「ねぇねぇイロハ先輩!」
「……おや?どうしましたかイブキ?」
「お兄ちゃんがどこに行ったか知らない?えっと、ぎちょー室に行ったんだけどいなくって!」
「あぁ、タツミなら今日の仕事が終わったからと言ってマコト先輩の面会でDU地区まで出掛けていますよ。」
「あ、そうなんだ。お仕事で忙しくないなら一緒に遊んでもらおうと思ったんだけど……それなら仕方ないね。」
「……タツミは議長代理になってから毎日忙しそうにしていますものね。」
「うん。お兄ちゃんは誰よりも頑張りやさんだから、きっとぎちょーだいり?になって前よりも頑張らなきゃって思ってるんだと思う。それは良いことなんだけど、最近全然イブキと遊んでくれなくて……」
「あるときは給食部の手伝い、あるときは風紀委員会との合同訓練……エデン条約の後処理が終わったはずなのに頻繁にトリニティにも顔を出しているようですし、山海経へも行っているようですからね。」
「うん、前よりも来てくれるようになったーってココナちゃんは喜んでたけど……」
「タツミが無理をする性格なのは前からわかりきっていたことですが、イブキと遊ぶ時間すらないとは……」
「お兄ちゃんが忙しいなら仕方ないんだけど、やっぱりイブキは寂しいなぁ……」
「……まったく、最愛の妹をほったらかしにするなんて罪な男ですね。タツミも。」
「あっ!そう言えばこの前、あびどす?の人達からリゾートへ行こうよって誘われてるってお兄ちゃんが言ってたよ!イブキも連れて行ってくれるんだって!」
「アビドスがリゾートに?……なるほど、さしずめあの猫耳の1年生かメガネの1年生辺りでしょうか。エデン条約の会場で随分わかりやすかったですからね。」
「わかりやすかったってなにがー?」
「いえ、なんでもありませんよ。」
「……?よくわかんないけど、イブキと一緒にリゾートに行けばお兄ちゃんもお休み出来るよね!」
「ふふっ、そうですね。」
(流石にタツミの最近の激務は目に余るものがあります……癪ですが、ここはアビドスの方達にリゾートに無理やり連れて行ってもらって休ませるのも手ですかね。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時刻は太陽が真上に差し掛かろうかと言う辺り。
場所はDU地区、矯正局の面会室にて。
俺様はドラマなどでよく見る2つの部屋が薄いガラスで区切られ、真ん中に互いが会話するために開けられた無数の小さな穴のある部屋にて羽沼議長と向き合っていた。
「よく来たなタツミ!キキキ、このマコト様に会えなくてさぞ寂しかっただろう?」
ガラスで区切られた部屋の向こうで腕を組みながらパイプ椅子でふんぞり返りつつ、万魔殿で嫌と言うほど見てきたドヤ顔を浮かべながら羽沼議長は心底愉快そうにそう言い放った。
「……あ、看守さん。面会はもう良いのでコイツ奥に引っ込めてくれて構いませんよ。」
「おいコラァ!!!開口一番なんてこと言うんだオマエはぁ!?」
「アンタが調子に乗ってるからだろこのアホ議長が!」
こっちがどんだけアンタのことを心配して面会に来たと思ってんだ!心配して損したぜまったく!
「はぁ……アンタは変わりませんね。」
「当たり前だ。何故なら私は万魔殿の議長、羽沼マコト様なのだからな。このような狭っ苦しい矯正局に入ったとてこのマコト様の栄光が錆びついたりはせんのだ。」
そう言って愉快そうに笑う羽沼議長。
なんか、もうここまで来ると呆れを通り越して逆に安心感すら覚えてしまうな。
まぁでも、少なくともいつまでも意気消沈してこの世の終わりのような表情を浮かべているよりはこっちの方がマシなのは間違いないだろう。
この方が羽沼議長らしいと思ってしまう辺り、俺様もだいぶ毒されてるんだろうけどな……
「まぁ元気そうで安心しました。差し入れ持ってきたんで、また看守さんから受け取ってください。」
「キキキ、殊勝な心がけだな。流石は私が見込んだ部下だけのことはある。」
ったく、また都合のいいことばっか言ってこの人は……
「……で、矯正局での生活はどんなもんです?看守さんに迷惑をかけてないでしょうね?」
「おい、貴様は私を何だと思ってるんだ?」
「え?バカですけど。」
「ぶっ飛ばすぞオマエェ!!!」
そうそうこれこれ、やっぱ万魔殿に所属してるなら羽沼議長をからかって遊ばねぇとな!
