連邦捜査部シャーレの先生に就任して数週間が立つ。
初めはこのキヴォトスに連れてこられて、右も左も分からず常識すら外の世界とは違う中てんやわんやしていたけれど頼もしい生徒達の助けのお陰でこんな私でもなんとか先生としての務めを果たせている。
まぁ、今日も今日とて書類仕事なんだけどね。トホホ……
「……先生、違ってたらすまんけど、ここの計算間違ってないか?」
そびえ立つ書類のサンクトゥムタワーを1つ挟んだ隣のデスクから、ひょっこり顔を出しつつ一枚の書類をこちらへと手渡してくる金髪の男の子。
“あ、本当だ。ありがとうタツミ。修正しておくね。”
「おいおいしっかりしてくれよな……また早瀬先輩にドヤされても俺様知らねぇぞ?」
“うっ……ユウカのお説教は嫌だなぁ……”
私は「先生!これはどういうことですか!?」と腰に手を当てて眉間にシワを寄せるユウカを想像し、思わず苦笑いを浮かべた。
“この前なんてちょっとプラモデルを買っただけで、目の色を変えて叱られたからなぁ……”
「そりゃ十万もするプラモデル買って食事がパン1個になったら怒られるだろ……」
“だって欲しかったんだもん!限定品だよ!?”
「いや別に先生の趣味を否定するつもりはねぇんだけどよ、流石に飯は食ってくれよな?」
“……はい。すみませんでした。”
ユウカだけではなくタツミからも正論を言われ、私はしょぼくれながら書類に目を落とす。
「ま、まぁとりあえずこっちの書類は任せてくれよ!サッサと終わらせちまうからよ。」
“うん、ありがとうタツミ。助かるよ。”
「なーに、書類仕事はウチのアホ議長のおかげで慣れてるからよ。大船に乗ったつもりでいろよな!」
そう言うと、タツミは声のトーンをあげて明るくハキハキと喋りながら歯を見せてニッと笑った。
年相応のあどけない笑顔がとても眩しい。
シャーレの今日の当番である丹花タツミくん。
彼はキヴォトス3代マンモス校と呼ばれる、ゲヘナ学園の生徒会である万魔殿に所属している1年生だ。
女子生徒ばかりのここキヴォトスでは彼以外に見かけたことのない、とても珍しい男子生徒である。
自分のことを【俺様】と呼んでおり口調も荒っぽく少々熱くなりやすい性格のようだが、その根っこは真面目で仲間思いかつ人を思いやれるとても優しい子だ。
自由と混沌を校風とするゲヘナにおいて秩序と規律を重んじている節があるものの、喧嘩っ早い所を見るとやはり彼も何だかんだゲヘナ出身なんだなぁ……と思う。
タツミは万魔殿の議長であるマコトのこともアホ議長だのなんだのと言っているが、言葉の節々から深く信頼しているのだろうなと言う事が伝わってくる。
マコトも彼のことは口ではシスコンだと言ってはいるが部下として大切にしているようだ。
妹のイブキはもちろん、イロハやサツキ、チアキからも好かれており良好な関係を築いている様子。
そして彼は万魔殿でありながらとても顔が広く、マコトが目の敵にしている風紀委員会とも仲が良い様子。
この前当番に来てくれたヒナやイオリも口を揃えて「タツミはいい子」だと言うくらいには信用を得ているようで、アコも「ま、まぁ少しくらいは感謝してあげてもいいですけど!?」と言っていた。
また同級生であるチナツとは特に仲が良いようで、一緒に登下校したりお昼を食べたりもしているようだ。
更に給食部のヘルプにもよく入っているらしく、フウカやジュリからの評判もすこぶる良い。
……いいなぁ、私も青春がしたい。
そんな彼であるが、キヴォトスの生徒なら誰もが持っている物を持ち得ていないと言う特徴も持っている。
そう、彼にはヘイローがないのである。
初めは学生達が重火器を所持するのが当たり前のこのキヴォトスの常識に目眩がしたものだが、キヴォトスの生徒にはヘイローがあるので撃たれても基本的には痛いくらいで済むらしく死んだりすることはないらしい。
