あれから焚き火の横でワーワーと騒ぐRABBIT小隊を横目に、ひたすら手を動かして料理を作り続けた俺様。
現在そんな俺様の目の前には、簡易テーブルの上に所狭しと並べられた渾身の自信作である料理達がホカホカと湯気を立てながら大量に鎮座していた。
メニューは持ってきていた鍋を使って炊いた炊きたての銀シャリに、生姜と焦がし醤油の香りが食欲をそそる豚の生姜焼き(付け合せのマヨネーズ尽き)、野菜サラダにヒヤヤッコ、体に嬉しい野菜のポタージュスープ、デザートに杏仁豆腐とカットしたリンゴ。
それを紙皿に4人分、それぞれ腹減ってることを考慮して大盛りで盛り付けて……といった感じだ。
うーん、我ながら会心の出来だな!
特にこの豚バラ肉で作った生姜焼きなんて食べ盛りのこいつらにとってはご馳走だろう!ハッハッハ!
それにもちろん、SRTから出てきてからは戦闘糧食しか食ってないこいつらの栄養状態も考えて食物繊維や緑黄色野菜が取れるように野菜ポタージュも作った。
甘めの味付けだから野菜のエグさも感じず飲みやすいだろうし、ポタージュが嫌ならこっちに野菜サラダも用意してあるからこっちを食って野菜を補給しても良い。
「よし出来たぞ!さ、遠慮せずに食えお前ら!」
湯気を立てて簡易テーブルに並べられた料理を両手を広げて見せつけながら、RABBIT小隊へ向けて渾身のドヤ顔を浮かべる俺様。
目の前のRABBIT小隊の4人はテーブルに並べられた料理を食い入るように見つめ、みんな一樣にキラキラとした表情を浮かべていた。
「こ、これは……」
「お……美味しそう……」
「……ま、まぁアンタがどうしてもって言うなら?食べてあげないこともないけど?」
月雪達は腹を鳴らしつつ物欲しそうな表情を浮かべたまましばし固まっていたが、やがて我慢の限界に来たらしい風倉が手を付けようと手を伸ばす。
「……待ってください。」
だが月雪は先ほどのキラキラした目をすぐに仏頂面へ戻すと、口元から垂れた透明な液体を袖で拭いながらそう言い放った。
「簡単に受け取ってはいけません。」
「いや、腹減ってるんだろ?いいから食えよほら。」
「……追い詰められた環境において重要な物資を提供する素振りを見せ、その見返りとして更に大事なものを要求するのはよくある手口です。真意もわからないまま受け取るわけには行きません。」
月雪は俺様を睨みながらそう言うと、厳しい口調でキッパリとそう言い放つ。
「……別にお前らに見返りなんざ求めてねぇよ。」
「はっ、その話を信じられるとでも思ったか?元々作戦時は持参したもの以外を胃に入れないなんてのは当たり前のことだ。安全性も保証されてない食べ物をそうやすやすと口にするわけがないだろ。」
……なるほど、要するに早い話が俺様の用意したものなんて信用できないから食えないってことか。
「心配すんな、別に毒なんて盛ってねぇよ。いいからつべこべ言わずさっさと食いやがれ。腹減ってんだろ。」
「……結構です。そんな形で私達を懐柔しようとしても無駄なこと。」
「おぞましい手段を使ってくるじゃん?何?見返りに私達の体でも要求しようっての?」
「か、体だと!?一体何をさせる気だこの変態!」
「やっぱり世の中は醜いものなんだ……」
「……あのなぁ。お前らは人の善意は素直に受け取るもんだって習わなかったのか?」
ワーワーと俺様を非難してくるRABBIT小隊の面々を見つつ、俺様はため息を吐く。
「バカなことを言うな。SRTでも習ったが戦場で信用できるのは仲間だけだ、この前まで敵だったお前の善意など信じられるわけがないだろ。」
「大体、貴方がわざわざ用意した食材を使って私達に料理を用意することにメリットがあるとは思えません。」
「そーそー、絶対なにか裏があるって思うじゃん。」
「だから別に裏なんてねぇし、この食材は使う予定だったものが余ったもんだってさっきも言っただろ。」
額に手のひらを当て、俺様は呆れたようにそう呟く。
「では、何故私達に……」
「……正直、俺様はお前らのことは気に食わない。お前らは自分達の信念を掲げちゃいるけど、その実は何の責任も取らずにただワガママを言ってるだけの子どもだ。」
「なっ、なんだと!?」
「……けどな、腹減ってるやつをほっとけるかよ。飯が食えねぇってのは何よりも辛いんだ。だから俺様はお前達にメシを作った。それ以上でもそれ以下でもない。」
俺様は目の前に並べたメシを見ながら淡々とそういう。
……そう、飯が食えないってのは何よりも辛い。
俺様はそれを誰よりも知っている。
空腹でまともな思考なんてできなくなるし、イライラしてネガティブになるし、体だってフラフラして、そのうちゴミ箱を漁って生ゴミにかじりつくようになる。
生ゴミってのはクセェし不味いんだぞ?
