彼女は単なる魔法少女   作:うさぎ最高

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図書館の魅力には勝てなかったよ…

 やることが無い。

 

 レテに割り当てられた部屋に帰ってきたけど、この魔法少女協会本部で何をするのがいいか分からない。時計をちらりと見る。時刻は十二時手前、寝るにはまだあまりにも早い。

 

「校内探検でもしようかな」

「いいですね。これから住んでいくだろう場所の構造を把握しておくのは大事ですよ。敵が来た際に手際良く対処できます。」

「まず敵が現れないで欲しい」

 

 座っていた机とセットだろう椅子から立ち上がって、伸びをする。コトイリを引き連れて、部屋から出て、階段を下りた。

 

 一階、校舎の正面扉から古びた下駄箱達の間を通り抜けて直ぐのところ、そこの壁には緑の掲示板があり、簡素な校舎の配置図が貼られている。

 

 どうやらこの学校には三つの校舎と体育館と図書館があるらしい。

 今いる、魔法少女寮にもなっている校舎が第一校舎。それと一緒に、L字になるようにグラウンドを囲んでいるのが第二校舎。食堂はこの第二校舎にあった。ここまではレテも行ったことがある。

 次に第三校舎。これは第一校舎に対して、グラウンドの反対側にある。他の校舎に比べて大きく書かれているように見える。

 体育館は第一校舎と繋がっていて、第一校舎に対して第三校舎と同じ側、つまりグラウンドの反対側にある。第二校舎と体育館はほぼ並行だ。

 最後に図書館は第三校舎と第二校舎の間にあるようだ。最も小さく書かれている。

 

 全体的な形はデジタル時計表記の4に、一番上の棒を追加して押し潰した感じだろうか。

 第一校舎が真ん中の棒、第二校舎が右端下の棒、第三校舎が一番上の棒で、体育館が左端上の棒。図書館が右端上の棒だ。

 

「どこ行こうか」

「まず今いるところから調べるのはどうでしょうか。」

「却下で」

 

 そういう気分ではない。確かにこの第一校舎、それに第二校舎だってちょっと行っただけだから何も知らないに等しい。だけど今は、まだ足を踏み入れていないところに行きたい気分なんだ。

 

「……第三校舎にしよう」

「分かりました。」

 

 体育館と図書館は鍵が閉まってそうだし。別に鍵くらいコトイリなら開けられそうだけど、そういうのは良くない。

 

 第一校舎から出て、校舎に沿って歩くと見えた第二校舎との隙間に入る。

 その先には噴水と数組のベンチがあった。手入れされてないのか地面から生えている草は雑草だらけ。噴水は枯れている。

 近づいて噴水の中に入ってみるけど、その石の受け皿は乾いていて全くと言っていい程水気を感じない。水を放出しなくなってから長いのだろう。

 

「壊れているのかな」

「水の供給を止めているだけですね。」

「へー」

 

 噴水の受け皿の壁を乗り越えて、第三校舎の前に立つ。右手側にはアンティークでちんまりとした建物がある。いわゆる大正ロマン的な感じの外観。蔦植物がその全体を覆っている。扉は両開きで、木でできているように見えた。位置的にはきっとあれが図書館だ。

 

 気付けばその図書館を見つめていた。

 

「レテ、気になるならあの図書館に行きましょうか。鍵がかかってても大丈夫ですよ。私が開けます。」

「鍵がかかってたら諦めるから」

「えぇ」

 

 温かい目をしたコトイリに無性に腹が立って、顎の下を撫でる。とても嫌そうな顔をして、温かい目はしなくなった。満足だ。

 

「止めて下さいよ。」

「善処する」

「……次にしたら、レテにも同じことをしますよ。」

「ご自由に」

「言いましたね。決定です。」

 

 図書館の木の扉の金属の取手を握って、引く。開いた。

 

「開いた……」

「良かったですね、レテ。」

 

 中に入る。そこには沢山の本棚があった。左手側には誰もいないけど、貸し出しのカウンターもある。薄暗くて古い本の匂いが充満している。

 

 カウンターの奥の掲示板には、『図書館ではお静かに』とか『図書委員が厳選しました!冬に読むのにピッタリな雪の本十選!』だったりとか、『4/21に『尊大の継承』を借りた方は図書委員にご連絡ください。』みたいなそういう事々が書かれた張り紙がある。それらの張り紙の端は例外無く黄ばんでいて、放置された年月の長さを物語っていた。

 

 少し足を進めて、本棚が並んでいるゾーンに突入する。並んでいるのは歴史関連の本が多い。

 

「900番代はどこかな」

「あちらに案内がありますね。」

 

 そう言ってコトイリが指したのは入り口付近のカウンターと反対側の所だ。確かに白い案内板に一階と二階の構造と置かれている本のジャンルが書かれている。900番代、小説が置かれているのは二階だ。

 

 奥にある階段を登る。この図書館は吹き抜け部分を大きくとっているから、手摺の向こう側にずらりと並んだ本棚がよく見える。壮観だ。

 

 目的のものが並ぶ区画に着いた。本棚の側面に記された番号を見ながら、間に立ち入る。

 

 誰かがいた。

 

 本棚を背もたれにして、ジーンズに包まれた足を組んでいる。黒いシャツには真ん中に白く蝶が描かれているのだろう、蝶らしき翅の片方だけが横から覗く。膝を書見台代わりにして置いてる本に熱中しているのか、ぶつからんばかりに本に近づいていて、表情は分からずウルフカットの頭しか見えない。

 

 声をかけるべきだろうか、いやいくら進むのに邪魔な位置にいるとはいえ一つ隣から反対側に回って見に行けばいいだけだ。ここの本棚を見るのを後回しにしたっていい。人が本を読んでいるのを邪魔するのは悪い。

 

 右回れして、知らない人に背を向ける。そのまま行こうとすると後ろから声が聞こえた。

 

「あれ、行くんだ。別に乗り越えて通ってもいいよ。僕は気にしない。」

 

 振り返るが、知らない人の頭は本に沈んだままだった。きっと音で判断したのだろう。ここに向かってきていたのも気付いていたに違いない。

 

「後にしますから」

「あれ?」

 

 驚きの声と共に目が合う。右耳に付けられた銀色の四角いピアスが光を反射した。

 

「君は誰だ」

  

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