転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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RABBIT小隊との交流が続きます


ウサギ達の志しと丹花タツミ

時は太陽がだいぶ西に傾き、そろそろ空が赤くなろうかという所。

DU地区、子ウサギ公園に張られたRABBIT小隊のテントの前にて。

 

俺様は石と木で組まれた焚き火の上で熱されたフライパンを振りつつ、その横で火にかけた鍋をちょいちょい気にしながらの野外調理を行っていた。

ちなみに今日のメニューは豆腐ハンバーグとなめこの味噌汁だ、米は既に炊きあがっているから安心だな。

 

「おいタツミ、まだ出来ないのか?」

「見りゃ分かんだろ、まだ調理中だ。腹が減ってるのは分かるがお行儀よく待ってるんだな。」

 

俺様の横でボウルにサラダを盛り付けながらブーブーと文句を言う空井に対して、俺様は視線をよこすこともなく一言だけそう言った。

 

「それよりサラダの準備は出来たのか?こっちはそろそろ出来上がるからぼちぼち仕上げてくれよ?」

「今やってるよ。くそ、何で私がお前の料理の手伝いをしなきゃならないんだ……」

「はぁ?お前らが食う分の飯を作ってるんだから手伝いくらいはしてもらわねぇと困るんだが?」

「それは分かってるけど何で私だけなんだよ。ミヤコとかモエとかミユにもさせればいいだろ。」

「しょうがないだろ。月雪と風倉はエンジェル24に行ってるし霞沢は哨戒中だ。キャンプに残ってんのがお前しかいないんだから文句言ってないでキリキリ働け。」

「ちぇっ……」

「……分かった。仕方ないからお前の分のハンバーグは一個おまけしといてやるよ。」

「何!?本当か!?よーし、見てろ!絶対に綺麗に仕上げてやるからな!」

 

俺様の言葉を聞いた空井は目を輝かせると、それまでは渋々といった感じで行っていたサラダの盛り付け作業のスピードを俄然アップさせる。

あまりにも現金なその様子に思わず笑ってしまいそうになるが、まぁこれはこれで扱いやすくていいかもな。

 

RABBIT小隊に初めてメシを作ってやった時からしばらくが立つが、あれから俺様は矯正局の面会等でDU地区に用事がある時は子ウサギ公園へちょくちょく顔を出しては腹をすかせたこいつらに飯を作るようになっていた。

もちろん最初は究極塩対応で作った料理を中々食ってもらえない時もあったが、何度かそれを繰り返している内にそのうち拒否無く料理には手を付けるようになった。

 

その過程で空井を始めとしたRABBIT小隊の面々ともわりと会話を交わすようになり、前のような険悪なムードではなくなった……と思いたい。

まぁ、険悪じゃなくなっただけで月雪辺りからはまだまだ塩対応気味だけどな。

ただ、空井や風倉とはまぁまぁ普通に話せる仲にはなってきてるんじゃないかとは思う。

霞沢には……なんか避けられている気がするけども。

 

ちなみに、こいつらの食料問題に関してだが先生に相談した所シャーレのオフィスに入っているコンビニであるエンジェル24から出た廃棄品の弁当や食料品の類を横流しする……と言う形で解決することになった。

まぁ本来なら廃棄品の横流しは良くない行為ではあるんだけど、どうせ捨てちまうものなら食うものに困っているこいつらに渡すってのは理に適ってはいる。

 

というのも、あのコンビニはシャーレのオフィスの1階にあるから基本的に買い物に来るのは先生とその日当番でシャーレを訪れる生徒くらいしかいないのだ。

俺様もシャーレの当番に行くときは使ってるけど、働いている店員さんも暇そうにしていたしあの様子だとあまり人の出入りが多いとは言えず廃棄品の量も結構なものになってもおかしくはないからな。

少なくともこいつら4人分が食えるくらいの量はあるらしいし、とりあえずは一安心といったところだろうか。

……まぁ、食あたりにだけは気をつけてほしいけどな。

 

という訳でRABBIT小隊の食糧問題事情はひとまず解決したのだが、じゃあ何で俺様がこうして子ウサギ公園へ炊き出しに来ているのかと言うと……

まぁ単純に言えば栄養バランスの面が心配だからだな。

 

知ってのとおりだが、こいつらが主食としているコンビニ弁当には基本的には野菜が入っていない。

入っていたとしても申し訳程度に脇に添えられている程度で、それだけではとてもじゃないが成長期であるこいつらの体を作っていくにはあまりにも心もとない。

という訳で、不足している食物繊維や緑黄色野菜をキッチリとこいつらに食わせるためのその辺を重視したメニューを組んで炊き出しに来てるって訳だ。

まぁ空井は野菜がそんなに好きじゃないみたいだから、食わせるのが結構大変だけどな……

 

え?理由はそれだけなのかって?