正直言って、あんなもん人間の食うもんじゃねぇ。
……そんな思いは、こいつらにはにして欲しくない。
俺様と同じ目には合ってほしくないんだ。
確かにこいつらは市民に危害を加えようとしたテロリストだし、先生の大甘な処分には納得は行ってない。
けど、それとこれとは話が別だからな。
目の前で飢えに苦しんでいる奴をほっとける訳がない。
「だから腹減ってるなら食え、別に何か対価を求めようなんて考えてねぇし毒なんか盛ってねぇよ。ただ目の前で飢えてる奴をほっとけないだけだ。腹減ってるやつの気持ちは痛いほどよく分かるからな……今回お前達にメシを作った理由はそんだけだ。」
「……理解できません。何故貴方は何の見返りも求めずに憎んでいる私達に食料を提供するのですか?」
「あ?そんなの決まってる。」
怪訝な表情でそう問いかけてくる月雪に対して、俺様はさも当たり前のように口を開いた。
「人を助けるのに理由はいらないからな。」
そう、人を助けるのに理由なんてものは必要ない。
……そうだろ?ドラゴンマン。
「……理解不能です。」
そう言って信じられないと言った表情を浮かべる月雪。
「……確かに空腹はあります。不便です。それは認めましょう。それでもこうしなければ私達の信念は、SRTの誇りは守れない。それを差し出してまで悠々自適な生活などはいらないのです。」
「そいつは結構なことだが、誇りや信念で腹が膨れるなら苦労はしねぇんだよ。良いから御託を並べてねぇでさっさと食え、折角の料理が冷めちまうだろ。」
強情な月雪達に業を煮やした俺様はテーブルから豚の生姜焼きを手に取り、彼女達の前へと差し出す。
「くぅっ……!」
「いい匂い……ますますお腹が空いてきた……」
「ね、ねぇミヤコ。ちょっとくらいなら良いんじゃないの?これじゃ生殺しだよ!こいつだってここまで言ってるなら大丈夫だって!きっと!多分!」
「だ、ダメだモエ!こういう時こそ深呼吸だ!薬物への拷問の対処として学園でも習っただろ!脳が刺激されたところで、意思が折れなければ問題ない!」
……ったく、とことん強情だなこいつら。
何で俺様はこんな連中にメシを作った挙げ句、無理やり食わせようと説得してんだろうな……
まぁでも、腹が減っている相手を放って置くなんてことが俺様に出来るはずもないから仕方ねぇんだけど。
「お前達に誇りや信念があるのは分かった。その誇りを抱えて死ぬってんなら俺様にはもうどうしようもないけどよ、今ここでこれを食って生き延びれば見えてくる明日だってあるんじゃないのか?それにお前らはここでデモを継続するんだろ?ならこんな所で志半ばで倒れてていいのか?」
「ですがそれでも……」
「あーもううるせぇ!つべこべ言わず黙って食えって言ってるだろ!いいか、食いもんがあるってのは幸せな事なんだぞ!?お前らだって食う物に困りすぎて生ゴミを食いたくはねぇだろ!?」
「生ゴミ!?いや、いくら腹が減ってるからってそこまで人の尊厳を捨てた行為なんかしないぞ!」
「良く分かってんじゃねぇか!だったらピーピー騒がずにさっさと食え!ほら、お前の分だ空井!」
俺様は手にした生姜焼きを空井の目の前に差し出しつつ大声を挙げながらそう叫ぶ。
「SRTから習ったとか、人の善意を信じられないとか今はそんな事どうでもいいだろ!?食わなきゃ人は死ぬ!誇りだの意地だの、どんな屁理屈をこねくり回そうがそれだけは真実だろうが!俺様はお前達がこれ以上飢えで苦しむのを見てられねぇんだよ!いいから食いやがれこのわからず屋のバカウサギどもが!」
「お前……どうしてそこまで……」
「……言っただろ。人を助けるのに理由はいらねぇんだよ。だから頼むよRABBIT小隊。食ってくれ。」
俺様は空井の目を真っ直ぐに見据え、訴えかけるように絞り出すような声でそう言った。
