転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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日常…言うほど日常かこれ?


万魔殿の日常と丹花タツミ

突然だが、俺様には最愛の妹が居る。

丹花イブキ。11歳にしてゲヘナ学園の高等部に飛び級で入学を許されたゲヘナ始まって以来の天才児だ。

まだまだ幼いところの方が多いイブキだが、勉強においては兄である俺様をはるかに上回る頭の良さ。

ま、俺様勉強苦手だから余計にそう見えるんだけどな。

 

さて、ではここでイブキの可愛いところを紹介しよう。

まずは天使のようなあの笑顔。あの笑顔を見るだけでその日の疲れなんて全部吹っ飛んじまうくらいだ。

続いてサラサラの金髪、クリクリおめめ、128cmとか言う膝の上に乗せるのにちょうどいいくらいの身長。

そして、あの天真爛漫さ!

全てにおいて愛さずにはいられねぇよなぁ!?

流石は俺様の妹だぜ!

うぉぉぉぉぉイブキ最高!イブキ最高!

 

イブキの可愛さは留まるところを知らない。

所属している万魔殿の全員から溺愛されているのはもちろん、羽沼議長が目の敵にしまくっててあまり良い印象を持たれていない風紀委員会からも愛されている。

その他にも給食部や救急医学部、あの美食研究会や温泉開発部でさえイブキの事を可愛がっている。

 

俺様は前世では兄貴が1人いただけで、妹と言うのはフィクションの中の存在でしか無かったわけなんだが。

今世に生を受けて、俺様より4年後にイブキが生まれて来た時はそれはもう感動したもんだ。

そしてまぁイブキの可愛いこと可愛いこと!

妹なんてクソ生意気でしか無いんだろうなとスレた考えを持っていた時期もあったが、イブキの天真爛漫さを見てしまえばそんな考えは吹き飛んじまった。

ミルクをあげて、オムツも替えて、絵本も読んでやったし飯を食わせたり風呂へも一緒に入ってた時期もある。

そのおかげかは分からないが、イブキも俺様にめちゃくちゃ懐いてくれていて俺様感激して泣きそうだぜ……

 

そんなイブキもキヴォトス人らしくしっかりとヘイローを持って生まれてきており、ゲヘナの世紀末じみた治安の中でも逞しく育って生きて来ている。

だが、やっぱりゲヘナで生活するというのは常に危険と隣り合わせである事は間違いない。

 

イブキを守りたい。

その強い思いがヘイローのない俺様がキヴォトスで銃を取って戦う最大の理由になっている。

そりゃ初めは怖かったさ。なんせヘイローのあるキヴォトス人と違って俺様にはヘイローがない。

銃弾1つが文字通り致命傷。頭にでも当たろうものなら速攻であの世へ逆戻りって状況なのに、敵は多少の被弾くらいではビクともしないと来ている。

そんな圧倒的ハンデがある中でも俺様が戦う理由は強くなりたいから。強くなってイブキを守りたいからだ。

……まぁその過程で怪我をしちまってイブキを泣かせちまった事は数え切れないがな。

こんなんじゃお兄ちゃん失格だぜ……

 

あれは忘れもしない、羽沼議長から装備をもらって初陣として出陣した不良達との初戦闘。

俺様は寒くもないのに盾の後ろでガタガタと震え、過呼吸になりながらブークリエを抱いて涙を流すことしか出来なかった。

周囲では爆発音や銃声が聞こえ、命を奪う弾丸が乱れ飛んでいるこの世の地獄みたいな光景が広がっていて。

 

死にたくない。死にたくない。死にたくない!

 

そんな気持ちが心を支配し、俺様はその場から一歩も動けずにただ震えていただけであった。

悔しかった。あれだけ強くなってイブキを守ると息巻いていたのに何も出来なかった自分が。

悔しかった。覚悟していたはずなのに、本当は全然覚悟なんて出来ていなかった自分の心の弱さが。

 

結局俺様は何もできずに羽沼議長や棗先輩率いる戦車部隊が不良を撃破してくれた。

俺様はその時、一緒に戦ってくれて守ってくれた羽沼議長や棗先輩に平謝りしたんだが……

 

「キキキ!ヘイローの無い身でよく前線に出たなタツミ!その度胸、このマコト様が評価してやろう!」

「まぁ初陣にしては気絶しないだけよくやった方じゃないんですかね?お疲れ様でした、タツミ。」

 

