もう少しお時間を頂けますと幸いです
「ど、どうすんのさユキノ!まさかこんなことになるなんて聞いてないって!」
「と言うかどうすんのよこれ!そもそもあの二人って敵同士じゃなかったワケ!?なのになんでそんなお、おっぱじめちゃってんのよ!?」
「お、落ち着いて二人とも……」
「落ち着いてなんていられないよぉ!あんなの見せられて私はどうすればいいってのさ!」
「そもそもいくら命令とは言え、男女のそんな所に突撃するなんて出来ないわよ!ヤることヤッてるってことは二人は当然同意の上なんでしょうし、恋人同士の営みを邪魔するだなんて……」
「……いや、オトギちゃんの話を聞く限りでは半分以上は狐坂ワカモの作戦勝ちな気がするけどね。彼はどちらかと言うと食べられちゃった側だから同意が交わされているかと言うと怪しいけど……まぁ、今はとにかくユキノちゃんを再起動させるのが先決かな。」
「何故だ、何故こんな事になった……」
「ユキノちゃん、少しは落ち着いた?」
「何故だ……何故こんなところでおっぱじめたんだあの二人は……カヤ室長になんて報告すれば……」
「……これはもう少し時間がかかりそうかな。クルミちゃん、オトギちゃん。今日は私達も休もうか。」
「そうさせてもらえると助かる……うぅ、私あんなの見ちゃったら今夜は眠れそうにないや……」
「わ、私も将来は素敵な彼氏とそんな事ができたら……」
(ユキノちゃんだけじゃなくて、オトギちゃんとクルミちゃんも重傷みたいだね。このまま無事に任務を遂行できるかは……ちょっと怪しくなってきたかも。)
(それにしても、ゲヘナの議長代理とあの災厄の狐がまさかそんなことになるなんて……もしかして、この事をしっかりと記録すればゲヘナの議長代理に対する牽制になるから別に殺す必要はなくなるんじゃ……?)
(人を殺して、その上に再建したSRTに価値があるとは私は思えない。だからと言って人の色恋沙汰を使って脅すなんて事もやっちゃダメだとは思うけど、殺人よりよっぽどマシなのは間違いない……)
(……使うかどうかはともかく、記録だけはしっかりと残しておこうかな。)
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部屋のドアがノックされ、イブキが帰ってきたと思い込んでドアを解錠して開け放った俺様。
すると、そこには先生と彼女の背中でぐっすりと眠って寝息を立てているイブキの姿があった。
てっきりイブキだけが帰ってきたと思いこんでいた俺様は先生もいることに一瞬目を見開くが、すぐに心を落ち着けると先生の顔に視線を固定する。
“遅くにごめんねタツミ。イブキが談話室で寝落ちしちゃったみたいだから、部屋まで送りに来たんだ。”
どうやら先生の話によると、イブキは途中まで談話室でアビドスのみんなや先生と女子トークやトランプを楽しんでいたはずなのだが恐らく眠くなって談話室にてそのまま寝落ちしてしまった……と推測できる。
今の時刻は23時を過ぎた辺り、確かに普段のイブキの就寝時間から考えると遊んでいる内に眠ってしまったとしてもまったくおかしくない時間ではあるからな……
“初めはタツミに迎えに来てもらおうって話も出てたんだけど、タツミも部屋で休んでいるからね。わざわざ来てもらうのも悪いから、タツミの部屋に一番近い私がここまで連れてきたんだ。”
「そ、そうだったのか。わざわざすまねぇな先生。」
“ううん、このくらいお安い御用だよ。気にしないで。さっき解散して私も部屋に戻るところだったから。”
なるほど、それで先生がイブキを背負っているんだな。
確か先生の部屋は俺様達の部屋からそう遠くないはずだし、自然な流れと言えるだろう。合点が行った。
「と、とにかくありがとう先生。じゃあイブキをベッドに寝かさなきゃいけないから、渡してもらえると……」
恐らく昼間のヘルメット団の件もあるから送ってくれたと言うのもあるだろう、ありがたい限りだ。
そう思いつつ、イブキを先生の背中から受け取るために俺様は先生の背中で幸せそうに寝息を立てているイブキを抱きかかえるために手を伸ばそうとするが……
“あ、いいよいいよ。下手に動かしてイブキを起こすわけにはいかないからこのままベッドに寝かしちゃうね。ちょっとだけ部屋に入ってもいいかな?”
