大変励みになっております!
「まさか本当に生活安全局の生徒たちだけでSRTを制圧するとは……」
そう言って目の前に拘束して正座させられたRABBIT小隊を眺めながら、目を丸くして驚く尾刃局長。
その隣では清々しいほどのドヤ顔を浮かべた中務とやりきった表情をした合歓垣と、そんな彼女達を頷きながら見守る先生と言った光景が広がっていた。
その他の生活安全局の生徒達も本部の周りで歓喜の声を上げており、辺りはとても騒々しい。
さて、RABBIT小隊との激戦からしばらくが経つ。
結果から言えば、先生を初めとした俺様や生活安全局の皆はRABBIT小隊の4人全員を拘束することに成功した。
まず、あれから俺様の号令により空井と風倉の操縦する戦闘ドローンが守っているバリケードに突撃を決行した俺様と生活安全局の生徒達。
彼女達は戦闘用ドローンの銃撃で怪我を負いつつもバリケードに取り付き破壊を開始。
当然そうはさせまいと空井が阻止しようと銃を構えてきたが、俺様は単独でバリケードを乗り越えてRABBIT小隊の陣地である子ウサギ公園の中へ突入。
そのままの勢いで周囲の戦闘用ドローンを叩き落し、空井に近接戦をしかけた。
空井の格闘戦の技術は流石SRTで仕込まれているだけあって中々のものだったが、やはり良くも悪くも基本に忠実なため次に打ってくる手段は見え見え。
普段から鹿山先輩と格闘戦をしたり、空崎委員長と模擬戦を行なっている俺様の敵ではなくブークリエのストックで空井のヘルメットを叩き落して彼女を拘束。
そのままの勢いで俺様と生活安全局の生徒達はRABBIT小隊の本拠地のテントへ強襲。そこで戦闘用ドローンを操っていた風倉も拘束することに成功した。
続けて、そこへ狙撃手である霞沢を拘束した先生と合歓垣達の部隊が到着して合流。
最後に残ったRABBIT小隊の部隊長、月雪ミヤコに対して完全包囲を敷いて武器を置くように投降を呼びかけた。
月雪は最初は投降するか悩んでいたが、やがて決意したような表情を浮かべると抵抗を始めてきた。
半ばヤケクソじみた月雪は目を吊り上げながら包囲した生活安全局の生徒たちへ攻撃を開始したが、そこへ中務の放った銃弾が月雪の急所へ命中。
膝を付いたところを飛びかかって抑え込み拘束した。
なおその際、何故か銃を撃った中務本人は大口を開けて固まっていたのだが……お前が撃ったんだからそんな顔をする必要はないと思うんだけどな?
まぁそれはともかく、こうしてRABBIT小隊との戦いは生活安全局の生徒達に軍配が上がる形となった。
そして勝利に歓喜の声を上げる生活安全局の生徒とともにヴァルキューレの即席の本部へ帰還した俺様達は拘束した4人を尾刃局長へ突き出し、今に至る。
“キリノもフブキもタツミも皆頑張ってくれたからね。”
「なるほど、これが先生のお力ですか。しかもその上姿勢も謙虚と来るとは……生徒達の噂もまた本当だったということですね。」
尾刃局長は感心したようにそう呟くと、先生に向き直ってその金色の頭を深々と下げる。
「この度は我がヴァルキューレ警察学校へのご協力、ありがとうございました。感謝致します。」
“ううん、何度も言うけど私はちょっと指示をしただけ。実際に戦ったのは生活安全局のみんなと、タツミだからね。お礼なら彼女達に言ってあげてほしいな。”
「……いやはや、先生には敵いませんね。分かりました。後で私から彼女達にはしっかり礼を言っておきます。」
“うん、きっとキリノやフブキも喜ぶよ。”
そんなやり取りをしつつ、互いに顔を見合わせながら笑顔を浮かべる先生と尾刃局長。
尾刃局長、笑うと結構印象が変わるんだな。何と言うかその方が親しみやすいような感じがするが……
「タツミ。」
そんな事を考えていると、いつの間にか尾刃局長は俺様の目の前へとやって来て声を掛けてくる。
「この度は我がヴァルキューレ警察学校への協力、誠に感謝する。ありがとう。」
「いえ、このくらいお安い御用ですよ。それに先生も言ってますが戦ったのは主に生活安全局のみんなで、俺様はちょっとそのサポートをしただけですからね。」
