突如俺様達の上空で炸裂した、鼓膜がビリビリと震えて破れんばかりの強大な爆発音。
その爆発音と硝煙の香りと共にモニターに先程まで映し出されていた子ウサギ公園の景色は砂嵐へと変化する。
……なるほど。どうやらあの大量の小型ミサイルはクロノスの中継ドローンを撃ち落とすための物だったらしい。
「派手にやってくれるな……」
「ヴァルキューレの物じゃないと分かっているだろうにそれでも攻撃するか……雑な奴らだな。どうしてあんな奴らがSRTに入学できたんだ?」
手元のマグカップの中身を喉へ押し込みつつ、尾刃局長は顔をしかめながら不愉快そうにそう発言する。
……うん、それに関しては俺様も概ね同意だ。
現状、RABBIT小隊の連中は周囲をヴァルキューレに包囲された状態で子ウサギ公園へ立てこもっている。
恐らく連中が使っている装備品はSRTから無断で持ち出したものだろうし、そう考えればこの状況において籠城戦を行うとなると一番気にしなければならないのは食料や水もそうだが火器類の残弾の数だろう。
RABBIT小隊視点では、どう考えても補給は望めないし仮に出来たとしてもSRT基準の火器に合った弾薬を補給するとなると相当な手間や時間がかかるはずだ。
つまり連中にとって今ある弾薬類はそっくりそのまま自分達が籠城戦を行える猶予、寿命と言ってもいい。
そんな状況において、銃弾を一発撃てば簡単に撃墜できるであろうドローンを撃ち落とすためだけにあれほどの量の弾薬を使う必要はない。
と言うか、あんなことをしたらむしろ自分達の首をしめるようなもの。自殺行為でしか無いだろう。
つまりこれが何を意味するかと言うと……
やはり、RABBIT小隊は実戦の経験が著しく不足している可能性が高いと言う事だ。
もし実戦の経験が豊富ならばあんな風にドローンを撃ち落とすだけに大量のミサイルを使うはずはないし、そもそも部隊長と隊員がまだ戦闘中にも関わらず仲間割れをするような真似をするはずがない。
どう考えても危機管理能力や戦況把握力が欠如しているとしか言いようがない。
まぁ部隊長である月雪だけは止めようとしていたから奴は決して侮れないだろうけど、やはりRABBIT小隊はまだまだ現場の経験が足りていないのだろう。
……と言うか、クロノスがうざったいのには同意するけどあくまでもクロノスは民間人の部類に入る。
そんな民間人のドローンを攻撃するなんてのは市民に危害を加えるつもりがあると言っているのと同義だ。
そんな連中にあっさり撃破されてしまうヴァルキューレもどうなんだと思わないこともないけど、ともかくこれ以上連中にデモを継続されるのは危険すぎる。
やはり、一刻も早くなんとかしなければならない。
“元気な子達だね。”
「御冗談を。バカの間違いでしょう。」
……まぁ身も蓋もない言い方だけど、流石にこればっかりは尾刃局長に同意せざるを得ないな。
「しかも単なるバカならまだしも、やたらと力を持ったバカです。会話もしにくく厄介なことこの上ない。」
「そうですね。早くなんとかしないと……これ以上暴れられると民間人に被害が出る可能性もありますし。」
「そうだな。こうなったら、もう各自地区の風紀委員会に支援を要請するほか……」
ため息を吐きながら、尾刃局長がそんな言葉を発しようとしたその時だった。
“……任せて。多分大丈夫。なんとかなるかも。”
その場に、先生の力強いそんな声が響いた。
「……はい?」
「おい、先生……?」
そんな先生の言葉を聞いて、俺様と尾刃局長は揃って間の抜けた声を発する。
“行くよ、キリノ。フブキ。生活安全局の皆でRABBIT小隊のみんなを止めに行こう。”
「はい!……はいっ!?」
「先生!?じょ、冗談でしょ?相手はSRTだよ!?」
先生は後ろを振り向くと、尾刃局長の指示で待機していた中務と合歓垣にそう声を掛ける。
突然声を掛けられた中務は目を点にして硬直しており、合歓垣は信じられないと言った表情を浮かべていた。
だが、先生のあの目。
あの目は……先生が本気で物を言う時に浮かべる目だ。
なるほど、どうやら先生は本気で生活安全局の生徒達だけでRABBIT小隊を制圧するつもりらしい。
「……すみませんが先生。彼女達は戦闘員ではなく、平和ボケした生活安全局の所属です。警備局でも、公安局ですら太刀打ちできなかったんです。彼女達だけで制圧できると本気でお考えですか?」