それを空いている方の手で静止した先生が、ニッコリとした笑みを浮かべながらそう言ってきた。
「えっ!?へ、部屋に入ってくるのか!?」
“え?うん……だってタツミが抱っこしたらその振動でイブキが起きちゃうかもしれないでしょ?”
「い、いや……それはたしかにそうなんだが……!」
……まずい。これは非常にまずい。
今俺様の部屋のクローゼットにはワカモが隠れている。
シーツは剥がして新しいものに変えたし、部屋には消臭剤も撒いて現在は窓を開けて換気している最中だから恐らく先程まで俺様達が行っていた行為はバレないとは思うけど、だとしても今の状態の部屋に先生が入ってくるのはどう考えてもまずいとしか言えないだろう。
とは言え、先生の言っていることはご尤もだ。
俺様としてもせっかく眠っているイブキを起こしてしまうのは本意ではない。
それに、そもそも先生を部屋に入れない正当な理由なんてあるわけもないし……くっ、こうなれば仕方がない。
ここは諦めて先生を部屋に入れて、早急にイブキをベッドに寝かせてもらうしかないだろう。
大丈夫……証拠は処分してあるし、ワカモだって警備ロボットを掻い潜ってここまで来れるような隠密の達人。
きっとバレないはず、そう信じるしかない。
“……どうしたのタツミ?私が入っちゃいけなかった?”
「い、いや!そんなことはないぞ!ただ先生の手を煩わせるのも悪いなって思っただけで……」
“別にそんな事はないよ?このままベッドに寝かせるだけなんだし、そのくらいどうってことないって。”
「……分かった。なら申し訳ないけど、頼んでもいいか先生?」
“うん、任せて!”
俺様はなるべく平然を装いつつドアを目一杯開けると、部屋の中へと先生を招き入れる。
“……ん?”
先生はそのまま部屋の中へと入室してくると、一瞬だけそう呟いた。
「ど、どうした先生?」
“……ううん、なんでもないよ。”
……が、先生はそう言うとすぐに2つ並んだベッドの内イブキが寝る予定だったほうのベッド(行為をしたのとは別のベッド)へとイブキをそっと寝かせてくれた。
「すぅ……すぅ……」
ベッドの上で幸せそうに寝息を立てて眠るイブキ。
その姿を見て、俺様はホッと息を吐く。
“ふふ、本当によく寝てるね。”
「あぁ。この寝顔のためなら俺様はどんなことだって出来るしどんなことだって頑張れるさ。」
ベッドでイブキの寝顔を見ながら優しげにそういう先生に対して、俺様は静かにそう呟いた。
俺様の最愛の妹はベッドの上で幸せそうにすやすやと寝息を立てており、その姿はまるで天使。
うんうん、やっぱりイブキは眠っていても世界で一番かわいいに決まってるよなぁ!
うぉぉぉぉ!イブキ最高!イブキ最高!!!
“ふふ、本当にタツミはイブキのことが好きなんだね。”
「あぁ、なんてったって俺様の自慢の妹だからな。イブキを守るためなら俺様はなんだってやってやる。」
俺様はイブキを頭を撫でつつ、力強くそう言い切った。
……ふぅ、イブキの寝顔を見ていたら少し落ち着いたな。
改めてここまでイブキを連れてきてくれた先生には感謝しなければならないだろう。
「ありがとうな先生。イブキを連れてきてくれて。」
“ううん、大したことはしてないからさ。”
俺様は先生へ向けて礼の言葉を言うが、先生は自身の大きな胸を拳で叩きながらドヤ顔でそう言った。
さて、それじゃあそろそろワカモもクローゼットの中から出してやらないといけないし先生には悪いけど自分の部屋に戻って休んでもらうとしよう。
それに先生だってアビドスの皆の引率や昼間の先頭の指示で疲れているはずだからな、夜ふかしをすんのも良くないとは思うし早めに休むに越したことはないはずだ。
そう思った俺様は先生に対して口を開こうとするが……
“……ところでさ、タツミ。”
そう思った俺様が言葉を発する前に、先生からそう言葉が投げかけられる。
その言葉に反応した俺様は先生の顔を覗き込むが、先生はニコニコと笑顔を浮かべているものの……
その姿は、とてつもない威圧感と底冷えするような寒気を俺様の背筋に叩き込んでくるような形相だった。
「……っ!?」
“……ねぇ、タツミ。髪が濡れているみたいだけど、シャワーでも浴びたの?大浴場に行ったのはバーベキューから帰ってきてすぐだから、結構前のはずだよね?”