「……いや、常に最前線で体を張り続け生活安全局の築いた陣形をほぼ1人で守り、その上空井をタイマンで制圧したのをちょっととは言わんぞ。」
「ま、まぁそんな事はいいじゃないですか!それよりも生活安全局の皆は俺様の目から見ても市民を守るために勇気を振り絞って必死に戦ってくれてました。あとでいっぱい褒めてやってくださいね。」
「……あぁ、あいつらにも根性があったんだなと言う事を痛感したよ。使えないバカ呼ばわりしたことを詫びなければならないな。」
大はしゃぎする中務と合歓垣や、傷だらけでも楽しそうに笑っている生活安全局の生徒達を温かい目で見つめながら尾刃局長はどこか優しい声でそういった。
初めて会ったときは生活安全局の事をどこか軽視しているような発言をしていた彼女だけど、やはり部下が活躍してくるのは嬉しいのだろう。
しかも、今回は戦闘に不慣れである生活安全局の生徒達が恐怖をこらえて市民を守るために立ち上がったわけだからな。尾刃局長としても誇らしいだろう。
「見ましたか先生!タツミさん!私の完璧な射撃!」
そんな事を考えていると、俺様と尾刃局長の横ではしゃいでいた中務が満面の笑みでそう言葉をかけてくる。
……一人称が本官ではなく私になっているあたり、相当嬉しかったんだろうなという事は伺えるな。
いや、でも中務の射撃って狙って当てたと言うよりは月雪が避けようとしたところへ弾丸が吸い込まれていったような気がするんだが……
まぁ本人は嬉しそうだし、水は刺さないでおくか。
「まさに警備局の皆さんのような、鮮やかな一撃でした……!」
「私も頑張ったからねー。ふふっ、これはもういっぱい特別休暇をもらえるんじゃないかな。」
そう言って笑顔を浮かべる中務と合歓垣。
「……はぁ。」
そんな彼女達を見て、尾刃局長は軽くため息を吐く。
「貴様らの殊勝は認めよう。しかしそれは私のような立場に決められることではない。もっと上層部の方々の管轄だ。」
渋い顔をしつつ、そういう尾刃局長。
……あれ、尾刃局長ってヴァルキューレで一番権限のある公安局のトップだから実質ヴァルキューレのトップなのかと思ってたけどそうでもないのだろうか?
「だがまぁ……勇気を振り絞って市民を守った貴様らの活躍は称賛に値するだろう。ご苦労だった。報酬については来月の賞罰の発表を待つように。」
「何だ、すぐ貰えるわけじゃないのか……」
「ですが来月なんてもうすぐです!もしかしたら本当に警備局に……!」
「いやー私はそっちはいらないかなぁ。」
尾刃局長の言葉を聞き、露骨に落ち込む合歓垣と期待に胸を膨らませる中務。……本当に対照的だなこの2人。
まぁでも、彼女達が市民のために体を張ってRABBIT小隊へ立ち向かったのは紛れもない事実なんだ。
その功績が認められて、こいつらにはきちんとした報酬が与えられることを祈っておこう。
「あんな頭の悪そうな奴らに私達が……?」
「お前が言うな。弾薬を一気に使い果たすなんて相当頭の悪い行動をしたくせに。」
「何言ってるのさ!一瞬の輝きより大事なものなんてないっての!」
そんな事を考えていると、何やら尾刃局長の前で正座をさせられているRABBIT小隊の空井と風倉が言い合いを始めている光景が目に入ってきた。
……いや、それで負けてちゃ世話ないだろ風倉。
流石にこればっかりは空井に同感だな。
「もう終わりなんだ……SRTも、RABBIT小隊も、私も……全部奪われて寂しく消える運命なんだ……」
この世の終わりのような表情を浮かべ、今にも消えてしまいそうな雰囲気を醸し出しつつそう嘆く霞沢。
……そういや、空井や風倉と戦っているときに俺様はこいつの気配を常に気にするようにしていたんだけど時々追いきれなくて勘だけで狙撃を防いでいたんだよな。
ある意味では先の戦いではコイツに一番苦しめられたと言っても過言じゃない。
もしかしたらこいつは狙撃術が優秀なだけじゃなくて気配を消すことに長けているのかも知れない。
……しかし槌永と言い霞沢と良い、どうして狙撃術ってのはこうネガティブな奴が多いんだろうな。
まぁ、羽川先輩とかは別にネガティブではないけど。
「……」
“やぁこんにちは。君達がSRT特殊学園のRABBIT小隊のメンバーだよね?”
