先生の立案した作戦により囮役を引き受けるため、子ウサギ公園の正面へと移動してきた俺様と生活安全局の生徒達。
俺様達の目の前には強固なバリケードが築かれており、バリケードの向こう側がRABBIT小隊の陣地であるということを目に見える形で突きつけてくる。
そしてこの先が戦場であると言う事実に、俺様の後ろで整列している生活安全局の生徒達に緊張が走った。
「大丈夫だみんな。さっきの隊列の組み方さえ忘れなければ、きっと勝てる。安心してくれ。」
険しい表情を浮かべる彼女達に俺様は安心させるようにそう言葉をかけた。
先ほど彼女達は戦う覚悟を決めたが、やはり実戦というのは場数を踏んでいないと怖いものは間違いない。
前線の雰囲気に当てられて覚悟を決めたはずなのに恐怖で動けなくなる、なんてのは戦場ではよくある話だ。
俺様だって今でこそ平然としていられるが、実戦経験を積むまでは戦場に立つことに恐怖心があったからな。
だから、俺様に出来るのは彼女達を励ますこと。
決して士気を下げず、彼女達の戦意が折れないように寄り添ってやることだ。
「さぁ行こう、SRTの連中を制圧するぞ!」
「「「おぉぉーっ!」」」
俺様がそう言うと、大きく盾を掲げて大きな声を上げる中務を初めとした生活安全局の生徒達。
うんうん、みんな士気がまだまだ高いようで何よりだ。
……さて、生活安全局の緊張を和らげたところで公園内へ進軍するためにこのバリケードをなんとかしねぇとな。
見た感じバリケードはかなり強固な作りになっている様で、ちょっとやそっとでは解体出来そうにもなかった。
生活安全局の生徒と俺様全員で頑張って解体すると言う手もあるが、ここは敵地の目の前だ。
それに……既に狙撃手から狙われてるな。
この感じ、羽川先輩と同等……もしくはそれ以上か。
霞沢とか言ったか?流石はSRT所属のエリートなだけはある、こりゃ一筋縄では行かなそうだな。
まぁそんな訳で、そんなことをしていては霞沢に撃ち抜かれる可能性だってあるわけだし。
とは言え、バリケードがあるとこれ以上は進軍できないしどうしたもんかと俺様が考えていた時だった。
「止まれ!それ以上近づくと発砲するぞ!」
突如、バリケードの向こう側から白いウサギを模したヘルメットを被った女が声を張り上げてこちらへ銃口を向けながら姿を表した。
あいつは……クロノスの中継ドローンで見た、RABBIT小隊のポイントマンである空井サキで間違いないだろう。
突然の敵の登場に、その場に再び一気に緊張感が走る。
「貴方が今回の騒動を起こしたSRTの生徒の1人ですね!市民の皆さんが使う公園の占拠、そして違法な武器を用いてのデモ……申し訳ありませんが、貴方達を拘束させていただきます!本官の指示に従い、手を上げて投降してください!」
そんな中、生活安全局の列の先頭に立っていた中務は胸のホルスターから拳銃を抜くとそれを構え、空井へと向けながらそう言い放った。
最初に合ったときから思っていたけど、中務は現場に合流して状況を確認する前にすぐに出動しようとしたり、こうして覚悟を決めたもののまだまだ恐怖心の残っている仲間たちのためにも率先して声を上げたりと中々肝の据わっているやつのようだ。
そんな彼女の姿は、まさにヴァルキューレの警察官の鏡と言えるだろう。
「なに……!?お前達、生活安全局だろ!?これは一体何のマネだ!何しにここへ来た!」
「……彼女の言葉が聞こえなかったのか?お前達を制圧しに来たんだよ、空井サキ。」
「なんだと!?」
俺様は盾を構えながら一歩前へ出て、バリケードの向こう側からそう叫ぶ空井へ言葉をぶつける。
「生活安全局はともかく、お前は何者だ!」
「おいおい、SRTでは人に名を尋ねるときはまず自分からって教えてないのかよ?」
「うるさい!ふざけたことを言うな!」
「別にふざけてなんていねぇよ空井サキ。……まぁいいだろう。俺様はゲヘナ学園1年生、議長代理の丹花タツミだ。今回連邦生徒会からの助力を頼まれたから、こいつらに協力することになった。」
「ゲヘナの議長だと!?そんなの聞いてないぞ!」
いや、まぁお前達には伝えてないし……
知る由もないだろうよ。
ちなみにだけど、当然空井の前では今回協力しているのは俺様だけですって体を貫くつもりだ。
先生の存在を今知られるわけにはいかないからな。
