転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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連邦生徒会へ戻ってきたタツミのお話です


七神リンと丹花タツミ

「という訳で、以上が現場で起こったことですね。」

「……頭が痛くなりそうですね。」

「まったく同感ですね。」

 

あれからヴァルキューレの本部へ向かう先生を見送った後にサンクトゥムタワーへとんぼ返りし、七神代行に現場で起こったことを全て説明し終えた俺様。

目の前で椅子に座った七神代行は俺様の話を聞くと、額に手を当てて深いため息をついた。

 

「それはともかく、ありがとうございましたタツミ議長代理。本来なら私たちで解決しなければならない問題をお任せしてしまって……」

「いえ、七神代行だってお忙しいでしょうから気にしないでください。このくらいお安い御用ですよ。それに解決できたのは先生や生活安全局のみんなのおかげですからね。俺様は特に何もしてませんし。」

「……いや、先生から聞いた話では生活安全局の生徒達を守りながら戦っていたとのことではないですか。充分に活躍していますよ、ありがとうございました。」

 

俺様が胸を拳で軽くコンコンと叩きながらそう言うと、七神代行は少しだけ笑みを浮かべてそう言った。

 

「……しかし、SRTの廃校の件なんですけどなんとかなりませんかね?確かにRABBIT小隊の連中のやったことはテロ行為ですけど、彼女達の納得できないって気持ちも俺様は理解できます。」

 

まぁあんなことをしでかしておいて、反省の色が微塵も見られないのは全く擁護できないけどな。

ただ、気持ち自体は理解できなくもないからヴァルキューレの取り調べや先生からのお説教を得た上でしっかり反省するのであればSRTの再建は考えてもいいだろう。

そう、反省するのであれば……な。

 

「それは……確かにそうですね。SRTの閉鎖は彼女達からすれば突然日常を奪われたも同然の行為ではありますから、私としても気の毒に思ってはいます。」

「難しいとは思いますが、シャーレに一時的にSRTの指揮権を任せるとかは出来ませんか?シャーレの先生は元々は連邦生徒会長が呼び出した人物ですし、連邦生徒会長直属の部隊の権限を失踪している間だけ預かったとしても特に問題があるとは思いませんが……」

「私もそれは考えたのですが、とあるグループから猛反対を受けまして……なんでも、ただでさえデタラメな程の強権を持っているシャーレに更に私兵としてSRTを与えてしまうと、キヴォトスのパワーバランスが大きく崩れてしまうとかで。」

 

七神代行は渋い顔をしてそう言った。

……まぁ、言わんとせんことは分からなくもない。

 

シャーレは失踪した連邦生徒会長が設立した組織でそこの顧問である先生はどんな学校の自治区の問題にも無条件に介入でき、必要とあらば自治区内での戦闘行為も認められ、更には多彩な自治区の生徒をシャーレの権限で収集して混成部隊を編成しその部隊を用いた戦闘を行うことも許されていると言う改めて聞くとあまりにもめちゃくちゃな強権を持っている組織だ。

そのめちゃくちゃさは最早法を超えた無法と言ってもよく、間違いなく悪用されれば各自地区が一瞬で滅びかねないほどの危険なものであることは間違いない。

 

だから、恐らく反対派の連中はそんな組織に私兵として動かせる戦力を与えることを嫌がっているのだろうと考えるのが妥当だろう。

まぁそれは確かにその通りではあるかもしれないけど、例えSRTの指揮権を先生が握ったところであの人がその力を間違った方向に振るうかと言われればそんな事は絶対にないと言い切っても良い。

 

あの人は生徒を助けるためなら自分のことなんて二の次どころかどうなったっていいって考えるほどの、一歩間違えたら狂人とも言って良いほどの聖人だ。

SRTの指揮権を委任されたところで、彼女達を助けるために任務を与えこそするだろうけどその力を自分の私利私欲のために使うなんて神に誓ってあり得ないだろう。

と言うか、もし先生がそんな事を企むような人物であれば既にキヴォトスは滅んでいるだろうからな。

 

「七神代行。先生はそんな人では……」

「えぇ、タツミ議長代理の仰りたいことは理解できます。先生は私利私欲のためにSRTを動かすような欲にまみれた大人ではありません。そのため、その事を私も訴えたのですが彼女達は「大人など信用できない」の一点張りでして……」

 

