転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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議長代理に就任したタツミ
トリニティでの首脳会談に臨みます


首脳会談と丹花タツミ

「まず確認しておきますが、今回タツミ議長代理にお越しいただいたのはこの間のエデン条約以降の顛末とあの時に出来なかった後始末について話し合うためです。」

「はい、俺様も今回はその話をするために来ました。」

 

桐藤先輩の言葉に、俺様はそう言いながら頷いた。

そう、今回トリニティにやって来たのは万魔殿で棗先輩とも話していたが、エデン条約関連の後処理をするためである。

 

あの赤いローブのバケモノを倒し、その後にアリウススクワッドや羽沼議長の処分を決める首脳会談を開いて実際に彼女達の処分を決めたところまでは良かった。

けど、肝心要だったその2つ以外の後の細々としたことはトリニティが壊滅的な打撃を受けていたこともあってすぐには決めることが出来ずに、しばらくは俺様達ゲヘナもトリニティの復興支援を行っていた。

 

元はと言えばトリニティの古聖堂にミサイルをブチ込んだのはアリウススクワッドと羽沼議長のせいだし、その負い目が万魔殿にはあったからな。

謝罪の意味合いも含めて、予算に糸目をつけずに壊れた建物の修理費や人員などは支援させてもらった。

そして今回、ある程度建物も修復できてトリニティの復興も進んできたためこうしてトリニティまで赴くことになったという訳だな。

 

「本来であれば私とタツミ議長代理の二人で話し合いをする予定だったのですが……シスターフッドと救護騎士団のリーダーも出席すると言って聞かず、このような形となってしまいました。」

 

両隣の歌住先輩と蒼森団長に視線をやりつつ、桐藤先輩はため息を吐きながらそう言った。

 

「……シスターフッドも変わりましたので。今後はこういった席には積極的に参加するつもりです。」

 

そんな桐藤先輩の言葉を聞いて、シスターフッドの長である歌住先輩は真剣な表情でそう言った。

 

俺様はトリニティに来るたびにシスターフッドに顔を出したり、歌住先輩を初めとするシスター達とはモモトークでも頻繁に話をする機会がある。

その中で耳に挟んだことなのだが、どうもシスターフッドは今までの政治無干渉主義から積極的に政治運営を担っていく方針に切り替えることにしたとの事だった。

 

きっかけは間違いなく、聖園先輩のクーデターだろう。

あそこでティーパーティーは内部分裂を起こして壊滅的な打撃を受け、まともに政治活動が出来るのは桐藤先輩のみである状況は今も変わっていない。

そのためエデン条約の時点ではシスターフッドの長である歌住先輩が桐藤先輩の補佐をしていたのだが、今後もその方針は継続していくようだな。

 

「私も騎士団の団長としての責務を果たすためにここにいるだけです。」

 

俺様が頭の中でそう思考をまとめていると、桐藤先輩の隣りに座っている蒼森団長はこれまた真剣な表情を浮かべながらキッパリとそう言いきった。

そんな彼女の姿を見て、桐藤先輩と歌住先輩の眉間に若干ではあるがシワが寄るのが見える。

 

……おい、なんか空気悪くねーかこの会議室?

と言うか来るたびに毎度毎度思うけど、トリニティで行われる会議ってなんかいつも空気が重い気がするんだけど一体どうなってんだよマジで。

 

「えっと……つまり、歌住先輩と蒼森団長はティーパーティーに睨みを効かせるためにここに居ると?」

「ふふ、私は純粋に興味があるだけですよ?」

 

俺様は頬に冷や汗が流れるのを感じながらそう言うと、歌住先輩は笑顔を浮かべながらそう口にする。

……なんか、笑顔に含みがある気がするのは気の所為なのだろうか?

 

「えっと……私はそのような政治的なことは良くわかりません。」

 

対して、きょとんとした表情でそういう蒼森団長。

この場にいるのだから、てっきり政治的な話をするつもり満々なのかと思ったがどうやらそうではないらしい。

いや、それなら何で貴方はここにいるんですか……?

