転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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尾刃カンナと丹花タツミ

SRTの生徒達が公園を占拠してデモを行っているとの報告を受け、現場へ急ぐ俺様と先生。

大急ぎで現場へ向かう俺様達の耳には先程まではまったく聞こえなかった、平和なDU地区には似合わない大量の銃声や爆発音、ヴァルキューレの生徒たちの怒号や避難誘導をする焦りの混じった声が絶えず聞こえて来る。

 

「まだ戦える奴は前線の援護をしろ!」

「みなさんこっちです!こちらへ避難して下さい!」

 

ヴァルキューレの公安局や警備局の制服を着た生徒達はボロボロの体を動かして戦線である公園の周りをぐるりと取り囲んでおり、生活安全局の制服を着た生徒達が逃げ遅れた民間人の避難を行なっている。

道路脇にはヴァルキューレのパトカーが何台も止まっていて、公安局の機動車両の姿も確認できた。

 

怒号や悲鳴、民間人の逃げ惑う声があたりに響く。

それに混じって火薬の爆発する音が響き、火薬独特のツンとした香りが鼻を突いた。

まさにこの世の地獄としか言いようのない状態だ。

 

「先生!急ぐぞ!このままじゃ不味い!」

“うん!分かった!”

 

俺様と先生は顔を見合わせると互いに頷き、走るスピードを早めて現場へと急ぐ。

そして七神代行から聞いていた現場である、SRTの生徒達が占拠している公園が見えてくる。

 

(子ウサギ公園……ここだな!)

 

入口に掲げられた【子ウサギ公園】と言うプレートを確認した俺様と先生は再度顔を見合わせて頷く。

そしてそのままキョロキョロと周囲を見渡していると、ヴァルキューレの車両で固められた即席の司令部らしき場所にて何かを大声で叫んでいる生徒の姿を見つけた。

 

「アルファ分隊、応答しろ!」

 

頭からケモミミを生やし何かを射抜かんばかりの鋭い視線とギザギザの歯を備え、通信機らしきトランシーバーに叫びながら苦しげな表情を浮かべている金髪の女性。

公安局の服を着込んでいる彼女の傍では同じく公安局や警備局の生徒が走り回っており、彼女はそれらの生徒達にもキビキビと指示を飛ばしているようだった。

 

恐らく指揮官クラスの人間だろう。

七神代行からの紹介状を渡すにしろ、末端の人間に渡しても余計な混乱を招くだけだろうからな。

紹介状を渡すのは彼女にしておいたほうが良さそうだ。

 

「ご覧いただけますでしょうか?公安局、防戦一方です!」

「警備局に続き公安局までやられてしまいそうです!もうヴァルキューレで動ける舞台と言えば、生活安全局くらいでしょうか!」

「デモを行っているのはSRT特殊学園の生徒とのことでしたが、それでも圧倒的なまでに押されてしまっています!果たしてこの後、どうなっていくのでしょうか!」

「そうですね!何かヴァルキューレに秘策はあるのでしょうか!期待しましょう!」

 

そんな彼女のすぐ傍には腕にクロノススクールの腕章を巻き、それぞれマイクとカメラを片手にヴァルキューレの様子をレポートする褐色肌に金髪と、茶髪にメガネのクロノスのパパラッチどもの姿があった。

よく見ると急造の本部の隣のヴァルキューレの車両が大量に停まっている中にはクロノススクールの車両が一台紛れ込んでおり、恐らくあれに乗って来たのだろう。

 

しかし……おいおい、報道熱心なのは悪いことじゃないとは思うけど今は状況が状況だぞ。

公安局や警備局だってそれぞれの持てる力を注ぎ込んで必死に戦っているんだし、生活安全局だって市民を守りながら懸命に避難誘導をしているんだ。

決してクロノススクールみたいな部外者が面白半分でカメラに収めて良い事ではないだろう。

 

そりゃSRTの生徒が公園を占拠してデモをしているなんてのは、クロノスの連中からしてみたら絶好のスクープのネタなのには間違いない。

とは言え、ここは今まさに戦闘が行われている戦場のど真ん中だ。

そんな危険な場所で呑気にカメラを回して、マイクを片手に戦況のレポートをするなんてのは危険極まりない。

下手をすれば流れ弾が飛んでくる可能性だってあるし、そもそも忙しそうに動き回っているヴァルキューレの生徒達の邪魔でしか無いだろう。

まったく……そんなんだからSNSで常にバッシングされるんだぞ、クロノスのパパラッチどもめ。

 

……そう言えば、あの褐色肌のレポーター。

なんかどこかで見たことがあるような気がするが……一体どこだったっけな?