だが、彼にはヘイローが存在しない。それはつまり、私と同じで銃弾1発で死にかねないと言うことを意味する。
だが、それなのに彼は他の生徒達と同じように銃を手にとって戦いへと赴くのである。
私には失踪した連邦生徒会長が残してくれたシッテムの箱がある。
このシッテムの箱の中にはスーパーAIであるアロナと言う少女が滞在しており、日々の業務等で私のサポートをしてくれている心強い味方だ。
そして彼女はその気になれば銃弾を防ぐバリアを張ってくれる事も可能で、ひとえに私が前線で生徒達の指揮を取れる理由の1つにもなっている。
だが、タツミにはそれがない。
それでも彼は相棒のショットガンを携え、体を隠せるほどの大きな盾を構えて常に最前線に赴いている。
いくら防弾チョッキを着てヘルメットを被っているとはいえ、銃弾を食らおうものなら大怪我では済まない。
だが、それでも彼は一番被弾する可能性の高い最前線と言うポジションで文字通り身一つで戦っているのだ。
いくらキヴォトスで銃撃戦に慣れてるとは言え、並の精神力ではそんな芸当はできないだろう。
私であれば銃を抱えてガタガタと物陰で震えることしかできないような気がする。
彼はとてつもなく勇気があり、そして勇敢だ。
当然私も最初は止めた。
ヘイローのある生徒と違い、彼が戦場へ赴く=死の危険が常に付きまとうからだ。
だが、彼は最初のシャーレの部室の奪還戦でも自分が前衛を張ると言って聞かなかった。
その後も危ないから私の近くでの護衛をしてほしいと頼んだこともあるが「盾を持ってるのはみんなを守るためだから」と言って結局は最前線へ出てしまう。
彼は頑固な部分があり、自分で決めたことはそう簡単には曲げないと言うことも最近になって分かってきた。
なので私が指揮を取れるときは、彼が怪我をしないように安全を重視した指揮を取るようにしている。
そして彼を指揮していて分かったことがあるが、彼はヘイトの集め方や射線の切り方がとても上手いのだ。
敵の嫌な位置に陣取り味方の位置を常に確認しつつ細かくポジションを変えて後衛の攻撃を通しやすくし、更に後衛が狙われた時にすぐにカバーに入れるようなポジション取りを常に行っているのである。
しかも彼は持っている盾に頼らず、遮蔽物等も上手く利用して素早く立ち回ったりもしている。
そして何よりも、後衛の味方に敵のヘイトが移った途端に敵に向けて挑発を行い自分に攻撃をさせる度胸。
キヴォトスに来て初めて戦った時に一緒に居て、シャーレの当番でよく来てくれるユウカも彼のことは頼りになると言っているし、ゲヘナの生徒を嫌っているはずのハスミでさえ彼に対しては「安心して前を任せられる」との評価をしていたくらいだ。
特にハスミは一番タツミに守ってもらっていたから少し意識もしている様子、ちゃっかりモモトークを交換して顔を綻ばせていたのを先生は見逃してませんよ。
また、スズミも尊敬の念を抱いておりそれは私も同じ。
常に死の恐怖と戦いつつ、頭を回転させて最前線に立つ彼を私はとても尊敬している。
「うし、とりあえずもう少しで終わるぞ先生!」
“え、本当?早いねタツミ。”
「ウチの議長が風紀委員に押しつけてる書類に比べたらこんなもん屁でもねぇよ!」
そう言うと、タツミは目の前に積んである書類を猛スピードで捌いていく。
流石普段から書類仕事をしているだけはある。
……そんな彼ではあるが、欠点として少々自分のことを軽視しがちという点も見受けられる。
シャーレ奪還戦でも無事だったから良かったとはいえ、クルセイダーに肉薄するわワカモと一騎打ちを始めてしかも本気を出せと煽るわで肝を冷やしたものだ。
その後、彼を正座させてチナツやハスミと共にお説教をして彼も反省してくれたようではあるけども。
彼曰く「イブキを置いて俺様が死ぬわけないだろ」とのことだが、チナツには目を光らせてもらうとしよう。
