転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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リゾートと狐坂ワカモと丹花タツミ

災厄の狐、狐坂ワカモ。

キヴォトスの矯正局から脱獄した七囚人の一人で、俺様にことあるごとに襲撃を仕掛けてくる狐の仮面を被ったクソムカつく女だ。

そのワカモが何故か目の前に居る状況に、俺様は頭を抱えながら混乱していた。

 

「な、何でお前がこんなとこにいるんだよ!?」

 

あまりにも想定外すぎるワカモの登場に俺様がその場で絶叫を上げると、その場にいる全員の視線が何事かと俺様へと集中する。そしてその瞬間……俺様は狐面越しに、ばっちりワカモと目があってしまった……気がする。

 

「……え?タツミさん?」

 

何事かとこちらへ視線を向けたワカモは俺様を視認するなり肩を震わせると、動揺したようにそう声を発した。

 

「え?え?何故タツミさんがこんな所に……?」

「はぁ!?それはこっちのセリフだバカタレがぁ!」

 

明らかに動揺するワカモを指さしながら、俺様は彼女へ向けて大声でそう疑問をぶつける。

 

「ええと何といいますか……その、成り行き上仕方なくこの連中に力を貸すことになったといいますか……」

「ちょっと成り行き上って何!?あんたを雇うためにどれだけお金を積んだと思ってんのよ!」

「ま、待って下さい!これは一体どういう状況なのですか!?何故タツミさんがここに居るのです!?」

「だからそれはこっちのセリフだよこのバカタレが!どういう事か説明しろ!事と場合によっちゃしばき倒すぞこの狐女!」

 

……と言うか、すっかり忘れていたけどヘルメット団の言う傭兵とやらがワカモだとするとかなりマズいぞ。

こいつはキヴォトスでもトップクラスの実力を持つ七囚人の1人、街1つを娯楽で消し飛ばすイカレ野郎だ。

 

ワカモが何故この場にいるのかは非常に気になるが、実際問題としてヘルメット団側に立っているという事は俺様達の敵であるということに代わりはない。

それにワカモはゲヘナで俺様を襲撃しているせいで何度も風紀委員会から追われているが、その度に煙に巻いて逃げ切れるくらいの逃走技術も持ち合わせている。

 

……あいつの実力は俺様が一番良く知っている。

いくら砂狼先輩や奥空が強いとは言え、そんな奴が相手であるならば流石に俺様も出ざるを得ないだろう。

皆からああ言われたけど、一応戦闘準備はしておこう。

 

「えっと、お知り合いですかタツミさん?」

「い、いや……知り合いというかなんと言うか……」

 

奥空の問いかけに俺様は視線を泳がせ、しどろもどろになりながらそう答えた。

 

ど、どうする?なんて答えるべきだ?

俺様が倒すべき永遠のライバル?

事あるごとに襲撃を仕掛けてくるストーカー?

それとも、何故か俺様に執着してるテロリスト?

それかこの前のエデン条約で力を貸してくれて、その時俺様と……

 

(だぁぁぁぁぁぁっ!!!)

 

くっ……ダメだ!

どれを選んでも話がややこしくなる予感しかしねぇ!

くそ!やつと居るとマジで調子が狂う……!

 

“やぁ。こんな所で奇遇だね。ワカモ。”

「貴方は……タツミさんだけではなく、シャーレの先生までが何故このような所に居るのですか……?」

 

俺様がワカモの事をなんと説明するか頭をフル回転させて考えていると、先生はそんな事はどこ吹く風と言ったような様子でワカモに軽いノリで挨拶をする。

そんな先生の姿を視認したワカモは肩を震わせ、最早頭から湯気が出そうな勢いで混乱している様子だった。

 

「……なんかあの狐のお姉さん、嫌な感じがする。」

「ん、気が合うねイブキ。私もあの女からは危険な雰囲気がする……ここでやっつけた方がいいかも。」

 

最早ずきずきと痛みだした頭を抑えながら俺様がため息を吐いていると、俺様の隣にいたイブキと前線の砂狼先輩がそんな遣り取りをしつつ銃を構えた。

 

