「……こちらFOX1。FOX4、応答せよ。」
「こちらFOX4。視界良好だよ、ターゲットを確認した。どうやら待ち合わせてたアビドスの5人と先生と合流したみたいだね。ターゲットの妹の姿も見える。見たところ防具は身につけていないみたい。バカンスに来てるということもあって、油断もあるだろうね。」
「了解。FOX4はそのままターゲットの監視を続けろ。何かあれば報告してくれ。」
「はいはーい。FOX4了解したよ。」
「FOX3、応答を。」
「こちらFOX3、ターゲットが乗ってきたと思われるボートを発見したわ。アビドスの乗ってきたヘリも墜落して故障してるみたいだし、一応これを潰してしまえば完全に奴らを島に閉じ込められるけど……」
「……いや、今は下手に工作して私達の存在を勘付かれたくない。ターゲットが一人になるタイミングを伺ったほうがいい。そこで襲撃をかけるのがいいだろう。」
「……ねぇ、変なこと言うかも知れないけどこのまま進めて大丈夫なの?丹花タツミって今回はバカンスに来てるんでしょ?そんなところを襲うなんて……」
「それは作戦遂行に必要な事項か?」
「……なんでもない。FOX3、報告は以上よ。」
「……ねぇユキノちゃん。」
「……FOX2、今は任務中だぞ。コールサインで呼べ。」
「FOX1、いくらカヤ室長の指示とは言え本当にあの子を襲うつもり?あの子にはヘイローがない。私たちと違って銃弾を一発でも受けたら死の危険がある。いくらSRTを復活させるためとは言え殺人に手を染めるなんて……」
「……その疑問は作戦侵攻に不要だ。」
「ユキノちゃん、いくらなんでも今回の指示はおかしいよ。仮にあの子を始末してSRTが復権しても、人の血の上に建てられた学園なんて……そんなの、到底正義と呼べるものじゃない気がするよ。」
「それがどうしたと言うんだ。私たちは命令に従い、作戦を遂行する武器だ。そして刃を向ける相手を選ぶのは武器ではなく柄を持つものの役目。相手を見て戸惑う武器など……武器としての価値はない。」
「ユキノちゃん!」
「……ニコ、私達は今までどんな任務だってこなしてきたじゃないか。どれだけ過酷でも、どれほどの犠牲を出してでも。全てはSRT復興のために。」
「それはそうだけど……!」
「別に嫌なら辞めてもらっても構わない。お前が辞めたところでFOX小隊は……いや、例え私1人になろうと丹花タツミを始末するだけだ。」
「…………」
「……FOX2、承知いたしました。」
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あれからアビドスの皆とバカンスを楽しむ決意をし、全員で拳を突き上げた俺様達。
とは言え気持ちだけではどうにもならないので、先生の提案でかつてはリゾートホテルだったであろうこの廃墟の掃除と整備をしてまずは俺様達が安心して活動できる拠点を作ろうという事で話がまとまった。
という訳で、俺様達はそれぞれ役割を分けて手分けをして作業に取り掛かることになったわけだが……
まず、廃墟の掃除と整備を行う掃除組。
これは俺様とイブキのゲヘナ組と小鳥遊先輩と黒見の二人、そして先生が担当することになった。
安心してバカンスを楽しむためにはとにもかくにも落ち着いて過ごせる拠点の確保が急務だからな。
幸い俺様は掃除自体は得意なので、手分けしてちゃっちゃと終わらせちまうとしよう。
ちなみに担当は俺様とイブキが客室、先生がキッチン、黒見と小鳥遊先輩が玄関ホールと大浴場となっている。
続いてアビドスの皆が乗ってきたヘリにバカンスで使用する荷物を取りに行く担当、これは奥空を含めた残りのメンバーで向かってもらう事になった。
というのもアビドスの皆はこのバカンスを遊び倒す予定だったらしく大量の荷物をヘリに積んできているらしく1人や2人では到底抱えきれない量なのだとか。
いやどんだけ荷物を積んできたんだよ……と思わざるを得ないが、まぁ持ってきたもんは仕方ないだろう。
というわけなので、今奥空を含めた4人はヘリの墜落現場に向かっていると言う訳だな。
ちなみにアビドスの皆と合流した時に砂狼先輩や奥空がヘリが墜落したと言っていたのが気になったので理由を聞いてみたのだが、どうやらこの島に来る道中でアビドスの皆の乗ってきたヘリが原因不明の故障により不時着してしまったらしい。
幸い先生を含めて怪我人は1人も出なかったらしいのだが不時着の衝撃でヘリは故障。修理をしなければ再び飛ぶことは敵わないくらいの損傷を起こしているらしい。
黒見の話によれば出発前に何度も異常がないか点検して特に問題はなかったらしいので、原因の特定がしようがないのが厄介なところではある。
故障の原因が分かれば修理の時にそこを重点的に補強すればいいけど、それがわからないとなると修理をしようにもどうにもならないからな……
まぁ可能性があるとすれば、ヘリを購入する時に不良品を掴まされたことくらいだが……それなら点検時に以上が見つかるはずだし、一体何なんだろうなぁ……?