ニコニコと笑う先生から投げかけられた言葉を聞いて、俺様の心臓は跳ね上がった。
彼女の表情は笑顔なものの……あまりにも笑顔がすぎるというか、何故か不自然に笑っているような気がしてならない。と言うか先生は表情こそ笑顔だが目は笑ってないし、これはもしかして勘付かれてるか……!?
……だとするとまずい。今の俺様はシャワーを浴びて間もないから髪の毛がまだ湿っている状態だ。
先生の言う通り俺様が大浴場へ行ったのはバーベキューから帰ってきた直後だから、時間的には既に髪の毛が乾いていなければおかしい。明らかに不自然だ。
と言うか、よくよく考えれば当然の話じゃないか……!
まずい、なにか言い訳を考えないと……!
「あ、あぁこれか?実は先生たちが談話室で楽しんでる間に日頃の疲れからか寝落ちしちまってたみたいでよ。さっき起きたんだけど、その時に寝汗がやばかったからシャワーを浴び直したんだよ。」
“あ、なーんだそうだったんだね。確かにタツミは普段はいつも議長代理の仕事で大変そうだし、疲れるのも仕方ないか……”
「そ、そうなんだよ。昼間に色んなことがあったし遊び疲れてたってのもあって、気づいたらいつの間にか寝ちまっててよ……」
俺様はなるべく平静を装いつつそう言うと、先生から感じていた威圧感はほんの少しだけ離散する。
“じゃあ、その首元の絆創膏は?さっきまでは首にそんなものしてなかったよね?”
次に先生はすっと目を細めると、俺様がワカモからの刻印を隠すために首筋に貼った絆創膏を指さしてくる。
その言葉に俺様の心臓は最早口から飛び出るんじゃないかというくらいに鼓動が早くなるが、気合で表情を崩さずに至って冷静に口を開く。
「こ、これはどうやら寝てる間に虫にでも食われちまったみたいでよ。タチの悪い虫だったのか痒くて仕方ないから、掻かないように張ったんだ。掻き毟りでもしたら余計に悪化しちまうからな。」
“……ふぅーん?そうなんだ?”
先生は俺様の言葉を聞くと底冷えするような、普段の優しい先生からは考えられない冷たい声でそう言った。
「な、なんだよ。先生だって蚊に食われた時に思わず痒くて掻いちまって悪化したことだってあるだろ?そうなるのが嫌だから貼ったってだけだ。」
“そうだね、たしかにそんな経験は私にもあるけど……”
「だろ?それに汗を掻いたら蚊に食われやすくなるって言うじゃんか。ここはジャングルの中だし蚊も当然多いだろ。だから前もって防止のためってだけだよ。」
“……へぇ。そっかぁ。”
そのとてもじゃないが尋常ではない威圧感に俺様が思わず身震いする。
“うーん、別に説明に矛盾してるところはないし……入ったときの微かな匂いは気の所為だったのかな?”