二人のその認識は間違っていない。

何故ならば奴はあの悪名高い七囚人の中でもトップクラスにヤバいと言い切っても良いほどの凶悪犯だからな。

動揺こそしてはいるが、奴の立ち振舞いはここから見ても隙がまったく無いと言って良いほど完璧なものだ。

実力者である砂狼先輩はその辺を感じ取ったのだろう。

ただ……何故イブキがこれほどまでにワカモに敵意を顕にしているのかは良くわからないけど。

 

「お、おいイブキ?」

「だいじょーぶだよお兄ちゃん。イブキだって戦えるから任せて!あの狐のお姉さんをやっつけちゃうから!」

 

そう言って、愛銃であるバンバーン!ちゃんを構えながら俺様に向けて笑顔を浮かべるイブキ。

 

「……イブキ、お前の気持ちはお兄ちゃん感動して涙が出るくらいありがたいんだけど辞めといたほうがいい。あの狐のお姉さんは俺様でも勝てるか怪しいくらいには滅茶苦茶強いんだ。」

「え、そうなの?」

「あぁ、だからイブキは戦わなくてもいいんだぞ。お前が怪我をするなんてことになったら、お兄ちゃんはバカンスどころじゃなくなっちまうからな。」

「……分かった。お兄ちゃんがそう言うならやめとく。」

「うんうん、偉いぞイブキ。」

「えへへ……」

 

俺様は素直に言うことを聞き入れてくれたイブキの頭に手を置くと、そのまま手の平を左右に動かした。

頭を撫でられたイブキは目を細め、気持ちよさそうな表情を浮かべている。

……いや、俺様の妹可愛すぎんか?

まったく……何故この笑顔がキヴォトスの国宝に指定されていないのか理解に苦しむぜ……!

 

「おいそこ!うち達を無視して何をしてるのよ!」

「……あ、そういやいたっけお前ら。すまんすまん。ワカモの事で頭が一杯ですっかり忘れてたわ。」

「はぁ!?ぶっ飛ばされたいの!?」

 

そんな俺様達を見てヘルメットを被った赤髪の女がそうまくし立ててくるが、俺様はサラッとそう返す。

いや、マジでワカモがこの場に居ることに驚きすぎてヘルメット団のことが頭から抜け落ちてたんだって。

悪気はないからそんなに怒らないでほしいんだがな……

 

「……タツミさん、今なんと?」

「は?いや、ヘルメット団の事を忘れてたって……」

「……違います。私が言いたいのはその前です。」

「その前?その前っつーと……ワカモの事で頭がいっぱいって言ったけど……それがどうかしたのかよ?」

 

突然のワカモからの質問に、俺様は怪訝な表情を浮かべながらそう言った。

だってまさかこんな所でワカモが出て来るだなんて夢にも思ってないわけだし、どうやって対処をするか考える方に思考を持ってかれるのは当たり前だろ。

むしろ、頭が一杯にならないわけがないと思うんだが?

 

「……お兄ちゃん?」

“えぇ……タツミ、その言い方は流石に……”

「……え、何かまずかったか?」

「いや……マズイとかいうレベルではないのでは?」

「ん、それにタツミは基本他人のことを苗字で呼ぶのにあの女だけは下の名前らしき物で呼んでる。戦いが終わったら詳しい説明をしてもらうからね。」

「え、え?」

 

俺様の発言を聞き、口々にそう言葉を発する女性陣。

空からうざったいほどに太陽が照り付けているはずなのに周囲の空気は冬の北海道かと言うほどに冷え込み、絶対零度の視線が俺様に突き刺さる。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!何が気に障ったのかは知らないけど俺様はそんなつもりじゃ……!」

「ウフフ……ウフフフフフ♡」

 

良くわからないけど、この空気は弁明しないとマズイ。

そう判断した俺様はとにかく言葉を述べるために口を開こうとするが、ヘルメット団の前に躍り出てこちらへゆっくりと歩み寄ってきながらワカモが笑い声を上げる。

 

「ウフフ、初めは何故タツミさんがこの場に居るのかと思いましたけど……まぁそんな細かいことはどうでもいいですわよね♡」

「いや、どうでもよくはないだろ!?」

 

先程までの頭から煙が出るほどに動揺していた様子はどこへやら、いつも通りの飄々とした雰囲気を纏いながらそう言うワカモに対して俺様は思わずそう口にする。

 

「それにここでタツミさんと出会えたのも何かの運命……やはり私達は赤い糸で繋がっているのですね♡」

「おい人の話聞いてんのかてめぇ!!!」

 

ワカモはそう言うと狐面に手を当て、体をくねくねと動かしながらそんな気色悪い言葉を発する。

ケッ、何が運命の赤い糸だ。そんなもんでお前と繋がったって迷惑なだけで嬉しくもなんともねーっつーの!

