あれからヘリに荷物を取りに行った十六夜先輩、砂狼先輩、奥空の3人と合流した俺様達。
ちなみにアビドスのみんなの持ってきた備品は故障したものもなく、無事だったらしい。良かった良かった。
で、その後3人が持ってきた荷物の中にあった掃除用具も使って全員で掃除を再開した。
ホテル内は広かったが3人が加わり頭数が8人になった俺様達の掃除の勢いは衰えることはなく、ほどなくしてホテル中の掃除を終えることが出来たので何よりだ。
そして、そんな俺様達はピカピカになったホテルの前に並んで立ってあの荒れ果てていた廃墟からどこに出しても恥ずかしくないホテルへと姿を変えた建物を見つつ全員で感慨にふけっていた。
「……私達のリゾートも片付けたら案外キレイになったわね。」
“うん、キレイになったね。私達のリゾート。どうセリカ、ちょっと愛着は湧いてきた?”
「ちょ、ちょっと言ってみたかっただけよ!でも、これなら泊まるのには充分よね。」
先生は少しだけ黒見をからかうようにそう言うと、黒見は顔を赤くしながらそう言った。
……うんうん、いつもの黒見節全開なようで何よりだ。
まぁそれはともかく、黒見の言う通りこれなら泊まる分には充分すぎるくらいの施設になったのは間違いない。
最初はただの廃墟でしか無かったけどアビドスのみんなや先生、そしてイブキと俺様の手によってこの建物は立派なホテルへと生まれ変わったわけだからな。
こんな立派なホテルを自分たちで作り上げたのだから、喜びもひとしおだろう。
「うんうん!セリカちゃんの言うとおりです!このままホテルとしてお客様を迎えてもいいくらい☆」
「そ、それはまだ早いですよ……掃除しただけで、施設も機会も何も動いてないですし……」
キレイになったホテルを見ながら笑顔を浮かべつつそういう十六夜先輩に渋い顔をしながら奥空がそう言った。
その際ぴょんぴょんと跳ねる十六夜先輩の胸部装甲が彼女に合わせて揺れるが、俺様はすぐに目をそらす。
「制御室を確認して、使える設備やシステムを再稼働させないと……」
「そうだな。電気や水道は生きているとは言えそれを供給するシステムが止まってるんじゃ意味ねぇしな……」
「はい、それに私達が使う部屋の掃除は終わりましたけど掃除できてない部屋はまだありますしね。」
「ならさっさと制御室に行ってシステムを稼働して、残りの部屋の掃除もしちまうか?」
「そうですね、そうした方が……」
「ん、待って二人とも。」
俺様と奥空がそんなやり取りをしていると、砂狼先輩から待ったがかかった。
「……?どうしました、砂狼先輩。」
「ん、確かにシステムの再稼働も大事。けど、今は食糧問題を解決するほうが先かも。」
「……食料?」
砂狼先輩の言葉に奥空は首を傾げる。
「うん、食料。無人島で次に気にしなきゃいけないのは生存のための食糧問題。」
砂狼先輩は淡々とそう答える。
……まぁ確かに、それはそのとおりかも知れない。
俺様達は今回のリゾートの土地利用券の事をリゾート施設への招待券だと思っていたから、当然食料なんてものを持ってきていない。
そりゃそうだ。だってそもそも本来はホテルのレストランで飯を食う予定だったんだからな。
食料を持ってくる道理がないだろう。まぁ結果的にレストランなんてものは無かったわけだから、自分たちの食い扶持は自分たちで用意しなければいけないわけだが。
一応俺様は乗ってきたボートにいざと言うときのために非常食であるカロリーバーや高カロリーゼリー等を積んできているけど、それもこの人数で食うのであればせいぜい2食分が限界ってところだろう。
それにここは無人島だ。腹が減ったらその辺のコンビニに行けば食料の売っている都会とは違って、金があっても食料は自分の手で確保しなければならないからな。
「生存?別にそんな切羽詰まった状況じゃないと思うけど……ここはスマホの電波だって飛んでるんだし。」
「まぁとは言えここまで出前を頼むのもそれはそれでなんか違う気もするしねぇ。シロコちゃんの言う通りかもしれないかなー?」
まぁ確かに小鳥遊先輩の言う通り、せっかくこんな無人島まで来てピザや牛丼を食うのも違う気はするな。
“そうだね、せっかく無人島に来たならこう……海辺でバーベキューとかやりたいよね。”
「わぁいいですねバーベキュー!私もやりたいです!」
先生の言葉に、十六夜先輩が笑顔で同意する。
……二人が並ぶとどことは言わないけど迫力がすごいのであまり直視しないようにしておこう。
「バーベキューか……とは言えバーベキューをするには結構たくさんの食料が必要だしそう簡単には……」
「バーベキュー!?イブキもやりたーい!」
「よっしゃぁ!バーベキューやるぞみんな!」
「変わり身早ッ!?そう簡単にはいかないって発言はどこに行ったのよ!?」
「何を言ってんだ黒見!イブキがやりたいって言うなら何がなんでもやらせてやらないとダメだろ!」
そう、我が最愛の妹の笑顔を見るためであれば俺様はどんな苦労だって厭わないのである。
これすなわち世界の常識だ、良く覚えておくんだな!
