「さぁ行くぞFOX小隊!人の獲物に手ェ出したらどうなるかってことをその身に教えてやるよ!!!」
盾を思い切りドン!と地面に突き立て、手にしたブークリエを七度へ向けながらそう大声を上げる俺様。
「まぁタツミさんったら、このワカモの事を自分の獲物だなんて……ウフフ、それはもう私に対するプロポーズということでよろしいですよね?♡」
「んなわけあるかボケェ!これはお前が普段から言ってる俺様を壊すのは自分ってのと同じ意味だよ!!!」
体をクネクネとさせながら気色悪い声色でそう言ってくるワカモに対し、俺様は声を張り上げた。
そう、ワカモは普段から事あるごとに【タツミさんを壊すのは自分の役目】だと口癖のように言っている。
何度も襲撃されているってのもあるけど、俺様はそれもあるからこそこいつには絶対に負けたくないって思ってるしいつかは超えるべき相手だとも認識してるからな。
何度も言うようだけど、ワカモは矯正局から脱出したテロリストで悪名高いあの七囚人のうち1人だ。
今でも各地で破壊活動を行っては人々を困らせているし略奪グセだってちっとも治る気配を見せない。
そんな相手を庇って、本来であれば正義側の人間であるSRTの特殊部隊に喧嘩を売るなんて我ながらどうかしているとは思うけど……でも、これはもう理屈じゃない。
俺様はこいつと何度も刃を交えた。
何度もお互いに傷つけあって、何度も何度も戦って。
そして……思いを伝えられて、体を重ねた。
ワカモが俺様を必ず壊すと言っているように、俺様だってこいつと何度も何度も顔を合わせて戦っている内にこいつを超えたい、倒したいと思うようになったからな。
だからさっきも言った通りこいつは俺様にとっての好敵手であって、俺様に想いを寄せてくれている女の子であって、そして俺様の倒すべき相手……獲物なんだ。
そんな相手を正式に逮捕しに来ているならいざ知らず……あんな濁った目で死んだように任務を遂行しているFOX小隊に引き渡すわけには行かない。
ただそれだけの話しだ。
それに……こいつの想いにも答えを出してやらないとダメだからな。
そのためにも、ワカモは俺様自身の手でとっ捕まえて矯正局へブチ込んでやると思っている所もあるだろう。
「……ほう、大した自信だな。」
そんな俺様を一瞥しつつ、七度はフンと鼻を鳴らしながら笑った。
「当たり前だ。悪いがこいつは俺様の獲物なんでな。お前たちみたいなポッと出の特殊部隊に連行されるわけにはいかないんだよ。」
「……お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?そいつは災厄の狐と呼ばれているテロリスト、キヴォトス七囚人の1人なんだぞ?」
「お前に言われなくても、そんなこたぁ分かってる。」
顔をしかめながらそういう七度に対して、俺様はごく当たり前かのようにそう言い放った。
言われなくてもそんな事は分かってる。
俺様がこいつとどれだけの付き合いだと思ってんだ。
「なら貴様は自分がしようとしていることも理解しているな?」
「あぁ、ワカモを庇ってお前たちとやり合うつもりだ。正直自分でも何でこんなことしようと思ったのかは分かんねぇけどよ……けど、今のお前たちにワカモを任せるわけには行かないからな。」
こちらを睨みつけてくる七度に対して、俺様は啖呵を切るようにキッパリとそう言い放った。
「それにお前に銃を向けている時点でもう俺様はお前たちFOX小隊の敵……なら、お互いやることは一つだろ?」
「……フン、知った口を聞くな。」
俺様は七度へ向けて不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら手にしたアサルトライフルをこちらへ向けてくる。
「丹花タツミ、貴様をテロ共謀罪で拘束する。」
「……よくもぬけぬけとそんな事が言えますわね七度ユキノ。最初から貴方達の狙いはタツミさんだった癖に。」