まぁそのせいもあって奥空は自分の運転が悪くて墜落したと落ち込んでいたので、頭を撫でてやってそんなことはないとキッパリと言い切っておいた。
それに砂狼先輩の話によると、倉庫の中にヘリの部品が置いてあってそれを使って修理できそうとの事だった。
俺様はヘリの修理に関してはド素人もいいところなのでアビドスの皆に任せるしかないけど、設備修理が十八番とまで言い切る砂狼先輩が言うなら間違いないだろう。
なお奥空を撫でてやって慰める際、何故か奥空は顔を真赤にしていた慌てていたのだが……まぁ今は夏真っ盛りだしな、少し暑かったのだろう。
あとでスポーツドリンクでも差し入れてやるとしよう。
なお、それに乗じて俺様も一足先にボートに積んであったレジャー用品やいざというときの非常食などの荷物類をこれから拠点となるこの建物へと持ってきた。
その中にはスポーツドリンクやカロリーバー系統のものもあるので、少なくともこれでしばらく食料に困ることはないだろう。まぁ味気ないのは否めないけどな……
「それにしても……」
俺様はその場で息を吐き、廃墟の中をぐるりと見渡す。
外から見ても結構な大きさだったこの廃墟は一歩中へ足を踏み入れると想像以上に広く、砂狼先輩の言うように設備もかなりの数のものが揃っているようだ。
それ以外にも客を迎える玄関ロビーにたくさんの客室、キッチンやトイレ、大浴場などもしっかりと完備されており放棄される前まではきちんとしたホテルとして客を迎えていたんだろうなと言うことが分かる。
俺様とイブキが掃除をしているこの客室も、ざっと見て軽くは5人泊まれるくらいには大きな部屋だしな。
まぁ長年放置されていたのか少し老朽化しているし、埃を被ってるからしっかり掃除しないといけないけど。
「すっごく大きいねーお兄ちゃん!万魔殿みたい!」
俺様の前では小さな体を一生懸命動かして懸命に掃除をしているイブキがニコニコした顔でそう言葉を発する。
「そうだな!万魔殿といい勝負かもしれないぞ!」
「こんな立派な場所をお掃除するだけで使ってもいいなんて、結構ふとっぱらなんだね!」
「確かにそれはそうだな。元々はかなり大きめのホテルだったみたいだし、そこを丸々貸し切れるってのは贅沢かもしれないかもな。」
「よーし!それじゃあ頑張っておそうじしなきゃね!」
そう言うと、イブキは手にした箒を使ってせっせと俺様の傍で掃除を進めていく。
……いや、掃除してるイブキもちょっと可愛すぎないか?
