とある日の昼下がりのこと。
場所はDU地区。矯正局の面会所出入り口前にて。
あのDU地区で起こったRABBIT小隊のデモ……と言う名のテロ事件から少しが立つ。
毎度の如く議長室の机に積み上がったサンクトゥムタワー並の書類を午前中に崩した俺様は、その後もさっさと今日の分の仕事を終わらせて羽沼議長とアリウススクワッドの連中の面会のために矯正局を訪れていた。
そして今しがた、彼女達への面会を終えて矯正局から出て来たところなのだが……
『キキキッ!よく来たなタツミ!今日はこのマコト様の矯正局内での班長の仕事内容について聞かせてやる!』
『あ、遠慮しときます。』
『何ィッ!?お前は私が矯正局でしっかり反省しているか聞きたいとこの前言っていただろう!?』
『それは単なる自慢話だろうがこのアホ議長がぁ!』
いつも通りの羽沼議長に散々ツッコミを入れたり。
『……今日も来たんだ。毎回毎回律儀だね。』
『おう、定期的に面会に来るって約束したからな。どうだ?矯正局では上手くやれてるか?』
『……うん。サオリ姉さんやアツコ、ヒヨリと一緒に今は毎日決まった時間に体を動かして刑務作業をしてる。アンタの上司の羽沼マコトだっけ?あの人と同じ班に配属されたけど、面倒も見てくれてるんだ。』
『何だ、羽沼議長と同じ班なのか。あのアホ議長、お前に迷惑とかかけてないだろうな?』
『ううん、むしろ結構助けてもらってるよ。マコト班長には感謝してる。……もちろんアンタにもね、タツミ。』
『おう、気にすんな。お前が元気でやれてんなら良かったよ。』
首や手首の傷も減り、順調に更生している様子の戒野と矯正局での生活について話をしたり。
『あ、タツミさん!今日は何の差し入れを持ってきてくれたんですか!?え、今日は用意する時間が無かったからコンビニで買ったクッキー!?うわぁぁぁぁん!いつもはタツミさんの手作りクッキーなのに市販のクッキーなんてあんまりですぅ!!!』
『いや差し入れてやってるだけ感謝しろよ!?ほんっと面の皮が厚いなオメェはよぉ!!!』
『え、そうですか?えへへ……もうタツミさんったら。そんな急に褒められると照れるじゃないですかぁ。』
『褒めてねぇわバカタレェ!!!』
相変わらずうるさい槌永にクッキーを叩きつけたり。
『なぁタツミ。アツコがこの前お前のことを女たらしだと言っていたんだが、女たらしとは何だ?一体何をたらすんだ?気になって夜も眠れないのだが……』
『……錠前。今度秤のことを俺様の代わりに一発殴っといてくれねぇか?あと俺様は女たらしじゃないって秤に言っといてくれ。』
『???何故私がアツコを殴らねばならないんだ?それとお前が女たらしじゃないのは分かったけど、結局女たらしとはどういう意味なんだ?教えてくれ!頼む!』
『はぁ……仕方ねぇな。女たらしってのはな……』
相変わらずの天然な錠前に対して、女たらしの意味を1から細かく説明したり。
『あ、来てくれたんだね女たらしさん。』
『ぶっ飛ばすぞテメェ!!!俺様は女たらしじゃねぇっつの!あと言葉を錠前に教えるなら意味も一緒に教えてやれ!気になって夜も眠れないのは可哀想だろうが!』
『ふふっ、そういうところだよね。貴方の素敵なところって。敵だったはずの私達のために毎回面会に来てくれて、心配までしてくれるところ。』
『あ?そりゃお前達はしっかり反省してるみたいだし、そもそもマダムとかいうクソ野郎に虐待を受けた被害者だからな。面会に来るのは当たり前だろ。』
『……私達に面会に来てくれる人なんて、先生と貴方くらいだよ?だって私達はテロリストなんだもん。』
『そりゃ過去の話だろ。それに同じ目に合った身としちゃお前達の事はどうも他人事には思えねぇしな。それに面会だって俺様の好きでやってる事だ。気にすんな。』
『……やっぱり、貴方って女たらしだよね。』
『どこがだよ!?』