すると、先生は腕を組んで首を傾げると何やら難しい表情をして小声でブツブツと何かを言い始めた。
その言葉までは小声すぎて聞こ取れなかったが……俺様が背筋に嫌な汗が出てくるのを感じていると、次の瞬間に先生はその威圧感を離散させいつもの優しくてポワポワしている雰囲気へとさっと雰囲気を戻した。
「お、おい先生……?どうしたんだ……?」
“ううん、なんでもない。私の気のせいだったみたい。”
「そ、そうか?ならいいんだけど……」
“それじゃあタツミ、夜ふかしは程々にね。”
「あ……あぁ、おやすみ。先生もこの後仕事とかせずにちゃんと休めよ?」
“うん、分かってるよ。おやすみ、タツミ。”
そう言うと、先生は俺様に向かって笑顔で手を降った後に部屋の中から退室していった。
先生のその後姿を見送り、部屋のドアを締めた後に……
「はぁぁ……バレなくて良かった……」
俺様は盛大にため息を吐いていた。
くそ、まだ心臓がバクバクしていやがるぜ……
しかし……我ながら良く咄嗟にあんな言い訳が思いついたもんだ。バレなかったのは良いとして、気分はまるで浮気の言い訳をする男の気分だったぜ……
まぁそれはともかくなんとかバレずに済んで良かった。
このことがもしバレていたら……想像するだけでもぞっとせざるを得ない。
「……もう出てきていいぞ、ワカモ。」
一通り息を吐いて呼吸を整えた後、俺様は長いことクローゼットの中に隠れて窮屈な思いをしているであろうワカモへと声を掛ける。
俺様の言葉を聞いたワカモはクローゼットの扉を音を立てないように慎重に開け、その中から姿を表した。
「ウフフ、間一髪でしたわねタツミさん。」
「あぁ、なんとかバレずに済んでよかったよ。先生のあの雰囲気を見るに勘付かれたのかと思って焦ったぜ。」
「……いえ、恐らくですが先生は部屋に入った時点で半分は確信していたでしょうね。その後のタツミさんの辻褄の合った言い訳のおかげで疑いは晴れたようですが。」
「マジか?じゃあかなり危なかったんじゃねぇか……」
「ウフフ♡私もそうですが、女と言うのはそういうことに対しては敏感なのですよ?」
ワカモは口元に手を当てて笑いながらそう言った。
と言うか、よくよく考えたら俺様は先生にこの事を隠すために嘘をついちまったってことになるんだよな……
誘惑に負けてワカモに手を出すわ、それでいてワカモの気遣いに甘えて責任も取らず、あまつさえワカモとのそういう行為を誤魔化すために嘘まで付いてしまった。
いくらこの関係をバラすわけには行かないとは言え、信頼してくれている先生に対して嘘を吐くなんて……
……俺様は最低だ。こんな最低な男は見たことがない。
くそ、自分に対する怒りで頭がどうにかなりそうだ……!
「……タツミさん、気にする必要はありません。」
俺様が肩を震わせながら握り拳を作っていると、ワカモが俺様の肩に手を乗せながら優しく語りかけてくる。
「先程も言いましたが、今回の件は私が貴方の理性を焼き切ったから起こったこと。貴方が責任を感じる必要は一切ありません。」
「だけど、俺様は先生に嘘を……」
「はい、それは吐いてしまった以上どうしようもない事実ではあります。しかし、今更どうこう言った所でどうにか出来るものではないでしょう?」
「いや、それはそうかもしれないけどよ……」
「それに元はと言えばこうなったのは私の行いが原因……なら、貴方が先生に嘘を吐いたのも元を正せば私の責任ということになるのではありませんか?」
ワカモは俺様の目を真っ直ぐに見据えてくると、真剣な表情でそう言ってくる。
「バカ言え。例えそうだとしても、先生に嘘を吐いたのは俺様自身の責任だ。お前は何の関係もねぇよ。」
「……もう。貴方のそういう責任感の強い所や優しいところは魅力的ですが、行き過ぎると良くありませんよ?」
「……うるせぇ。」
俺様はワカモに対してそう言うが、ワカモは再びその整った顔に笑顔を浮かべると俺様の頭に手を乗せてきた。
