転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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戦いと条約の終焉と丹花タツミ

「……まぁ、とりあえずこんなもんかな。」

 

秤の真っ白な腕に包帯を巻き終えてテープで固定した俺様は、使い終わった消毒液や包帯を救急キットに収めてカバンの中にしまいながらそう呟いた。

それにしても、傷の位置を確認してあそこにもここにもって包帯を巻いたせいで秤が半分ミイラ女のコスプレみたいになっちまっているが……まぁ俺様は本職の医者ではないため致し方あるまい。

まぁ大体は服の下に巻いているし、破れて露出している箇所の包帯はちょっとでも見栄えがよくなるように丁寧に巻いたつもりだから勘弁して欲しい。

 

「まぁちょっと不格好だけど、今はとりあえずそれでなんとかなるだろう。とは言えそれはあくまでも応急処置だ。この戦いが終わって落ち着いたら、きちんと救急医学部か救護騎士団に診てもらうんだぞ?」

「……うん、分かった。ありがとう。」

 

俺様がそう言うと、秤はニッコリとした穏やかな笑みを浮かべながらそう答える。

 

「それにしても、あれほど実力があるだけじゃなくて傷の手当まで出来るなんて……流石ヒーローだね?」

「だからいい加減その呼び方はやめろって。俺様はヒーローでもなんでもない。ただのお節介が好きな普通のゲヘナ生だよ。」

「……いや、1人で私達に立ち向かったり敵である私達を救おうとそんな大怪我をしているのに戦場に出てくる人は普通じゃないでしょ。」

「う、うっせぇな!分かってるよ、俺様だって自分が滅茶苦茶なことをしてるって事くらいは。」

 

そのせいで色んな人に心配や迷惑をかけちまっているわけだからな……アリウススクワッドを救いたいってのも元を正せば俺様の単なるワガママでしか無いわけなので、本当に申し訳ない思いでいっぱいだ。

 

……けど、こいつらを救えたことに後悔はない。

アリウススクワッドは明日を生きられるかもわからないような絶望の中で必死に戦っていた奴らなんだ。

そんな奴らに世界は虚しくないと知ってもらうことが出来て……俺様は本当に良かったと思っている。

 

それもこれも、全ては先生を初めとしたゲヘナとトリニティのみんなの協力があってこそのことだろう。

……本当に、感謝してもし切れないな。

 

「秤、この戦いが終わったらお前達には矯正局へ入って罪を償って反省してもらうことになるわけだが……矯正局を出所したら、まずはシャーレを頼るといい。先生ならお前達をどこかの学園へ編入させることくらいは造作もないことだろうからな。」

「……ヒーローさん。そのことなんだけど。」

「だからヒーローって呼ぶなって……なんだ?心配しなくても定期的に面会には行ってやるぞ?」

「ううん、そうじゃない。」

 

秤は首を横に振りながらそう言うと、真剣な表情をして俺様の目を真っ直ぐに見据える。

そして、マスクの下に隠されている口から言葉を紡ぐ。

 

「貴方の気持ちはとても嬉しい……けど、きっとこのことはすぐマダムに伝わってしまう。」

「……まぁ、そうだろうな。」

「私達がマダムに狙われるのは確実。だからそうなると矯正局まで危険にさらされてしまうかもしれない。だから気持ちは嬉しいんだけど、矯正局へ入ることは出来ない。迷惑がかかってしまうから……」

「……それは反省もせず、責任から逃げるって言ってるのと同じことだって理解してるか?」

「そうじゃない!反省はしてる!私達だって、矯正局へ入って罪を償えるならそうしたい!でも、こんな騙されていたどうしようもない私達に優しさを向けてくれた貴方や先生を危険に巻き込みたくないの!」

 

秤は座っていた瓦礫から腰を上げて立ち上がると、目を見開いて大きな声でそう叫んだ。

 

「なんだ、そんなくだらないことで悩んでいたのか?」

「くだらなくなんてない!貴方は知らないだろうけど、マダムは人知を超えた力だって持ってるんだよ!?そんな危険な相手に狙われることが分かりきっている私達を矯正局へ入れるなんて……!」

「そんなことはどうだっていい。マダムって奴がお前達を殺そうと追ってくるなら俺様は何が何でもお前達を守ってやる。俺様はそんな弱い男じゃない。」

 

それに、俺様は言ったはずだぞ秤。

マダムとかいうクソ野郎には、お前達には指一本も触れさせるつもりはねえってな。

こっちは元よりそんな危険は承知の上なんだよ。

 