「……まぁいい。ゲヘナの風紀委員長が来ているならともかくお前1人だけなら問題はない。それに後ろにいるのは生活安全局のボンクラどもじゃないか。公安局や警備局ですら歯が立たなかった私達に、お前達だけで勝てると思っているのか?」
「さぁな?そんなのやってみなきゃ分かんないぜ?」
「ふざけるな!私達は毎日厳しい規律と規則の下で訓練を受けたSRTのエリートなんだぞ!お前達のような、交通整理をしながら不快な事の少ない日々を送っている甘ちゃん共に負けるわけがない!」
そう言って、歯をむき出しにしてこちらを射殺さんばかりの勢いで睨みつけてくる空井。
そんな彼女の視線にまったく怯むこと無く、俺様は更に一歩前へ出た。
「大した自信だな、空井サキ。」
「当たり前だ!お前こそ、そんなボンクラ共をいくら集めたところで勝ち目なんて無いことくらいは理解できると思うんだがな?もし本気で私達に勝てると思っているなら心底ガッカリだ。」
「……一つ教えておいてやるよ、空井。いいか、本物のエリートってのはな。自分で自分のことをエリートなんて言って自慢するような器の小さいやつじゃないぞ。」
「なんだと!?お前、私をバカにしているのか!?」
「バカになんてしちゃいねぇよ。俺様は事実を言っただけだ。まさか事実陳列罪だなんて言わないよなぁ?」
「お前っ……!」
俺様が愉快そうに笑いながらそう言うと、顔を真赤にして激怒する空井。
「くっ、落ち着け私……あんな安い挑発に乗るな……」
「だから挑発じゃなくて事実だっつーの。」
「黙れ!いい加減その口を閉じろ丹花タツミ!お前がなんと言おうが、生活安全局のバカどもで私達に勝つことなんて出来るわけがないだろう!」
「生活安全局のバカども……ねぇ?」
そう言ってチラリと後ろを見ると、バカにされた生活安全局の生徒達は今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
中務だけは空井をジッと見つめながら拳銃を構えているが、流石にそろそろ堪忍袋の緒が切れそうだ。
……少しくらいなら、言い返してやってもバチは当たらねえだろ。
「確かに、ヴァルキューレの主な仕事はテロの鎮圧や犯罪者の逮捕だ。危険な任務に就く公安局や警備局が花形の仕事なのは間違いないだろうな。」
「なんだ、お前も理解してるんじゃないか。」
「だがな空井。DU地区の人々にヴァルキューレと言えば?と聞けば彼らは口を揃えてこう言うだろう。それは生活安全局だ、と。」
「なに……?」
俺様の言葉を聞き、空井は間の抜けた声を出した。
「確かに生活安全局の仕事は地味だし、公安局や警備局に比べたらぬるいものなのかもしれない。けど彼女達は真摯に市民に接し、日々パトロールをして街の平和を守って、ヴァルキューレと市民の架け橋になっている。」
生活安全局の生徒達を守るように前へ出た俺様は、盾をドン!と地面に叩きつけながら言葉を続ける。
「彼女達は市民との距離がヴァルキューレの中で一番近い。今回だって逃げ遅れた市民の避難誘導は生活安全局の生徒達が行っていた。そのおかげで、公安局や警備局は戦闘に専念することが出来たんだ。」
そう、彼女達が市民の避難誘導を行わなければRABBIT小隊と戦う戦力は減り更に大きな被害が出ていただろう。
「まぁ部外者の俺様がこんな事を言うのもなんだが、ヴァルキューレの仕事はテロリストや犯罪者を鎮圧することだけじゃないだろう。市民に安心を与えること、市民の安全を守ること。それらだって、立派なヴァルキューレの仕事だと俺様は思う。」
「……それがどうしたと言うんだ?」
「分からないか?彼女達は決してボンクラなんかじゃねぇって言ってんだよ。」
そう、彼女達は決してボンクラなんかではない。
市民のためなら自分の身を投げ打ってでも危険な戦闘に参加する、勇気あるヴァルキューレの警察官だ。
「確かに彼女達の実力が不足しているのは事実だ。そこを否定するつもりはない。だが、そもそも普段から行ってる業務が違いすぎるのだから公安局や警備局に比べて力が劣るのは当たり前の話だろ。彼女達だってやれることを必死にやってる。生活安全局のみんなは公安局や警備局にも劣らない立派なヴァルキューレの警察官だ!」
空井を睨みつけながら、俺様は声を張り上げる。