もうね、俺様は恐怖の涙の後に感動の涙を流したよな。

絶対にこの人達に付いていこう、そう思った瞬間だ。

 

「よく頑張ったわよタツミ。いい子いい子。」

「タツミくん!コーヒーをどうぞ!」

 

その後も京極先輩が背中を擦って慰めてくれたし、元宮先輩はコーヒーを淹れてくれた。

 

「お兄ちゃん!カッコよかったよ!」

 

そして、イブキは恐怖でガタガタと震えていた俺様に対してそんな言葉を投げてくれた。

あぁ……本当に良い仲間たちと妹に恵まれたなぁ。

 

それから、俺様は死ぬほど猛特訓を重ねた。

死の恐怖を克服するために、実弾を盾で防ぐ訓練をしたり風紀委員の訓練に混ぜてもらったりもした。

体力作りのための走り込みも始めたし、味方と敵の射線の管理を徹底的に学んで盾で銃弾を防ぎつつも体には被弾しない位置を陣取る能力をひたすら高めていった。

時には空崎委員長や銀鏡先輩に頼み込んで稽古を付けてもらったりもした。

そうしてどうにかこうにか今は戦場に立っても震えることなく戦えるようになっている。

それでもやっぱり死ぬのは怖いから、まだ戦いの前になるとちょっと足が震えたりはするけどな。

 

イブキを守って、万魔殿の皆も守って、親しい人達も守れる盾のような存在になりたい。それが俺様の目標だ。

俺様が自分の持つフルオートショットガンにブークリエって名前を付けた由来でもある。

ちなみにブークリエはフランス語で盾って言葉を意味するんだ、イカしてるだろ?

まぁ話が逸れちまったけど、そんなこんなで俺様にとってイブキは何よりも大切な存在ってわけだな。

そしてイブキには一歩劣るが、万魔殿の皆も俺様にとってはとても大切な存在だ。

これからも鍛錬に励んで万魔殿を守っていきてぇぜ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あなたはだんだん万魔殿に忠誠を誓いたくな〜る……誓いたくな〜る……どうかしら?」

「んー……なんともないっすね。」

 

時は昼下がり。万魔殿の一室にて。

今日も今日とて京極先輩に催眠術の練習に付き合って欲しいと泣きつかれたため、こうして催眠術の練習に付き合っているわけだが……

しかし、よくもまぁ毎日毎日飽きもせずに練習出来るもんだよなぁ……

 

「おかしいわねぇ……せっかく通販で買った資料まで読んで今回は行ける!って思ったのに。」

「……そもそも万魔殿に忠誠誓いたくなるって題材が問題なのでは?俺様は万魔殿の人間っすよ?催眠しなくてもそもそも忠誠誓ってると思うすんけど。」

「あら、マコトちゃんが聞いたら泣いて喜びそうなセリフね?」

「いや、絶対気持ち悪がるっしょ……」

 

絶対あの人そんな事聞いたら「何ィッ!?変なものでも食ったのかタツミ!?」とか言ってくるぞ。

そもそも、俺様が忠誠を誓ってるのは羽沼議長ではなくて万魔殿って組織そのものだからな。

……まぁ羽沼議長にもちょっとだけ、ちょーっとだけ忠誠を誓ってやらんこともないけど。

 

「うーん、ならお題を変えましょう。そうねぇ……万魔殿じゃなくて、私に忠誠を誓いたくなるとかはどう?」

「京極先輩にっすか?そんな催眠かけなくても京極先輩のことは充分尊敬してますよ?」

 

京極先輩は傍から見ると催眠術にハマってるヤベーやつなのだが、こう見えて万魔殿の中では結構常識的な人物であり棗先輩の次くらいにはまともな人物だ。

それに3年生と言うこともあって頼り甲斐があるし、羽沼議長の代わりに万魔殿の皆を纏めてたりすることもあるので縁の下の力持ちと言えるだろう。

パッと見、常識人っぽく見える元宮先輩の方がよっぽどネジが飛んでいる節がある。

 

「……こういうところなのよねぇ。」

 

京極先輩は大きな胸の下で腕を組むと、何故か困ったような表情を作ってそう言った。

……何がこういうところなんだ?