俺様が霞沢を見つめながらそんな事を考えていると、いつの間にかRABBIT小隊の目の前まで近寄って正座している彼女達に目線を合わせるためにしゃがみ込んだ先生が4人に対してそう声を掛けていた。
「なんだ?お前と話すことなんて1つもない!」
「なになに冷やかし?それともバカにしに来たの?」
先生に声を掛けられた空井と風倉はそう言うと、目を吊り上げ眉間にシワを寄せると不快感を隠そうともせずに言葉を吐き捨てる。
そんなあからさまに不服そうな態度を見せる2人を横目に部隊長である月雪は無表情で先生を見つめると、やがて口を開いた。
「……貴方があの生活安全局を指揮した大人ですか?」
“うん、そうだよ。私はシャーレの先生。よろしくね。”
先生はそう言って月雪に右手を差し出すが、月雪は先生の手を一瞥すると不快そうな表情を浮かべる。
「そうですか。貴方があの多くの生徒達の悩みを解決し生徒達から信頼されている超法的捜査権を持ったシャーレの先生……」
月雪はそこで言葉を一旦区切ると、一旦顔を伏せる。
そして次に顔を上げた月雪の表情は……先生のことをまるで親の仇かと言わんばかりの憎悪に染まっていた。
「先生。私達は貴方のような大人が一番嫌いです。」
……なんだと?
「地獄へ落ちろ。」
「もう二度と会わないだろうね。」
月雪の言葉を皮切りに、これ幸いとばかりに次々と罵声を浴びせるRABBIT小隊の面々。
そんな中で霞沢だけは変わらず小さくなって何かをぶつぶつと呟いているが……まぁそんな事はどうでもいい。
“うーん、元気だ。”
「気にする必要はありません。負かされたことでイライラしているんでしょう。」
あぁ、全く持ってその通りだな。
これだけ減らず口を叩けるのであればこいつらの心はまだ折れていないはず、慰めは必要なさそうだ。
……けど、流石に今のはラインを超えている発言だろう。
とてもじゃないが、見逃せる行為ではない。
そう考えた俺様はRABBIT小隊に物申すために一歩前へ出るが、俺様の思考に気づいた先生が声を掛けてくる。
“……タツミ。私は気にしてないよ。”
「そういう問題じゃねぇよ先生。アンタの事だからどうせこいつらの事は許してやるんだろ?それ自体は構わないけど、ここでこいつらを甘やかしちまうのは違う。」
理由はどうあれ、こいつらは市民の使う公共の設備を占拠して周囲に危害を加えようとしたテロリストだ。
反省する姿勢を見せているならともかく、こんなふうに開き直っているならば誰かがしっかり叱ってやらないといけないだろう。
じゃないとこいつらは勘違いしたままになってしまう。
“それは……”
「時には厳しく接することも大事だぜ?まぁ今回は俺様が憎まれ役を引き受けとくから、先生はそれが終わったらこいつらをフォローしてやってくれ。それに……今はあまり言葉を選べそうにないからな。」
“……うん、分かった。お願いねタツミ。”
「おう、任せとけ。」
苦笑いを浮かべつつ、俺様は先生にそう言った。
先生もそんな俺様の意図を汲み取ってくれたらしく、そう言って頷くと一方後ろへと下がる
そう、俺様は表面上は平静を装っちゃいるけど内心はわりかし腸が煮えくり返りそうになっている。
そりゃそうだろう、こいつらは自分達の行いを反省する姿勢を見せずに手を差し伸べた先生に対して嫌いだの地獄へ落ちろだのと罵詈雑言を浴びせたんだ。
信頼している先生をそんな風に貶められては、こっちだって黙っているわけには行かない。
文句の一つや2つくらいは言ったって許されるだろう。
それに……
俺様はゲヘナ所属だ、憎まれるのには慣れているしな。
「おい、RABBIT小隊。」
心のなかで思考を整理した俺様はRABBIT小隊の前へ歩み出ると、なるべくドスの利いた声を出した。
「貴方はゲヘナ生……?」
「……なんかゲヘナの議長代理らしいぞ。クソ!今回は遅れを取ったけど次は絶対負けないからな!」
「ゲヘナの議長代理?何故そんな人がこの場に……まぁ、今はそんなことはどうでもいいですね……何です?貴方も私達を笑い者にしに来たのですか?」