……そうだが?むしろそれ以外に何か理由があるのか?

まぁ強いて言うならこいつらが食ってるのは廃棄品だから必然的に賞味期限の切れた物が多く、品質が心配だからたまには温かい物を食って欲しいってのもあるか。

 

しかし、最近は給食部で調理したり梅花園で子ども達のおやつを作ったりシャーレで先生のメシを作ったり矯正局への差し入れを作ったり……なんか、料理しかしていないような気がするのは気の所為なのだろうか。

 

あと、風呂に関してもこれまた先生の協力を得てどこかからドラム缶を調達してきたらしく今はそれを使って毎日きちんと風呂に入れているらしい。

まぁ野外でドラム缶風呂ってもどうなんだって思わなくはないけど、シャワーすら浴びれていなかった頃に比べたらよっぽど良いのは間違いないだろうからな。

少なくとも濡れタオルで体を拭いていた頃に比べたら格段な進歩であることは確かだ。

こいつらも女の子なんだし、風呂には入ってほしかったからその点では一安心といったところだな。

ちなみに初めに入るときに先生も一緒に入ってその際になんやかんやあったらしいのだけど……それは今ここで言うことじゃないだろう。

 

まぁそんなこんなで、最初は食うものにすら困っていたRABBIT小隊の生活は今は安定したものになっている。

正直まだこいつらに対して思うところはあるけど、俺様としても野垂れ死なれるのは寝覚めが悪かったからとりあえずは一安心といったところだろうか。

 

「おーい!サキー!」

 

そんな事を考えていると、俺様の後ろから空井に向かって呼びかける聞き覚えのあることが聞こえてきた。

フライパンに乗っかっている焼き上がったハンバーグを更にうつしてからそちらを向くと、そこには空井に向かって手を降る両手いっぱいにエンジェル24のビニール袋を抱えた風倉と月雪の姿があった。

 

「おぉモエ!今日は大量だな!」

「でしょ!なんか間違えて大量に発注しちゃったらしくて色々もらえたんだ。これでしばらくご飯の心配をする必要はなさそうだねー。くひひっ。」

 

空井はそんな風倉に駆け寄るとそう言葉を交わすと、エンジェル24の袋の中身を覗き込みながら顔をほころばせていた。

そして心無しか、袋を抱えている月雪と風倉の表情にもまた笑顔が浮かんでいるように見える。

……まぁこいつらにとっちゃ廃棄品がどれだけもらえるかってのは自分達の生活に直結することだからな。

嬉しいのはそりゃ当たり前のことだろう。

 

「おかえり月雪、風倉。しかしこりゃまた大量にもらってきたもんだな……」

「あ、タツミじゃん。やっほー。」

「おう風倉。そろそろメシが出来るから手を洗って来い。今日のメニューはハンバーグだぞ。」

「マジ!?分かった、ダッシュで行ってくるね!」

 

風倉は俺様の言葉を聞いて目を輝かせ、手にしていた大量のビニール袋をテントの中へと置くとこいつらが普段遣いしている公園の水道へとダッシュしていく。

 

「……貴方におかえりと言われる義理はないのですが。」

「あーはいはい分かった分かった。お前もちゃっちゃと手を洗ってこい月雪。あと、そろそろメシ出来るからついでに霞沢も呼んで来てくれねーか?あいつ俺様が声を掛けても怖がって中々出てきてくれねーからさ。」

 

俺様を見るなり仏頂面を浮かべて冷えた声を出す月雪に対して、俺様はしれっとそう言った。

霞沢の奴は子ウサギ公園で戦った時もそうだったけど、どうにも気配を消すのが上手いみたいでそれに加えて人見知りなのか俺様が来ると基本的に哨戒に行くと行って公園のどこかに身を潜めちまうんだよな。

まぁ気配を辿ること自体は不可能ではないから彼女の元へは普通にたどり着けるんだけど、やっぱりまだまだ警戒されているのか俺様が声を掛けると体を震わせてゴミ箱に引きこもっちまうことが多い。

いやまぁゴミ箱に引きこもるってのも衛生上どうなんだと思わなくもないが……風呂に入ってるならまだ大丈夫なのか……?