そんな先生に対して尾刃局長は厳しい口調でそう言う。
……言葉にトゲがあるのは若干気にはなるけど、この点に関しては彼女の言う事は間違っていない。
決してバカにするわけではないけど、現実問題として生活安全局の生徒達は警備局や公安局とは違ってこのような実戦経験には乏しいはずだし尾刃局長の懸念もご尤もと言えるだろう。
そりゃ言葉にトゲも混じろうというものだ。
「先生の噂は聞いていますが、こんな連中では……エリートとそうでない生徒の間には到底埋められない隙間があるんですよ。」
“確かにそうかもしれないね。けど……私からしたら、みんな同じ生徒に変わりは無いからさ。”
尾刃局長の厳しい言葉を聞いてもまったく怯まず真剣な表情を浮かべ、そう言い切る先生。
(……いや、それは尾刃局長の質問に対する答えになってない様な気がするぞ先生。)
先生がこういう人なのは今に始まった話ではないけど……
ともかく、先生はマジでやるつもりみたいだ。
(まぁでも、仕方ないか……)
確かに尾刃局長の言うことは最もだけど、それはそれとしてヴァルキューレ側が動かせる戦力としてはもう生活安全局しか残っていないのもまた事実ではある。
ならば一か八か、彼女達に賭けてみるという先生の判断もまた一つの答えではあるだろうからな。
……まぁ、多分この状況でその選択肢を選ぶのは先生くらいしかいないだろうなと思うけど。
先生の指揮能力は、それこそどれほど状況が劣勢だろうがそれをひっくり返せるほどには強大なものだ。
だから生活安全局の生徒とは言え、先生の指揮下であればもしかしたらもしかする可能性はあるかもしれない。
……けどまぁ、念の為にいつでも万魔殿や風紀委員会に連絡できるように準備はしておくとしよう。
「……そうですか。責任はシャーレが負うということですし……まぁ無理に止めはしません。」
尾刃局長は先生の言葉を聞いてしばし考え込むような仕草を見せていたが、やがて諦めたようにため息を吐くと苦虫を噛み潰した様な表情でそう言った。
そして、彼女は傍においてあったトランシーバーを手に取ると声を張り上げる。
「まだ戦闘可能な者に継ぐ!これよりシャーレの先生の指揮下に入り、生活安全局の生徒をサポートせよ!」
「ちょっ、ちょっと待った!マジで!?マジで言ってるの先生!?」
本気で生活安全局が出動する雰囲気になり、先程までは先生の後ろで眠そうに待機していた合歓垣が血相を変えて先生に詰め寄ってきた。
「嘘でしょ!?相手はSRTなんだよ!?絶対すぐにやられるって!先生、正気なの!?」
“正気正気。大丈夫、きっと出来るよ。”
「どこからその自信が来るのさ!根拠がないじゃん!」
先生の言葉に、合歓垣はそう声を上げて抗議する。
……まぁ言ってることはご最もではある。
先生が今やろうとしていることは、公安局や警備局でさえ太刀打ちできなかったSRTの小隊に生活安全局を率いて喧嘩を売りに行こうという事に他ならない。
繰り返すようだが、生活安全局の生徒達は普段はパトロールや交通整理をしている戦闘に不慣れな集団。
そんな集団でSRTのエリート部隊を相手にしようとしていて、しかも根拠が「きっとなんとかなる」なんてあまりにも無茶苦茶すぎるだろう。
……けど、先生はその無茶苦茶を今までに何度だって通してきている人なんだよなぁ。
アビドスの時だって、エデン条約の時だって、いつだって先生は無茶苦茶な事を言ってはそれを実行して来た。
いい意味で根拠のない自信と、生徒を信じる心。それを武器に先生は今までキヴォトス中の様々な問題の解決をして、生徒達から慕われる存在になった。
破天荒でいい加減で……でも頼りになって、誰よりも信頼を置ける大人。それが先生という人物だからな。
きっと今回もなんとかなる、そんな気がしてしまうのは俺様も先生に毒されているからなんだろう。
けど、不思議と悪い気はしなかった。
……なら、この場で俺様がやることはただ一つしかない。
先生を全力でサポートする。それだけだ。
「フブキ、大丈夫です!先生の指揮があるならきっとなんとかなります!多分!!」
先生の言葉を聞き、出動の準備を即座に整えたらしい中務が合歓垣にそう声を掛ける。
……いや、最初に自己紹介した時も思ったけどお前は流石に楽観的すぎやしないか?