……まぁ確かに俺様や七神代行は先生と関わる機会も多いし彼女の人となりを知っているからそんな事を言えるけど、先生とあまり関わりのない生徒達からすれば先生はデタラメな程強大な権限を持った素性の知れない大人。

そりゃ不信感を抱くのは当然っちゃ当然か……先生と行動を共にしたり、シャーレの当番で赴いたりして先生との接点が多いからそれは盲点だったぜ。

 

「そもそもSRTの閉校の件に関しましては先の議会にて賛成多数で閉校が決まってしまいましたので、今更どうすることも出来ないのが現状です。」

「……そうですよね。」

 

そう、一番の問題点はそこなんだよな。

連邦生徒会で開催された先の議会にてSRTの閉校に関する法案は既に賛成多数で可決されてしまっている。

既に可決された法案を「やっぱなしで」って言って撤回することなんて不可能だろうし、何よりもSRTを閉鎖するメリットの方がデメリットを上回ると多数派が判断した以上閉校の取り消しは難しいと言えるだろう。

 

もしSRTの閉校を阻止しようと思ったら彼女達の必要性を閉鎖法案賛成派へ説いて説得しなければならないし、存続のためには指揮官が必要なので先生にそれを委任するためにはシャーレに不信感を抱いている議員の説得も必要。その上で新しくSRTの復興に関する法案を作って議会へ提出して賛成多数で可決させなければならない。

なんとかしてやりたいのは山々だが、そのためには越えなければならないハードルが余りにも多すぎる。

 

「それに、彼女達は今回のテロ行為を起こしたせいで世間から冷たい目で見られています。法案が通ってしまっている事と併せて考えると、SRTの解体を止めるのは不可能に近いでしょう。」

 

……それは確かにその通りだとしか言いようがない。

理由はどうあれRABBIT小隊は世間の目から見れば公園なんて言う市街地のど真ん中を占拠したあげく、デモという名のテロ行為を行った危険な連中には違いない。

しかも彼女達はデモ中にクロノスの中継ドローンに攻撃を加えており、それは他ならぬ彼女達が守るべき対象である市民を傷つけたことに他ならない。

しかもクロノスのドローンを攻撃したことにより、彼女達が市民にミサイルをぶち込む瞬間はキヴォトス中に中継されてしまったわけだからな。

彼女達の信念は理解できるけど、やり方を間違えてしまった以上は白い目で見られるのは避けられないだろう。

 

「その点に関しては連邦生徒会の責任を追求する声も出ている始末でして、明日にでも緊急謝罪会見を開かなければならず……今から考えるだけでも頭が痛いですね。」

「……後で胃薬を1箱お渡ししますね、七神代行。」

「すみません……助かります。」

 

心底疲れ切った表情でため息を吐く七神代行。

……まぁ、そりゃ元々連邦生徒会長の総括する部隊が不祥事を起こしたんだからその代行である七神代行が謝罪と説明をするのは当たり前っちゃ当たり前だよな。

月雪達RABBIT小隊も、七神代行が頭を下げているのを見て少しは反省してくれればいいんだが……

 

「それと……これはここだけの話にしていただきたいのですがSRT特殊学園所属の3年生小隊、通称FOX小隊が先月に突如として連邦生徒会を襲撃する事件が起こっているのです。」

「……!?」

 

突然告げられた衝撃の事実に、俺様は目を見開く。

 

「彼女達はSRT特殊学園の閉鎖を進めようとしていたメンバーを襲撃し逃走。その結果サンクトゥムタワーの一部施設が全焼し、連邦生徒会のメンバー数人が怪我を負い入院する事態となりました。……そして、そのほとぼりが冷めないうちに今回のRABBIT小隊の事件が起こった。」

 

……なんてこった。

そりゃ連邦生徒会がSRTの閉鎖法案を早急に通そうとするわけだ、そんなのどう考えたって制御できない強大な武力の暴走でしかない。

元々FOX小隊の襲撃の時点で法案を通すことは決定していて、今回のRABBIT小隊のテロによって事実上SRTの閉校を覆すことはほぼ不可能になったと言って良い。

 

突然自分達の通う学校が閉校になるなんて、そりゃ納得できないし憤る気持ちは理解できる。

だが、それに抗議するために連邦生徒会を襲撃して議員を病院送りにしたり、公園を占拠して市民を脅かすなんてことは言語道断だ。

これでは本当にテロリストと変わらないじゃないか……!

