ぐっすり寝ている後輩を揺り動かす。が、起きる気配は全くない。
声をかける。
「レテさん、レテさん、起きてくださいまし。」
ピッタリと閉じられたまぶたは一ミリも動かない。
「レテさん!魔物が出てきましたわよ!」
「…………ん」
耳元で叫ぶとやっと動きを見せる。でもまだ起きてはいない。
「レテさん!レテさん!起きて下さいまし!」
今度は肩を持って前後に振りながら叫ぶ。やっと彼女は目を開け、
目を覚ました彼女に状況説明を行い変身させ、
「待たせてしまったかしら。」
振り返り、レテさんの魔法少女としての姿を観察する。
泡が不規則に浮かび上がる薄青のサマードレス、白いレースで飾り付けられたドレスと同色のボンネット、右手にはコンビニでよく売っているビニール傘を上品にしたようなものを抱えている。
特徴的なのは彼女を全体的に覆っている白いもやだろうか。手足の部分のもやは特に濃く、輪郭程度しか分からない。
そして、エネルギーの大半がそのもやの中に入り混じっている。
「別に、そんなに待ってない」
「それは良かったですわ。」
彼女に手を差し出す。
「では行きましょうか、レテさん私の手に捕まってくださいまし。」
この車両の出口まで歩き、そこから一気に飛翔して魔物の上まで移動する。
レテさんがいつの間にか現れていたコトイリとの会話に意識を割いている内に、こっそり手を離すと、彼女は落ちること無くそのまま浮き続ける。
やっぱり、エネルギーの扱いが上手い。使いづらい変身前でもエネルギーを服に通していただけはある。
急に、彼女の纏っているもやに含まれているエネルギーが減少し、傘に集まる。込められたエネルギーの量に応じて傘が緑に色付いていき、一気に色が無くなる。エネルギー不足のようだ。
エネルギーの使い方からして、彼女の魔法は消去系だろう。良かった、
魔物は出現時間はズレたものの、それ以外の形や強さなどは予測と指して変わらない。後輩の教材として丁度良い。
教えることを整理しつつ、戸惑うレテさんに魔法が発動出来なかった理由を伝える。その途中、目の端にこちらへと長い胴体を伸ばし、大口を上げている魔物が見えた。
「っ!『
天秤に多めにエネルギーを注ぎ、ヤドリギの枝を生成して刺す。枝が魔物を構成するエネルギーを吸収して、
額の汗を拭う。後輩に情けないところを見せてしまった……。
気を取り直し、レテさんへ説明を続けつつ、同じ状況にならないよう適度に弱らせ、瀕死寸前まで持っていく。止めは……レテさんに刺してもらおうか。
レテさんに目配せをして、下に降りる。魔物の前まで連れて行き、魔法を使うよう促す。
「抜けて、『
無事教えたことを使って魔法を発動させた。魔物の身体が削られ、核が露出する。レテさんがそれを手に取ろうとすると──
「レテ!待って下さい!」
焦った声を伴ったコトイリがそれを阻んだ。コトイリが核を翼で掬い上げるようにして持つと、核からエネルギーと共に薄桃色の光が放たれ、それが魔物へと移動した。
魔物が薄桃色に輝きながら動き出し、レテさんを狙う。
「『
エネルギーを消費し、魔物の動きを止め、レテさんの手を引いて宙に避難する。コトイリも付いて来る。
「そのブレスレットをあなたが手にしてからあの魔物の様子がおかしくなりましたわね。……何か、弁明はありますか、コトイリさん。」
答えは……なかった。
「『
エネルギーを注ぎ、この異次元生命体が保有しているエネルギー量よりも僅かに少ないぐらいのエネルギーを吸収できる枝を作り出し、構える。
枝を見て、レテさんは異次元生命体に説得を仕掛ける。が、返事はそっけない。それどころか、私に挑発まで行ってくる。
「……こんなのに?まぁ、あの異次元エネルギー体には効くでしょうけど。」
そうですか、なら問題ありませんわよね。
腕を振りかぶる──
バシッ
枝が落とされる。
「レテさん?別に死にはしませんわよ、ちょっと動けなくなるだけですわ。」
レテさんは異次元生命体の前から動かない。……あまり、同じ魔法少女と戦いたく無いのですが、仕方ありませんか。
「説明、説明ですか。」
「そうですね────このブレスレットはあの異次元エネルギー体の核ですが、魔法少女でもあるようです。これ自体が指向性を含んだ異次元エネルギーを纏っていたようですね。レテがそのまま触ってたら異次元エネルギー体になってたんじゃないでしょうか。」
……コトイリさんが一息でやけに詳しい説明をまくし立てる。もしかして、敵であることが分かってしまうから答えなかったのではなく、思考に没頭していただけ?
コトイリさんの発言は、本当ならば、一応というか十分にレテさんの行動を止めた理由になる。真偽の判定は協会長に任せれば大丈夫だろう。
気になるところを問えば、直ぐに答えが返ってくる。初めからこうしていて欲しかった……本当に。
「レテに分かるように言うと、あの魔物は傘で叩きまくって痛め付ければ死にます。」
「ありがと、とても分かりやすい」
「あ、レテさん、待って」
静止が聞こえなかったのか、下に落下して、魔物に近付いていく。落下死とか考えないのか。
心配する
「レテなら大丈夫です。」
これまでの過保護はどこにいったのやら、心配する様子が一欠片もない。
「……ずいぶんと信頼しているのですわね、レテさんのこと。」
「当然です。レテは、私よりもずっと強いのですよ。」
そう言って、器用に兎の顔でドヤ顔をする。
「ふふっ」
笑いが零れる。この怪しい使い魔は、周りが全く見えていないだけで、悪いことを企んでいたりする訳では無いのだろう。きっと、過保護の演技なんて出来ないぐらい不器用だ。
下から打撲音が聞こえる。
ああ言われたものの、さすがに心配になって下をみるとそこにはエネルギーで強化したのだろう傘で魔物を叩く後輩がいた。
「えぇ……」
もっと魔法とか使わないのか。後輩の一人で、レテさんと同部屋でもある大神さんの顔が自然と浮かんでくる。彼女もあまり魔法を使わずに戦う、脳筋と呼ばれる戦闘スタイルだ。
「同部屋の方々は似るのかしら。……『
生成した枝で、レテさんの背後から迫る魔物のしっぽを狙って、突き刺す。魔物は消滅した。
「気付いていたようですし、お節介だったかしら。」
レテさんを迎えに行こうとすると、スマホが着メロを流し出した。
直ぐに取り出す。
「どなたでしょう。」
『魔法少女協会本部の姉小路よ……浦西さんね、いい、落ち着いて聞いて。滋賀に出現した魔物に対応した