彼女は単なる魔法少女   作:うさぎ最高

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お昼はヌン茶

 アフタヌーンティー、それは遅い夕食の前の腹ごしらえとしてイギリスのとある夫人が考え出した、午後四時〜五時頃に紅茶と共に軽食や菓子を喫食(きっしょく)する茶会である、らしい。

 ちなみに今は一時過ぎ。

 

「せいかお姉さん、アフタヌーンティーにはまだ早いよ」

「午後ではあるから問題ありませんわ。」

「そうかな……そうかも……」

 

 テーブルを挟んで向かい側に座っているせいかお姉さんが、強い口調を以てして断言する。

 

「昼ご飯として食すのならば、それはもうアフタヌーンティーではなく昼ご飯なのではないでしょうか。」

「お黙りなさい。お店の付けた商品名がヌン茶ならそれはもうヌン茶なのですわ。」

 

 コトイリが疑問を呈するが、それもすぐに打ち落とされる。そこには確かなアフタヌーンティー……いや、ヌン茶に対する()があった。

 

「アフタヌーンティーの略称はアフヌンではないのですか?」

「コトイリ、もう止めよう。紅茶を嗜みもしていないレテ達じゃ、せいかお姉さんの愛には勝てない。」

「レテ……」

 

 コトイリもせいかお姉さんのヌン茶への愛を感じとったのか、天を眺め目を細め小刻みに震えながら何事かを呟く。

 

「あら、やって来ましたわ。」

 

 リボンで飾られたティースタンド、透明なティーポット、白地に青い蔦が描かれたソーサーの上には同じような装飾のカップが乗せられている。

 店員さんはそれらを二つずつ運んできた。

 紅茶は選べたので、レテはダージリンというやつを頼んでいる。せいかお姉さんはロイヤルミルクティーを選んだらしい。 

 

「……うさぎが載ってる!」

 

 ティースタンドの最上段には、丸くなって寝ている兎を象ったお菓子とブルーベリーのタルト、それに透明なカップに注がれた二層構造のゼリーが置かれている。中段には四角くカットされたケーキが一切れに、スコーンが二つ。下段はサンドイッチと多分キッシュそれと魚の切り身が乗っけられた丸いクラッカー。

 

「メニューに依ると、マカロンらしいですわ。」

「メニューなんてあるんだ」

「ええ、ありますわよ。どうぞ。」

 

 高級なレシートのようなものを渡される。見てみると、謎のカタカナの文字列が(おど)っていた。

 分かったのは下段のクラッカーの上にある魚が鮭であるということだけ。

 

「コトイリ、このヴェリーヌって何か分かる?」

「分かりません。」

 

 即答だった。

 

 せいかお姉さんがくすくすと笑いながら答える。

 

「レテさん、こういうのは雰囲気を楽しむものですわよ。正直(わたくし)もそこに書かれている料理名の半分ぐらいしか分かりませんことよ。」

「ふーん」

 

 このメニューは、見て味を想像するものではなく高級感を高める演出道具らしい。

 キッシュを手にとって口に含む。

 チーズがよく効いてて美味しい。ベーコンから感じる塩気も丁度良く、ナッツの苦味が他を引き立てる。

 

「美味しい」

「そうでしょう。」

 

 そう言うせいかお姉さんはロイヤルミルクティーを飲みながら、上段のゼリーを付属の小さな金属のスプーンで口に運んでいる。

 

「レテが満足そうで何よりです。ところで、合流する魔法少女はどのような方なのでしょうか、浦西星華。」

 

 せいかお姉さんのスプーンを動かす手が止まった。

 

「レテは他の人が合流するって聞いてないよ」

「……コトイリさんはなぜそれを知っているの。」

「あの異次元エネルギー体を倒した時、電話で伝えられていたではないですか。空にいたのでレテはご存知でないでしょうけど。……ああ、浦西星華、あの程度の音量なら普通に聞こえますよ。」

「そうなのですね。」

 

 沈黙。レテの中段のケーキを食べる音がやけに大きく響く。ティースタンドの食べ物が載せられている段は取り外せるようになっているため、ケーキをフォークで切るのはそれ程難しくはなかった。

 服を選んでいる時もそうだったけど、せいかお姉さんとコトイリは馬が合わないようで、よく会話が止まる。

 

「せいかお姉さん、どんな人が来るの」

 

 せいかお姉さんが、こっちを見る。何となく膝の上のコトイリを撫でる。ふわふわだ。

 

「えっと、そうですわね。強い人ですわ。」

 

 せいかお姉さんが一口ミルクティーを飲んで、下段の鮭乗せクラッカーを齧る。レテもケーキの最後の一口を口に入れる。せいかお姉さんは黙っている。

 

 ……それだけ?