「そもそも市民の安全を守るため、この状況を放っておくわけには行きません!」
中務は胸のホルスターからヴァルキューレの装備品である拳銃を抜き、子ウサギ公園の中へ目をやりながら力強くそう言い切った。
……そうだな、それは確かに中務の言うとおりだ。
RABBIT小隊がこんな市街地のど真ん中の公園を占拠してなおかつド派手にミサイルを飛ばしたりしている以上、市民に被害が及ぶ可能性は極めて高い状況だ。
これ以上連中の暴挙を許すわけには行かないだろう。
彼女の正義感や、市民を思う気持ちは本物だ。
そして、俺様とて思いは中務と同じ。これ以上指をくわえて黙って連中の暴走を見ているつもりはない。
市民の安全を守るためにも、協力を惜しむ理由はない。
「よく言った中務。俺様も協力するぞ。」
「おぉ!タツミさんも協力していただけるのですね!それなら百人力です!是非お願いします!」
「あーもう計算が狂った……こんなことなら仮病でも使っておけば……」
(……いや、そんなに嫌なのかよ?)
「まあまあ。これで作戦を成功させたら、もしかしたら特別休暇とか貰えるかも知れませんよ?それに、警備局への転科のチャンスだって貰えるかもしれませんし!」
そう言って、明るい表情を浮かべる中務。
……どうやら中務は警備局に対する憧れがあるようだな。
そんな彼女の言葉を聞き、いかにもやる気ゼロですと言った表情を浮かべていた合歓垣の顔に少し活気が宿る。
「後者はどうでもいいけど、まぁこうなった以上は仕方ないか……それに、私だって市民が危ない目に合うのを見るのは寝覚めが悪いしね。ちょっとだけ、試しにやってみようかな。」
合歓垣は面倒くさそうにそう言いつつも、次の瞬間には真剣な表情を浮かべて手にした小銃を構えた。
先程からの眠そうな顔とは打って変わって、いい表情をしている。まるで別人のようだ。
……なんだ、やっぱりこいつもヴァルキューレらしく市民のことを思う気持ちと正義感があるんじゃないか。
その表情が出来るなら、何も心配はいらないだろう。
「はい!生活安全局、出動します!」
“うん。行こう!”