「それによくよく考えみろよ?逆に、矯正局に入るってことはお前達を守ることにもなるだろ。」

「……え?」

「矯正局は腐ってもヴァルキューレの管理だし場所も連邦生徒会のお膝元であるDU地区だ。何かあればすぐそばにシャーレもあるし、先生も近くにいる。そんなキヴォトスでも屈指の堅牢な砦に襲撃をかけるならキヴォトス中が総出で叩き潰すだろう。つまり、お前達を守るための絶好の盾な訳だ。」

 

マダムって奴がどんな力を持っているのかは知らないけど、矯正局を襲撃するってことは秤にも言ったようにキヴォトス中を敵に回す行為と言っても過言ではない。

現にワカモを初めとした七囚人は矯正局で大暴れして挙げ句脱獄したせいでキヴォトス中から狙われる指名手配犯になっているわけだしな。

そもそも、子どもを虐待して自分の思想や考えを押し付けて駒のように使い捨てるクソみたいな大人に俺様や先生やみんなが負ける道理なんてない。

 

むしろ、やれるもんならやってみてほしいもんだ。

マダムとやら、ノコノコと俺様の前に出てきてみろ。

その時はお前を事を顔が変わるくらいボコボコに殴り倒してアリウスの生徒一人一人の前で土下座させてやる。

アリウススクワッドを虐げた罪は重い、俺様の目が黒いうちは五体満足で居られると思わねぇことだな!!!

 

「ま、そういうわけだからお前達が何と言おうが矯正局には入ってもらう。で、そこで反省と更生をすればお前達を守ることにもつながるってわけだ。これぞまさに一石二鳥ってやつだな!」

 

俺様は笑顔を浮かべながらそう言うと、秤へと向かって親指を立てた。

 

「だからお前達は何の心配もいらない。安心して矯正局で罪を償ってきてくれ。そして罪を償って矯正局から出てきたら……今度は仲間として、一緒にキヴォトスで学園生活を送ろう。」

「……軽々しく言ってるけど、本当にいいの?私達はものすごく迷惑をかけてしまうかもしれない。」

「だから気にすんなって。それにこれは先生とも話し合って決めたことだ。お前達がマダムって奴を極度に怖がるのは分かるぜ?俺様だって、過去に俺様に虐待をした大人を思い出すだけで……吐き気が出そうになる。」

 

そう、虐待の傷っていうのはめちゃくちゃ根が深い。

俺様だってキヴォトスに転生して15年が経つ今でも、前世の毒親のことを思い出すだけで体が震えて息をするのも忘れるほどに動揺してしまう事だってある。

そのくらい、大人から虐待を受けた記憶や逆らえなかった記憶と言うのは脳に焼き付いてしまうものなのだ。

 

だから秤の気持ちは痛いほどよく分かる。

あいつらはそうやって子どもの心を折っていくからな。

そして、最後には虐待された子どもはこう思う。

この人に逆らってはいけない、この人を怒らせてはいけない、この人に服従しなきゃいけない……と。

……ふざけやがって。

 

だから秤はマダムと言う奴に反発心を持ちながらも、やはり今まで従ってきた事や逆らえなかった事実から極度にそのマダムと言うクソ野郎を恐れているのだろう。

俺様や先生に迷惑をかけると思っているということは、まだまだ自分がマダムとかいうやつにどうにかされると思っているという恐怖心の裏返しでもあるからな。

 

自分が、錠前達が、どうにかされてしまう。

襲われてしまうだろうという強い気持ちがあるはずだ。

 

「だから、俺様がお前達を守ってやる。これ以上お前達をマダムとか言う奴に好き放題にさせてたまるか。」

 

そう、もうこれ以上お前たちを傷つけさせやしない。

虚しさなんてもの、お前達にはもう必要ないのだから。

 

「……そっか。」

「あぁ、そもそも迷惑なんて誰しも気づかないうちに誰かにかけてるもんなんだよ。だから気にすんな。」

「けど……」

「うーん、じゃあこうしよう。お前達が矯正局でしっかり罪を償って出てきたら、俺様の頼み事を一つ聞いてくれりゃ良いさ。それなら何も問題ないだろ?」

 

俺様はそう言うと、少しでも秤を安心させるために秤の頭に手の平を置くとそのまま左右に動かした。

頭を撫でられた秤は一瞬硬直したものの、やがて目元を緩めて嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「……うん、分かった。ありがとう、タツミくん。」

「おう、このくらいお安い御用だ。」

 

