「ふぁぁ……」
時は昼下がり、場所はDU地区のストリートにて。
今日も今日とて矯正局の面会を終え、RABBIT小隊の連中に炊き出しを行ってきた俺様は大きなあくびをしながらゲヘナへ帰還するためDU地区の駅を目指していた。
「あー……ねみぃ……」
目にたまる涙を袖で拭いながら、俺様はダラダラとした足取りで駅を目指して歩みを進めていく。
最近は日々の業務や矯正局への面会とかで忙しいってのもあるけど、色んな人から毎日のように大量の連絡がモモトークに来るからそれを返すために結構夜ふかしをすることもあって寝不足気味なんだよな……
えっと、昨日はシュン教官からの愚痴を散々聞いたあとに通話でめちゃくちゃ慰めただろ。
その前はココナ教官から最近の子ども達へ対する接し方の悩みを聞いたり、更にその前は歌住先輩からの愚痴を聞いたり、更に更にその前は若葉先輩からの悩み相談を聞いたしそのついでに奥空からの悩みも届いてて……
なんかもうお悩み相談所みたいになってないか俺様?
いや、もちろん俺様を頼ってくれるのは嬉しいんだけどきちんと有用なアドバイスが出来ているか不安だな……
ほら、俺様は本職のカウンセラーではないわけだし。
まぁとは言え俺様にできることと言えば話を聞くことくらいなので、それで少しでも皆の悩みや不安を解決できるのならこんなに嬉しいことは無いんだけども。
にしても、ここ最近はほとんど毎日寮に帰ったあとに誰かしらとモモトークでやり取りをしている気がするな。
ゲヘナは万魔殿の皆……は毎日顔を合わせているからそれほどメッセージは来ないけど、風紀委員会や給食部の2人とか氷室先輩からは結構な頻度でメッセージが来る。
トリニティは桐藤先輩に正義実現委員会の皆(特に羽川先輩)、シスターフッドの3人、補習授業部の皆、この前連絡先を交換した蒼森団長からもよく来ているな。
それに山海経は梅花園の教官2人、玄武商会の2人、竜華先輩に近衛先輩に薬子先輩からもだろ……
あとは……アビドスの黒見や奥空からもそうだな。
それに加えて最近ダントツで連絡してくることの多い七神代行と岩櫃調停室長のメッセージもあり、俺様のモモトークの通知は常にパンパンの状態だ。
だが、そのおかげか最近は俺様のメッセージを返信する速度も爆速になっているしスマホのフリック入力も早くなったためPC入力やスマホでの業務連絡を素早く行えるというメリットにも繋がっているんだよな。
いやはや、世の中何が仕事に繋がるかなんてわからないものである。
それに、向こうも仕事やら勉強やらで忙しい合間を縫って俺様にメッセージを送ってくれてるはずだしな。
いくら俺様が忙しいからって適当に返信したりすんのはメッセージを送ってくれた人に対して失礼に当たる。
それに俺様もなんだかんだでメッセージを送ってくれるのは嬉しいからな。ただ量が多すぎるってだけで。
しかし、こうして思い返してみると壮観だな。
こんなに多くの人たちと知り合って交流して、今や悩みを打ち明けてくれるくらいには信頼を得ているかと思うと今まで頑張ってきた甲斐があると言うものだ。
連絡先を交換していない人達だと生活安全局の2人や尾刃局長、RABBIT小隊の連中、連邦生徒会の役員も何人か知り合いだし会えば他愛ない話をする仲ではある。
まぁゲヘナの議長代理である以上顔が広いことは武器になるだろうし、単純に仲のいい相手が多いというのはいいことだから俺様にとっても嬉しいしな。
ワカモ?あいつはまぁ……うん。
いつか絶対に泣かす。
あの野郎この前も俺様がイブキのケーキを買いに行く途中に襲撃してきやがって……!おかげでイブキのケーキが台無しになっちまったじゃねーかまったく!
まぁその後罪悪感を感じたのか、俺様が買ったものよりも豪華なケーキをくれたから仕方なく許してやったけど……次に会う時は絶対にボコボコにしてやるからな!