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あれからしばらくして。
先生の立案により、子ウサギ公園を占拠して抵抗を続けるRABBIT小隊を制圧するためにヴァルキューレの生活安全局の生徒で挑むことになった俺様達。
尾刃局長の指示もありまだ動ける少数の公安局と警備局の生徒、そして今この場にいる生活安全局所属の生徒達を可能な限り動員した先生はそこから作戦のために部隊を編成してそれぞれの位置に付くよう指示を出した。
そんな中俺様はと言うと、作戦内容を先生から伝えられたのでその内容を実行するための下準備として生活安全局の生徒達に即席での戦闘の指導を行うように指示を受けたため、動員されて綺麗に整列をしている生活安全局の生徒達の前へと立っていた。
「初めまして、俺様は今回の作戦を実行するに当たってこの部隊の臨時の指揮官兼戦闘員として参加することになったゲヘナ学園議長代理の丹花タツミだ。いきなり見ず知らずのゲヘナ生に指揮されることになって面白くないと思うけど、先生の指示ということでどうか飲み込んで欲しい。よろしく頼む。」
俺様は生活安全局の生徒達の前でそう自己紹介をし、ペコリと頭を下げる。
少し遅れて、生活安全局の生徒達からパチパチと拍手が俺様に送られてきた。
「ありがとう。それじゃ早速本題に入るけど、今回の俺様達の任務は子ウサギ公園の正面に盾を使った防御陣形を組んで侵攻。敵のポイントマンとオペレーターの攻撃を引き受け、先生からの合図を待つ。そして先生からの合図が来たら突撃、制圧を行うって感じだな。」
俺様は顔を上げて嫌な顔一つ浮かべていない生活安全局の生徒達を見て礼を言いつつ、今回この部隊が行う作戦内容の簡易的な説明を行った。
先生から伝えられた作戦内容はこうだ。
まず俺様が指揮を取り、中務を中心としたありったけの生活安全局を動員して編成したこの部隊を子ウサギ公園の正面へ配置。空井と風倉の気を引き、狙撃手である霞沢にこちらを狙撃させて敵の視線を釘付けにする。
俺様達が敵の攻撃を引き受けているその隙に、先生と合歓垣を中心とした少数で編成された部隊がこっそり公園の裏口へと侵攻。先生がアタリを付けたポイントを奇襲し、狙撃手である霞沢を無力化する。
そして無力化が完了次第先生から合図の信号弾が送られてくるので、合図を確認したら突撃を開始。
そのまま空井と風倉を拘束し、本丸である月雪を追い詰めて拘束してRABBIT小隊を鎮圧する……と言う内容だ。
まぁ早い話が、俺様達は敵の注意を引くための囮役。
そのため、生活安全局の生徒達には警備局から借りてきた不良の鎮圧の際に使う大盾を装備してもらっている。
これを使って、普段警備局の生徒が行うような防御陣形を組んでもらって先生と合歓垣が狙撃手を無力化するまでひたすら耐える……と言う作戦だな。
「相手はあの天下のSRTだ。だけど、こっちにはあの有名なシャーレの先生が指揮官についている。先生の活躍は耳に入っていると思うが、彼女が居るならこの戦いは勝ち戦だと言っても過言じゃない。安心してくれ。」
生活安全局の生徒達は警備局から借りた盾を片手に持ち、一人一人様々な表情を浮かべていた。
やっと戦闘ができると喜ぶ者、避難誘導だけだと聞いていたのにと嘆く者、やるからには絶対勝つと息巻く者、怖いと若干体が震えている者。
彼女達は表情こそ様々だが全員が誰が見ても明らかな程には緊張した面持ちでその場に立っており、盾の持ち方も持ち慣れていないのかかなりぎこちなく見えた。
……けど、彼女達には共通点が一つある。
それは一人一人が、市民を守るためにと言ってこの戦いに参加してくれたことだ。