 

まぁそれはともかくとして、俺様の見た感じだと霞沢はRABBIT小隊の中では月雪に一番懐いていると言うか心を許している感じがする。

そういうわけだから、霞沢を呼ぶのであれば月雪に頼むのが現状一番てっとり早いわけだな。

 

「……言われなくてもそうさせていただきます。」

 

俺様がそんな事を考えていると、月雪はぶっきらぼうにそうとだけ言い放って手にしたエンジェル24の袋をテントに置くと霞沢を呼びに子ウサギ公園の茂みの中へと迷わずに入っていった。

 

「うーん……」

 

そんな彼女の後ろ姿を見て、俺様はため息を吐いた。

憎まれ口を叩きつつも普通に話せるようになってきた空井や元々わりかし気安く話せていた風倉、警戒こそされているもののやり取り自体は普通な霞沢と比べると月雪は未だに俺様に対してあんな風に塩対応が続いている。

 

まぁ俺様とて別にこいつらと仲良しこよしをしようって訳じゃないから別に良いんだけど、せっかく炊き出しに来ているんだからせめて普通に話してくれてもいいんじゃないだろうかと言う風には思わなくもない。

……まぁ態度こそあんなんだけど、飯を食ってる時は遠慮なくお代わりしてくるんだけどなあいつ。

 

「……何だ?落ち込んでるのか?」

「……え?」

「別にそんなに落ち込まなくてもミヤコはいつもあんな感じだろ。全く、相変わらず愛想がないんだから……」

「いや、それを言うならお前も大概だぞ空井。」

「なんだと!?」

「おーいタツミー。手ぇ洗ってきたよー。」

 

空井とそんなやり取りをしていると、手を洗い終えたらしい風倉がこちらへと走り寄ってくるのが見えた。

 

「よし、なら風倉には食器の準備を頼もうか。空井は人数分サラダを作り終わったらハンバーグを盛り付けるのを手伝ってくれ。」

「よしきた!まっかせときなって!」

「な、なんかテンション高いなモエ……?」

「だってそりゃタツミの料理は美味しいからね。コンビニの廃棄品も悪くはないけど、やっぱり温かいご飯には勝てないからさ。」

 

風倉はそう言うと、テーブルの上に並べられた食器類を手に取り手慣れた手つきでセッティングを行っていく。

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。感謝の印として特別にお前のデザートを1つおまけしといてやるよ。」

「え、ほんと!?やったー!」

「はぁ!?ずるいぞモエ!おいタツミ!私だって散々お前に付き合って手伝いをしてるんだからデザートを増やすべきなんじゃないのか!?」

「いや、お前はもうハンバーグ一個増量してんだろ。」

「はー!?そっちの方がずるいじゃんかサキ!」

「うるさい!私は散々こいつにこき使われてるんだぞ!そのくらい当然の権利だ!」

「こき使うってなんだよ!そんな馬鹿みたいに働かせてねぇだろうが!」

 

と言うか、ハンバーグもデザートも余分に用意してんだから足りないならお代わりすりゃいいだろ。

空井や風倉は言わずもがなだけど、月雪や霞沢もああ見えて結構食う方だから足りないなんてことがないように量は充分用意してあるっつーの。

 

「大体モエ!お前、この前だってタツミにラーメンをねだって作ってもらってじゃないか!?」

「そういうサキだって、タツミに泣きついてチャーハン作らせてたの忘れてないんだからね!?」

「だーもう喧嘩すんなお前ら!いいからキリキリ手を動かせバカ!」

「バカってなんだ!バカって言う方がバカなんだぞ!」

「そうだそうだ!この変態男!妖怪おっぱいフェチ!」

「うるせぇ!飯抜きにすんぞテメェら!!!」

「「すいませんでした!!!」」

「謝罪早ッ!?」

 

……まぁ、もう何も言うまい。

そんなこんなで、俺様達はギャーギャーと言い合いを続けながら飯の準備をしていくのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そういや、お前らは何でSRTに入ろうと思ったんだ?」

 

日も傾き、空が茜色に染まって来た頃。

空井と風倉と共にメシの準備を終え、月雪が連れてきた霞沢も加えたRABBIT小隊の4人と俺様でテーブルを囲みながらポツポツと他愛のない話をしていた俺様達5人。

そんな中、自分で作ったハンバーグを突付きながら俺様はふとそんな言葉を口にしていた。

 

「はい?……何故貴方にそんな事を言わなければならないのですか?」

「いや別に無理に聞こうってつもりはないぞ?ただまぁなんとなく気になってな。」

 

怪訝な表情でそう言ってくる月雪に対して、俺様は味噌汁を啜りながらそう返事を返した。

……と言うか、どうでもいいけど夢中になって食いすぎて口元に米が付いてんぞ月雪。

 