安心したようにほっと息を吐きながらそういう秤に対して、俺様は笑顔を浮かべながらそう応えた。

ガスマスクをしているせいで割れた部分からの表情しか伺えないけど、安心しているようで何よりだ。

 

「……そう言えば、貴方も私達と同じ思いをしたことがある経験者だって言ってたよね。もしかして貴方も?」

「あぁ……過去にちょっとな。でも今は優しい両親や可愛い妹、頼りになる先生や信頼のできるたくさんの人達が俺様には居るからな。今はすごく幸せだよ。」

「……そっか。深くは聞かないけど、それで私達の思いをあんなに理解してくれたんだね。ありがとう。」

「別にどうってことねぇよ。何度も言ってるけど、お前達がこれ以上俺様と同じ苦しみを味わうのは許せなかった。それだけの話だ。」

 

俺様と秤は互いにそんな会話を交わしていく。

それにしても、さっきから秤のやつ妙に俺様に距離を詰めてきているような気がするんだけど気のせいか?

まぁ別に近づかれて困るもんでもないけども。

 

「……サっちゃん達、大丈夫かな。」

 

秤はそう言って先生たちがバケモノと戦闘している方向を見やりながら心配そうにそう呟いた。

 

「心配いらねぇよ。俺様はお前達と戦ったから分かるけど、錠前達やお前は強い。それに今はそこに空崎委員長や補習授業部、先生だって付いてるんだ。あんなバケモノに遅れは取らないだろうよ。」

 

瓦礫の向こう側からは絶えず先生の指示が飛び、誰かが誰かをカバーするために声を掛け合って、絶えず銃声や爆発音が聞こえてきている。

……相当戦闘が激化してきているようだけど、あの戦力ならばあんなバケモノに負けるわけがないと俺様は確信している。

とは言え、心配なものはやはり心配ではあるわけで……

 

(……少し様子を見るか。)

 

俺様は秤の頭から手を離すと、瓦礫の影から戦闘の様子を伺うためにその場から立ち上がった。

 

「あっ……もっとしてほしかったのに……」

(……?)

 

その際に秤が蚊の鳴くような小さな声で何かを言っていたけど、まぁ今は気にしている場合ではないだろう。

俺様は身を隠している瓦礫の角から顔を出すと、先生たちがバケモノと戦っている様子を覗き見る。

 

“サオリ!ヒナとスイッチ!ヒフミとアズサは前へ!”

 

そこでは変わらず先生が共に戦う生徒達に指示を出し、指示を受けた生徒達が一糸乱れぬチームワークで赤いローブのバケモノに攻撃を加えていた。

……けど、俺様の気のせいじゃないのなら先程よりも生徒の人数が増えている気がするんだけども?

 

(……いや、気の所為じゃないなこれ。)

 

俺様は心のなかでそう呟く。

うん、明らかに先程よりも戦っている生徒達の数が先生の周りに増えている。

それも一目みてすぐに分かる程度には、だ。

 

恐らくだけど、先生の奇策によって無力化したユスティナを鎮圧し終わった各学園の治安部隊の生徒達が合流して加勢してくれているのだろう。

その証拠にゲヘナの万魔殿と風紀委員会、トリニティの正義実現委員会とシスターフッドの生徒達が先生の指示を受けてバケモノをぐるっと包囲している。

 

ただでさえこちらにはキヴォトスでも最強レベルと言われている空崎委員長や、実力は武闘派集団にも一歩も引けを取らない補習授業部、厳しい戦闘訓練を積んだアリウススクワッドのメンバーたちがいる。

そこに万魔殿の戦車部隊や風紀委員会の銀鏡先輩、正義実現委員会の剣先委員長や羽川先輩、シスターフッドまで加わるのならもう鬼に金棒とか言うレベルじゃない。

現に彼女達に囲まれた赤いローブのバケモノは反撃を試みるもそれを全て潰され、もはや一方的にボコボコに殴られるだけのワンサイドゲームと化していた。

 

万魔殿は羽沼議長の指示により棗先輩率いる戦車隊がバケモノにひたすら砲撃を浴びせている。

風紀委員会は天雨行政官の指示により、銀鏡先輩率いる部隊が空崎委員長をサポートするように戦っていた。

 

正義実現委員会は剣先委員長が突撃しているのを羽川先輩や仲正先輩、静山がサポートしている。

そしてその後方では歌住先輩率いるシスターフッドが負傷者の手当をしながら、若葉先輩を戦闘にした戦闘部隊がバケモノに対して攻撃を仕掛けていた。

 

……あんな得体の知れないバケモノに同情する気は一切ないけど、ここまで一方的なリンチだと少し心が痛い。

 

「……ん?」

 

そんな事を考えながら戦闘の様子を見守っていると、何やら俺様の視界の端にどこかで見た覚えのある人たちの姿が映り込んだ。

なんとなしにそちらの方へ視線をやると……そこには見間違うはずもない。

アビドス高等学校のメンツが勢揃いしていたのだ。

 

「……え!?」

 

俺様は思わず声を上げる。

な、なんでアビドスのみんながこんなところに……?