 

「あ、あの穏やかなタツミさんがあんな大声で……あのワカモという人は何者なんですか?」

“えっと、話せば長くなるんだけど……今はやめておいたほうがいいかもしれない。”

「……でもタツミがあんなに感情をむき出しにして叫んでるなんて明らかにおかしい。」

「そうだよ!お兄ちゃんは言葉遣いは乱暴だけど、あんな遠慮のない喋り方はあんまりしないもん!」

 

いや違うんだイブキ!確かにそれはそうなんだけど、コイツに対して会話のテンポを持っていかれると心底面倒になるからこっちも言葉を選んでないだけであって……!

 

「ウフフ♡それにタツミさんは先程私のことで頭がいっぱいと仰っていました。それはすなわち、最早このワカモの事しか考えられないということに他なりません。」

「他なるわボケェ!何をどう解釈したらそんな思考に行き着くんだよ!?」

“……いや、あの言い方だとそう取られても仕方ないと思うよタツミ。”

 

俺様がワカモに向けてそう叫ぶと、どこか呆れ果てたような表情を浮かべた先生からそう声がかかる。

 

「えぇ!?そ、そうなのか!?」

“うわぁ……”

「これは……」

「ん、クソボケ。」

「お兄ちゃん……」

「おいやめろ!そんな目で俺様を見るな!」

 

くそ!皆して俺様を冷たい目で見やがって!

一体俺様が何したってんだ!

と言うか砂狼先輩はクソボケってなんだよ!

もはただの悪口だろそれ!

 

「と言うかワカモの事で頭がいっぱいって言ったのはあいつをどう対処するかって意味であって、別に邪な意味は一切含まれていないからな!?」

“いや、それは分かってるんだけどもう少し言い方があるというか……ね?”

 

そうは言うけど仕方ないだろ、俺様だって突然ワカモが目の前に出てきて混乱してんだからよ。

ちょっと変なこと口走っちまうのくらいは大目に見てほしいんだが……?

 

「ウフフ♡そこまで私の事しか眼中にないと高らかに宣言するとは……このワカモ、嬉しくてどうにかなってしまいそうですわ♡」

「だからそういう意味じゃねぇっつってんだろ!?」

「あら、照れ隠しですか?♡」

「んなわけあるかぁ!!!言っとくけどな!俺様はお前のことなんてこれっぽっちも眼中にねぇからな!毎回毎回襲ってきやがって!」

「あら、連れないですね。あの時私達は戦火の中でお互いの初めてを捧げあったではないですか。忘れたとは言わせませんよ?」

「ふざけんな!あれはお前が殆ど無理やり奪っていったようなもんだろ!?あんなのノーカンだノーカン!ぜっっったいにお前が初めての相手だなんて認めねぇ!」

 

そりゃ確かにあの時にワカモの整った顔が近くに来た時はドキッとしたし、あいつの唇の感触や息遣いはハッキリ覚えてはいるけど……あんなの認めてたまるか!

お前が本当の意味で俺様のファーストキスを奪いたいなら、まずは俺様をお前に惚れさせてからにするんだな!

 

まぁ俺様はイブキ一筋だから無駄なことだがな!

ハーハッハッハッハ!!!

 

“えっ!?ちょ、ちょっと待って!?初めてって何!?二人とももうそんなところまで進んでたの!?”

 

俺様が半ばヤケクソで心のなかでそう叫んでいると、俺様の横で血相を変えながら先生がそう叫ぶ。

そして先生は俺様の目の前にダッシュで近寄ってくると勢いよく俺様の両方を掴んだ。

なお先生以外の3人は大口を開け、俺様とワカモを交互に見ながら呆けた表情をしている。

 

“タツミ!先生としてこれだけは聞かせてほしい!ゴムは!ゴムはちゃんと使ったんだよね!?”

