彼女は単なる魔法少女   作:うさぎ最高

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 加筆や内容の変更を行いました。 5/18


墓石だけじゃただの石 by 魔法少女ストゥーパ

差し込んだ日傘がじゅわりと色のついたレンズを溶けるように消していく。そのまま穴は広がって、レテ一人が通れるぐらいの大きさになった。穴の向こうは、黒い。

 

「突入!」

 

 ジャンプで勢いをつけて穴の中に入り込む。少し、水の抵抗を感じるが、沈むのに支障はない。

 見渡すと辺りにはサングラスのつるが下に向かって伸びている。心なしか林のようだ。襲ってはこないので、お姉さん達の方にかかりきりなのかもしれない。

 

 つるの林を抜けると、紺色の空間が広がった。底の方から生えているだろう海藻の先っぽがゆらゆらと揺れているのがうっすら見える。

 

 ……そういえば、魔力固定スポットはどこにあるのだろうか。

 

 どうせいるだろうと辺りを見渡すと、左側にやれやれとでも言うように腕を広げ首を左右に振るコトイリがいた。コトイリに魔力固定スポットはどこにあるのかと目で訴えかける。すると、等速直線運動でコトイリは下の方へ向かい出した。

 

 急いでコトイリを追いかける。湖の底まで落ちると、明らかな歪みが見えた。

 

 空間が引き伸ばされて膨らんでいるかのような、不自然な拡大。顔にできたニキビを思い出させる。

 コトイリが湖底の少し上の水中を蹴る。全てが薄ぼんやりして暗いここで何故かその鶏の黄色い足だけが街灯のように光って見える。

 

 示されたその場所にレテの欠片を打ち込む──

 

 ずさり、と重たい何かが広がる音がした。

 

 それは異次元の重なりが解消された音なのだろう。コトイリはお姉さん達へ連絡にいったのかいなくなっていた。

  

 戻るために日傘を開こうと、視線を下に向ける。口から泡が一つ吐き出された。

 

 ……湖の底が暗かったのはここに魔力固定スポットがあったからなのだろう、今は地上に比べて暗くはあるが大分明るくなり足下も薄っすら見える。大量の魚が。大漁だけに。もっともこんな魚は食べたくないが。

 

 腐ってもいない、死んですらいない。ただ動く、のたうつ。多種多様な魚が、時折地上に向けて伸び立つ海藻を生やしている湖底でただ蠢いている。

 

 魔物の仕業なのだろう。魔物は生き物を殺さない、ただその意思を奪っていく。そう聞いた。

 

 日傘を開いて水面を目指す。そんなわけないのに、靴底に踏みつけた魚の死体がこびり付いているような気がした。

 

 ◆◆◆

 

「レテさん、大丈夫かしら……。」

 

 ちらりと向けた視線の先にはぬいぐるみのように動かず浮遊しているコトイリさん。レテさんに魔力固定スポットの場所を教えてくると言ってから、ずっとあの様子だ。

 

「浦西さん!ヘルプ!」

「はいはい。」

 

 作り置きの枝を、黒いつるに向けて投げる。頭蓋骨の上に立つ遠藤さんを狙ったそれが消え去る。

 

「ディック、右」

 

 言うが早いか右側の()()が魔物に向かって伸び、殴る。半球がへこむが、足場の方も攻撃に使われた内の大半にヒビが入り、完全に崩れているものもちらほら見える。

 

「レテが魔力固定スポットを壊しましたよ。」

「えっ」

「っ、おっ……。危ねェだろ!隣に出て来る前に声をかけろ!落ちるところだったじゃねぇか!」

 

 (わたくし)と同じぐらいの高度にいたコトイリさんが遠藤さんの近くにいきなり現れ、レテさんの成功を告げる。遠藤さんは驚き、バランスを崩して落ちかけたがなんとか持ち直したようだ。

 

「それは申し訳ありません。今後、気を付けます。」

「マジで気をつけろ。さて…………じゃあ折角だし盛大にやるか。ジャック!」

「へい、姐さん。アレをやるんですかい?」

「あァ」

 

 使い魔との会話の様子からして、大技を使うようだ。声を張り上げ、援護が必要かどうか尋ねる。

 

 遠藤さんはにやりと笑い、要らないというように顔の前で手を振る。そして、その身長よりも長い錫杖をペンをそうするように一回しして仕舞うと、代わりに右腕に通していた数珠、玉が立方体になっているそれを両手に通して軽く巻く。

 

「なんまいだ、なんまいだ。墓石だけじゃただの石、死体があってこその墓ってな。『灰になれ(ディヤーパヤティー)』」

「二度と出てくんなよ!」

 

 魔物を取り巻くように存在していた足場、いや墓石の集合が伸び魔物を覆い、そのまま押し潰す。押し潰した後も、墓石は伸びて伸びて合流して直方体を形成する。

 

 動きがなくなったその時、そこにあるのは魔物ではなく大きな墓だった。

 

「壮観ですわね。観光名所になれるかしら。」 

 

 墓の端の水面から透明な傘が浮かんでくる。きっとレテさんだろう。

 

 降下して迎えに行こうとすると、レテさんの方が空中に浮かんでくる。

 

「あー、あー。あ、しゃべれる。せいかお姉さん、あのお墓みたいなの何?」

「あれは遠藤さんの魔法が魔物を巻き込んで作った墓ですわ。」

「本当に墓なんだ」

「魔物は殺したら消えちまうから死体は入ってないがな。」

「わぁっ。いきなり話しかけて来ないでよ、かいりお姉さん」

「それはあんたの使い魔に言ってやってくれ。」

 

 遠藤さんもこちらまで飛んで来た。軽口をたたくと、何かを悩むように目を閉じて頭を掻いている。さて、遠藤さんはレテさんを認めてくれたのでしょうか。

 

「……あんた、いやレテちゃんは凄いな。浦西さんが連れているのも分かるよ。だが──

「そうでしょう!そうでしょう!レテは凄いんですよ。」

 

 コトイリさんがまた急に現れる。テンションがこれまでにないほど高い。そしてレテさんに叱られている。

 

「コトイリ?話の途中だよね。後かいりお姉さんから苦情があったし、次から現れる時はなんか音出してよ。出来るでしょ」

「レテが望むなら。」

「あー、その、話の続きいいか?」

「どうぞ」

 

 シリアスな雰囲気が流れてしまったせいか、遠藤さんは話しづらそうにしていて見てられない。助け舟をだそうか、などと考えているとやっと話し出す。

 

「だが!私は幼稚園児かも分からん小さな子を戦わせたくない。これは、単なる私のエゴだ。だから気にしなくたっていい。ただ、覚えていてくれ、レテちゃんは戦う必要なんてないんだ。望むなら平穏に暮らせるんだ」

 

 ……なかなか熱烈な言葉、けれどきっとレテさんにそれは届かないのでしょう。レテさんの今の顔は、コトイリさんと魔力関係の話をしている時の顔に酷似しています。

 

「はぁ」

「せいかお姉さん?」

「いえ、なんでもないですのよ。」

 

 レテさんは、この子はどこでどんな風に過ごしていたのでしょう。

 

 ちゃっかりまた抱えられている異次元生命体が全てを知っているのだろうかと(わたくし)は考えていた。

 

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