今回のテロは元々はエデン条約の調印式を狙ったものだったから、ゲヘナにもトリニティにも何の関係もないアビドスがこんな所にいる理由が分からない。

しかも、みんなの素振りからして恐らくあのバケモノを倒すのに協力してくれている可能性が高いだろう。

 

“分かったよホシノ、前は任せるね。”

「はいはーい。んじゃ、ちょっといってくるよ〜。」

 

アビドスの3年生、小鳥遊先輩が先生とそう言葉をかわしているのが聞こえてきた。

そして、小鳥遊先輩は先生とのやり取りを終えると盾を構えてそのまま最前線へと駆け出していく。

その後に続き十六夜先輩や砂狼先輩、黒見もそれぞれの武器を構えて小鳥遊を追って戦場へ突入していった。

赤い眼鏡の奥空は先生の隣に残って彼女達のサポートをするようで、ドローンの操縦機を構えている。

 

……そう言えば、確か前に補習授業部で勉強会をしていた時に阿慈谷先輩がアビドスの面々と交流があるって言っていたのを思い出した。

俺様や風紀委員会が手を貸した時も恩義を感じてくれていた義理堅い彼女達のことだ、きっと阿慈谷先輩のピンチに居ても立っても居られなかったのだろう。

自分達も廃校の危機でそれどころではないはずなのに、本当にいい人たちだ。

後でお礼を言っておかなければと思いながらバケモノと生徒達の戦いを見守っていると……生徒達の中に、これまた見覚えのある人達の姿が見えた。

 

(……ん!?)

 

俺様は疲れているのかと思い目をこすって再度その生徒の方へ目を向けるが、その2人は間違いなく俺様の視線の先で武器を構えてバケモノと戦っていた。

 

片方は、長い黒髪に教育者としてあるまじき露出の多い服を着た背の高い女性。

片方は、白い髪にこれまた教育者としてどうかのかと言うくらいのスカートの丈のまだまだ幼い女の子。

 

……俺様があの二人を見間違うはずがない。

山海経高級中学校、訓育支援部梅花園の教官である春原シュンと春原ココナ。

あれからすっかり梅花園へ手伝いに行くのが生活の一部になり、今では毎日モモトークで会話を交わす仲になった二人がそこにたいたのだ。

そして、その隣には救急医学部部長の氷室先輩の姿も確認出来た。

 

(……一体どうなっている?)

 

アビドスのみんなは阿慈谷先輩と交流があるからこの場に駆けつけるのは分からなくもないけど、山海経所属の春原姉妹に至ってはマジでエデン条約に関係ないし、ましてやゲヘナやトリニティにも関係ないはずでは……?

 

強いて言うなら俺様と知り合いってことだけど、そえれだけでここまで来るとは考えにくいし。

それにあの二人がここにいるってことは梅花園の子ども達は大丈夫なんだろうか?

まぁあの二人のことだから、多分竜華先輩辺りに相談して代わりの人員を手配してもらっているとは思うけど。

 

……もうここまで来たら何がなんだか訳がわからない。

何がなんだか分からないけど……それでも、これだけは言えるだろう。

ここまでの戦力が揃っていては、あの赤いローブのバケモノなんて彼女達の敵ではないと言うことだ。

 

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その後、俺様は岩場の影から先生と彼女達の戦いを秤と共に見守っていたがその後の展開は俺様の予想通りワンサイドゲームと呼べるものだった。

各学園の生徒達が先生の指示で一糸乱れぬ連携を見せてバケモノに攻撃を加え、やがて限界を迎えたバケモノは苦悶の声を上げて塵になってそのまま消滅していく。

 

その後、先生を初めとした各学園の連合軍はその場にいたアリウスの残党を可能な限り拘束。

ただ全員を拘束することは叶わずいくらかは逃がしてしまったようだが……まぁ、それは致し方ないだろう。

ユスティナが消滅したことを確認し、ひとまずこの戦いは先生達の勝利で幕を閉じることとなった。

 