彼女の手の平から温かい体温が伝わってくる。
「タツミさん。罪人である私がこんな事を言うのもなんですが、人は誰だって生きていれば嘘の1つや2つは付いているものです。それは些細なことかもしれませんし、重大なことかもしれませんが……生きている以上、人は嘘を付く生き物なのではありませんか?」
「ワカモ……」
「だからそんなに悲しそうな顔をしないでください。それに貴方がなんと言おうと、今回の責任は元を正せば私にあります。ですので貴方が先生に嘘をついた責任を感じるのであれば、私は貴方が何と言おうがその責任を共に背負いますからね?」
そう言うと、ワカモは笑顔を浮かべながら俺様の頭を優しく撫でながらキッパリと言い切った。
まったく、こいつも変な所で強情なやつだよな。
……けど、今はその心遣いが何よりも嬉しかった。
「……ありがとう、ワカモ。」
「いえ、お気になさらず。何ならこのまま私の胸に飛び込んできてもいいのですよ?♡優しく包みこんで差し上げますので♡」
「……慰めてくれるのは嬉しいけど子ども扱いすんなよな。俺様はもうそんな歳じゃねぇよ。」
「あら、私からすればタツミさんは15歳の可愛い後輩、まだまだ子どもと言っていい歳ではありませんか♡」
……そう言えば俺様は普段からこいつに襲われすぎて砕けた口調で話していたからすっかり忘れていたけど、ワカモは本来であれば高校3年生。
しかも矯正局へ収監されて停学扱いになっていた期間もあるから、実年齢は確か18歳だったはずなんだよな。
だから俺様からすればワカモは歳上のお姉さんってことになるわけなんだが……なんだろう、こいつをあんまりそういう目で見たことはなかったりする。
そもそも初対面がシャーレでの攻防戦だったし、その時に命の取り合いをしてからはずっとどこかしらで襲撃を受けて戦っているし、歳上のお姉さんってよりは俺様の命を狙っている飄々としたムカつく女ってのが正しい。
……まぁ、そんなムカつく女に頭を撫でられるのを素直に受けている俺様も俺様なんだけどな。
でもこうして優しい笑顔を浮かべて俺様の頭を撫でるワカモを見ていると、彼女も確かに歳上のお姉さんなんだな……と思わないこともなかった。
「……おい、いつまで撫でてんだワカモ。」
「ウフフ♡良いではありませんか、このワカモも、たまには歳上らしいことをしてみたくなるものなのです♡」
そろそろ頭を撫でられる事に小っ恥ずかしくなってきた俺様はワカモに対してそう言うが、ワカモはいつもの飄々した雰囲気でそう言うと頭を撫で続けてくる。
「だから子供扱いすんなっての!そもそも、そんな15歳のガキに惚れといてよく言うぜまったく!」
「ウフフ、それとこれとは話が別ということで……」
「だーもう!良いから離せっての!」
俺様はそう言うと、ワカモの手首を手に取ると強引に俺様の頭から彼女の手を引き剥がそうとする。
「もう、いけずなんですから……」
ワカモはそう言うと、渋々と言った様子で俺様の頭から手を離すと少しだけ距離を取った。
「……まぁその、慰めてくれたことには感謝してる。ありがとうワカモ。おかげで少しは胸が軽くなったよ。」
「ウフフ、お気になさらず。それに夫婦というのはお互いが支え合うもの、そうでしょう?♡」
「……いや、俺様がいつお前と夫婦になったってんだ。言っとくがお前がきちんと矯正局に入って罪を償うまでは俺様はお前と付き合うつもりは無いからな?」
……そう、今回勢いに任せてワカモに手を出しちまったけどこいつが趣味で街を1つ消し飛ばす危険なテロリストであることに変わりはないんだ。
確かに俺様はワカモに言われるまでは責任を取ってこいつの告白を受け入れるつもりではいたけど、付き合った後に矯正局に出頭させるつもりではいたからな。
だから仮に付き合うとなった場合は、こいつがきちんと矯正局で罪を償ってからじゃないと認めない。
そうさ、仮にも俺様の彼女になろうってんなら俺様の目の前で街をぶっ壊すことなんて許さないからな!