ちなみに正座をしている時の彼はちょっと可愛くて、母性本能がくすぐられたのは秘密だ。
また、時折彼がとてつもなく大人びて見えることもあるのだが……それはまた別の話かな。
「終わったらそっちの書類も手伝うぜ!」
“いやホントにごめんね……助かるよ。”
「何水クセェこと言ってんだよ先生!仕事ちゃっちゃと終わらせたら俺様と一緒にイブキと遊ぼうぜ!」
“そうだね、またプリンでも差し入れしようかな。”
「おっ、いいセンスだな先生!絶対イブキ喜ぶぞ!うぉぉぉぉ!待ってろよイブキィィィ!」
俄然スピードアップする彼を見て、私も負けてられないなとペンを握る手に力が入る。
丹花イブキ。
タツミの最愛の妹にして、ゲヘナ学園高等部に11歳という飛び級で入学を果たした天才児でもある。
たった1人の妹であるイブキのことをタツミはそれはもう溺愛しており、この前なんか「目に入れても痛くないぜ!」と言いつつ本当に目に入れようとしてイロハに頭を小突かれていた。
タツミは普段は常識人であり、口調とは裏腹に真面目な言動をしていることが多いのだがイブキのことになると途端にネジが外れたような言動をする事が多くなる。
最初はびっくりしたけど、彼なりにそれだけ妹のことを愛しているということなのだろう。
私もイブキには会ったことがあるけど、人懐っこく天真爛漫でとても可愛らしい女の子だ。
タツミやマコトが溺愛するのも頷ける。
そんなイブキは万魔殿の皆はもちろん、風紀委員や給食部などゲヘナ全体からも可愛がられているらしい。
もちろん、そんなイブキも兄であるタツミが大好きなお兄ちゃんっ子であり事あるごとにおんぶや肩車などをせがんだり膝の上に座ったりしているそうな。
口調は荒いが優しい兄と、天真爛漫で可愛い妹の兄妹。
なんとも微笑ましいものである。
……ただ、時折イブキの彼を見る目が湿っぽいような気がするのは私の気のせいなのだろうか?
ーピロリン♪ー
“……ん?”
そんなことを考えながら手を動かしていると、デスクの上に置いておいたスマートフォンからモモトークの通知を知らせるメロディが鳴り響いた。
緊急の連絡かもしれないと思いスマホを手に取り、モモトークのアプリを開く。
スマホの画面は〈通知1件、羽川ハスミ〉と映し出されていた。
『先生、今お時間よろしいでしょうか?』
画面にハスミからのメッセージが映し出される。
私はトーク画面をタップし、文字を入力する。
『“どうしたのハスミ?”』
『あの……実は相談に乗っていただきたいことがありまして……』
ハスミからのモモトークでの一対一での相談の要請。
これは只事ではないと思い、私は横で書類を片付けてくれているタツミに声を掛ける。
“ごめんタツミ、ちょっと生徒から大事な連絡が来ちゃって。少しモモトークで話を聞いてもいい?”
「ん?あぁ、大丈夫だぞ!俺様は適当に書類を片付けとくからゆっくりやってくれ!」
“ありがとう、助かるよ。”
そう言って再び書類にペンを走らせていくタツミにお礼を言いつつ、私はモモトークの画面へと目を移す。
『“うん、私でよければいくらでも相談に乗るよ。”』
『ありがとうございます。ツルギやイチカにも相談したのですが、中々いい答えがもらえなくて……』
うーん、これは中々深刻な様子だ。
それにしても同じ正義実現委員会の子達に相談しても解決しないって、一体どんな問題なんだろう?
ハスミの身に危険を及ぼすもので無ければ良いのだが。
『その……タツミさんの事なんですけど。』
……うん?タツミのこと?
思わず隣のデスクで一心不乱に書類を捌いていく金髪の男の子へとチラリと目を向ける。
『その、彼にはシャーレの部室の奪還戦で私の事を何度も守って頂きましたし、今度個人的にお礼をしたいのですがどうやって誘えばいいか分からなくて……』
スマホの画面にはそんなトーク内容が映し出された。
……えーっと、これはそういうことでいいのかな?