心底楽しそうに笑う秤にツッコミを入れまくったり。
……と、まぁなんやかんやでさっきまではそんな感じで面会をしていて今しがたそれが終了して矯正局から出てきて今に至るというわけだな。
「あー……疲れた……」
俺様はキヴォトスのどこまでも澄み切った青空を見上げながら、心底疲れ切った声でそう呟いた。
みんな元気そうだったのは良かったんだけど、羽沼議長や槌永は相変わらずだし、錠前は天然だし、秤はこっちをからかってくるしで常時面会室はどんちゃん騒ぎになっており看守の生徒から注意を受けちまったからな。
静かに話せたのが戒野だけってどういうことだよ……まったく、相変わらず騒々しい奴らだ。
……まぁでも羽沼議長もアリウススクワッドもきちんと自分の行いを反省して罪と向き合い、順調に矯正局の中で更生を続けているようで安心した。
今のところ特にヴァルキューレからは問題を起こしているという連絡もないし、この分なら後数カ月もすれば釈放されてシャバに出てこられるだろう。
「……さて、ゲヘナへ帰るとしますかね。」
俺様はそう呟くと、ポケットからスマホを取り出してマップアプリにDU地区の駅の位置情報を入力した。
そして、スピーカーから聞こえてくるガイドに沿って足を踏み出して矯正局を後にする。
「いやーしかし、DU地区はいつ来ても平和だなぁ。」
道行く人々やのどかな風景を見ながら、俺様はそんな事を口にしながらDU地区の整備された街道を歩いていく。
前に来た時もそうだったけど、DU地区は基本的には連邦生徒会のお膝元だしヴァルキューレの生活安全局の生徒達がパトロールしているのもあって犯罪率は他の自治区よりも低い傾向にあるんだよな。
この前のRABBIT小隊が起こしたテロみたいな事が起こらない限りは、平和で住みやすい地区と言えるだろう。
「しかし、この差し入れで持ってきた食材ども……どうすかねぇ。」
背中に背負ったリュックをコンコンと拳で叩きながら、俺様は軽くため息を吐き出した。
と言うのも俺様は今回も矯正局の面会で彼女達に差し入れをしようと思ったのだが、思ったよりも書類仕事に時間がかかってしまったんだよな。
それで差し入れを用意する時間が無かったからいつもは手作りの菓子類をコンビニで購入し、日持ちする料理を作るためにスーパーで材料を買ってシャーレの厨房を借りさせてもらって作ろうと思っていたのだが……
生憎、先生は今日はアビドスへ出掛けているらしく不在だと留守を預かっている早瀬先輩から言われたため仕方なく菓子だけを差し入れて帰ってきたんだよな。
そのため、本来であれば俺様が調理して料理に変えるはずだった食材どもはそのままの状態で調理器具と一緒にリュックの中に入っているというのが現状だ。
まぁ料理を作ってやれなかったのは残念だけど、食材自体は別にあって困るもんでもないし帰って冷蔵庫にでも入れて俺様やイブキの飯に使えばいいだけの話だが……
「せっかくなら食べ歩きとかしたかったなぁ……」
今日の万魔殿での業務は既に終わっているため、どうせならDU地区へ来たついでに美味い店でも探して帰ろうかと思ったのだがこの大量の食材を背負ったまま食べ歩きを決行するというのは普通にキツい。
と言うか食材の中には生肉や生魚もあるので、保冷剤で鮮度を保っているとは言え長時間常温に晒したら腐って使いものにならなくなっちまうからな。
まぁどうせ矯正局にはまた来るんだし、その時に仕事を終わらせておいて身軽な状態で改めて食べ歩きをすればいいだけの話だろう。
そんな事を考えながら、俺様はマップアプリに従って駅までの道を歩いていると……
「……ん?」
ふと、見覚えのある公園が視界の端に映り込んだ。
何気なくそちらへ目をやると、そこには「子ウサギ公園」と書かれたプレートが入口に鎮座している。
間違いない。
この前元SRT所属の1年生小隊、RABBIT小隊がデモを起こしたあの子ウサギ公園だ。