悪いことは言わないから、今すぐイブキの笑顔をキヴォトスの国宝に指定すべきだと思う。いやマジで。
「……はっ!」
まずい、我が妹があまりにも天使すぎて俺様の掃除する手がすっかり止まってしまっていた。
片付けをすればこのホテルが丸々使えるとは言え、ホテル自体はかなりデカめなので気合を入れないと日が暮れる前までには到底終わらないだろう。
まぁすべての客室を掃除する必要はなくて俺様達が泊まる部屋とキッチンや風呂場などの必要な場所だけ掃除すりゃいいと思うけど、それでも結構時間はかかりそうだからな。うかうかしている場合ではない。
くそ!こんな時に元宮先輩がいればあの人も掃除しながら秒間百連写でイブキの国宝級に可愛い姿を写真に残してもらえるのに……!
でも掃除しながらでも写真を取れそうな事を考えると、元宮先輩も結構ハイスペックだよなぁ。
……それにしても、さっきからなんか誰かに見られているような視線を感じるんだけど気のせいだろうか?
「うぅ、油断した。ちょっとよそ見した隙に居なくなるなんて……」
そんな事を考えていると、箒と塵取りを持って何かをブツブツと呟きながら廊下を歩いている黒見を発見した。
あれ、確か黒見は小鳥遊先輩と一緒に玄関ホールと大浴場の掃除をしていたはずなんだけど……何かあったのだろうか?
「黒見?どうかしたのか?」
「あ、セリカ先輩!お掃除はもう終わったの?」
そんな黒見のことが気になった俺様は彼女へと声を掛けると、丁度俺様と同じタイミングで黒見に気づいたイブキも元気ハツラツな声で黒見に同じタイミングで声を掛けた。
「あっタツミくん!イブキちゃん!丁度良かった、ホシノ先輩のこと見なかった?」
「小鳥遊先輩?いや、俺様は見てないが……」
「イブキも見てないかもー。」
「そっか……アヤネちゃんと先輩たちがヘリに荷物を取りに行ってる間にホシノ先輩と二人でさっさと掃除を終わらせようとしたんだけど……」
「なるほど、そしたらいつの間にか小鳥遊先輩がどこかへ行っちまったってわけか。」
「そうなのよね……まったく、相変わらずの面倒くさがりやなんだから。」
黒見はそう言うと、ため息を吐きながら額に手を当てて心底面倒くさそうにそう言い放った。
「まだ居なくなってからそんなに遠くには行ってないはずだから……この建物の中にいるかもね。」
そう言いながら難しい表情を浮かべる黒見。
……それにしても、今思えば黒見も結構大胆というかすごい攻めた水着を着ているよな。
フリルが付いているとは言えビキニタイプの水着だから露出度がすごくて、黒見の健康的な鎖骨や太ももが惜しげもなく晒されており丸見えの状態になっている。
先生や羽川先輩、七神代行のようなダイナマイトボディが目に毒なのは言うまでもないが黒見のシュッとしつつも出るところは控えめながらもしっかりと出ているスレンダーなボディもそれはそれで目に毒なのは違いない。
しかも黒見は身長が確か150台前半だ。
そして俺様は171cmなので、必然的に黒見と会話するとなると俺様が彼女を見下ろす形になる。
すると嫌でも胸の谷間が目に入って来るからその……な?
なるべく見ないようにはしてるんだけど……な?