「今回だって、彼女達は実戦経験が少ないにも関わらずこうして志願してくれてこの場に立っている。市民を脅かすお前達RABBIT小隊から市民を守るために、怖いのを我慢してここに立ってくれているんだ。彼女達の市民を守りたい、平和を守りたいと願う気持ちとその覚悟をバカにするのは……この俺様が許さねぇ!!!」
そう言って腹の底から空井に対して大声をぶつけた俺様は、ありったけの怒りを込めて空井を睨みつける。
そう、彼女達は戦闘に対する恐怖や戦うことへの不安を抑え込んで市民のためにここに立ってくれている。
彼女達は決して日々甘い業務を送っているボンクラではない。ヴァルキューレ警察学校の、立派な警察官だ。
そもそも、元を辿れば今回こんな事になっているのはお前達RABBIT小隊が公園を占拠してSRTから持ち出した兵器を使って危険なデモを繰り返しているからだ。
それさえ無ければ、生活安全局の彼女達が震える自分を奮い立たせてここに立つ必要なんてなかった。
本来秩序側に居るべきはずの人間が、武力を盾に自分達の要求を呑ませるなんて事があってはならない。
今のお前達はテロリストと変わらないぞ、RABBIT小隊。
「タツミさん……」
「お前達にだってSRTの誇りや信念があるのは分かるし、いきなり通ってる学校が廃校になるって聞いたら冷静でいられないのは俺様も理解は出来る。けど、これは違う。SRTが、こんなテロリストがやるような事をやっていいわけがねぇだろうが。」
「なんだと!?」
「だから今から生活安全局の皆と俺様でお前たちの目を覚まさせてやるよ。いっぺんぶん殴られて頭を冷やしやがれ、RABBIT小隊。」
「……ふん。口だけなら何とでも言えるだろう。」
中務が俺様に視線をやりつつそう呟く脇で、変わらず余裕な態度を崩さない空井。
そんな空井は懐から通信機のようなものを持ち出すと、誰かに向かって指示を出し始めた。
「モエ、いい加減耳障りだ。こいつらはここで潰す。ヘイローがないから少しは手加減するつもりだったが……支援は任せたぞ。」
『オッケー。ミユも狙撃を開始するってさ。じゃ、そっちに戦闘用ドローンを送るから前は任せた。こっちはバンバン爆撃してあげるよ。』
「あぁ、よろしく頼むぞ。」
……モエってことは、オペレーターの風倉のことだろう。
空井は通信機で風倉とそんなやり取りをすると、通信機のスイッチを切ってそれを懐へとしまいこむ。
するとその直後、彼女の背後から大量の戦闘用ドローンが飛来したかと思うと俺様達の前に立ちはだかった。
「……来るぞ!総員、防御陣形を組め!」
その光景を視認した俺様は、すぐさま後ろで整列している生活安全局の生徒達へ向かって指示を飛ばす。
俺様の指示を受けた彼女達は、中務を中心にぎこちないながらも先ほどまでよりも素早い速度で密集して盾を構えて防御陣形を築ききった。
心無しか、先ほどよりも陣形の完成度が上がっているようにも感じる。
チラリと彼女達の目を見ると、彼女達の目には先ほどまでの恐怖や怯えの感情は一切含まれておらず……全員、目にギラギラとした闘志をみなぎらせていた。
その迫力は、公安局や警備局の部隊にも決して劣らないだろう。そのくらい、彼女達は頼もしい姿をしていた。
この短期間で何が合ったのかは分からないけど、ともかくこれでしばらく保たせられることは出来るだろう。
「さぁ、SRTを舐めたことを後悔させてやる!」
「望む所だ!行くぞ、生活安全局のみんな!必ずRABBIT小隊を鎮圧して、市民を守るんだ!」
「「「おぉぉーっ!!!」」」
俺様と共に声を張り上げ、空井やドローンを操っているであろう風倉を威嚇する生活安全局の生徒たち。
戦闘用ドローンはこちらへ近づいてくると収納されていた銃座を展開し、俺様たちへと狙いを定めて来る。
「さぁ、行くぞ!!!」
こうして、俺様達生活安全局の生徒とRABBIT小隊との戦いの火蓋が切って落とされた。
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「退くな!その場にとどまり続けろ!引いて陣形が崩れたら終わりだと思え!」
「はいっ!みなさん、頑張りましょう!市民の皆さんのためにも負けられません!」
戦闘用ドローンの数に物を言わせた銃撃、空井による隙をついた射撃、遠くからの霞沢による的確な狙撃、更に風倉の居る本拠地から放たれる爆撃。
それら全てを手にした盾でなんとか防ぎつつ、俺様と生活安全局の生徒達はその場にとどまり続けていた。