「えぇ、分かっておりますとも。なので先程も言ったではありませんか。そんな事はどうでもよくなるくらい私に惚れさせて、必ず私を手に入れたいと思わせてみせると。ウフフ♡なので覚悟してくださいね?♡」
「……あぁ、望む所だ。その挑戦、受けて立ってやる。」
俺様とワカモはそう言うと、互いに顔を見合わせて不敵な笑みを浮かべあった。
そう、こいつは俺様が倒すべき相手であっていつか越えるべきライバルでクソむかつく女で……そして俺様が初めてキスをした相手で、体を重ねた相手。
そして……俺様のことを一途に想ってくれている女の子。
そんな相手からの挑戦状なら、そんなものは受けて立つしかないだろうからな。
言っとくが俺様は手強いぞワカモ。
なんてったって俺様はイブキ一筋15年なんだからな!
自他共に認めるほどのシスコンを舐めてかからないことだな!ハーッハッハッハ!!!
「ふふ、それにしても良く眠っておりますね。」
俺様がそんな事を心の中で思っているとワカモはいつの間にか俺様から距離を取ってイブキの眠っているベッドの傍へ移動し、ベッドの上で幸せそうに眠っているイブキの頭を穏やかな笑みを浮かべて優しく撫でていた。
その母性を感じる穏やかな笑顔に俺様は一瞬だけドキッとするが、すぐにブンブンと煩悩を頭から振り払うと俺様もイブキの寝ているベッドへと近づく。
「んぅ……えへへ……くすぐったいよお兄ちゃん……」
「まぁ、何と可愛らしい笑顔……これはタツミさんが溺愛するのも少し理解できるような気がしますね。」
「ふっふっふ、そうだろ?なんてったってイブキは世界で一番可愛いからな。」
イブキの頭を撫でながらそう言うワカモに対して、俺様はドヤ顔を浮かべながらそう言った。
しかし世間じゃ災厄の狐なんて呼ばれてるあのワカモにさえ可愛いと言わしめるとは……流石はイブキだな!
……しかし、俺様が傍で監視しているとは言えあのワカモにイブキに触れることを俺様が許す日が来るとは夢にも思わなかったなぁ。
前までの俺様だったら、もしワカモがイブキに触れようとしたら血相を変えて阻止していただろう。
何なら、問答無用でブークリエをぶっ放していた可能性だってあるだろうからな。
それは良くも悪くも、俺様はワカモと関わる内にこいつの内面を理解したというのもあるだろう。
こいつは世間では災厄の狐なんて二つ名こそ付いているものの接していく内に分かったことが一つある。
それは、ワカモは趣味の破壊活動と危険思想を除けば案外普通の女の子なのかもしれないと言うことだ。
さっきだって俺様が先生に嘘をついてしまった事を悔いているとそれを察して慰めてくれたし、こうやって自分が恥ずかしいのを我慢してでも惚れた相手のために水着を着てそれを見せに来るいじらしい一面もあるし……
それにワカモは話自体はまだ通じる方だし、今回だってヘルメット団に雇われていたけど特に仲間割れするような様子もなく付き従っていたところを見るに根っ子は案外律儀かつ真面目な女の子なのかもしれない。
それに面だっていいし、スタイルだって抜群だ。
相手を立てる気遣いだって出来るし、こと破壊活動以外のことになればわりと常識的な部分だってある。
これで趣味の破壊活動と略奪癖さえなんとかなれば、本当にモテモテだったろうになとしか言いようがない。
こんなキヴォトスでもトップレベルの美女に想われているなんて……俺様は幸せ者だよ、本当に。
まぁ、相手は札付きのテロリストなわけだが……
だから今はワカモの気持ちに答えることは出来ない。
けどいつか彼女を捕まえて矯正局へぶち込み、キッチリと罪を反省した上で償ったその時は……
もしかしたら、もしかするかもしれないな。
「ふふ、ではタツミさん。もう夜も遅いですし、名残惜しいですが私はこの辺りで御暇すると致します。」
そう考えていると、イブキの頭から手を離したワカモが俺様に近寄りながらそう言ってくる。