「違うわバカタレ。はぁ……あんまこんな説教じみた事は言いたかねぇんだけどよ。」
月雪はこちらに対して憎悪のこもった視線をぶつけてくるが、俺様は全く怯むこと無くその目を睨み返すと静かに口を開いた。
「お前ら、自分達が何をしてんのか分かってるか?」
淡々と俺様はそう言い放つ。
「お前らは勝手にSRTの装備を持ち出して、それを使って鎮圧しに来たヴァルキューレを攻撃した。しかもここはDU地区の市街地のど真ん中だぞ?爆撃や銃撃の流れ弾が周りの建物や民間人に当たってた可能性もある。」
「それは連邦生徒会がSRTの閉校を取り消せばいい話だろうが!そうすれば私達はデモを行う理由がなくなる!」
「舐めたこと抜かしてんじゃねぇ。一度議会で通った法案をそう簡単に覆せるわけがねぇだろうが。」
空井がまくしたてるように噛みついてくるが、俺様はその言葉を切って捨てる。
そう、議会で賛成多数で通った法案を今更白紙にしますなんてのは莫大な手間と人手が必要になってくる。
なので、俺様も万魔殿の議会で法案を通す時にはこれでいいのか何度も何度も確認しているくらいだからな。
「なぁRABBIT小隊。お前達はSRTなんだよな?犯罪を犯した生徒を鎮圧する特殊部隊なんだよな?」
「当たり前です。」
「そうか。ならハッキリ言うぞ。今のお前らのやってることはテロリストと何ら変わらない。」
「なんだと!?」
「聞き捨てならないね、私達がテロリストだって?」
「あぁ、お前達はテロリストだ。市街地のど真ん中を占拠して周囲に民間人がいるのに銃やミサイル、爆弾を使って多大な被害を出した。幸い民間人に怪我人は出なかったけど、下手を打てば救急搬送される市民がでていても何らおかしな話じゃなかったんだぞ?」
まぁ民間人に怪我人が出なかったのはひとえに生活安全局のみんなのおかげだから、本当に彼女達には感謝してもしきれないけどな。
「自分達の要求が通らないからって所属元から勝手に違法な火器を持ち出して、要求を飲めと武力で脅す。これのどこがテロリストじゃないっていうんだ?」
「そ、それは……」
「いいか、お前達がやってるのは単なるワガママだ。自分達の思い通りにならないからって、地面に寝転がって手足をばたつかせて駄々をこねるクソガキと同じだ。」
俺様は彼女達の目を見据え、言葉を続ける。
「RABBIT小隊。お前らは本来ならお前達が鎮圧すべき対象に成り下がってる。だから、少なくともこの状況下での言い分は圧倒的にヴァルキューレが正しい。百人中百人に聞いてもそう言うだろう。結果的にだが、お前達は自分達のやったことによってSRTの廃校もやむなしって印象を世間に植えつけちまったんだぞ?」
「はいはい。もうそういうのいいって。それに拘束するときにどさくさに紛れて私にセクハラしてきたやつに言われても説得力ないっての。」
「……は?いつ俺様がお前にセクハラしたよ風倉。」
「私を拘束するときに胸とか触ってきたよね?」
「あ、あれはお前が暴れるからやむを得ず押さえつけたときにちょっと当たっちまっただけだろ!しかも触れちまったときに謝ったじゃねぇか!」
「それでも触ったのは事実じゃん。やーいこの痴漢。スケベ。変態。たらし。スケコマシ。女の敵。」
「……先生すまん、こいつぶん殴ってもいいか?」
“うん、気持ちはわかるけどやめようねタツミ。”
ニヤニヤしつつこちらを見てくる風倉に対して拳を作りながら先生にそう問うが、先生は苦笑いを浮かべつつそう言った。
……なら今回は先生に免じて許しておいてやるとしよう。
「とにかく、お前らにはお前らの信念があるのは分かってる。こんな大がかりなことをたった四人でやったんだ、相当の覚悟がないとこんな事はできないはずだ。」
そもそも閉校に納得がいかないからってSRTの違法な火器類を勝手に持ち出して公園でテロを起こすなんて、よほど覚悟が決まってないと出来ることじゃない。
まぁこいつらが1年生で勢いだけはあるってのも影響してるんだろうけども。
「俺様はお前たちの信念を否定はしない。そもそも興味ねぇしな。だが、こんな下手をすれば民間人に被害が及んでいたかも知れない行動を肯定するつもりもない。」