しかし、所属も学園もバラバラかつ急に加勢に来てくれたアビドスや春原姉妹までしっかりと他学園と連携させて1人の怪我人もなく戦いを終わらせるとは……

やっぱ先生の指揮能力は人外じみているな……ここまで来ると尊敬の念を抱くと同時に少し怖くもあるか。

まぁそれはともかく、怪我人を出さずにあのバケモノの討伐を終えられたのは先生の指揮もあるけどみんなが頑張ってくれたおかげだ。

 

本当に……いくら感謝してもし切れないな。

俺様はその感謝の気持を伝えるため、秤と共に岩場から出ると先生たちの元へと歩いて声を掛けたのだが……

 

「タツミくんっ!無事で良かった……!貴方になにかあったら私…私っ!」

「タツミさん……!貴方はいつも無理ばかりして……!」

「ちょ、ちょっとシュン教官……!死ぬ……!俺様死んじゃいますって……!い、息が……!あとココナ教官……!腰に抱きつくのは良いけど力強すぎ……!」

 

先生に声を掛けた瞬間にこちらを振り向き、俺様を視認したシュン教官とココナ教官に飛びつかれてしまった。

彼女達は瞳いっぱいに涙をためて泣きながら俺様にしがみつき、心底俺様のことを心配してくれていたことを伝えてくれた。

 

俺様はその後、落ち着いてきた彼女達の頭を撫でるとお礼とともに感謝の言葉をしっかりと伝えておいた。

礼を聞いた二人はすこし怒った顔をしつつも、俺様がひとまず無事であることをとても喜んでくれた様子だ。

 

どうやらこの二人にも心配と迷惑をかけてしまったようで……本当に申し訳ない。

それと同時に、山海経からわざわざ梅花園に代理を立ててまで俺様の心配してここまで来てくれたことを嬉しく思う。本当にありがたいし、嬉しかった。

……まぁその際、シュン教官の胸に顔が埋まって息苦しかったのはまた別の話だけど。

あとココナ教官、華奢な体して物凄い力なんだな……流石はキヴォトス人クオリティだと言わざるを得ない。

 

「な、何よあの二人……!タツミくんにあんなに気安く飛びついて抱きしめてるなんて……!」

「うへー。タツミくんも罪な男だねぇ、ウチの後輩だけじゃなくて山海経の女の子まで誑かしてるなんて。」

 

なおその際、何故かこちらを見ながら激しく黒見が威嚇してきたり小鳥遊先輩からそんな事を言われたりした。

それ以外にも周囲からの視線が北極圏くらい冷たいものになったり、羽川先輩と天雨行政官が詰め寄ってきてシュン教官と3人でバチバチな雰囲気になったり、どさくさに紛れて棗先輩から抱きつかれたり、先生から「君はハーレムでも作る気!?このクソボケ!」と何故か説教されたりして一悶着あったが……それはまた別のお話。

 

あと、どうやら空崎委員長と補習授業部にアリウススクワッドを説得する際の「俺様も虐待経験者」という言葉を聞かれてしまっていたらしく血相を変えたみんなが俺様にどういうことかと詰め寄ってきた。

しまったと思いつつも、流石に前世の話をするわけにはいかないため「イブキの出産の時に一時的に預けられていた親戚から虐待を受けた」という風に誤魔化すことで事なきを得る事が出来た。

ただ、空崎委員長だけは釈然としない顔をしていたのが気がかりだけど……まぁ深くは考えないでおこう。

あとイブキにはくれぐれも伝えないように念押ししておいた。

イブキはまだ情緒が育っている途中だし、何よりも俺様自身から真実を伝えるつもりでいるからな。

なお、その際の皆の阿修羅のような顔にはかなりの恐怖心を覚えたけど……それもまた別のお話である。

 

そしてその後、先生を筆頭にゲヘナとトリニティの両首脳陣を中心としたエデン条約の事後処理が行われた。

場所はトリニティのティーパーティーが会議をする際の議事堂を借りて行うこことなったわけだが……

参加者はゲヘナからは羽沼議長と空崎委員長、アリウススクワッドとも拳を交わした当事者である俺様。

トリニティからはなんとか会議に出席できるまでには回復した桐藤先輩とシスターフッドの歌住先輩。

そして中立的な立場の人間として先生と、アビドスの小鳥遊先輩とシュン教官に立ち会いをお願いした。

 

それ以外の生徒達は傍聴席にて傍聴人、と言う形での参加をお願いすることとなった。

そして冒頭に先生による今回の事件のいきさつの説明があったあとに、裁判さながらの緊張感を持って事後処理が始まった。

 