「どうした、威勢がいいのは口だけか?防御してばかりでは私達に勝つことは出来ないぞ!」
「んなこと分かってるっての!さっきからピーピーうるせぇんだよウサギ野郎!」
「う、ウサギ野郎だと!?私は野郎じゃないぞ!?」
勝ち誇ったようにそういう空井に対して、俺様はまだ余裕がありますと言わんばかりにそう言った。
……ってか、突っ込むところはそこなのかよ。
「くそ!その余裕、すぐ吹き飛ばしてやるからな!モエ!支援攻撃を頼むぞ!」
『はいよ〜!ド派手に行っちゃうよ〜!』
「あぁ、頼む!」
……クソ、とは言え流石に分が悪いのは否定できない。
生活安全局の彼女達は防御陣形を組み、ドローンの攻撃を耐えながら射撃をしてドローンを撃墜してはいるのだがそれでもどんどんと沸いてくるドローンに対する対応が明らかに遅れてきているのを感じる。
そんな中でも、中務を中心として互いに励ましあってカバーしあっているから幸いまだ持ちこたえられそうであることは救いだろうか。
そんな中俺様はと言うと、生活安全局の生徒達が形成する防御陣形よりも少し前に出た場所で彼女達の死角や隙を狙って飛んでくる攻撃をいつでも防げるポジションを取りつつ、ブークリエの射撃でブンブンと周りをハエのように飛び交う目障りなドローンの撃墜を行っていた。
空井の射撃や霞沢の遠距離からの狙撃は俺様が攻撃のタイミングで生活安全局の彼女達と射線の間に割り込んでここまで全て防いでいるが、流石に風倉の放つ広範囲爆撃だけはどうにもならずに既に辺りには爆撃の後のシェルターが大量に作り出されている。
「くっ、しぶとさだけは一級品だな!」
「そりゃどうも、諦めの悪さには自信があってね!」
「はぁ!?私は褒めてないぞ!?」
「分かってるよ!お前は軽口って物を知らねぇのか!」
クソ!空井と話してるとやりづらくて仕方がねぇ!
何と言うかこいつ、昔気質の教師というか早い話が融通の効かない頑固親父みたいな性格をしているみたいだ。
いや、テロリストとは言え女の子を頑固親父呼ばわりするのは流石にどうかとは思うけど、表現としてはそれ以外に思いつかないのだから仕方がないだろう。
「中務!まだ行けるか!?」
「はいっ!こちらは大丈夫です!」
目の前のドローンに盾を叩きつけてガラクタへ変えながら俺様は後ろの中務に状況の確認をするが、中務の声色からするとまだまだ余裕はありそうな様子だった。
しかし現実問題として連中の放つドローンの数が多すぎて対処が追いついていないのもまた事実。
まぁ生活安全局の生徒達に配られている装備が拳銃なのも原因だとは思うけどな、これが小銃とかならもっと手数を出せるんだろうけど拳銃となると火力も手数も乏しいからどうしてもジリ貧になりやすいからな。
とは言え、戦闘慣れしていないにも関わらず旧式の拳銃と警備局から借りた盾だけでここまで耐えられているのはひとえに彼女達の頑張りのおかげに他ならない。
SRTの火力に対しても一歩も引かず、お互いに励まし合いながらドローンを処理していく生活安全局の生徒達は公安局にも警備局にも負けていないだろう。
「分かった!危なくなったらすぐ俺様に声をかけるんだぞ!それまで後ろは頼む!」
「了解です!」
俺様は中務へそう声を掛けると、盾を少しだけ持ち上げるとすり足で前進を始める。
空井はそんな俺様を前へ行かせまいと手にした小銃でこちらへ弾幕を張ってくるが、俺様はお構い無しと言わんばかりに盾で銃撃を防ぎながら前進していく。
盾が銃弾を防ぐ金属音が鳴り響き、盾を持つ腕に衝撃が伝わってくる。
「ちぃ、モエ!」
『分かってるって!』
そんな俺様にしびれを切らしたのか、空井は風倉へ無線でそう指示を出した。
するとその瞬間、空井の周囲を浮遊していた戦闘ドローンの銃口が一斉に俺様へと向けられる。
俺様はそれを視認すると盾を引っ張って体を隠し、ドローンから放たれる銃弾を全て防ぎ切る。
そして銃撃が止んだのを確認すると、盾から顔を出してブークリエを構えようとした瞬間だった。
俺様の背筋に悪寒が走る。
「……っ!」
俺様はその悪寒を感じた瞬間、一にも二にもなく急いで盾を引っ張り寄せるとその後ろへ身を隠した。
その直後、俺様の構える盾にひときわ大きな衝撃が走ったかと思うと周囲に金属音が響き渡る。
『マジ!?完璧に射撃が止んだ反撃の直後を狙ったのに防がれた!?』