 

「と言うか、通販で買った資料って言ってましたけど一体どんな資料を買ったんですか?」

 

そもそも催眠術の資料が通販で売ってるってキヴォトスの倫理観はどうなってんだよ。

……元からなかったわ。常時世紀末だもんな。

頭キヴォトスかよ。

 

「ふふふ、知りたい?」

「いや、別にそこまで興味はないですが……」

「じゃーん!」

「話聞けよオイ。」

 

前言撤回。やっぱヤベーやつかもしれんこの人。

京極先輩は自分の隣の机においてあった一冊の本を手に取ると、誇らしげにそれを俺様に差し出してくる。

まぁ出された以上スルーするのもアレだし、俺様はなんとなしにその本の表紙を覗き込んだ。

なになに……「猿でもかかる催眠術の掛け方」……?

 

「……京極先輩、遠回しに俺様を猿扱いしてます?」

「ち、違うわよ!例えに決まってるじゃないのこんなタイトル!」

「キレてもいいっすかね?」

「キレないで!?」

 

京極先輩はワタワタと慌てながらそう言う。

うーん、まぁでも京極先輩だしなぁ……催眠術の事になると途端にポンコツになるんだよなこの人。

多分悪気はないと思うけど、なんか釈然としねぇ……

 

「と、とにかく!これ読んだからには必ず成功させるわ!次はお題を替えて再挑戦するわよ!」

「まぁ座ってるだけだし俺様は別に構いませんが……」

 

ゴホンと1つ咳払いをすると、京極先輩は糸を通した5円玉を俺様の顔の前に持ってくる。

そして、それをそのまま一定のリズムでゆらゆらと左右に振り始めた。

 

「あなたはだんだんピーマンが主食にな~る……主食にな~る……」

「いやどんなお題だよ!?」

 

いや、流石にピーマンが主食はきついからやめてくれ。

口の中めっちゃ青臭くなりそう。

せめてジャガイモとかにしてくれ……!頼む……!

 

「あなたはだんだん書類仕事がしたくな〜る……したくな〜る……」

(やりたくねぇ……!)

 

何が悲しくて催眠術にかかってまで書類仕事をせにゃならんのだ。

そんなことをしなくても嫌でも書類仕事なんか好きなだけ出来るっつーの。

 

「あなたはだんだんねむくな〜る……ねむくな〜る……」

「王道のやつ来たな。」

 

モチロン眠くなんてなるはずもない。

……やっぱ催眠術って迷信か何かの類なのでは?

 

「あなたはだんだん……えーっと……」

 

おいネタ切れしてんじゃねぇか!

まだ3つしか思いついてねぇぞ!しかもそのうち1つはベッタベタなやつだし!

もうちょっと頑張ってくれよ京極先輩!

 

「あ、あなたは……」

 

そう言うと何故か顔を赤くし、小声でボソボソと何かを呟き始める京極先輩。……なんだ?突然。

 

「……あ、あなたはだんだん……わ、わわわ私のことが好きに……」

 

……なんだって?小声すぎてよく聞こえねぇが……?

俺様は京極先輩が何を言ってるかを聞き取るため、体を少し近づけた。

 

「おにいちゃーん!」

 

その瞬間だった。

俺様と京極先輩の居る部屋のドアが「バン!」と言う音を立てて開くと、元気の良い声が鳴り響いた。

この声を俺様が聞き間違えるはずもない。俺様は満面の笑みを浮かべつつ、ドアの方を向く。

 

「イブキ!」

 

そう、最愛の我が妹である丹花イブキがそこに居た。

相変わらずクリクリのおめめがキュートだぜ!

うぉぉぉイブキ最高!イブキ最高!