「……戯言を言うのも大概にしてもらおうか災厄の狐。」
「ウフフ、私が気づいていないとでも思いましたか?先程も申し上げましたが、弾丸の軌道からタツミさんを狙った事は明らか。あの狙撃手の腕を考慮すると、最初からタツミさんを狙っていた事はバレバレなのですよ。」
お互いに睨み合いながら、息をするのも苦しくなるような殺気をぶつけ合うワカモと七度の2人。
特にワカモの全身から滲み出ている威圧感と冷たい殺気は俺様に向けられている物じゃないと分かっていても、冷や汗を流してしまうような代物だった。
最初は俺様もてっきりワカモを狙った弾丸が風で流れて俺様に向かってきたのかと思っていたけど、ワカモの言う通りFOX小隊の狙撃手の腕がそこまですごいのであれば当然風のことなんて考慮されているはず。
となると、ワカモの野性的な勘があまり外れたことがないことも考慮するとFOX小隊の狙いは最初から俺様の命だった……と考えることは出来なくもないだろう。
そもそもの話だが、俺様にはヘイローがない。
だから当然銃弾一発で命の危機に瀕する危険があるし、それが分かっているから俺様は普段戦場へ出る時はガチガチのフルアーマー装備に身を包んでいるわけだ。
まぁ正直、だからと言ってその状態でも銃弾を受ければ当たりどころに寄っては普通に怪我をしちまうからな。
そもそも、俺様に向かって放たれた弾は20mm弾だ。
20mm弾と言えば、俺様がエデン条約の会場で槌永の狙撃からワカモを庇った時に腹に受けたものと同じサイズの超大型の弾丸……それが俺様の頭に向かって放たれたと言う事実に、どうしても俺様の背筋は寒くなる。
くどいようだけど、20mm弾はとても強力な弾丸。
その威力はヘイローの備わっているキヴォトス人でさえ一発当たれば痛みで動けなくなり、頭に喰らおうものなら即救急車を呼ばなければならないレベルの代物だ。
俺様は一度そんなものを腹にブチ込まれたが、あれは羽沼議長からもらった高性能な防弾チョッキと薬子先輩からもらった薬のお陰で助かっただけであってその2つがなければ俺様は今頃あの世行きだったのは間違いない。
そんな、木を一発でなぎ倒すような弾丸がもし俺様の頭に着弾していたらと思うと……想像したくもないな。
そんな敵を制圧するにしては過剰とも言える威力の弾丸をヘイローのない俺様……しかも防具を身に着けていないこの状態の俺様に対して何の警告もなしに一発目から頭へ向けて撃ち込んできたとなると……
ワカモの言う通り、こいつらのの狙いはワカモではなく最初から俺様だったと言う説にも説得力が増す。
FOX小隊が一体何のために、何の目的があって俺様の事を狙ってきたのかは分からない。
ただ一つ言えることは、FOX小隊のやろうとしていることは単なる人殺しに過ぎないということだ。
そして……七度の濁った目を見る限り、その殺人は自分の意志ではなく誰かに強要されている物なのは明らか。
だったら……俺様のやることは一つ。
ここでFOX小隊をボコボコにして、こいつらの口から裏で糸を引いている黒幕の正体を割らせる。それだけだ。
「貴方達の目的は何なのかは分かりませんが……タツミさんの命を狙った以上は、ここから生きて帰れると思わないことですね……!」
「フン、それはこちらのセリフだ災厄の狐。私達が相手をする以上は逃げ切れると思うな。まさか一度私達に負けたことを忘れたわけではあるまい?」
「ウフフ……確かにあの頃は遅れを取りましたが、今の私はあの頃の私ではありません。それに今はタツミさんと言う頼りになる方もいらっしゃいますから……ね?♡」
ワカモはそう言うと、俺様へ向けて狐面を向けてくる。
そう言えば七神代行から聞いた話だと、ワカモを捕らえて矯正局へ送ったのは他でもないFOX小隊だったな。
ワカモと言えば、小鳥遊先輩や空崎委員長には流石に劣ると言えどそれでもキヴォトスの中では上から数えたほうが早いくらいの実力者である事に疑いの余地はない。
