前に対して、俺様はうんうんと頷きながらそういう。
「……ねぇ、私達は何を見せられてるの?」
「あ、あれって無意識で言ってるんですかぁ!?だとしたらとんでもない女たらしですよぉ!?」
「……いや、多分サっちゃんは何のことか分かってないんじゃないかな。絶対にあれはただ褒められただけって思ってるよ。」
「と言うかタツミさんも褒めてるだけって思ってますよねあれぇ!?」
そんな俺様たちを見て、少し後ろに控えているアリウススクワッドの面々はなにやら小声で話をしている。
……何をヒソヒソ話してんだあいつら?
と言うか、さっきから何か空崎委員長や補習授業部のみんなからの視線が冷たいんだけど……?
……俺様、なんかしたか?
ただ錠前の笑顔を褒めただけなんだけど……?
「それはともかく、アリウススクワッドのリーダーとしてタツミを守る。異論はないなみんな?」
「うん、私は賛成。タツミくんは私達に光を見せてくれたヒーローだから……必ず守りきってみせるよ。」
「はぁ……ハッピーエンドなんて私のガラじゃないんだけど……ま、こういうのも悪くないかもね?」
「た、タツミさんを守ったら矯正局でのご飯が豪華になったりしますかね……?」
錠前がそうメンバーに問いかけると、アリウススクワッドの面々は次々と同意して頷く。
約一名メシのことしか考えてないバカがいるけど、まぁこいつなりの賛成表明ってことにしておくか。
あと別に俺様を助けても矯正局でのメシが豪華にはならんと思うぞ槌永。
……まぁ、ちょっと差し入れを奮発してやるとしよう。
ーウォォォォォォォン!!!ー
口元からだらしなくよだれを垂らす槌永を見ながらそんな事を思っていたときだった。
突如、目の前のバケモノが耳をつんざくような咆哮を上げる。……そう言えば居たなこいつ。
“……!みんな来るよ!構えて!”
それを見た先生はどうやら自分の力で解決するのではなく、みんなを信じることにしたらしい。
先程まで取り出していたカードを胸のポケットへ押し込むと、シッテムの箱を取り出して片手に抱えながらこの場の全員に指示を出した。
“タツミと、それと特にひどい怪我をしているアツコは後ろに下がってて!”
各々がそれぞれの銃を構えてバケモノの前へ向かっていく中、先生は俺様とアリウススクワッドの中で特に怪我のひどい秤に対してそう叫んだ。
「分かった。……頼むぜ、先生。」
“うん、任せて。”
流石にここまで来て俺様も戦わせてくれ、なんて言葉が言えるはずもない。
いや、本来ならば滅茶苦茶戦いたい。この盾を持って一番へ出て、みんなをあのバケモノから守ってやりたい。
……けど、みんなのあの思いを聞いてそんな事が言えるほど俺様は薄情な人間ではないつもりだからな。
先生の言葉に従い、俺様は先生の後ろへと下がる。
「……先生。私は確かにボロボロだけど、銃を握って戦うことくらいなら出来るよ。大丈夫。」
だが、そんな俺様とは違い秤はやる気満々のようだ。
愛銃なのであろうサブマシンガンを構えながら、秤は割れた仮面の下から瞳をのぞかせながらそう言った。
“ううん、アツコだってその怪我なんだから相当つらいはずだよ。あのバケモノの相手はサオリ達に任せよう。”
「あぁ、任せてくれ姫。先生の言う通り、姫は爆弾を食らって怪我をしているからな。これ以上ダメージを食らっては体が持たない。」
「……けど。」
錠前は笑顔を浮かべながら秤を安心させるような口調でそう言うが、秤はどこか納得行かなさそうな声色でそう呟いた。
……秤の気持ちはわかる。俺様だって本当は一緒に戦いたい気持ちでいっぱいだからな。
“じゃあこうしようか。アツコにはタツミの監視をお願いしようかな。”
「……は?」
そんな事を考えていると、いきなり先生がとんでもないことを口走った。
「お、おいどういうことだよ先生!?」
“タツミのことだから、あれだけ言ってもみんながもしピンチになったら飛び出してきちゃう気がするからね。アツコが見ててくれればその心配もなくなるんじゃない?”
くっ、確かにそれは否定できなさすぎる……!
「……分かった。そういうことなら。」
“うん、よろしくねアツコ。”
「おい秤!?お前それで納得すんのかよ!?」
「うん。なんとなくだけど、先生の言う通りな気がするから。安心して、貴方は私がしっかりと見張っててあげるから。」
「くっ……なんか釈然としねぇ……!」
まさかこの歳になって誰かにお守りをされるなんて夢にも思わなかった。
……普段の行いのせいだと言われればそのとおりだとしか言えないから、文句は言いづらいんだけども。
“ふふっ……じゃあ、行ってくるよ!”