 

俺様とて彼女達の気持ち自体はわかるから、擁護はしてやりたいけどこれは流石にラインを超えすぎだ。

こんなんじゃ、正義を語る資格なんてあるはずもない。

と言うか3年生小隊がそんなんなら、そりゃ1年生小隊であるRABBIT小隊だって武力行使に出るわな……

だって、先輩がそんな行動をしているのだから。

 

「……FOX小隊は長年キヴォトスの悩みのタネであった、今は七囚人の1人に数えられている狐坂ワカモを逮捕して矯正局へ送り込んだ紛れもない精鋭部隊です。」

「え!?あのワカ……狐坂をですか!?」

 

七神代行の言葉に、俺様は再び目を見開いて驚く。

 

災厄の狐、狐坂ワカモ。

神出鬼没で破壊を趣味としている奴は、定期的にキヴォトスのどこかにふらっと現れては当たり一面を焼け野原にしていく迷惑極まりない危険なテロリスト。

先のエデン条約ではアリウススクワッドに苦戦する俺様と一緒に戦ってくれたけど、普段は事あるごとに俺様に襲撃を仕掛けてくるイカれた仮面女。

そして……俺様の倒すべき憎きライバルでもある。

 

奴は生半可な集団くらいなら平気で蹴散らしてくるからそんなワカモを逮捕できるとはFOX小隊とやらはキヴォトスでもトップクラスの相当な実力者なのだろう。

 

……そう言えば、アリウススクワッドとの戦いの時にワカモが言っていた気がするな。

一回だけ四人組を相手に負けたことがある、と。

なるほど、それがFOX小隊だったというわけか……

 

……ワカモの強さは俺様が誰よりも知っている。

あいつは強い。それもめちゃくちゃだ。

そんなワカモを無力化して逮捕出来るFOX小隊……願わくば、敵に回らないことを祈るばかりである。

 

「FOX小隊はその後も様々な成果を上げてきました。そして、今回問題を起こしたRABBIT小隊も本来は将来有望なエリートの卵たち。ですので、彼女達を失うというのは我々としても大きな損失なのですが……」

「先月の連邦生徒会の襲撃に、今回のデモと言う名のテロ行為。ワカ……狐坂を捕まえられるような実力の部隊がそんな事をしでかしたらもう……」

「……はい。残念ですがSRTは危険極まりない組織という声が連邦生徒会内から出るのは仕方がないかと。実際連邦生徒会の中に彼女達の武力を恐れている人物は多いですから……解体はやむを得ないかと思われます。」

 

七神代行は渋い顔をしつつそう言う。

そりゃそうだろう、連邦生徒会を襲撃するなんてそれこそテロリストでも中々やらないようなことだ。

 

「現在RABBIT小隊はヴァルキューレにて取調べを受けています。処罰を決めるために防衛室長である不知火カヤ室長がヴァルキューレへ赴いていますが、恐らく甘い処分になる可能性は低いでしょう。」

 

そうだな、FOX小隊の連邦生徒会襲撃程ではないものの今回RABBIT小隊がやったことは間違いなくテロ行為。

それを本来であれば秩序を守る側であるSRTの生徒がやったとなれば、問題になるのは避けられない。

……まぁ取り調べには先生も同行しているから、先生の便宜があればもしかしたら甘い処分になる可能性も否めない話ではあるけどな。

 

「私としてもなんとかしたいのは山々ですが、あまりSRTの事ばかりに構ってもいられないと言うのが現状ですからね。毎日積み上がる書類の山、各学園からの支援物資の要請、環境改善、落第生徒への補習授業に部の支援要請など……やる事は山積みです。」

 

七神代行は手元に置かれたマグカップを手に取るとその中身を口に含みつつ、心底疲れ切ったような表情を浮かべながらそう言った。

 

「それに私達は失踪した連邦生徒会長の捜索に時間を費やしているため、それらも処理しきれず手が回っていないのが現状です。そんな中、SRTの事までとなると……」

「……まぁ無理ですよね。」

「はい。悔しいですがこればかりはどうにもなりません。連邦生徒会長、彼女が帰ってきてくれればすべては解決するのですが……」

 

マグカップを口元から離し、特大のため息を吐き出しながらそう言う七神代行。

 

現在、連邦生徒会は連邦生徒会長が失踪したためその捜索に膨大なリソースを割いている状態が続いていると言った話をこの前モモトークで夜中まで七神代行と話している時に彼女から聞いている。