大天使であるイブキはドアから部屋に入室すると、そのまま一直線に俺様の元まで歩いて来た。

トテトテと歩く姿に俺様は思わず卒倒しそうになる。

俺様は椅子から立ち上がると、ぽかんとしている京極先輩を横目にそのままイブキに歩み寄った。

そして、しゃがみ込んでイブキと同じ目線に合わせる。

 

「よくお兄ちゃんがここに居るって分かったなイブキ!偉いぞ!」

「えへへ、チアキ先輩にこのお部屋でお兄ちゃんとサツキ先輩が遊んでるよ〜って教えてもらったの!」

「おぉそうか!ちゃんと元宮先輩に礼は言ったか?」

「うん!すっごく喜んでくれたよ!」

「うぉぉぉ偉いぞイブキィィ!!!さすが俺様の妹!」

 

俺様はイブキの頭に手のひらを置くと、そのまま左右に動かしてわしゃわしゃと撫で始める。

するとみるみるうちにイブキの顔には満開の笑顔が咲いた。……あかん、尊すぎて俺様死にそう。

 

「……本当に……これさえ無ければねぇ……」

「ん?何か言いましたか京極先輩?」

「いえ、何でもないわ。こんにちはイブキちゃん。」

「こんにちは!サツキ先輩!」

 

京極先輩は俺様の横までやって来てしゃがみ込み、イブキと視線を合わせるとニッコリと微笑んでそう言った。

それを見たイブキもまた笑顔で応える。

なんだここは、天国か?イブキが可愛すぎんだろ……

 

「2人は何して遊んでたの?」

「んー、遊んでたって言うか京極先輩の大事な趣味の練習にお兄ちゃんが協力してたって感じだな!」

「おー!催眠術ってやつだね!」

「そうそう!よく知ってるなイブキ!偉いぞォ!」

「もーお兄ちゃんくすぐったいよー。」

 

そうは言いつつも、ニコニコとした表情で目を細めるイブキ。

やはりイブキは天使である。異論は認めない。

 

「見てくださいよ京極先輩。イブキの愛らしさ。イブキが笑顔になればエデン条約だって速攻で締結できると思いませんか?」

「ずいぶんと大きく出たわね!?……ふふ、確かにイブキちゃんの笑顔はとっても可愛いけどね。」

「やっぱそうですよね!?京極先輩もそう思いますよね!!やっぱりイブキがナンバーワンなんだよなぁ!」

 

イブキが笑えば世界が平和になる。

はい、ここテストに出るので覚えておくように。

 

「まったく、本当にイブキちゃんのことになると人が変わるんだから……」

 

京極先輩はため息を吐きながらそう言った。

仕方ねぇじゃん。だってイブキ可愛いんだもん。

 

「そりゃ目に入れても痛くない自慢の妹すからね!何なら今から目に入れましょうか!?」

「入れなくていいわよ!?」

「お兄ちゃんの目にイブキが入っちゃったらお兄ちゃんの目が見えなくなっちゃうからダメだよ?」

「イブキ……お兄ちゃんを気遣ってくれるのか……?うぉぉぉ!俺様感激!泣いちゃう!」

「本当にこのシスコンは……」

 

京極先輩はどこか諦めたような様子でそう言葉を絞り出す。

 

「そう言えばイブキ、お兄ちゃんと京極先輩に何か用事があったんじゃないのか?」

「あ、うん!マコト先輩に二人を呼んできてくれって言われたの!」

「あら、マコトちゃんが?」

 

羽沼議長が?……一体何の用があるんだろうか。

まぁ、どうせロクでも無い事だろうがな。

 

「と言うか、あのアホ議長……イブキをパシリに使やがったな……!?」

 

なんということを……!

許さん、許さんぞ羽沼マコトォ!!!

 

「そういう事なら一緒にマコトちゃんのところまで行きましょうか、イブキちゃん。」

「うん、分かった!」

 

俺様がワナワナと手を震わせている傍ら、京極先輩はすっと立ち上がると自然な形でイブキと手をつないだ。

……仕方ない、呼び出しに応じないと後が面倒だからな。

不本意ではあるがイブキに免じてここは会長室へ向かうとしよう。

散々イブキをパシリに使ったことを突っ込んでやるから覚悟しとけよ……!

 

「お兄ちゃん!」

 

そんなことを考えていると、イブキから声がかかる。

 

「……ん?どうしたイブキ。」

「イブキの片手、まだ空いてるよ?」

 

そう言って、イブキは京極先輩と繋いでいる方とは逆の手を俺様へと差し出してきた。

……俺様としたことが、不覚だった。

イブキと歩く時は手をつなぐ、これは常識だ……!