……って、今はそんな事はどうでもいい!

 

とにかくあそこに居座られているとうるさくて仕方ないし、彼女達も危険にさらされるかも知れない。

早急に退散してもらったほうが良いだろう。

 

「ああもううるさい!誰の許可で撮影している!さっさとカメラを止めろ!」

 

そう考えた俺様はクロノスのパパラッチ共に声をかけようとするが、それよりも先に指揮官らしき金髪ケモミミの女性がクロノスの二人を怒鳴りつけた。

 

「おっと、これはまずいですね!」

「怒られる前に距離を取るとしましょうか!」

 

……いや、怒鳴られてるんだからもう怒られてるだろ?

と、俺様がそんな事を考えている間にクロノススクールの二人はお互いに顔を見合わせると、その場から脱兎の如き勢いで走り去っていった。

……どうでもいいが、車両は置きっぱなしでいいのか?

 

「くそ!クロノスの連中め、相変わらずうるさい……!」

 

金髪ロングのギザ歯の女性は顔をしかめながらそう吐き捨てると、手元に置いてあったマグカップを手にとって中にはいっている飲み物を勢いよく煽る。

 

「とは言え確かににもう人員がいない……生活安全局のバカどもは使えないし……」

 

……おいおい、流石にその発言はどうなんだ。

確かに前線に立って戦闘をしている公安局や警備局の連中が一番危険な役目なのは確かだけど、市民の安全を守るために流れ弾が飛んでくる恐怖をこらえて避難誘導をしているのは生活安全局の生徒達なんだぞ?

敬いこそすれど、そんな事を言うのは……どうなんだ。

 

“やぁこんにちは。なんだかすごい状況だね。”

 

俺様が顔を顰めながらそんな事を考えていると、いつの間にか金髪キザ歯の生徒の傍まで歩み寄っていた先生が不機嫌そうにマグカップを置く彼女に声をかけていた。

それに気づいた俺様は慌てて先生に走り寄ると、先生の隣へと並び立つ。

 

「……何だ貴様たちは。見てわからないのか?今は戦闘中だ。部外者はさっさと出ていけ。」

 

公安局や警備局の部下が大勢やられて恐らく気が立っているのだろう、指揮官らしき生徒は俺様と先生をその鋭い視線で睨みつけると吐き捨てるようにそう言った。

俺様はそれを見て先生に目配せをすると、先生は頷いて胸元から七神代行にもらった紹介状を取り出す。

そして、それを指揮官らしき生徒へと手渡した。

 

「これは……行政官からの紹介状?防衛室の変わりに……シャーレだと!?」

 

紹介状を受け取った指揮官らしき生徒は最初こそ怪訝な表情で書類に目を通していたが、やがて目を丸くして驚くと驚愕の表情を浮かべてそう叫んだ。

 

「……こ、これは大変失礼いたしました。」

 

そう言うと、指揮官らしき生徒は座っていた簡易的な椅子から立ち上がると先生へ向かって頭を下げる。

 

「実際にお会いするのは初めてかと。今回の作戦において現場の責任者を担当しております。ヴァルキューレ警察学校の公安局長、尾刃カンナと申します。」

“うん、初めましてカンナ。私はシャーレの先生だよ。”

「はい、先生にご活躍は私の耳にも入っております。この度はヴァルキューレへの助力、感謝します。」

 

そう言って、ピシッと姿勢を正して丁寧な言葉づかいで先生に接する尾刃局長。

先程までの不躾な態度とは大違いだけど、警察学校ってわりと体育会系ってイメージがあるので恐らく上下関係には人一倍厳しいだろうからその辺もあるんだろうな。

あとはクロノスのパパラッチどもがうるさくて気が立っていたってのもあるだろうから、まぁ仕方ないだろう。

 

聞いた話でしか無いがヴァルキューレ内部の権力の強さは対テロ任務などの危険な業務を行う公安局が一番上でその下に警備局、生活安全局と続くらしい。

つまり目の前に居る尾刃公安局長は実質ヴァルキューレのトップと言っても過言ではない人間だ。

そんなヴァルキューレ公安局の局長自らが指揮を取っているってのは、今回の事態の深刻さを現しているな。

 