そんな彼女を拘束して矯正局へ送り込めるだけの力があるのだから、FOX小隊の実力は相当のものだろう。
……だけど。
「あぁ。俺様達はお前らには負けねぇよFOX小隊。何故お前達が俺様の命を狙ったのかは分かんないけど……人殺しをするような奴に、俺様達が負けるわけがない。」
「ウフフ、そういうことです。タツミさんを殺そうとした報いは必ず受けていただきますよ……!」
これがFOX小隊がテロリストならまだ人殺しもギリギリ理解できるけど、彼女達は元々SRTに所属していた秩序を守って悪を取り締まる側の人間だったはず。
七度の目を見るにこれは彼女達の望んだ行動ではないんだろうけど……理由はどうあれ人を平気で殺そうとするような奴に負けてたまるかってんだ。
「……随分と大きな口を叩くんだな。」
「ウフフ♡恋愛などせず堅苦しい仕事ばかりの貴方には一生理解出来ないことですよ♡」
「……フン。まさか貴様が男にうつつを抜かす様な輩になるとは思わなかったが……貴様も女と言う事か。」
「ふふ、そういうことですね。」
「……ふざけるなよ。男にうつつを抜かすような奴に私達が負けるわけがないだろう。」
「あら、なら試してみますか?」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらそう言う七度に対して、ワカモは挑発するようにそう言い放つ。
そして互いに睨み合い、お互いの緊張がピークに達しようとしていた……その時だった。
「……はぁ。相変わらず威勢がいいわねぇ。」
突如、その場に聞き覚えのない声が響き渡った。
反射的にその声がした方に視線をやると、そこには自分の背丈ほどの大盾を抱えながら右手にサブマシンガンを構えた金髪の狐耳を生やした生徒がこちらへ歩み寄ってくるのが見える。
見た所、彼女の身につけているアーマーなどの防具類は七度のものと同じように見える……恐らく、FOX小隊の隊員だと見て間違いないだろうな。
盾を持っているということは恐らくポジションはポイントマン……つまり、最前線を張る人物という事だ。
それは同時に俺様と真っ先に衝突するポジションでもあるわけで……注意しておくに越したことはないだろう。
そう考えていると、盾を持った金髪の狐耳を携えた彼女は綺麗な金色の髪をなびかせながら七度の隣へと並び立つとこちらへ手にしたサブマシンガンを向けてくる。
「久しぶりね、災厄の狐。」
「……えぇ、お久しぶりですね。FOX小隊のポイントマンさん。」
そしてワカモに対して歯を見せながら笑ってそう言うとワカモから発せられる殺気が更に大きくなる。
(……やはりポイントマンか。)
SRTの特殊部隊のポイントマンと言えば空井の事を思い出すけど、奴も基礎技術や格闘術は相当のものだったけど経験の浅さからくる脆さは確実にあった。
けど、目の前のあの金髪の生徒の隙のない立ち回り……こりゃ相当強敵と見ていいだろうな。
「……遅いぞ、FOX3。」
「ちょっと合流に手間取ってね。悪かったわ。FOX2もまもなく合流するわ。」
「そうか、ならいい。FOX4、お前はそのまま遠くから援護を頼む。」
『はいはーい。FOX4、了解したよ。』
七度が胸元のトランシーバーに向かってそう言うと、トランシーバーからはノイズ混じりののんびりとした声とともにそんな言葉が聞こえてきた。
どうやら七度とのやり取りを考慮するにこのFOX4と言う奴が俺様を狙ってきたスナイパーだと言うことで間違いないだろうな。
20mm弾を容赦なく俺様にブチ込んでくる胆力の強さや気配の消し方的にこいつもただものではないが、とは言え気配の消し方は霞沢の方が上なのは間違いない。
よく気を張っていればどこから狙撃してくるかくらいは掴めるし、近接戦中も気を抜かないようにしておこう。
「で、あんたが噂の丹花タツミってわけね。」
そう考えていると、突然FOX小隊のポイントマンを務める金髪の生徒からそう声を掛けられる。