空井はそんな俺様の目を見返してくると顔を伏せてしばし考え込むような仕草を見せたが、やがて顔を上げると俺様の手にした生姜焼きを引ったくった。
「か、勘違いするなよ!?これは……そう!お前じゃなくてこの生姜焼きに使われた豚肉が可愛そうだから仕方なく食うだけだからな!?いいなタツミ!」
「やっとその気になったか……おう、もうそれで構わねぇよ。出来立てで熱いから気をつけて食うんだぞ。」
「言われなくても分かってる!」
空井はそう言って満面の笑みを浮かべてテーブルに付くと、自分用に紙皿に盛られた料理に手をつけ始めた。
「おい待て空井!腹が減って限界なのは分かるがまず食前の挨拶からだ!ほら、さんはい!」
「いふぁふぁきまふ!」
「バッカお前口にもの入れて言う奴があるか!」
「ガツガツ……!」
「はぁ……まったく。料理は逃げねぇからゆっくり食うんだぞ、急いで食うと胃がびっくりするからな。」
「むしゃむしゃ……!」
「……おい、聞いてんのかお前。」
口いっぱいに料理を頬張りながら俺様の言葉を話半分でスルーし、無我夢中で料理を食べる空井。
……まぁよっぽど腹が減っていたんだろうし、今回だけは大目に見てやるとしよう。
「サキ!?」
「あーっ!サキだけずるい!私だって食べるからね!」
「モエ!?ま、まってください……!」
「……ミヤコちゃんごめん。流石に私ももう……我慢出来ないよ……!」
「そ、そんな!ミユまで……!」
空井が料理をすごい勢いでかき込み始めたのを見て今まで我慢していたらしい風倉と霞沢も流石に我慢の限界が来たようでそれぞれの席につくと「いただきます!」と食前の挨拶をし、俺様の用意した料理を口いっぱいに頬張り始めた。
かなり久々の食事だったのだろう。
彼女達は皆一樣に満面の笑みを浮かべており、とても美味そうに俺様の作った料理を味わっていた。
うんうん、やっぱり誰であってもこうやって俺様の作った料理を美味そうに食ってくれるのは嬉しい。
それでこそ作り甲斐があるというものだ。
……しかしこいつら、笑うと年相応に可愛いんだな。
思えばRABBIT小隊とは敵対していたときからお互いに仏頂面でしか接してなかった気がするから、新鮮さも合って余計にそう思えるのかも知れないが。
「さ、お前も食えよ月雪。隊員達が食ってるなら、隊長であるお前も食わないと示しがつかないよなぁ?」
「……私には正直、貴方が何を考えているのかは理解できません。ですが……今回だけは、貴方の好意を素直に受け取っておくとしましょう。」
「あぁ、そうしてくれ。」
「ただし、礼は言いませんからね。それにこんなことをしても私達が貴方に心を許すことはありません。」
「おう、構わんぞ。これは俺様の自己満足だからな。」
俺様は月雪に対して不敵な笑みを浮かべながらそう言うと月雪は隊員達が食事をしている笑顔を見て毒気が抜かれたのかどうかは分からないが、やがて仏頂面を崩してほんの少しだけ笑みを見せながら口を開いた。
「……変な人ですね。」
「あぁ、よく言われる。さ、とっとと席につけ。冷めない内に食うといい。ただし食前の挨拶は忘れんなよ?」
「……はい。いただきます。」
そう言うと、月雪は空井の横の席に付くと手を合わせて挨拶をした後に俺様の用意した食事を口へ運び始める。
俺様はやっと4人揃って食事を美味そうに食うRABBIT小隊を見ながらうんうんと頷くと、テーブルの横で焚かれた焚き火にくべられた鍋を拾い上げる。
「……あ、美味しい。」
無我夢中で料理にがっつく空井や風倉、静かにだけど笑顔を浮かべながら夢中になって料理を食べる霞沢。
その横で豚の生姜焼きを口へ運んだ月雪は、今までで一番の笑顔を浮かべながらそう言った。
「だろ?自信作だからな。」