 

「タツミさんもご存知かとは思いますが、エデン条約の騒動はどうにか収まりましたが事件の事後処理と情報分析は依然として終わっておりません。」

「……そうですね。大元のアリウススクワッドや羽沼議長の処分は済みましたけど、まだ細々とした部分の処理は済んでないのが現状ですし。」

「はい、その通りです。そして私達もこの事件と無関係ではありません。分析の一部はシスターフッドが担当しておりますから。」

 

俺様の言葉に対し、そう答える歌住先輩。

 

「なのでこの席はそういった情報の共有、および事後処理について話し合うためのものだと思っていただければ問題ありません。」

「はい、そういうことですね。」

 

いや、それはまぁ元よりそのつもりだったから別に問題はないんだけど……

 

「失礼ながら、何故その話をティーパーティーではなく歌住先輩や蒼森団長が?本来こういうのは生徒会であるティーパーティーの仕事のはずじゃ……?」

「それに関しては、私からお答えしましょう。」

 

俺様がそう疑問を口にすると、蒼森団長は俺様に視線を向けながらそう言った。

 

「今、ティーパーティーには外部の助けが必要です。」

 

ピシャリとそう言い切る蒼森団長。

 

「エデン条約の前後にティーパーティーの一員がホストを攻撃する事件が起こり、その結果監獄に入れられるという前代未聞の事態が起こりました。」

 

……いつ聞いてもひどい事件だと思わざるを得ないけど、まぁ実際に起こったことだから仕方がないだろう。

蒼森団長の言う通り、聖園先輩のクーデターのおかげでティーパーティーは未だにその時に受けた壊滅的なダメージからまだ回復しきれていない。

 

その証拠に、パテル分派リーダーの聖園先輩はクーデターと外患誘致の罪により監獄で謹慎処分中。

聖園先輩は直接話した時にかなり反省していた様子だったけど、流石にクーデターと外患誘致をやらかした奴を生徒会業務に関わらせるわけにはいかないだろう。

 

続いて、サンクトゥス分派リーダーの百合園先輩も襲撃を受けて最近まで蒼森団長に護衛されており体の方はようやくまともに動かせるようになってきた所らしい。

まぁとてもじゃないが、そんな状態でまともに生徒会の業務が出来るかと言われると無理だろうからな。

 

そのため、現状ティーパーティーでまともに業務が出来るのは現ホストであるフィリウス分派リーダーの桐藤先輩しかいないのが現状だ。

蒼森団長の言う通り、外部の助けがいるのはそのとおりだろう。

 

「まさか、セイア様を攻撃するように命じたのがミカ様だったなんて……」

(……まぁ、それは俺様も思ったけど聖園先輩にもなにか深い理由があったような気がするんだよな。)

「セイア様の治療に当たったのは周知の通り私です。そのため、私も自分なりにこの事件のことを調べてまいりました。」

 

蒼森団長は自身の前に置いてあった資料を手に取ると、その資料をパラパラとめくって目を通しながらそう言った。口ぶりからして、蒼森団長が自身で調査を行って作成したもののようだ。

 

「ミカ様は結果的にアリウスに利用された形ではありますが……だからといってご本人の罪が消えるわけではありません。」

「……そうですね。それは俺様もそう思います。」

 

聖園先輩は反省して監獄で刑期を消化しては居るとは言え、彼女の罪が消えるわけじゃないのは蒼森団長の言うとおりだ。

とは言え、反省して罪と向き合っているのだから必要以上に断罪する必要はないと俺様は思うけどな。

 

「はい。……そして現ホストであるナギサ様はシャーレという超法的組織を利用し、無実の生徒を退学に追い込もうとしました。」

 

……そう言えばそうだったな。

色々なことがありすぎたせいですっかり忘れていた。

 

桐藤先輩はエデン条約調印式の少し前に補修授業部を立ち上げ、そこへトリニティの裏切り者だと疑いをかけた人物を集めてまとめて退学させようとしていたのだが……

いざ蓋を開けてみれば補修授業部のみんなは決して裏切り者等ではなかったし、エデン条約をどうこうしてやろうと言う意思は全く持って持ち合わせて居なかった。

まぁ、厳密には白州先輩はアリウスから潜入してきていた訳だから完全に白というわけではなかったけども……

それでも彼女はアリウスの命令に背き、自身の意志により桐藤先輩を守ってくれたからな。

 

正直桐藤先輩のやり方は俺様もどうなのかと思ったし、シャーレの権利を悪用するのは流石にやりすぎだ。

とは言え、桐藤先輩もアリウスによる百合園先輩の襲撃や聖園先輩のクーデターによって誰も信じられない疑心暗鬼状態になっていたのは否定できない事実ではある。

 

「被害を受けた生徒達に謝罪し、およそ丸く収まったとは聞いていますが……それでもナギサ様の行為がなかったことになるわけではありません。」

 

……正直、俺様は彼女には情状酌量の余地はあると思う。

同じティーパーティーの一員である百合園先輩が襲撃をされたとあっては、次はもしかしたら自分かも……と思うのはごくごく自然なことだろう。

ましてや彼女は腕っぷしの強い方ではない、襲われたら抵抗もままならないとなれば尚更だ。

 