最近仕事仕事でストレスが溜まってたし、やっぱ久々にこれをやると楽しいもんだ。
……まぁ、やりすぎると拗ねちまうから程々にしておく。
「まったく、面会に来るやつの態度じゃないだろ!?」
「冗談ですって。そんなキレないでくださいよ。」
「オマエなぁ……まぁ、それなりには真面目にやっているつもりだ。問題行動は起こしていないと誓おう。」
「そうですか、なら良かったです。」
ため息を吐き出しながらもそう言う羽沼議長に、俺様は笑顔を浮かべながらそう言った。
まぁ、とは言っても俺様はこんな事を言ってこそいるが羽沼議長がきちんと反省しているかなんてのは疑ってすらいないんだけどな。
エデン条約会場でのテロが起こった当時、羽沼議長は涙が枯れるほど泣いて塞ぎ込むほどには自分の行いを反省して後悔していたんだ。
その後、俺様に発破をかけられた際言った「矯正局で罪を償う」という言葉に嘘はないと俺様は確信している。
現に現状万魔殿に矯正局から羽沼議長が問題を起こしていると言う旨の連絡は皆無だし、矯正局での様子を前もって聞いたけど真面目に日々課せられる刑務をこなしながら他の収監されている生徒の面倒も見ているらしく、更には班長まで任されているらしいからな。
やはりこの人は本質的に人の上に立つ素質というか、そういう星の元に生まれてきた人間なのだろう。
「……万魔殿の様子はどうだ?」
「今のところ特に変わりなく運営できてますよ。」
「そうか。お前たちには迷惑をかける……特にタツミ、お前に関しては特にな。」
「なーに、このくらいどうってことありませんよ。」
心配そうにそう問いかけてくる羽沼議長に対して、俺様は親指を立てながらそう答えた。
「大変だろう?議長の仕事は。」
「えぇそりゃもう……毎日毎日書類の処理にゲヘナの各部署からの意見を聞いたり、予算の管理や他校への外交に出張……正直頭がパンクしそうです。それに他の生徒からのプレッシャーもありますからね、こんな重大な仕事を涼しい顔で出来ていたアンタを少し見直しました。」
「キキキ、そうだろうそうだろう!だが、お前に素直に褒められるのはなんだか慣れなくてむず痒いな。」
「……いや、半分皮肉ってますからね?」
「なにィ!?」
……なんか、このやり取りも随分と久しぶりな気がする。
羽沼議長が矯正局に入ってからそこまで時間は立っていないはずだが、やっぱり寂しいもんだ。
「まぁ大変じゃないと言えば嘘になりますが……俺様なりに頑張っているつもりではいます。いつも助けてくれる先輩方には感謝の気持しかありませんね。」
「そうか……サツキもイロハもチアキも私が見込んだ頼りになる役員たちだ。なにか困ったことがあれば、あいつらにすぐ頼るんだぞ?」
「はい、肝に銘じておきます。」
……俺様はエデン条約会場でのテロの時、全てを自分で抱え込もうとした結果大怪我をしてみんなを死ぬほど心配させちまったからな。
あれからは、1人では無理だと思ったことはなるべく人に頼ったりするように心がけている。
まぁ1人でやろうとしちまうのは俺様の癖みたいなもんだからそう簡単には治らないとは思うが……それでも、もうあんなに皆に心配をかけちまうのはゴメンだからな。
少しづつでも改善できるよう努力するとしよう。
「……本当だろうな?お前といいヒナといい、人に頼らずに全て自分でやろうとする節があるからな。決して全て自分で抱え込むんじゃないぞ、分かったなタツミ?」
「……アンタはエスパーか何かですか?」
「フン。自分の部下のことなど把握しているに決まっているだろう?お前も次期議長になるなら、もっと人を見る目を磨くことをおすすめする。」
「……分かりました。肝に銘じておきます。」
柔らかな笑みを浮かべながらそう言う羽沼議長に対して俺様は若干ふくれっ面をしながらそう答えた。
……やっぱり、なんやかんや言いつつも俺様はこの人にはいつまでも敵わないのかもしれないな。
「ってかサラッと次期議長って言いましたけど、来年は棗先輩が議長になるんですから再来年の話なのでは?」
「は?何を言っているんだお前は。議長代理の選挙でお前が当選したなら、来年の議長選挙だってお前が当選する可能性の方が高いだろう?」
「……え、そうなんですか?」
「当たり前だ。万魔殿の議長は任命制ではなく選挙制だからな。まぁ後を任せられる部下が順調に育ってくれて、私としては鼻が高いばかりだが。」
え、ってことは俺様来年からずっとこの忙しさとプレッシャーを抱えながら学園生活を送らなきゃならんの?