それにしても、あの連邦生徒会での一件から七神代行から連絡が来る頻度が前よりも多くなっている気がする。
内容は業務内容の愚痴や悩み相談だけど、時々2人で息抜きに遊びに行かないかって内容も含まれてんだよな……
俺様としてはいつも頑張っている七神代行のためにも引き受けてやりたいのは山々だけど、流石に連邦生徒会長の代行が1学園の生徒と2人で出かけるってのは下手したらスキャンダルの元にもなりかねないのでどう返事をしたものかと迷っている真っ最中だったりする。
うーん、どうするのが正解なのか……
こりゃ一度先生に相談してみるのもありかもしれんな。
「……ん?」
そんな事を考えながら、ひたすらDU地区の大通りを歩いていた時だった。
ふと、俺様の目にとある建物が飛び込んでくる。
その建物はDU地区の中でも有数のデカさを誇るショッピングモールであり、いつも大勢の買い物客で賑わう憩いの場になっている建物だった。
サンクトゥムタワーほどでは無いがDU地区の中でもひときわ目立つほどの巨大さが目を引くその建物には【ただいま水着安売りフェア開催中!】【生徒用の水着が最大50%OFF!】とこれまた目を引くカラフルなデカい垂れ幕が垂れ下げられている。
「水着フェア……もうそんな季節なのか。」
様々な色が使われていて長時間見ていると目がチカチカしそうになる垂れ幕の文字を見つめつつ、俺様は誰に言うでもなくそう呟いた。
そう言えば最近は忙しくて忘れていたが、ここキヴォトスも季節はぼちぼち夏になろうかと言うところ。
最近は暑い日も増えてきて、俺様も上着を脱いでカッターシャツだけで行動する日も増えて来ている。
そして夏といえば海やプールなどのレジャー施設がかき入れ時になる季節でもあり、デパートもそれにあやかって水着フェアを開催しているという事なのだろう。
……そういや、アビドスの黒見から今度リゾートへ行こうって誘われていたのを水着って言葉を見て思い出した。
前にも言ったような気がするけど、何でもわりかし前に黒見の奴が町内のビンゴ大会か何かでリゾートの利用券を当てたとかでアビドスの皆に先生も誘ってみんなでリゾートに行くって話になったらしいんだよな。
で、その時にせっかくだからって理由でいつかの件でアビドスを助けた時の礼も兼ねて一緒に行こうって黒見から誘われていたんだった。
俺様としてはアビドスの人達とは黒見と、後はモモトークを交換してちょいちょい話してる奥空くらいしかいないのでそんな俺様がついて行ってもいいか心配だったのだが、小鳥遊先輩を初めとした先輩方は「是非おいで」と言ってくれているらしい。
それはありがたいのだが、今の俺様は議長代理だ。
そのためゲヘナを長期間離れるわけには……と思ったのだが、京極先輩や棗先輩から「タツミは働きすぎだから誘ってくれてるなら行って休んでこい、休みの間の業務は自分達で回す」というありがたい言葉を頂いた。
俺様としては万魔殿からもアビドスからもそこまで言われては断る理由は皆無なので、ならお言葉に甘えますと小鳥遊先輩に返事を返していたんだよな。
いやはや……ほんとにいい先輩達に恵まれたもんだ。
俺様は幸せもんだよ。
まぁそういうわけなので、俺様は近い内にアビドスのみんなと一緒にリゾートに行くことになったわけだ。
だから、そろそろリゾートへ着ていく用の水着を要しなければと思っていたんだけど……
「えっと、リゾートへの出発日は……」
俺様はそう呟きながらポケットからスマホを取り出し、スケジュールアプリを開いて予定を確認する。
すると、スケジュールアプリの日程には2週間後の土曜日に「アビドスの皆とリゾート」と書き込まれていた。
「2週間後か……わりと直近だな。」
結構間が空いているようにも思えるけど、2週間なんざ仕事をこなしていれば一瞬で訪れるからな……
なら、目の前の建物で水着フェアをやっている事だ。
いい機会だし、このショッピングモールでリゾートへ行く用の水着を買って帰るのもいいかもしれないな。
去年使ってた水着はこの前履いてみたんだけど明らかに小さくなってたし、上着として羽織るジャージも小さくなっていたから新品がほしいと思っていたところだ。
ゲヘナに帰ったらまた仕事仕事で次にいつ水着を買いに行けるか分かったもんじゃないからな……
幸い今日の仕事は午前中に終わらせてあるし、緊急事態でも起こらない限り午後は非番だったからな。
タイミング的にもちょうどいいだろう。