それならば現状連邦生徒会で業務を行う人数は必要最低限しかおらずカツカツのはずだし、それでいてその人数で少なくとも岩櫃調停室長の抱えている山のような量の書類を捌いていると言うことになる。

何なら彼女の抱えているものは調停室に回ってくる書類で、代行である七神代行の元にはもっとたくさんの書類が舞い込んでいてもおかしな話ではない。

 

各自地区……と言うか各学園は連邦生徒会のことを頼りにならないとか、無能とかボロカスに言っているって話も聞くけどこの内情を知ってしまった以上は仕事に手が回らないのも仕方ない側面もあるとしか言えない。

そういう俺様とてエデン条約に我関せずだった連邦生徒会のことをちょっと非難しちまったこともあるけど、内情を知っちまった今は申し訳なく思うばかりだ。

連邦生徒会長捜索にリソースを割いているため各自治区への問題の対応が後手後手になりそのせいで各自治区からの信頼を失いつつある現状……きっと七神代行の抱えている心労は膨大なものに違いない。

 

そもそもの話だけど、七神代行は本来生徒会長代行……つまりトップにはあまり向いていない人だ。

彼女の強みは書類仕事や裏方業務等のサポートをすることであり、連邦生徒会長のように圧倒的なカリスマを持って人をグイグイと引っ張っていけるタイプではない。

 

更に前から思っていたけど七神代行は毒舌家で口下手な部分があるから、外交が苦手と言う弱点を抱えている。

まぁ口下手ってよりは思ったことをそのまま言ってしまうから、どうしても亀裂を生みやすいと言うか……

思った事をそのまま言うって意味では連邦生徒会長も同じようなものだったけど、七神代行の場合は言い方がキツいのもあって顰蹙を買いやすい部分もある。

いずれにせよトップが外交が出来ないと言うのはあまりにもキツいとしか言えないから、そこも七神代行がトップ向きじゃない理由の一つと言えるだろうな。

 

首席行政官と言うナンバー2としてはこれ以上ないほど適任だけど、トップに据えるには明らかに不向きだ。

正直、連邦生徒会長代行なんて言うほぼ罰ゲームに近い役割を押し付けられた被害者でもあるだろう。

 

それに俺様とて代行の辛さはよくわかる。

周囲からの期待やプレッシャー、突如降って湧いた責任を背負うことによるによるストレス、本来の役職が帰ってきた時のための準備……

ブラックコーヒーをがぶ飲みして朝日が昇るまで仕事をして、気づけば胃薬が愛用品になっている日々……

そりゃため息の1つや2つ出るだろうし、口も悪くなろうと言うものだろう。気の毒という他ない。

 

「正直言って、今の私は会長の代行として業務を完全に回せているとは言えません……私に彼女のような力があればもっと連邦生徒会を上手く回せていたのでしょうか。SRTも解体せず存続させることが出来たのでしょうか。私に、もっと力があれば……!」

 

七神代行は肩を震わせ、拳をわなわなと震わせながら震える声でそう言う。

彼女の目元には大きなクマが出来ており、もう何日も寝ていないのだろうと言うことが伺えた。

 

「大丈夫です。貴方は頑張ってますよ、七神代行。」

 

そんな彼女に、俺様は優しく声を掛ける。

 

「貴方は自分に出来ることを精一杯やってます。それも連邦生徒会長を捜索しながらです。各学園からは連邦生徒会は頼りにならないって言われながらも、七神代行は必死に頑張ってるんですから。」

 

七神代行の目を真っ直ぐに見据えつつ、俺様はキッパリとそう言い切った。

俺様の記憶が正しければ、連邦生徒会長は何の前触れもなくある日いきなり忽然と姿を消している。

当然手掛かりのない状態での捜索になるだろうから途方もない労力と時間がかかるのは当たり前だし、七神代行は捜索の指示をしながら日々の業務をこなして各学園から寄せられる苦情や要望の処理も行なっている。

 

どう考えてもオーバーワークだ。

彼女にこれ以上を望むのは良くないだろう。

だって、既に彼女はいっぱいいっぱいなのだから。

 

「だからその、俺様に少しでも七神代行の負担を軽減する手伝いをさせてください。そりゃもちろん直接業務を手伝うことは出来ませんけど、愚痴や悩みならいつでも聞きますし、ゲヘナで処理できそうな案件があるなら遠慮なく振ってきてください。協力出来ることは出来るだけ協力させてもらいますから。」