そりゃ俺様だっていきなり母校が閉校になるから、他の学校へ転校しろって言われたら納得は行かないだろう。
彼女達のその気持ち自体は理解できるものだ。
けど、だからってこんな方法を取るのを肯定するわけには行かない。
今回は生活安全局のおかげで市民に被害は出なかったけど、被害が出ていた可能性はあるんだから。
「で、この騒動の責任は一体誰が取るんだと言われればそれは連邦生徒会。引いては七神代行だろう。」
「いえ、責任は隊長である私にあります。」
「確かに現場じゃそうかも知れないけど、世間はそれじゃ納得しねぇんだよ。きちんと肩書のあるお偉いさんが公共の場で謝罪する必要があるんだ。お前の謝罪だけで収まるような問題じゃねぇんだよ。」
「そ、そんなの理不尽じゃありませんか!」
「あぁそうさ、理不尽だ。けどな、これが世の中ってやつなんだよ。それに部下の責任ってのは基本的には上司の責任だ。身に覚えのない事で頭を下げなきゃいけないことなんざいくらでもある。だけど、上に立つならやらなきゃいけない。それが上に立つ者の責任だからだ。」
俺様も議長代理になったから分かるようになったけど、上の立場の人間ってのは謝罪する機会が非常に多い。
部下の失敗、政策への不満、予算の承認が降りないなどなど……何かにつけて謝罪をしている気がする。
で、当然だけど謝罪するのにはエネルギーが要る。
そりゃそうだろう、謝罪ってのは基本的には怒り心頭の相手に対して行うものだ。
罵声を浴びせられたり、ひどい時には無視されることもあるけどそれでも頭を下げなきゃいけない。
何故なら、それが人の上に立つという事だからだ。
なので、恐らく今回のRABBIT小隊のテロが起こった件に関しては連邦生徒会長が失踪している今は代行を行っている七神代行が謝罪をしなければならないだろう。
また七神代行の胃が破壊されちまうなこりゃ……帰って報告する際に追加で胃薬を渡しておくとするか。
「で、お前らはSRTの廃校を決めた連邦生徒会に不満があるからデモを起こしたんだよな?そのデモが失敗して尻拭いを恨んでるはずの連邦生徒会にしてもらうって……一体何がしたい?それに廃校の反対を訴えるならもっと他に方法がいくらでもあっただろ。それこそ、先生に頼む方法だってあったはずだ。」
先生をちらりと見つつ、俺様は言葉を続ける。
「それに七神代行だってSRTを解体するのは本意じゃないはずだ。けど、今の指揮官を失った状態のSRTはあまりにも危険ってのは理解できる話だからな。」
「黙れ!口だけなら何とでも言えるだろう!他人事だからって無責任なことを言うな!」
「無責任なテロを起こしたやつに言われたくねぇな。」
「なんだと!?」
「そもそも悪いことをしたらごめんなさいだろ。いくら廃校に納得がいかないからってこんなことをしといて、反省の一つもないのはどうなんだ?そんなんだとそのうち誰もSRTを支持してくれなくなっちまうぞ?」
ワーワーと騒ぐ空井を横目に、俺様は月雪の目を見る。
「……なぁ月雪。お前達の廃校に納得が行かないって気持ちは理解出来るよ。俺様だってゲヘナが突然廃校になるなんて聞いたら納得がいくわけがないからな。」
「今更同情ですか?貴方に同情されたとしても、私達の思いが変わることはありませんよ。」
「同情なわけねぇだろ。気持ちは分かるって言ってるだけだ。だからお前たちの気持ちを否定はしないし、間違ってるとも言わない。けど、お前たちの今回起こした行動だけは……流石に間違ってるんじゃないのか?」
月雪の目を真っ直ぐに見据え、俺様はそう言った。
「俺様はSRTの事は良くわからんが、本来秩序側ってことはお前達は正義のために戦う部隊だったはずだ。」
「……!!!」
「だから、お前達が今やってることが本当に正義だってんなら……その考えは改めたほうがいいだろうな。」
俺様の正義という言葉に対して目を見開く月雪を尻目に俺様はRABBIT小隊へとくるりと背を向けた。
「私達の……正義は……」