「今のミユの狙撃は完璧だったぞ……!?」
……やっぱりな、射撃が止んだ直後に嫌な予感がしたから顔を出さずにおいて正解だったぜ。
俺様の見立てでは霞沢は公安局や警備局にもかなりの被害を単独で出している相当優秀なスナイパーだ。
なら、そんなスナイパーが獲物が顔を出す瞬間を見逃すはずがないだろうからな。
「ハッ、こんな見え見えの狙撃に当たる奴がいるか!」
「ちっ!減らず口を……!」
『と言うかあいつ硬すぎるってサキ!さっきからドローンで弾幕張ってるのに信じられないくらい全部盾で防いでくるし、何ならドローンに盾を叩きつけて壊すし、後ろの生活安全局の生徒を狙った攻撃は全部吸われるしバケモンだってあいつ!』
「うるさい!泣き言を言うなモエ!いくらあいつが硬かろうが撃ち続けていたらいずれ限界は来るはずだ!攻撃の手を休めるな!」
無線で風倉とそうやり取りをしつつ、マガジンを交換しながら通信機に向かって怒鳴り散らす空井。
と言うか、生活安全局を狙った支援攻撃を全部防いでいるのは気づかれていたみたいだな。
まぁそりゃあれだけ必死に頑張ってくれている生活安全局の生徒たちを支援射撃なんて言う横槍で崩されるわけには行かないんでね。
その辺りは流石SRT、戦術理解はバッチリという訳か。
「撃て撃て!撃ち続けろ!」
「チィ!面倒な……!」
クソ、とは言えこのままだとジリ貧だ。
俺様達の任務はここで先生たちの作戦が成功するまで耐えることかつ、先生からの合図があったら突撃して空井と後方の風倉を拘束すること。
それまでに敵のドローンの頭数は減らしておかないといけないし、空井にもある程度ダメージを与えておかなければならないだろう。
しかし、バリケードに近づけば近づくほどドローンからの攻撃は増していくばかりだしそもそも空井はバリケードの向こう側から射撃をしてきている。
あのバリケードをなんとかしない限りは空井に接近戦を挑むことすら出来ない……どうしたものか。
それに俺様の隙へ差し込むように霞沢が的確に狙撃をしてきているし、動きにくいことこの上ない。
(まぁなんとか出来る手段はないこともないけど……後で先生から何を言われるか分からないしな。)
俺様は盾に身を隠しながら弾の切れたブークリエのマガジンを振って飛ばし新しいものに交換すると、盾から少しだけ身を出してブークリエの引き金を引いた。
耳元で火薬の爆発音が炸裂するとともに、目の前の戦闘用ドローンがまた1基煙を上げて地面へと墜落する。
そんな俺様の様子を見て即座に空井が追撃してくるが、俺様は盾の後ろに身を隠して銃弾を防ぐ。
そして銃撃が止んだのを確認すると、再び盾から顔を出して空井を守っているバリケードに向かってブークリエの引き金を引きっぱなしにしてフルオートで叩き込む。
「何、そのショットガンはフルオートだったのか!?なんてものを使ってるんだお前は!」
「ケッ、SRTの金に物を言わせたバカみたいな火力の武器を使ってるお前らに言われたかねぇよ!」
俺様の周囲を浮遊して隙あらば銃撃をしかけてくるドローンを銃床や盾で殴りつけて地面へ叩き落としつつ、俺様は空井に向かってそう叫んだ。
その後、即座に俺様の横を通り過ぎて生活安全局の生徒達の元へ向かおうとするドローンを撃ち落とし素早く盾を構えて体を反転させて正面からの銃撃を防ぐ。
続いて俺様の隙に合わせて飛んでくる霞沢からの狙撃を盾で受け流しつつ、スライディングをして空井から放たれる銃弾を全て盾で防ぐ。
そして俺様はその勢いで立ち上がると再び素早くブークリエのマガジンを交換し、正面を浮遊しているドローン共に片っ端からブークリエの銃撃を浴びせていく。
「くそっ、ドローンが……!」
『サキ、ちょっとまずいかも。流石にもうドローンの残機が無くなってきたよ。』
「こっちももう残弾が少ない。くそ、ここは癪だけど一旦テントへ戻って補給を行うしか……!」
空井はマガジンを交換しつつ、通信機で風倉とそんなやり取りをしながら吐き捨てるようにそう言った。
まぁそりゃあんだけ大量のドローンをけしかけておきながら俺様と生活安全局の生徒達でその大半を破壊しているわけだし、空井だってさっきから結構射撃してきているものの俺様達の陣形を崩すには至っていない。
恐らく戦闘前の舐めきった様子からして簡単に片が付くと思っていたのは確実で、予備の弾薬もあんまり持ってきてなかったんだろうな。
