彼女は単なる魔法少女   作:うさぎ最高

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虫が嫌いな人のための前回のあらすじ
二手に分かれて見回り、魔物が少なくて困り、レテ頭痛、コトイリ装着、探知開始、原因発覚


マスコットの人

 誰もいない家々の上でレテは感覚から生まれた矢印に従って飛ぶ。時折あるほぼ円状の破壊痕は魔物が現れたところなのだろう。中心は地面が剥き出しで、端の方になるにつれて家だった瓦礫が増えていく。レテが一番最初に魔物と戦った場所とよく似ている。上から見るとこんな見た目になるのか。

 

「レテちゃんまだー?」

「もうすぐだと思う」

 

 矢印の振り幅が大きくなっている。きっと矢印の先にいる、通常よりも魔物が少ないこの状況の原因は動いているのだろう。だから、近付く程に矢印が激しくぶれる。

 

 矢印が指し示す方向に飛んで、追って、矢印が真上を向いた。

 

「コトイリ、これどういうこと?」

「私は変換しているだけなので、レテの見ているものを共有してないから分からないです。」

「レテちゃん?なんかあったの?」

「矢印が上を──

「あなたも吸える」

 

 目の前に突如制服を着た女の人が現れる。いや、上から来たんだ。だって、矢印が女の人を指している。

 

 この人が原因だ。

 

 後ろにいたなつみお姉さんが前に出て、その人に向かって薙刀を振り下ろす。が、薙刀は最初からそうであったかのようにただの棒になった。

 その人に当たった刃と柄の一部が消え失せたのだ。

 

「ごちそうさま。あ、まだか」

 

 口を大きく開く。その口の中は歪んで見えて、矢印はそれを指していたのだと分かった。

 

「だって、まだこんなに沢山あるから」

 

 目が細く、山を描く。開いたままの口も、目のそれと逆向きの孤をとっていた。怖気が走る。

 

 笑顔は本来、威嚇行為であるという使い古された文言をこんなふうに実感する日がくるとは思ってもみなかった。

 

 顔が迫る。驚愕と恐怖が混じったような顔をしたなつみお姉さんが右目の端に映る。なんでなつみお姉さんの方が近かったのにレテの方に来たんだろう。まあ、死ぬ前だし、どうでもいいか。

 

 視界が閉じた。……もふもふの毛皮で。

 

「わっ……食べらんないものが」

「逃げますよ!レテ!阪本捺実!」

「どこに……?」

「魔法少女協会本部に決まってるじゃないですか!これの足は遅いから全速力で飛べば逃げられます!」

 

 今が危険な状態で、ゆったりしてる暇なんてないのは分かってるけど、それでも身体は動かなかった。

 コトイリってこんな大声出せたんだ、これまでにない程に慌ててるな、とかそういうどうでもいいことを思考に浮かべながらぼんやりとしているだけ。

 

 早く!とコトイリが叫ぶ。それを聞いて、レテはやっと飛び出した。落とさないようにコトイリを顔の前に固定する。そして速度を上げた。

 

 良く考えたらコトイリは自分で飛べるからする必要なかったなと思ったのは、はぜきお姉さんがいる守衛所に到着した時だった。

 なつみお姉さんもちゃんと逃げれたようで、レテが着地するのとほぼ同時にコンクリートの歩道に降り立つ。

 顔面蒼白なレテ達を見て、何事かとはぜきお姉さんが扉を勢いよく開けて、近寄ってくる。

 

「どうしたのあんた達。屠殺される前の牛みたいな顔してるわよ」

 

 かなり的確にレテ達の状態を表している。屠殺、コトイリは分からないけど、レテとなつみお姉さんは食べられる直前だったのだ。

 

「ははっ、当たらずとも遠からずってとこかな……。っていうか麗さん屠殺現場なんて見たことあるんだ……」

 

 力なくなつみお姉さんが笑う。あんな目に遭っても普段のような言動が出来るのは凄い。レテはまだ震えてうまく話せそうにないのに。

 コトイリがレテの頭を撫でる。安心させようとしているのかもしれない。少し震えが治まった。

 

「昔、道徳の授業でそういうビデオ見たのよ。殺されるシーンは無かったけど、トラックに入れられる前の牛の顔が不安そうで悲惨で見てられなかったわ。で、本当にどうしたの?」

「食べられそうだった」

「マスコットが出現しました。遐ゥカ螟ァ蜊……いえ、えっと、協会長を呼び出してほしいですね。」

「さっぱり分かんないわ」

 

 レテが端的な状況を話すと、コトイリがまた別の言い方でさっきの状況を言い表す。問題はそれらが全くはぜきお姉さんに伝わってないことだ。

 レテもコトイリも説明が下手なのかもしれない。見兼ねたのか、なつみお姉さんが再度話し出す。

 

「コトイリくんの方は分からないけど、レテちゃんの方はそのままだよ。とにかく、緊急事態だ。汐が戻ってないなら直ぐに帰ってこさせて。後、協会長も呼んだ方がいいと思う」

「……よく分からないけど、分かったわ。姉小路さんに連絡するから、あんた達は校長室に行って。汐さんもさっき帰ってきたばかりだから、姉小路さんのところにいると思う。」

「りょーかい。レテちゃん、付いて来て」

 

 閉まっていた校門が開く。なつみお姉さんは第一校舎の方に向かっていったので、言う通りに付いて行く。

 扉から入って、靴箱を抜けて、右に曲がってしばらくすると、校長室というプレートが上の方に見えた。そこから話し声がする。

 なつみお姉さんが校長室の扉をノックする。入ってとみさきお姉さんの声がした。

 

 扉をなつみお姉さんが開けると、光が入ってきた。

 

 壁一面の大きな窓、薄い白のカーテン、その前にある電話が置かれた高級そうな机と椅子。手前には高級そうな机と直角になるように背の低い長机が配置され、黒いソファーがそれを挟む。

 ソファーには、みさきお姉さんとうしおお姉さんが向かい合うようにして座っていた。

 

「話は麗さんから聞いたわ。協会長にも電話した、直ぐに来るって。」

「随分と酷い目に遭ったそうじゃないか。何でも食べられかけたとか。」 

 

 座りなさいとみさきお姉さんが言う。黒いソファーに腰掛けて、コトイリを膝の上に乗せる。撫でる。気遣わしげな表情でこちらを見られた。

 レテはみさきお姉さんと反対側に、うしおお姉さんと距離を開けて座り、なつみお姉さんはうしおお姉さんのすぐ隣に座った。

 

 そして、部屋のレテ達が入ってきた扉ではない方の扉が動く。全員の視線がそこに集中した。

 出てきたのは顔色の悪い白髪の性別不明な人、協会長だ。

 

 協会長は足を引きずりながら高級そうな椅子に腰を下ろして、こちらを見る。形の良い唇が円をかたどる。

 

「さて、何があったか聞かせてもらおうか。」

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