結局RABBIT小隊が起こした子ウサギ公園でのデモ……もといテロ行為は当然ながら問題行為になり、責任者として七神代行と防衛室長の不知火カヤ室長が会見を開いて謝罪する羽目になってしまっていた。
俺様もその会見はゲヘナの議長室で見ていたのだが、頭を下げる七神代行は心底疲れ切った表情をしていて流石に気の毒になってしまったな……
なお、そんな彼女の横で不知火防衛室長はニコニコしながら謝罪をしていた。中々肝の据わった人である。
なお、その夜に七神代行からの怒涛のモモトークの通知が来たかと思えば間髪入れずに通話がかかってきてその後数時間に渡って彼女の愚痴を聞いて半べそをかく七神代行を慰めることになったが……それはまた別のお話。
「あー、そういやそんな事もあったなぁ。」
なんか、時間にしてはマジでついこの間のことなのに毎日毎日アホみたいな業務をこなしているせいなのか随分と前の事のように感じてしまうな。
そんな事を思っていると、俺様の足はひとりでに子ウサギ公園の門をくぐって公園の中に足を踏み入れていた。
半ば無意識でふらっと公園内に立ち寄った行動に自分自身で驚くが、まぁ少しだけとは言え縁のある場所だしよくよく考えたら公園の中はあまり見ていなかった。
生肉と生魚があるとは言え、公園を見て回るくらいであれば腐ってしまうこともないだろう。
そう思った俺様は足を踏み出し、子ウサギ公園の遊歩道を歩いて公園の中心部分へと歩を進める。
「……ん?」
すると、俺様の目に市民の憩いの場であるはずの公園にはそぐわないものが目に入ってくる。
それは公園のある区画に張り巡らされており、ウサギのロゴマークの入った大きなテント郡だった。
待てよ、あのロゴマークってどこかで見た気が……?
「……あっ!?」
そうだ思い出した!あの軍事用テント、ここでRABBIT小隊とやり合ったときに奴らが本拠地にしていた場所に張られていたものじゃねぇか!
いや、それは分かったけど……一体どういうことだ?
確かRABBIT小隊は先生の作戦によって、生活安全局の生徒達に鎮圧されてその後ヴァルキューレの本部に連行されて取り調べを受けていたはずだ。
やった規模からして少なくとも謹慎処分は避けられないだろうから、こんなところにまだテントが張られているのはどう考えてもおかしいんだけど……
……まぁ、もしかしたら謹慎処分になったから撤去しに来られないのかも知れないしな。
それならそれでヴァルキューレが撤去すべきだとは思うけど、ヴァルキューレもRABBIT小隊との戦闘で大きな被害を受けているからそこまで人を割いている余裕がないのかも知れないし……なら仕方ない。
俺様もそんなに経験があるわけじゃないけど、万魔殿のみんなでキャンプへ行ったときにテントの設営と撤去はやったことがあるからやり方は分かっている。
市民も普段遣いする場にあんなSRTの軍事用テントが張ってあるのは威圧感を与える原因にもなりかねないしな。
そう考えた俺様はテントを撤去するために、ウサギのロゴの入ったテントへ近づこうとすると……
「動くな!止まれ!」
俺様の背後から、聞き覚えのある声が鳴り響いた。
「この声は……!?」
思わずそう声の漏れた俺様は、声を主を確認するために即座に180度回転して後ろを向く。
すると俺様の正面には、青を基調としたセーラー服を身に纏いウサギを模したヘルメットを被った仏頂面の女……RABBIT小隊のポイントマン、空井サキの姿があった。
「空井!?」
「お前……丹花タツミか?なんだ、変な動きをしているからてっきり不審者か野良犬かと思ったぞ。」
「誰が不審者だよ!?っつかお前、ヴァルキューレで取り調べを受けて処罰を食らったはずだろ!?なんでこんなところにいるんだ!?」
「……なんだ、先生から聞いてないのか?」
空井は怪訝な表情を浮かべつつそう言った。