 

「うぉぉぉすまねぇイブキィィィ……」

「えぇ……」

 

ガチ泣きし始めた俺様を見て若干引いている京極先輩を尻目に、俺様はジャケットで涙を拭うとイブキの手をしっかりと握った。

子ども特有の温かさが手の平から伝わってくる。

 

「よーし、じゃあしゅっぱ~つ!」

「おー!」

「お、おー……」

 

両手を俺様と京極先輩に握られたイブキは満面の笑みを浮かべてそう言った。

それを見た俺様と京極先輩は笑顔になりつつ、万魔殿の会長室まで3人で向かうのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「キキキ……よくぞ集まってくれたな。」

 

万魔殿の会長室。

相変わらずクソ高そうな備品で揃えられた部屋の中で羽沼議長は椅子に座り、いつものアホ面を浮かべていた。

室内には羽沼議長、棗先輩、京極先輩、元宮先輩、イブキ、そして俺様の万魔殿の主要メンバーが揃っている。

 

「マコト先輩、この面子を集めて一体何をするんですか?私サボってる途中だったんですけど……」

 

棗先輩が心底面倒くさそうな表情を浮かべて、ジト目で羽沼議長にそう抗議する。

 

「そうよマコトちゃん。私はタツミに催眠術の練習に付き合ってもらってたのに……」

「……サツキ先輩、その話詳しく。」

「え?い、イロハ?顔が怖いわよ……?」

 

何やら怖い顔をして京極先輩に詰め寄る棗先輩の横で元宮先輩はいつものテンションではしゃいでいる。

 

「いやはや万魔殿の幹部が勢ぞろいとは、これは何やら大ごとの予感がしますね!」

「いや元宮先輩。このアホ議長のことだから絶対しょーもないことっすよ。」

「おいぃ!?誰がアホ議長だタツミィ!」

「YOU」

「そのネタまだ引っ張るのか!?やめとけェ!」

 

いやだって使い勝手いいんだもんコレ。

 

「ゴホン!……まぁいい、今回集まってもらったのは他でもない。我が万魔殿を揺るがしかねない案件について議論を交わすためだ。」

 

そう言うと、羽沼議長は滅多にないほど真剣な表情を浮かべて静かに机に肘を乗せた。

先程まではどこかのんびりとした空気が漂っていたが、羽沼議長のただならぬ様子を見て空気が一変する。

 

(……ここまで真剣な羽沼議長は滅多に見ないぞ。)

 

どうせしょうもないことだとタカをくくっていたが、これは何か緊急事態でも起きたかもしれない。

俺様はゴクリと唾を飲み込む。

周囲を確認すると、羽沼議長のただならぬ様子に全員が真剣な表情を浮かべて発言を待っている様子だった。

 

「……マコト先輩。その重大な案件とは?」

「キキキ……よくぞ聞いてくれたイロハ。発表するぞ。」

 

羽沼先輩は深く息を吸い込んで目を閉じる。

そして、ゆっくりと閉じた目を開くと口を開いた。

 

「タツミが風紀委員会と仲が良すぎる件についてだ!」

 

……は?

 

「……よし、帰るか。」

「おい待てタツミ!どこへ行く!席に着け!」

「いや着ける訳ねぇだろ!なんだよそのしょーもない議題は!?少なくともそんなこの世の終わりみてぇなクソ真剣な顔で言うことじゃないだろ!?」

 

いつになくこのアホ議長が真剣なツラ浮かべてやがるからどんな緊急事態かと思ったら、マジでクソしょーもないことじゃねぇか!

そもそもこんなの議題とすら呼べねぇだろ!

と言うかやっぱりしょーもないことじゃねぇかクソァ!

そんな事で万魔殿の幹部を集めんな!

 

「……あぁ、確かにそれは一大事ですね。」

「そうね、それは前から私も思ってたのよねぇ。」

「はい!私も前々からそれは思ってました!」

「うーん……イブキもかなー?」

 

ほら見ろ、こんなクソしょーもないことで集められた先輩方も怒り心頭……ん?

おい、ちょっと待て!?

 

「おい待て待て待てアンタら!?なんでちょっと乗り気なんすか!?と言うかイブキもかよ!?」

「キキキ……やはり皆もそう思うか!」

「そうですね、私もそれは前から気になってました。」

「私も風紀委員が嫌いなわけではないけど……ちょっと仲良しすぎるわよねぇ……」

「では、まずは何から話しましょうか?」

 

ちょ、ちょっとまってくれ!

なんで普通に議論始まりそうな雰囲気なんだよ!?