「話は少しそれたけど、こういうところでは魚で動物性タンパク質を補給するのが最善。ん、必ず取るよ。生存のために。」
そう言うと、砂狼先輩は何かを決意したようにやる気に満ち溢れた表情でそう言った。
そして彼女は先程から手にしていた大きなバッグのチャックを開けると、中から一本の細長い棒を取り出した。
これは……もしかして釣り竿か?
「なんとここに釣りの道具もある。準備はできてる。さぁ行こう。」
そう言うと砂狼先輩は折りたたまれた釣り竿を組み立てつつ、目をキラキラと輝かせながらそういう。
あれ、これってもしかしなくても砂狼先輩が釣りをしたいだけなんじゃ……?
「なんとここにじゃないでしょ、完全に準備して来てるじゃないのシロコ先輩……」
「あはは、シロコちゃん生き生きしてるねぇ。アヤネちゃん、どうやら制御室へ行くのはあとにしたほうが良さそうだよ。」
「まぁ食料も大事ですからね。電気はあとからでもなんとかなりますし……」
そんな砂狼先輩の姿を見て、アビドスの面々は苦笑いをしつつもどこか微笑ましそうな表情を浮かべる。
まぁとは言え砂狼先輩の言う通り食料が大事なのはこの状況においては事実だし、その過程で彼女が楽しめるのであればこれ以上のことはないだろうからな。
それにイブキだってバーベキューをやりたがっている。
ここは俺様も手伝って、たくさんの海を幸を取ってきて海鮮バーベキューパーティを開くとしよう!
「でも先輩が釣りに興味があるなんて意外でした。」
「サバイバル活動だからね。釣りもその一環。」
「……ああ、サバイバルがしたかったのね。」
砂狼先輩の発言に、黒見が呆れたようにそう呟く。
そう言えば黒見や奥空の話によると、砂狼先輩は普段からサイクリング等のアウトドア系の趣味があるらしい。
ならこの状況で釣りをしたいと言い出すのも納得ではある……俺様も釣り自体は結構面白いから好きだしな。
確かに魚が釣れるまでは暇なんだけど、潮風を感じつつ波の音を聞いているあの時間は都会の騒がしさを忘れさせてくれる時間なんだよなぁ……
「シロコちゃん1人じゃ危なくなっても続けそうだし……先生、シロコちゃんをお願いしてもいい?」
“もちろん、任せて。”
「あ、そういうことなら俺様も行きますよ小鳥遊先輩。俺様も釣りは結構好きですし、それにイブキのためにも大量に海の幸を取らないと行けませんからね!」
「ん、タツミは話が分かる。ナイスガイ。」
俺様がそう言うと、砂狼先輩は親指を立てて笑顔を浮かべながら俺様に向かってそう言葉を発した。
……なんか、ストレートに褒められるとむず痒いな。
「ありがとうございます、砂狼先輩。」
「じゃあイブキも一緒に行く!イブキ、お兄ちゃんと一緒に釣りをしたこともあるからだいじょーぶ!」
「ん、分かった。一緒に行こうイブキ。」
「うん!よろしくねシロコ先輩!」
俺様の隣にひょこひょことやってきつつ、砂狼先輩へ向かってそう言うイブキ。
そんなイブキに砂狼先輩は笑顔でそう返してきた。
「ありがとー。じゃあよろしくね先生。タツミくん。イブキちゃん。」
“うん、分かった。”
「私達は他になにかないか、周辺を探してきますね!」
「せっかくなら大物を頼んだわよ!」
「うん、任せて。」
こうしてやる気満々の砂狼先輩を先頭に俺様、イブキ、先生の3人は他の4人と一旦別行動を取り、釣りのできる海岸沿いへと向かって歩き出すのだった。
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という訳であれから鬱蒼としたジャングルを抜け、島の海岸沿いへとやって来た俺様達4人。
目の前の大海原は太陽の光を反射してキラキラと輝いており、吹き付ける潮風が冷たくてとても気持ちいい。
「わー!キレイだねお兄ちゃん!」
「あぁ、ゲヘナではこんなキレイな海は滅多に見られないから新鮮だな。」
俺様と手を繋いだイブキは海を見るやいなや、満面の笑みを浮かべてキラキラとした目でそうはしゃぐ。
うんうん、やっぱりイブキの笑顔は最高だぜ!
