転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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おまたせしました
今回からアビ夏編に入ります


アビドスリゾート対策委員会と丹花タツミ

青い空、白い雲、そして香る潮風。

季節はすっかり夏真っ盛り、照りつけてくる太陽の日差しをうんざりとした目で見上げつつ俺様はひたすら小型のボートの操縦を行っていた。

 

時は俺様が先生と羽川先輩の水着を選んだあの日から丁度2週間後、アビドスの皆とリゾートへ行く当日の日。

あれから俺様は心置きなく休暇を楽しむため、バカンスへ行く日に向けて溜まっていた業務や外交などを急ピッチで終わらせるために寝る間も惜しんで働いていた。

積み上がる書類を崩し、風紀委員会との打ち合わせをして舞い込むクレームを処理したり、給食部を含めた部活のSOSを聞いて俺様自ら現場の視察に行ったり……

あとは連邦生徒会に頻繁に顔を出して各部署の室長との会話や矯正局への面会、RABBIT小隊への炊き出しや梅花園に顔を出して手伝いなども変わらず行った。

その他にもトリニティのティーパーティーとの外交や正義実現委員会との打ち合わせ、山海経の竜華先輩との申谷に関しての定期連絡……は少し違うけどまぁ色々な学園とやり取りをしたりと毎日鬼のように忙しかったなぁ……

業務を手伝ってくれた棗先輩を始めとする万魔殿の先輩方には感謝の言葉しか出てこないな本当に。

 

そのおかげでひとまず溜まっていた業務はほぼ全てが片付き、俺様とイブキは何の憂いもない状態でバカンス当日を迎えることが出来た。

そして留守の間の万魔殿を棗先輩達に任せ、彼女達に見送られて出発した俺様とイブキはアビドスの皆や先生との集合場所であるリゾートがあるという島に小型のボートを操縦して向かっていた。

 

で、今回の目的地であるリゾートがある島なのだがどうやら大小さまざまな島が集まって出来ているいわゆる群島地帯の中の島の一つなのだとか。

そのため現地へ行く手段としては空路か海路の2つに絞られるため、俺様はこうしてイブキを乗せたボートを運転して現地へ向かっているというわけだな。

 

初めはアビドスの皆が新たに学校の備品として購入したヘリコプターを操縦してゲヘナまで迎えに来てくれるとの事だったのだが、黒見から送られてきた目的地の座標を見る限りではわざわざアビドス→ゲヘナと経由するよりはゲヘナの港から直接向かったほうが早そうな感じの場所にあるようだった。

そのため迎えの提案自体はありがたかったのだが断りを入れ、万魔殿の倉庫から昔羽沼議長が使っていたらしい4人乗りの埃をかぶった小型ボートを引っ張り出してきてそれを整備して俺様が運転することにした。

幸いボートの運転自体は何度かやったことがあるし、この日のために何度か練習もしてきたから大丈夫。

念の為リゾートに確認を取ったところ島の桟橋に停めても大丈夫との許可ももらってるし準備は万端だ。

 

まぁそういうわけなのでアビドス組と先生はヘリで、俺様とイブキはボートでそれぞれ空と海から目的地であるリゾートを目指して現地合流をする事になった。

ちなみに奥空からモモトークで聞いた話によると、アビドスのヘリは毎月の借金返済の端数をこつこつ溜めてようやく購入できたアビドス初の大型備品なんだとか。

カイザーとの因縁は一旦落ち着いたとは言え、アビドスは多額の借金を抱えたままなのでその中でヘリを購入できるというのはひとえに彼女達の日々の頑張りのおかげだと言う他ないだろうな。

 

ちなみにアビドスの皆とのリゾートが終わったら七神代行とも二人で海へ行くことになっているし、イブキともプライベートで海へ行く予定もあるし、羽沼議長が出所したら万魔殿の皆で海へ行きたいし……

うん、この夏は海づくしになりそうな予感がする。

 

「楽しみだね、お兄ちゃん!」

 

そんな事を考えていると、イブキが声を掛けてくる。

ふとボートの先端を見ると、そこには可愛らしい黄色のワンピース型の水着に身を包んだイブキがキラキラとした目で俺様に視線を送りながらそう言ってくる。

 