……なんか胃がキリキリしてきた。
「まぁその、なんだ。代理ではあるが、議長の座にいきなり座って困惑している部分もあるだろう。こんな事を偉そうに言える立場ではないが……困ったらいつでも私に会いにここへ来るといい。相談に乗ってやる。」
「羽沼議長……」
「安心しろ。お前はこのマコト様が自信を持って自慢の部下だと言えるほどには優秀なんだ。それにゲヘナの長なら胸を張れ、常に笑っていろ。それさえできれば他がダメでも立派な議長としてやっていける。」
そう言って、ドヤ顔で腕を組む羽沼議長。
「……いや、仕事は出来なきゃダメでしょう。」
「キキキ……そうでもないぞ。何せ組織の長に何よりも必要なのはメンツ、決して弱みを見せないことだ。だから常に余裕な態度を崩さずいればいい。それさえできれば仕事など出来なくとも充分にやっていけるさ。」
「……そういうもんなんですか?」
「あぁ。それと後は人を使う事、指示を出す事だな。」
……確かに羽沼議長はやろうと思えば自分で書類の山をあっという間に崩せるほどには本人も優秀だけど、人に対して指示を出したり仕事を振るのも上手かったからな。
例えば気が利いて頼りになる京極先輩には自身の補佐を任せ、写真を取るのが趣味で情報収集が得意な元宮先輩には他校の偵察などの斥候を任せたりしていた。
何と言うか、その人の特徴にあった業務をキチンと無理のない量だけ割り振っていたのだ。
いわゆる適材適所と言うやつだな。
更に、サボり癖のある棗先輩に対しては業務をキチンとこなしたら休暇を与えたりなどアメとムチの使い分けもしっかりしていたように感じる。
まぁ他の人に仕事を任せて羽沼議長自身はイブキと遊び倒していたような気もするけど、今の俺様は確かに人に指示を出すことに関してはまだまだなのは確かだ。
それにトリニティに行ったときにも、確か桐藤先輩も同じようなことを言っていた気がするな。
組織の長に必要なのは決して弱みを見せないことだと。
……なんだかんだ、羽沼議長と桐藤先輩って立場さえ関係なければいい友人になれるんじゃないだろうか。
「そして最後にこれが一番大切なことだが……トップの座に座ったからには、私情を挟まないことだ。」
「……それ、あんたが言っても説得力無いんですけど?」
「何を言うタツミ。ヒナへ嫌がらせをすることは私情ではない。万魔殿の、ひいてはゲヘナ全体の利益に繋がるのことなのだからな!」
……いや、どう考えても私情100%だろ。
「まぁそれはともかく、組織のトップの人間が私情で動いてしまえば組織自体が不利益を被る可能性がある。もちろんトップとて人間だ。己の譲れないものだってあるだろう。だが……トップの座に座ったからには、私情を押し殺してでも、誇りを捨てでも決断せねばならぬ時が必ず来る。その時に私情を捨てられる者、それができる者がトップにふさわしいと私は思うからな。何より……それが上に立つものとしての【責任】だからだ。」
真剣な表情でそう言う羽沼議長。
(私情を捨てる……責任……か……)
「恐らくお前が一番苦手な分野だろうが、上に立つのであればこなさねばならん事だ。覚えておくといい。」
「……分かりました、出来るかはわかりませんけど頑張ってみます。」
「その意気だ。なに、最初からうまくやる必要はない。何事も初めから完璧な人間などいないからな。それにお前のいい意味での甘さや、私情を持ち込んで人を助けるお人好しさ。今回の選挙でお前に入れた連中はそういう所を評価している部分もあるだろうからな。」