「あぁ、あんなバケモノに負けんなよな!」
「うん。サっちゃんたちをお願いね、先生。」
先生はそう言うと、シッテムの箱を起動しながら化け物たちへと向かっていた皆のすぐ後ろへ付くとキビキビと各生徒たちに的確な指示を飛ばし始めた。
そして、先程までは敵同士だったアリウススクワッドと先生たちの共同戦線が開戦する。
先生の指示により空崎委員長や阿慈谷先輩、白州先輩や錠前が前に立ってバケモノに銃撃を浴びせかけ、その後ろから戒野や槌永、下江が火力支援をしている。
浦和先輩は先生とともに全員のサポートに回っているようで、手薄なところのカバーを主に行っていた。
バケモノもそれに負けじと手にした槍を振りかざし得体の知れない衝撃波を放って攻撃を行うが、空崎委員長がそれを全て弾いてその大きな隙に戒野のスティンガーミサイルと槌永の20mm弾が炸裂する。
「……行っちゃったね。」
「……そうだな。」
俺様と秤はバケモノと対峙する先生達の頼もしい背中を見ながら、どちらともなくそう言葉を交わした。
先生たちとバケモノが戦っている場所はここからそう遠くないが、かと言って近すぎるってこともないからこの辺の物陰に隠れて大人しくしていれば流れ弾を食らうことはないだろう。
そう考えた俺様は周囲を見渡し、丁度いい大きめの瓦礫を発見するとそこへ移動して秤を手招きする。
「ほら、そんなとこに居たら危ねぇぞ。こっちへ来いよ秤。」
「うん、ありがとう。」
秤はそう言ってトテトテと俺様に駆け寄ってくると、足元にあったこれまた丁度座るにはピッタリのサイズの瓦礫へと腰を下ろした。
俺様は秤の正面へと移動すると、瓦礫に背を預けると腕を組んで大きく息を吐き出す。
ふと空を見上げると、そこにはどこまでも澄み切ったキヴォトスの青い空が浮かんでいた。
(……あの空のように、アリウススクワッドの目もそのうち透き通ってくれると良いんだけどな。)
そんな事を考えつつ秤へと視線をやると、彼女は愛銃であるサブマシンガンのマガジンを抜き差ししながらガチャガチャとチャージングハンドルを引いてチャンバーの確認を行っていた。
彼女の着ている服はまるで焼け焦げた様にボロボロで、ところどころ肌が露出しており中には手当しきれていないであろう痛々しい傷跡や出血の跡が見られた。
確か秤は爆弾を食らったとか言っていたな……よくそれで体が木っ端微塵にならないなと思うけど、そこはまぁキヴォトス人クオリティと言う奴なのだろうな。
(けど、流石にこの傷をこのまま放置出来ない。)
俺様は心のなかでそう呟くと、持ってきていたカバンの中から医療キットを取り出した。
「秤。」
「ん?どうしたの?」
「さっきからずっと気になってたんだけどここなら多分安全だろうからな。その傷、俺様に見せてみろ。」
「……え?」
俺様は秤にそう言うが、当の本人はきょとんとした顔を浮かべて不思議そうな声でそう呟く。
「いや、確かお前爆弾を食らったとか言ってたよな?」
「……うん、確かに食らったけど、この程度の怪我なんてなんともないよ。」
「何言ってんだ、いくらお前にヘイローがあるっつっても傷口から変な菌でも入ったらどうすんだよ。安心しろ、俺様はこう見えて元救急医学部の友達に教わってるから応急処置程度なら出来るからよ。」
秤は遠慮がちにそう言うが俺様はそんなの関係ないと言わんばかりにそう言い話すと救急キットを持って秤の前まで移動し、彼女の目の前にしゃがみこむ。
「ま、そういうことだから任せとけ。」
「……分かった。じゃあお言葉に甘えようかな。」
秤は俺様の言葉に少し悩んだような素振りを見せたが、やがて笑顔を浮かべてそう言った。
「おう、任せとけ!」
その言葉を効いた俺様は親指を立ててそう言いつつ、救急キットから消毒液と包帯を取り出すと秤の傷の応急処置に取り掛かるのだった。
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“ヒナ!一旦サオリとスイッチして後ろへ!”
「分かったわ!」
「あぁ!前は任せろ!」
“お疲れ様ヒナ、体力が回復したらまたサオリとスイッチしてもらうから、それまでは支援に回って欲しい。”
「了解よ。……それにしても、やたら頑丈だけどあまり手応えはないわねあのバケモノ。」
“油断は禁物だよヒナ。皆が強いだけで、ここまでやっても倒れないんだからあのバケモノも一筋縄ではいかないと思う。それにまだ本気を出してない可能性だってあるから……絶対に気を抜かないようにね。”
「えぇ、言われなくても。……ところで先生。一つ聞きたいことがあるのだけど。」
“ん?どうしたの?”
「……さっき、タツミは【自分も経験者だからアリウススクワッドの気持ちがわかる】って言ってたわよね?」
“……え?”
「ということは、タツミも過去に虐待を受けたことがあるってことなのかしら?……だとしたら、私はタツミを虐待した外道を生かしておくつもりはないのだけれど。」
(“し、しまった!あのバケモノと戦うことしか頭になかったせいでその辺の言い訳を考えるのを忘れてた!”)
「……先生はタツミから何か聞いてる?」
“い、いや。残念なんだけど私も何も聞いてないよ……?”
「……そう。分かった。」
(どうしよう。タツミが口を滑らせちゃうなんて……とは言えタツミからは前世のことは他言無用で頼むって言われているから、ヒナに言うわけにも行かないし……)
「……まぁ、それはこの戦いが終わった後でタツミに直接聞くとしましょう。補習授業部やアリウススクワッドも気にしていたようだし。」
“う、うんそうだね!私もそれはすごく気になるし!”
「……先生?どうしたの?」
“な、何でもないよ!それよりもヒナ、今はあの化け物を倒すことに全力を尽くそう!”
「……えぇ、そうね。」