「いや待ってくれ先生!突然何の話だよ!?」

“しかも戦火の中でってことは戦場でやったの!?しかも無理やりってことはワカモから……!?”

「お、おい!何かは分からないけど絶対に勘違いしてるってことだけは分かるぞ先生!落ち着け!」

“いいかいタツミ!君達くらいの年齢ならそういう事に興味があるのは重々承知してるけど、子どもが出来ちゃったら取り返しがつかないんだよ!?”

「待て待て!何でそんな話になる!?俺様はワカモとそんな行為はしてないぞ!?頼む!落ち着いてくれ!」

 

どうやら先生は何か重大な勘違いをしているらしい。

慌てながら血相を変えてまくしたてる先生に対して、俺様は一旦落ち着くように言葉をかける。

 

「ウフフ♡先生、彼の言っていることは本当ですわ。私はタツミさんと子どもの出来るような行為はしておりませんよ。」

“え、そうなの!?でも確か今二人は初めてを捧げあったって……”

「えぇ、それは事実です。ただし先生のご想像されているような破廉恥な事ではなく、ファーストキスのこと……ですけれどね?ウフフ♡」

 

ワカモは狐面に人差し指を当てると、余裕たっぷりと言ったような声色でそう言った。

 

“なんだキスのことかぁ。なら良かったぁ……”

 

その言葉を聞き、心底安堵したように息を吐く先生。

いや、結構な爆弾発言だと思うんだけどそれで良いのかよ先生。俺様は顔から火が出そうなんだけどな……!

 

「……いや、キスでもダメですからね!?」

“……えっ!?キス!?タツミ、ワカモとキスしたの!?”

 

うん、やはり聞き流せる発言では無かったらしい。

ワカモの発言を聞いて奥空が目を見開きながらそう叫ぶと、それに続いて先生もそう絶叫を上げる。

 

「い、いや待ってくれ!確かに不本意ながら、ひっじょーに不本意ながらワカモとキスしちまったことは認めよう!けどあれは事故みたいなもんなんだ!あいつがほとんど無理やりやってきたことで、俺様的にはノーカンなんだって!」

「ん、クソボケどころか大ボケだった。」

 

俺様は両手を広げて必死に弁明を行うが、先生を初めとした女性陣は絶対零度の視線を俺様に突き刺してくる。

 

「まぁでもタツミの話によれば無理やりあの女がしてきたみたいだし、タツミだけが悪いとは限らない。」

「ですよね!?そうですよね砂狼先輩!?」

“で、でもキスしたのは事実なんだよね?”

「それは認めるけど、あれは事故なんだって先生!それに俺様としては、ファーストキスはちゃんと好きな人ともっとロマンチックな場所でだな……!」

「あら、私の唇を奪っておいてその態度とは……ふふ、責任を取ってくれるのでは無かったのですか?♡」

「バカなこと言ってんじゃねぇよ!そもそも奪われたのは俺様の方だぞ!何で無理やりファーストキスを奪われておいて責任を取らなきゃいけねぇんだ!」

 

そもそもお前は七囚人、犯罪者だろうが!

責任を取って欲しいならキチンと矯正局に出頭して心を入れ替えてからにするんだな!

そしたらまぁ……考えてはやるよ!考えてはな!

 

「……ねぇ、おにいちゃん?」

「い、イブキ……?」

「……どういうことか、後で説明してもらうからね♪」

 

俺様へ向けて明るい表情でそう言うイブキ。

だが表情こそ笑顔なもののイブキの目はまったく笑っておらず、普段の可愛らしいイブキからは想像もできないほどの底冷えするような威圧感を感じる。

 

「あ、あぁ……分かった……」

 

初めて見るイブキの姿に内心で大混乱しつつも、その逆らえない程の威圧感に俺様は頷くしかなかった。

 

「ウフフ♡私としてはキスだけでは到底満足できないので、そちらの方もいずれ奪って差し上げます♡」

「何を言ってんだてめぇは!と言うか嫁入り前の女の子がホイホイそんな事を言うもんじゃねぇ!」

「あら、私ではご不満ですか?自慢ではありませんが私は自分の体には結構自信があるのですよ?」

「そういう問題じゃねぇよ!っつかそもそもそれ以前にお前は七囚人だろうが!いっぺん矯正局へ入り直して頭を冷やしてこいこの大ボケ狐女!」

 