まずアリウススクワッドの処分だけど、当然だけど彼女達は処分を決める場にてかなり糾弾された。

まぁ無理もないだろう、彼女達は世間的に見ればエデン条約の会場にミサイルを撃ち込んで式典をめちゃくちゃにしただけではなく、その後に武装集団を率いてたくさんの生徒を傷つけた凶悪なテロリストに他ならない。

彼女達の行った行為は到底許される事ではないだろう。

 

しかし、アリウススクワッドは裏で彼女達に偽りの憎しみを吹き込んだ大人の被害者であったこともまた事実。

俺様と先生は首脳陣にそれを必死に説明し、彼女達も大人の被害者であったこと、彼女達も苦しんでいること、そして腹を撃たれた俺様本人が彼女達がきちんと反省するのであれば許すつもりであることを説明した。

 

彼女達に必要なのはこの場での断罪ではなく、救済。

そう必死に訴える俺様にシスターフッドの歌住先輩たちも同意してくれた、ありがたい限りである。

それを考慮して最終的にアリウススクワッドは当面の間の矯正局での謹慎処分、そして矯正局を出頭後にはシャーレにて身柄を拘束し罪滅ぼしとして社会への奉仕活動をするように、と処分することで決定した。

 

その判決が出されたあと、秤を筆頭にアリウススクワッドの面々は憑き物が落ちたような穏やかな表情を浮かべると判決を何の抵抗もなく受け入れてくれた。

……彼女達にとっては、ここからが本当のスタートだ。

決して平坦な道ではないと思う、お前達が犯した罪が消えることはないのだから。

 

でも、きっと大丈夫。お前達なら罪を償って、その後は自分達なりの生き方を見つけることが出来るはずだ。

お前達はもう、鳥籠に囚われた鳥ではないのだから。

 

当然それでも反対する人も居た。

それは当たり前のことだろう。俺様だって怒りは未だにあるし、気持ちは分からなくもない。

けど、反対していた人たちはやがて「タツミに免じて」と渋々ながら怒りを飲み込んでくれた。

……何故俺様に免じるのかは分からないけど、彼女達には感謝しなければならない。

 

そして……アリウススクワッドの処分が決定した直後、羽沼議長はその場で立ち上がると罪を自白した。

アリウスと裏で繋がっていたこと、それに乗じてトリニティや風紀委員会を亡き者にしようとしたことを全て。

 

当たり前だが、その場に居る全員からは罵詈雑言の嵐。

問答無用で矯正局へブチ込んで、二度と出てこさせるべきではないと言う意見も出た。

それは言われても仕方のないことだと思う。

羽沼議長はそのくらいのことをやっているのだから。

 

……けど、羽沼議長は自分の犯した罪と向き合っているのもまた事実なんだ。確かに許されることではない。

羽沼議長のやったことはテロの容認と、それに乗じてトリニティや風紀委員会の殲滅戦を行おうとした事。

到底許される話ではない……けど。

 

気が付けば、俺様はその場で土下座をしていた。

当然、その場にいる全員が驚愕する。

そして、俺様はその場で必死に訴えた。

 

羽沼議長は確かに許されないことをしたけど、自分の罪と向き合ってこうやって罪を自白した。

矯正局へ出頭する覚悟だって彼女にはある、反省していないなら自分から矯正局に出頭するなんて言わないはずだ。

確かに羽沼議長のせいでたくさんの人が傷ついたのは事実なんだから、ちょっとやそっとで許して良いことじゃないだろう。

 

けど、どうか彼女を許してやって欲しい。

彼女だって俺様のためを思っての部分だってある。

矛盾してるのは分かっている。

納得できないことだって分かっている。

けどそれでも、俺様は彼女を許してやりたいんだ。

だって反省したあとに前に進む権利は、本来誰にだってあるものなんだから。

 

俺様は知っている、羽沼議長が部屋に閉じこもって自分を責めてあれだけ疲弊するくらいには今回のことを深く反省しているということを。

だから……俺様は、その場の全員にこう言った。

 

「羽沼議長が反省して前へ進む権利が気に入らないやつは出てこい!俺様がぶん殴ってやる!!!」

 

……ってな。

それを聞いたみんなの反応は様々だった。

 

それでも許すべきではないという人。

やはり思うところがあるのか、あまり強くは言ってこなかった風紀委員会のみんな。

ここまで言うならしっかりと矯正局で罪を償うなら今回だけは大目に見るという人。

いつかやらかすと思ってたという人。

許す許さないじゃなくて、もう呆れたから好きにしたら良いと言う人。

色んな意見が飛び交ったけど、俺様はそれでも自分の意見を曲げずに一心不乱に訴えを続けた。

 