先生や羽川先輩の水着選びの時にも言ったけど、俺様も健全な男子高校生だ。
どうしても視線が一瞬だけそっちに行っちまうのは仕方ないことであって……
まぁだからといってジロジロと彼女の水着姿を見るのは失礼なのは間違いないからな。
俺様は黒見の顔に視線を固定すると、言葉を続ける。
「どうする?探しに行くなら俺様も手伝うぞ?」
「そうしたいのは山々なんだけど、まだ玄関ホールの掃除が終わってないのよね。大浴場の方は終わったんだけど……まったくホシノ先輩ったら。」
「なら、客室の方はそろそろ終わるし俺様とイブキもホールの片付けを手伝うよ。そこから手分けすりゃいいんじゃねぇか?」
黒見に対して俺様はそう言葉をかける。
流石にこれだけ大量にある全ての客室を掃除しても使わないだろうからとりあえずアビドスの5人で1部屋、先生で1部屋、俺様とイブキで1部屋と合計で3部屋だけ掃除することにしたのでもうすぐ終わりそうなんだよな。
まぁ俺様としちゃ別に全部屋掃除しても良かったんだけど、俺様達が帰ったらまた放置される建物を全部丁寧に掃除してやる義理はないのも確かだからな。
それに、キッチンの掃除が終わっていたら先生にも声を掛けて全員で捜索するのも悪くないだろう。
「……分かった、お願いしてもいいかしら?」
「おう、任せとけ!イブキ、お掃除は終わりそうか?」
「うん!もうすぐ終わると思うよ!」
「よーし偉いぞイブキ!後で肩車してやるからな!」
「わーい!やったー!」
「……ふふ、本当に仲がいいのね。」
「おう!なんてったって俺様はイブキのことを世界で一番愛しているからな!」
俺様とイブキを見ながら柔らかな笑みを浮かべる黒見に対して、俺様は親指を立てながらそう宣言した。
「もーお兄ちゃんったらー。」
「いいなぁ。私もイブキちゃんみたいに……」
「……ん?何か言ったか黒見?」
「な、なんでもない!じゃあ私は先にホールの掃除を始めてるから、終わったらお願いね!」
「あぁ、分かった!」
「はーい!」
こうして俺様とイブキは客室の掃除を済ませて黒見と合流して玄関ホールの掃除も済ませたあと、小鳥遊先輩を探しにホテルの中を手分けして捜索するのだった。
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「イブキ、どうだー?」
「うーん……こっちには居なさそうだよお兄ちゃん。」
「分かった、ありがとなイブキ。」
あれから黒見と共に小鳥遊先輩を探しにホテルの中を捜索し始めた俺様とイブキだったが、しばらく捜索するものの一向に小鳥遊先輩の姿は見当たらなかった。
「先生もどこかに行っちまったし……二人とも一体どこへ行っちまったんだ?」
俺様は周囲をキョロキョロと見回しつつそう呟いた。
そう、あれから黒見と共に小鳥遊先輩を探すことになった俺様達は先生にも強力を仰ぐために先生の掃除の担当場所であるキッチンへ向かったのだけどそこにあったのは塵一つないほどピカピカに掃除されたキッチンのみで先生の姿はどこにも見当たらなかったのである。
まぁあれだけピカピカになってるんだから、大方掃除が終わったのでどこかへ移動したってことなんだろうが……
先生も小鳥遊先輩も迷子とは勘弁して欲しいもんだ。
それにしてもさっきから結構色んなところを探し回っていると思うんだけど……どんだけ広いんだこの建物。
まぁそりゃあれだけ外観が大きいんだから中が広いのはそうなんだろうけど、掃除の時に軽く見て回っただけでも客室は2桁を超えているからな……
こりゃ本当に万魔殿の議事堂といい勝負である。
しかし、そんな広い建物とは言え黒見と手分けして粗方もう色んな箇所を調べ尽くしたんだよな。
あとは建物の端っこの方にある、本棚の置いてある談話室みたいな部屋くらいだろうか。
もしそこに二人が居なければ、本格的に建物の外へ行ったと考えたほうがいいかもしれないな。
そんな事を考えつつイブキの手を引き、まだ探していない端っこの談話室の前までやってくると……