イブキが今着ている水着は京極先輩が選んでくれたものらしいのだが、イブキの金髪の髪と黄色の水着がバッチリと合わさって無邪気な可愛さを演出している。

胸元についているヒマワリのアクセサリーも黄色で統一されたイブキとの相性はバッチリだ。

まさに、ヒマワリのような笑顔を浮かべているイブキにぴったりの逸品と言えるだろうな。

羽織っている白い上着も水着の主張を一切妨げず、イブキの肌を日焼けから守ってくれている。

 

更にイブキはそこに大きめの麦わら帽子をかぶっており、まさしくこれぞ夏!というようなコーデだ。

しかし俺様がイブキに水着を選んでやったらここまでイブキの可愛さを引き立てることは敵わなかっただろう。

流石は京極先輩だ。

イブキの良さをよく理解していらっしゃる。

 

「あぁ、お兄ちゃんもこの日のために頑張って仕事をしっかり終わらせてきたからな!」

 

そんなキャイキャイと笑顔ではしゃぐイブキを見つつ、俺様は笑顔でそう答えた。

ボートが少し揺れる度に水しぶきが上がり、太陽の光を反射してキラキラと輝くしぶきと「つめたーい!」と言いながら戯れるイブキはこの世の何よりも可愛い。

うん、やっぱりイブキは最高だな!流石俺様の妹だ!

うぉぉぉぉ!イブキ最高!イブキ最高!!

 

くそ!この場に元宮先輩がいれば必殺の秒間百連射でイブキのこの国宝級にかわいい笑顔を永久保存してもらえたというのに……!

そしたら万魔殿の議長室に飾ったり、議事堂のありとあらゆるところに飾ってイブキの圧倒的可愛さをゲヘナ中に知らしめるチャンスだったと言うのに何と勿体ない!

 

……いや、しかしよくよく考えるとイブキのこの超キュートな水着姿を目にしたらよからぬことを考える輩が出てきてもおかしくないのでは?

それはダメだ!イブキが危険な目に合うことなんてこの世で一番あってはならないことだからな!

くっ、仕方ないので俺様の両目に焼き付けておこう。

 

え?俺様の格好はどうなのかって?

いやまぁ……普通にゲヘナの服屋で注文して仕立ててもらった普通の海パンにTシャツに上着って感じだが……

ちなみに上にTシャツを着ているのは腹の傷を隠したいからだな、流石に抜糸は済んだとは言え結構な傷になっちまっているしあまり見ていて気分がいい者でもないだろう。まぁ、泳ぐ時は脱がなきゃいけないだろうけど……

 

「お兄ちゃん?どうしたの?」

 

俺様がそんな事を考えていると、イブキが不安そうな目をしながらこちらへとそう問いかけてくる。

 

「あっ……い、いや!なんでもないぞイブキ!」

 

俺様はイブキに対して慌てて笑顔を浮かべてそう言う。

くそ、この俺様としたことがイブキを悲しませるなんて……一生の不覚だ……!

 

「ほんとに大丈夫?やっぱりお仕事の疲れが……」

「い、いや大丈夫だ!それよりイブキ、ちゃんと水分は取ってるか?最近は暑いからしっかりお水を飲まないとダメだぞ?」

「うん、ちゃんとお兄ちゃんがくれたこのスポーツドリンクを飲んでるからへーきだよ!」

 

イブキはそう言ってスポーツドリンクが入った水筒を掲げると、嬉しそうにニコニコと笑顔を見せる。

うんうん、やっぱりイブキの笑顔は最高だな!

 

「しっかり飲んどくんだぞ!今日は暑いからな!」

「うん、分かった!」

 

ちなみにイブキに渡したスポーツドリンクは俺様の手作りであり、汗で失われる成分をふんだんに入れた物だ。

今は海上でボートを走らせているから潮風が当たって涼しいけど、それでも暑いものは暑いからな。

汗をかいたときに水だけを飲んじまうと水中毒で気分が悪くなっちまうからな、これから楽しいバカンスの最中に愛する妹をそんな目に合わせるわけにはいかない。

イブキの健康状態には常に目を配ってるし、もちろん危険なことが無いように努めるつもりだ。

 

「お兄ちゃん、リゾートまではあとどのくらい?」

「えっと、座標によるともうそろそろ島が見えてくるはずだな。多分あと5分くらいなんじゃないか?」

「ほんと!?じゃあもうすぐだね!」

「あぁ、アビドスのお姉さんたちに会ったらきちんと挨拶するんだぞ?」

「うん!セリカ先輩元気かなー。久しぶりに会えるの楽しみだなー!」

 