それにしても威圧感溢れる雰囲気といい厳格そうな性格と言い、その鋭い目とギザ歯といい……女性にこんな事を言うのはあまりよろしくないとは思うけど、子どもが見たら泣いてしまいそうな程の風貌をしているな。

 

恐らく日々の業務でストレスを感じているのだろう。

眉間に寄ったシワが更にそれを加速させていた。

……後で胃薬を渡しておくとするかな。

 

“早速だけど、状況はどんな感じ?”

「そうですね、見ての通りといいますか……兵力はほとんど残っておらず士気も底を突いています。」

 

尾刃局長の言葉を受け、俺様は周囲をぐるっと見渡す。

あちこちでは負傷したであろう公安局や警備局の生徒達が医療班から応急処置を受けており、うめき声を上げながら痛みを堪える沈んだ空気が場に流れていた。

かろうじて動ける生徒達も腕や足には痛々しく包帯が巻かれており、痛みを堪えているのか顔をしかめている。

 

……状況はかなり悲惨なようだ。

これだと士気が上がるはずもないのは当然だろう。

なんとかしなければならない。

 

「状況は思ったよりひどそうですね。」

「そう言えば先程から気になっていたが、先生の隣りにいる貴様は何だ?ゲヘナの制服を着ているようだが……」

“カンナ。彼はゲヘナ学園の議長代理である丹花タツミ。たまたまこの話を聞いたときに居合わせていて、今回の件に協力してくれることになったんだ。”

「げ、ゲヘナの議長代理!?」

 

先生の言葉を聞いた尾刃局長は、再び目を丸くしてそう叫び声を上げた。

 

「初めまして尾刃局長。先生から紹介いただいた通りゲヘナの議長代理を務めています、丹花タツミです。微力ながら協力しますので、よろしくお願いします。」

「こ、これはご丁寧に……しかしゲヘナの議長である羽沼マコトが矯正局に入ったのは聞いていましたが、まさか代理の方だったとは……失礼いたしました。」

「いえ、大丈夫ですよ。それと尾刃局長。俺様は1年生ですので敬語は使わないでもらっても構いませんよ。」

「あ、あぁ分かった。そうさせてもら……まて。い、一年生だと!?お前は1年生なのか!?」

 

本日何度目かも分からない絶叫を上げる尾刃局長。

 

「はい、そうですけど……?」

「ゲヘナほどの規模の学園の代表の代理を1年生に任せているなんて、ゲヘナは気でも狂ったのか……!?」

 

うん、俺様もそう思う。

けどこれでも一応キチンとゲヘナで開かれた選挙で当選して選ばれてるんだよなぁ……

 

“……カンナ。彼はゲヘナで開かれた選挙でゲヘナの人達から認められて議長代理に選ばれているんだ。その発言はタツミに対してちょっと失礼なんじゃないかな?”

「……そうですね。悪かった、タツミ議長代理。無礼を詫びさせてもらう。」

「いえ、構いませんよ。誰だって最初はそう思うでしょうしそれは俺様が一番思ってることですからね。あと、俺様のことは敬称は無しでも構いませんよ。」

「……何から何まですまないな、タツミ。」

「いえ、大丈夫です。尾刃局長。」

 

尾刃局長は俺様に対して頭を下げてくるが、俺様は彼女に対して頭を上げるようにジェスチャーをする。

まぁ気でも狂ったのかってセリフにはゲヘナの皆をバカにされたみたいでちょっとだけカチンときたけど、彼女だって悪気があっての発言じゃないだろうしな。

 

“うんうん。……さてと、状況は結構苦しいみたいだね。”

「はい。当初は数で制圧するつもりでしたが、SRTの火力はデタラメで……」

「……なるほど。これだけの被害を出すのだから相当高性能かつ品質の高い火器を使ってるんでしょうね。」

「あぁ。普段のテロ鎮圧ではお目にかからないような兵器ばかりで対応が難しくてな……」

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、吐き捨てるようにそう言う尾刃局長。

 

「公安局も警備局もほぼ全滅。あと動ける人員は……」

 

尾刃局長が苦しげにそういった時だった。

 

