彼女は単なる魔法少女   作:うさぎ最高

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その手をとった

「見ろ!この煌々と輝く大火を!これがあなたの罪だ。これがあなたの末路だ。……もうやめないか、こんなことは何にだってならない」

「それを決めるのはあんたじゃない。あたしよ。あたしだけがあたしを分かってあげれるの。あ、レテ、八時になりました。」

「雰囲気ぶち壊しだよコトイリ」

 

 壁の時計に目をやると確かに八時だったが、クライマックスでそれを知らせるのはいかがなものか。

 後、数ページだというのに。

 

「途中でレテが『共感できないから役交代して』と言い出した時点で、そんなもの立ち消えましたよ。」

「声真似、上手だね。レテの声にそっくり」

「そうでしょう。」

 

 開いていた本を閉じて机に戻す。クローゼットから寝間着代わりに、薄手の白いワンピースを手にとってみる。

 

 見慣れたドヤ顔をたたえるコトイリを持ち上げて部屋を出た。以前あゆむお姉さんに教えてもらったお風呂の場所を思い出しながら歩く。

 

 廊下を真っ直ぐ行き、階段を降りて、渡り廊下の入り口から左に曲がる。噴水がある小さな広場に入って、くるりと回る。図書館、第三校舎、体育館。近付いて扉に手を開けると、薄暗い空間に右手側の扉から光が差し込んでいる。扉の上のプラスチックのプレートには、プールとだけ書かれていた。

 扉を引いて中に入ると上も左右も白い廊下。前の方から楽しげな話し声が聞こえてくる。先に入っているお姉さん達の誰かだろう。

 

 進んで、左手側の扉を開ける。十枚ほどのバスタオルが入ったプラスチックのかご、白い区切りの間にはためく淡黄色のカーテンのすそには汚らしい黒い斑点が目立つ。お姉さん達の黄色い声、目の前に広がる湯煙り、シャンプーの匂い。

 体育館の中、プールに繋がる道の途中にあるシャワールーム。そこがお風呂場だった。

 

 ふと、あゆむお姉さんにコトイリを入れてはいけないと言われたことを思い出す。持ち上げてたコトイリを半開きになっている扉から外に出した。

 入って来ないでねという言葉に了承を返したのを見てから、閉める。

 端に積み重ねられたプラスチックのかごから一つ取って服を脱いで入れて、カーテンが閉まっていない区画に踏み入る。

 

 冷水を流しながら、温度調節のつまみを回していると湯船の方がよかったかななんて考えも浮かぶが、前にあゆむお姉さんと入った時のことを思い出したらそうも言えない。

 なんせ夏なのにびっくりする程熱かった。

 シャワーに手を当てて温度を確認すると、ちょうど良くなっている。そのままシャンプーを髪に混ぜ込んで泡立てて、流す。ボディーソープを泡立ててつつ塗り付けて、流す。

 

 つまみを回してシャワーを止めて、カーテンを開いた。うしおお姉さんがいた。

 音に反応したのだろう。少し驚いた感じにこちらを一瞥して会釈するとそのまま部屋を出ようとする。その背中に呼びかけた。

 

「うしおお姉さん、犠牲になった人救えそうだよ」

 

 カバッという擬音がよく似合うような勢いでうしおお姉さんが振り返る。喜びと困惑、後少しの心配が入り混じったような顔だ。

 

「……それはどうやるんだ。」

「簡単だよ。レテがあの人の口の奥の歪みに一撃喰らわせるの」

 

 日傘を突き刺すような動きをする。首をひねられた。

 

「レテさんが使う魔法は消去系だろ?そんなことをしたら、あの子の後頭部が消え去るだけじゃないか。」

「レテは忘れさせて、戻してるだけだよ。だから、あの人と結び付いている歪みに魔法をかければ、元の状態に分離される。」

 

 コトイリのお墨付きだよと付け加えると、考え込むような仕草を見ながら少し視線を下にずらす。そして真っ直ぐこちらを見てから、頭を下げる。ちょっとびっくりした。

 

「それが出来るというのなら、是非ともお願いしたい。あの子は、きっと僕と同じなんだ。」

「そんなにかしこまって頼まれなくてもちゃんとやるよ。うしおお姉さんに伝えたのは、無断でやるのはよくないと思っただけだし」

「それでもだ。礼を言わないのは僕の主義に反する。」

 

 やっと顔をあげてくれたうしおお姉さんは、どこかすっきりした様子だった。

 

「レテさんはこのことを他の人にも伝えるつもりだよね。」

「そうだよ」

「じゃあ、僕がやるから態々言って回らなくてもいいよ。同じ説明を何度もするのは大変そうだしね。」

「ありがとう、うしおお姉さん」

「言うに及ばないよ。じゃあね。」

 

 うしおお姉さんは去って行った。

 レテは、自分のかごの方に近寄って、バスタオルで身体を拭いて着替える。汚れたバスタオルは綺麗なバスタオルが積まれたかごの横のかごに入れる。既に三枚のバスタオルが入れられていた。レテのを含めると四枚になる。

 

 曇ったすりガラスを有する扉を押して開けると、ちゃんとコトイリが待っていた。

 拾い上げて部屋に帰る道のりを進む。

 

「レテ。そういえば、あの女性キャラクターのどこに共感できなかったのですか?」

 

 第一校舎に入るところで、思い出したようにコトイリがレテに質問を投げる。

 少し考えて、お風呂の前に読み上げてた話のことだと分かった。

 

「……どこかな、差し伸べられた手を何度も何度も振り払っていたからかな」

 

 あの話は推理小説と恋愛小説の中間のようなものだった。主人公である探偵の男は火事が関係するいくつかの事件に関わり、そのどれもを解決する。それと同時進行で探偵の男はあの女と幾度も出会い愛を育んでいく。

 男は自分と会っている女が事件に関係していることを察して、そんなことは止めようと形を変えて何回も諭す。それでも女は止まらない。女は火の向こうに神をみる狂信者だったからだ。

 

 部屋の扉の前まで来た。横にのけて、入る。畳まれてる布団を広げながらあのラストシーンに思いを馳せる。

 

 コトイリが最後に読み上げたセリフで、探偵の男は自分が女の理解者になれていなかったことに絶望して火に飛び込む。その瞬間女はあんなに信仰していた火を消しにかかる。

 大きく燃え広がった火は中々消えず、やっとのことで消えても、残るのは炭ばかり。人かどうかすら分からない炭の前で女が泣いて終わる。

 結局、あんなことを言っていたけど、女自身も女のことなんて分かっていなかったということなのだろう。推理小説の終わりとしてはどうかと思うが、悲劇としてならそれなりに面白かった。

 

 かけ布団を除けたマットレスの上に、コトイリを抱きかかえながら身体を転がす。

 目覚まし時計をセットして、眼を閉じる。

 

Sweet dreams,(良い夢を)レテ。」

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