くどいようだけど、彼女達は普段は街のパトロールや交通整理などを行う街のおまわりさん。
こんな大規模なテロを鎮圧するために戦ったことなどないだろうし、初めての経験のはずだ。
恐怖心だってあるはずだ。
そりゃそうだろう。むしろないはずがない。
何せこんな前線で戦うことなど彼女達にはほとんどないだろうし、しかも相手はあのSRTだ。
勝ち目なんてないかもしれない。それでも、彼女達は震える体を奮い立たせてこの戦いに参加してくれた。
そう、全ては市民を守るために。
尾刃局長は生活安全局所属の生徒は平和ボケしていると言っていたけど……中務や今回参加してくれた皆みたいに市民のことを第一に考えて、それを行動に移せる正義感に溢れた立派な生徒達だっているんだ。
そう考えると、生活安全局の生徒達は市民に一番近い場所で仕事をしているんだしある意味一番ヴァルキューレとしての信念を持っているのかもしれない。
そんな、市民のためなら命をかけてでも脅威に立ち向かえる彼女達の事を誰が平和ボケしていると言えようか。
彼女達は紛れもなく、公安局や警備局と並び立つほどのヴァルキューレの立派な警察官なのだから。
……なら、俺様はその思いに全力で応える義務がある。
俺様は気がつけば、自然と口が開いていた。
「みんな。今回は自分の身の危険も顧みずにこの作戦に参加してくれてありがとう。恐怖心だって少なからずあると思うけど、それでも市民のためにこの戦いに身を投じてくれた皆のことを俺様は心の底から尊敬する。そして俺様もみんなと思いは同じだ。必ず市民のみんなを守るんだ。俺様達の手で、絶対にだ!」
俺様は生活安全局の生徒達一人一人の目を真っ直ぐに見据えながら、力強くそう宣言する。
「任せておけ。お前達を必ず敵の攻撃に耐えられるくらいの部隊に仕上げてやる。それに、もし皆に危険が及ぶなら先頭に立っている俺様がこの盾でみんなを必ず守り抜いてやる。だから失敗なんて恐れるな。迷惑なんていくらでもかけていい。俺様が全部カバーしてやる!」
折りたたみシールドを掲げ、大声を張り上げる。
「だから思いっきりぶつかれ!失敗なんて気にすんな!お前達はヴァルキューレの誇り高い警察官だ!SRTの連中に負ける道理なんて無い!そうだろう!?」
「そうだそうだー!」
「市民の危険を脅かす人達に私達は負けません!」
「ボコボコにしてやんよ、SRT!」
俺様に続き、目の前で整列した生活安全局の生徒達は持っている盾を俺様と同じく掲げながら大声でそう叫ぶ。
よし、皆いい目になったな。
先程までの怯えの混じっていた目とは違う。
覚悟の決まった目、これから戦いに赴く者の目だ。
全員士気も充分なようだしこれならばかなり持ち堪えられるはず。少なくとも、すぐ瓦解する事はないだろう。
……さて、それじゃあ士気は高まったことだしあとは生活安全局の皆がどれだけ動けるのかを見ておくか。
「中務、ちょっといいか?」
「はい!どうされましたか?」
「これからお前達は盾を使った防御陣形を敷いてもらわないと行けないわけなんだけど……お前ら、盾を使った隊列の組み方の訓練は受けたことはあるのか?」
「はい!年に何度か警備局と合同での訓練があるのですが、そこで警備局の教官から隊列の組み方に関しては教わっていますので分かると思います!……多分!」
いや、そこは言い切ってほしいんだけど……まぁいいか。
「分かった。なら中務を先頭に隊列を組んでもらっても構わないか?」
「分かりました!皆さん!隊列を組みましょう!」
中務は隊列の中心に駆け込むと元気よく指示を出し、彼女を先頭に生活安全局の生徒は隊列を組んでいくが……
(……練度が低いな。)
やはり、まず何と言っても陣形を組むスピードが遅い。