「はっ……!い、いえ。まぁまぁですね。私達の先輩が作ってくれたお稲荷さんのほうが美味しいです。」
「おぉそうか?ならその先輩とは良い料理談義ができそうだな。いつかその人の料理も食ってみたいぜ。」
月雪は少しだけ顔を赤くしてそう言うと、すぐにいつもの仏頂面に戻るとそのまま黙々と白米をおかずに生姜焼きを食べ始めた。
その横を見ると空井は白米を無我夢中でかきこみ、風倉はニコニコしながら野菜スープを飲み、霞沢も笑顔を浮かべながらサラダを食っていた。
「どうだ?美味いか?」
「……あぁ、悔しいがめちゃくちゃ美味い。」
「こんな才能があったなんて、女体に興味があるだけのスケベ野郎じゃなかったんだねー。くひひ。」
「……おい風倉。お前の料理だけ今から全部レタスに変えてやってもいいんだぞ?」
「はぁ!?何でさ!?」
「俺様をスケベ野郎呼ばわりするからだろうがバカ!」
ったく、腹が満たされてきてちょっと余裕が出てきたからって調子に乗ってんじゃねーぞ!
「ん?おい空井。お前肉ばっか食ってんじゃねぇか。ちゃんと野菜も食わないとダメだぞ。」
「仕方ないだろ!この生姜焼きが美味いんだから!」
「そいつは光栄だが、米と肉だけじゃ栄養が偏るだろうが。お前ら缶詰や戦闘糧食しか食ってないんだろ?なら食物繊維やビタミンが圧倒的に不足してるはずだ。野菜嫌いでもちゃんと飲めるようにポタージュにしてあるから、それもキッチリ飲むんだぞ。」
「うるさいな!お前は私達のお母さんか!?」
「はぁ!?お前らみたいなじゃじゃ馬の親になんてなりたかねぇよ!」
「なんだと!?」
ってか、どうでもいいけど口に物を入れたまま喋んじゃねぇよ空井!行儀が悪いだろうが!
「美味しいね、ミヤコちゃん。」
「はい。美味しいです。それに何でしょう、この料理には何か温かみのような物を感じますね。まるでニコ先輩のお稲荷さんのような……味は遠く及びませんけどね。」
「……その割には結構美味しそうに食べてない?」
「う、うるさいですよミユ。そういう貴方だって美味しそうに食べているではありませんか。」
「うん。だって美味しいからね。」
「……ふふ、そうですね。」
空井と風倉がワーワーと騒ぎ立てる横で、月雪と霞沢は何やらコソコソと話をしながら飯を食っている。
うんうん、二人とも笑顔が戻ってきたようで何よりだ。
小声だから何を言ってるのか分からないけど、メシを食って腹一杯になったら少しは余裕も出ることだろう。
「さ、食い足りないならお代わりもあるからな。遠慮せずに好きなだけ食うといいぞ。」
「何!?本当か!?なら私は生姜焼きのお代わりを……」
「お前はまず野菜を食ってからにしろ空井!ちゃんと皿が空になってからなら入れてやる!」
「あ、この杏仁豆腐美味しい。これもお代わりしていいの?えーっと……変態男。」
「誰が変態だテメェコラ風倉ァ!心配しなくてもちゃんと用意してらぁ!ただし全部ちゃんと食ってからだぞ!いいな!?」
「あ、あのタツミくん……私もお代わりを……」
「ん?おぉ!きちんと全部食ったんだな!よし、皿を貸せ霞沢!ご褒美に山盛りにしてやろう!」
「あっ、ミユだけずるいぞ!」
「えこひいきすんなー!」
「うるせぇじゃじゃ馬どもが!ほら、早くサラダを食っちまえ!食いにくいならドレッシングも用意してあるからこれを使え、ほら!」
「……SRT以来でしょうか、こんな風にみんなでテーブルを囲んで騒がしく食事をするのは。久しく無かった光景ですが……たまには、悪くないかも知れませんね。」
騒ぐ空井と風倉、笑顔で俺様からお代わりを受け取る霞沢、何故かしんみりしている月雪。
そんな彼女達とともに、騒がしい食事タイムは過ぎていくのだった。