それに、リゾートにはイブキも一緒に連れて行ってやる予定になっているからな。
イブキは一緒に柴関ラーメンによく行っていた時期があるから黒見とは仲が良いし、イブキ自身海で遊んだりするのが大好きな子だからそういう意味でもありがたい。
イブキの水着に関しては俺様では女物に関しては良く分からないから京極先輩や元宮先輩が選んでくれる手筈になっているので、ならば俺様は今日はせっかくだしイブキ用の浮き輪等を買って帰ってやるとしよう。
「よし!そうと決まれば善は急げだ!」
スマホをポケットにねじ込みながらそう言った俺様は、海ではしゃぐイブキの笑顔を思い浮かべながら意気揚々とショッピングモールの自動ドアをくぐるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自動ドアをくぐり人々で賑わうショッピングモールの中へと突入し、入口にあった案内板に従ってほぼ1フロアを丸々使ったであろう気合の入ったバカでかい水着コーナー……もといサマーレジャーコーナーにやって来た俺様。
だが、俺様はとある一つの重大な問題に直面していた。
「ぬかった!女物の水着しか置いてねぇじゃねぇか!」
そう、それは水着コーナーで売りに出されている水着がどれもこれも女物の水着ばかりであると言う事だった。
まぁでも、考えてみれば当たり前の事ではある。
ショッピングモールも外にかかっていた垂れ幕には生徒用水着50%OFFと書かれていたが、そもそもここキヴォトスにおいて生徒と言えば基本的には女子生徒のことを指す言葉だ。
決して俺様のような男子生徒を指す言葉ではない。
理由はもちろん分かると思うが、キヴォトスにおいては男子生徒よりも女子生徒の方が圧倒的に数が多い。
と言うか、何なら男子なんて俺様くらいしかいないんじゃないか?というレベルで男子が他に見当たらない。
それに俺様は仕事で結構な数の学校に外交へ赴いているけど、どこの学校にも男子の影なんて見当たらない。
そのせいでクソ肩身の狭い思いを……って、この話は今はどうでもいいな。
まぁそういうわけなので、キヴォトスにはえげつないくらいに男女の数に差があるわけだ。
だから当然キヴォトスで売られている衣類は女性用のものばかりで、男性用のものもあるにはあるのだが基本的には獣人用かロボット用なのでとてもじゃないけど人間である俺様が着れたもんじゃない。
くそ、こんな大切な事を何故今まで失念していた……!?
「はぁ……仕事で疲れてんのかな……?」
……まぁ、とは言えいくら嘆いたって無いもんはない。
仕方ないので、イブキ用の浮き輪とクーラーボックスとかの必要なものだけ買って俺様の水着はゲヘナに帰ってから信頼できる服屋に特注するしか無さそうだ。
「んじゃ、とっとと目的のものだけ買って帰るか。」
ワイワイと可愛らしいデザインの水着を手にとって友達と談笑しながらショッピングを楽しむ女子の横を通り抜けて、俺様は早足で水着コーナーからレジャー用品コーナーへと移動を始める。
男物を売ってないことを完全に失念していたとは言え、俺様の今居るこの場は女性用水着のコーナーだ。
さっきからチラチラと視線を感じるし、男である俺様がこの場にいては折角水着を選びに来た彼女達が嫌な思いをして楽しめないだろうからな。
邪魔者はさっさと去るとしよう。
そう思いながら、ひたすら足を動かして水着コーナーを通り抜けようとしていると……
“……あれ?おーい!タツミー!”
俺様の耳に、聞き覚えのある声が入ってきた。
「……!?」
あまりにも覚えのありすぎる声に俺様は思わずそちらの方へ視線をやると、そこにはフリフリのビキニを右手に持ちながら空いている左手をブンブンと振って俺様に視線をよこしてくるスーツ姿の先生の姿があった。
「先生!?何してんだこんな所で!?」
“何してんだって……もちろん水着を選んでたんだけど?”
あまりにも予想外すぎる人物の登場に俺様が慌てて駆け寄って声を掛けると、先生はキョトンとした顔で首をかしげながらそう言った。
いや、そりゃまぁ水着コーナーで水着を持ってるってことはそうなんだろうけどよ……!
“ほら、今度タツミも一緒にアビドスの皆で海に行く約束をしたよね?だから私も皆に見せるならせっかくだし可愛い水着を着たいなーって思ってさ。”
先生はそう言うと、にへーっと笑いながら手にした水着を誇らしげに掲げて俺様に見せつけてくる。
いや、それはいいんだけど水着を見せつけるのは辞めてくれ先生!色々と絵面がマズイだろ!