それに、結局その後に桐藤先輩は阿慈谷先輩達に謝罪をして彼女達からは許しをもらっているしな。

まぁとは言え、蒼森団長の言う通り彼女のしたことがなかったことになるわけではないんだけど。

桐藤先輩は阿慈谷先輩達にしたことをきちんと反省しているようだし、ならこれ以上の追求は不要だろう。

……ややこしくなりそうだから口には出さないでおくが。

 

「セイア様は幸い学園には復帰することが出来ましたが……現状は彼女の心労や体調面も考え、自室から出ることを控えるようにと申し上げてあります。」

 

……まぁそりゃ同じティーパーティーの仲間である聖園先輩からの差し金からの襲撃を受けて、その後にあのテロが起こったとなれば百合園先輩の心労は察するに余りあるものがあるのは確かだろうな。

俺様は彼女と顔を合わせたことはないけど、気の毒だと思わざるを得ない。

 

「そのため、現状の不安定なティーパーティーには外部の助けが必要だというのが私の判断です。」

 

蒼森団長は、資料に目を落としながらハキハキとした声でキッパリとそう言いきった。

……そうだな、それに関しては概ね俺様も同じ意見だ。

 

「……丁寧なご説明ありがとうございます、ミネ団長。」

「いえ、私は私のなすべきことをしたまでですので。」

 

桐藤先輩は苦笑いを浮かべながら蒼森団長にお礼を言うが、蒼森団長は淡々とそう言うと資料をその場で畳んで目の前のティーカップに注がれた紅茶を口にした。

 

……なんというか、桐藤先輩も大変だな。

あとで胃薬でも差し入れておくとしよう。

 

「ミネ団長はトリニティで最も古い歴史を誇る部活のリーダーであり、ヨハネ分派の首長。本来ならティーパーティーに参加する権利を有しております。今までは自ら救護活動をするためにそれを断っておりましたが。」

 

この場の冷え切った空気を察してか、歌住先輩が蒼森団長についてそんな補足を入れてくれた。

……なるほど、つまり蒼森団長は本来ならばティーパーティーの一員として働ける権利を有していると言う事か。

ならここまで桐藤先輩に対して当たりがキツい……と言ったら言い方は悪いが、はっきり物を言えるのも納得だ。

 

「……過去の話です。」

 

蒼森団長はそう言うと、手にしていたティーカップを皿に置くと歌住先輩を鋭い目で睨みつける。

……なんか俺様まで胃が痛くなってきたんだけど。

 

あれ、これってエデン条約関連でまだ終わってない問題を解決するための首脳会談のはずだよな?

何故俺様はシスターフッドの長と救護騎士団の団長が激しい視線をぶつけている場面を見させられてるんだ。

もしかして、歌住先輩と蒼森団長って仲が悪いのか……?

 

「……この事件を紐解くと、全てアリウスに集約されます。」

 

俺様がそんな事を考えていると、桐藤先輩が口を開く。

 

「エデン条約会談場の襲撃、その実行犯であり黒幕だったのがアリウス分校でした。」

 

まぁ厳密に言うと、アリウス分校ってよりはその裏で連中に虚しさなんてものを植え付けている邪悪な大人のせいと言った方が正しいんだけど……まぁ表向きはアリウスの仕業ということになっているからな。

 

それに、アリウススクワッドの救済には成功したもののまだまだアリウス分校には悪い大人の毒牙にかかっている生徒達が大勢いるだろうことが予想される。

そう、アリウスとの戦いはまだ終わってはいないのだ。

そのためにも、ここでアリウスに関する情報を聞いておくのは重要なことだろう。

 

「その点からすれば、マコト議長もミカさんもアリウスの手によって踊らされていただけとも言えます。」

「……まぁ、それはそうですね。」

 

桐藤先輩の言う通り結果的に聖園先輩はアリウスに自分達がトリニティへ潜入するための案内役として利用されたわけだし、羽沼議長だって一緒に戦うと約束したはずなのに譲り受けた飛行船に積まれた爆薬により危うく万魔殿の全員がまとめて始末されるところだったからな。

そもそも羽沼議長に最初に接触してきたのはアリウスの方からだったし、2人共見方を変えればアリウスに騙された被害者であるのは間違いないだろう。

とは言え、彼女達の犯した罪が消える訳ではない。

彼女達にはしっかり反省してもらう必要があるだろう。

 

「アリウスが背後で糸を引いていたのなら、いくつかの疑問が残ります。」

 

俺様が緊張感を紛らわせるためにティーカップの中の紅茶を一口飲んでいると、歌住先輩がそう呟く。

 

「一つ、何故アリウス分校はエデン条約を妨害したのか。」

「あ、それはアリウススクワッドのリーダーである錠前サオリから聞きましたけど、奴らの目的はユスティナ聖徒会の確保だったみたいです。」

 

まぁあの時点でのアリウススクワッドは長年つもりにつもったゲヘナやトリニティへの憎悪もあっただろうし、その2校を同時に叩き潰せるチャンスだと思っていたってこともあるだろうけどな。

とは言え、奴らの後ろで糸を引いている黒幕の目的がユスティナの確保だったことは間違いないだろう。

 

「彼女達はエデン条約と言う【契約】を利用してあのような不可解な戦力を手に入れようとしていたとセイアさんも仰っておりました。」

 

……ん?百合園先輩も把握していたのか?