「お待たせいたしました!」

 

突如、このお通夜ムードな空気にそぐわないハツラツとした元気のいい声がその場に響いた。

俺様と先生がそちらを振り向くとそこには白髪を後ろで2本の細い三つ編みに編み込んだ元気の良さそうな生徒。

そして、その後ろには眠たげな表情を浮かべたツインテールの小柄な生徒が立っていた。

 

「生活安全局のキリノ、ただいま到着いたしました!もう出動してもいいでしょうか!?」

「……もう終わってるっぽくない?それに、こんなの私達の出番じゃないでしょ。」

 

目をキラキラと輝かせてそう言う白髪の生徒とツインテールの生徒。

恐らく服装からして生活安全局所属のようだけど、何と言うかヴァルキューレにしては個性的な2人だな……

 

「……残った人員はこの生活安全局だけです。」

 

そんな彼女達の姿を見た尾刃局長は、もはやどこか諦めの混じった表情を浮かべながらため息を吐いた。

 

「あ、先生!奇遇ですね、ヴァルキューレの支援に来てくださったのですか?」

“うん、そんなところかな。”

「こんな現場まで来るなんて相変わらず大変だねぇ。」

“困っている生徒を助けるのが私の仕事だからね。このくらいへっちゃらだよ!”

 

そう言って、えっへんと大きな胸を張る先生。

……さっきまで連邦生徒会でヒーヒー言いながら書類を捌いていた人とはまるで別人のようだな。

 

「おや?そう言えば先生の横の貴方は初めてお会いしますね?初めまして!本官は生活安全局所属、1年生の中務キリノと申します!」

「同じく1年生の合歓垣フブキだよ、よろしくね〜。」

「中務に合歓垣だな。俺様はゲヘナ学園議長代理、1年生の丹花タツミだ。よろしくな。」

「え!?ぎ、議長代理の方ですか!?」

 

俺様はそう言って中務と合歓垣に自己紹介を行うが、話を聞いた中務が目を丸くして声を上げる。

そして、声こそ上げないものの合歓垣も目を見開いてかなり驚いたような様子を見せていた。

 

「ほ、本官と同じ1年生なのにあのゲヘナの議長代理なのですか!?す、すごいんですね……!」

「そんなことはねぇよ。俺様だって代理になってまだ日が浅いし、わかんないことだらけさ。」

「毎日仕事で大変そうだねぇ。1年生の間なんてサボってナンボでしょ。私には到底無理だなぁ。」

「フブキ!また貴方はそういう事を……!」

「ははは……まぁそれなりには大変だけど、俺様は俺様なりに頑張ってはいるつもりだ。仕事はたしかに多いけど、処理さえすればきちんと休みもあるしな。」

 

まぁ、今回はSRTの生徒達がデモを起こしたせいでこの後ゲヘナへ帰ってイブキと遊ぶ計画がパーだけどな!

 

「まぁそれはともかく、俺様も今回はヴァルキューレへの協力に来せてもらったからよろしく頼むぞ。」

「おぉ!先生のみならずゲヘナの議長代理までヴァルキューレへご助力いただけるとは!これはもう作戦は成功したも同然ですね!」

「いや、それは流石に楽観的すぎないか中務……?」

 

満面の笑みを浮かべ、心底安心しきったようにそう言う中務に対して俺様はそうツッコミを入れた。

確かに先生の指揮能力は劣勢をひっくり返せるほど強力なものだけど、流石に公安局や警備局がほぼ全滅している現状だと事はそう簡単にはいかないぞ。

 

「さあこのまま放っておくわけにはいきません!早速出動しましょう!」

「待て、勝手に動くな。お前らが出ていって何になると言うんだ?」

 

そう言って中務は腰のホルスターから拳銃を抜いて出動しようとするが、尾刃局長はそんな中務に厳しい口調でそう声を掛けた。

 

「警備局も公安局も殆どやられたんだぞ。生活安全局のお前達が出ていって相手になると思っているのか?」

 

確かにそれはその通りだ。

ヴァルキューレの公安局は対テロに特化した組織だし、警備局は不良などが街で暴れたときに出動する機動隊のような組織だと聞いている。

程度は違えどどちらも前線で戦う組織であり、ヴァルキューレの中でも荒事に特化した部隊だ。

 