“で、水着を選んでるときにタツミを見かけたから声を掛けたんだ。もしかして、タツミもリゾート用の水着を買いに来たの?”
「あ、あぁ。そうだったんだけど、キヴォトスに男子生徒は俺様以外見当たらないってくらいには数が少ないから男物の水着が売ってなくてな。仕方ねぇからレジャー用品だけ買って帰ろうと思ってた所だ。」
“あ、そうだったんだね。うーん、確かに私も男の子はタツミ以外には見たことがないからなぁ……”
先生はそう言うと、大きな胸の下で腕を組みながら「むむむ……」と唸りつつ首を傾げる。
その拍子に、彼女のこれでもかと言わんばかりにスーツを押し上げている巨大な胸がぽよんと揺れた。
(……あまり見ないようにしておこう。)
そのあまりにも思春期の男子を殺すと言わんばかりの暴力的なスタイルに目線がついつい吸い込まれそうになるが、ジロジロと見るのは彼女に対して失礼に当たる。
そう思った俺様は気を紛らわせるために、そのまま目線を上にして売り場の真っ白な天井へと視線を固定した。
「そ、そう言えば先生は1人でここに来たのか?」
“えっと、最初はそのつもりだったんだけど実は今日の当番の子も近々海へ行く予定があるらしくてさ。せっかくだから2人で水着を選ぼうって話になったから仕事を終わらせてその子と二人で来たんだ。”
「なるほどな。良かった、先生もきちんと休んでるみたいで何よりだよ。」
“そりゃ私だって休む時は休むよ!毎日毎日机に向かってるだけだと気が滅入っちゃうからね!”
先生はハツラツとした楽しそうな声でそう言う。
俺様の中での先生のイメージと言えば書類の山に埋もれているか、菓子パンをかじりながら目の下にクマを作っているかのどちらか……つまり殆ど休んでないイメージだったからきちんと息抜きできているならなによりだ。
……それにしても、先生のテンションがやけに高いような気がするな。
まぁでも考えてみれば、先生は普段はキヴォトスの生徒のために毎日シャーレで激務をこなしているわけだし……
それが遊びに行くとなればそりゃテンションも上がろうと言うものだろう。
そういや先生はシャーレの当番と二人で来てるって言ってたけど、今は先生1人しか見当たらないんだよな。
もしかして別行動でもしているのだろうか?
「先生、こちらの水着などはいかがでしょうか。」
そんな事を考えたその時だった。
俺様の耳に、再び聞き覚えのある声が飛び込んで来る。
“おぉー!可愛いの見つけてきたねハスミ!”
「はい。私達のようなサイズでは入る水着が少ないので見つけるのに苦労しましたが、これなら少し小さいかも知れませんが大丈夫なはずです。」
そう言いながら右手に水着を持ち、こちらにトテトテと近寄ってくる背の高い黒髪の女性。
……俺様が彼女を見間違うはずがない。
そこには紛れもなく、トリニティの正義実現委員会副委員長の羽川ハスミ先輩の姿があった。
……なるほど。どうやら今日のシャーレの当番は羽川先輩だったらしい。
「え……た、タツミさん!?」
「ははは……どうも、羽川先輩。」
羽川先輩は俺様が居ることに気がつくと、そう言って目を大きく見開いて驚愕の表情を浮かべた。
「な、何故タツミさんがここに……?」
「いやその、今度海へ行く予定があるんで水着を買いに来たんですが男用の水着が売って無くてですね……」
「……なるほど。確かにキヴォトスではタツミさん以外の男性を見かけたことはありませんからね。」
俺様が事情を説明すると、羽川先輩は納得した表情を浮かべながら頷いた。
うん、話が早くてとても助かる。
「タツミさんは万魔殿の皆さんと一緒に海へ行くのですか?それともイブキちゃんと一緒に?」
「いえ、実はこの前アビドスの皆からリゾートへ行かないかって誘われたんですよ。なのでアビドスの皆と、それと先生と一緒にリゾートへ行くことになりまして。」
目の前でカラフルな水着に目移りながらはしゃいでいる先生を横目に俺様は羽川先輩とそんなやり取りをする。
実は万魔殿は毎年夏になると海へ遊びに行くという恒例行事があるらしくて俺様やイブキなどの1年生組は密かに楽しみにしていたんだけど、現状羽沼議長は矯正局へ入って更生をしている真っ最中だ。
議長代理の権限を使えば羽沼議長抜きで海へ行くことも出来なくないんだけど、やっぱり万魔殿でどこかへ遊びに行くのなら羽沼議長が居ないと始まらないだろう。