「……どう噂なのかは分からないけど、その通りだ。」
「その立ち振舞いと言い隙のなさといい……相当な実力者……なるほど、情報に狂いは無かったってわけね。」
FOX小隊のポイントマンはそう言ってふっと笑みを浮かべると、頭に載せたゴーグルを装着しながら俺様に向かって好戦的な笑みを隠そうともせずにぶつけてくる。
その表情からはこちらに対する殺意と言うよりは、強敵と戦える喜びや感情の昂りのようなものを感じた。
それにしても情報に狂いは無かったって言ってるけど、彼女の口ぶりからしてどうやらどこかから俺様に対する情報を仕入れている……と見て間違いないだろうな。
SRTは元々連邦生徒会長の管轄下にあった部隊だから自然に考えれば連邦生徒会だけど、SRTの事を危険視しているメンバーからそんな情報が漏れるとは考えにくい。
それに七神代行や岩櫃調停室長もSRTの解体にはやや反対ながらもその武力はかなり危険だとしているから、やはり彼女達からの物である可能性も低いだろう。
だから、可能性があるとすれば連邦生徒会の中にSRTの復権をチラつかせながらこいつらを裏で操っているいわゆる黒幕……と考えるのが普通だろうな。
「その盾、いい盾ね。よく整備されているわ。」
「そりゃ俺様の相棒だからな。こいつには何度も何度も助けられた。整備だって欠かした事はないさ。」
俺様は構えた盾を拳で軽くコンコンと叩きながら、彼女へ向けて負けじと不敵な笑みを浮かべて見せる。
この盾は今も言った通り、ブークリエと並ぶ文字通り俺様の相棒と呼べる存在に他ならない。
折りたたみ式だから持ち運ぶのにも苦労せず、軽量な素材でできているから軽くて扱いやすい。
にも関わらずどれだけ敵の銃撃や格闘術を受けてもビクともしない頑丈さ、今まで俺様がどれだけこいつに命を救われてきたかなんて数えるのも億劫になるほどだ。
この盾とブークリエは防弾チョッキと同じで羽沼議長からもらったものだけど、今ではすっかり自分の手足のように扱えるようになったことだしな。
「それに見た所武器はフルオートショットガン……なるほど、これは苦労しそうな相手だわ。」
「ハッ、なんだ。怖気づいたのか?」
「まさか。そんな扱いの難しい武器を扱える相手とやり合えるなんて、楽しみだと思っただけよ。」
そう言うと、金髪のポイントマンはにやりと笑った。
……なんか隊長の七度はともかく、こいつからも結構な戦闘狂の雰囲気を感じるんだけども。
「……タツミさん。彼女の近接戦の技術や盾の使い方、味方の守り方は一級品です。油断なさらぬよう。」
「おいおい俺様を誰だと思ってんだよ?言われなくても油断なんてしねぇし、そして負けるつもりもねぇよ。」
ワカモは俺様に近寄ってくるとこそこそとそう耳打ちをしてくるが、俺様はにやりと笑うとそう言葉を返す。
上等だ。近接戦の技術や盾の使い方、味方を守るって部分は俺様が戦場に立つに当たって前を張る以上は一番意識している部分でもあるからな。
そんな部分の技術の高い相手とやり合えるなんて、こっちとしても望む所だ。思う存分力をぶつけてやろう。
……こう思う辺り、俺様もすっかりキヴォトスに染まってしまったなぁと思わざるを得ないけどな。
「はいはいFOX3、強い相手と戦えて嬉しいのは分かるけどまずは落ち着いてね。」
そんな事を考えていると、またまたその場に聞き覚えのない声が響き渡った。
目の前の金髪の生徒を警戒しつつも反射的にそちらの方を向くと、ピンク髪の狐のケモミミを生やしたセーラー服の生徒がこちらへ向かって歩み寄って来ていた。
彼女も七度や金髪の生徒と同じ防具に身を包んでいることを見ると、FOX小隊の隊員と見ていいだろう。
「おまたせFOX1。」
「遅いぞ、何をしていたんだFOX2。」
「ちょっと周りに気づかれないような工作をね。ここで大きな音を立てて派手に暴れたら他の人達に勘付かれる可能性があるでしょ?その対策ってところかな。」