「ほら、お前らはたった4人でSRTの閉鎖に対するデモを起こした上に釈放されるときにシャーレに住まないかって提案を断っただろ?今でこそ割と生活は安定しちゃいるけど、あの時点でその選択肢を選ぶのは茨の道だったはずだ。そこまでしてお前達が連邦生徒会に対して抗議をする理由が気になったからさ。」

 

味噌汁の入った汁椀をテーブルへ起き、RABBIT小隊の4人をぐるりと見渡しながら俺様はそう言った。

 

そう。今でこそRABBIT小隊の生活環境は若干改善されつつあるけど、それでも現状SRTが復活するかも分からない先の見えない状態でキャンプを続けるなんてのは肉体的にも精神的にも負担がかなり大きいはずだ。

まぁ元々たった4人で連邦生徒会に反旗を翻す程強い意志があるのだから今更な話ではあるが、なんとなくその理由ってのを知ってみたくなった。ただそれだけだ。

 

「まぁ要は興味本位だな。ちょっと気になっただけだから、別に言いたくないなら無理に言わなくてもいい。」

「はい、そうさせてもらいます。貴方にそのようなことを言う理由は……」

「え、SRTに入った理由でしょ?別に私は言っても構わないけど?」

 

月雪は俺様のことを睨みつけながらそう言うが、その言葉を遮ってハンバーグを突付いていた風倉が何でもないようにしれっとそういう。

 

「も、モエ!?そのようなことを言う必要は……!」

「いーじゃん。別に減るもんでもないし。それにタツミには世話になってるからね。」

「そ、そうだね。タツミくんはわざわざ材料を買ってきてくれて、忙しい中こうして料理を作りに来てくれてるわけだし……」

「まぁ私達が頼んだわけじゃないしタツミが勝手にやってるだけのお節介ではあるけど、それで助かってる部分があるのは確かだしな……」

 

その言葉を聞き、空井と霞沢が続けてそう発言する。

ってか、おい空井。

確かにそれは事実なんだけど何と言うかもっとこう……オーブラートに包んで発言できねぇのかお前は。

 

「んじゃまず私からね。私がSRTに入った理由は何と言ってもあのSRTの高火力な兵器!それに尽きるよ!」

 

俺様がそんな事を思っていると、風倉は目をキラキラと輝かせながらそう宣言した。

 

「まぁ想像はしてたけどやっぱり武器のためかよ……と言うか、武器なら他の学園にもあると思うんだが?」

「いやいや!SRTの武器は他の学校なんかとはレベルが違うんだって!区画をひとつ丸ごと焼き尽くせるようなミサイルとか、戦車の装甲をものともしない弾薬とか……こんな強力な火力を好きなだけ振り回せるのはSRTだけだからね!」

「いや、好きなだけ振り回すのはダメだろ!?」

 

と言うか噂には聞いていたけど、そんなに強力なのかよSRTが所持している火器類ってのは。

区画をひとつ丸ごと吹き飛ばせるミサイルなんて悪用なんてされようものならひとたまりもないぞ……

 

「そもそもSRTの任務は治安維持じゃないのかよ?」

「何言ってるのさ。テロリストも悪人もまとめて吹き飛ばしちゃえばそれで鎮圧完了するじゃん。その過程であの強力な火器を振り回せるんだから……はぁ……はぁ……」

 

そう言うと、風倉は恍惚とした表情を浮かべると息を荒くしながらこちらへ詰め寄ってきた。

くそっ、やっぱトリガーハッピーじゃないかこいつ!

こんな危険思想の奴をSRTに入れちゃダメだろ、一体どうやって試験に合格したんだ……?

まぁ流石に無差別に銃火器を乱射するような、そこまで倫理観のイカれたやつじゃないとは思いたいけど。

 

「つかどうでもいいけど距離が近ぇよ!離れろ風倉!」

「えー?こんな美少女にくっつかれる経験なんて滅多に出来ないよ?ほらほら、普段のお礼ってことで受け取っときなって。」

「えーい鬱陶しい!暑苦しいから離れろっつってんだろ!」

 

俺様の隣にグイグイと詰め寄ってくる風倉の肩を手で掴んで引き剥がしながら、俺様は大声でそう叫んだ。

いやまぁお前が美少女なのは否定しないけど、美少女すぎて色々まずいんだよ!それにスタイルもいいし……!