そりゃキスするくらいなんだからワカモが俺様の事を嫌ってないどころか好意を持ってるんだろうな位のことは分かるけど、だからってそれとこれとは話が別だ。

そもそもこいつは七囚人だし、俺様の命を何度も何度も狙って襲撃を掛けてきて命の取り合いをしているような危険な女なんだぞ。

そんな奴から好意を向けられても、迷惑って気持ちのほうが勝つだろ普通は。

 

ま、まぁちょっとだけ。

ほんの、ほんのちょっとだけなら嬉しくはあるけどな?

なんだかんだ言いつつワカモは仮面を取ればキヴォトスでもトップクラスに入るくらいの美人ではある訳だし、俺様だって男だから本能には逆らえないわけで……

 

それにこいつはなんやかんやで俺様といっしょに戦ってくれたし、この前イブキのケーキを台無しにした時も律儀に買ってきてくれたし、仮面を外すと意外と童顔で可愛い……だぁぁぁぁぁ!!!何考えてんだ俺様は!

 

こいつは矯正局から脱出した七囚人の1人で、趣味で街一つを消し飛ばすような札付きのテロリストなんだぞ!

疑いようのない犯罪者じゃねぇか!ちょっとくらい面がいいからって調子に乗ってんじゃねぇぞコラァ!!!

 

……いや、でも待てよ。

そもそも本気で好きな相手なら、そんな男の命を何度も何度も狙おうとする女がこの世にいると思うか?

……居ないんじゃないのか?

だって、好きな相手を殺そうとするなんてどう考えたっておかしいとしか言いようがないだろ?

……なんか、そう考えたら単にからかわれているだけな気もしてきたな。

くそっ!普段から飄々としているだけにワカモの心理が全く読めない……!

 

まぁでも、これだけは言える。

こいつは……いつか泣かす!必ず!絶対にだ!!!

毎度毎度俺様をからかいやがって……!

覚悟しとけよワカモォ!!!

 

「もう、恥ずかしがり屋さんなんですから……そんなところもまた愛おしいのですけど♡」

「うるせぇ!いい加減その口を閉じろや仮面女ァ!」

「……あの、私達は何を見せられているのでしょうか。」

「ん、危険な女とクソボケの痴話喧嘩。」

“ここまでアピールしても気づいてもらえないって相当だよタツミ……女としてワカモに同情するしかないね。”

「狐のお姉さん……お兄ちゃんは渡さないよ……?」

 

俺様がワカモに対して大声でそうやり合う中で、後ろの女性陣は口々にそう言った。

と言うかイブキ?さっきからなんか雰囲気が怖いぞ?

お兄ちゃん、お前になんかしちまったのか……?

 

「おいこらぁ!!!うちらを無視して何アンタたちで盛り上がってんだ!」

「……あ、そういやいたなお前ら。」

「1回のみならず2回も忘れてんじゃないわよ!いい度胸してるじゃない……!いいわ、こうなったら完膚なきまでに叩きのめしてやる!さぁ行くよワカモ!」

 

そう言うとヘルメットを被った赤髪の女は手にしたショットガンをこちらへと向けてくる。

それを視認した砂狼先輩と奥空はそれぞれ銃を構え、俺様は盾を展開しながら後ろへ下がりつつもいつでもカバーには入れる位置をキープする。

そしてお互いに睨み合いが続き、いざ戦闘が始まろうかと言う時だった。

 

「あぁ、こうしてはいられません!私も用意したアレを早く身に着けて来なければ!」

 

突如、この緊張した空気を切り裂くようにワカモが大声を上げながらその場から跳躍した。

跳躍したワカモはヘルメット団のはるか後方に着地すると、くるりとこちらを振り向く。

 

「え……ワカモ!?ちょっと!あんた何やってんの!?」

「決まっております。一時退却ですわ。」

「はぁ!?なんで退却する必要があるのさ!今こいつらと戦わずにいつ戦うって言うのよ!」

「ウフフ、確かにタツミさんは私の壊すべき相手ではありますが今はその時ではありません。それにどう見てもタツミさんは万全の状態ではありませんからね。そんな彼と死合っても面白くも何ともありませんから。」