「……俺様が言いたい事はそんだけだ。好き放題って悪かったな。ま、どうせお前らはこれからヴァルキューレに連行されて留置所かどっかに入れられることになるだろうからそこで頭を冷やしとけ。お前達が持ってる力は強大だ。SRTならもっと力の振るい方を考えるんだな。」
俺様はそうとだけ言うと、そのままRABBIT小隊の元から離れて先生の元へと歩み寄った。
「……悪いな先生。ちょっと熱くなっちまった。」
“ううん、本来なら彼女達を叱るのは私の役目。汚い役を引き受けてもらってごめんね。”
「構いやしねぇよ。それに先生にはあいつらを導くっていう大事な役目があんだろ?ならキッチリ導いてやってくれ。それにさっきはああ言ったけど……あいつらが気の毒なのは確かだからな。」
“……うん。分かった。任せて。”
先生は大きな胸を叩きながら笑顔を浮かべると、力強くそう言い放った。なら、もう心配ないだろう。
RABBIT小隊のことはあとは先生に任せておけば良い。
“カンナ、この子達はこれからどうなるの?”
「そうですね。まずは取り調べからになるでしょう。普段ならその後にヴァルキューレが処罰を決める流れなのですが……ある程度連邦生徒会が関わりましたのでそうはなりませんね。恐らく防衛室長が処罰を決める流れになるかと。」
先生と尾刃局長は顔を見合わせ、そうやり取りをする。
……まぁそうなるだろうな。SRTは本来であれば連邦生徒会長直属のエリート部隊かつ、権力自体もヴァルキューレよりは上の立場にある組織だ。
そんな組織の処遇をヴァルキューレで決められるはずはないだろう。
しかし、防衛室長と言えば……あのいつもニコニコしているピンクの髪の小柄な女性だったような気がする。
名前は確か……不知火カヤ防衛室長だったかな?
連邦生徒会長へ赴いたときに数回軽く挨拶を交わしたことがあるんだけど、とても人当たりの良い気さくな人だったってイメージが有る。
彼女ならば、RABBIT小隊が自分達の行いをしっかり反省するなら厳罰を与えるような真似はしないだろう。
それに先生もいることだしな。
ただやったことがやったことだから、最低でも社会奉仕活動位はやらせて欲しいところではあるが。
そして、もしも自分達のやったことを反省せずに開き直りを続けるようならばもう問答無用で矯正局行きにしてもらっても俺様は別に構わない。
連中の気持ちは理解できるが、情状酌量の余地はあるけどそれはあくまで自分達の行いを反省した場合のみ。
そうじゃない場合は容赦なんて必要ないからな。
ただ、あの防衛室長。
俺様の見立てだと、なーんか裏がある気がすんだよな。
何と言うか、胡散臭いっていうか……
……まぁ対して交流したこともない相手に対してそんな事を言うのも失礼だな、やめておくとしよう。
「ご希望でしたら、取り調べの様子を見ることも可能かと思います。」
“分かった。それじゃあ同席させてもらおうかな。”
「分かりました。それでは早速ですが、彼女達を連れて一度署へ戻るとしましょう。」
そう言うと、尾刃局長は地面に正座させられたRABBIT小隊を立たせるように生活安全局の生徒へ指示を出す。
それを聞いた生活安全局の中務や合歓垣は彼女達を立たせると、そのままヴァルキューレの本部へ向かって彼女達を歩かせて連行を始めた。
「先生、この後はヴァルキューレに行くのか?」
“そうだね。カンナから取り調べの様子を見てもいいって言われたし、せっかくだから行って来ようかな。RABBIT小隊の子達も心配だしね。”
「分かった。なら、俺様はこのままサンクトゥムタワーに行って今回の件を七神代行に報告してくるよ。」
RABBIT小隊の連中を心配そうな目で見つめる先生に対して、俺様はそう言った。
今から防衛室長がヴァルキューレに来るとは言え、流石に七神代行には直接報告したほうが良いだろうからな。
モモトークでやり取りしていて分かったけど、七神代行はああ見えて結構心配性なところもあるので無事に鎮圧できたことはなるべく早めに知らせてやんないと。
“助かるよ。申し訳ないけど、お願いできるかな?”