俺様としては生まれ故郷であるゲヘナの騒々しい海岸も悪くはないんだけど、やっぱりこういう無人島の人の手が入っていない静かで綺麗な海もいいもんだよなぁ。
ちなみに俺様と別行動をしている小鳥遊先輩、十六夜先輩、黒見と奥空の4人はこの島に他にどんな設備があるのかを探索しに向かった。
まぁ少なくともこの島で少しの間は過ごすことが決定しているんだし、自分たちの置かれた状況を把握するのは大切だから賢明な判断と言えるだろう。
「……うん、よし。ここで大丈夫。」
そんな事を考えていると、良さげな釣りスポットを見つけたのか海岸沿いを歩いていた砂狼先輩がその場で立ち止まって持っていた荷物を下ろす。
そしてリュックのジッパーを開けると、中から釣りをするために道具を取り出し始めた。
「釣り竿、餌、バケツ……いつでも始められるよ。」
“あれ?釣った魚を持ち上げるタモ網は?”
「それは大丈夫。先生やタツミが釣り竿を支えてくれている間に私が撃てばいいから。」
“……え?”
いたって真面目な表情を浮かべながら真剣にそう言う砂狼先輩に対して、先生は間の抜けた声を出した。
……まぁうん、なんかもう砂狼先輩の豪快さを思えば別に驚くことでもないような気もするけど流石にこれは頭キヴォトスとしか言いようがないだろうな。
外の世界にいた先生からすれば釣った魚に銃弾をぶち込んむなんて考えられないだろうし驚くのも無理はない。
とは言え、キヴォトスならまぁやりかねないって納得できる辺り俺様もだいぶキヴォトスに毒されてんなぁ……
「一番確実な釣りの方法。死んだ魚は逃げられない。」
“い、いやそれはそうかもしれないけど危なくない!?それに銃なんか撃ったら魚が砕けちゃうよ!?”
……確かにそれは先生の言う通りだ。
魚はキヴォトスに居るからと言ってキヴォトス人と違って頑丈ではないし、そんな魚に銃弾をぶっ放そうものなら魚が木っ端微塵になってもおかしな話ではない。
「……たしかにそうかもしれない。」
「いや、そこまで考えてなかったんですか砂狼先輩……」
「ん、普通に銃で撃てばいいと思ってた。よくよく考えたら魚は私達とは違うから先生の言う通りかも。」
砂狼先輩は想定外だった、とでも言いたげな苦しい表情を浮かべながらそう言う。
釣り竿や餌まで持ってきているのにタモ網を持ってきてないのはどうなんだと思わなくもないが、そりゃ銃で撃って仕留めるつもりだったら持ってきてないか。
しかし砂狼先輩っていつも冷静そうに見えるのに意外とどこか抜けている部分もあるんだな。
“しょうがないね、一緒にタモ網を取りに……”
「大丈夫です。私が持ってきていますので。」
先生と砂狼先輩とそうやり取りし、タモ網を取りに一旦ホテルへ引き返そうとした時だった。
突如、その場に先程まで聞いていた声が響き渡る。
「……あれ、アヤネ?」
「なんとなく心配で付いてきてみたら……やっぱり。」
「奥空?どうしたんだ?お前は小鳥遊先輩達と島の施設の探索へ行ったんじゃ……」
「初めはそのつもりだったんですけど、シロコ先輩が妙に張り切っているのが気になりまして。こういうときのシロコ先輩は大体どこか抜けていますので、それで心配になってつい……」
あはは……と苦笑しつつ照れくさそうにそう言う奥空。
なるほど、流石は砂狼先輩の後輩だ。
自分の先輩の事を良く理解しているようで何よりだぜ。
まぁでも気持ちは分かるんだよな、俺様だって羽沼議長がドヤ顔を浮かべてたらまたくだらんことを企んでるなこいつ……って感じで各所に迷惑をかけないか監視するために付いていったりは良くしているからな。
まぁ羽沼議長が矯正局へ入ってからはそんな機会もめっきり無くなっちまったけど、矯正局から彼女がでてきたら再開することになるのは間違いない。
それはそれで嬉しいやら悲しいやら複雑ではあるけど。
「それにみんなもそう言ってましたからね。はい、どうぞシロコ先輩。」
そう言って、持ってきていたタモ網を砂狼先輩へと手渡す奥空。
「うん、ありがとうアヤネ。じゃあ私が釣り竿を持ってアヤネが拳銃で撃つってことで……」
「いや何でだよ!?普通に網ですくいあげればいいじゃないですか砂狼先輩!」
「ん、でもそれだと元気な魚が逃げる可能性がある。大丈夫、アヤネの拳銃なら弾のサイズも小さいから魚が木っ端微塵になることはない。」
「いやそういう問題じゃないですよね!?」
ダメだこの人!頭キヴォトスすぎる!