ニヤニヤしている以上からかってきているのだとは思うけど、普通に心臓に悪いから辞めて欲しい。

まったく、こんな危険思想じゃなければ引く手あまただろうになぁと思わずには居られない。

 

「モエは相変わらずだな……と言うか、いつの間にそんなにタツミと仲良くなったんだお前?」

「くひひ、ちょっとあんな事やこんな事をね……♪」

「い、一体何をしたのモエちゃん……!?」

「おい勘違いされるような事を言うなバカ!別に何もしてねぇよ!」

「えー何いってんのさタツミ。この前テントの中で散々私をアヘアヘさせてくれたじゃん。」

「や、やっぱり2人はそういう関係なの……!?」

「お前がマッサージしろって言うから渋々やっただけだろうがこのアホンダラァ!!!と言うか分かってて言ってんだろテメェコラァ!」

 

心底愉快そうにそういう風倉に対して、俺様はテーブルにコップを叩きつけながら立ち上がった。

 

「いやーこんなものをぶら下げてると肩が凝ってさぁ。丁度良いところにタツミが居たから肩のマッサージをお願いしたんだよね。」

 

へらへらと笑いながらしれっとそういう風倉。

そう、俺様はこの前の炊き出しのときにたまたまテント内に居たこいつに食事の準備を手伝いをさせたのだが、その際に肩が凝っているからマッサージをしてほしいと言われたためしてやった経緯があるんだよな。

まぁその時はキャンプ生活だと色々しんどいだろうと思って特に何の疑問もなくマッサージした訳だが、それを変な風に湾曲して言うんじゃねぇよ!

 

「……それは嫌味ですかモエ?」

「うぅ……どうせ私はぺったんこだよ……」

 

見ろ!月雪は親の仇を見るような目でこっちを見ているし霞沢に至っては泣き出しそうじゃねぇか!

え、空井?空井はハンバーグにがっついていて特に気にしてないようだが……肝据わりすぎだろこいつ。

 

「まぁまぁミヤコもタツミもそんなに怒んないでよ。怒るとシワが増えて老けるとも言うしさ。」

「誰のせいだと思ってんだ!」

「……今回ばかりはタツミさんに同感です。」

「いやーそれにしてもタツミのマッサージはめちゃくちゃ効いたよ。プロ級と言っても過言じゃないね。」

 

当たり前だ。俺様がどんだけ今まで肩こりに悩んでる女性をマッサージしてきてると思ってるんだ。

ゲヘナでは京極先輩や天雨行政官や氷室先輩、トリニティでは羽川先輩や歌住先輩に若葉先輩、山海経ではシュン教官や玄武商会の2人、それ以外にも先生や七神代行とかに散々やって来てんだぞこっちは。

胸がデカくて肩が凝ってる人の肩のほぐし方や、それに付随した肩周りのツボなんて熟知してるっつーの。

 

「さ、じゃあ私がSRTに入った理由は言ったことだし……次はサキが教えてあげたら?」

「はぁ?何で私がタツミにSRTに入った理由を言う必要があるんだ。それに本人だって無理に言わなくてもいいって言ってるなら言う必要はないだろ。」

「まぁまぁ、なんだかんだ言いつつタツミにはお世話になってるしさ。減るもんじゃないんだし、教えてあげてもいいんじゃない?」

「……まぁそれもそうだな。」

 

風倉にそう言われた空井は、手にしていたデザートの器をテーブルに置くと俺様に視線をやりながら口を開く。

 

「私がSRTを目指した理由……それはもちろん、SRTの厳格な規則による生活を求めてだな。」

「厳格な規則による生活……?」

「あぁ。お前は知らないだろうが、SRT特殊学園では放課後でも厳格な規則の下で生活をすることになる。」

 

カップに入った水を飲みつつ、空井は淡々とそう話していく。

 

「定時に起床して寝具を整理し、1日の訓練と座学を行う。放課後だって寮の中で気を緩めずに訓練や整備をすることが求められる。この常在戦場の心構えこそSRTがSRTたる所以。私が最も憧れ、求めたものだからな。」

 

そう言うと、空井はふっと笑みを浮かべる。

……そう言えば、こいつはSRTから飛び出すときに食料よりも教材を優先するほど筋金入りの優等生だったな。

話を聞く限りではSRTの校則というのはよっぽど厳格……と言うよりは厳しいもののようだ。

校則が厳しい学校ってのはここキヴォトスでは探せばいくらでもあるけど、空井の話を聞く限りでは流石にSRTよりも厳しい校則を敷いている学園は無いだろう。

そのくらい、SRTの校則というものは厳しい物のようだ。

 