FOX2と呼ばれた生徒はそう言うと、七度の隣に並び立つと手にしたショットガンをゆっくりと構える。
しかし……話を聞く限りそいつはかなり厄介だな。
正直、ここはジャングルの中とは言えアビドスのみんなのいるヘリの墜落地点からそこまでは離れていない。
だから銃声を鳴らしたりすれば小鳥遊先輩辺りがもしかしたら気づいてくれるかもしれないと思っていたんだけど、対策をされた以上それは望みが薄いだろう。
……とは言え俺様やワカモの問題にイブキや先生、アビドスのみんなを巻き込んでしまうのは不本意だからな。
ある意味、これでこちらとしても懸念がなくなって思いっきり暴れられると考えれば悪くないかもしれない。
「さて……初めまして、丹花タツミくん。そして久しぶりだね、狐坂ワカモ……いや、災厄の狐。」
「……えぇ。お久しぶりです。」
「ワカモ、彼女は?」
「彼女はコードネームFOX2。FOX小隊の作戦参謀を担当しており、電磁戦やドローンを操縦しての分隊員の支援などを得意としていますわ。」
……なるほど、ポジション的にはオペレーターって所か。
SRTのオペレーターと言えば風倉の事を思い出すけど、まぁあいつはトリガーハッピーな気質のせいで月雪が死ぬほど指示を出すのに苦労している様子だったからな。
流石に目の前の彼女の柔らかな雰囲気的にも、3年生と言う経験を積んだ立場的にもそんな事をするとは思えないのでこいつは相当警戒しなければならないだろう。
支援職ってのは確かに目立たずに地味だけど、前線に立つ者として言わせてもらうと支援が無ければ俺様たちのような前衛は前を張り続ける事は不可能だ。
だから、ある意味では最前線を支援してくれる彼女達の存在は前衛より重要なことさえあるくらいだからな。
そんなポジションで、あのワカモに認められるほどの実力者……警戒しておくに越したことはない。
「それにしても……災厄の狐は随分と雰囲気が変わったみたいだね?前に会った時はそれこそ暴れ回るだけの抜き身のナイフみたいな感じだったのに……今は落ち着きさえ感じるくらいだよ。」
「ウフフ……私はもう前に貴方達と戦ったときの私ではありません。あれから色々なことを経験し、様々な感情を抱いてきたのですから。」
ニコニコした穏やかな表情を浮かべつつも鋭い視線でこちらを射抜いてくるピンク髪の生徒……もといFOX2に対して、くすくすと笑いながらそう言葉を返すワカモ。
「ふふ、色々なことか……たとえば、そこの丹花タツミくんとの昨日の一夜みたいな?」
「なっ……!?」
そんなワカモとFOX2を見ていると、突然目の前のFOX2からそんな爆弾発言が飛び出してきた。
「な、何を言ってんだ……!?」
「とぼけても無駄だよ丹花タツミくん。昨日の貴方達の行為はしっかりと記録させてもらっているからね。」
そう言って胸元からボイスレコーダーを取り出しつつ、FOX2は余裕の笑みを崩さずにそう言った。
……まずい。それは非常にマズイ。
と言うかまさか昨日のあの行為をこいつらに勘付かれているなんて思ってすら居なかった。
まぁあの時は俺様もワカモもお互いに夢中で理性が弾け飛んでいたから、気づかなかったのも仕方ないと言えば仕方ないかもしれないが……とにかくこいつはマズい。
俺様は今は代理とは言え、ゲヘナの議長の座を預かっている身だ。
そんな責任ある立場の奴が、災厄の狐なんて言うキヴォトスでもトップクラスに凶悪なテロリストと体を重ねていたなんてことになれば追求は免れないだろう。
まぁ、元はと言えば我慢できなかった俺様が100%悪いのだからあまり強く言うことは出来ないだろうが……
……まぁ、俺様としては公表されたとしても構わないとは思っている。
何故なら、テロリストとは言えワカモは1人の女の子。
そんな女の子と体を重ねたにも関わらず、それをコソコソと隠して生きていくなんて不誠実極まりないからだ。