ワカモの言葉にハッとなった俺様は慌ててスマホの時計を確認すると、そこにはもうすぐ日付を超えるか超えないかと言うような時間が映し出されていた。
「げっ、もうこんな時間か……たしかに明日に備えてそろそろ休まないとダメだなこりゃ。」
「はい。私も一応あのヘルメット団に雇われている身。雇い主の意向には従わなくてはなりませんから。」
「……いや、俺様には途中からお前がヘルメット団を振り回してる気がしたんだけど気のせいか?」
「ウフフ♡さぁ、なんのことでしょう?」
俺様がジト目を向けながらそう言うと、ワカモは口元に手を当てながらくすくすと笑った。
「タツミさん、明日も恐らく私はあのヘルメット団と行動をとともにするでしょうから次に会った時は敵同士です。ですが私は惚れた男だろうが手加減は致しませんので……覚悟しておいてくださいね?♡」
「……ハッ、上等だ。こっちだってお前相手に手を抜くつもりはない。」
そう、俺様とこいつが戦いに関して手を抜くことなんて言うのは天地がひっくり返ってもありえない。
と言うか、ワカモ相手に手を抜こうものなら俺様は5秒で地面に転がることになるだろうから手を抜けないと言ったほうが正しいだろうな。
「絶対負けねぇからな、ワカモ。」
「ウフフ♡望むところですわ♡」
俺様とワカモはお互いに顔を見合わせると、闘争心剥き出しの笑みを浮かべて笑いあった。
その後、俺様とワカモはしばしお互いに顔を見合わせていたがやがて彼女は俺様との行為の時に使ったものをまとめたビニール袋を片手に部屋の窓を開け放ってそこに片足を掛ける。
俺様はそんなワカモを見送るため、彼女へ近づくと……
「ウフフ……♡」
ワカモは、無警戒に近づいた俺様の顔にその整った顔を近づけてくると……俺様の唇に自分の唇を重ねた。
「……!?」
「それではタツミさん、またお会いしましょう♡」
本日何度目か分からない、ワカモからのキス。
そのあまりの唐突さに俺様が面食らっていると、彼女はそうとだけ言い残して窓を飛び出し夜のジャングルの中へと消え去っていった。
「……ったく、横顔が赤かったぞワカモ。」
まぁそういう俺様も顔が真っ赤な自信があるわけだが……
俺様はそう思いつつ唇に残る彼女の体温を確認する様に自分の口に手を当てた後、途端に力の抜ける体を気力だけで動かしてイブキの寝ている隣のベッドへ倒れ込む。
(あぁ……疲れた……)
……ダメだ、ベッドへ横になった途端眠気が襲ってきた。
思えば、今日は色々なことがあった。
ベッドに寝転がって天井を見上げながら、俺様はぼんやりとそんな事を考え始めていた。
このリゾートの招待券が詐欺だと言うことから始まり、ホテルを使えるようにするための掃除、そこから食料調達に行った先でのヘルメット団やワカモからの強襲。
その後はみんなと海で思いっきり遊んで、先生や十六夜先輩に日焼け止めを塗ったり、ビーチバレーをしたり、イブキと砂の城を作ってはしゃいだり……その後はバーベキューや花火をし、普段の仕事のことなんて何もかも忘れて思いっきりリゾートを楽しんだ。
そして夜になってからはワカモから不意打ちで告白されてあんな過激な水着で艶めかしく誘惑され、理性を制御できずに彼女と体を重ねてしまって……
正直、ワカモとの関係がどうなるのかは俺様には分からないけど……決して悪い方へは転がらないはずだ。
……俺様も、この複雑な気持ちに早めに決着を付けなければいけないだろう。
ワカモをあまり待たせるわけにもいかないからな。
(あぁ本当に……今日は色々なことがあったなぁ……)
色々な思考が頭をぐるぐると駆け巡るか、それもこれも全ては圧倒的な睡魔に睡眠欲へと上書きされていく。
まぁ朝から散々色々な事があったからな、体が悲鳴を上げているのは当然と言えるだろう。
(まぁ、明日になったらまた考えればいいか……)
最早考えの纏まらなくなってきた俺様は心の中でそう呟くと、睡魔に身を任せてそのまま目を閉じるのだった。