「……ケッ、そいつはありがたいことで。」

 

苦虫を噛み潰した表情を浮かべつつ、俺様はそう吐き捨てる。

確かに悔しいけどワカモの言う通り今の俺様は防具を身に着けておらず、万全の状態とは言い難い。

それでも恐らくそこのヘルメット団の連中になら遅れを取りはしないだろうが、この状態でワカモとやり合うとなると厳しいと言わざるを得ないだろう。

……くそ、ムカつく野郎だぜまったく。

 

「ちょっと!さっきから何訳わかんないこと言ってんのよ!?給料分は働くって約束だったでしょ!?」

「それに彼の傍には水着姿の卑しい女がたくさん……こうしてはいられません。急がなければ。先は越されてしまいましたが、今から私も対抗すると致しましょう♡」

「対抗って何によぉ!?なんなのよアンタ!」

 

もはや半泣きになりながらワカモに対してそう叫ぶ赤髪のヘルメット女だが、そんな彼女の悲痛な訴えをワカモはどこ吹く風と言った様子で完全スルーする。

……まぁなんつーか、そいつとまともに話そうとすんのは辞めといたほうがいいぞヘルメット女。

そいつ、日本語は通じるけど話は通じないからな。

 

と言うかヘルメットの女も言ってるけど、対抗って一体何に対抗するつもりなんだろうか?

それに用意していたアレを着るって言ってたけど一体何を着ようっていうんだ?

あの破壊が大好きなワカモが戦闘を放り出してまで優先する事があるのかと少し驚くが、まぁ他人の趣向に口を出すのは野暮だろうし黙っておこう。

 

「ではタツミさん、ここは一旦退きますが……次にお会い出来る時を楽しみにしております。色々な意味で♡」

「ハッ!できればそのまま矯正局にでも出頭して二度とその辛気臭え狐面を見せないでもらえるとありがたいんだけどな!」

「ウフフ♡相変わらずの減らず口……それでこそタツミさんですわね。では、またお会いしましょう♡」

 

ワカモは俺様の言葉を受けて愉快そうに笑うと、そのまま再び跳躍をすると島のジャングルへと消えていった。

 

「ちょっとワカモ!?」

「え、これどうするんですか隊長!?」

「どうするもこうするもないわよ!退却!退却よ!くそー!覚えておきなさいよー!!!」

 

そして赤髪のヘルメット女は涙を流しながらそう叫んだかと思うと、部下らしきヘルメットを被った集団を引き連れてこの場から脱兎の如く逃げ出していった。

……と言うか撤退するんだな。ワカモが逃げていったとは言え流石にあの人数でかかってこられたらいくら砂狼先輩や奥空でも厳しかったと思うんだけど。

よほどワカモの行動が想定外だったと見える。

 

「い、行ってしまいましたね……一体何だったんでしょうかあの方達は。」

「よく分からないけど……リゾートハンターとか言ってたね。口ぶりからして、もしかしたらリゾートを奪おうとする奴らなのかもしれない。」

“まぁ私達も一緒にされているような気がしたけど……詳しいことは良くわからないね。”

「ん、今は気にしてもしょうがない。」

 

ワカモとヘルメット団が退却していった方向を眺めつつ女性陣は口々にそう言葉を発する。

確かに連中の言っているリゾートハンターって言葉も気になるけど、俺様としてはそれ以上に何故無人島であるはずのこの島にヘルメット団やあまつさえあのワカモが居るのかってことのほうが非常に気になって仕方ない。

 

それに今回襲撃を掛けてきた以上は、またいつ襲撃を掛けてくるか分かったもんじゃないだろう。

今俺様達と小鳥遊先輩達は別行動をしているわけだし、今回みたいに別行動しているところを狙われるのはそれはそれで厄介極まりない。

なるべく早く3人と合流したほうがいいだろうな。

 

くそっ、こんなことになるならきちんと防具一式を持ってくるんだったぜ。

と言うか、せっかく取れたイブキとの楽しい休暇だって言うのに邪魔しやがって……次に会ったらこっちだって容赦しないからな!覚えとけよワカモォ!!!