 

彼女が苦しい思いをしているのは、俺様には痛いほど理解できる。

規模は違えど彼女と俺様は同じ境遇、同じ立場だ。

だから同じ悩みを持つ者同士、せめて俺様だけでも彼女の味方をしてやりたい。

それによって、少しでも負担を和らげてあげられればいいんだけど……

 

「SRTの件だって協力出来ることがあるなら言ってくれれば力になります。そりゃ俺様みたいな1個人にできる事には限りがあるかもしれませんけど……苦しんでいる人を放っておくわけにはいきませんから。」

「タツミ議長代理……」

「だからその、辛かったら言ってください。頼ってください。悩みを聞くくらいしか俺様には出来ないかも知れないけど、それでも力になりたいんです。貴方の悩みや苦しみは俺様には痛いほど分かりますから。まぁ、こんなガキが七神代行の力になれるかはわかりませんけど……」

「……いえ、そんなことはありませんよ。」

 

七神代行は少しだけ笑顔を浮かべると、手にしたマグカップをそっと机に置いた。

 

「タツミ議長代理こそ、1年生の身でありながら立派にゲヘナの議長代理を務め上げているではありませんか。関係の悪かったはずのトリニティの要人たちとのコミュニケーションもうまく行っているようですしね。」

「それはトリニティの方々がみんな良い人だからですよ。俺様は普通に接しているだけです。」

 

七神代行の言葉に、俺様はさらっとそう返す。

と言うかそもそもトリニティのトップ陣は聖園先輩以外はほぼゲヘナに対する偏見がない人ばかりだからな。

 

それでいて桐藤先輩は議長代理に就任した俺様の事を心配してくれるほどのいい人だし、歌住先輩も大聖堂へ顔を出したときに互いに愚痴を言い合えるくらいには仲が良いし、蒼森団長も悪い人ではないしな。

正義実現委員会の人達も羽川先輩を筆頭にみんないい人ばかりだし、そのおかげもあるだろう。

 

「いえ、それはタツミ議長代理の人格がなせる技です。その証拠に、マコト議長だったときはトリニティとの関係は険悪でした。ですが……今は仲が良いとまではいきませんが、関係は改善してきていると聞いています。」

 

マグカップを置いた七神代行はそのまま右手を自分の髪へ持っていくと、くるくると髪の毛をいじる。

 

「それにタツミ議長代理はお忙しいにも関わらず私のために時間を割いてモモトークで相談に乗って頂いたり、この前は厨房を借りて料理を作ってくださったり、肩もみまでして頂きましたし……ふふ、ついつい私も普段の業務を忘れて甘えてしまいましたから。」

 

七神代行は楽しそうにニッコリと笑うと、弾んだような声でそう言った。

すると次の瞬間、七神代行は何を思ったのかおもむろに座っていた椅子から立ち上がると俺様の近くまでコツコツと足音を立てながら近寄ってきた。

 

「だから……」

 

そして、七神代行は俺様の腰に手を回すと……

そのまま、自分の体を俺様に対して押し付けてきた。

 

「……っ!?」

「タツミ議長代理がこちらへ来られた時だけで構いませんので、これからも頼らせてください。」

 

俺様があまりにも唐突な出来事に目を白黒させているのを横目に、そう言って更に自分の体をグリグリと俺様に押し付けて来ながらか細い声でそういう七神代行。

 

「ちょ、七神代行!?」

 

普段の冷静沈着さからは考えられないあまりにも突拍子もない行動に、思わず俺様は声を上げる。

いや、なんかしんみりした雰囲気だけどこれは色々とまずいんだが!?

 

当たってる!当たってるから!七神代行の凶悪な2つの丘が俺様の体にそれはもうガッツリ当たってるから!

それに七神代行の髪の毛からなんかすごいいい香りが漂ってくるし、上目遣いの破壊力がヤバいし……!

あと七神代行太ももも擦り付けてきてるし……!

やめてくれ!思春期の男子を殺さないでくれ!頼む!

と言うかこれ七神代行徹夜しすぎて冷静な判断出来てないだろ!こんなところを誰かに見られたらマズイ……!