そう言ってウキウキした表情を浮かべるイブキ。

イブキと黒見は俺様が柴関ラーメンに通っていたときによく連れて行ってやっていたから仲がいいんだけど、最近は忙しいのもあって中々行けてなかったからな……

そのためイブキも行く前から黒見と会えることを楽しみにしており、黒見もそれは同じ様子だった。

俺様としてもアビドスの皆と会うのはこの前のエデン条約の一件以来だし、元気にしているといいのだけど。

 

「……おっ。」

 

さてそうこうしている間に目的地の島が青い地平線の向こうに見えて来たようだ。

なるほど、島の規模はそれほど大きくは無さそうだけど自然が豊かでとてもいい島と言えるだろう。

せっかくバカンスに来たならやっぱり都会の騒がしさとは無縁の場所で過ごしたいし、あの大自然の中で思いっきり遊べるのはいい休暇になりそうだな。

 

「あ、島が見えてきたよお兄ちゃん!」

「あの島がどうやら目的地みたいだな。よし、少し速度を上げるぞイブキ!しっかり捕まってろよ!」

「はーい!」

 

俺様はイブキがしっかりとボートの手すりに捕まったのを確認すると、エンジンを吹かして速度を上げる。

そしてそのまま前へ進んでいくと、キラキラと輝く白い砂浜にボートを停めるのに丁度いい桟橋を見つけた。

恐らくあそこがボートを停める許可をもらっているはずの桟橋だろう。よし、そうと決まれば善は急げだ。

俺様はすぐにその桟橋にボートを停めると、荷物を持ってイブキと一緒に島に上陸するのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからしばらくして。

桟橋に乗ってきたボートを停め、先に到着しているであろうアビドスの皆や先生と合流するために島にあるリゾートへ向かって歩き出した俺様とイブキの二人。

 

そして歩き始めてから、そう言えば俺様は黒見からリゾートの詳しい場所までは聞いていないのを思い出したのだがまぁそこまで大きな島じゃないし特に問題はないだろうと思っていたのだが……

 

「お兄ちゃん、まだ着かないのー?」

「うーん、黒見の話だとこの辺りの筈なんだが……」

 

どういう訳か、もう結構歩いているにも関わらずそれっぽい場所が一向に見えてこなかった。

今までで見たものと言えば桟橋とその近くの砂浜、それとこの鬱蒼と茂ったジャングルの草木くらいの物だ。

 

ボートに乗っているときに見た感じだと、この島は自然はとても豊かだけど大きさ自体はそこまでだった。

だからもう結構歩いているんだし、そろそろ目的地であるリゾートが見えてきてもおかしくはないはずだが……

 

くっ、こんなことになるなら黒見に詳細な場所を聞いておけば良かった。

黒見の話だと集合場所はものすごくリッチで大きなリゾートという話だったので、そんな場所であれば一目で分かると思っていた俺様の見通しが甘いとしか言えないだろう。

実際、そのせいでイブキを余計に歩かせちまってるからな……これは確実に俺様の落ち度だ。

 

「ごめんなイブキ、俺様がちゃんと場所を聞いてなかったばっかりに……疲れただろ?少し休むか?」

「ううん、大丈夫だよ!それにお兄ちゃんとこうしてのんびりお散歩するのも久しぶりだし、イブキはお兄ちゃんと一緒に居られるだけで嬉しいから!」

 

俺様はイブキに対して謝罪と共にそう問いかけるが、イブキは満面の笑みを浮かべてそう言葉を発した。

……そう言えば、最近は仕事仕事ばかりでイブキにあまりかまってやれずにこうやって二人で散歩をするのも随分と久しぶりな気がするな。

 

前までは仕事終わりに寮の俺様の部屋で飯を作って一緒に食ったり、食べ歩きに連れて行ってやったり、外へ遊びに行ったりしていたのだが議長代理になってからは忙しすぎてそんな暇すら無くなっていたからな……

もちろん毎日朝飯を作ってイブキに食わせるのは日課だから欠かさずやってるんだけど、逆を返せばそのくらいで万魔殿へ行ってからは執務室へこもるか他校へ外回りへ行くかの二択だった気がしている。