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「ふー食べた食べた!もう入らないぞ!」
「一生分の生姜焼きを食べた気分だねー、くひひっ。」
「デザートの杏仁豆腐やリンゴも美味しかったし、お腹もいっぱいになって満足……」
「……悔しいですが、本当に美味しかったですね。」
目の前で大きくなったお腹を擦りながら満足そうな表情を浮かべ、そういうRABBIT小隊の面々。
そんな彼女達を横目に俺様は使った食器を洗って片付けたり、思ったより彼女達が食うから追加で何品か作ったけど残った料理達をタッパーに詰め込んだりなどの後片付けを行っていた。
結局、あの後腹が減っているだろうということでかなり多めに作った料理の殆どを平らげたRABBIT小隊。
余程腹が減っていたようで途中で空井が米を喉につまらせそうになったり、勢い良く食いすぎて気分の悪くなった霞沢の背中を擦ったりとまぁ色々あったもののみんな腹一杯になってくれたようで俺様としても満足だ。
「……ん?タツミ。何をしているんだ?」
そんな事を思っていると、ふと俺様が作業をしているのに気づいたらしい空井が声を掛けてくる。
「これか?まだ食材が余ってたから、せっかくだし日持ちする料理でも作ってやろうかと思ってな。お前ら、クーラーボックスくらいは持ってきてるだろ?」
「あぁ、SRTでキャンプをする際に確保した食料の保存は重要だったからな。しっかり持ってきているぞ。」
「なら、このタッパーを渡しておくからクーラーボックスで保存しとけ。一応日持ちするように加工はしといたけど、足の早い食材も使ってるから早めに食えよ。」
そう言って、俺様は彼女達の食事中に追加で作った比較的日持ちのする料理を入れたタッパーを空井へ手渡す。
「とりあえずそれくらいあれば数日間は持つだろ。ちゃんと考えて食うんだぞ?」
「あ、あぁ。……助かる。ありがとう。」
「おう、気にすんな。どうせお前らが食い終わるまでは暇だったからな。」
どこか面食らったような表情を浮かべてそういう空井に対して、俺様はしれっとそう言った。
空井は俺様の言葉を聞いて不思議そうな顔をしつつも、タッパーをクーラーボックスへ入れるために真横に張られたテントの中へと入っていく。
「さて月雪。とりあえず使ってない食材とか炊いてない米も置いてってやるからしばらくはそれでなんとかやり繰りしてくれ。SRTでキャンプの訓練もしてたなら、メシの作り方くらいは分かるだろ?」
「え、えぇ……分かりました。そうさせてもらいます。」
俺様は月雪に対してそう言うと、リュックの中から残っている食材を取り出して全てRABBIT小隊の本拠地であるテントの中へと置く。
彼女達の本拠地であるテントの中には恐らくSRTから持ち出してきたであろう機材が大量に置かれており、その中には見たこともない小型のミサイルや爆弾、見るからに性能の良さそうな小銃などが置かれていた。
……正直、これらを売っぱらっちまえばしばらく食うことには困らない金になりそうなもんだけどSRTの装備ってのは世間一般では「違法」扱いされるほどには強力でデタラメな火力を誇る危険なものだからな。
最悪ブラックマーケットに流れちまう可能性も考えるとそうやすやすと売っぱらうって訳にもいかないだろう。
しかし、そうなると今後のこいつらの生活が心配だな。
「……で、お前らこれからどうするんだ?連邦生徒会にここで抗議を続けるのは分かったけど、現実問題としてメシが食えねぇのは致命的って話じゃないだろ。」
「それは……そうですが……」
俺様がそう言うと、月雪は苦い顔をしながら小さな声でそう言葉を絞り出した。
……まぁ先生からの許しを得てこの公園でキャンプをしているとは言え、何日もメシを食っていなかったりとこいつらは現状満足な生活を送れている状態ではない。