「イブキ知ってるよ!マコト先輩から聞いたんだけど、シロコ先輩みたいな人はわいるどって言うんだよね!」
“……ワイルドとは少し違う気がするかなぁ。”
「えーそうなの?」
まぁワイルドっていうのも間違ってはないけど、どっちかと言うと破天荒って感じだろうな砂狼先輩は。
「だから撃っちゃダメですってば先輩。威力の問題じゃないですよ。ちゃんとタモ網を持ってきましたからそれを使って下さい。」
「……うん、分かった。」
奥空が腰に手を当てながらそう言うと、砂狼先輩はケモミミをぺたんとさせながら首を縦に振った。
“なんだか、シロコはアヤネの言うことはよく聞いている気がするよね。”
そんな彼女達の姿を見て、先生がそんな事を口にする。
「えっ!?そ、そうなんですか……!?」
「うん、アヤネの判断は大体いつも正しいから。」
砂狼先輩は奥空のことをまっすぐに見据えながらそう言った。
……うん、なんとなく言いたいことは分かる気はする。
奥空は見た目こそ地味なものの、一年生にしてアビドスの資金繰りやスケジュール管理の全般を任されているほどのしっかり者だ。
砂狼先輩だけではなく、小鳥遊先輩や十六夜先輩等の破天荒な先輩揃いのアビドスで資金繰りをするのは大変どころの騒ぎじゃないだろうがそれでも毎月コツコツと借金を返済できているのはひとえに奥空の資金管理の上手さが影響していると言っても過言ではないだろう。
唯一の同級生である黒見もああ見えてしっかりしているようでいて詐欺に引っかかりやすくもあるらしく、そのせいで毎日気苦労が絶えないようで俺様に愚痴のモモトークをよく送って……ってそれは今は置いておくとして。
まぁともかく、そんなわけで奥空は1年生にしてアビドスの頭脳と言うか舵取りを任される立場にあるからな。
そんな奥空の言う事なら信じることが出来る、という砂狼先輩の言い分も理解できる気がする。
それに……奥空は砂狼先輩からしたら可愛い後輩だ。
奥空がしっかりしている等の理屈を抜きにしても、同じ学校の同じ部活動に所属している仲間を信じるというのは当たり前の話だからな。俺様だって万魔殿のみんなことは無条件に信頼しているし、羽沼議長以外は。
まぁ羽沼議長のことも信頼してはいるんだけど、あの人はいっつもバカなことしかしないから……ってこの話は今はおいておくとしよう。
それにしてものんびり屋の小鳥遊先輩、ポワポワした十六夜先輩、冷静でいてどこか抜けている砂狼先輩に対してアビドスの1年生組はしっかり者の二人だよなぁ。
「アヤネが違うって言う時は大体私も違うって思ってるし。みんなそうだと思うよ。ここで釣った魚たちも調理をする前に食べていい魚なのか、毒はないのかとか……後はお金になる可能性はないのかとかね。全部後でアヤネに聞くつもりだったから。」
「シロコ先輩……ありがとうございます。」
うんうん、素晴らしい信頼関係だ。
見ていて非常にほっこりして微笑ましい。
それにしても魚のことにまで詳しいって奥空の情報量と言うか知識は一体どうなっているのだろう。
まぁそれはともかく、奥空がせっかくタモ網を持ってきてくれたことだしそろそろ釣りを始めるとしようか。
そう考えた俺様は砂狼先輩が人数分持ってきてくれた釣り竿を手に取ると、組み立てを開始……
「見つけたぞ!こんなところに居たのか!」
しようと思った瞬間だった。
突如、その場に今度は聞き覚えのない声が響き渡る。
その声に驚いた俺様達は反射的にそちらの方を振り向くと、そこには赤や黒のヘルメットを被りセーラー服を身にまとい銃火器を手にした無人島には似つかわしくない集団が立っていた。
「……?」
え、なんだこいつら。
何でこんなところに俺様達以外の人が居るんだ?