確かに、戦場においては練度や士気が高いエリート部隊のほうが圧倒的に有利なのは間違いない。
だが戦場ってのは力量の差がそっくりそのまま勝敗に直結するような単純な場でもないんだなこれが。
その証拠に、今だってヴァルキューレの落ちこぼれ部隊なんて言われている生活安全局の生徒たちは必死に陣形を維持してSRTのエリート部隊と渡り合っている。
戦場において何が起こるかなんてのはわからないんだ。
たしかに連中の腕は相当なもんだし、その練度にSRTの銃火器も含めてとんでもない実力者なのは確かだ。
だが連中は戦場でのルール無用の殴り合いや、それこそ【命の取り合い】をしたことはないように感じる。
よって、訓練形式でお行儀良く戦うのは得意だが搦手などの奇襲攻撃には極めて弱いと見た。
……そう、動きがあまりにも教科書通りすぎる。
実戦経験を豊富に積んだやつの動きじゃないんだよな。
だから次に空井や風倉がどんな手を打ってくるかなんてのは手に取るように分かるし、良くも悪くもセオリー通りの攻め方しか知らないんだろうなって印象を受ける。
その証拠に、先程から空井や風倉は俺様達がまったく崩せないのにも関わらず攻め方を変えようとしない。
敵の陣形を崩せないのであれば、今の攻め方では突破できない。制圧できないということに他ならない。
それならば攻め方を変える必要があるのは明らかだ。
だって、今のままの状態を続けていたところでいたずらに銃弾を消費していくだけで敵は崩せないのだから。
俺様達はあくまで囮役だから今は敵の注意を引く必要があるため防御重視の戦術を変える必要はないけど、連中は違う。
何が何でも俺様達を突破しなければ、このままバリケードに取りつかれて陣地への侵入を許してしまうからな。
だが、空井と風倉は攻め方なんて変えてこずに正面からドローンと霞沢の射撃で押し切ろうとしている。
ここまで持ちこたえられているのに戦略を変えないということは、考えられる理由は主に2つ。
1つ目は、SRTのエリートである自分達が生活安全局なんかに負けるわけがないと思っている慢心から来る油断。
恐らく、こいつらみたいな雑魚どもなんて正面からの力押しだけで突破できると踏んでいるのだろう。
そりゃ空井や風倉がSRTのエリートなのは間違いない事実だけど、戦場においてそんなプライドなんてものは何の役にも立たないからな。
これじゃダメだと思ったらそんなプライドなんて捨てて奇襲でも不意打ちでも仕掛けて、何かしら突破口を開かなきゃならないだろう。
明らかに焦ってきている2人の態度がその証拠だ。
そしてもう1つが、経験不足により目の前の敵の事しか見えておらずに戦況全体を見渡せていないことだ。
空井と風倉の戦い方は確かに脅威だし手こずっているのは確かだけど、俺様たちを突破するには至っていない。
奴らがもう少し余裕を持って周囲を見渡せば、俺様たちを突破できる方法などいくらでもある。
例えば、生活安全局の生徒達の連携の隙を突いて俺様のカバーが間に合わないうちに爆撃するとか。
もしくは、生活安全局は後回しにしてヘイローのない俺様へ向かって爆撃しまくって無力化するとか。
まぁこっちとしては馬鹿正直に前へ出ている俺様に集中砲火してくれているおかげで後ろの生活安全局のみんなを守りやすいし、やりやすくてありがたいんだけどな。
まぁとにかくそういう訳で空井や風倉、あとついでに霞沢は戦場に出た経験が薄いという事が伝わってくる。
いくらSRTとは言えどそこはやっぱり1年生部隊、実際に戦場に出て戦闘を行った経験は浅いのだろう。
まぁ部隊長の月雪だったか?あいつは冷静に戦況を分析出来そうだったから、あいつの指示のもと一丸となって戦われたら危なかったかも知れねぇけどな……
それに連中がヴァルキューレの公安局や警備局に対抗できていたのは所持している火器がSTR性の高性能かつアホみたいな火力の物と言うことが一番大きいだろう。
これが3年生のベテラン部隊なら勝ち目はなかっただろうけど、経験の浅さを突けばなんとかなるかもしれない。
実戦においてはお手本通りの動きだけじゃだめだ。
泥臭い動きも必要ってことを教えてやる。
ゲヘナで毎日不良どもとルール無用に戦って、エデン条約の会場ではアリウスと互いに命の奪い合いをしてきた俺様を舐めるんじゃねぇぞ!