「……はい、それは光栄の極みです。」
「あぁ。だから勘違いしてほしくはないんだが、私情を捨てるということは冷酷になれと言うことではない。お前のお人好しさは呆れる程だが、それはお前の長所でもある。まぁ短所でもあるが、要は決断を迫られたときに私情を挟むなというだけの話だ。普段人を助けたりするのをやめろと言っているわけではないからな?」
「分かりました、肝に銘じておきます。」
……耳の痛い話だ。流石は羽沼議長。
伊達にゲヘナと言う魑魅魍魎の闊歩する人外魔境でトップの座に座っていない。
やっぱり、この人は上に立つべき人物なのだろうな。
「お前は甘い。だがそれがお前の武器でもあるからな。それにお前はまだ1年生、世間から見ればヒヨッコもいい所だ。だからそうだな……初めの方はそれこそサツキやイロハに頼るといい。存分に甘えさせてもらえ。」
「はい、そうさせてもらいます。」
「プレッシャーをかける訳では無いが、今のお前は仮にもゲヘナの議長そのものだ。お前のその両肩にゲヘナの未来が乗っかっていることは……決して忘れるな。」
「……承知しました。羽沼議長。」
やっぱり、俺様はこの人には敵わないかもしれないな。
そんな事を思いつつ、その後も俺様は面会時間が終わるまで羽沼議長から議長の心得を教わるのだった。
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結局あの後も面会時間いっぱいまで羽沼議長と話しこんでいた俺様だったが、やがて傍に控えていた看守さんから面会時間の終了を告げられたため「また来る」と約束して矯正局を後にし、現在はゲヘナへと帰るためにDU地区にある駅を目指して歩を進めていた。
「それにしても、羽沼議長が元気そうで良かった。」
俺様は青空を見上げつつ、そう独りごちる。
途中からは何故か俺様が羽沼議長から議長の心得を教わる勉強会になっていたけど、元々俺様が矯正局へ羽沼議長の面会へ行ったのは彼女が心配だったからだ。
羽沼議長は罪を犯した直後はかなり弱っていたし、矯正局へ入る時も涙を流していたからな。
多分だけど、まだまだ彼女の心の傷は癒えてない筈だ。
それに、今は俺様が議長代理を務めてるけどやっぱり万魔殿の議長は羽沼議長じゃないと始まらないからな。
だから帰ってきたら万魔殿の全員でとびっきりの笑顔で「おかえり」って迎えてやらねぇといけないだろう。
(議長代理……か……)
俺様は心の中でそう呟いた。
議長の代理を務めることの難しさ、責任の重さはここ最近で嫌というほどには感じてきたつもりだったけど……
今回の面会で羽沼議長と話したことによって、まだまだ俺様の覚悟は全然足りていないことを思い知らされた。
きっと、羽沼議長は人知れずこの責任やプレッシャーを抱えながらも俺様達にはその重圧を感じさせないように振る舞っていた節もあるのだろう。
……なんやかんや言ってはいるけど俺様は本当に羽沼議長のことを尊敬してるし、今回の面会でその尊敬の念は更に強固なものへと変化した。
やはり万魔殿の議長は羽沼マコトしかありえない。
(俺様にできるのか……?羽沼議長が出所するその時まで、万魔殿の議長代理を務めることが……)
そもそも羽沼議長も言っていたけど俺様はまだ1年生。
こんなケツの青いガキにゲヘナなんてマンモス校のトップを任せるなんて正直どうかしていると思う。
自分で言うのもなんだけど、俺様は考えるよりも先に体が動いちまうタイプだ。どっちかっつーと組織のトップには向いてない人間だという自負がある。