それに対して生活安全局はいわゆる街のおまわりさんと言う立ち位置らしく彼女達の日々の業務は街のパトロールや交通整理、軽犯罪の取り締まりなどが主らしい。

他には市民対応なども行っているらしいが、どちらにせよ今回のような荒事に不慣れなのは間違いないだろう。

そんな彼女達が公安局や警備局でさえ歯が立たない相手に対して互角に戦えるかと言うと……まぁ、いくら先生がいるとは言え難しいだろうな。

 

中務の様子を見た感じ士気はそれなりにある様子だし気持ちは折れていないようだが、あまりにも経験が乏しいと言わざるを得ない。

 

「そもそもろくな武器だって持ってないだろうに、何を根拠に勝てると思っているんだ?自分の実力くらい理解していると思っていたのだがな?」

 

……まぁ、尾刃局長の言い方はちょっと厳しすぎる気もするけど言っていることが概ね事実なのは間違いない。

 

「で、ですが市民の方々も怖がっていますし……このまま見ているだけという訳には……」

「意欲は買おう。しかし気合だけではどうにもならないこともある。」

 

そうだな、それは尾刃局長の言う通りだ。

中務のその正義感や市民を守りたいという気持ちはとても立派だと思うけど、現実問題として目の前の脅威に勝てるかどうかはまた別の話になってくるからな。

 

「我々が他の方法を見つけるまで、とにかくここで待機していろ。いいな?」

「は、はい……分かりました。」

「ラッキー。ま、言ってることはその通りだしね。」

 

そう言うと中務はしょんぼりとしながら、合歓垣は若干上機嫌になりながら先生へ後ろへと下がった。

……何と言うか、生真面目そうな中務と堂々とサボりたいって言う合歓垣とで色々と正反対な二人だな。

ある意味凸凹コンビと言えるのだろうか?

 

つーか合歓垣、サボりたいのは俺様も常々思ってるんだけど人前で堂々というのは辞めといたほうがいいぞ。

そういうのはやることをキッチリやってからバレないようにこっそりやるもんだ。

 

なんなら、今度棗先輩を紹介するから教わるといい。

今思えばどちらもダウナー系だし、案外気が合うかもしれないしな。

 

“カンナ、ひとまず作戦を立てたい。ここを占拠している生徒達について、なにか情報とかはある?”

「はい。相手はSRT特殊学園所属の1年生チーム、通称RABBIT小隊です。本来ならSRTの閉校によってヴァルキューレの警備局に転校する予定だったのですが……何があったのか急にこうして公園を占拠。閉校を取り消せ、と言うデモを始めたという経緯ですね。」

 

先生の問いに、尾刃局長はそう答えた。

 

(……1年生小隊か。)

 

本来ならば1年生の小隊なのであれば、まだまだ戦闘経験や実務経験が浅いからそこの隙を突けばいい。

……相手がSRT特殊学園の所属でなければ、の話だが。

 

SRTは知っての通り、連邦生徒会長直属の選ばれたエリートだけが入学を許されるエリートの集団だ。

そこで厳しい訓練を受けてきたならば、例え1年生の小隊だろうが生半可な相手では太刀打ちは出来ないだろう。

現にヴァルキューレの公安局や警備局が壊滅しているのがその証拠だ、装備と士気を含めた連中の実力はヴァルキューレを完全に上回っているだろう。

 

……だが、必ず何処かに突破口はあるはずだ。

このまま連中の暴挙を続けさせるわけにはいかない。

 

「数は1個小隊規模で少ないものの、その装備は最先端のものです。主にそれが理由でここまで手こずってしまいまして……」

“なるほど、見てもいい範囲で他に詳細な情報とかある?”

「一応、連邦生徒会から提供された各生徒の資料なら……」

 

そう言って尾刃局長は手元の書類を先生に渡そうとするが、ふと何かを見つけたかのように空を見上げた。

 

「……ああ、顔ならあれを見たほうが早いかも知れませんね。不本意ながらクロノスの中継ドローンが中にはいったようなので。」

 

そう言って尾刃局長は書類を置くと、持ってきていたらしいカバンの中から小型のテレビを置いて電源をつけるとチャンネルをクロノスのチャンネルに変える。

俺様と先生は互いに顔を見合わせるとこれから戦うことになるであろうRABBIT小隊の姿を確認するために、その小型のモニターに目を落とす。

即席の机に置かれた小型モニターには、クロノスのドローンで撮影されているであろう上空からの子ウサギ公園の様子が映し出されていた。

 