百合園先輩は確かエデン条約の最中は蒼森団長に保護されていたようだし、現場に出てきてはないはずだけど……

うーん、先生から詳細でも聞いていたのだろうか?

まさか未来が見える……なんてことがあるわけないしな。

 

「はい。ユスティナ聖徒会の姿をした幽霊たち、それらがそのままトリニティやゲヘナを襲撃していたら両学園はなすすべもなく崩壊したはずです。」

 

蒼森団長はそう発言すると、すっと目を細めてそのまま視線を歌住先輩へと固定した。

……確かエデン条約の調印式の前に歌住先輩から聞かされたけど、どうもユスティナ聖徒会というのはシスターフッドの前身に当たる組織だったらしい。

その姿をしている幽霊のような謎の軍隊……蒼森団長はシスターフッドとの関係性を疑っているのだろう。

 

「一体あれは何だったのですか?」

「それについてはいくつかの仮説がありますが……それを裏付ける証拠を発見できていない状態です。」

 

桐藤先輩はため息を吐きながらそういった。

……まぁたしかに色々仮説はあるけど、今は正体不明の無限湧きする謎の武装集団と思っておけばいいだろう。

奴らの正体が分かったところで、何があるわけでもないだろうからな。

 

「ユスティナは本来シスターフッドの前身だった集団です。サクラコさん、この部分について何か我々に隠していることはありませんか?」

「……いいえ、残念ながら。」

 

蒼森団長の質問に対し、歌住先輩はハッキリとそう答える。

まぁそうだろうな、ユスティナ聖徒会が現れた時にシスターフッドの人達はめちゃくちゃ驚いていた。

見覚えがあるならあれほど驚くことなないだろうし、そもそも歌住先輩も驚いていたからな。

彼女にとっても想定外のことだったのだろう。

それに、いくらユスティナがシスターフッドの前身の組織であるとは言ってもそんなのは遠い昔の話。

歌住先輩が知らないのも無理はないだろう。

 

「シスターフッドは元来秘密が多い集団です。情報の統制や秘匿、湾曲にも長けています。」

「……蒼森団長、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

蒼森団長はその場で席を立ち、歌住先輩へ詰め寄ろうとするがそんな彼女に対して俺様はそう声を掛けた。

 

「貴方の言っていることは、早い話が歌住先輩を信用していないということに他なりません。」

 

そして俺様は蒼森団長の目をまっすぐに見据えると、真剣な表情を浮かべてそう言った。

 

「確かにシスターフッドが秘密の多い集団だというのは貴方の言う通りなんでしょう。俺様はシスターフッドとは関わりが多いとは言え所詮はゲヘナの所属ですから、トリニティに籍を置いている蒼森団長の認識のほうが正しいのは間違いないと思います。」

「……」

「ですが、ただ秘密が多いというだけで歌住先輩を信用しないというのはあまりにも失礼な話なのでは?」

「……タツミさんは、トリニティの中にシスターフッドに対して不信を抱いている生徒がたくさんいるのはご存知でしょうか?」

「えぇ知ってますよ。ですが……それがどうしたと言うんです?」

 

こちらの目を射抜くような鋭い視線で見据えながら、淡々とそう言葉を発する蒼森団長。

俺様はその視線を真正面から受け止めつつ、一歩も退くこと無く更に言葉を紡ぐために口を開く。

 

「俺様はシスターフッドと関わることが多いので分かりますが、歌住先輩はそんな学園の根幹に関わる重要な秘密まで隠すような人じゃありません。特に今回はエデン条約というトリニティだけでは済まない問題なんですから、何か知っていれば話してくれているはずです。」

「……」

「だから、ハナからそうやって貴方を信用してませんって言うのは歌住先輩に失礼です。蒼森団長には蒼森団長の考えがあるでしょうから疑うのをやめろとまでは言いませんが……歌住先輩の気持ちも考えてあげて下さい。」

 

そして、俺様はハッキリとした口調でそう言い切った。

歌住先輩は直接話す時も、モモトークで話をする時もそうだけど【自分はよく疑われて勘違いされる】ことをひどく気にしている人だ。

そして、彼女に向けられている目はまさに蒼森団長からの疑いの気持ちのようなものなのだろう。

 