そして、必死で訴える俺様の横にはいつの間にか万魔殿のみんなが揃っていて彼女達も一緒に訴えてくれた。

ここまで来るともう理屈ではなく、ただの感情論でしかないけど……それでも、俺様達は必死に訴え続けた。

 

いつものクールさをかなぐり捨て、必死に声を上げて訴える棗先輩。

羽沼議長に寄り添いながら、彼女を許してやってほしいと頼み込む京極先輩。

目に涙をいっぱいに溜めながらも、いつもの元気さを忘れずに一番前に立って頭を下げる元宮先輩。

号泣しながら「許せないけど許したい」という複雑な思いを口にし、小さな体でそう訴えるイブキ。

みんなの気持ちは一つだった。

議論はヒートアップしていったが、最終的には……

 

「分かりました。今回の件は万魔殿のみなさんもこういってますし、マコト議長も騙されていたということもあります。矯正局でしっかりと反省する、それでこちらは手打ちに致します。」

 

という、桐藤先輩からの鶴の一声で喧騒が収まった。

まぁそりゃトリニティのトップがこう言うならそれ以上追求できることはないだろうからな。

……本当に、桐藤先輩には感謝しなければならない。

 

とは言え、羽沼議長のやったことは外患誘致やテロ準備罪に当たる。到底簡単に許される罪ではない。

俺様達万魔殿はその件についてはこちらに全面的な非があること、羽沼議長の企みに早期に気づけなかったことをティーパーティーとシスターフッドに謝罪を行った。

そして、ここまで大きな規模になって援護へ来てくれたアビドスのみんなと春原姉妹にも頭を下げて礼を言わせてもらった。

なお、初めは謝罪の際に桐藤先輩や歌住先輩の前で土下座をして「そこまでしないでください!」と何故か怒られてしまったのはココだけの話にしておこう。

 

結局、羽沼議長は矯正局で当面の間の謹慎処分と出頭後の社会奉仕活動という形の処分が下ることとなった。

当初は万魔殿の議長の座も剥奪するという話が出て本人もそれを受け入れていたのだが、俺様を含む万魔殿のメンバーたちがそれに対して猛反発。

それだと筋が通らないという主張もあったけど、それでも俺様は万魔殿の議長は羽沼議長以外認めるつもりなんてないとその場でキッパリと言い放った。

そして、それは万魔殿の皆も同じ気持ちのようだった。

 

その後も各首脳陣と話し合いを続けたが最終的にはアリウスに騙されていたことや、必死に訴えた俺様を初めとする万魔殿のみんなに免じてと言う形で羽沼議長は出所後に議長の座に戻ることが決定し、なんとか彼女の議長の席を守り抜くことが出来た。

 

なお、その際に羽沼議長は涙を流しながら俺様達一人一人を抱きしめてくれた。

まったく、本当に手のかかる人だよ。

……とは言え、本当に良かった。

やっぱ万魔殿の議長は羽沼議長しかありえないからな。

 

羽沼議長が矯正局に服役している間は、恐らく京極先輩か棗先輩辺りが議長代理を務めることになるだろう。

少し寂しくなるけど羽沼議長にはきちんと矯正局の中で自分の罪と向き合って反省して、そのうえで綺麗になってまた万魔殿の議長席でふんぞり返っていて欲しい。

またあの騒がしい日々を、6人揃って迎えるため……そのためにも、俺様たちで万魔殿を守っていかければな。

 

あと、当然だがエデン条約は白紙へ戻ることになった。

まぁそりゃ当たり前の話だろう。

ああは言ったけど羽沼議長はトリニティを裏切ってあまつさえ殲滅戦を仕掛けようとしたんだ。

もちろん羽沼議長からも謝罪はあったんだけど、いくら謝罪されたからと言ってはいそうですかというわけにも行かない。桐藤先輩は立場がある手前余計にだ。

それにトリニティからしたらそんな連中と手を組むなんて言語道断、となるのは至極当たり前の話だからな。

 

その後も破壊された古聖堂の修理費や、各治安部隊の負傷者の対応をするなど、ひとまず今ここで出来る事後処理を終えてこの会談は一旦解散となった。

残った事後処理に関しては、ある程度トリニティが復興して落ち着いてから後日トリニティに万魔殿の代表が出向いて行うこととなった。

もちろんゲヘナ側もトリニティの復興を支援する、という形で約束したため今後もトリニティとは頻繁に関わっていくことになりそうだ。

 

