「エリザベス、来てくださいませ。」
「
「相変わらずうるさいですわね。」
せいかお姉さんがエリザベスという名前を口にした瞬間、首に赤いリボンを蝶結びにして巻いている焦げ茶色のガチョウが現れ、とてもうるさい鳴き声と共に気位が高そうな女性の声で話し出す。
こんなに鳴き声がうるさいとそれが邪魔して会話の内容が聞き取れなさそうなのに、なぜか両方の声が同時に聞こえていた。
言う通りにせいかお姉さんがガチョウの頭に唇を寄せると、全身が光って魔法少女になった。ガチョウのエリザベスさんは消えた。
「待たせてしまったかしら。」
別に、と返すとせいかお姉さんはレテに向かって微笑んだ。
魔法少女になったせいかお姉さんは、シスター服を身に纏い、その金色の髪と同じ色の星を繋いだネックレスを首にかけている。右手には天秤ばかりをもっていて、卵を細長く引き伸ばしたような形の葉っぱと薄いオレンジ色をした丸い実を持っている木の枝がその天秤の支柱を担っているようだ。
「では行きましょうか、レテさん私の手に捕まってくださいまし。」
せいかお姉さんが天秤を持っていない方の手、つまり左手をレテの方に差し出す。それを掴むと、身体が少し床から浮いく。
そのまま車内から飛び出し、新幹線の先頭のその先でのたうち回る太く黒い棒状の物体のすぐ近くまで移動した。これが新幹線を停止させた魔物か。
「見て!魔法少女だわ!」
「あの魔法少女はヴィスクムだ!」
「これで安心して逃げれる……」
「なんかちっちゃい子もいないか?」
「がんばってー!ヴィスクム!」
隣の線路から逃げ出している他の乗客達の声が聞こえる。せいかお姉さんはファンサービスなのかそちらに向かって手を振った。
「元から知っている魔法少女に声援が偏るのは理解できますが、レテに言及する方がほぼ居ないのは少々納得しかねます。」
しれっと現れたコトイリが乗客の人達に文句をつける。
「みんなレテのこと知らないんだから当然でしょ……」
昨日やっつけた魔物と同じように対処しようとして、日傘にレテの欠片を込めるけど上手くいかない。量が足りないみたいで、無理矢理絞り出そうとするとレテが消えてしまいそうだ。
これでは魔法は使えない。
「昨日は使えたのに……」
そう愚痴をこぼすと、せいかお姉さんが魔法を使えない理由を教えてくれた。
「ここはエネルギー濃度が薄いので、本部周辺程楽には魔法が使えませんのよ。それに──
せいかお姉さんの言葉を遮るように黒板を引っ掻いたような音が大きくなり、魔物がこっちに向かって身体を伸ばす。
「っ!『
せいかお姉さんの天秤が左手側に傾いたかと思うと、すぐに釣り合い、右手側の皿に天秤の支柱を構成している枝を二倍くらい大きくしたものが一本乗る。
せいかお姉さんはそれを手に取り、目の前に迫る魔物の口の上側に突き刺す。
すると、突き刺さっている枝を中心に、そのヤツメウナギのような姿をした魔物の身体の一部が消え去る。そのせいで、バランスを崩したのかこっちに伸ばしていた身体が地面にビタンッと音を立てて落ちた。
「ちょっと……いえ、かなり油断していましたわ。新人のせっかくの初陣だというのに引退してしまうところでしたわ。」
せいかお姉さんは息を吐きながら腕で額を拭う。
「せいかお姉さん、レテはどうしたらいいの」
「あぁ、話の途中でしたわね。ちょっと待っててくださいな、『
さっきと同じ様に天秤が傾き、今度は天秤の支柱と同じくらいの大きさの枝が五本現れ、それを上から魔物に投げる。すると消え去りはしないものの、刺さったところの身体が半透明になる。
「さて、このように魔物の身体を消して行っ「あ、それはもう私がレテに説明しました」のが、え?」
「確かに昨日コトイリから聞いた」
魔物の発生の原因となった核を見つけて、その周りの魔物の身体を取り除いて核を奪うのが、基本の魔物の倒し方だという話だった。
「そうでしたの……えーと、では、エネルギーを節約しながら魔物を倒す方法について教えますわね。」
「はーい」
「魔法少女となったなら誰しも自然と大技を使えるようになりますわ。レテさんがさっき使おうとしたのもそれでございましょう?しかし、その大技はエネルギー使用量が多い。」
「ですからこのように大技から派生させた小技を作り出すのですわ。」
『
「魔法少女の魔法は質量系と消去系、大きくその二つに分けられますわ。
また声と共に天秤が傾く。
「このようにっ、消去系はっ、魔法による産物を介してっ、魔物が持つっ、エネルギーをっ、取り除くことができますのっ。」
六本の枝がもうほぼ動いていない魔物に根を張って、エネルギーを吸収する。半透明になった魔物のしっぽの方、頭と違って口が無いし細いのでしっぽに違いない、には透明なビーズが連なったブレスレットが見える。あれが核だろう。
せいかお姉さんが魔物に向けて降下する。繋がっているレテも勿論一緒に下に降りていく。ついでにコトイリも同じ速度でついてきている。
「こんな死に体でも魔物の身体が残っていたら核に手を出すのは難しいのですわ。レテさん、どうぞ。」
この魔物にとどめを刺す役割をせいかお姉さんは私に譲るようだ。昨日と同じ魔法を使うつもりで込めたレテの欠片を回収して、効果が僅かでも発動するように意識する。
「抜けて、『
日傘を水を切るように振ると、少量の水が魔物のしっぽ部分にかかって、肉が抉り取られる。半透明の魔物の身体から半分だけ身を露わにしたブレスレットは、魔物を通して見た時とは違い、どこかで見たような薄桃色をしていた。
それを引き抜こうと、近づく──
「レテ!待って下さい!」
レテとブレスレットの間にもふもふしたコトイリの身体が挟まる。コトイリはブレスレットを抱え込んで、手に取ると、色が薄桃から透明へと変わった。
そしてその瞬間、半透明の魔物の身体が薄桃色に輝き、一回り大きくなる。
頭と同じくらいの大きさになったしっぽがレテに飛び掛かってきた。