確かにシスターフッドが秘密主義集団なのは事実だ。

だけど、そこに所属しているシスター達は隠し事なんてなにもないくらいには善意に満ち溢れた人達ばかり。

それは若葉先輩や伊落を見ていたら分かることだろう。

そんなシスター達に慕われて、彼女達をまとめ上げている歌住先輩がそんな重要な事を隠すとは思えない。

 

「……そうですね。すみません、失礼いたしましたサクラコさん。無礼をお許し下さい。」

「いえ、考えてみればシスターフッドの前身であるユスティナ聖徒会についてなにか知っていないか疑うのはごく自然なことですから。大丈夫ですよ、ミネ団長。」

 

俺様の言葉を聞いて思う所があったのか、蒼森団長は素直に歌住先輩に対して頭を下げる。

謝罪を受けた歌住先輩は自分にも非があったと認め、蒼森団長に対して頭を上げるように声を掛けていた。

 

「シスターフッドには私すら知らない秘匿されたものが多く存在します、詳しく申し上げることは出来ませんが……ですが、あのユスティナの姿をした亡霊に関しては本当に何も存じ上げておりませんので。」

「分かりました、ありがとうございます。」

 

歌住先輩と蒼森団長はお互いに顔を見合わせてそう言葉をかわすと、そのまま蒼森団長は席へと戻っていく。

……どうやら揉め事になる事は避けられたようだ。

俺様はなんとか丸く収まったことに安堵しつつ、ティーカップを手にとって紅茶を一口飲む。

 

「……こういうところなんですよね。こういうところに私もシスターヒナタもマリーも……」

「……?」

 

なんか歌住先輩、さっきから小声でぶつぶつと言ってるけど大丈夫だろうか?

そんな事を思いつつ、俺様は紅茶を口の中へ流し込む。

 

……あ、この紅茶香りが良くて中々に美味いな。

さっきまでは緊張と空気の重さで味なんて分かんなかったから、味を感じることが出来て少し感動している。

 

「ふふ、お気に召して頂けたようで何よりです。」

「……あれ、そんなに顔に出てました?」

「はい、とても美味しそうに飲んでいらっしゃいましたよ。」

 

俺様がそんな事を考えていると、正面に座っている桐藤先輩がニコニコしながらそう言葉をかけてくる。

 

「はい、めっちゃ美味しいです。この紅茶。」

「それは良かったです。その紅茶は今回の会談でタツミさんにお出しするためにゲヘナ産のものにしてみたのですが、お口に合ったようで何よりです。」

「あ、そうだったんですね。俺様のためにわざわざ気を使っていただいてありがとうございます。」

「ふふっ……いえ、お気になさらないで下さい。その紅茶と茶菓子は些細ですが、私からの議長代理就任祝だと思っていただければ。」

「分かりました、謹んで味あわせてもらいます。ありがとうございます、桐藤先輩。」

 

なるほど、道理で俺様の口に合うと思ったらわざわざゲヘナ産の物にしてくれていたんだな。

何と言うか、こういう客人への気遣いが上手い辺り流石は生徒会のトップに立つ人物なだけはある。

今度万魔殿で他学園の首脳陣を招く際は、是非とも参考にさせていただこう。

 

「話を戻しましょう。トリニティの防衛システムを無力化したあの巡航ミサイルの分析はどうなりましたか?」

「はい。そちらの方も分析を進めておりますが今のところ出どころも構造も不明……キヴォトスに存在する技術ではないということだけが分かっています。」

 

なるほど、ということはアリウス領から放たれたとんでもない威力のあの巡航ミサイルはラムジェットエンジンでは無かったということだな。

しかしキヴォトスに存在しない技術を使って作られた巡航ミサイルといい、あの赤いローブのバケモノといい、今回のテロにはどうにも何か裏で強大な存在が糸を引いている気がしてならない。

なんというかこう、カイザーなんていう姑息でセコい真似をする悪徳会社とはレベルが違うような何かが……

 

「アリウス分校は未知の力を最低2つは確保しているということですね。」

「はい、そしてそれは2つ目の疑問に続きます。」

 

蒼森団長の言葉に、歌住先輩が言葉を被せてそういう。

 

「2つ目、アリウス分校は何を計画しているのか。」

 

……うん、問題はそこなんだよな。

どうやらアリウスを裏で操っている黒幕がユスティナって無限の戦力を欲しがっていたのは理解できた。

だが、それを使って何をしようとしているのかについては皆目見当も付かない状態が続いている。

 