 

そう思った俺様は七神代行の肩を掴んで距離を取ろうとするが……ふと、俺様が手を乗せた七神代行の肩が微かに震えているのに気が付いた。

 

「……っ!」

 

……そう言えば、この前モモトークで七神代行が言っていたのを思い出した。

自分の周りには、悩みを吐き出して甘えられる相手がほとんどいないと。

 

俺様には万魔殿の先輩方や空崎委員長などの頼れる人や甘えられる人が沢山いるけど、七神代行は恐らく連邦生徒会で頼れる人はほとんど居ないのだろう。

強いて言うなら岩櫃調停室長や交通室の由良木モモカ等はわりと気兼ねなく話せる間柄らしいが、その2人は七神代行の後輩だしどちらかと言うと部下に近い間柄だろうから気安く頼ることは出来ないんだろうな。

でなければ、ここ最近毎日のようにあんなに大量のモモトークを俺様に送ってくるわけがない。

まぁ俺様も1年生なので七神代行の後輩になるんだけど、それはまぁ今はおいておいてだな……

 

悩みを相談できる人もおらず、連邦生徒会に毎日のように舞い込んでくる書類を処理して、各学園からのクレームの処理を彼女はたった一人でやっているんだ。

俺様なら間違いなく気が狂っている自信があるし、七神代行はマジで頑張りすぎていると思う。

きっと想像もつかないほどのストレスを抱えているはずだ、疲れ切ってもいるはずだ。

 

……なら、この状況で俺様がすることは一つしかない。

そう判断した俺様は、迷うことなく七神代行の頭に手の平を置いてそれを左右に動かす。

 

「はい。遠慮なく頼ってください。甘えてください。貴方は1人じゃありません。何があっても、俺様は七神代行の味方ですよ。」

 

俺様は彼女を安心させるように頭を撫でながら、もう片方の空いている手を彼女の背中に回してポンポンと軽く叩いてやる。

 

「貴方は自分のできることを精一杯頑張ってます。いつもお疲れ様です、七神代行。」

 

そして俺様は彼女を安心させるように笑顔を浮かべた。

これで良いのかは良くわかんないけど、イブキが俺様に抱きついてきたときはこうするとめちゃくちゃ喜んでくれるから多分大丈夫なはずだ……多分な!

 

「……それは反則ですよ。」

「……え?」

「ふふっ……何でもありません。ありがとうございます、タツミ議長代理。」

「いえ、このくらいお安い御用ですよ。七神代行。」

 

まぁ正直に言うと理性と戦うのがちょーっとだけしんどいから出来たら離れて欲しいけど、今の状態の七神代行にそれを言うのは酷だから仕方ないだろう。

 

「……SRTの件は私の方でも改めてカヤ室長と何とかできないかもう一度模索してみます。もし名案が浮かびましたら、またご連絡させて頂きますね。」

「はい、よろしくお願いします七神代行。俺様も何かあれば手伝いますので、遠慮せずにいつでも連絡してきてください。もちろん悩みがあればモモトークで聞きますし、何なら通話してきてくれても構いませんからね。」

「はい。ふふっ、ありがとうございます。」

 

その後も七神代行が満足するまで頭を撫で続けた俺様。

途中で生徒会長室に書類を届けに来た岩櫃調停室長にその場面をガッツリ目撃され、頬を膨らませた岩櫃調停室長に同じ事をする羽目になったり、その際に七神代行がめちゃくちゃ不服そうな顔をしながら背中から抱きついてきてサンドイッチにされたり、何度も何度も理性を破壊されかけたがギリギリのところで耐えきった俺様。

 

その後、満足したらしい七神代行と岩櫃調停室長から解放された頃にはすっかり日が落ちており、俺様は慌ててサンクトゥムタワーを飛び出してシャーレに寄って先生に報告した後にゲヘナへと帰還するのだった。

……あ、そういや遅くなったから慌てすぎてRABBIT小隊の処分について聞いておくのを忘れていたな。

まぁ恐らくいくら軽くてもしばらくはヴァルキューレの留置所で謹慎処分だろうから、次シャーレの当番のときにでも聞いておけばいいだろう。

 

ちなみに当初の予定だった喫茶店のプリンは無事買えたんだけど、イブキに渡す時にめちゃくちゃ不機嫌になられてしまった。何故だ……解せぬ。

まぁ遅くなってしまったのは俺様の責任なので、今度イブキと1日丸々遊んでやる日を作るとしよう。

 

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「はーやっと一息つける場所に帰ってこれたよ、もうクタクタだから早くシャワー浴びたいけど……」