イブキも俺様が忙しいことは理解しているようで、ワガママも言わずに棗先輩達と遊んでくれているのだが……妹に気を使わせるなんて兄として失格だろう。

 

「……ごめんなイブキ。」

 

……本当にイブキには寂しい思いをさせちまってる。

もっと俺様に仕事ができる能力があれば、毎日の業務を爆速で終わらせてイブキに構ってやれるんだけど……

俺様の力が及ばないだけに、申し訳なく思うばかりだ。

 

「ううん、大丈夫だよ。お兄ちゃんがマコト先輩のおしごとを代わりにやってて忙しいのは分かってるもん。」

「イブキ……」

「それに今からのリゾートでのお休みはイブキだけが遊ぶんじゃなくて、お兄ちゃんもいっぱい遊んでお休みするためなんだからね?」

 

イブキは俺様と繋いだ手をぎゅっと握ると、俺様を見上げながらそう言った。

 

「そっか……そうだな。イブキの言う通りだ。」

「うん!だからいっぱいイブキと遊ぼうね!普段遊べない分、いっぱい遊んでもらうんだから!」

「あぁ!いくらでも付き合ってやるぞ!砂のお城を作ったりバーベキューしたり花火をしたり……イブキのやりたい事は何でもしよう!」

「わーい!やったー!」

 

俺様がそう言うと、イブキは花の咲いたような笑みを浮かべてその場でぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んだ。

……こんなにいい笑顔のイブキを見たのは久しぶりだ。

 

そうだな、イブキの言う通り今回のリゾートはイブキのためでもあるけど俺様が休むためのものでもある。

なら快く送り出してくれた万魔殿の先輩方のためにも、全力でイブキと共に楽しんで最高の思い出にすべきだ。

それに、そうじゃなければせっかく誘ってくれたアビドスの皆に対しても合わせる顔がないからな。

 

……なんやかんやで、休みの日と言えど俺様はどこか気を張っちまっていたのかもしれない。

それに気づかせてくれたイブキには感謝しないとな。

そして普段構ってやれない分、イブキがもういいと言うまでたくさん遊び倒してやるとしよう。

 

「ありがとな、イブキ。」

 

俺様はそう言うと、イブキの頭に手を置いてその手を左右に動かす。

 

「えへへ……うん!」

 

そして俺様に頭を撫でられたイブキは嬉しそうに微笑むと、元気のいい返事を返してくれた。

うんうん、イブキが嬉しそうで俺様も嬉しい限りだ。

 

さて、イブキと一緒に散歩するのも悪くないとは言えこのままリゾートの場所がわからないのはマズいだろう。

それに時間的にアビドスの皆や先生は現地に到着していてもおかしくないし、そうなると彼女達を待たせるということにもなりかねないからな。

せっかく誘ってもらったのにその張本人達を待たせるなんて、そんな失礼なことがあってはならないだろう。

 

(仕方ないな……)

 

幸いスマホはきちんと持ってきているし、こいつを使って黒見に連絡を取るとしよう。

そう考えた俺様は肩掛けカバンからスマホを取り出し、モモトークを開いて黒見とのトーク画面を開こうと……

 

「な、何よあれー!?!?!?」

 

した瞬間だった。

突如、俺様とイブキの居る少し前方からどこかで聞き覚えのある大きな声が鳴り響いた。

あまりにも予想外すぎる出来事に、俺様とイブキは揃って肩を震わせる。

 

「ん?今の声は……!?」

「セリカ先輩……?」

 

その声に思わず驚いた俺様とイブキは互いに顔を見合わせると、それぞれそう言葉を発した。

叫び声からして恐らくただ事ではない、もしかしたらなにか事件に巻き込まれている可能性もある……!

まずい、こうしてはいられない!