それに俺様はワカモから気持ちもぶつけられているし、それに対しての返事だってしなければならない。
責任を取るという意味でも、ワカモに対しての謝罪という意味でも公表されて俺様がボロカスに叩かれるだけであれば構わない。……そう、俺様だけであれば。
前世でもそうだったけど、普通は男女がそういう関係になったとしてもそれを公表することは皆無に近い。
そりゃそうだろう。いくら互いに好いていたとしても体を重ねたことを他人に報告する必要なんてないし、むしろ当人たちだけの秘密にしておきたいはずだからな。
ワカモのプライベートを守るという意味でも、このことを大っぴらにするわけには行かない。
いくらテロリストとは言え、そんなのはあんまりだ。
それに、俺様は羽沼議長から一時的に議長の座を託されている立場だ。
ただでさえ万魔殿はエデン条約のあの一件から風当たりが強くて、今は信頼の回復に努めている時期。
そんな時期にこんなことが公になったら……今度こそ万魔殿の信頼は地に落ちてしまうだろう。
分かっている、元はと言えば俺様が悪いってことは。
だからこの懸念だって、究極の自分本位で自分勝手なワガママだってのも理解しているつもりだ。
けど、羽沼議長が戻って来る席を守り抜くと彼女と誓った以上は……どんな手を使ってでも、その席は守り抜かなければならないんだ。
「本当なこんな男女の色恋沙汰を武器にはしたくないんだけど……これ、バラされるとマズいよね?」
そう言ってボイスレコーダーを目の前でゆらゆらと揺らしながら、こちらの様子をうかがうような形でそう言葉を投げかけてくるFOX2。
そしてその隣の七度は少しだけ顔を赤く染めておりFOX3に至っては顔を真赤にしてこちらから視線をそらしていた。……全く、恥ずかしいなら脅しに使うんじゃねぇよ。
「おいおい、人の部屋を覗き見するなんていい趣味をしてるじゃねぇか。それが特殊部隊のやることか?」
「詳しくは言えないけど、私達もなりふりかまっては居られないからね。」
「……そうかよ。」
俺様は肩をすくめながらそう言うが、そんなものは意に介さないと言ったような様子でFOX2はそう言った。
「それより否定はしないんだね?別にこの記録が捏造だって言い張ることも可能だと思うんだけど。」
「否定するも何も事実だからな。そのことだけは否定しちゃいけないし、否定するわけには行かない。自分がした事の責任から逃げるなんてことはごめんだからな。」
「……そっか。真面目なんだね。」
「そいつはどうも。」
……さて、余裕ぶってはみたもののこのことを世間に公表されたらマズいのは間違いない事実ではあるわけで。
「……ウフフ、ウフフフフ……」
どうしたものかと頭を抱えていると、俺様の隣に居るワカモからそんな笑い声が聞こえてきた。
だがその笑い声は普段の彼女から聞こえてくるような愉快そうなものではなく、この場にいる全員の背筋を凍らせてしまうような冷たい威圧感に満ちたものだった。
「……っ!?」
「お、おいワカモ……?」
「ウフフフフ……昨日のタツミさんとのあの愛おしい時間を覗き見していただけではなく、あまつさえ2人だけの大切な時間を記録して脅しの道具に使うなど……」
そう言うと、ゆらゆらと体を揺らしながらワカモは一歩前へ出ると……狐面の下で、ゆっくりと口を開いた。
「貴方達全員、死にたいようですね……?」
何度も大変申し訳ないのですが
次回の投稿も4日後にさせて頂いてもよろしいでしょうか……
言い訳をするわけではないのですが、ちょっとリアルのほうがバタバタしていて中々執筆の時間が確保しづらい現状があります
2日間隔だとどうしても急ぎ足になってしまってクオリティの低下が避けられないので、少しお時間をもらえると助かります
もちろん無理しては元も子もないので、作者自身も楽しんで執筆していけたらと思っています
楽しみにしてくれる読者の皆様をお待たせするのは大変申し訳ないですが、どうぞご了承頂けますと幸いです