「こ、公園だからシャワーどころか水浴びできそうな場所すらないね……仕方ないから沸かしたお湯で体を拭くしかないかな……」

「テントの中も狭っ苦しいし、シャワーは浴びられないし、ヴァルキューレの留置所よりは遥かにマシだけど最悪なことに変わりはないね。ま、シャーレなんて得体の知れない場所に行くよりはよっぽどいいけどさ。」

「しかし退学にならなかったのはいいとして、先の見えない状況でこの公園でしばらくはキャンプ生活か……まぁこれもSRTの訓練の一環だと思うしかないな。」

 

「……」

「ん?おいミヤコ、どうしたんだ?さっきからずっと難しい顔をして何かを考えているようけど……」

「いえ、今回私達を鎮圧したあの大人……シャーレの先生でしたか。本来であれば、私達は退学どころか問答無用で矯正局へ送られてもおかしくありませんでした。」

「……まぁ確かに公園を占拠して市民に被害を出す可能性はあったわけだしな。そこに関しては悔しいが私達も迂闊だったと認めざるを得ないだろう。」

「はい。ですが、どういうわけか先生は私達を解放しあまつさえこの公園でのキャンプを認めました。彼女の話によると私達を鎮圧した功績の分シャーレで処罰を決めることになり、その結果が釈放……どうあれ結果的に私達はデモの継続を黙認された形になるわけですが……一体何の目的で……」

「さぁ?と言うか今そんな事を考えても正解なんて出てこないと思うけど。とりあえず、あの大人がとんでもなく甘い人ってことでいいんじゃないの?」

「そ、それはそれで楽観的すぎる気もするけど……今回ばかりはその通りかもしれないね……」

 

「……すみません、私がもう少し上手くやれていたら皆こんな目に合わずに済んだのに。」

「……おい、どうしてお前が謝るんだ?」

「何?責任とか感じてるの?」

「勘違いするなミヤコ。学園の閉鎖が決まったあの瞬間からお前はもう隊長でも何でもないんだぞ。なのに責任とか勝手に感じられても困る。別にそんな事期待もしてないし、責任ならデモをした私達にだってあるだろ。」

「それは……でも、私は……」

「それより今は目先のことを考えた方がいい。キャンプするにしたってSRTから持ってきた食料も少ししか残ってないし、清潔さを保つためには風呂にだって入らないとまずいだろ。やることは多いんだ、お前みたいにグズグズ悩んでいたらすぐ限界が来てしまうぞミヤコ。」

「……そうですね。私達は今後も連邦生徒会にデモを続けますが、そのためにもまずは安定した基盤が必要なのは確かです。まず飲み水と食料の確保を急ぎましょう。」

 

「それにしてもあのヘイローのないゲヘナの男子……丹花タツミだったか?あいつは一体何だったんだ……」

「いやーやばかったよねあいつ。何機ドローンを差し向けたって撃ち落として来たし、生活安全局の陣形を崩そうと攻撃しても全部あいつが盾で防ぐせいで全然崩せなかったもん。バケモノかっての。」

「た、多分私の気配や射撃位置も気が付いていたよね……何度攻撃の隙に狙撃しても完璧に防がれちゃったし……」

「私も奴と接近戦をしたが強すぎて歯が立たなかった……その後に偉そうに説教してきたのは気に食わないけど、負けた以上は何も言えないし……もっと訓練を積むしかないな……」

「と言うかあいつ本当にヘイローないの?とてもそんな風には見えないほどには強かったんだけど。」

「丹花タツミ……」

 

『お前達の今やってることが正義だってんなら、その考えは改めたほうがいいとだけ言っておく。』

「……貴方に何と言われようと私は戦い続けます。私の、私達のSRT特殊学園の正義を貫くために。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いやはや、噂には聞いていましたがシャーレの先生とはとことん生徒に甘い方なのですね。釈放する、と聞いたときは驚きの余り顎が外れそうになりましたよ。」

「……やはり得体が知れないな。警戒しておくに越したことはないんじゃないか?カヤ防衛室長。」

「まぁまぁ、疑ってかかるのはまだ早計でしょうユキノ小隊長。先生をこちらへ引き込めればかなり有利なカードになるのは間違いないですから。それで、今回の後輩たちの戦いぶりは貴方からすればどう映りましたか?」

「私から言わせればまだまだ未熟だ。シャーレの先生の指揮能力は噂には聞いているが、それを加味してもヴァルキューレの生活安全局に鎮圧されるのは油断が招いた結果としか言えないだろう。」