「あぁ。この前お前達がヴァルキューレに連行されていった後に連邦生徒会に寄って、シャーレへ顔を出せたのは夜になってからだったからな。お前らの処分については時間がなくて聞けなかったんだよ。」
「なるほどな、それなら私達の事情を把握していないのも納得か……あっ、気をつけろ。お前の足元にはトラップが仕掛けてあるからな。」
「はぁ!?」
そう言って空井は俺様の足元のすぐ横を指で指した。
俺様が素っ頓狂な声を上げて足元へ視線を落とすと、そこにはワイヤーに手榴弾のピンがくくりつけられたいわゆるワイヤートラップが仕掛けられている。
「お前にはヘイローがないんだからトラップに引っかかったら即お陀仏だぞ?気を付けろよ、私だって人殺しにはなりたくないからな。」
「いや公園にトラップって何考えてんだお前!?ここは公共の施設だぞ!?こんな危ないもんすぐ撤去しろ!」
「そうは言っても仕方ないだろ。侵入者を防ぐためにはこれくらいやらないと。」
「はぁ!?一体何の侵入を防ぐんだよ!?」
「決まってるだろ。お前みたいな不審者だ。」
「ぶっ飛ばすぞテメェ!!!」
この野郎……!公共の施設にこんな危険なもん仕掛けた挙げ句に俺様を不審者呼ばわりとはいい度胸じゃねぇか!
「俺様に喧嘩を売るとはいい度胸だなぁ……?いいぜ、もっぺんボコボコにしてやるよこのバカウサギがぁ!」
「なっ……!?誰がバカだ誰が!」
「お前に決まってんだろこのウスラトンカチ!」
「なんだと!?やるか!?」
「上等だ表出ろやコラァ!!!」
「もーうるさいなぁ、何騒いでんのさサキ……」
俺様と空井がお互いに顔を近づけ、ガンを飛ばし合っている時だった。
突如、公園内に張られたテントの中から眠たげな声と共に見覚えのある人物が出てくるのが見える。
その人物はメガネにおさげが特徴的な……RABBIT小隊のオペレーター、風倉モエその人だった。
「風倉……!?」
「ん?……あ、この前の痴漢魔じゃん。」
「はぁ!?誰が痴漢魔だ誰が!」
「あんたに決まってるじゃん。どさくさに紛れて私の胸を触ったくせに。」
「だからあれはお前が暴れるから抑え込むときに一瞬当たっただけだっつーの!元はと言えば抵抗したお前が悪いだろ!責任転換すんな!」
「やーい痴漢。変態。むっつりスケベ。巨乳好き。ベッドの下にエロ本隠してそうな男ー。」
「なんだとコラァ!!!」
と言うか最早最後のは悪口でもなんでもねぇだろ!
ってかそんな事はどうでもいい!空井も風倉もなんでこんなところにいるんだ!?こいつらはヴァルキューレに連行されたはずじゃないのか!?
「……あ、そこの足元気をつけたほうがいいよ。対人地雷が埋まってるからさ。」
「はぁ!?なんてもん埋めてんだてめぇ!どの辺だ!」
「どの辺だったかな……具体的な場所は忘れちゃった。まぁ爆発したらそこにあるってことで。」
「ふざけんなよてめぇ!ってか空井にも言ったけどここは公共の施設だぞ!?今すぐ撤去しやがれ!ここを使う市民が危ない目に合うだろうが!」
俺様は目の前で涼しい顔をする風倉と、仏頂面でこちらを睨んでくる空井をそう怒鳴りつけた。
「危険も何も、最小限の防衛手段だ。」
「そうそう、何ならこれじゃ全然足りないくらいだよ!できれば公園の外周部分に対戦車地雷とか色んなトラップを仕掛けておきたいくらいなのに。」
「お前らは公園を要塞にでもするつもりか!?一体何と戦うつもりなんだよ!明らかにやりすぎだバカタレ!」
「何を言う。警戒においてやり過ぎなんてことはない。常に万全の準備をしておかないと。」
「そうそう。油断したらまたあのワンコみたいな警察がやってくるとも限らないしね。」
そう言って、懐から飴を取り出して口に含みニヤニヤとした笑みを浮かべる風倉。
なんかもう頭が痛くなってきたな。
と言うか、いい加減何でお前達がここにいるのかを説明してもらいたいんだが……?