俺様からしたら放課後ですら訓練や整備などの仕事をするなんてのはまっぴらごめんだし、休みの日や休める時は好きなことをして過ごしたいと思うタイプだ。

まぁゲヘナの校則は他の学園よりも遥かに緩いからそんな中で育ってきたってのもあるんだろうけど、やっぱり常に気を張って生活するってのは疲れちまうしな。

そういう意味では、自分にとことん厳しくてストイックな空井の姿勢には素直に感心するばかりだ。

 

「まぁ、そりゃお前がその厳格な校則を求めてSRTに入ったなら他の学校の生活で満足出来るわけないわな。」

「あぁ。ヴァルキューレがSRTと同等の校則ならば転入もやぶさかではなかったけど、ヴァルキューレは一番厳しいと言われている公安局でも放課後は私服で自由に過ごせるからな。私はそんな生き方はしない。のうのうと自由を与えられた犬になるくらいなら、泥水を啜ってでも狼として生きてやるさ。」

 

決意に満ちた表情をしつつ、はっきりとした口調でそう言い切る空井。どうやら決意は硬いようだ。

 

「いいんじゃないか?空井のそのストイックな姿勢は素直に尊敬するし、これからも貫けばいいと思うぞ。」

「そうか?別にお前に認められても別にそんなに嬉しくないんだけど……」

「……人の称賛は素直に受け取るもんだぞ空井。」

「……それもそうだな。まぁ、礼は言っとくよタツミ。」

 

そう言うと、空井は今までに見たことのないような柔らかな笑みを浮かべた。

 

「さ、じゃあ私はタツミにSRTに入学した理由を言ったんだし……次はミユの番だな。」

「え……!?わ、私も言わなくちゃダメなの……!?」

「当たり前だろ。私やモエだって言ったんだぞ。それとも何だ、もしかして嫌なのか?」

「そ、そうじゃないけど……私がSRTに入学した理由なんて聞いても面白くと何とも無いと言うか……」

 

霞沢はそう言うと目に涙をためて下を向きながらスカートの裾をきゅっと握る。

……前から思っていたけど、やっぱこいつって自分に自身がないと言うか自己肯定感が低い奴だよなぁ。

卑屈な狙撃手と言えば槌永もそうなんだけど、あいつはやけに図々しいと言うかたくましいと言うか……アリウスで育ったとは思えないほどの性格をしてるからな。

なんか、卑屈な所といい自信がないところと言い霞沢の方がアリウス育ちと言われても納得してしまいそうだ。

 

「別にそんな事はねぇよ。まぁ俺様もなんとなく気になっただけだから無理に言う必要はないけど、良かったら聞かせてもらえないか?」

「う……ほ、ほんとに面白くないよ?タツミくんの時間を無駄に消費するだけで……」

「構いやしねぇよ。それに自分の事情を話すのに面白くある理由なんてどこにもないだろ?」

「……わ、分かった。そこまで言ってくれるなら、私も話すよ。」

 

肩を震わせながらそう言う霞沢に俺様は優しく声を掛けると、霞沢は顔を上げて決意した表情を浮かべた。

 

「ミユ、彼はこう言っているのですから無理に言う必要はないのですよ。サキやモエは話しましたが、貴方まで無理に話す必要はありません。」

「ううんミヤコちゃん、確かにそれはそうかもしれないけどタツミくんにお世話になってるのは事実だから……」

「……分かりました。なら止めはしません。」

 

そんな霞沢に月雪はそう声を掛けるが、彼女達はそんなやり取りを交わすと霞沢は俺様の横に歩み寄ってくる。

 

「その、私がSRTに入学したのはこんな性格を直したいからなのが一番かな……」

「そうなのか?」

「う、うん。私は普段から影が薄くて、人から忘れられることも多くて……もしこのまま誰にも認識されなくなったらと思うと……怖くて。」

 

霞沢はか細い声でそう言いつつ、自信がなさそうな表情を俺様へと向けてくる。

 

「……なるほど。そんな自分を変えたくて、SRTへ入学したって訳か。」

「うん。けどそんな矢先にSRTが閉校になるって話が出てきて……RABBIT小隊の皆、特にミヤコちゃんとはやっと仲良くなれてきたところなのに……転校するのは嫌で……」

 

……まぁ確かに、霞沢の自己肯定感が低くてネガティブな性格を鑑みるとあまりコミュニケーションを取るのが得意なタイプとは言い難いだろうからな。

そんな中で自分なりに頑張ってようやく今の仲まで積み上げたRABBIT小隊との関係値を、ヴァルキューレに入ることでリセットしたくないと言う思いがあると見える。

なるほど、それは確かにSRTの閉鎖に反対する充分な理由になり得る。要はRABBIT小隊と離れたくないんだろう。

 