「見つけた!ここに居たのねホシノ先輩!」
談話室の中から、黒見の大声が聞こえてきた。
……良かった、どうやら小鳥遊先輩はここに居たらしい。
内心でホッと息を吐きながら俺様はイブキの手を引いて談話室の中に入るとそこにはキラキラと輝く埃一つ残されていないほど綺麗に掃除された談話室と、掃除用具を持って黒見と向かい合っている小鳥遊先輩と先生の姿があった。
「人がちょっとよそ見している間にこんなところに!私一人で片付けるのどれだけ大変だったと思ってるのよ!たまには先輩も一緒にやってよね!」
「う、うへ……ごめんってセリカちゃん。でもほら見てよ。おじさん、この部屋を見ての通りこんなにピカピカになるまで頑張って掃除したんだよ?先生にも手伝ってもらっちゃったけどね〜。」
そう言ってドヤ顔を浮かべながら胸を張る小鳥遊先輩。
……なるほど、話を聞く限りではどうやら小鳥遊先輩と先生はこの部屋の掃除をしていたみたいだ。
“ううん。私はちょっと手伝っただけで、あとは殆どホシノがやってくれたから手伝ったうちに入らないよ。”
「それにおじさんは掃除道具を探してたらこんなところまで来ちゃったんだよね。見えるところにいないからってサボってると思われるなんて傷ついちゃうなぁ。それにセリカちゃんがあんなに頑張ってるのにおじさん1人でサボるなんて出来ないよ。」
「いや……普段の行いのせいでしょ、ホシノ先輩。」
「うへ……それを言われると何も言えないよ〜。」
いや、何も言えないのかよ。
それは普段はサボってますって白状してるのと一緒っすよ小鳥遊先輩……まぁそれはともかく、行方不明だった小鳥遊先輩と先生が無事に見つかって一安心だ。
俺様はイブキと顔を見合わせて互いに笑顔を浮かべると3人に声をかけるために口を開いた。
「どうも、こんなところに居たんですね小鳥遊先輩。それに先生も。」
「あ、タツミくんにイブキちゃん。」
“やぁタツミ。ごめんね、私もキッチンの掃除が終わったから建物を探索してたらここでホシノを見つけたから少し話し込んじゃってさ。よくよく考えたらセリカやタツミに連絡を入れておくべきだったかもしれない。”
「いや、まぁ建物内に居たんなら大丈夫だと思うぞ。外へ行くなら流石に連絡は欲しいけどな。」
申し訳なさそうにそう言ってくる先生に対して、俺様は親指を立てながらそう言った。
「あ、タツミくん。イブキちゃん。ごめんね、一緒にホシノ先輩を探してもらっちゃって。」
「ううん、大丈夫だよセリカ先輩!」
「イブキの言う通りだぞ黒見。それに掃除が終わったら特にやることも無かったからな。気にすんな。」
小鳥遊先輩が見つかって一安心したような表情を浮かべる黒見に対して、俺様とイブキは笑顔でそう言う。
「それにしてもホシノ先輩ったら、見つからないと思ったらこんなところの掃除をしてただなんて……」
「ふっふっふ……どうだいセリカちゃん。おじさんのこと少し見直したかな?」
ため息を尽きながらそう言う黒見に対して、ドヤ顔を浮かべながらそう語りかける小鳥遊先輩。
「……てっきり私はホシノ先輩はあんまり掃除が得意じゃないのかなって思ってたから意外だったわ。それに掃除をしてくれた事自体はありがたいし。」
そんな小鳥遊先輩の言葉を聞き、黒見は小鳥遊先輩に対して歩み寄っていきながらそう言う。
だが次の瞬間……黒見はとてもいい笑顔を浮かべると、額に青筋を立てる。
「けどこんなに出来るなら、どうして今まで真面目にやってくれなかったのか説明してもらえるかしら……!?」
そして、今までで見たこともないような圧倒的な威圧感を醸し出しながら黒見は小鳥遊先輩にそう言った。
……まずい、ありゃ完全にキレちまっている。
「えっ?あれ、えっ……待って。先生、タツミくん、イブキちゃん。おじさんもしかして今ピンチだったり?」
“……ホシノの自業自得かも。”
「頑張ってください、小鳥遊先輩。」
「ホシノ先輩、ちゃんとセリカ先輩にごめんなさいってしないとダメだよー?」
「ええっ!?ここまで来ておじさんを裏切るの!?」