「サキ、モエ、何か問題でもありましたか?」
「ひっ……!た、丹花タツミ……!?」
ズキズキと痛んできた頭を抑えつつ俺様がそう思っていると、再びその場に聞き覚えのある声が2人分響く。
……まぁそりゃ空井と風倉がここにいるなら、この2人だってこの場にいないはずがないだろう。
そう思った俺様が確信を持ってそちらを振り向くと、そこには案の定月雪と霞沢の2人が立っていた。
「貴方は……私達に何の用ですか?」
「いや、何の用も何も別に用なんかねぇよ。俺様は用事があったからDU地区まで出向いていて、その時にこの公園を見つけたからふらっと寄っただけだ。そしたら何故かヴァルキューレに連行されたはずのお前達がいて混乱してんだよ。一体どういうことなんだ……?」
俺様は特大のため息を吐き出しつつ、怪訝な表情でこちらを見つめてくる月雪に対して疑問を投げつけた。
「……先生から聞いていないのですか?」
「あぁ聞いてない。あの後先生にあったのは夜も遅かったからな。差し支えなければ説明を求めたいんだが?」
「……まぁ、そのくらいならいいでしょう。」
「……すまん、助かる。」
渋々、と言った様子で首を縦に振る月雪。
なんかもう、空井と風倉のめちゃくちゃさに振り回されてるから塩対応とは言えキチンとこっちの話しを聞いてくれるコイツがめちゃくちゃ癒やしに見えてきたぜ……
そんな事を心のなかで思いつつ、俺様は月雪の口から何故RABBIT小隊がこの公園にいるかの説明を受けるのであった。
「実は……」
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「……というわけです。」
「なるほどな。大体は理解した。」
あれから、何故RABBIT小隊が子ウサギ公園に居るのかの理由を月雪から聞いていた俺様。
その理由を全て聞き終えた俺様はそう言って首を縦に振っていた。
月雪から語られた理由はこうだ。
まず月雪達RABBIT小隊は生活安全局に鎮圧されてヴァルキューレへ連行された後、それぞれ1人づつ取り調べ室にてヴァルキューレからの取り調べを受けた。
そのうえでこいつらは全員ヴァルキューレへの転入を拒否し、あくまでSRT復活のためのデモを続けると宣言。
そこまでSRTに拘る理由は詳しく聞くつもりはないけど、なんかもうここまで来ると意地というか執念みたいなものを感じざるを得ないな……
まぁともかく、そんな訳で取り調べを終えて処罰を受けるために留置所で待機していたRABBIT小隊の面々。
そんな彼女達の元にシャーレの先生がやって来て、先生いわく「今回は公園の作戦成功の実績でシャーレが処分を決めることになった」と言ったらしい。
そしてシャーレの先生が彼女達に化した処分。それは……
『“とりあえず全員釈放。もう自由だよ、好きなところに行って大丈夫。”』
というものだったらしい。
当然月雪達RABBIT小隊も困惑したらしく、先生に理由を問いただすものの先生からの回答は「君達が望まない進路を強制はできない」とのものだったらしい。
まぁ大方ヴァルキューレへの転校を拒んだけど、今更SRTへ戻る事は不可能だから釈放って形にしたんだろうが……それは処罰とは言わないだろ先生。
理由が理由とは言え、こいつらは公園という公共の施設を占拠して違法な武器を振り回したテロリスト。
市民に危害を加える可能性だってあったこいつらを、何の処罰も与えないまま野に放つなんて危険すぎる。
見た感じテントには奴らが持ってきたであろうSRTの火器の類がまだ大量に置かれているし、百歩譲って火器を没収した上でならギリギリ納得できなくもないけど何も没収せずになんて正気の沙汰とは思えない。
まぁ月雪や空井も無差別に攻撃を行って市民を巻き込む可能性があった点については反省しているようで、それに対しては俺様に謝罪もしてくれた。