……けど、選挙に来てくれた人達は俺様が議長代理の座に相応しいからと言って票を投じてくれたんだ。
その一票は決して軽いものではない、きっと悩みに悩んだうえで投票してくれたはずだ。
なら、そんな皆の期待を裏切るわけにはいかない。
正直言うと、今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
こんな重圧を、責任を背負いたくない。
もっと気ままに遊んでたい、好きなことをしていたい。
……だが、俺様の中にやらないと言う選択肢はない。
それがみんなに対する礼儀だから。
それが……上に立つ者が負うべき【責任】だから。
俺様が甘いのは自分が一番良く分かってるから、そういう意味でも万魔殿の皆には迷惑をかけてしまうだろう。
けど、それでもやるんだ。
羽沼議長も言っていたけど、俺様の両肩にはゲヘナの未来が乗っかっている。
その責任を放棄して逃げるなんてことがあってはならない、任された以上は責任を負う必要がある。
ゲヘナのみんなのためにも。万魔殿のためにも。
イブキのためにも。そして……羽沼議長のためにも。
弱音を吐く訳には行かないんだ。
だから、羽沼議長が出所するその時まで……俺様は彼女の席を全力で守り続けてやる。
それが今、俺様に出来る精一杯のことだからな。
(よし、やってやるよ……!)
俺様は天に拳を突き上げ、そう決意をするのだった。
……あ、そういや羽沼議長の面会の後にアリウススクワッドの連中にもにも会ってきたんだけど彼女達もしっかりと心を入れ替えて矯正局での刑務に励んでいるみたいでなによりだった。
彼女達は矯正局を出所した後はシャーレで身柄を預かってもらうことになっているから、出所後の就職先も約束されているので安心して罪を償って綺麗な体になった上で青春を謳歌してほしいからな。
彼女達はエデン条約の時はテロリストだったけど、今は過去の罪を必死に償っているただの女の子たち。
なにか困ったことがあれば、是非力になってやりたい。
『うわぁぁぁぁぁん!!!タツミさんからいただいた差し入れのプリンが美味しすぎますぅぅぅ!!!』
『……タツミ、ヒヨリがうるさいからそんな毎回差し入れは持ってこなくても大丈夫だよ。』
『ミサキさん!?私の楽しみを取らないでくださぁぁぁぁい!?』
……まぁ、相変わらず槌永は元気なようで何より。
戒野はそんな槌永に呆れつつも、たまにだけど柔らかな表情で笑うようになってきている様子だった。
本人から聞いた自傷癖も少しづつだけど治ってきているようだし、良かったと言えるだろう。
『タツミ、お前には感謝している。ありがとう。そう言えばアツコが言っていたんだが、お前はすけこまし?と言う奴らしいな。すけこましとはなんだ?』
『……サっちゃん、面会が終わったらお説教だからね?』
あと、相変わらず錠前は戦闘のこと以外になると世間知らずさをいかんなく発揮していた。
錠前はキリッとしたクール系の美人だが、接するうちに段々と「あれ?もしかしてこいつって結構ポンコツなんじゃ……?」と思うようになってきたんだよな。
人は見かけによらない、とはまさにこの事だろう。
つーか、秤はなんてことを錠前に吹き込んでんだ。
俺様はスケコマシじゃねーっつーの。
……心底楽しそうにしてたし、別に構わないけどよ。
まぁそんなこんなで、アリウススクワッドの連中の元気な姿が見れて俺様も安心したというわけだな。