 

「それだけしか言うことがないのですか?」

 

 コトイリも同じことを思ったのか、言外にもっと言うことがあるだろうという言葉を含ませて圧をかける。

 

「……実を言いますと、あまり交流がないんですの。一緒に仕事をすることがなくって。ほら、それで十分だとはいえ魔法少女って少ないでしょう。だから後輩の育成や補助系の魔法少女でなければ、魔法少女は単独行動が基本ですのよ。」

「へー」

 

 スコーンを割る。添えられた三つの枠がある白い皿には、右から順に白っぽいバター、青い多分ブルーベリーなジャム、マーマレードの類だ。

 ナイフでマーマレードをのせてかぶり付く。外はカリッと中はふわっと。たっぷりのバターとマーマレードの酸っぱさの相性は抜群だ。

 

「レテさん、スコーンはそこのクロテッドクリームをのせてからジャムをのせた方が美味しいですわよ。」

「わかった、試してみる。この白っぽいバターみたいなやつだよね」

 

 せいかお姉さんが頷く。

 白っぽいバター改めクロテッドクリームをナイフで取ってのせる。今度はブルーベリージャムをその上に加えた。

 

「滋賀の異次元エネルギー体は魔法少女二人を引退させたようですが、何か情報とかはあるのでしょうか。私は通信を最後までは聞いていませんから、そこまで把握していないのですよ。」

 

 せいかお姉さんが咳き込んだ。

 

「あなたどこで──いえ、聞こえていたのでしたわね。」  

「その魔物は魔法少女を殺したんだ」

 

 スコーンを齧る。少し欠片をこぼしてしまった。せいかお姉さんは喉を抑えて、呼吸を整える。

 

「幸い死んだ訳では無いようですの。無事にマスコットと引き換えに逃げられたようなので、引退というのが正しいですわね。びっくりするので今後はちゃんと使い分けてくださいまし。」

「わかった」

 

 紅茶を飲む。ジャムとクリームがのっていても、スコーンは喉をよく乾かせる。二個目のスコーンに手を伸ばした。

 

「大豊さんに樋口さん。彼女達が引退してしまったのは場所が悪かったのがあるでしょうね。何せ琵琶湖の上ですもの……。」

「琵琶湖、確かに水の上って戦いにくそう」

 

 クロテッドクリームは甘さのないアイスクリームのようで、口を滑らかにしてくれる。ジャムも心なしかのせやすい気がする。潤滑油の役割というやつだ。

 

「水性生物を模した異次元エネルギー体ですか。」

「生き物というよりは無機物に寄っているらしいわ。核は海水浴をしにきた人の落し物なんじゃないかって。」

 

 二個目のスコーンも食べ終わった。塩っぱいものが欲しくなって、下段のサンドイッチに手を伸ばす。

 

「核と魔物の形に関係あるの?」

 

 疑問を口に出す。あのブレスレットとヤツメウナギのような魔物に関連性があるとは思えない。

 

「多少はね。」

「強い異次元エネルギー体程、核の形に似る傾向があります。先ほどの異次元エネルギー体もあのまま放置していたら頭と反対側の端が繋がって環状になったりしたのではないでしょうか。」

「ふーん」

 

 紅茶を飲んで、サンドイッチでパサついた口を潤す。キャベツとキュウリの漬け物とベーコンが具になっていたけど、パンの乾きには勝てなかったみたい。

 

 滋賀の魔物についての情報はあんまりない。引退した魔法少女達は気付けば湖に落とされていたので、慌てて湖から出ようとしたところをやられたらしく、攻撃の仕方とかそういうのは分からなかったそうだ。

 

 せいかお姉さんに、兎のマカロンとレテとコトイリの写真を撮ってもらう。マカロンはコトイリと半分こにして味わった。あんまり美味しくなかった。 

 

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