風倉や霞沢もその点に関しては思う所があるようで頭を下げてくれたけど……まぁ釈然とはしないわな。
そもそも謝罪するなら俺様じゃなくて不安や恐怖を感じていた市民や、尻拭いで会見を開いて世間へ頭を下げてくれた七神代行とか不知火防衛室長にすべきだろう。
処分を決める場には不知火防防衛室長もいたはずだから彼女も納得済みなんだろうけど、流石にこの処分は甘すぎるとしか言えない。
先生のことだから一抹の不安はあったものの、まさかマジで何の処罰もなく無罪放免にしちまうなんて……
生徒思いなのは先生のいいところだと思うけど、今回ばかりはさすがにどうなんだと思わざるを得ない。
テロを起こしたことに関して反省はしているようだが、俺様としては最低でも社会奉仕活動くらいはさせるべきだと思うしそう簡単に許していいとは思わない。
とは言え、先生や連邦生徒会の防衛室長が決めたことに今更俺様が口出ししたところで処分が覆るわけでもないこともまた事実。
……納得は行かないけど、先生が決めたことならば俺様も黙ってRABBIT小隊に対する処分を飲み込むことにする。
彼女達はテロを起こしたことに関しては反省しているようだし、同じ過ちは繰り返さないはずと信じよう。
もし繰り返すようなら……その場合は、先生が何と言おうが今度こそは強制局へブチ込んでやるだけだ。
まぁそんな訳で、先生の判断によりヴァルキューレの留置所から釈放されたRABBIT小隊の面々。
とは言えSRTの廃校が決定して行く宛もない彼女達は初めは先生からシャーレに住まないかと提案されたが、月雪のシャーレで快適な生活を送っていては連邦生徒会への抗議にならないと言う判断により却下。
……いや、この状況でまだ抗議を続けるつもりなのかと思うと若干呆れてしてまうがまぁそれは置いておいて。
それならば、RABBIT小隊がデモをした子ウサギ公園でキャンプをしたらどうか?と言う提案が成されたらしい。
月雪達はその提案に迷ったが、最終的にはデモの続きにもなると言うことでその提案を了承。
そのため、月雪達RABBIT小隊は改めてテントを張り直してこの公園でキャンプを行なっているとの事らしい。
「ったく、先生も大甘だな……」
「貴方に同意するのは不本意ですが、それに関しては私も同感です。」
「……月雪。分かってるとは思うが、もし次にテロを起こしてみろ。今度こそは容赦しないからな?」
「分かっています。私達も色んな人から散々言われて自分たちの行いが市民を傷つける可能性があったものだと分かりました。もう二度とあのようなことはしません。」
「そうか。ならいい。……悪かったな。」
「……いえ。大丈夫です。」
少し気落ちした表情を浮かべてはいるが、月雪は俺様の目を真っ直ぐに見据えるとはっきりとそう言いきった。
その目に嘘はないように見える……なら、今回だけは先生に免じて俺様も見なかったことにしておいてやろう。
「まぁそれはそれとして、公共の施設である公園にトラップや地雷を仕掛けるのは辞めとけ。市民が引っかかって怪我でもしたらどうすんだ?」
「それは……そうですね。分かりました。その類のものはサキとモエに後で解除させておきます。」
「あぁ、そうしてくれ。」
俺様もまさか公園にトラップが仕掛けられているなんて思いもしなかったからな、一休みしに来た市民が引っかかりでもしたら目も当てられない。
確かにキャンプするなら自衛手段は必要だけど、哨戒とかでなんとかして欲しい。
これ以上市民を危険に晒すのであれば、それは反省した事と完全に矛盾しているからな。
「……しかし、いくら行く宛がないから公園でキャンプするっつっても何かと不便じゃねーのか?電化製品なんか使えないだろうし、色々大変なんじゃねーの?」