「クソ!モエ、支援爆撃を頼む!」
『え?いや、もう爆弾は残ってないよ?』
「は!?どうしてだよ!?」
そんな事を考えていると、空井と風倉が通信機を通して何やら言い合いを始めていた。
『さっきクロノスのドローンを撃ち落とすのにミサイルは全部使っちゃったし、残った爆弾もさっき撃った分でもう底を突いちゃったからね。もうこっちに残ってるのはドローンくらいかな。』
「はぁ!?おま、嘘だろ!?」
『だってサキが言ったんじゃん。全部使ってド派手にって。だから全部使っちゃったよ?クロノスのドローンを爆撃するときにパーっとね♪』
「本当に文字通り全部使うやつがいるかバカ!後のことを考える必要があるだろう今は!」
『後のことなんて考えなしに一回に全部つぎ込む……あの火花は綺麗だったなぁ。はぁ…はぁ……』
「何を言ってるんだお前は!?バカなのか!?」
うん、間違いなくそいつはバカだと思うぞ空井。
なるほど、どうやら風倉は戦いってよりは銃を撃つことや爆撃をすることに快感を覚えるトリガーハッピー気質なやつのようだ。
……いや、どう考えても危険な人物じゃねぇか。
そんな奴SRTに入学させちゃダメだろ。
「この状況で爆撃が出来ないなんて、どうすれば……」
『まぁまぁそう落ち込まないでよ。まだ私達には戦闘用ドローンがあるじゃん。爆撃は確かにできないけど、生活安全局の雑魚なんて数で押せばなんとかなるって。』
「……まぁそれもそうだな。ミユの狙撃もあるし、こんな奴らに公安局や警備局を退けた私達が負けるわけがないもんな。」
先程までの焦りを見せていた表情とはうって変わり、余裕の表情を浮かべてそういう空井。
……ここだ、こいつらを崩す突破口はここにある。
こいつらは気づいていないのかも知れないけど、そもそも今のRABBIT小隊の状況は公安局や警備局と戦っていたときとはわけが違う。
当然弾薬は公安局や警備局との戦いで大量に消費しているはずだし、RABBIT小隊視点では補給は絶望的なことを考えると使った分の弾薬の補給は出来ていないはずだ。
それに、クロノスの中継で見たときにこいつらは部隊長の月雪と激しい言い争いをして仲間割れをしていた。
公安局や警備局の時は月雪の指揮のもとで一丸となって戦っていたんだろうけど、今のRABBIT小隊はその月雪と隊員の間に溝ができてしまっている状態だ。
そして極めつけは風倉のクロノスのドローンを撃ち落とすのにミサイルを全て使ったという証言……
部隊長と喧嘩し、爆発物を全て使い果たし、極めつけは防御陣形を組んだ生活安全局の生徒を崩せていないのにあの余裕さえ感じる表情……どう考えても、慢心して浮かれまくっているとしか言えないだろう。
いいぜ、なら思い知らせてやる。
そう考えた俺様が、盾を地面へ叩きつけた時だった。
「……!!!」
ブークリエを構え、空井とその周囲に浮いているドローンへ向かって視線を移したその時。
俺様の視界の上の方……つまり空の方に、青色に混ざってチラリと緑色の煙が立ち上っている光景が目に入る。
「……なんだ?」
『信号弾みたいだね。ミヤコからの合図かな?』
「いや、別にあいつからは何も聞いてないぞ?それに緑色の信号弾なんてSRTから持ってきてないはずだが。」
空井や風倉は空を見上げ、緑色の煙に見覚えがないと言ったような表情を浮かべているがそりゃそうだろう。
だってあれは……先生からの霞沢を無力化したという、俺様たちへ向けての合図なのだから。
俺様は青空に浮かぶ緑色の信号弾を確認すると、即座に後ろの中務へと声を掛ける。
「中務!信号弾は見えたな!?」
「はいっ!こちらはいつでも大丈夫ですっ!」
「よし!総員、防御陣形を解除しろ!」
お互いの盾を寄せ合い声を掛け合って陣形を維持し、手にした拳銃でドローンを撃ち落としていた生活安全局の生徒達は俺様の号令によって防御陣形を解除し、それぞれが突撃体制を取るために散開する。
「馬鹿め!さっきまでは固まっていたから中々崩せなかったが、散開するなら格好の的だ!ミユ、狙撃で奴らを蜂の巣にしてやれ!」
そんな生活安全局のみんなの姿を見て、意気揚々と通信機へ向かって霞沢にそう指示を出す空井。
確かにさっきまでのガチガチの防御陣形では互いに互いをカバーし合えるから霞沢の狙撃は効果が薄かったから俺様にばかり狙撃してきていたが、散開した今であれば霞沢の狙撃は有効に働くだろう。
……まぁ、その霞沢が狙撃できればの話だがな?