話によるとこの島は無人島のはずだし、俺様達以外の人が居るはずがないんだけど……
それに見たところ、こいつらは手にしている銃をこちらへ向けてきており俺様達に対する強い敵意が伺える。
……おいおい、せっかくの休暇だってのに勘弁してくれ。
「ふっふっふ、私の言ったとおりだったでしょ。釣り竿を持っているなら確実に海岸に来ると待ち伏せておいて正解だったね。」
「はい!流石ですラブ隊長!」
黒いヘルメットを被った赤い髪の女がそう言うと、その取り巻きらしいヘルメットの女が彼女を称賛する。
……なるほど、口ぶりからしてやけに誰かに見られてんなとは思ったけどこいつらに監視されてたってわけか。
「まぁ本当はもっと人が減ってる方がいいんだけど、8人から5人になってるだけでも充分かしらね。」
「え!?何故こんなところに人が……!?」
「と言うかあなた達は誰?見たところ、ヘルメット団みたいだけど……」
ヘルメット団?ヘルメット団っつーとアレか。
ふざけた名前がついていて、みんな同じ格好なのにグループごとに微妙に名前が違うっていう不良達の事か?
彼女達はいわゆる前世で言う半グレ集団みたいな存在であり、その活動域はキヴォトス全域にわたる。
当然ゲヘナにもヘルメット団は多く存在するので、風紀委員会とともに何度もボコボコにしたこともあるんだけど……まぁ要は不良の集団ってことだな。
「ふふ、よくぞ聞いてくれたわね。あたし達はジャブジャブヘルメット団よ。」
「……んでそのジャブジャブヘルメット団が俺様達に一体何の用だ?まぁそんなもんぶら下げてるからってには穏便に話し合う気なんて無いんだろうけどよ。」
「当たり前よ。アンタ達もリゾートハンターなんでしょ?その目つき……見れば分かるよ。」
「……は?」
ラブとか呼ばれたヘルメットの赤髪女は俺様達に視線をやりつつ、そんな意味不明なことを口走った。
“リゾートハンター?”
「なにそれ……?アヤネ、知ってる?」
「い、いえ。聞いたこともありませんが……」
「何だ隠してる系?まあ構わないけどさ、ライバルが居るなら追い出して勝ち取るのがここの掟だからね。さぁ行くよ!総員戦闘準備!」
そう言うと、ラブと呼ばれた赤髪の女は手にしたショットガンをこちらへと向けてくる。
そして、やつの背後にいるヘルメット団の団員たちもそれぞれ一斉に銃を構え始めた。
俺様はそれを確認すると即座に持ってきていた折りたたみシールドを展開し、みんなの前へと出る。
「お兄ちゃん……?」
「下がってろイブキ。大丈夫だ。お兄ちゃんがちょっとあの空気の読めないお姉さんたちにお説教してくるから、いい子で待ってるんだぞ?」
俺様は不安そうにこちらを見上げるイブキの頭を撫でてやると、そのまま歩を進めようとするが……
「ダメ!」
そんな俺様の手を掴み、イブキはそう言った。
「ダメ!ダメだよお兄ちゃん!危ないよ!」
「大丈夫だイブキ。それにこのままじゃバーベキューに使うお魚を取るどころじゃなくなっちゃうだろ?」
「ダメ!お兄ちゃんが怪我をするくらいなら、イブキバーベキューなんてしなくてもいいもん!」
「イブキ……」
イブキの必死の訴えに、俺様の足が止まる。
同時に、楽しいはずのバカンスの最中にイブキにこんな表情をさせているヘルメット団に対する怒りが湧き上がってきた。
“タツミ!イブキの言う通りだよ!”
俺様が怒りを湧き上がらせていると、更にそこに先生の追撃の待ったがかかる。
「……大丈夫だ先生。それに話し合いで解決できる問題じゃなさそうだ。連中の言ってることは意味不明だけどこっちに敵意があるのは間違いないだろ。」
“だとしても危険すぎるよ!今の君は防具を何も身につけていないんだからね!?”