「見ての通り何の問題もありません。貴方に心配して頂かなくとも、SRTはキャンプ生活には慣れてますから。」
「……そうかよ。」
仏頂面を浮かべてそういう月雪に対して、俺様はため息を吐き出しながらそう言った。
……なんでこいつら、俺様に対してこんなに言葉がきついっていうか超絶塩対応なんだろうな。
俺様、別にこいつらがテロ行為をしてたから先生と協力して鎮圧しただけなんだけど……
まぁその後説教くさい事をしちまったから、そのせいで煙たがられているのかもしれんが。
「これくらいSRTなら朝飯前。当然の素養だ。」
「それにここは水が使えるし、むしろ快適なくらいだね。」
「日陰も多くて隠れやすいし……悪くないかもね……」
「ですので、気にしなくても大丈夫です。私達は私達のやり方でSRTの復興を目指しますから。」
……そのせいで七神代行の心労がとんでもないことになってるんだけど、まぁこいつらにそんな事を言ったってどうにかなるわけでもないからな。
こいつらの気持ちだけは俺様も理解できなくもないし……どっちの事情もわかるだけにやるせないと言うか、複雑というか、なんとかしてはやりたいんだが。
「まぁそういうわけだ。さぁ、お前も私達に用事がないならそういう事だからさっさと帰れ!」
そう言って、いい笑顔で俺様の肩をグイグイと押して公園から立ち去らせようとする空井。
……まぁ別に俺様も問題を起こさないならこいつらにこれ以上関わる理由なんて微塵もないし、それにこいつらの相手をしていたら疲れるだけだからさっさとここから立ち去るのが吉なのは間違いないだろうな。
「分かった分かった、出ていくから押すな押すな。」
ため息を吐き出しながらそう言った俺様はそのまま回れ右をして、子ウサギ公園を立ち去るために足を一歩踏み出した時だった。
突然、その場に「くきゅるるる……」と言う特徴的な音が鳴り響いた。
「……ん?」
その特徴的な音は、俺様の耳が確かであれば空井の腹から聞こえてきたように思える。
今のは……もしかして腹の虫か?
「何だ?腹減ってんのかお前?」
「そ、そんなわけないだろ!そ、そうだ!雷!雷でも近いんじゃないか!?」
「……いや、雷が人の腹から鳴るわけねぇだろ。」
顔を赤くしてあたふたしながらそう言い訳をする空井に対し、俺様はジト目を向けてそう言う。
「それは無理があるでしょ、どうして我慢できなかったのさ……」
「仕方ないだろ!生理現象なんだから!」
「うぅ……お腹すいた……」
「……改めてですが、何も問題はありませんので。」
「いや、問題しかねぇだろ。」
と言うかお前の腹からも腹の虫が鳴ってんぞ月雪。
風倉も霞沢もつらそうな顔をしているし……こりゃ相当腹が減ってると見える。
「あーもう、イライラしたら余計にお腹空いてきた……」
「そ、その……実は……」
「あぁもう!何も食べてないんだよ!悪かったな!」
「いや、なんでキレてんだよ……」
こちらに詰め寄ってきてまくし立ててくる空井から一歩距離を取りつつ、俺様はそう言った。
「公園に水はありますが、逆に言うと水しかありませんからね……補給もなにも当てには出来ませんし……」
「SRTから飛び出したときに食料は持って来なかったのか?SRTでキャンプの訓練があるなら、戦闘糧食とかは常備してありそうなもんだけど。」
「そりゃ持ってきてないわけないだろ。けど、まさかこんなことになるとは思ってなかったから数食分しか持ってきてなかったんだ。」
「なるほど。で、その数食分がここ数日で底をつきちまったってところか?」
「……そうだ。」
苦虫を噛み潰したような表情でそういう空井。
まぁこいつらの見積もりでは、デモが成功して割とすぐにSRTへ復学出来ることを想定していたみたいだからな。
そりゃ食料なんて持ってきても少しだけになるだろうし、それより武器を大量に持ち出すのは当たり前だわな。