有刺鉄線や対人地雷らしきもので埋め尽くされた公園内にはRABBIT小隊の本拠地らしきテントが張られており、その前でSRTの制服に身を包んだ3人組の生徒がドローンに気づいたようにこちらを指さしていた。

なるほど、こいつらがRABBIT小隊というわけか。

 

……ん?確か話によるとRABBIT小隊の規模は一個小隊と聞いているけど、本拠地らしきテントの前にいるのは3人だけみたいだな。

普通、一個小隊は部隊長を含めて4〜5名で構成されることが多いから残りの1人か2人は別行動をしている……と見て間違いないだろう。

 

“なるほど、この子達がRABBIT小隊なんだね。”

「はい。白髪の女は月雪ミヤコ。RABBIT小隊の部隊長を務めています。その隣の鉄帽を被った女がポイントマンの空井サキ、飴を咥えた眼鏡の女が後方で火力支援や電子戦を行うオペレーターの風倉モエ。そしてここには写っていませんが、狙撃手の霞沢ミユの合計4名。彼女達がRABBIT小隊のメンバーです。」

 

まるで親の敵でも見るような目をテレビの画面へ向けつつ、尾刃局長は心底面倒くさそうにそう説明する。

尾刃局長の説明を照らし合わせながら、俺様は小型のモニターに目を落としながら心のなかで思考する。

 

あの白髪の真面目そうな生徒が部隊長の月雪ミヤコか。

彼女は無表情と言うか、むすっとした表情を浮かべながらクロノスの中継ドローンを睨みつけている。

まぁそりゃ無許可で自分達を撮影されて公共の電波に流されているのだから面白くはないだろうが、連中のしている所業を考えると流石に擁護は出来ないな。

 

で、その横でドローンに向かって威嚇しているヘルメットを被ったやつがポイントマンの空井サキみたいだ。

月雪同様こいつも仏頂面を浮かべてクロノスのドローンを睨みつけて……と言うか歯をむき出しにして何かを叫んでおり、血の気の多そうなやつという印象を受ける。

 

んでもって、椅子に座ってこちらを嘲るように見てきている飴を咥えた奴がオペレーターの風倉モエか。

何と言うか、2人とは違って笑顔こそ浮かべてはいるもののこちらをバカにしたように笑っている辺りこいつもヴァルキューレに対する敵意は相当強いようだ。

 

で、あと1人が確か狙撃手の霞沢ミユだったな。

……と言うことは、ほぼ間違いなくこの公園のどこかに潜んでいると見ていいだろうな。

岩櫃調停室長の報告では大量の狙撃とトラップで部隊が壊滅したとのことだったし、相当腕が良いんだろう。

俺様の見立てでは公園の裏口か、連中の本拠地らしきテント周辺が怪しいと見ているが……

まぁ、そこは先生の判断に任せるとしよう。

 

さて、とりあえずこれから相手をするやつの大まかな情報は掴めた。

先生がどんな指示を出すかは分からないけど、恐らく戦闘をするとなれば俺様は最前線に配置されるはずだ。

そうなると、真っ先にぶつかるのはポジション的にもポイントマンである空井サキになるな。

こいつの実力は未知数だが、相手はSRT特殊学園の厳しい訓練を受けてきたエリート。

最大限警戒しておくに越したことはないだろう。

 

『連邦生徒会、見てる〜?お前らの考えが間違いだったってそろそろ分かったんじゃない?』

『私達がここにいる限り、SRT特殊学園は終わらない!』

 

そんな事を考えていると、モニターのスピーカーから空井と風倉がクロノスの中継ドローンへ向けてそんな事を大声で叫んでいる声が聞こえてきた。

 

(随分と威勢がいいな……)

 

まぁたった4人でこんな大規模なデモ……というよりはもはやテロだが、こんなことをするくらいなんだから威勢がいいのはある意味当たり前と言えるだろうか。

そう思いながらモニターに視線を固定していると、続けてモニターの向こう側ではドローンへ向かって挑発を続ける空井と風倉を部隊長である月雪が叱りつけている様子が映し出されていた。

 