 

「イブキ、行くぞ!」

「うん、分かった!」

 

俺様はイブキと繋いでいた手を一旦離すと、イブキをその流れで肩車してそのまま一直線に黒見の叫び声が聞こえてきた方向へと走り始めた。

ひたすら地面を蹴り、イブキと抱えた荷物を落とさないように慎重に大急ぎで現場へと足を進める俺様。

 

ひたすらイブキを肩車して走り続け、鬱蒼と茂っていた森から光の差している場所を見つけた俺様。

確信はないけど、恐らく黒見の声が聞こえてきたのはあの少し開けた場所で間違いないはずだ。

そう直感で感じ、そこへ一にも二にもなく飛び込んだ俺様の目に飛び込んできたのは……

 

何やら人気の全くしない老朽化した大きな建物と、それを指さしながら叫んでいる黒見を初めとした水着姿のアビドス対策委員会の面々と先生の姿だった。

 

「こ、これ何!?本当にここで合ってるの!?こんなのただの廃墟じゃない!人っ子1人いないし!ねぇ違う島に来たんじゃないの?本当にここなの!?」

「……うん、たしかに座標上はここで合ってるね。」

「どう見てもリゾートと呼ぶには無理がありますが……」

 

目の前にそびえ立つボロボロの建物を指さしながら絶叫する黒見に続き、淡々とそう言う水着姿の砂狼先輩と奥空の二人。

そして、その後ろではどう見ても廃墟にしか見えない建物を眺めながら大口を開けている小鳥遊先輩、十六夜先輩、先生の姿があった。

どうやら様子を見るにどうやら何者かに襲われているというわけではなさそうなのでそれは一安心だが……

一体何が合ったんだ?

 

……まぁそれに関しては本人に聞いたほうが早いだろう。

そう考えた俺様は、皆に近づきながら声を掛けた。

 

「おーい黒見!みんなー!」

「なんでこんなこと……えっ……?た、タツミくん!?それにイブキちゃんも!?」

 

俺様に声を掛けられた黒見は驚いたような様子でこちらを振り向くと、目を見開きながらそう言った。

 

「こんにちは、セリカ先輩!ひさしぶりだね!」

「う、うん久しぶりイブキちゃん……」

「イブキ、さっきまでお兄ちゃんと一緒に森の中を歩いてたんだけどセリカ先輩の大きな声が聞こえてきたから大急ぎでここまで来たんだ!セリカ先輩が困ってるかもしれないから!」

「……そっか。ありがと、イブキちゃん。」

「えへへ!どーいたしまして!」

 

イブキの無邪気な笑顔を見て、先程まで不安そうな表情を浮かべていた黒見は少し笑顔を浮かべた。

そしてそんな黒見はと言うと、フリルの付いた黒いビキニを着用していた。

彼女のスラッとしつつも美しい体のラインや健康的な太ももが惜しげもなくさらけ出されている露出度の高い水着に、俺様は慌てて視線を逸らす。

 

「おぉ、ここで丹花兄妹の登場とは退屈しないねぇ。その説はありがとうね~タツミくん。」

「いえ、こちらこそ今回はお誘いいただいてありがとうございます小鳥遊先輩。」

 

そんな俺様を見て、小鳥遊先輩が相変わらずののんびりした声色で声を掛けてくる。

小鳥遊先輩はその小柄な体にピッタリというような白いフリル付きの水着を着ており、その上から水色の上着を羽織り頭にサングラスを乗っけている。

……なんというか、一人はいるよな。

水着を着た時にサングラスを頭に載せている人って。

 

「こんにちはタツミくん☆」

「ん、久しぶりタツミ。」

「どうも砂狼先輩、十六夜先輩。お久しぶりです。」

 

そんな小鳥遊先輩の後ろで少し遅れて俺様とイブキを視認した砂狼先輩と十六夜先輩はこちらへと近寄ってくると、それぞれそう言葉を口にした。

 

砂狼先輩は競泳水着のような水着を着用しており、普段のロングヘアーと違ってまとめられた灰色の髪とサイクリングで鍛えられた引き締まった体を見せつけるかのような健康的な装いになっている。

何と言うか、サイクリングが趣味の砂狼先輩らしい格好と言えるだろうな。

 

そして十六夜先輩はその大きな胸を強調するかのようなシンプルな黄色いビキニに薄手の上着を羽織り、黄色い花のアクセサリーの付いた白い帽子を被っていた。

羽川先輩や京極先輩にも負けずとも劣らない、シンプルかつ清楚な雰囲気ながらもその圧倒的な存在感を放っている2つの双丘とその間に出来ている深い谷間。

そのあまりにも刺激的すぎる格好に、俺様は慌てて視線を逸らした。

 

「ま、まさかタツミさんが来るのがこのタイミングだとは……なんとも間が悪いといいますか……」

“まぁ、逆に説明する手間は省けるんじゃないかな?”