実戦において陣形を組むスピードと言うのは戦闘の勝敗に大きく関わってくる部分だ。
そりゃ当然だろう、敵はこっちが陣形を整えるのを待ってくれたりはしないのだから。
あとは、盾と盾が隣の生徒とピッタリとくっついておらず若干隙間が空いているせいで隊列全体の防御力が大幅にダウンしてしまっているのも気になる。
彼女達が持っている盾は当然自分の身を守るためのものでもあるが、それと同時に隣に立つ仲間、ひいては陣形を組む仲間たちを守るためのものでもあるのだ。
それに動きも滅茶苦茶ぎこちないし……何と言うか、訓練を必死に思い出しながらやってるって印象を受ける。
まぁ、これに関しては仕方ない。
くどいようだが、彼女達生活安全局の生徒達は普段は街のパトロールや交通整理をやっているんだ。
いきなりこんな最前線に立たされて、急に防御陣形を組めと言われても年に数回しか受けてない訓練の内容を完璧にこなせるはずがないだろう。
それに、今回はそもそも彼女達はメインの盾役じゃなくてあくまでサブとしての盾役と言う事になる。
メインの盾役は俺様が陣形の前で1人で行うことになっているから、とりあえず最低限の陣形が組めていれば今回に限っては充分合格点ではある。
そりゃ隊列の組み方や強度は警備局には到底及ばないけど、とりあえずで防御陣形を敷くこと自体は可能だ。
普段の彼女達のことを思えば充分すぎるくらいだろう。
あとはなるべく彼女達に被害が及ばないように、俺様が陣形の前で盾を構えて攻撃を全て防げばいいだけだ。
「ありがとう中務。これから戦うには充分な強度だ。」
「で、ですが本当にこれで良いのですか?本官も自分自身でかなりぎこちない自覚があるのですが……」
「そりゃ普段やんないことをいきなりやれって言われても警備局と同じように行くわけがないだろ?心配すんな、陣形の組み方を覚えてんなら上等だよ。」
「タツミさん……はい、分かりました!ありがとうございます!」
中務は自信なさげにそう言うが、俺様がそう言って親指を立てると彼女はぱぁっと笑顔を浮かべる。
まぁ正直に言うとこのぎこちない防御陣形でSRTの火器類を相手にするのはあまりにも頼りないけど、生活安全局である彼女達に多くを求めるのは酷だからな。
それに彼女達は恐怖を抑え込んでこの作戦に参加してくれているんだ。なら士気を上げる言葉を選ぶべきで、わざわざ士気を下げるようなことを言う必要はない。
それにいざとなれば俺様が単騎で敵陣へ突撃すりゃいいだけだしな、何の問題もない。
『“タツミ、そっちは大丈夫そう?”』
目の前で中務を中心に戦意を奮い立たせている生活安全局の生徒達を見ながらそんな事を思っていると、先生から渡された通信用のトランシーバーから通信が入った。
「あぁ先生か。今生活安全局の皆に防御陣形を組んでもらったけど、ちゃんと出来るみたいだから問題はなさそうだ。この分ならいつでも行けそうだぞ。」
『“分かった、なら公園の正面への移動をお願いできるかな?こっちも位置についたから、タツミ達が戦闘を始めたらそれに乗じて公園内に侵入するよ。”』
「分かった。んじゃこっちも移動して配置につくぞ。」
『“うん、お願いね。それとタツミ。もし戦闘中にキリノや生活安全局の子達が危なくなっても決して単騎で敵陣に突撃はしないこと。いいね?”』
「うっ……わ、分かった。約束するよ。」
『“うん、よろしい。それじゃあよろしくね。”』
トランシーバーの向こうから、ノイズの混じりの声で俺様にそう注意した先生はそのまま通信を切った。
……まったく、羽沼議長といい先生といい俺様の考えを見透かすのは辞めてほしいんだけどな。
俺様、そんなに分かりやすいのかねぇ……?