更にこいつらは今着ている服がシワシワかつ、髪が少し傷んでいる状態だ。
見る限りでは、恐らくシャワーすら浴びれずに濡れタオルか何かで体を拭くことしか出来てないんだろう。
俺様だって1日シャワーを浴びれないだけで結構気が滅入るというのに、女の子であるこいつらがそれを苦痛に感じない訳がないだろうからな。
月雪達は最初、先生からシャーレで暮らさないかって誘いを受けていたけどそれを自ら断っている。
少なくとも、シャーレで暮らす道を選んでいれば毎日腹いっぱい飯は食えただろうしシャーレの風呂にも入れて空調の効いた部屋で寝泊まりが出来たはずだ。
けど今のこいつらの現状はメシも満足に食えず、シャワーすら浴びれない日々。
いくら自分達で選んだ道とは言え、あまりにも茨の道だという他ないだろう。
このまま現状を維持するのであれば安定して4人が食える食料を確保する方法を見つけるのが急務だけど、そんな都合のいい方法が簡単に見つかるとも思えない。
今回はたまたま俺様が居たからいいけど、このままではこいつらはそのうち飢え死にしてしまうかもしれない。
まぁ先生が気にかけているだろうからそんな事はないだろうけど、こいつらが飢えで苦しむのは俺様は嫌だ。
確かにこいつらはテロを起こした挙げ句、処罰という処罰を受けていない連中ではあるけども……
飯が食えない辛さは俺様は痛い程に分かってる。
まぁそれに市民に危害を加える可能性があったことについては反省の念はあるようだし……野垂れ死にでもされたら寝覚めが悪いからな。
「今から先生に頼んでシャーレに泊めてもらうってのは無しなのか?正直、お前達の生活がどこまで持つかはわかんないんだぞ?」
「先程も言いましたが、私達がシャーレで快適な生活を送っていては連邦生徒会への抗議にはなりません。ですので、何と言われようとシャーレの世話にはならない。これはRABBIT小隊全員の意思です。」
「あぁ、シャーレに行った所でちゃんとした規律や訓練がある訳じゃないからな。」
「それにどうせ危険物の取り扱いは禁止されているだろうしね。そんなのつまんないじゃん。」
「それに先生を急に信じるのは……ちょっと……」
月雪が口を開いたのを皮切りに、次々と自分の意見を口にしていくRABBIT小隊。
「それは今の現状を鑑みてもか?飯を食えず、風呂にも入れず、いつ破滅してもおかしくない今の生活を続けてでも……お前達は、この公園でデモを続けるのか?」
「……はい。私達のSRTへの思いは変わりません。SRTを去る事を私達は絶対に認めない。SRTの復興を諦めることはしない。私達の信じる、SRTの正義のためにも。」
月雪は真剣な表情を浮かべると、俺様の目を真っ直ぐに見据えながら迷いのない口調でそう言い切った。
……なるほど、相当意思は固いみたいだな。
今思えば、こいつらはSRTの閉校に反対するためにたった4人であんな大規模なデモを起こすほどなんだ。
SRTへ対する思いは、間違いなくキヴォトスに居るどの生徒よりも強いものなのは間違いないだろう。
正直、こいつらがそれぞれどんな思いを抱えていてどんな思いでこの公園に居座っているのかは分からない。
こいつらがここまでして掲げる「正義」ってのも、俺様にはよくわからない。まぁ分かったとて別にそれを否定するつもりなんてのは微塵もないけどな。
けどこいつらはそれぞれ理由は違えど、それぞれが月雪の言う「正義」を志してSRTへ入学したはずだ。
それはもしかしたら空井のように厳格な規律を求めてなのかも知れないし、はたまた風倉のように超火力の銃火器を扱えるからと言う理由なのかも知れない。
なら俺様に彼女達の思いを、SRTへ入学するに至った気持ちを、このデモを続けることを辞めさせる権利なんてものはあるはずがないだろう。