「それはそうかもしれませんが……」

 

そんな俺様達のやや後方で、額を抑えている奥空といつも通りマイペースな先生のそんな会話が聞こえてくる。

なんとなしにそちらへ目をやるとそこには青と白の縞模様のビキニにホットパンツを身に着けた奥空と、この前のショッピングモールで俺様が選んだ薄紫色のビキニを着用している先生の姿があった。

 

先生は俺様が前日にもさんざんモモトークで言った通り胸にはフリルを、腰にはパレオを巻き付けておりきちんと露出度を下げた格好をしてくれているようだった。

良かった、これならば目のやり場に困ることはないだろう。一安心と言ったところだろうか。

……まぁ、フリルとパレオを付けていても先生の規格外すぎるスタイルはまったく隠しきれてはいないんだが。

 

「よう奥空、先生。久しぶり。まぁ先生は久しぶりってほど間は空いてねぇけどな。」

“うん、こんにちはタツミ。”

「はい、お久しぶりですタツミさん。」

 

そんな彼女達に声を掛けて挨拶を済ませると、俺様は小鳥遊先輩達にはじめましての挨拶をしているイブキを横目に黒見の傍へと歩み寄った。

 

「ところで黒見、お前さっき何かすごい大きな声で叫んでたみたいだけど何かあったのか?」

「えっ!?い、いやそれはその……」

 

俺様は目の前の建物に視線をやりながらそう言った。

黒見の話によると今回の集合場所はものすごく大きくてリッチなリゾート言う話だったので、俺様のイメージとしてはなんというかこう……前世で言うハワイの高級ホテルみたいな場所をイメージしていた。

 

だが、目の前にある建物はそのイメージとは程遠い。

壁の塗装は剥がれているし、屋根の瓦も所々風邪か何かで飛ばされたのか抜け落ちており、周りの草木はまったく手入れされておらずに生え放題の荒れ放題。

おまけに老朽化した木が折れたのか倒れており、それが外にある連絡通路を半分塞いでいるとかいう状態だ。

窓から中を見る限り人の気配はゼロだし、どこからどう見ても立派な廃墟としか言いようがないだろう。

 

「まさかとは思うけどこれがリゾートって訳でもないだろ?別の場所に目的地があるとかそんな感じか?」

「え、えーっと……それは……」

「……うへー。そういうことかぁ。」

 

俺様の質問に対してなんだか歯切れの悪い黒見を不思議に思って首を傾げていると、突然一枚の紙を手にしていた小鳥遊先輩が何かを察したような声でそう呟いた。

それを見て頭にハテナマークを浮かべた十六夜先輩が彼女の持っている紙切れを覗き込むと、その瞬間に十六夜先輩の表情は笑顔から渋い顔へと変わった。

 

「な、なに?どうしたの?なにか分かったの?」

「……えっとねセリカちゃん。私達が当たったリゾート利用券はここの土地の利用券だったみたい。」

 

黒見の質問に、十六夜先輩と同じく小鳥遊先輩の手にしていた紙切れ……いや、恐らく黒見がビンゴ大会で当てたというリゾート券を覗き込みながら奥空がそう答えた。

その言葉を聞いて俺様と黒見は顔を見合わせると、二人で小鳥遊先輩に近寄ってチケットを覗き込む。

そのチケットは一見するといかにも豪華なリゾートへの招待券のように思えたが、よく確認するとチケットの下の方に小さな字でこう書かれていた。

【チケットを所有するものにリゾート地を利用する権利を与えるものとする。ただし、当該地の状態については保証しかねます】……と。

 

(あー……)

 

なるほど、合点が行った。

つまり黒見がビンゴ大会で当てたこのリゾート利用券は豪華なリゾートへの招待券という訳じゃなく【この島を自由に使ってもいいよ】と言う券だったと言う事だな。

ただし【現地の状況はこっちの知ったこっちゃないからそっちでなんとかしろ】という条件付きで。

 

「えっと……つまり?」

「詐欺……ってことでいいのかなぁこれは……」

 

うん、どう考えても詐欺にほかならない。

そもそも招待券じゃなくて土地の利用券なら黒見に渡す際にその旨を説明するべきだし、百歩譲って説明しないのであれば注意書きをもっと大きな文字で書くべきだ。

どう見ても騙す気まんまんの悪質な詐欺だろう。

 

まぁ、難しい話を抜きにするとだ。

どうやらこの廃墟が【ものすごく大きくてリッチなリゾート】という事になるらしいな。

いや。どこからどう見たってどこに出しても恥ずかしくない立派な廃墟なんだが……?