まぁそれはともかく、先生からそう言われたなら無理やり俺様が敵陣に突撃するのはナシになってしまった。
となると生活安全局の陣形との連携がかなりキモになるから、これは気合を入れないといけないだろう。
「……よし、皆!聞いてくれ!」
俺様は苦笑いしつつトランシーバーを腰のポケットへねじ込むと、生活安全局の生徒達へ向き直る。
「今先生から指示があったから、俺様達はこれから子ウサギ公園正面へ移動する!そこからの作戦は指示したとおりだ。全員で固まって防御陣形を敷いて、先生からの合図が来るまでその場をキープするぞ!」
「はいっ!必ず市民の皆さんをお守りしましょう!」
声を張り上げて生活安全局の面々にそう発破をかける。
すると、中務が声を上げたのを皮切りに次々と生活安全局のみんなは声を上げ始めた。
「こうなったらもうやってやるわよ!」
「街のおまわりさんの力、見せてあげようじゃない!」
「落ちこぼれなんて言わせない……!私だって、市民の皆さんを守るんですっ!」
まるで共鳴するように、それぞれの思いを口々に吐き出していく生活安全局の生徒達。
そんな彼女達の目は……公安局や警備局の生徒にも負けない、立派なヴァルキューレの警察官の目をしていた。
よし、士気は最高潮だ。
これなら多少の陣形の粗は合っても、彼女達の気合と俺様のカバーでなんとかなるだろう。
正直、苦しい戦いにはなると思う。
尾刃局長の言う通り、SRTと生活安全局の実力は決して埋めることの出来ない大きな差があるのは事実だ。
けど……彼女達の市民を守りたいという強い思いは、決してSRTの連中に引けを取るものではない。
なら、俺様は彼女達その思いを全力でサポートしよう。
さぁ……覚悟しろよ、RABBIT小隊!!!
「さぁ行こう!みんなの手で市民を守るんだ!生活安全局の力、SRTの連中に見せてやれ!」
「「「「おぉぉーっ!!!」」」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ん?」
「どしたのサキ?なにか問題でもあった?」
「いや……なんか、また兵が出てきた。もう誰も残ってないと思っていたけど……まさか生活安全局か?」
「なんだ雑魚じゃん。聞いて損した。それくらいならミユが適当に処理してくれるでしょ。」
「いや、それはそうなんだけど……なんか気になるっていうか……」
「もー心配しすぎだって。生活安全局なんて私達の敵じゃないっての。ミヤコの真面目さでも移った?」
「はあ!?誰があんな奴の……ん?待て。あの先頭のゲヘナの制服を着ている生徒はなんだ!?」
「は?ゲヘナの生徒?……ほんとじゃん。しかも男だよ?キヴォトスに男の子なんていたんだね。」
「そんな事はどうでもいい!何でゲヘナの生徒がヴァルキューレの生活安全局と一緒に居るんだ!?しかもやつにはヘイローがないようだが……」
「別にどうでもよくない?それに生活安全局と一緒にこっちに銃を向けてるってことは敵ってことに変わりはないじゃん。なら、まとめて吹き飛ばしちゃおうよ。」
「……そうだな。公安局も警備局も私達の相手にならなかったんだ。今更生活安全局が出張ってきたところで何の問題もないだろう。ミユ、聞こえてるな?」
『うん、目標を視認したよ。援護射撃を開始するね。』
「あぁ頼むぞ。よし、行くぞモエ!」
「楽しくなりそうだね、くひひ……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ねぇ先生。」
“ん?どうしたのフブキ?”
「今回の作戦はたしかに理には適ってると思うけど、それは囮役の部隊が敵の攻撃を耐えきれることが前提だよ?公安局や警備局でさえ耐えきれなかったのに、あんな急造部隊で大丈夫なの?」
“うん、きっと大丈夫だよ。私はキリノを、生活安全局の子達を信じてる。彼女達ならきっとやってくれるよ。”
「……根拠のない自信だねー。ま、先生らしいけどさ。」
“それに彼女達にはタツミが付いているからね。心配はいらないよ、フブキ。”
「……なるほど。先生がそこまで信頼してるってことは相当すごいんだろうね。まぁ、1年生でゲヘナの議長代理を任されてる時点ですごいんだけどさ。」
“うん。タツミは強いからね。なんてったって、ゲヘナの風紀委員長や七囚人のワカモと互角にやり合えるくらいなんだから。”
「えぇ!?いや、どんだけ強いのさ!?そこまで行くともはやキヴォトスでもトップクラスじゃん……しかも、タツミってヘイロー無かったよね?それでそんなある意味人外とも言える人達と戦えるなんて……」
“すごいよね、本当に。”
「……すごいってよりは、ヤバいって言った方がいいと思うよ。先生。」