「それに私、誰かと仲良くなるのが怖くて。そんな中ヴァルキューレへ編入したらまた全部初めからになって、こんな影の薄い私になんて誰も話しかけてくれないだろうし……そうなったらもう、私はその辺で誰からも気づかれずに1人で寂しく死ぬしか無いんだと思うと……」

「……いや、それは流石に考えすぎじゃないのか?」

 

なるほど、霞沢の話を聞く限りはこいつのネガティブ思考というか自分への自身のなさは筋金入りのようだな。

まぁ確かに、霞沢が言う通りコイツ自身の存在感……と言うか気配が希薄なのは前々から俺様も思ってはいた。

 

ただ、裏を返せば戦場においてはその気配の希薄さが自分の位置を悟らせないという強力な武器へと変貌する可能性を秘めている。

特に狙撃手は敵に自分の位置を悟らせないのはとても重要だ。狙撃手がどこから狙撃してくるかわからないと言うのは戦場においては強烈なプレッシャーを相手に対して与えることにも繋がるからな。

実際、そのせいでこの前の子ウサギ公園での攻防戦ではこいつの気配を察知しきれずに大まかな位置しか分からずほぼ勘だけで射撃を防いでいた事もあったわけだし。

 

とは言え、本人が存在感の希薄さや人に気づかれない部分をコンプレックスに感じている以上はそこを褒めた所で逆効果にしかならないだろう。

なら、俺様が今彼女にかけるべき言葉は……

 

「安心しろ霞沢。確かにお前はちょっとだけ人よりは存在感が薄いかも知れないけど、俺様はお前の気配を見失ったことは無いぜ?」

「……え?」

「お前がそこまで言ってコンプレックスに思うってことは、実際存在感は希薄なんだろう。けど、俺様が今までお前を飯ができたって呼びに行くときに一回でも見失ったことがあったか?」

「……あっ!?」

 

俺様がそう言うと、霞沢はハっとしたような表情を浮かべてそう叫んだ。

 

「……そう言えば、確かにタツミはミユがどこかへ行っても必ずキャンプまで連れて返ってくるよな。」

「言われてみればそうだね。私達だってたまにミユの気配は見失っちゃうのに、タツミは迷うこと無くミユの潜んでる場所まで真っ直ぐ向かってるし。」

「……よく私にミユを連れてくるように依頼されますが、見つけられないというよりはミユが警戒するからと言う理由ですし。見つける事自体は可能という事ですか。」

「あぁ、そういうことだな。」

 

3人の言葉に俺様は首を縦に振って頷く。

 

「まぁ理由は分かんないけど、俺様はお前の気配はギリギリの所でなんとか察知できてるわけだ。だから安心しろ霞沢。例え人々がお前を忘れることがあったとしても、俺様だけは必ずお前を見つけてやるからよ。」

 

俺様はそう言うと笑顔を浮かべて、霞沢の頭に手を置くと左右に手を動かして彼女の頭を撫でる。

 

「ふぇっ!?」

 

すると霞沢はびっくりしたのか、顔をトマトのように真赤にするとあわあわと両手を振って慌てだした。

……しまった。何かこいつを見ていると小動物を連想してついつい自然に頭を撫でちまった。

 

「あっ……!すまん霞沢!嫌だったか?」

「う……ううん。ちょっとびっくりしただけ。」

 

俺様は慌ててすぐに手を引っ込めてそう言うが、霞沢は少し顔を赤くして俯きながらそう言った。

 

「そ、そうか?なら良かったけど……まぁそういうわけだし、あんま卑屈になんなよ霞沢。」

「……うん。ありがとうタツミくん。ちょっとだけだけど安心した……かも……」

 

そう言うと、霞沢はぎこちないながらも今までで一番の笑顔を浮かべた。

うんうん、やっぱり女の子には笑顔のほうが似合うな。

 

「……ねぇ。やっぱタツミって女の敵なんじゃないの?」

「はぁ!?どういう意味だよ風倉!?」

「あぁ、間違いないな。この女たらしめ。」

「いやどこがだよ!?適当なこと言うんじゃねぇ!」

「……いや、あれで女たらしではないと否定するのは無理があるのでは?」

「おい!?お前もかよ月雪!?」

 

やめろ!3人揃ってジト目でこっちを見るんじゃねぇ!

そもそも俺様は霞沢を元気づけようとしただけだぞ!?