 

“さて……じゃあタツミ。”

 

俺様がそんな事を考えていると、いつの間にか俺様に近寄ってきていた先生が妙にいい笑顔を浮かべながらそう言った。

その笑顔に得体の知れない威圧感を感じた俺様は冷や汗をかきながら一歩後ろへ下がると、先生に続いて笑顔を浮かべた砂狼先輩、奥空、イブキが距離を詰めてくる。

 

「あ、あの……みんな……?」

「……タツミさん。あのワカモさんという方とどういう関係なのか……」

「ん、しっかり説明してもらう。」

「いやちょっと待ってくれ!そもそも俺様達は釣りをしに来たんじゃないのか!?魚の一匹も釣らずに帰ったら大物を期待しているみんなに申し訳が……」

「嘘はつかないでちゃんと答えてね?おにいちゃん?」

「……はい、分かりました。」

 

その後、俺様は女性陣に両腕を掴まれながらホテルへ連行されて小鳥遊先輩たちを交えてワカモとエデン条約の会場で起こったことを洗いざらい吐かされるのだった。

なおその際、先生と小鳥遊先輩は目を丸くしており、十六夜先輩と奥空は顔を赤くして、黒見は何故かケモ耳を立てて怒り心頭と言った様子だったのだが……何故だったんだろうか。

 

と言うか何よりも、終始イブキの目が笑ってなかったのが俺様的には一番気になるところなんだが……!

ごめんなイブキィィィ!!!お兄ちゃんが何かしちまったなら謝るから許してくれぇぇぇ!!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『……こちらFOX4。FOX1、聞こえる?』

「こちらFOX1。どうしたFOX4、何か動きでもあったのか?」

『いや……それがちょっと厄介なことになってね。』

「厄介?」

『えっと、FOX1は狐坂ワカモの事は覚えてる?』

「狐坂ワカモ?……あぁ、災厄の狐か。もちろん覚えているが……それは今回の任務と関係のあることか?」

『いやその……さっきまで丹花タツミ達を監視してたんだけどさ。どういう訳かヘルメットを被ったチンピラ達が丹花タツミ達に襲撃を掛けたかと思うと、その中に何故か狐坂ワカモの姿があったんだよね。』

「……何?」

『なんでこんな所に災厄の狐がいるのかは分からないけど、これは報告しておかなきゃなーと思ってさ。FOX1、どうする?もし私達がここで狐坂ワカモをもう一度逮捕して功績を上げることができれば、何も殺人に手を染める必要はないんじゃないかな?』

「……それは私達の考えることではない。」

『けどFOX1、FOX2も言ってたけど丹花タツミにはヘイローがないんだよ?しかも今は防具だって身につけてないし、私のこの口径のスナイパーライフルで狙撃なんてしたら……』

「FOX4、それ以上無駄口を叩くな。災厄の狐の件は私からカヤ室長へ連絡しておく。今は任務を遂行することだけに集中しろ。丹花タツミを監視し、襲撃できるタイミングで襲撃をかける。いいな?」

『……FOX4、了解。報告は以上だよ。アウト。』

 

「……狐坂ワカモか。面倒なことになったな。」

「何故こんな所に狐坂ワカモがいるのか全く持って理解不能だ。そもそも彼女は丹花タツミの敵なのか味方なのかも分からないが……それは私達の考えるべきことではない。カヤ室長に連絡して指示を仰ぐとするか。」

「それにしても、カヤ室長が言うには丹花タツミは狐坂ワカモと互角に渡り合える実力の持ち主と言っていた……仮に狐坂ワカモと丹花タツミが味方なら厄介だな。やはり用心しておくにこしたことはないだろう。」

「……ニコやオトギの言う通り、人を殺さずに済むならその方がいいのは間違いないのだろうが……」

 

「……っ!」

「……何を考えているんだ私は。」

「たとえ人を殺すことになったとしても私は必ずSRTを復権させて見せる。そのためならどんな汚名をかぶろうが構わない。これはSRTの……正義のためなんだ。甘い考えは捨てろ、そんなものは何の役にも立たない。」

「今はただ、武器としての役割を遂行するだけだ。」

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