流れる景色を背景にしてよく寝ている新しい後輩を眺める。
波打つような黒い髪は肩まで垂らされ、丸く黒い大きな目は今は閉じられている。昨日のものと色違いの白いワンピースがよく似合う小さな──本当に小さな魔法少女だ。
「はぁ……」
思わず宙を仰ぎ、ため息を吐く。後輩の彼女、レテさんは高めに見積もっても小学二年生にしか見えない。小学校に入っていない、と聞かされても
なぜこんなにも小さい子が魔法少女になっているのか、レテさんの親御さんはどうしているのか。
再度隣のレテさんを見る。ワンピースに流れるエネルギーは彼女が間違いなく魔法少女であることを感じさせるものだ。彼女はずっと、着ているもの全てにエネルギーを纏わせ続けている。
そのエネルギーは何に使われているのか。強化?付与?……それとも維持?
そこまで考え、首を振って最後の思いつきを否定する。もしこの服に流れるエネルギーが魔法で生成した物体の維持に使われているというのなら、彼女は実質裸ではないか。さすがに幼い彼女にも羞恥心というものぐらいあるだろう。
まさか、本当に小学生以下の幼女というわけでもないだろう。
「いえ、あり得るのでしたわね……」
普通魔法少女は12-18歳の女の子がマスコットと契約してなるものだ。その過程は今では政府に管理されており、魔法少女となるには様々な手続きを行ってマスコットを用意してもらう必要がある。
しかし、異次元生命体との契約ではその諸手続きは必要ない。それは滅多にないことだからだ。何やら狙って起こせるようなものではない条件が絡んでいるのだとか。
その条件は秘匿されているが、まことしやかに囁かれている噂がある。
曰く、異次元生命体に殺されたらなれるのだと。
「そんな訳無いでしょ……」
自分を殺した者と契約したいなんて思う子はいない。そもそも異次元生命体が他者に対する殺傷能力を持つのなら、すでに世界から魔物は消えているだろう。
彼らは生物には何も出来ない。だからこそ
しかしそれでも噂を信じる
そしてそういう人達はなぜか大抵異次元生命体ではなく、彼らの理論では被害者であるはずの魔法少女の方を攻撃するのだ。
『悲しいことに私達の力では憎き異次元生命体の奴らを排除できない。だから、せめて魔法少女だけは奴らの支配下から解放してやろう。それが私達にしてあげられる唯一の事だ。』
かつてある魔法少女を襲った馬鹿の言い分だ。その子は平均よりも身長が低く確かに小学生程度に見えただろうけど、マスコットと契約していた子だった。
咄嗟に担当のマスコットが魔法少女化させたことで彼女は無傷だったけど、守るべき民間人に襲われたことに加え、その民間人を手引きしていたのが彼女と同室の後輩だったことも原因だろうか。彼女は魔法少女を辞めた。
小学生にすら見えない上、本当に異次元生命体と契約しているレテさんはどうなってしまうのか。
新幹線が停車した。聞こえる車内放送は次の駅が目的地であることを告げている。この駅から名古屋までは十分程しかかからないことを考えれば、そろそろレテさんを起こした方がいいだろう。
「レテさ──っ!」
突然目の前にレテさんと契約しているという異次元生命体、コトイリが現れる。翼を口元に寄せて、兎の頭を左右に振り続ける
……起こすな、ということだろうか。いや残り十分しかないのですけど。
再度声をかけようとすると、翼でレテの耳を塞いだ。
「はぁ……分かりましたわ。名古屋に着いてから起こすことにしますわ。さ、他の人達に見られないよう早く消えてくださいまし。」
目を丸くし首を傾けるなど不思議そうな様子を見せた後、納得したのか片方の翼を地面と平行にし、もう片方の翼と打ち合わせてから消えた。
全く、他の新幹線に乗っている方々に見られたらどうするつもりだったのか。魔法を使って
「過保護とはこのようなことを言うのでしょうか……」
レテさんに対して過保護な行動を取り続けるこの異次元生命体はかなり不審だ。正直本当にレテさんと契約しているかも怪しい。
まず、コトイリとレテさんの間のエネルギーを供給する繋がりがかなり弱く見える。なのにレテさんが保有しているエネルギーはかなり多い。これはおそらく何らかの方法で繋がりを偽装しているのだろうと予想される。
それに、ほぼずっとレテさんの側で姿を現しているのも怪しい。異次元生命体にとって、エネルギーの薄いこちらでの身体の維持はかなりの高等技術らしく、疲れるのでと姿を現すことを避ける傾向にある。
過保護だから、というのならまだいい。もし──監視のためだったら?
最近、魔物の発生予測にぶれが多い。異次元協会、異次元エネルギーの本来の姿は魔物であり異次元エネルギーから生まれた我らは魔物の侵略を支援すべきだと
そいつらがこの件に絡んでるのではないか、というのが協会長の見立て。
魔法少女を女の子の憧れと言い切ったレテさん。
あの異次元生命体、コトイリは魔法少女契約を餌にして純粋な彼女を従わせ何かを企んでる──というのは
「……はぁ」
レテさんに過保護な対応をする今のコトイリさんは、不審であっても味方ではあると信じられる。
「願わくば、この幼い魔法少女とその使い魔の絆が本物であることを。」
祈って
『お知らせいたします。只今、線路上に魔物の出現が確認されました。案内に従いお逃げ下さい。繰り返します。只今、線路上に魔物の出現が確認されました。案内に従いお逃げ下さい。』
周りの人々がにわかに騒ぎ出す。出現予測時間よりもかなり早い魔物の出現だ。
「幸先悪いことこの上ないですわ!」
とりあえず、この喧騒の中ぐっすり寝ている後輩を起こさなければ。