まず思いついたのはキヴォトスの侵略だが、それならば確保したユスティナを即座に各学園に派遣して学校を襲わせればよかっただけのこと。

それをせずにユスティナを確保してアリウス自治区に持ち帰ろうとしていた辺り、キヴォトス全体の侵略をアリウス分校が考えている可能性は低いと言えるだろう。

とは言え、じゃあ何が目的なのかと問われれば何も思いつかないのが現状ではあるんだけどな……

 

この前面会に行った時も何か心当たりがないか錠前や秤に聞いてみたけど「マダムが何かを企んでいる」とは言っていたが、それ以上のことは知らされていないと言う旨の供述があったからな。

まぁ、ここまで用意周到なクソ野郎が自分の目的をそう簡単に漏らすとは考えにくい部分はあるけど。

 

「……これについて、私達は何も分かっていません。そして何よりも、私達はアリウス自治区がどこにあるのかも知りません。」

 

……そう、一番深刻な問題はそこだと言ってもいい。

アリウス自治区の場所が不明、これが今一番俺様達の頭を悩ませる悩みのタネとなっている。

 

仮にアリウス自治区の場所が分かっているのならそこへ先生に協力を要請して乗り込み、黒幕を引きずり出してボコボコにした挙げ句ヴァルキューレに突き出せば問題は解決するのだが……

場所がわからない以上、その手は使えないからな。

 

……え?やり方があまりにも力技すぎないかって?

うるせー!そもそもエデン条約の調印式を狙って巡航ミサイルをブチ込んでくるようなイカれた奴に話し合いが通じるわけがねーだろうが!

それに俺様はゲヘナ出身だぞ!ここはゲヘナらしく、拳で語り合った上で解決するのが一番はえーだろうしよ!

 

それにアリウススクワッドは救い出すことが出来たけどそれ以外のアリウス生達は未だに苦しんでいるんだ。

もはや手段を選んでいられる場合ではないだろう。

 

「以前からそれは謎のままでしたが、この事件をきっかけにいくつかの糸口を得ることが出来ました。」

 

俺様の思考を横目に、歌住先輩はそう言葉を続ける。

 

「彼女達はあの時、通功の古聖堂の地下にあるカタコンベから潜入しておりました。これまでの彼女達の潜入ルートもすべてカタコンベと関連していますし、巡航ミサイルの発射位置もトリニティ内の遺跡地区でした。」

 

そう言えば、この前アリウススクワッドの面会に行った時に錠前がそんなことを言っていた気がするな。

なんでもアリウス自治区からトリニティにはカタコンベを通って潜入していたが、アリウス自治区に行くためのルートは毎回変わるため作戦のたびにちゃんと帰れるように入口を示した地図を渡されていた……と。

 

詳しい話は分からないけど、トリニティには無数の地下通路……と言うか地下遺跡みたいなものがあるらしく恐らくアリウスはそこのどこかを根城にしているんだろう。

しかし、毎回出入りするたびに入口が変わる自治区がキヴォトスに存在するなんて聞いたことがない。

 

「カタコンベは未だにその規模が明らかにされていない迷宮です。そこから自力でアリウス自治区を見つけ出すのも大変難しいでしょう。」

「まぁ虱潰しって訳にも行きませんからね。現状アリウス自治区を俺様達で見つけるのは不可能に近いかと。」

「はい。それにセイアさんいわく、あの自治区は私達が理解できないとある力で保護されている……とか。」

 

……まぁそれに関しては俺様も概ね同意だ。

今のキヴォトスの技術力を持ってしてもここまで人を割いて捜索していてアリウス自治区を見つけられないなんてことがあるわけがないだろうからな。

十中八九、何かしら俺様達の理解の範疇を超えている謎の力が働いていると見たほうがいいだろう。

しかし……そんな事が分かるなんて、百合園先輩は一体何者なんだろうか?

 

「また理解できない力の話ですか……」

「かつてアリウスだったアズサさんの話では、任務のたびにカタコンベの出入り口が記録された地図を渡されていたそうです。」

 

……そう言えば白州先輩も元々アリウスの出身だったな。

彼女がトリニティに正式に籍を置くようになってからもうそれなりに経つからすっかり忘れていた。

しかし、白州先輩も錠前と同様で地図を受け取っていたとなると……

ますます俺様たちでアリウス自治区を見つけるのは難しいと言わざるを得ないだろうな。

 

「地図の経路は毎回変わり、暗号化までされているとのことでした。」

 

なるほど……錠前や秤の供述と一致しているな。

ということはアリウス自治区を見つけるよりは、作戦に出てきたアリウス生を捕まえて地図をぶんどって秤辺りに解読してもらえば良いんじゃないだろうか?