俺様達はあくまで6人揃っての万魔殿、羽沼議長抜きで海へ行った所で何も面白くはないだろうからな。
矯正局へ面会に行って看守さんから様子を聞いている感じだと羽沼議長は至って真面目に刑務作業をしているようなので、あの感じなら釈放もそう遠くないだろう。
もし彼女が釈放されてまだ海のシーズンなら、その場合は6人揃って海へ遊びに行くとしよう。
「そうだったのですね。私は今度正義実現委員会の夏季休暇と言うこともあり、ツルギ達とトリニティの所有するビーチへバカンスに行くことになったのでそのための水着を購入しに来たんです。」
羽川先輩は俺様の言葉を聞き、頷きながらそう言った。
しかし、話を聞く限りではどうやらトリニティは学校のプライベートビーチを所有しているみたいだな。
何と言うか、流石お嬢様学校と言ったところだろうか。
万魔殿で海へ行くときは基本的にはゲヘナの公共のビーチなので人でごった返して居ることが多いのだが、その点プライベートビーチだと自校の生徒以外は出入り禁止のはずだからのんびり出来そうではあるよな。
まぁ、あの騒がしさもそれはそれで風情があっていいものではあるんだけど。
さて……それじゃあいつまでも俺様がここに居ては先生と羽川先輩も水着を選びにくいだろう。
俺様は男だし、そもそも水着ってのは必然的に素肌を多く晒すことになる肌面積の多い衣類だ。
当然選ぶのであれば試着だってするはずだし、そんな肌面積の多い物を着ているところを好きでもない男に見られてるなんて恥ずかしいに決まってるだろうからな。
邪魔になる前にとっとと退散して、レジャー用品とイブキの浮き輪を買って退散するとしよう。
「んじゃ先生、羽川先輩。俺様はそろそろ……」
“あ!そうだ!良いことを思いついた!”
そう思った俺様は目の前の2人に声をかけようとするが、水着を物色していた先生が唐突にその場で声を上げる。
そして先生はそのまま俺様の方を向くと、妙にいい笑顔でこちらへと歩み寄ってきた。
……なんだろう、果てしなく嫌な予感がするんだが。
“ねぇねぇタツミ。せっかくだし、私とハスミの水着を君に選んでもらいたいんだけど……ダメかな?”
「……は?」
ちょっと待ってくれ、今何つったこの人!?
「……すまん先生。よく聞こえなかったからもう一度言ってもらいたいんだけど。」
“私とハスミの水着をタツミが選んでくれない?”
「聞き間違いじゃなかったぁぁぁ!!!」
満面の笑みでそういう先生に対して、俺様は頭を抱えながら絶叫を上げる。
「おい正気か先生!?それマジで言ってんのか!?」
“え?うん、正気だしマジだけど……”
次の瞬間にはいたって真面目な表情でキョトンとした表情を浮かべる先生を見て、俺様は内心で混乱する。
いや、先生と羽川先輩の水着を選ぶのに俺様が付き合うってどんな罰ゲームだよ!?
知っての通りだが、羽川先輩のスタイルはそれはもうダイナマイトボディだ。
クソデカい胸、くびれた腰、ぶっとい太もも、安産型の尻とそれはもう思春期男子を絶対に殺すという強い意志を感じる程には凶悪なスタイルをしているのだ。
そして、水着を選ぶということは当然試着室で何着か水着を試着してそれを見せるということになるだろう。
正直、普段の格好でさえその暴力的なまでに制服を押し上げている胸と謎のスリットのおかげで目のやり場に困るくらいなのにここから更に水着姿になるだと……!?
おいおい、俺様を社会的に殺す気か?
まぁそんな感じで羽川先輩だけでも充分すぎるほど俺様にとっては目に毒になるであろうことは火を見るよりも明らかなのだが、更に今回はそこに先生まで一緒に着いてくると言うのだからヤバさが増している。
初対面の時も思ったけど、羽川先輩のそれをメロンと表現するならば先生のそれは大玉のスイカだ。
正直そんな羽川先輩よりも大きな物をぶら下げていてはさぞ肩が凝るだろうなと思ったことは数しれないし、なんなら先生は太ももや尻も羽川先輩よりも豊かだ。
羽川先輩も規格外のスタイルの持ち主であることは間違いないしタッパも羽川先輩の方があるんだけど、先生と並ぶと羽川先輩がまるで子どものように見えてしまう。
先生はそのくらいの、ダイナマイトボディと言う言葉だけでは表現しきれないほどのスタイルの持ち主なのだ。
え、俺様この二人の水着選びに付き合うの?