『“要するにデートに誘いたいけど、誘い文句が思いつかないってことで良いのかな?”』
『で、デート!?違いますよ!私はあくまでお礼がしたいのであって、ゲヘナの男子とデートなんて……!』
『“でもお礼に誘おうって思ってるんでしょ?”』
『それはそうですが……!』
スマホの向こう側でわたわたと慌てるハスミがありありと想像できる文章に思わずクスッと笑みが溢れる。
あぁ、青春だなぁ。
『と、とにかく!私も男性をお誘いするのは始めてなのです。なにぶんキヴォトスには男性の方がいらっしゃらないので……外の世界に居た先生であれば、そういう事も知っているのではないかと思いまして。』
あー、なるほど。確かにキヴォトスに男子生徒はタツミしか居ないのではないか?と言うくらいには人間の男の子が見当たらないもんね。
ツルギもイチカも男子と触れ合った経験がないから相談されてもよく分からなかったんだろうなぁ……
でも、私も経験豊富ってわけじゃないんだけどなぁ。
私はこんな身体をしているから、身体目当ての男はいくらでも寄って来たけど私の内面を見てくれる男の人って言うのは全然現れなくて。
……実はこの歳で未だに彼氏居ない暦=年齢なんだよね。
そう言えば、タツミが女の子を【そういう目】で見ることってあんまり無いような気がするんだよね。
初対面の時も私を見て一瞬目を見開いてたけど、すぐにリンちゃんに向き直って事情を聞いていたし。
どうしても女の子の胸や足に視線が行ってる事はあるみたいだけど、それは思春期真っ盛りの男の子ならごくごく普通の事だしね。
むしろ彼くらいの歳の男の子が女の子をジロジロ見ないのと言うのは充分紳士的な部類に入るのでは?
それともキヴォトスは女所帯だから、そこで生活するうちに耐性がついているのだろうか?
いずれにせよ、私のことを下衆な目でニヤニヤと見てきてた男たちとは根本的に違う気がする。
『“うーん、ハスミには言っちゃうけど実は私もそう言うのはよく分からなくてさ。もうストレートに一緒に遊ぼうとかで良いんじゃないの?”』
『先生!?いきなり投げやりになっていませんか!?』
失礼な、決してそんなことはない。
いい歳して彼氏のひとりもできない私を横目に、目が焼けるくらい眩しい青春を謳歌しているハスミを見てちょっとだけ羨ましいと思ってしまったなんてことは無い。
その相手が私の体をいやらしい目でなんてこれっぽっちも見てなさそうなタツミだからなんてことも無い。
無いったら無いのだ。
『“ちなみにさ、ハスミはタツミのどんな所がいいなーって思ったの?”』
『先生!?私は悩みの相談をしていたのですが!?』
『“まぁまぁ良いじゃん良いじゃん。こっそり教えてよ、誰にも言わないからさ。”』
『…………その、私のことを守ってくれた時の真剣な横顔と自分を下敷きにしてでも私の体を気遣ってくれたところとか……です……』
あー、あの場面かぁ。
確かクルセイダーから砲弾が発射された瞬間、足元に転がってきた手榴弾を投げ返した直後だったハスミは少し反応が遅れたんだよね。
そこへタツミが盾を投げ捨てて走って来て、ハスミを押し倒して戦車の砲弾から彼女を守った。
しかもその際、身体の上下を入れ替えて彼自身がクッションになることでハスミの体に傷を付けないようにした上で、地面に身体を強打した自分のことは二の次で真っ先にハスミの心配をしてくれた……と。
うわぁ……タツミ、それはダメだよ。
花の女子高生にはあまりにも劇薬すぎるよ、それは。
確かハスミはゲヘナのことをかなり嫌悪していたはずだけど、それを吹き飛ばしてしまうくらいには思春期の女の子にとっては刺激が強すぎる。
『その……あとは、とても妹さん思いな所ですね。彼の優しさが伝わってきます。』
あれ、ハスミはタツミに妹がいる事を知ってるんだ?
私は当然言ってないから、必然的にモモトークか何かでタツミから直接聞いたということになるが……
ハスミ、結構やることやってるね?