ちなみにだが、初めて彼女達の面会へ行った時に知ったんだけど錠前を初めとしたアリウススクワッドのメンバーは秤以外はどうやら俺様よりも歳上だったらしい。
そのため俺様は秤以外には先輩を付けて敬語で呼ぼうとしたんだが錠前も戒野も槌永も「そのままでいい」と強く要望して来たため、敵対していたときと同じように接することとなった。
俺様としては歳上は敬いたいのだが「この方がいい」とみんな言って聞かなかったからな……まぁ、別に本人たちがそれでいいのなら俺様は構いはしないけども。
(さて、せっかくDU地区まで出てきたことだしイブキにプリンでも買って帰ってやるかなー。)
そんな事を心の中で考えつつ、俺様はひたすらDU地区をてくてくと歩いていく。
確かDU地区といえば結構前に羽川先輩と私服で遊びに行ったカフェがあったはずだ。
あそこで食ったプリンがとても美味くて、確認したら持ち帰りもやっているみたいだからイブキやみんなに土産として買って帰ってやるとしよう。
そう決めた俺様はマップアプリに喫茶店の位置情報を入力し、ナビに従って歩き始める。
「しかし、やっぱり連邦生徒会のお膝元だけあってDU地区は平和そのものだなぁ……」
争いとは無縁のDU地区の光景を見ながら、俺様はそんな事を呟いた。
普段はその辺を歩いていたら建物が爆発したり銃弾の飛んでくるゲヘナに居るから、周囲を警戒しながら歩くのが癖になってるんだけどDU地区に居る間だけはのんびりと散歩感覚で歩くのも悪くないかも知れないな。
そんな事を思いつつ、プリン購入のためにのどかなDU地区をひたすら歩いていると……
「……おっ。」
俺様の目の前に、DU地区の中でもひときわ目を引くバカデカい建物が目に入ってきた。
キヴォトスの中でも近代的な高層ビル群が立ち並ぶDU地区において、明らかに頭一つ抜けて大きい天まで届くんじゃないかと思うくらいの超高層ビル。
そう、連邦生徒会の総本山。サンクトゥムタワーだ。
「いつ見てもバカでけぇな、あの建物……」
まぁそりゃサンクトゥムタワーは連邦生徒会の本部なんだし、威厳を示すためにも目立つ建物にするってのは当然なんだろうけどそれにしてもデカいんだよな。
しかも俺様は前に連邦生徒会での会議に羽沼議長の付き添いで出た事があるけど、会議室がかなり高いフロアにあるにも関わらず窓側が全面ガラス張りだったからな。
なんだってああいう高層ビルってガラス張りなことが多いんだろうな……高所恐怖症の職員にとってはたまったもんじゃないだろうに。
「……そういや、連邦生徒会に顔出さなきゃいけないんだっけな。」
サンクトゥムタワーをぼんやりと見上げながら、俺様はふと思い出したようにそう呟いた。
そう言えばこの前議長代理就任の挨拶に連邦生徒会に出向いたんだが、その時に七神代行から「書いて欲しい書類があって用意しておくのでまた来てください」と言われていたのを今まですっかりと忘れていた。
「えー……どうすっかなぁ……」
まぁ一応今日の分の仕事は終わらせているから、ゲヘナに帰るのが遅くなる分には問題ないとは思う。
けどこの後はプリンを買って帰ってイブキと久々に遊んでやろうと思ってたんだよな……
最近、議長代理に就任したこともあって毎日多忙すぎてろくにイブキとも遊んでやれない日々が続いている。
だから今日こそは……と思っていたんだけど……
「……まぁ、書類を一枚書くだけならそんなに時間もかかんねーだろ。」
考えてみれば、七神代行からはそんなにたくさん書類を書いてくれとは言われていない。
多分だけど30分もあれば終わるんじゃないだろうか?