こんなしょーもないことで議論したくないんだが!?

と言うか羽沼議長以外は別に風紀委員との仲そんなに悪くないだろ!?

 

「さぁ座れタツミ!今日はみっちりとお前と風紀委員の関係について洗いざらい吐いてもらうからな!」

「いやなんでだよ!?」

「キキキ……決まっているだろう……あの忌々しい風紀委員会と私の部下が仲良くしているんだぞ?詳細は把握しておかないとなぁ……?」

 

羽沼議長はギロリとこちらを睨みながらそう言う。

いや、そんな目で見られても困るんだが!?

 

「クソ!付き合ってられるか!俺様は帰るぞ!」

 

俺様はそう言って部屋から立ち去ろうとするが……

 

「お兄ちゃん。イブキ、ヒナ先輩達とどんなお話してるのか聞きたいなー?」

「うっ……わ、分かった……」

 

イブキのニッコリとした笑みを見て即座に回れ右をし、用意された席に着席した。

兄は妹には勝てないのである、諸行無常。

それにしても……い、イブキ?

なんか威圧感あるけどどこでそんなの覚えたの!?

お兄ちゃんはお前をそんな子に育てた覚えはないぞ!?

 

「キキキ……ではこれよりタツミと風紀委員の仲を洗いざらい吐かせる議論を始めるぞ。」

「いやそれ議論じゃねぇよな!?」

 

クソ、なんで俺様がこんな目に……!

 

「つーか、そもそも俺様が風紀委員と仲良くして何が悪いんですか!?」

「そんなの決まっているだろう。このマコト様が気に食わんからだ。」

「清々しいくらい個人的な理由じゃねぇか!」

 

まぁ確かに羽沼議長は風紀委員会を目の敵にしてて事あるごとに嫌がらせしてるから、自分の部下が仲良くしてんのは気に入らねぇかもしれねぇけどよ。

そもそも、俺様が風紀委員と交流しだしたのはアンタが押し付けた書類の回収で関わるようになってからなんだがな……!?

 

「ではチアキ、進行を頼むぞ。」

「はいマコト先輩!ではまずこちらをご覧ください!」

 

クソ!もうどうにでもなれ!

俺様が開き直って椅子に深く腰掛けると、進行を任された元宮先輩がカメラを操作して羽沼議長の後ろに用意されたスクリーンに1枚の写真を映し出した。

 

「これは……」

「……ほう。」

 

そこにはゲヘナの学生食堂で俺様の作った料理を笑顔で食う空崎委員長と、エプロンをして厨房を借りて料理をしている俺様が映し出されていた。

 

「ちょ、元宮先輩!?コレ盗撮っすよ!?」

「まぁまぁ細かいことは今はどうでもいいじゃんタツミくん!」

「いや良くねぇよ!」

 

もしもしヴァルキューレ公安局?

ウチに盗撮犯がいるんですけど今すぐ来れますか?

 

「あ、ちなみに私がタツミくんの写真を隠し撮ったのはマコト先輩の指示だから恨まないでね!」

「オイコラ何しとんじゃアホ議長ォ!」

「フン、このマコト様の部下が風紀委員なんぞと接触しているんだぞ?把握しておくのは当たり前だろう。安心しろ、撮影を命じたのは風紀委員絡みのみだ。」

「そういう問題じゃないんだよなぁ!?」

 

ってか、元宮先輩大爆笑しながらカメラ操作してるし絶対楽しんでるだろコレ!

クソ、後で覚えてろよマジで!

 

「さて……これはどういうことか説明してもらおうかタツミ?」

 

羽沼議長がそう言うと、その場にいる全員の視線が一斉に俺様に注がれる。

 

「……えっと、この前空崎委員長と話した時にカップ麺しか最近食ってないって言ってたので栄養バランスが心配になったんすよ。なので空崎委員長に栄養のあるものでも食ってもらおうと思いまして。」

「それで料理を作った……と?」

 

棗先輩がジト目でこちらを見つつそう言う。

俺様は額に変な汗が流れるのを感じつつ頷いた。

 

「……はい。」

「いいなーヒナ先輩。お兄ちゃんの料理すっごい美味しいんだよね!」

「すごく美味しそうに食べてるわね……羨ましいわ。」

「おのれヒナ……タツミに料理をさせるだけではなくプリンまで作らせるとは許せん!」

「いや突っ込むところそこなんかい!?」

 

いや確かにプリンは作ったけどよ……!