『だ、誰にも言わないでくださいね!』
『“うん、分かってる。私は応援してるからねハスミ。”』
『だからそう言うことではありませんっ!』
顔を真っ赤にしてそうなハスミの事を思い浮かべて、思わずイタズラっぽい笑みを浮かべてしまう。
『“まぁとにかく、お礼への誘い方だったよね?ここはもう回りくどい言い方はせずに、この前のお礼をしたいって誘えば良いんじゃないの?多分タツミにはそういう言い方のほうが刺さると思うよ。”』
『な、なるほど……分かりました。ありがとうございます、先生。』
『“私も経験がないからね……でも、タツミにはストレートに言ったほうが伝わると思うよ。”』
タツミは口調や一人称から自信満々な人物のように思えるが、自己評価がとても低い所があるからなぁ。
その手の相手には回りくどい言い方よりも、ストレートな物言いのほうがしっかりと伝わるだろう。
あと、タツミは間違いなく鈍感だしね。
『“ごめんね、あんまり力になれなくて。”』
『いえ、先生のおかげでなんとか誘う文言が思い浮かびそうです。』
『“そっか、良かった。応援してるからね!”』
『だからそういうのではありませんからね!?し、失礼します!ありがとうございましたっ!』
青春だなぁ……私には眩しすぎるよ。
心のなかでハスミにエールを送りながらそんな事を思いつつ、私はモモトークのトーク画面を閉じた。
“ごめんねタツミ、今終わったよ。”
「ん?もういいのか?思ったより速かったな。こっちはそろそろ書類が終わるかなーってところだ!」
タツミはそう言って手にしたペンで書類を指す。
ペンの先を確認すると、あれだけタワーのように積み上がっていた書類が残り僅かにまで減っていた。
……もうシャーレの事務員として雇おうかな、この子。
事務仕事が出来て、給食部のヘルプに入れるくらいには料理が上手くて、お人好しで気遣いも出来て、なおかつ戦場に出ると一番前で盾を持って皆を守ってくれる。
……もしかして、タツミって超優良物件なのでは?
まぁそれはそれとして、だ。
“そう言えばタツミ、少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?”
「ん?聞きたいこと?」
本当は一人の生徒に肩入れするのは良くないことだけど……少しだけ、ハスミの手助けをしてあげよう。
“ハスミのことなんだけどね。”
「羽川先輩がどうかしたのか?」
“ハスミってさ、可愛いと思わない?”
「え?……どうしたんだよ先生、いきなり。」
突然の質問にタツミは困惑の表情を浮かべた。
……やっぱりちょっと唐突すぎたかな?
“いや、深い意味はないんだけどハスミって身長が高いから威圧感があるのを気にしてるみたいでさ。ああ見えて結構甘いものが好きだったり女の子らしい所いっぱいあるんだけどなーと思って。男の子から見てどう?”
「いや、どうって言われてもな……」
書類にペンを走らせつつ、タツミは話を続ける。
「うーん、まぁめちゃくちゃ美人な人だとは思うぞ。身長が高いのもそれはそれで羽川先輩の個性の一つだと思うし……まぁ本人が気にしてるならアレかもしれんが。」
“ほうほう、つまりタツミは身長が高い女の子が好みなのかな?”
「……先生、もしかして酔ってるのか?おいおい、昼から酒を飲むのは勘弁してくれよ?」
“酔ってないよ!シラフだよシラフ!”
ジト目でこちらを見ながら、タツミはハンコを書類に押し付ける。
“……で、実際どうなの?可愛いと思う?”
「可愛いと言うよりはさっきも言ったが美人って感じじゃねーの?あと威圧感があるって気にしてたらしいけど、俺様は別にそんなの感じなかったぞ?」
首を傾げつつ、サラッとタツミはそう口にした。
確かハスミが179cmで、タツミが171cmだったはずだから見下される形になるけどそれは感じないんだね。
……え、何で生徒の身長を知ってるのかって?
先生たるもの、生徒の事は何でも知ってなきゃいけないからね!もちろん把握済みだよ。
“あ、そうなんだね。”
「あぁ。あと個人的にはそれなりに仲良くはさせてもらってるぞ。時々モモトークで話をしたりもしてるし。」
“へぇーそうなんだ!どんな事を話すの?”