 

「そんな……信じらんない……」

「……黒見?」

「景品がお金じゃなくても前向きに……せっかくだからゆっくりしようって思ったのにどうしてこんな……」

 

黒見は小鳥遊先輩が手にしたチケットを見ながら、わなわなと肩を震わせつつそう言葉をこぼす。

 

「悔しい、私達が何したっていうのよ……」

「セリカちゃん……」

「それにタツミくんやイブキちゃんだってわざわざ忙しい中時間を作って来てくれたっていうのに、こんなの二人に申し訳ないわ。」

 

黒見はそう言うと、目から溢れ出てくる涙を手でごしごしと擦りながらそう言った。

 

「……まぁそのなんだ、気にすんなよ黒見。」

 

そんな彼女の姿を見て、黙っていられる俺様ではない。

気がつけば、俺様は黒見の頭に手を置いていた。

 

「ふぇ!?た、タツミくん!?」

「確かにお世辞にも目の前の廃墟はリゾートとは呼べないかもしれないけど、それは黒見が悪いんじゃない。チケットを渡す時にキチンと説明しなかった奴が悪いんだ。だからお前が気に病む必要はまったく無い。」

「で、でも!それでも私はタツミくんやイブキちゃんの時間を……」

「おいおい、俺様やイブキが今回のこのバカンスをどれだけ楽しみにしていたと思ってるんだ?俺様はこの日のために急ピッチで仕事を終わらせたし、イブキなんて前日は楽しみで眠れなかったらしいぜ?なぁイブキ?」

「うん!イブキ、お兄ちゃんやセリカ先輩たちといっぱい海で遊べるのが楽しみで仕方なかったの!」

「タツミくん……イブキちゃん……」

 

目に涙を溜め、蚊の鳴くような声でそう呟く黒見。

 

「それにお前はリゾートのチケットが当たったからって言って、学校も違えば交流も多くない俺様とイブキをわざわざ誘ってくれたんだぜ?そして、アビドスの先輩方はそれを快く受け入れてくれた。感謝こそすれど、俺様やイブキが文句を言う理由なんて一つもねぇよ。」

 

黒見の頭に乗せた手を左右に動かしながら、俺様は黒見に対して優しくそう声を掛ける。

 

「まぁなんつーか、上手く言えねーけどさ。俺様やイブキは黒見のその優しさだけで充分だからよ。だからあんまり気にすんなって、な?」

「け、けど……」

「それにだ。何も豪華なリゾートの招待券じゃなくてこの島の土地の利用券だったからって言って、バカンスがここで終わるわけじゃないだろ?」

「……え?」

 

俺様は黒見の頭を撫で続けながらそう言うと、黒見は呆けたような声を上げて俺様を見上げてくる。

そう、何も黒見が詐欺まがいのチケットを掴まされたからと言ってここでバカンスが終了する訳じゃない。

 

チケットに書かれていたのはこうだ。

【チケットを所有するものにリゾート地を利用する権利を与えるものとする】……とな。

つまり、それは裏を返せばこの島やこの島に設置された設備等を使う権利が俺様達にはあるという事になる。

 

パッと見た感じだと目の前の廃墟は建物自体はボロボロだし草木は荒れ放題だけど電気や水道などのライフラインは生きているようだし、長年使われていなくて埃を被ってはいるもののきちんと掃除さえすれば問題なく使用できるくらいの強度は担保されているだろう。

 

この廃墟を掃除して使えるようにすれば、ここを拠点にしてこの島の好きな場所に行き放題だし行った先にある設備は当然使い放題だ。

この島は自然が豊富だし空気もうまい、それに何よりもボートでくる途中で見た綺麗な砂浜と青い海がある。

バカンスをするのにはうってつけの場所だろう。

 

「うんうん!タツミくんの言うとおりですよセリカちゃん!想像とはちょっと違うけど空気も水もきれいな島に来たのは確かですし!遊ぶための道具は持ってきてますから、思いっきりバカンスを楽しみましょう!」

 

俺様の言葉を援護するように、意気消沈した黒見に対して十六夜先輩が明るくそう声を掛ける。

 