「手厳しいですねぇ。とは言え、彼女達は腐っても鯛。SRTの厳しい入学試験を通過した紛れもないエリート達です。使わないのは勿体ない……私達のクーデターへの誘いもそのうち持ちかけるとしましょう。」

「……あぁ、そうだな。」

 

「それよりも、目先で脅威になりそうなのはシャーレの先生よりもゲヘナの議長代理の方でしょうね。」

「は?ゲヘナの議長代理……?」

「おや、知らないのですか?ゲヘナは最近エデン条約で羽沼マコトがテロ誘致罪によって矯正局へ投獄されたため、1年生を代理に立てているのですよ。」

「……私は政治のことに関しては疎くてな。恥ずかしながら把握していなかった。」

「まぁFOX小隊の皆さんは実働部隊ですからね。知らなくてもおかしなことはないかと。」

「それで、何故そのゲヘナの議長代理とやらが目先の危険人物になるんだ?」

「彼は丹花タツミと言うのですが、1年生ながらにしてゲヘナの議長代理を任される程の高い信頼を得ています。彼は特にコミュニケーションを取る能力が高いそうでして本来ならゲヘナの宿敵であるトリニティの生徒とも友好な関係を築けるほどなのだとか。つまり政治力があるということですね。」

 

「で、そこから気になってもう少し踏み込んで話を聞いてみたのですが彼は貴方達がかつて逮捕した今は七囚人の1人となっている狐坂ワカモと1人で互角以上に戦えるほどの実力を持っているそうです。」

「何?それは本当か?」

「えぇ、少し彼を褒めたら嬉々として先生が語ってくれましたよ。単純というのは素晴らしいですね。」

「狐坂ワカモとの戦いは私達4人の力を持ってしてもかなりギリギリだった……その話が本当だとするならば脅威でしかないな。」

「はい。それに彼はヴァルキューレとRABBIT小隊との戦闘にも参加していたらしく生活安全局の生徒を率いて正面から衝突し、彼1人で空井サキさんを完全に無力化したという話も先生から聞きました。」

「なるほど、指揮能力もあるという訳か。」

「はい。政治力に加えて戦闘力も申し分ない。それに、実は彼に関しては最近はリン行政官と懇意にしているという話を小耳に挟みまして。」

「なに……?七神行政官と?」

「知っての通り、我々は来たるべきクーデターのためにリン行政官を支持する議員を襲撃して病院へ送っています。先生から聞いた話だと彼は先生からの信頼も厚い相当優秀な生徒の様子。勘も鋭いそうでして、もしかしたら勘付かれるかも知れません。」

 

「しかし……少し私が彼を褒めただけでこんなにも情報をペラペラと話してくれるとは……いやはや、先生の生徒に対する愛は素晴らしいですね♪」

「……それで、私は何をすればいいんだ?」

「そうですね、単刀直入に言えば丹花タツミを消してもらいたいのですが……彼には味方も多いですから、雑な襲撃は私達の首を絞める結果にしかなりません。しばらくは彼に対する情報を集めて可能なら監視。念入りに準備して、機が熟した時に襲撃する形で行きましょう。」

「分かった。すぐ行動へ移るとしよう。」

「よろしくお願いします。彼に関しては分からないことの方が多いですが、どうも厄介な人達がバックに付いている様子。それに彼自身も七囚人と1人でやり合える程の実力者なのでくれぐれも警戒は怠らないで下さい。」

「……了解した。カヤ防衛室長。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ぶえっくしょん!」

「お兄ちゃん、風邪?」

「いや、なんか分かんないけど今日はよくくしゃみが出るんだよな……風邪じゃないと思うから大丈夫だぞ。」

「そっか。お兄ちゃん最近ずっと忙しそうにしてるから、風邪引いちゃダメだよ?」

「あぁ、ありがとなイブキ。それにしても、俺様を心配してくれるなんてイブキはなんて優しいんだ……!ご褒美にいっぱいなでなでしてやるぞ!」

「わーい!ねぇねぇお兄ちゃん!お膝の上に乗ってもいーい?」

「もちろんだ!イブキの頼みならお兄ちゃんはなんだって聞いてやるぞ!」

「やったー!お兄ちゃん大好き!」

「ゴハァ!あぁもうイブキは可愛いなぁ!うおぉぉぉぉイブキ最高!イブキ最高!よーしよしよしよし!」

「えへへ……♡」

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