薬瓶が並べられ、ガーゼや湿布が保管されているステンレスの棚、パソコンと簡素な本立てに支えられたファイルが数冊乗っているデスク、それに付随する椅子。
それらと反対側の壁にくっつくように置かれている四つのベッドの間にはそれぞれ可動式の衝立てが、そこで人がゆっくり休めるようにと、設置されていた。
ここは魔法少女協会本部の保健室、引退した魔法少女が最初に見る場所だ。
今、四つのベッドの最も端にある、窓の近くにあるため唯一外を見渡せるそこには、ぼさぼさの長い黒髪を持つ少女が腰掛けていた。
少女は開け放たれた窓の先をぼんやりと見つめている。吹き込んできた風が彼女の腰まである髪を無造作に浮き上がらせては落としていた。
保健室の扉が大きく音を立てて横に移動する。少女はその音に驚き、肩を震わせた。リノリウムの床と扉を開けた何者かの靴が触れ合い、擦れ、音を鳴らす。
人影が、端のベッドの前で止まった。
「やぁ、気分はどうだい?
「最悪、で、す。協会長」
白衣を着た女でも男でも納得できる見た目をしたそれは、いっそ不気味なぐらいに明るい声で問い掛ける。
少女はその問い掛けに顔を窓に固定したまま答えた。
「聞き取り、なら、みっちゃんに、し、いて、してください。い。協会長。知って、知ってるで、しょう、わた、し、しは会話い、に、向かない。」
「もうしたよ。ただ、
「みっちゃ、んは、シ、シザーと、とても仲良かった、から。わたし、も、かなし、しい。……悲しい。クルトもシっ、ザーとももう話え、せない。使い魔達とは、もう二度と会、えない。」
「魔法少女とはそういうものだ。で、樋口弥羅が滋賀の魔物の核をとったというのは本当かい?」
窓の方を見ていた少女は大きく溜め息を吐き、協会長の方を向いた。
「本当、です。す。うな、少なくとも、わたい、しの見た限りえは、では。」
協会長の目が見開かれ、顔が輝く。手は何かを空中に書き、なぞるように動き出し、足は歓喜を示すようにうずうずと震えていた。
「ほう!それは面白い!やはり報告にあった他の核無しの魔物とは異なる動きをしている……その時の状況を詳しく説明してくれるかい?」
少女は控えめに頷く。
「あれは──」
◆◆◆
かいりお姉さんに核の無い魔物の倒し方を伝えたその時、空いていた上の穴からせいかお姉さんが降りてきた。その顔はどこか張り詰めている。
「皆さん、協会長から連絡が来ましたの。この魔物にも核が無いらしいですわ。それに──
「それはもうレテちゃん達から聞いたよ、浦西さん」
「まだお知らせがありますの。それも悪い知らせ、この下の琵琶湖の底にある魔力固定スポットを壊さないとこの魔物は倒せないらしいですわ。」
なるほど、と思った。
この中心部分に来るまでにレテもかいりお姉さんも、それにせいかお姉さんも魔物を攻撃していたのに、この魔物は衰える様子を一切見せていない。名古屋に出た魔物は身体が薄くなったりしていたのに。
その原因が、湖の底の魔力固定スポット。このサングラスの魔物はエネルギーの供給源があるから全然弱らなかった。
いや、でも、名古屋で倒した魔物の近くにも魔力固定スポットがあったはずでは……。
「ここの魔力固定スポットは手入れがされていないんですよ、レテ。何せ湖の底ですからね。」
レテの心を読んだかのように心中の疑問にコトイリが答える。もしかして顔に出ていたのかな。
「あー、そういや、海とか湖とか池とかは異次元エネルギー体が出にくいとかであんまり消されてなかったな。それが原因か。」
「ええ、ですから、それらを消して魔物をボコボコにすれば、倒せるだろうというのが協会長の言ですわ。」
「では、私はレテが魔力固定スポットを解いたら報告しますね。その方が手間が省けるでしょう。」
「いきなり何言ってるの、コトイリ」
私が向かう事を前提でコトイリが話し出すから、お姉さん達が凄い目でコトイリを見ている。元々良いようには見られていなかったけど、今は気狂いを見るような目だ。
「何かおかしいですか?今ここにいる魔法少女でその作業に最も適しているのはレテでしょう。あ、レテがちょっと呼吸をしないようにしてみたら分かるんじゃないでしょうか。」
「は?お前何言って──
「まぁ、コトイリがそれで落ち着くならやるけど」
かいりお姉さんが何故かレテにコトイリを見てるのと同じような目を向けてきたけど、気にせず
「で、これでいいの?コトイリ」
「えぇ、それなら遠藤灰李も浦西星華もレテが最適だと理解するのではないでしょうか。」
「あの……レテさん?」
「なに、せいかお姉さん」
せいかお姉さんの方を向くと、舐め回すようにレテの身体を見られた。少し気持ち悪い。
「……その目止めて」
両腕で腕をクロスさせるように身体を抱いて拒否を示すと、慌てて謝られた。
「レテさんの纏う霧のエネルギー構造が変わってる……まさか、本当に?」
その、せいかお姉さんの独り言にも近い言葉を聞いて、疑問に思う。
「むしろ呼吸を止めれないならどうやって湖の底まで行くつもりだったの」
「長い枝を作って魔物を避けつつ斜めから突き刺すつもりでしたわ。ただ、ここの底は深いので、
「私はなんも思いつかなかったな……強いて言うなら力技で魔物を消滅させれないか考えてたが」
「ね?レテが最適でしょう。」
「本当に息止められんならな、浦西さんとは違って私は信じられんよ」
かいりお姉さんはがしがしと頭を掻きながら、レテのことを疑う。
どう説得しようか悩んでいると、距離を詰めてきた。
「だが、まぁ、なんだ、それ以外の適当な策がないっぽいしな。苦しくなってきたら直ぐに戻るんだぞ、溺れんなよ」
……説得する必要はなかったみたいだ。
「うん、わかったよ。かいりお姉さん。行ってくるね」
「いってらっしゃい。
「うっわ、マジだ」
せいかお姉さんの言葉を聞いて、上を見上げると人を十人ぐらい詰めれそうな大きさだった穴は、二人ぐらいにまで縮まっていた。かいりお姉さんも見たみたいで、嫌そうに驚きの声をあげている。
「『
飛んでいく二人を目の端に捉えつつ、魔法を込めた日傘の石突を球の真下に突き刺した。