「……あれ?お、おいミユ!?どうした!応答しろ!」
『ん?どったのサキ?』
「モエ!ミユとの連絡が取れない!」
『えぇ?まっさかぁ、相手は生活安全局だよ?装備とかの面も含めてミユがやられるレベルじゃないでしょ。』
「そ、それはそうだろうけど……!」
『そもそもその生活安全局の奴らは私達の目の前に居るわけだしね。きっとトイレにでも行ってるんでしょ、考えすぎだって。』
……おいおい、流石にこの状況でその発想が出てくるのは戦い慣れしてない以前に楽観的すぎるだろ。
こんな奴らでもSRTの火器を馬鹿みたいに使えば公安局や警備局を倒せるんだな……つくづく装備の質が戦場に与える影響力を感じざるを得ない。
「はぁ、こんな連中に倒された公安局や警備局の生徒が浮かばれないな……」
「待てよ、あの謎の緑色の信号弾はミユの潜んでいる場所から打ち上げられていた……まさかとは思うが、お前たちの仕業か!?」
「やっと気づいたか?あぁそうさ。あの信号弾は狙撃手である霞沢を無力化したって合図だ。」
空井のまくしたてるような質問に対して、俺様は好戦的な笑みを浮かべながらそう言い放つ。
霞沢を無力化した以上はもう先生の作戦をこいつらに隠しておく必要はないからな。
むしろ現実を突きつけて精神的なダメージを与えるためにも、言ってやったほうがいいだろう。
「なるほど、別部隊がいたのか!くそ!完全に油断していた……!」
「まだまだ甘いなRABBIT小隊。お前らもSRTのエリートを名乗るなら、もっと戦術のお勉強をして出直してくるんだな。」
「黙れ!確かにミユは無力化されたかも知れないけど、それでもまだ私達のほうが有利なのは変わらない!」
「……おいおい、本気でそう思ってんのか?」
「当たり前だ!いくら狙撃による援護が無くなったからと言って、このバリケードをお前らみたいな生活安全局で突破できるわけがないだろう!」
「なら試してみるか?もう俺様達がここで亀のように守りを固める理由も無くなったわけだし。な?みんな。」
俺様はそう言って、後ろで散開しつつ突撃の準備を始めている生活安全局の生徒達へと声を掛ける。
彼女達は一人一人表情は違えど視線は目の前のバリケードの方をまっすぐに見つめており、全員の目に溢れんばかりの闘志が宿っている。
そして、彼女達は俺様の言葉に対して大きく頷いた。
防御陣形から突撃陣形に切り替える時に怖気づく生徒が出ないか心配だったけど、この分だと問題なさそうだ。
「いいだろう!お前たち生活安全局なんかここで叩き潰してやる!行くぞモエ!」
『仕方ないなぁ……分かったよサキ。最後のドローンも全部そっちへ送るからやれるだけやってやろうじゃん。』
こちらを鋭い視線で睨みつけながら、空井は風倉と通信しつつ俺様たちへ向かってそう啖呵を切ってきた。
俺様達がバリケードに近寄れなかったのは戦闘用ドローンの数の暴力や空井の正確無比な射撃のせいもあったけど、一番の要因は霞沢の狙撃だったからな。
もう彼女の俺様達の隙を的確に狙うような狙撃が飛んでこないことが分かっていて、しかも敵の弾薬は尽きかけている以上負けてやるつもりはない。
「行くぞみんな!バリケードを突破してRABBIT小隊を制圧するんだ!」
「はいっ!」
「「「おぉぉーっ!!!」」」
俺様の号令で盾を掲げ、大声を挙げて正面の空井を威嚇する中務を中心とした生活安全局の生徒達。
もはや彼女達の目に怯えの表情は一切無かった。
皆いい目をしている。頼もしいことこの上ないだろう。
さて……空井サキ。風倉モエ。そしてRABBIT小隊。
自分達が生活安全局なんかに負けないと思っているその傲慢な精神……今から叩き潰してやるよ!
「行くぞ!全軍突撃!!奴らを押し潰してやれ!!!」
「「「「「おぉぉーっ!!!!!」」」」」
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「うぅ……まさかこっそり裏口に回ってきてるなんて……ごめんミヤコちゃん、みんな……」
「はいはーい大人しくしてねウサギの狙撃手ちゃん。ちょっと拘束させてもらうよー。」
「もう終わりだ……全部奪われるんだ……」
「人聞きの悪いこと言わないでよ……いやーそれにしてもこんな古い手法がまだ通じるとはね。心理的に追い込まれると弱い……先生の読み通りだったね。」
“お疲れ様フブキ。見事な制圧だったよ。”
「ま、先生の作戦ありきとは言え……上手く出来たみたいで何よりだよ。さてと、それじゃあ信号弾も打ち上げたことだしキリノやタツミ達もそろそろ仕掛けるかな?」
“うん、タツミには信号弾を確認したら状況次第ではすぐ突撃してもいいって言ってあるからね。私達もすぐに合流して、援護してあげよう。”
「分かった。いやーそれにしても、もう一生分働いた気分だよ。これは20日くらいは特別休暇を貰わないと割に合わないねー。」
“(……私もそれくらい休みが欲しいなぁ。)”