……うん、まぁ現状では公園に立てこもっているRABBIT小隊が有利な状況なのは間違いないんだから無用な挑発はしなくてもいいだろうというのには俺様も同感だ。

やはり、経験豊富な3年生よりもその点ではRABBIT小隊は未熟なんだろう。部隊長である月雪を除いては。

 

「……ん?」

 

俺様が心のなかでそう思っていると、中継の続く小型モニターの向こう側では何やら部隊長の月雪とドローンへの挑発行為を叱られたポイントマンの空井が激しく言い争っている様子が見える。

 

「……なんだ?仲間割れか?」

 

尾刃局長が怪訝な表情を浮かべてそう言う。

月雪と空井が言い争っている内容までは聞き取れないものの、それなりの声量で二人とも目がつり上がっていることを考えるとかなりの不満をぶつけていると見える。

 

……おいおい。俺様がこんな事を言うのも何だけど、お前達は今は身内で争っている場合ではないだろう。

しかも、空井が言い争いをしているのは彼女達RABBIT小隊の部隊長である月雪ミヤコその人だ。

指示に不満があるのか、それとも上手くいきすぎて慢心して調子に乗ってしまっているのかは分からない。

はたまた、空井の血の気の多そうな様子を見るとそもそも命令されること事態が気に食わないのかもしれない。

けど……隊長の指示が通らなくなった部隊ってのはいとも簡単に瓦解してしまうと相場は決まっている。

 

もしも彼女達の言う通り、SRTの閉校を取り消すためにあくまでこのままデモを続けると言うならば隊長である月雪の指示は絶対に守らないといけない。

そうしなければ、彼女達に待っているのは破滅だ。

 

“これは……何か問題でもあったのかな?”

 

先生が少し心配そうにそう言った時だった。

突如月雪から顔を背けた空井が風倉に対して何かを指示したかと思うと、指示を受けた風倉は目を輝かせながらテントの中へと入っていく。

一体何をするつもりなんだと俺様達が固唾を飲んでモニターを見つめていると、やがて風倉はテントの中から大量の小型ミサイルの発射台を持ってきてそれを連中の本拠地であるテントの周辺に設置し始めた。

 

『待って下さいサキ!モエ!そこまでする必要は……!』

 

それを見て、血相を変えた様子の月雪が慌ててそう言うがそんな事はお構い無しと言わんばかりに風倉は小型ミサイルの発射台を次々とセットしていく。

……何をするつもりなのかは分からないけど、こんなに大量の小型ミサイルを使わなければいけないほどの大規模な戦闘は今は起きていないはずなんだがな。

 

「何をするつもりだ……?」

 

そして、尾刃局長がそう呟いた時だった。

小型ミサイルの発射台を設置し終えたらしい風倉は手にしたスイッチを親指で押し込むと、設置されたミサイルの発射台から一気にミサイルがモニター……つまりクロノスの中継ドローンへ向けて発射された。

そして、次の瞬間……

 

ーーードォォォォォォン!!!ーーー

 

俺様達の頭上で、その場にいる全員の鼓膜が震えるほどの爆発音が鳴り響いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「たーまやー!」

「おぉ!訓練ではこんな事できなかったから、ド派手に花火を打ち上げるのも悪くないかもな!」

「サキ!モエ!貴方達は何ということをしているのですか!私達に必要なのは戦闘を通じて交渉に有利な立場を手に入れることなのですよ!?それに今は補給も期待できないのに、こんな無駄打ちを……!」

「うるさい!私に指図するなと言っただろう!」

「そうだよミヤコ。大体もう連邦生徒会長だっていないのに、しがらみも無いんだからもう命令を聞く必要なんて無いって。それに私達は同じ1年生じゃん?」

「で、ですがこのままだと……!」

「そもそも何を焦ってるんだお前は?もう公安局も警備局も片付けてしまったんだぞ?あと残っているのと言えばノロマな生活安全局くらいじゃないか。あんな連中、私達の敵じゃないだろ。」

「それはそうかもしれませんが、それでも油断は禁物です!大体サキ、貴方はいつもいつも……!」

「なんだとミヤコ!それを言うならお前だって……!」

「あーあーまた始まったよ。ほんとに仲いいよねーこの2人。喧嘩するほどなんとやらってやつ?ま、私は爆撃さえできれば何でもいいけどねー。くひひっ。」

『あの、私も忘れないでね。ミヤコちゃん達……』

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