なんかもう突っ込むの疲れてきたんだが……!?

 

「さぁさぁこれはまだまだ序の口ですよ!続いてはこちらをご覧ください!」

 

ノリノリでカメラを操作し、次の写真をスクリーンに映し出していく元宮先輩。

ここまで来たらもう何でも来いよオラァ!

 

「……これは。」

 

続いてスクリーンに映し出されたのは、書類の山に埋もれながら印鑑を振りかぶる天雨行政官にそっとコーヒーを出している俺様の写真だった。

これは……確かこの前風紀委員に行った時に天雨行政官が3徹目って聞いたからコーヒーを出して書類の手伝いをしていた時のやつか……?

 

そんなことを考えていると、元宮先輩がカメラを操作して2枚目の写真を映した。

そこに写っていたのは、ほぼ密着するくらいの勢いで俺様に詰め寄っている怒り心頭の天雨行政官と天井を見上げながらため息を吐いている俺様の写真だった。

 

「うわぁ……これ、距離近すぎませんか?」

「ほとんど密着してるじゃないの……」

「……お兄ちゃん?」

「待て、誤解!誤解だ!」

 

俺様は机を叩いて立ち上がる。

 

「この時天雨行政官は3徹目だったんすよ!それでいつもよりも沸点が低くて、俺様の出したコーヒーが熱くて火傷したとかで詰め寄られただけですっ!」

「何ィッ!?タツミにコーヒーを淹れさせただけにとどまらず、あまつさえ文句をつけただとぉ!?おのれ、このメス犬が……!」

 

おいサラッと天雨行政官をメス犬扱いすんなアホ議長。

本人が聞いたらブチギレるぞ。

 

「と言うかサラッとコーヒー出してるんですね……?」

「しかもこの書類、タツミのサインがしてあるから仕事の手伝いもしているわね。」

「小耳に挟んだ話ですが、アコ行政官はこの後タツミくんが退室した後に何故か少し機嫌が良かったらしいですよ!」

 

うーん、この時の天雨行政官かなりストレス溜まってたみたいだし……俺様が書類仕事手伝いながら散々愚痴を聞いたからな。

少しはスッキリしたってことなんじゃないのか?

 

「さぁ続いては更に更に、こちらをご覧ください!」

 

もういい加減ツッコミ疲れてきたんだが……?

目尻に涙を溜めつつ、腹を抱えて笑いながら元宮先輩は再度カメラを操作して次の写真を映し出す。

 

「……これはタツミの同級生か?」

 

続いて映し出されたのは、ゲヘナ学園の屋上で弁当を一緒に食っている俺様と火宮の写真だった。

 

「……別にこれは弁当食ってるだけだしセーフでは?」

「いや、そもそも女子と2人で屋上なんて人気のない場所で飯を食うのはだいぶアウトだろ。」

「と言うかアコ行政官もですがチナツさんも距離が近すぎません?ほぼ密着してますよこれ。」

「ちなみにチナツさんはタツミくんと同じクラスで登下校もたまに一緒にしているみたいですね!」

「まだヒナ委員長が健全に見えてくるわね……」

 

そう言うと、この前火宮と一緒に登校した写真が映し出される。

と言うか元宮先輩どんだけ盗撮してんだよ!これマジでヴァルキューレ案件だろ!?

そんな事を思っていると、次の写真が映し出された。

 

「……何ィッ!?」

 

その写真を見た瞬間、羽沼議長が絶叫を上げた。

そこに映し出されていたのは、成り行きで風紀委員会と共に不良の鎮圧に向かった時に被弾してしまった火宮を庇っている俺様の姿だった。

これだけならまだ健全な写真に見えるだろう。

……俺様が火宮をお姫様抱っこしていなければの話だが。

 

「…………お兄ちゃん?」

「ま、まてイブキ!説明!説明させてくれ!」

 

みんなの絶対零度の視線が俺様に突き刺さる。

 

「まず、この時火宮は後方で負傷者の治療をしてたんだよ!けど前線が崩れちまって火宮達医療班も前線に立ったんだ!その時に火宮が右足に弾を食らっちまって動けなくなったから、俺様が抱えて運んだんだよ!それだけだ!それだけだからな!?」

「……へぇ、それで取った方法がお姫様抱っこだと?」

「イブキ、お兄ちゃんにそんなことしてもらったことない……今度やってもらうからね!お兄ちゃん!」

「……行政官だけかと思ったが、とんだメス猫が居たものだな。」

「見てくださいチナツさんの顔を!顔が真っ赤で完全にメスの顔をしてますね!」

 

おいサラッと火宮をメス猫扱いすんなアホ議長。

後メスの顔って何……?この……なに?