いや、裏切るも何も掃除をする黒見のそばを何も言わずに離れたのは小鳥遊先輩の落ち度ではある訳だしな。
ここは甘んじて黒見からのお説教を受けて入れもらう他ないだろう。
「自業自得よホシノ先輩!さぁ、こっちへ来て話をするわよ!みっちりお説教してやるんだから!」
「う、うわーん!許してよ〜セリカちゃん!」
……まぁとは言え、流石に掃除用具を探しに行ってなおかつ掃除もきちんとしてくれていた小鳥遊先輩に黒見からお説教をするってのも気の毒な話ではある。
ここは少し助け舟を出すとするか。
「まぁまぁ黒見。何も言わずに居なくなったとは言え、小鳥遊先輩は結果的に掃除をしてくれたんだからさ。そんなに目くじらを立てなくてもいいんじゃないか?」
首根っこを掴んで小鳥遊先輩を連行しようとする黒見に対して、俺様はそう声を掛ける。
「た、タツミくん!おじさんは君を信じてたよ!」
そんな俺様に対して、小鳥遊先輩は目を輝かせながらキラキラとした表情を向けてそう言った。
……いや、助けるとは言ったけど黒見に迷惑をかけたのは事実なんだからちょっとは反省してくれ小鳥遊先輩。
「もうタツミくん!あまりホシノ先輩を甘やかさないでよね!そもそも元々は私とホシノ先輩で玄関ホールとお風呂場の掃除をする予定だったのに、ホシノ先輩がどっか行っちゃったせいで玄関ホールの掃除はタツミくんとイブキちゃんに手伝ってもらうことになったし……!」
「え、そうだったの?それは悪いことをしたかも……ごめんねタツミくん。イブキちゃん。」
黒見の言葉を聞き、俺様とイブキに対して申し訳なさそうな表情を浮かべて謝罪の言葉を述べる小鳥遊先輩。
「いえ、気にしないで下さい小鳥遊先輩。俺様もイブキもどのみち今日泊まる部屋の掃除は終わって暇だったんで。な?イブキ。」
「うん!久しぶりにお兄ちゃんと一緒にお掃除したけどすごく楽しかったから大丈夫だよー!」
「うへ……ありがとうね、タツミくん。イブキちゃん。」
笑顔でそういう俺様とイブキを見て、小鳥遊先輩はふにゃっと顔を崩しながらそう言った。
「だから二人ともホシノ先輩を甘やかさないの!」
「まぁそんなカリカリすんなって黒見。それにこの談話室は広いから俺様達全員が入ったとしても余裕を持ってなにか出来そうなくらいのスペースはある。今後ここを共同のリビングみたいに使えるって考えたら悪くはないんじゃないか?」
「そ、それはたしかにそうかもしれないけど……!」
俺様がそう言うと、黒見は心底納得のいってないといったような表情でそう言葉を発する。
そんな黒見の頭に、俺様はぽんと手の平を置いた。
「ふぇっ!?」
その瞬間、黒見の顔はトマトのように真っ赤になる。
……ここは日陰だしあんまり暑くないと思うんだけどまぁそれは今はおいておいてだ。
「まぁお前は大浴場を1人で掃除した上でなんだかんだ行方のわからない小鳥遊先輩を心配しながら探してたんだから怒るのも無理はない。けど小鳥遊先輩だって悪気があってやったってわけじゃなさそうだしさ。」
「……仕方ないわね、タツミくんがそこまで言うなら今回だけは大目に見てあげるわ。」
「ほ、ほんと!?ありがとうセリカちゃん!」
顔を赤くした黒見が口を尖らせながらそう言うと、首根っこを掴まれていた小鳥遊先輩はホッとしたような表情で彼女にそう言葉を掛けた。
「ただし、次やったら今度こそお説教だからね!」
「うん、分かってる。次はきちんとセリカちゃんに声を掛けてからにするよ〜。」
「いや、私としては勝手に居なくならないでほしいんだけど……まぁもういいわ。」
黒見はそう言うと掴んでいた小鳥遊先輩の首根っこを離すと、俺様に少し体を寄せて頭をグリグリと手の平に押し付けてくる。
「お、おい黒見……?」
「えへへ……」
「むっ……」
俺様がそんな黒見の姿を見て困惑していると、隣りにいたイブキがその光景を見て頬を膨らませた。
と言うかごく自然にいつもイブキにやってるみたいに頭を撫でちまったけど、黒見のやつ嫌がってねぇよな?