「トリニティにはどんなお菓子があるのかとか、好きな食べ物とか結構食いもん系が多いぞ。イブキが甘いもの好きだから甘いモンの本場トリニティの人の意見を聞けるのはありがてぇし、イブキはプリンが好きだから美味いプリンの店も教えてもらったしな!」
話しながらニコニコと笑うタツミ。
本当にイブキのことが好きなんだなぁと言うのがよく伝わってくる反面、もしかしてこれはイブキを味方につけてしまえば案外イケるのでは……?と思わなくもない。
将を射んとするならばまず馬を射よ、と言うやつだ。
「俺様も料理するのは好きだし、羽川先輩も食べるのが好きみたいだから話は結構合うな。」
“へー、良いじゃん!”
と言うかハスミ、誘う勇気がないって言ってる割には結構モモトーク送って話をしているみたいだね。
共通の話題があるのは良いことだけど。
「で、羽川先輩のことを可愛いと思うかだったっけ?そうだなぁ……スイーツの話をしている時の羽川先輩は少女趣味全開でちょっと可愛いかもって思ったことはあるかも知れん。」
“うんうん!”
「まぁでも、俺様にとって羽川先輩を一言で言うなら尊敬する先輩って感じだな。」
“ほうほう?”
「正義実現委員会の副委員長だけあってめちゃくちゃ強ェし、何度も的確な狙撃で助けてもらったからな。感謝してるし、尊敬してるぞ。」
そう言うと、タツミはニッコリとした笑顔を見せた。
どうやら好印象を抱いているらしい。
“それにしても、タツミは本当にトリニティに対して偏見がないんだね?”
「まぁな。俺様の周りにはトリニティ嫌いなやつは多いし、何ならウチの議長はトリニティガチアンチだけど俺様は別に何とも思わねぇぞ。」
“それは何か理由とかあったりするの?”
「んー、いや、特に理由はないが強いて言うなら……ゲヘナもトリニティも根っこは同じだからな。」
根っこが同じ?
「ゲヘナにもトリニティにも、いい人もいればクズ野郎も居るってことだよ。」
出来上がった書類を確認しつつ、タツミはしれっとそう発言した。
……やっぱり、彼のこういう所は大人びているなぁと思う部分ではあるんだよね。
ここキヴォトスは様々な学園が集まって出来上がっている都市だから、当然主な住人は思春期真っ盛りの生徒達なわけで。
そんな発展途上の感情の中ではお互いに忌み嫌う関係であるゲヘナとトリニティに染まってもおかしくないと思うのだが、タツミは冷静に物事を見ているみたいだね。
どうやらタツミはトリニティと言うだけで嫌うような子ではないようだ。前から分かっていたことではあるが。
「……あれ、でもよくよく考えたら羽川先輩って結構ゲヘナ嫌いなはずなのに俺様にはそんなに当たりがきつくないような……?」
……こういう所は彼の悪いところだけどね。
ともかく、ハスミに対してはいい印象を抱いているようだ。
良かったねハスミ。あとはキミの頑張り次第だよ。
“ん、ありがとうタツミ。”
「……?まぁ役に立てたなら何よりだが。」
“よし、それじゃあ早く書類を終わらせてイブキにプリンでも買っていってあげようか!”
「お、イブキにはプリンだって事がよく分かってんな先生!よーし、気合い入れて行くぜ!うぉぉぉぉ待ってろよイブキィィィ!!!」
このあとめちゃくちゃ書類仕事した。
その後、タツミの当番の仕事が終わった後はタツミと一緒にそのまま万魔殿にお邪魔してタツミとイブキと3人でプリンを食べさてもらった。
口にプリンをつけたイブキを甲斐甲斐しく世話するタツミを見て、心が温かくなった事をここに記しておく。
「そう言えば先生、最近時々妙な視線を感じることがあるんだが……俺様の気のせいなのかな?」
……この子、もしかしたら自分に対することにはとことん無自覚なのかもしれないな?
キミに矢印を向けている子は結構いるんだよ……?