「おう、任せとけ!」
さて、そうと決まれば善は急げだ。とっととサンクトゥムタワーへ戻って七神代行に報告しに行くとしよう。
そう考えた俺様はブークリエからマガジンを抜き、チャージングハンドルを引いてチャンバーの中身を空にしてベルトを体に通して背中へと背負った。
「……タツミ。今回は我がヴァルキューレへの多大な助力、改めて感謝する。」
俺様がそうこうしていると、尾刃局長がこちらへ歩み寄ってくると声を掛けてくる。
「お気になさらないでください尾刃局長。このくらいお安い御用ですよ。」
「……フッ。先生といいお前と良い、本当に謙虚なんだな。もう少しくらいは誇ってもいいんだぞ?」
「いえ、頑張ったのは生活安全局の皆ですからね。俺様はただ彼女達の手助けをした、それだけですから。」
RABBIT小隊を連行していく生活安全局の面々を見ながら俺様はそう言った。
彼女達の表情は明るく笑顔に満ちており、RABBIT小隊を鎮圧したことで自身をつけたんだろうなと言う事が伝わってくる。うんうん、実に良いことだな。
「……なるほど。先生がお前を信頼している理由が分かった気がするよ。」
「え?それってどういう……」
「あっ、タツミさん!」
尾刃局長の意味深な言葉に俺様が戸惑っているとRABBIT小隊を連行する生活安全局の列の中から中務と合歓垣がこちらへやって来た。
「この度は本官達へのご協力ありがとうございました!おかげさまでこうして無事にSRTの皆さんを鎮圧して、市民の皆さんをお守りすることが出来ました!ありがとうございます!」
「いやいや、尾刃局長にも言ったけどRABBIT小隊を制圧できたのは中務や合歓垣達の頑張りがあってこそだ。俺様はちょっと手伝っただけだからな。」
そう、今回RABBIT小隊に勝てたのは先生の作戦もあるだろうけど中務が防御陣形の中で皆を励まして耐え抜いたり、合歓垣がキッチリと霞沢を無力化してくれたおかげだからな。
そのおかげで俺様も目の前の相手に専念出来たわけだし彼女達には感謝しかない。
「いや〜ほんとに謙虚だね。タツミはキリノ達の前で1人で盾を構えて攻撃を防いで陣形の崩壊を防いだり、敵のポイントマンを1人で制圧したって言うのにさ。」
「そういう合歓垣だって霞沢を無力化したし、中務に至っては月雪に射撃を当てて制圧しただろ。挙げた手柄に関しては2人の方が上だろうよ。」
「そんなことはありません!それにタツミさんの格闘術はSRTの方にも負けていませんでした!本官は元々は警備局志望なので、是非参考にさせていただきます!」
笑顔を浮かべてそう言う中務と、眠そうながらもどこか充実した表情を浮かべつつそう言う合歓垣。
「生活安全局の皆さんも、一緒に戦ってくれて本官たちを認めてくれたタツミさんに感謝してると言っていました!今後DU地区へいらっしゃることがあれば、是非生活安全局まで遊びに来てください!」
「ま、ドーナツとコーヒーくらいなら出してあげられると思うし遠慮なく遊びにおいでよタツミ。」
「分かった、是非行かせてもらうよ。ありがとな中務、合歓垣。」
俺様と中務と合歓垣はお互いに固く握手を交わすと、そのままRABBIT小隊を連行する生活安全局の生徒の列の中へと小走りで戻っていった。
「じゃあRABBIT小隊への尋問は先生と尾刃局長に任せるぞ。俺様は今から連邦生徒会へ戻って、七神代行に事の顛末を報告してくるよ。」
“うん、よろしくお願いね。タツミ”
「おう!任せとけ!」
こうして生活安全局の生徒に連行されていくRABBIT小隊を見送った俺様は、先生と解散して事の顛末を報告するためにサンクトゥムタワーへ向かうのだった。