つかこれは成り行き上仕方なかったんだっつーの……!

 

「マコト先輩、これはもうタツミに首輪を付けた方が良いのでは?」

「奇遇だなイロハ。私も同じことを思っていた所だ。」

「いや何物騒なこと言ってんだよ!」

 

なんでそんな飼い犬みたいな事されなきゃいけねぇんだよ!束縛は趣味じゃねぇぞ!?

 

「では、最後にこちらの写真です!」

 

そう言うと、元宮先輩曰く最後らしい写真が映る。

そこには盾を構えて攻撃を防ぎながら歯を剥き出しにして好戦的に笑う俺様と、銃を構えながら同じく好戦的に笑う銀鏡先輩の姿が映っていた。

これは……いつかの模擬戦の様子だろうか?

 

「……なんというか、健全ですね。」

「健全ね。」

「健全だな。」

「わー!お兄ちゃんもイオリ先輩もかっこいい!」

「お、そうか?そんなに褒められると照れるなぁ……」

 

しかし、見れば見るほど普通に模擬編をしているだけの写真にしか見えないんだが……?

何か問題あんのかコレ……?

 

「これはタツミくんがよくイオリさんに頼んでやってもらっている模擬戦の様子ですね!この後も張り込みましたが特に何事もなく終了してました!」

 

おい、今サラッと張り込みっつったかこの人。

と言うか元宮先輩のステルス力どうなってんだよ……

俺様全然気づかなかったんだが……?

 

「……まぁこの突撃隊長はいいだろう。アホそうだし。」

「そうですね、アホそうですし。」

「そうね、アホそうだし。」

「そうですね!猪ですし!」

「アンタら全員銀鏡先輩にシバかれて来い!」

 

銀鏡先輩は少なくともアホではないぞ!

まぁ確かにちょっと猪気味なところはあるけど……!

後輩の面倒見とか良かったりするんだからな!

それに銀鏡先輩は気安く接してくれるし、こちらとしても気を使わなくていいから楽なんだよな。

なんと言うか、男友達みたいな感じって言えば良いんだろうか?

 

「写真は以上ですね!」

「さて……ではタツミ、詳しく説明してもらおうか?」

「いや、詳しくも何もさっきから説明してただろ!?」

 

これ以上何を説明すりゃいいんだよ……!

そもそも何の時間だよこれ!拷問か何かなのか……!?

 

「と言うか、これはもう仲が良いってレベルを超えていないかしら……?」

「それは確かにそうですね!特にチナツさんは私的に一番危険な気がします!」

 

危険ってなんだよ!?火宮はいいやつだぞ!?

 

「さぁタツミ、説明してもらうぞ!」

「勘弁してくれ……!」

 

このあとめちゃくちゃ尋問された。

 

なお、覚悟していた風紀委員との接触禁止令等は特に出ずに今以上に万魔殿の仕事等に力を入れるようにと言われその日は解散となった。

まぁ風紀委員には羽沼議長の押し付けた書類の回収に今後も行く予定だから、仮に接触禁止令が出されていてもガン無視するつもりではあったけど。

 

ちなみに弁解という名の説明をしている間、イブキはいつの間にか俺様の膝の上に乗って絵を描いていた。

そのあまりの可愛さに全員が昇天しかけていたのは……まぁ言うまでもないだろう。

万魔殿はイブキ大好きクラブだからな!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そう言えばマコト先輩に頼まれて風紀委員と居る時のタツミくんの写真を撮ってて気づいたんだけど……」

「どうにも私以外にもタツミくんをこっそり尾行してる人がいる気配を感じたんだよね、どこの誰かまでは分からなかったけど。」

「……これはもう少し調査する必要があるかな?」




次回も恐らく日常会の予定です
アビドス編はもう少しお待ち下さい
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