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「ん……?どうしたんだチナツ?」
「あぁイオリですか。いえ、今度タツミくんとお昼をご一緒する約束をしたのですが何を作ろうか悩んでまして……」
「えっ、そんなの学食でいいんじゃないのか?」
「せっかくなら手料理を食べてもらいたいじゃないですか。この前はタツミくんが作ってくれましたしね。」
「……前々から思ってたけど、お前とタツミって本当に仲いいよな。」
「ええそれはもう。同じクラス、ですからね。ふふ。」
「そう言えばタツミで思い出したけど、このアコちゃんが机で寝落ちてた時にタツミに仮眠室にまで運ばれてたのを見たぞ。」
「あぁ、タツミくんがアコ行政官をお姫様抱っこしてたアレですね?」
「なんだ知ってたのか?その後のアコちゃんは凄い荒れようだったよな。私、理不尽に怒られたぞ。」
「……アコ行政官、満更でもなさそうな顔をしていた気がするのは私だけですかね?」
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「ジュリ、仕込みは終わったー?」
「あ、フウカ先輩!はい!バッチリです!」
「……うん、完璧ね!さすがジュリだわ、ありがとう。」
「えへへ、褒められると照れますね……」
「……ん?ジュリ、このボウルに入ってるホットケーキミックスは何に使うの?」
「あ、それは明日タツミくんが料理の練習に付き合ってくれるらしいのでそこで使おうかと思って……」
「あぁ、タツミがまた手伝ってくれるのね。」
「こんな私に付き合ってくれるなんてタツミくんは本当にいい人ですよね!」
「ふふ、ほんとにね。厨房も手伝ってくれるし、予算の増額でも毎回掛け合ってくれるし、タツミには感謝してもしきれないわね。」
「はい!いつかキチンとした料理を作って、是非タツミくんに食べてもらいたいです!」
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「……ふぅ、ゲヘナに潜り込もうと思ったらあの風紀委員長の存在が厄介ですわね。」
「いくら私と言えど、彼女と1対1をするのはあまり好ましくありませんし……困りましたわ。」
「それと万魔殿のあの黒髪の女……私の存在に感づいていたようですね、まったく……面倒ですわね。」
「とは言え少しづつ調査した結果、彼の登校ルートや行動範囲は把握しましたので……」
「……ウフフ♡これで何時でもお会いできますね♡」
「あぁ、シャーレの部室前でのあの啖呵……今思い出しても私の体が疼いてしまいます……♡」
「ヘイローの無いか弱い身でありながら私を相手に一歩も引かないあの度胸、口だけではない実力……実に壊しがいがあるというものです♡」
「彼が私の前で膝をつくところを想像するだけで……あぁ、ゾクゾクしますわ♡」
「とは言え、彼の周りには発情した泥棒猫が多いようですね?見苦しいことこの上ありませんわ……」
「ウフフ、彼を壊すのはこの私……その役目を他の泥棒猫に譲るつもりは毛頭ありません。」
「私にあれだけのことを言ったんですもの……責任は取っていただきますわよ、丹花タツミさん?♡」
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「どうしましょう……これを送ってもいいものか……」
「ハスミ先輩?もう1時間もスマホとにらめっこしてますけど、一体何があったんすか?」
「あぁイチカ。いえ、この前相談に乗って頂いてた例の友人への誘い文句を考えて居たのですが……これを送っても良いのか踏ん切りがつかなくて……」
「あぁ……ハスミ先輩がお熱だって言う例の男子生徒のことっすか?」
「お、お熱とはなんですか!彼には助けてもらったお礼をするだけです!決してお熱等ではありませんっ!」
「はいはい。いやーそれにしてもびっくりしたっすよ、まさかキヴォトスに男子生徒が居たなんて。」
「……そうですね、私も初めて見た時は驚きました。」
「でもトリニティに男子生徒なんて居たんすね、私も機会があればお目にかかってみたいっすね〜。」
「……その、イチカ。非常に言いにくいのですが……」
「ん?なんすかハスミ先輩?」
「……彼、ゲヘナ所属なんです。」
「なーんだそんなことっすか。ゲヘナ所属なんてよくあることじゃな………………えっ………………」
「げ、ゲヘナァ!?」
次回も日常会の予定です
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