コトイリに手を引かれてしばらく、瓦礫ではないものが見えた。家だ。
まるで誰かが区切ったかのように、ある一定のラインから内側は家が崩れ外側はそのまま残っている。緩やかに曲線を描いてそり立つ、時折金属管が突き出している木片と板と何かの山はこちらからの侵入を拒んでいるみたい。
「これは通れないね」
「こちらの方に道があります。」
そう言ってコトイリは家の残骸の縁に沿って歩く。すぐに黒灰色のコンクリートの道が見えた。周りの家々が壊れているのに道の上にはその欠片の一つだってありもしない。
「この道を真っ直ぐに行き、一つ目の交差点で右に曲がれば魔法少女協会本部の入り口が見えます。レテは見たことが無かったですよね。きっと、驚くことになりますよ。」
「そんなに変なの?」
「変と言うよりは……何でしょうね、日常的に過ぎるというのがよく聞く感想です。」
「日常的」
日常的な魔法少女協会の本部。確かに魔法少女協会って聞くとファンタジーでかっこいい感じか役所みたいなかっちりしたものを思い浮かべる。それが日常的な見た目だったら驚く……かな……。
そもそも日常的な建物って何。
そんな事を考えている内に、交差点に差し掛かった。ここまで来ても人は一人も見かけない。みんな避難しているのかな。
もしくは、最初から誰もいなかったか。
差し込まれたかのような思考にそれが正解だと思った。
そして、交差点を曲がる──
ぱっと見では目立つものはなかった。左右を見ると、ふと右ななめ前にある学校の校門の表札が目に入る。そこには、魔法少女協会本部と書いてあった。これかぁ……確かにとっても日常的。
「魔法少女協会設立当初、この場所に魔法少女寮を兼ねる魔法少女協会本部としての施設を建てる予定があったらしいのですが、いかんせん人手も資材も無く、元からあった学校をそのまま使うことにした、ということらしいです。」
「へぇー」
コトイリが丁寧に魔法少女協会本部が学校であることを説明してくれる。本当に学校そのままなんだ……。
このまま突っ立っていてもしょうがないので門をくぐろうとすると、コトイリがレテの手を引っ張って止めた。顔を向けると校門横の学校なら警備員さんとかがいるような場所に指を指す。そこには受話器を持ってなんだか忙しそうにしているお姉さんがいた。忙しさのあまりかレテとコトイリがいることに気付いていないみたい。
「あの人間に話しかけてからの方がいいですよ。指輪も渡してしまいましょう。」
レテと繋いでいた手を離して、胸ポケットから指輪を取り出して、レテの指に嵌める。
「電話が終わるまで待たなきゃいけないの」
「その方がいいでしょうね」
「はーい」
コトイリと一緒に受付のカウンターの前に立って待つ。思ったよりも長い時間の後に、お姉さんが受話器を置いた。
「お姉さん」
「っなにか問題が…………誰?」
お姉さんはカウンターから身を乗り出してこっちを見る。
「レテはレテっていうよ。お姉さん」
「……子供?どこからきたの?……いえ、そんなことより早く逃げなさい。ここは危ないとこよ。」
「あっちから」
コトイリと歩いて来た方向を指差す。お姉さんは寄せた眉をさらに寄せて、手を額に当てる。
「その方向はまだ再建途中、それにさっき魔物の報告があった場所、そもそもここにこんな小さい子がいるわけない…………あなた、本当に誰?」
「だからレテだって」
お姉さんが何か悩んでいるのは分かるけど、何を悩んでいるのかは全く分からない。コトイリに視線を送る。
私に任せなさいというようにコトイリはぱちり、と器用にウインクをした。そしてお姉さんの目線まで浮いて、咳払いをする。コトイリ、浮けたんだ。
「こんにちは、魔法少女協会の受付さん。私は異次元生命体のコトイリ。こちらは私と契約した魔法少女のレーテー。お忙しいところ申し訳ありませんが、魔法少女寮の登録をお願いできないでしょうか。レテには身寄りがないのです。」
「…………は?え、今どこから現れたの。」
「ずっとコトイリはレテの側にいたよ。カウンターよりも背丈が低いからお姉さんには見えなかったんじゃないかな」
「そんなこと……待ってあなた魔法少女なの?本当に?」
「そうだよ。レテは魔法少女になったの」
自慢するように胸を張る。するとお姉さんは大きくため息を吐いた。元から疲れているように見えたけど、今はもっともっと疲れた顔をしている。
「……なんであれ、身寄りがない魔法少女に暮らす場所を与えるのが魔法少女寮の役目。魔法少女寮はあなたを受け入れます。でも、今ちょーっとみんな忙しくて人がいないからここで待っててくれる?」
「えーまだ待つの」
「受付の君がレテを連れて行ってあげればいいじゃないですか。もう連絡も必要ないくらいには戦況が安定している頃でしょう。」
「なんであんたは状況を知っているのよ……。はぁ、分かった、着いて来て。」
お姉さんは横にあるドアの鍵を開けて出てきた。コトイリと一緒に校門のその先へと向かうお姉さんについて行く。
学校の校舎の扉は開けっ放しにされていて、お姉さんはそこを通ると左に曲がって階段を登っていく。
「魔法少女
「元々この学校には寮がありませんからね。新しく建物を建てないのなら、校舎を利用することになるのは当然でしょう。」
「よく知ってるわね。」
「いえいえ、有名なことですから。」
二階、三階、四階まで上がってお姉さんはある教室の前で立ち止まった。扉の上にある札には待機室と書かれている。
お姉さんが鍵を開け、扉を横に引く。
扉が空いて、柔らかそうなソファと背の低いテーブルが目に入る。奥には小さなキャビネットが2つ並んでいて、その片方の天板には花の入った花瓶が置かれていた。
「正式に部屋が決まるまでここで待機してもらうわ。大丈夫、そんなにかからない。……じゃあ私は門の方に戻るから」
お姉さんは扉を閉めて出ていった。さっきから気になっていたソファに座ると、眠気が襲ってくる。
コトイリを抱き寄せる。そのままもふもふとふわふわに挟まれて私は寝た。