先生は俺様の肩を掴むと捲したてるようにそう言った。
いや、まぁ確かに今回俺様は思いっきりリゾートで遊ぶ予定だったから装備はブークリエとシールドの必要最小限しか持ってきてないし、防弾チョッキもヘルメットも防弾ゴーグルも万魔殿に置いてきちまっている。
普段はフルアーマーだから最悪被弾しても命の危機とまではいかないだろうが、文字通り生身の今は銃弾一つで命の危険があるのは間違いないだろう。
……けどな、先生。
今回のバカンスは俺様はもちろん、何よりもイブキがものすごく楽しみにしていたんだぞ。
可愛い妹の楽しい時間を邪魔するような連中はちょっとばかし痛い目に合ってもらわなければならんだろう。
それに俺様としてもせっかく取れた久々の休暇を台無しにされそうになって黙ってみているわけには行かない。
「大丈夫だよ先生。イブキ。確かに今防具は盾しかないけど、あんな連中に俺様が遅れを取るわけないだろ?」
「お兄ちゃんが強いのは分かってるけど、それでも絶対にダメ!お兄ちゃんが戦うくらいならイブキが戦う!」
“そうだよタツミ!今の君はこの場の誰よりも脆いんだから!ほらタツミは私の後ろに下がって!早く!”
「ちょ、先生!?イブキ!?」
先生とイブキは俺様の言葉を聞いて血相を変えてそう言うと、こちらへ歩み寄ってきたかと思うと俺様の腕を掴んでグイグイと引っ張ろうとする。
ちょ、どうしたんだよ二人とも!?今までは俺様が戦うって言ってもこんな必死に引き止めなかっただろ!?
いくら防具を付けてないからって……!
「ん、よくわからないけど喧嘩なら買う。」
「それにタツミさんは話によると怪我が癒えて間もない状態……そんな人を戦わせるわけにはいきません。」
俺様がそれに抵抗していると、その隙にいつの間にか銃を構えた砂狼先輩と奥空が俺様達の前へ躍り出た。
「砂狼先輩……奥空……」
「ん、大丈夫。自分で言うのも何だけど私達は強い。だからタツミは後ろで待ってて。」
「はい。私も全力でサポートしますので安心してくださいねタツミさん。」
“ほら、二人もこう言ってるんだから下がってタツミ。彼女達なら遅れは取らない。2人を信じてあげて欲しい。”
「そうだよお兄ちゃん!お兄ちゃんが怪我をしたらみんなが楽しめなくなっちゃうんだから!お兄ちゃんはもっと自分を大事にして!イブキ、流石に怒るよ!?」
「イブキ……分かった。」
みんなに、そしてイブキにここまで言われたらもう俺様が戦う理由はないだろう。
俺様は構えたブークリエの銃口を下ろすと、大人しく先生たちの後ろへと下がる。
「イブキ、タツミをお願い。」
「うん!分かった!」
“よし、みんな行くよ!”
その様子を確認した先生たちはヘルメット団へと向き直ると先生はシッテムの箱を、砂狼先輩と奥空はそれぞれの武器を構えた。
「ふっふっふ、やる気は満々みたいだね。けどこっちだって負けないわよ。なんてったって今回はこのために特別な傭兵を雇ってるんだからね。」
そんな彼女達を見て不敵な笑みを浮かべる赤髪の女。
……理由は分かんないけど俺様達を制圧するために傭兵まで雇うなんてご苦労なことだ。
とは言え、黒見に聞いた話によると砂狼先輩は相当な強さみたいだし奥空のサポート力も抜群らしいからな。
ちょっとやそっと実力のある程度の相手ではこの2人を崩すことは敵わないだろう。
「さあ出番よ。給料分はちゃんと働いてちょうだいね……ワカモ!!!」
ちょっと待て、今こいつなんつった!?
“……えっ?”
「あらあら……正直ガッカリです。あなた達が周到に作戦を立てるくらいですから少しは歯ごたえのある相手かと思えば……なんともお可愛らしい方々ですこと。」
俺様が呆気に取られていると、ヘルメット団の後ろから聞き覚えのありすぎる声をした女がこれまた見覚えのありすぎる歩兵銃を片手に俺様達の前へと躍り出てくる。
「……は?」
「えっ……タツミ……さん……?」
そいつは狐の面を被り、ひらひらとした和服を着た七囚人の1人である……狐坂ワカモその人であった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」