マジで言ってる?
いや死ぬが?俺様確実に死んじまう自信があるが?
そりゃ先生からすれば俺様なんて高1のガキだし、羽川先輩は3年生だからこんなクソガキに水着を見せたところで恥ずかしくも何とも無いのかもしれないけどよ……!
……いや、まぁ男として見られてないってのはそれはそれで結構悲しくなってるけど今はそれは置いといてだな。
……それともあれか?もしかして俺様に性欲が皆無だとでも思っていらっしゃるとでも言うのか?
ふざけんな!こちとらバリバリの男子高校生なんだぞ!
人並みにそういうことにだって興味はあるし、普段思うことがあっても表に出さないようにしてんだからな!?
と言うか女所帯のキヴォトスでそんな気を出してみろ!
次の日からシカトされて悲しい人生を送ることになるのは目に見えてんだよ!女の間でそういう話題ってのは何よりも早く浸透すんだからな!?
まったく、少しはこっちの身にもなってくれ!
頼むよ……!
「せ、先生!?それは流石に……!」
俺様が内心でそう思って焦っていると、先生の横にいる羽川先輩が顔を赤くしてワタワタと慌て始める。
そうだよな?普通はそういう反応になるよな?
何で平然としているんだこの大人は……
“あれ、もしかしてハスミは嫌だった?”
「い、いえ!嫌ではないのですがその、心の準備ができていないと言いますか、昨日ケーキを3つも食べてしまったのでお腹が気になるといいますか……」
先生が羽川先輩にそう問いかけると、羽川先輩はお腹の部分を手の平でさすさすとさすりながらそんな言葉を蚊の鳴くような声量でこぼす。
……いやいやいや、ちょっと待ってください羽川先輩。
そこは嫌っていう場所じゃないんですか!?
「ちょ、ちょっとまってくれ先生!そもそも俺様は男だぞ!?嫁入り前の女の子がそんなホイホイと男に肌を見せるもんじゃないだろ!」
“えー?でも私はタツミと2週間後にアビドスの皆とリゾートへ行くんだよ?当然私はそこで水着になるわけだし早いか遅いかだけの問題だと思うけど?”
「いや、それはそうかもしれないけどよ……!」
頼む先生気づいてくれ、そういう問題じゃないんだよ。
「そ、そうだ羽川先輩!羽川先輩は嫌ですよね!?こんな馬の骨みたいな、好きでもない男に水着を着た姿を見せるのは!」
「……先生。私は今決心しました。何としてもこのクソボケに私の決意を思い知らせて差し上げます。」
「クソボケって何が!?いやいやいや!落ち着いてください羽川先輩!場の空気に当てられすぎですって!」
“うん、その意気だよハスミ!”
「おい煽るんじゃねぇよ先生!止めろ止めろ!」
何で二人ともそんなに乗り気なのか分からないけど辞めてくれ!俺様の理性が保たなくなっちまうだろ!?
と言うかそもそも女性の水着選びに男が付き合うのって普通の女性は嫌がるもんじゃないのか!?
あれ、俺様の認識が間違ってるだけなのかこれ!?
“まぁまぁ落ち着いてよタツミ。実はさっきまでずっとハスミと二人で選んでたんだけど、そろそろアイデアにも煮詰まってきちゃった頃でさ。新しい視点での意見が欲しいなーって思ってたところなんだよ。”
「だからって何でよりによって俺様なんだよ……!」
“え?だってタツミは男の子じゃん。やっぱり女の子からしたら同性から可愛く思ってもらうのも大事だけど、男の子の意見って言うのも重要だから。ね?ハスミ。”
「はい。女性の可愛いと男性の可愛いは別物と言う話を聞いたこともありますし、特にキヴォトスにおいては異性からの意見というのは貴重ですからね。」
いや、だからって何も俺様に頼まなくても……
と言うか羽川先輩すっかり乗り気なんだけど?最初の顔を赤くして恥じらっていたのはどこへやら、今やもう俺様に意見を求めることがさも当然のような雰囲気だ。
何と言うか、覚悟が決まっているようにさえ見える。
「それに、いつかタツミさんを誘って海へ行った時に少しでも可愛いって思ってもらいたいですし……」
「……え?何か言いました?羽川先輩。」
「な、なんでもありません!さぁ、そうと決まれば今日はとことん付き合ってもらいますよタツミさん!」
「ちょ、羽川先輩!分かりました!付き合いますから腕を引っ張らないで下さい!」
“よーし!気合を入れた意見をお願いねタツミ!”