いくら地図に暗号化が施されているとは言え元々アリウスでそれなりの立場だっただろう秤ならもしかしたら解読は可能かもしれないからな。

現状それが一番アリウス自治区にたどり着ける可能性が高い方法であることは間違いないはずだ。

そう考えた俺様は、それを伝えるために口を開こうと……

 

「……その少女を取り調べたのですか?」

 

した瞬間だった。

突如、眉間にシワを寄せて表情を強張らせた蒼森団長がその場から立ち上がると桐藤先輩に詰め寄っていく。

 

「えっ……?」

「白州アズサさん……あの子にアリウスの情報を吐かせたのですか?」

 

蒼森団長はそう言うと一気に目を吊り上げ、一目見て分かるほどの怒りを露わにすると大声を挙げ始める。

 

「彼女はもう充分な代償を払っています!自分が居た自治区から裏切り者の烙印を押され、それでも私達のために頑張ってくれました!やっと心の平穏を取り戻したであろう子を私達の事情に巻き込んで、アリウスの情報を問い詰めるなんてなんて残酷な……!」

 

いや、流石にそれは桐藤先輩に対して失礼では?

少なくとも彼女はそんな血も涙もないようなことをする人ではないのは今まで接してきた俺様なら分かる。

 

「あ、いえ!取り調べたとかではなくあくまで本人が語ってくれたことなので……!」

「あの少女が果たしてそのような気持ちになるのでしょうか!ティーパーティーの権力を利用して、か弱い少女に無体を働いたに違いありません!」

「え、ええっ!?」

 

……もしかしてだけど、蒼森団長ってわりと思い込みが激しいタイプの人なのかもしれないな?

で、多分だけどこの人は自分がこうって思ったら一直線に突き進んでいくタイプの人なのだろう。

良く言えば思い切りが良い、悪く言えば猪突猛進ってところだろうか。

もちろんこの怒りや激情が正義感から来るものなのは分かっているけど、流石にこれは見過ごせないだろう。

 

「落ち着いて下さいミネ団長、その様な事実はありません。」

 

見かねた俺様が蒼森団長に声をかけようとすると、それよりも前に歌住先輩が席から立ち上がって桐藤先輩と蒼森団長の間に体を入れる。

 

「……違うのですか?」

「はい。ナギサさんが血も涙もない残酷な方なのは確かですが今回は違います。アズサさんは無礼な待遇を受けてなどいません。」

 

……おい、アンタもかよ歌住先輩。

それフォローになってないからな?

なんなら背中から言葉のナイフでぶっ刺してるからな?

桐藤先輩に助け舟を出しているようで、むしろ蒼森団長の援護射撃になっているんだが……?

 

ほら見ろよ!

桐藤先輩めっちゃ悲しそうな顔してるじゃん!

流石に気の毒すぎるだろ……紅茶のティーカップを持ってる手がプルプル震えてんじゃねぇか。

 

「……桐藤先輩、大丈夫ですか?」

「お気遣いいただきありがとうございますタツミ議長代理。大丈夫ですよ。」

 

……いや、明らかに笑顔が引きつってるんだけど。

絶対に無理してるだろこれ。

 

……まぁ桐藤先輩がエデン条約の前にシャーレの強権を使って補修授業部を退学させようとしていたのは事実ではあるけど、あれは情状酌量の余地があるし本来桐藤先輩は人の事を思いやれる優しい人だからな。

そんな事をするはずがないし、血も涙もない人間であるわけなんてないだろう。

 

「蒼森団長、そもそも仮に桐藤先輩が白州先輩にそんな事をしていたら補修授業部の顧問である先生が黙っているわけがありません。そんな事実がないのは明らかだと思いますよ。」

「……そうですね、失礼いたしました。ナギサ様。」

 

蒼森団長は俺様や歌住先輩の言葉を聞き入れると、素直に桐藤先輩に謝罪する。

 

「いえ、大丈夫です……補修授業部の方々は本来負うべき責任よりもずっと多くのことを背負いました。その中には私が原因のものもあったでしょう。それに関しては私にも負うべき責任と後悔がありますから……」

 

桐藤先輩は表情を曇らせると弱々しい声でそう言った。

 

「そのため、エデン条約以降のこのような場にあの子達が関与しないように努力をしております。」

 

……何度も言うようだけど、桐藤先輩が補修授業部に対して行ったことは良くないことだとは思う。

だけど彼女は自分の罪をこうして反省しているし、きちんと責任を感じても居るんだ。

なら、必要以上に彼女を責める必要はないだろう。

 

「はい、桐藤先輩の言う通り補修授業部の皆をこんなことに巻き込むわけにはいきません。特に白州先輩には何の心配もなく学園生活を楽しんでほしいですしね。」

「はい、タツミ議長代理の言うとおりです。このような泥試合は私達の役目でなければなりませんから。」

 