「くそっ、こんなことなら対空ミサイルよりももっと食料を持ってくるんだった……」
「何いってんの、ミサイルだって大事じゃん!何より綺麗だし!」
いや、綺麗って……
ミサイルで腹が膨れるなら苦労はしねぇだろ風倉。
「それより、その地味に重たい教本の方が問題でしょ。それを捨てて食べ物を入れとけばよかったのに。」
「バカ!学生が教範を捨てる訳には行かないだろ!」
……こいつら、仲が良いのか悪いのかよく分かんねぇな。
「……スーパーとかで買うわけにはいかないのか?」
「お店で買おうにも、学校の口座が停止されちゃってるからお金を引き出すことも出来なくて……」
「なるほど、八方塞がりってわけか。」
「うぅ……私達きっとこのまま飢え死にするんだ……SRTに帰りたい……」
そう言って、半べそをかきながら膝を抱えて座り込みこの世の終わりのような顔をする霞沢。
なるほど、こりゃ相当参っちまってるみたいだな。
まぁ、腹が減って辛い気持ちは俺様には痛いほどよく分かるからな。食い物がないってのは辛いことだ。
正直、こいつらに対してはまだ釈然としない気持ちがあるのは確かだが……流石にこの状況で腹をすかせているこちらを見捨ててはおけない。
丁度いい具合に食材も背中のリュックに詰まっていることだしな。
元々羽沼議長やアリウススクワッドの差し入れの料理を作る予定だったから丸々5人分はあるし、こいつらの分くらいなら充分賄えるだろう。
本当ならこの食材どもは寮に帰って冷蔵庫へぶち込む予定だったけど、まぁメシの材料はまた買えばいいしな。
「はぁ……ったく、仕方ねぇな……」
俺様はそう言ってため息を吐くと、持ってきていたリュックを降ろしてそのまま地面へと下ろす。
そして周囲をキョロキョロと見渡すと、RABBIT小隊が張っているテントの前に石と枝で組まれた焚き火のスペースを発見した。
「おい月雪、この焚き火の火ちょっと借りるぞ。」
「はい?待ってください、一体何を……」
そう言って困惑する月雪達を尻目に、俺様はリュックの中から本来であれば羽沼議長やアリウススクワッドの差し入れに使う用だった食材を取り出していく。
そしてそれらを焚き火の横に並べ、更にリュックの中から包丁とまな板、鍋等の調理道具を取り出した俺様は上着を脱いでエプロンを付けると腕まくりをする。
「……何をしているのですか?」
「あ?見て分からねぇのか?飯を作るんだよ。」
「なに!?ここでか!?」
「……一体何の真似?空腹に苦しむ私達の前で料理を作って、それを見せつけるようにして食べるつもり?材料までわざわざ用意して、相当用意周到だね?」
空井と風倉は俺様を睨みつけながら恨みのこもったような目でそう言ってくる。
「……は?何言ってんだお前ら。何で俺様の食うメシをこんなとこで作らねぇといけないんだよ。」
「じゃ、じゃあどうしてこんなところで料理を……」
「決まってんだろ。お前らに食わせるためのメシを作るためだよ。」
「……私達の?」
目を丸くし、呆けたようにそう言う月雪。
そんな彼女達に構わず、俺様は並べた食材の中から人参を取り出すとピーラーで皮を向き始める。
「……ふざけないでください。じゃあ何故そんな大量の食材を持ってここへ来たのですか。」
「それは話せば長くなるけど、まぁ簡単に言うと使う予定だったのに使わなくなったから余ったって所だ。」
「よく分かりませんが、先程も言いましたけど私達は何の不自由もしていませんので……」
「うるせぇな、腹減ってんだろうがお前ら。いいから黙って待ってろ。」
「ちょ、ちょっと……!」
眉を顰めてそういう月雪にそれだけ言って焚き火に向き直ると、俺様は皮を向いた人参を一口大に切っていく。
その後も後ろでギャーギャーと文句を言ってくるRABBIT小隊を適当にあしらいつつ、俺様は黙々と手を動かして料理を作るのだった。