「……分かった、そこまで言うなら俺様はもう何も言わねぇよ。先生から許可も出ているようだし、これからもここでデモを続ければ良い。」
「……貴方に言われなくてもそうさせてもらいます。」
月雪は先ほどまでの真剣な顔から仏頂面へと表情を変えると、ぶっきらぼうにそう言い放った。
……まぁこいつらがここでデモを続けるということは七神代行の胃に今後もダメージが入り続けることは確定しているから、彼女のケアもしていかないといけないな。
救いなのは七神代行がRABBIT小隊の気持ち自体は理解していることと、法案が通ってしまっては居るけどなんとかしてSRTを復興出来ないか方法を模索する気自体はあるということだろうか。
とは言え、一度議会で通ってしまっている法案をそう簡単に覆すなんてのは不可能だからな。
まぁ、そこは不知火防衛室長も動いてくれているようだし今は彼女達に任せる他ないだろう。
こいつらにはそのことを……いや、今は伝えないほうが良いな。七神代行や不知火防衛室長が動いているとは言えやはりSRTが復活する可能性ってのは現状ゼロに近い。
なら、変な希望をもたせるのは良くないだろうからな。
「タツミさん。今回は空腹の私達を助けていただいてありがとうございました。ですが私達はタツミさんのことは信用していません。今回の件は感謝していますが、温情をかけていただいた所でそれは変わりませんので。」
「おう、さっきも言ったけどこれは俺様の自己満足だから別に構わないぞ。それに、俺様だってお前達からの信頼を得るつもりは別にないからな。」
まぁ今回は空腹で死にかけているこいつらの事を見て見ぬふり出来なかったから助けたけど、よくよく考えたら別に必要以上にこいつらと関わる必要はない訳だし。
まぁ、流石にメシの確保すらままならない現状のままデモを続けるってのは心配だけど。
……はぁ、仕方ないな。
こいつらからあまりいい顔はされないだろうけど、これからもDU地区に来たときは食材を持って子ウサギ公園に寄って無理矢理でもメシを食わせてやるとするか。
風呂の方は……まぁ、後で先生にモモトークで相談でもしておくとしよう。
流石に華の女子高生が、同年代の男子から風呂に関してなんやかんや言われるのは嫌だろうからな。
ついでにこいつらが食うことに困っていることを伝えといても良いかもしれない。
俺様だって日々の仕事があるし、給食部の手伝いや梅花園にも行きたいし、いくら矯正局への面会のついでとは言えそんな頻繁に来られるわけでも無いだろうからな。
「……んじゃ、俺様はそろそろ帰るとするわ。」
「はい。……ありがとうございました、お気をつけて。」
「飯は美味かったけど次に会う時は敵同士だからな!」
「ま、ご飯食べさせてくれた件に関しては感謝してるよ。ありがとねタツミ。」
「うん……ご馳走様、美味しかったよタツミくん。」
「あぁ。ま、お前らも元気でやれよ。それじゃあな。」
こうしてRABBIT小隊と別れた俺様は、子ウサギ公園を出てゲヘナへと帰還するために駅へと歩き出した。
相変わらず俺様に対しては塩対応だけど……まぁ別に仲良くして欲しいってわけではないし、無理強いするのもあれだからあまり気にしないことにしておこう。
ちなみにその後すぐ先生にモモトークでこいつらの生活環境を伝えると「分かった、すぐになんとかするよ」との返信が返ってきた。
それならば、もう心配は要らないだろう。
「次行った時はどんなメニューにするかなぁ……」
そんな事を考えつつ、俺様は駅から電車へ乗車してゲヘナへと帰還するのだった。
なおその夜、疲れ切った七神代行から通話がかかってきて普段からは考えられないような口調で管を巻かれたのだが……それはまた別のお話。