そしてその後、一旦解散となりそれぞれの学園へと戻っていく生徒達を見送ったあとで、俺様達万魔殿と先生は矯正局まで羽沼議長とアリウススクワッドをしっかりと送り届けて、彼女達が服役するところを見守った。

 

「……行ってくる、お前達。」

「はい。いつまでだって待ってますから、羽沼議長。」

 

……大丈夫、きっと羽沼議長なら自分の罪を反省して自分自身と向き合うことが出来るはずだ。

アンタが出所するその日まではきちんと面会に行って定期的に話をするから、ちゃんと罪を反省して……そして前へ進める準備ができたら外へ出てきてくれ。

俺様は、その日をいつまでだって待っているからな。

 

そしてアリウススクワッド。

よく頑張った、あとは俺様達に任せてお前達は矯正局でしっかりとこの世界について学び直して欲しい。

そしてシャーレの所属となった際には、出所祝いにパーティでも開いてやるとしよう。

今から何を作るか考えておかねぇとな!

 

……こうして、今回のエデン条約調印式を襲った大規模テロは幕を閉じた。

 

今回の事件により、ゲヘナとトリニティがお互いの手を取り合うはずのエデン条約は破断となってしまった。

事後処理をしたとは言え、問題が全て片付いたわけではない。まだまだやることはたくさんある。

それに羽沼議長やアリウススクワッドは結果的には矯正局に入って罪を償うということになったけど、その処分に納得がいってない人が大勢いるのも事実だし、その気持ちも理解できないものではない。

彼女達は世間的に見れば犯罪者、許せないと言っている人たちのアフターケアも必要だろう。

 

少なくとも羽川先輩や、天雨行政官に対しては迅速にケアをする必要性を感じる。

……彼女達は完全に許したわけじゃなくて、怒りを飲み込んでくれているだけにすぎないからな。

俺様のワガママで本当に申し訳ないとは思うから、要望があればできる限り叶えるとしよう。

 

まだまだ問題は山積みだ。やる事は山のようにある。

万魔殿に帰ったらこれまで以上に忙しくなるのは間違いなし、今後も桐藤先輩や先生には迷惑をかけちまうことになるだろう。

 

そして……ゲヘナとトリニティ。

これからも両校のいがみ合いは続いていくんだろう。

 

……でも、あのテロの現場では先生の指示があったとは言えゲヘナとトリニティの生徒達が手を取り合ってお互いを助け合いながら事態を収めたのも事実だ。

あの時だけは、ゲヘナもトリニティも関係ない。

全員が同じ方向を向いていたのは間違いないだろう。

 

……だから、少しだけ。ほんの少しだけだけど。

今回のテロで、ゲヘナとトリニティはお互いに歩み寄れた気がするのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「やれやれ……面倒なことをしてくれたものですね。」

「元より捨て駒だったサオリ達はどうでもいいですが、ロイヤルブラッドを矯正局へ入れられてしまったのは少々面倒です。仕方ありません、奪還のために部隊を編成して訓練させたら矯正局に向かわせるとしましょう。まったく、余計な仕事を増やしてくれたものです。」

「丹花タツミ……本来ならばこの世界に居るはずのないイレギュラー。あのふざけた転生者のおかげで私の計画が台無しです。」

「アリウススクワッドはあの男をヒーローと呼んでいたようですが……あんなものはヒーローでありません。人を助けることでしか自分の存在価値を証明できない、哀れで臆病な虫けらなのですから。」

「そう、子どもは大人にただ搾取されていればよいのです。それがこの世界の真理。そして……前の世界を生きていた頃の貴方の真理です、丹花タツミ。」

「貴方はあのまま親に搾取されていれば良かった。……まったく、貴方に必死で教育を施していた貴方の親が不憫でなりませんね。かわいそうに。」

「……あぁそうだ、彼の過去を彼の愛する者達の前で暴露するというのもまた一興ですね。どんなふうに膝を付いて絶望してくれるのか……今から楽しみです。」

「先生も面倒な存在ではありますが……まずは彼から始末するとしましょう。肉体的にも、精神的にもね。」

「さぁ丹花タツミ、私の計画の邪魔をした責任は取ってもらいますからね……!」




今回でエデン条約編第3章完結となります
次回からは後処理編や日常編を挟んだ後に
アビ夏編に入ろうかと思っています

その後はカルバノグ一章かエデン条約編四章ですが
時系列的にどっちが先が曖昧なので
オリジナル展開と整合性を保てる方を先にしたいと思います

まだまだタツミの物語は続いていきます
もう少しお付き合いいただけますと幸いです!
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