それなのに何で女の敵だの女たらしだの言われなきゃなんないんだ!例えこれが霞沢が男だったとしても俺様は同じ事をしてるっつーの!

 

「ま、まぁそれはともかく霞沢。見たところ、月雪だってお前の気配にはすぐに気づいていると俺様は思う。だから人から忘れられるなんてそんな心配をする必要はないんじゃないか?なぁ月雪。」

「……貴方に言われるのは癪ですけど、そのとおりですよミユ。少なくとも私達を含めたRABBIT小隊の皆は貴方を忘れることはありませんから安心してくださいね。」

「ミヤコちゃん……」

 

月雪は霞沢に対して笑顔を向けてそう言うと、霞沢もそれにつられて控えめな笑顔を見せる。

 

「あぁ、私達がミユを見失うわけがないだろ。」

「まぁたまに見失っちゃう事は否めないけど、それも含めてミユの個性だしね。くひひ。」

「サキちゃん……モエちゃん……うん、ありがとう!」

 

そう言うと霞沢は満面の笑みを浮かべた。

なんだ。なんやかんや言いつつもやっぱり空井や風倉も霞沢の事は心配なんじゃないか。

まぁ風倉は微妙にフォローになってない気もするけど、霞沢の事を思っての発言な事は間違いないしな。

……まぁ、これでSRTを解体してRABBIT小隊を解散させるということは霞沢の居場所を奪うことになると言う重い事実も可視化されてしまったわけだが。

俺様としてもなんとかしてやりたいけどな、切実に。

 

「分かった。結構重い理由なのに話してくれてありがとう霞沢。感謝するよ。」

「ううん。私も話すことが出来てちょっとスッキリしたから……こちらこそありがとう、タツミくん。」

 

俺様がそう言うと、霞沢は先ほどよりはぎこちないながらもしっかりと笑みを浮かべつつそう言った。

 

「さ、じゃあ私達全員の理由は話したことだし……」

「次はミヤコの番だぞ。ほら、さっさと言え。」

「……先ほども言ったと思いますが私はタツミさんにSRTを志した理由について話すつもりはありません。」

 

目の前の小動物のような笑みを浮かべる霞沢の事を眺めていると、ふと俺様の横でそんなやり取りをしている3人の声が耳に入ってきた。

 

RABBIT小隊……先の子ウサギ攻防戦では生活安全局の生徒で制圧することが出来たけど、こいつらが1つにまとまって士気も充分な状態なら勝つことは難しいだろう。

 

「はぁ?私やモエはともかく、ミユまできちんと話したんだぞ?それにタツミには飯を作ってもらっている義理もあるだろ。仮にも隊長のお前がそれでいいのか?」

「構いません。それに彼は言いたくないなら無理に言う必要はないとも言っていますから。」

「えー空気読みなってミヤコ。それに確かにタツミはそう言ってるけど、こいつのことだから無駄に気を使ってそう言ってるだけだって。」

 

……いや、実際気を使ってる部分はあるけど別にそこまでして聞きたいわけじゃないから月雪が嫌なら無理に言う必要はマジでないんだがな。

と言うかやけに風倉も空井もやけに俺様のこと庇ってくれるじゃん……俺様、お前達に何かしたっけ?

 

「ミヤコちゃん。その、私も言ったんだし……」

「み、ミユまで……」

「そーそー。それにここで言わなかったら、次にタツミが料理作ってくれたときにミヤコだけデザート抜きになるかもしれないよ?」

「え……!?そ、それは困りますっ!くっ……!分かりました。こうなれば仕方ありません。」

 

そう言うと、月雪は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべながら手にしたデザートの器をテーブルへと置く。

 

「いや、マジで言いたくないなら言わなくてもいいんだぞ月雪。俺様はちょっと気になったってだけで……」

「いえ、RABBIT小隊の隊長として隊員にここまで言われたら黙っているわけには行きません。いいですか、決して。決してデザートを抜きにされるのが嫌だとかではありませんからね!?」

 

いや、別に心配しなくてもそんな事する気はこちとら微塵もないから安心してもらっていいんだがな……?

まぁでも、せっかく他の3人が発破をかけてくれたんだ。

いい機会だと思って、ここは月雪の話を聞くとしよう。

 

「ごほん!では……話しますよ。」

「あぁ。分かった。心して聞くとするよ。」

 

俺様は若干苦笑いをしつつ月雪へ視線を向ける。

彼女はそんな俺様を一瞥したかと思うと、ゆっくりと明後日の方向を剥いて静かにポツポツと語り始めた。

 

「私がSRTを志した理由。それは……」

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