それに、せっかくわざわざDU地区まで来ているならついでに消化してしまう方が今後が楽なのも確かだ。
それに、別に連邦生徒会に行ったからってゲヘナに帰る時間がそこまで遅くなるわけでもないだろう。
イブキと遊ぶ時間は充分確保できるはずだ。
「……なら、さっさと終わらせて帰りますかね。」
そう結論付けた俺様は、マップアプリの行き先を喫茶店からサンクトゥムタワーに変更するとナビの指示に従って足を一歩踏み出した。
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というわけで、連邦生徒会の総本山ことサンクトゥムタワーにやって来た俺様。
相変わらず白一色の建物内に目がチカチカしそうになりながら、俺様は受付へ向けて歩を進めていく。
「えっと、確か受付はこっちだったはずだが……」
無駄に広いサンクトゥムタワー内を歩きながら、俺様はそう呟きつつ足を動かしていく。
サンクトゥムタワーは見た目もデカいけど、中身も見た目に負けないくらいには広くて入り組んでいる。
初見だとまず間違いなく迷っちまうくらいには結構複雑な構造をしているんだよな……
俺様も初めてきたときには盛大に迷って会議に遅刻して半泣きになったりもしたんだが……まぁそれは別の話。
そんな事を考えながら、受付へと向かっていると……
「……あれ?タツミさんではありませんか?」
不意に、後ろからどこかで聞き覚えのある声が響いた。
反射的にそちらの方を振り向くとそこには長い金髪のロングヘアーをおでこの部分で半分に分け、腰から垂れ下がった黒い翼の生えている女性の姿があった。
「……岩櫃調停室長?」
両手に大量の書類を抱え込み、こちらへ向かってトテトテと小走りで近寄ってくるスタイルのいい女性。
間違いない、彼女は連邦生徒会の調停室の室長である岩櫃アユム調停室長だ。
「こんにちはタツミさん、いらしていたんですね。」
「どうも岩櫃調停室長。さっきまで矯正局に面会へ行ってたんですけど、七神代行から書類を書きに来てくれと頼まれていたのを思い出しまして。」
「あ、そうだったんですね。お忙しいのにわざわざありがとうございます。」
岩櫃調停室長はそう言って俺様の目の前までやってくると、柔らかな笑顔を浮かべた。
彼女とは万魔殿の仕事で七神代行に会うために連邦生徒会に何度か来ているうちに知り合ったのだが、物腰が柔らかくて人当たりのいい好感の持てる人だ。
更に彼女は七神代行の秘書のような業務も行っているらしく、こうして日々書類仕事に奔走しているらしい。
……と、この前会った時に本人が苦笑いで語ってくれた。
「面会という事は、羽沼マコトさんの?」
「はい、それとアリウススクワッドの連中もですね。」
「議長代理になられてお忙しいはずなのに、きちんと面会にも行かれているなんて……お疲れ様です。」
「いえ、俺様がやりたくてやってることですからね。気にしないで下さい。」
……そういや、岩櫃調停室長って七神代行の事を先輩って呼んでいるから2年生以下であることは間違いないんだけど2年生か1年生かは教えてもらってないんだよな。
まぁ元々連邦生徒会に所属してるなら俺様の目上の人間に当たるし、同級生だったとして別に敬語を使って接するのは構わないんだが。
「とりあえず書類を書いちゃいたいんで、七神代行に話を通してほしいんですが可能ですか?」
「えっと、そのことなんですが生憎リンせんぱ……行政官は、現在シャーレの先生との会談中でして……」
「あ、そうなんですね。ちなみにどのくらいで終わるかとかって分かりますか?」
「うーん……何でもシャーレの報告書の不備の修正をお願いしているそうなんですけど、どうやらそれなりに量があるみたいでして……」
「……なるほど。すぐには終わらなさそうですね。」
まぁこれに関してはアポ無しでいきなり突撃訪問をしちまった俺様にも非があるから仕方ないだろうな。
しかしシャーレの報告書の不備の修正となると……それなりに時間がかかっちまいそうなのは間違いない。
俺様はシャーレの当番で書類仕事をする機会も多いんだが、先生の書類の書き方ってなんというかこう……わりと適当だったりするんだよな。
例えば内訳の内容が具体的じゃなかったり、くだけた文章で報告内容を書いたりとか。
アバウトなのは別にいいと思うんだけど、流石に公的な書類なのだからしっかりしてくれと思わんこともない。
それに七神代行は見た目通り厳格と言うか、生真面目な人なので細かい部分にまで修正を要求してくる人だ。
例えば請求書の数字がアラビア数字になっているとか、印鑑が数センチズレているとかだな。