畜生!もうこうなったらヤケだ!とことん付き合ってやろうじゃねぇかコノヤローバカヤロー!!!
あと、水着選びに付き合った後にイブキ用の浮き輪とレジャー用品の買い出しにも付き合わせてやるからなぁ!
こうして右腕を羽川先輩、左腕を先生にホールドされて水着コーナーの奥へと引きずり込まれた俺様は2人の水着選びに付き合うことになったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うーん……一体どうすれば……」
「失礼するわリン行政官。シャーレから提出されたこの書類に書かれている予算の件で相談があるのだけど。」
「うん?……あぁ、アオイ財務室長ですか。どの書類でしょうか?確認しておきます。」
「この書類のここの部分ね。急ぎではないから、また暇な時にでも確認しておいてもらえると助かるわ。」
「はい、分かりました。」
「それにしても、さっきは随分と難しい顔をして悩んでいたようだけど……何かあったのかしら?」
「……何のことでしょうか?」
「とぼけないで頂戴。貴方、私がこの部屋に入室してくるときにため息を吐きながらスマホを眺めていたじゃない。あれはどう見ても仕事関係で悩んでいる様子には見えなかったわよ?」
「……バレていましたか。流石アオイですね。」
「珍しいわね。貴方があんな表情を浮かべるなんて。一体何があったの?」
「いえ、それがその……アオイ。唐突で申し訳ないのですが、異性の友人を海へ誘う場合はどうすれば良いのかいいアイデアはありませんか?」
「は?」
「……なるほど。事情は理解したわ。要はそのゲヘナの議長代理を海へ誘いたいけどいい誘い文句が思いつかなくて悩んでいたということで良いのね?」
「はい。お恥ずかしながら……それでアオイ。何かいいアイデアはありませんか?」
「ある訳無いでしょう。そもそも私は異性の友人なんて居た試しがないのよ?それでどうして私が異性の友人の誘い方を知ってると思うのかしら。」
「それは……そうですね……」
「そもそもキヴォトスに男なんてゲヘナの議長代理くらいしか居ないでしょう。男の誘い方なんてそれこそ殆どの生徒が分からなくてもおかしな話ではないわ。」
「……ぐうの音も出ませんね。」
「まぁ男というのは噂に聞いた話によると単純な生き物だという話を聞いたことがあるわ。だったらもう貴方が水着でも何でも着て、それを自撮りで彼に送りつけてやればいいんじゃないのかしら?」
「え、えぇ!?そ、そんな恥ずかしいことは……!」
「別に彼と海へ行く気なら彼に遅かれ早かれ水着姿は見せることになるんだし、別に構わないじゃない。それに貴方の話によると何度か遊びに誘っているけど反応は芳しくないのでしょう?なら少し強引な誘い方をしてみてもいいんじゃないのかしら?」
「そ、それは彼と私が2人で出掛けているところをクロノスに撮られてはマズイという理由ですから!決して私と二人で出かけるのが嫌だと言うことではない、とこの前彼と通話したときに仰っていましたので!」
「……とんでもないたらしね、その男は。まぁもし行く日が決まったらなら報告してちょうだい。休みの日の工面はこちらでなんとかしておくわ。それじゃ、くれぐれも浮かれすぎて仕事をおろそかにしないでね。」
「ちょ、ちょっとアオイ!?ま、待ってください!」
「い、行ってしまいました……ですがアオイの言う通り、ここは少し攻めてみてもいいのでしょうか?タツミ議長代理も殿方なのですからやはりそういう事に興味が……」
「……ならば私も覚悟を決めます。少し強引かもしれませんが、アオイの言う事を信じるとしましょう。」
「そうと決まれば早く仕事を片付けて家へ帰らないと行けませんね……手早く終わらせてしまうとしましょう。」
「しかし、タツミ議長代理はどのような水着を着て送れば喜んでくれるのでしょう……」
「……す、少しくらい大胆でも構いませんよね?」