「ん、持ってきた備品は全部無事だったからね。墜落したヘリから取ってくればいいよ。あとさっき皆が話している時にそこの廃墟を探索してきたけど、設備は揃ってるし倉庫もあった。状態は良好だったよ。ちょっと古くて錆びてたり埃は被ってるけど、手入れさえすればぜんぜん使える。」

 

続いて、砂狼先輩がそう発言する。

どうやら俺様達が黒見を慰めている間に廃墟に潜り込んで色々と探索をして来てくれたらしい。

しかし、この短期間でそんなところまで見て回れるとは砂狼先輩のフットワークの軽さには驚く他ないな。

とは言え、倉庫もあって設備もしっかりしているのならば掃除とメンテナンスをすればこの廃墟はあっという間にリゾートホテルへと早変わりしてくれることだろう。

 

「ノノミ先輩……シロコ先輩……」

「そうだよセリカちゃん!諦めるにはまだ早いよ!ヘリもリゾートも私達で修理すればいいんだよ。設備の修理は慣れっこだしね!」

 

既に涙腺が崩壊しかかっている黒見に対して、更に奥空からそう言葉がかけられた。

……なんかさっきから墜落したヘリとか、ヘリの修理とか不穏な言葉が聞こえてきているけどこの空気に水を差してしまうのはよろしく無いだろうからな。

気にはなるけど、今は黙っておくとしようか。

 

「ん。設備の修理や整備は私達アビドスの十八番。」

「うんうん!この広いリゾート地と無人島がぜーんぶ私達の物になったってことですよ!どう楽しむかはこれからの私達にかかってるんです!アヤネちゃんの言う通りこれから最高の休暇を過ごせばいいだけですからね☆」

「うへ……可愛い後輩のためにおじさんも頑張るかぁ。」

「みんな……!」

 

次々と黒見に対してかけられる温かい言葉の数々。

その言葉を受けた黒見は、やがて涙腺を崩壊させて目から大粒の涙を流し始めた。

俺様はそんな彼女を見て上着のポケットからハンカチを取り出すと、それを彼女に握らせる。

 

「いい先輩や友人を持ったな、黒見。」

「うん、ほんとに……バカで最高の仲間たちよ。」

 

黒見は俺様から受け取ったハンカチで涙を拭くと、ニッと歯を見せて笑ってみせた。

うんうん、やっぱり女の子には笑顔がよく似合うぜ。

 

“……青春だなぁ。”

 

そんなアビドスのみんなを見つめながら、先生は感動した様子でしみじみとそう呟いた。

 

「あぁもう覚悟しなさいよ!こうなったら思いっきり遊んでやるんだから!私は絶対に諦めないわよ!ここで最高の休暇を過ごしてやるんだから!」

「「「「「おー!!!」」」」」

 

こうして思っていたものとは違うもののアビドスのみんなと先生、そして俺様とイブキによるバカンスが幕を開けるのだった。

なおその後、イブキの水着を見て可愛いとはしゃぐアビドスのみんなと先生にイブキの魅力を力説したら若干引かれてしまったのはまた別の話。

 

「なんでだよ!イブキは可愛いだろ!?」

「いや、イブキちゃんが可愛いのはそうなんだけど……」

「はっ……!さては話半分で聞いてたな!?よしそこに並べ黒見!奥空!俺様がイブキの素晴らしさを語ってやろう!8時間くらいな!」

「バカ言ってんじゃないわよ!そんなに話してたら日が暮れちゃうじゃない!」

「何を言ってんだ!その気になれば俺様はイブキの魅力を1週間は語れるぞ!8時間なんてまだまだ序の口だ!」

「お、落ち着いてくださいタツミさん!」

「うおぉぉぉぉ!イブキの可愛さを聞けぇぇぇ!」

「もう、お兄ちゃんったら……ふふっ♡」

 

「……タツミくん、イブキちゃんのことになると本当に人が変わるんですねぇ。」

「ん、先生から聞いてはいたけどドの付くシスコン。」

“妹思いなのはタツミの良いところなんだけど、あれさえなければなぁ……”

「イブキちゃんもまんざらでもなさそうだし……いやはや、いい兄妹愛だねぇ。おじさん感動しちゃうなぁ。」

“(……純粋な兄妹愛だと良いんだけどね。)”

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