俺様としちゃ別に報告書の内容がわかりゃいいだろと思わなくもないんだけど、まぁ連邦生徒会長の代行ともなればそういう細かい部分も見落とせないのだろう。
……あんまこういう事は言いたくないけど、七神代行は結構生きにくいと言うか疲れやすい性格してるからな。
この後会った時にまた胃薬でも渡しておくとするか。
(それにしても……相変わらずすごい書類の量だな……)
目の前で大量の書類を両手で抱えている岩櫃調停室長を見ながら、俺様は心の中でそう呟いた。
岩櫃調停室長はどういうわけか、俺様と会う時にはいつも大量の書類を胸に抱えておりその量は普段万魔殿で俺様が裁いている量の軽く2倍はありそうなほどなのだ。
そりゃキヴォトスの中心で政治を行っているとも言える連邦生徒会に流れてくる書類が一学園の生徒会より多いとは思わないんだけど、いつもいつもこんな量を捌いているのかと思うと本当にお疲れ様としか言えない。
「岩櫃調停室長はこれから書類仕事ですか?」
「はい、この書類をとりあえず今日中に終わらせないといけませんので……」
「なら、調停室まで書類を運ぶの手伝いますよ。そんな大量の書類を抱えていたら重たいでしょう?」
「え!?い、いえそんな!私は力持ちなのでお気になさらないでください!」
岩櫃調停室長は首を横にブンブンと振りながら、遠慮するようにそう言葉を発した。
まぁそりゃヘイローのない俺様と、キヴォトス人である岩櫃調停室長ではパワーの差があるのは周知の事実ではあるんだけど、やっぱり男としては女の子に重たいものを持たせるのは格好がつかないと言うか……な?
……え?それを言うなら若葉先輩はどうなんだって?
いや、あれはもう別物と言うか……
ま、まぁ今はそんな事はどうでも良い!
「大丈夫ですよ、それに俺様は元々書類を書きに来ただけなんで七神代行の手が空くまでは暇ですし。せっかくなのでお手伝いさせてください。日ごろお世話になってるお礼ってことで。」
「で、ですが……」
「それに女の子が重たいものを持ってるのにそのまま見過ごすのは男としてのプライドに関わりますから……ちょっとくらい見栄を張らせてください。」
そう言って、俺様は笑顔を浮かべると岩櫃調停室長へ向けて両手を差し出した。
彼女はしばらく難しい顔をして悩んでいたが、やがて柔らかな笑みを浮かべると自身の持っている書類の半分を俺様の両手の上へと置いた。
ずしり、とした重みが両手に伝わってくる。
「分かりました。そこまで仰るのであれば、お言葉に甘えて是非お願い致します。」
「お安い御用ですよ!任せてください!」
「はい、ありがとうございます。タツミさん。」
俺様が笑顔でそう言うと、岩櫃調停室長は片方の手の平を口元に当てながらそう言って笑った。
「ところで半分でいいんですか?俺様は全部でも全然構いませんけど……」
「流石にお客様であるタツミさんに全部持たせるわけには行きませんよ。私にもメンツがありますからね。」
「……それもそうですね、分かりました。」
確かに岩櫃調停室長としては書類をすべて俺様に持たせてしまうとパシリとして使ってるように見えるかもしれないし、そうなると気まずいだろうからな。
「……すみません、少し早計だったかもしれないです。」
「いえ、タツミさんが私のことを気遣ってくれているのは伝わりましたので。ふふ、ありがとうございます。」
そう言って花のような笑みを浮かべる岩櫃調停室長。
……うん、喜んでもらえているなら良かった。
その後、書類を半分づつ持ちながら俺様と岩櫃調停室長は調停室までの道のりを並んで歩くのだった。
それにしても、なんかやけに岩櫃調停室長の距離が近かった気がするんだけど……俺様の気の所為だろうか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
“はっ!またタツミがどこかで女の子を誑かしている気配がする!?”
「……先生?訳の分からないことを仰っていないで手を動かしてくださいね?」
“ひ、ひぃー!?もう勘弁してよリンちゃん!私もう何枚書類の修正したか分かんないよー!?”
「……いいから手を動かして下さい。あと誰がリンちゃんですか誰が。」
“それは分かってるけどちょっと厳しすぎないかな!?”
「はぁ……これはシャーレの先生のお仕事ですよ?そもそも先生が最初から不備のない書類を提出してくだされば済んだ話です。ほら、ここの請求書がアラビア数字になっています。請求書は漢数字での記入をお願いします。」
“うぅ……す、すみませんでした……頑張ります……”