心配に思った俺様が黒見の表情を見ると、彼女は非常にだらしない顔を浮かべながら俺様の手に頭を押し付けてきている。
……もしかして、なんか嫌がるどころか喜んでるかこれ?
まぁでも冷静に考えたら嫌なら頭に手を置かせてすらもらえないし、嫌がってはないってことでいいのか……?
「お兄ちゃん!イブキも!イブキもやって!」
「えへへ、イブキちゃん。今は私がやってもらってるんだからあとでもいいでしょ?」
「やだー!セリカ先輩ばっかりずるいよ!」
「心配しなくても大丈夫だぞイブキ!後で好きなだけやってやるからな!何なら膝の上に乗るか?」
「ほんと!?やったー!ありがとうお兄ちゃん!」
「タツミくんの膝の上……いいなぁ……」
「……ねぇ先生。タツミくんってもしかしてとんでもない女たらしだったりする?」
“もしかしなくてもとんでもない女たらしだね、うん。”
「うへー。まぁセリカちゃんが懐く男の子だから悪い子じゃないのは分かるけど……これはライバルも多そうだねぇ。おじさんも陰ながら後輩を応援しようかな。」
おいそこ!だから俺様は女たらしじゃねーっつーの!
と言うか小鳥遊先輩は黒見を応援するらしいけど、一体何を応援するのだろうか……?
まぁそんなこんなで、ヘリに荷物を取りに行った3人が帰ってくるまでこの騒がしいやり取りは続くのだった。
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「隊長!あの建物、中から人の気配がします!」
「なるほど、先を越されちゃったってわけか。ここにいるリゾートハンターたちは中々手強そうだね。」
「どうします隊長?やってしまいますか?」
「もちろん。先客がいるなら追い出して勝ち取るのが私達の掟。みんな、武器を持て!」
「はい!総員戦闘準備!」
「奴らを懲らしめてやるよ!」
「……はぁ。このような下らないことによくそこまで本気になれますわね?あなた達は。」
「まぁそう言わないでよ。それよりあんたにはたくさん金払ってんだから、しっかり働いてよねワカモ。」
「えぇ、それは分かっております。頂いた分は力を貸すと言う約束ですからね。」
「でも金を払うだけで七囚人のあんたを雇えるなんて驚きだったよ。何、金に困ってるクチ?やっぱり逃亡生活だとまともに雇ってもらえないとか?」
「……何故貴方に私の事情を話す必要があるのです?私は貴方と馴れ合うつもりはありません。」
「連れないねぇ……まぁいいや。んじゃ、とりあえず二手に分かれてた奴らが合流したみたいだから一旦は様子見ね。うちの予想だとあの銀髪の女が釣り竿を持っていたからそのうち油断してノコノコ魚釣りに来るはず。そこから叩いて各個撃破していくよ。」
「……少しは頭が回るのですね。分かりました。その指示に従うと致します。」
「ちょ!少しはってどういう意味よ!」
(はぁ……タツミさんを追いかけて居たらまさか活動資金が底をつきかけてしまうとは。おかげでこのような連中に力を貸す羽目になってしまいましたし……早くタツミさんと命をかけた死闘がしたいと言うのに……)
(あぁ……タツミさんは今頃何をしているのでしょう。ゲヘナの議長代理になってからは常にお忙しそうにされておられますし……ふふ、今度彼の部屋に忍び込んで添い寝などをしてあげるのもいいかもしれませんね♡)
(それにしても、この方達が狙っている相手や私達以外にもこの島からは人の気配がしますわね。それも相当の手練……何故そのような方達がこんな島にいるかは分かりませんが、警戒しておいたほうがいいのは間違いなさそうですわね。)