俺様の言葉に、桐藤先輩は頷きながら同意する。

そう、アリウスみたいな裏に邪悪な大人の居る事が確実かつ未知の力を持っているような勢力に補修授業部を始めとする生徒達を関わらせてはいけない。

そんな特大の厄ネタを相手にするんだ、何が起こるかなんて分かったもんじゃないからな。

こういう汚れ仕事は俺様たちのような生徒会の仕事なのだから、彼女達には是非青春を謳歌してもらいたい。

 

「……そうですね。ナギサ様、ご無礼をお許し下さい。」

「いえ、構いませんよミネ団長。」

 

蒼森団長はバツの悪そうな表情を浮かべながら桐藤先輩に謝罪し、桐藤先輩はそれをすぐに許していた。

……まぁなんというか、蒼森団長は良くも悪くも自分の正直な人なんだろうというのは伝わってくるな。

 

「私達だけで残った問題を解決すること……それが我々に出来る最低限の礼儀なのでしょうね。ですが、タツミさんは私達と最後まで一緒に行動してくださると信じています。」

「もちろんですよ歌住先輩。ゲヘナだって今回の件に関しては無関係じゃありませんからね。それに、俺様は個人的にアリウスには思う所がありますから。」

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、俺様は歌住先輩に対してそう言った。

そう、俺様はアリウス……と言うよりは、その後ろで彼女達の操っているマダムとかいうクソ野郎に個人的に強い怒りと恨みを抱いているからな。

彼女達をこれ以上苦しませるわけにはいかないのだ。

 

……首を洗って待ってろよクソ野郎。

絶対にお前を表舞台に引きずり出して、アリウススクワッドや今までお前が虐げてきた全員の前で土下座して謝らせてやるからな。

 

「……ありがとうございます、タツミ議長代理。」

「いえ、ゲヘナのトップとして当然のことですから。むしろ俺様としてもトリニティに協力してもらえるならこれ以上にありがたいことはありませんからね。」

 

俺様と桐藤先輩は顔を見合わせるとお互いに笑い合う。

 

その後もお互いの持っている情報を交換しつつ、アリウスに対しての対策を練る俺様達4人。

元々はエデン条約関係で終わっていない事柄の後処理をする会談を予定だったのだが、いつの間にかアリウスへの対策会議へと概要が変化しているように感じる。

 

まぁアリウス関係に関しては早急に対策を立てる必要があるから、遅かれ早かれ何かしらの会議をトリニティとする必要があったからいい機会だと思うことにする。

エデン条約関係のゴタゴタはそれが終わってからでも遅くはないだろうからな。

 

「カタコンベは全体図さえ判明していない巨大な迷路……毎回変わる入口を探すだなんてそれは確かに難問ですね。一体どれだけの時間がかかるのやら……」

 

蒼森団長は手元のティーカップを口へ運びつつ、渋い表情をしながらそう言った。

 

「発送を逆転しましょう。通路を把握している人に話を聞いてみるというのはいかがでしょう?」

「通路を把握している人……ですか?」

 

少し考え込むような仕草を見せた後に、歌住先輩は静かにそう口を開く。

 

「はい。本来ならばアリウススクワッド……と行きたいところですが、彼女達は矯正局に入って現在は罪を償っている最中です。それに彼女達も白州アズサさんと同じでアリウスの被害者でもある。」

「……そうですね。彼女達は過去に罪を犯したとは言え今はキチンと反省して矯正局で罪を償っていますから。それに……俺様は彼女達には平穏な日々を送ってほしい。今更こんなことに巻き込みたくは無いですからね。」

 

それに、そもそも錠前達アリウススクワッドはすでにアリウス自治区から離反した身だ。

恐らく彼女達がアリウスに乗り込めないように既にアリウス自治区の入口は錠前達の知っているとは別の場所に変わっているだろうし、今彼女達に聞いたとしても分からない可能性が高いだろうしな。

しかし、そうなるともうカタコンベからアリウスへ続く通路を知っている人間なんて……

 

「……スクワッド以外にも1人、通路を熟知している生徒がいるのではありませんか?」

 

俺様がそう考えていると、歌住先輩が桐藤先輩に視線をやりながらそう言う。

 

「……ええと?どなたのことでしょうか?」

 

歌住先輩の言葉に、桐藤先輩もそう質問をする。

俺様もそんな人なんていたか?と彼女の言葉を聞きながら首を傾げていたが……今思い出した。

ティーパーティーに1人だけ、アリウスと繋がりのあった人物が居たことを。

 

「聖園ミカ。」

「……っ!?」

「エデン条約前にアリウスと共謀してセイアさんの襲撃の手引をした彼女なら……なにか知っているのでは?」

 

そう……その人物とはティーパーティーのパテル分派リーダーである聖園ミカ先輩その人だった。

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