「いやー、ごめんね。初手で当てて、すぐネタばらしするつもりだったんだけど……」
「だからレテが準備する前に叩きにきたんだ」
「まぁ、そうだね」
なつみお姉さんは悪びれる様子もない。酷いと抗議したい気持ちもあるが、話が無駄に長引きそうなので止めた。
にわかに、なつみお姉さんが薙刀を撫でる。するとぽわりと薙刀全体が薄く淡い緑色に輝き始めた。
「武器にエネルギーを纏わせて、新たな性質を付与する。そのことを、僕達はエンチャントと呼んでいるんだ。レテちゃんに攻撃を仕掛ける前、僕はこの薙刀に衝撃を緩和するようにエンチャントした。全然痛くなかったでしょ?」
頷く。なつみお姉さんはそうだよねと言って、もう一度薙刀に触り、炎が上がった。
「ファンタジーに出てくる火属性の武器みたいで、かっこいいよね。まぁ、魔物にはあんまり効果的じゃないけど」
オレンジ色に照らされ笑っているなつみお姉さんは少年のように見えた。
薙刀が振るわれる。炎も薄緑の光もすっと消えて、散った火の粉だけが空中に残る。
「ま、ということで、レテちゃんにはこれを習得してもらう。エンチャントは思い浮かべることができるなら、なんでもできる。取れる手段が増えて、魔物と戦うのが楽になるよ」
そうしてレテの特訓は始まった。
まず練習したのは、エネルギーを自分の武器、レテなら日傘にまとわせることだ。これはかなり簡単だった。
かいりお姉さんが教えてくれた、エネルギーを一部分に集めることによってできる、武器の形状変化や硬化。それらとかなり近く、一部分に集めてから全体に広げるということを繰り返す内に、最初から全体に纏わすことができるようになった。
なつみお姉さんは驚いていた。聞くと、明後日ぐらいになんとかできるだろうと予測していたらしい。かいりお姉さんから教わったと伝えると、なぜか唸っていた。
それができたならと、次にやらされたのは、エネルギーの性質を変えることだ。
レテの欠片に新しい要素を練り込んで、その状態で安定させるのだけど、上手くできない。
魔法少女が扱えるエネルギーは、魔法少女の性質に少なからず染まっているので、その性質と遠い要素は混ざりにくいとはコトイリの談だ。味を占めたのか、さっきと同じように空中に画像を浮かべ、どこかから取り出した指示棒も使いながらの説明。
思い当たるところがあるのか、なつみお姉さんはしきりに首を上下に振っていた。
とりあえず近そうなものからやってみればと言われ、当初は色を付けることを目標にしていたが、なつみお姉さんの提案に従って、色々試してみた。
結果として、レテの欠片はきらきらと輝くことが可能になった。
なつみお姉さんが、日傘の軌跡を彩るきらきらエフェクトを指差して、口を開く。
「これが、レテちゃんと近いの?」
「近いというよりは、認識の問題でしょうか。レテは魔法少女を、きらきらふわふわしてる女の子の憧れ的存在だと思っていますから。」
「そんなん、何年前の話か……」
「おや、今でもそう思う人はいると聞きますよ。」
「いるかなぁ。やっぱり危険だからね、魔法少女って。普通の親なら、自分の子供にはなって欲しくないだろうし。憧れるのなんて許さないでしょ」
暇なのか、なつみお姉さんとコトイリは、時折レテに加える要素の指示を出しはするものの、それ以外の時は駄弁っていた。
朝ご飯が近いからと、なつみお姉さんが今日の特訓に終わりを告げる。結局、レテは輝かせることしかできなかった。
体育館の電気を消して、外に出る。
着いたときも普通に明るかったが、今は太陽の存在感が増し、日差しがどこから来ているのかしっかりと分かる。そして暑い。眩しい。
「僕は体育館の鍵戻しにいかなきゃだからさ。レテちゃん達は、先に食堂行っときなよ」
「分かった。遅れないでね、なつみお姉さん」
「はは、気を付けるよ」
なつみお姉さんと別れて、レテ達は食堂のある第二校舎へと足を進めた。
◆◆◆
「いやー、凄いよね。ホント」
使い魔を抱えて、食堂へと向かう後輩の魔法少女を眺めながら、独りごちる。微妙に冷たくない鍵を、指に通して弄びながら、職員室に。
暇な道中、星華さんが送ってきたメールの内容を思い出しながら、自分の目で見たものと照らし合わせる。
「想像以上にエネルギーの扱いが上手い」
自分が三日かかったことが、数分で終わらされてしまった。灰李ちゃんから教わったことがとか言ってたけど、それだって聞いてすぐできるようなものでもない。
一番頭おかしいのは変身前なのに、武器が出せていること。身体能力だって変身後と同じくらい高そうだ。どういうエネルギーの動かし方をしているのやら。
「使い魔の性質って、魔法少女に伝わるものだっけ」
あの兎みたいな使い魔も、びっくりする程器用だった。
エネルギーの物質化、はっきりとした投影、長時間の出現。どれもそう簡単にできることじゃないはず。
少なくとも異次元教会の奴らや、姉小路さんの使い魔はできない。協会長は、もう異次元生命体じゃないらしいからよく分からないけど。
ノックしろという貼り紙を無視して、職員室の扉を開ける。当然ながら誰もいない。
書類等が乗ったままの生活感あるデスクの群れの間を通って、事務のデスクにある鍵掛けに鍵を戻す。
職員室を出て、ふと、嫌な予感がした。薙刀を構えて、後ろを振り向くと──マジか。
あの恐ろしい笑顔を浮かべて、人型のマスコットが立っていた。
「どこから来た」
「私は幸運だよね。一番楽に食べれそうな人に、一番最初に会ったんだから」
「はぁ、話通じてない」
「今度こそ吸い切れる」
すぐに再生できるように、エネルギーを蓄える。セーラー服姿の不気味なその女に向けて、今持ってる薙刀を投げる。消えた。
「無駄よ」
「……僕は汐みたいに優しくないからさ、死んじゃったらごめんね」
「あは、なにそれ。強がり?」
ああ、紛うことなき強がりだよ。そんな言葉を喉の奥に押し込めて、次の薙刀を燃え上がらす。
「さぁ、それはどうかな」
不気味な女は、コテンと首を傾げて一つ。
「あなた、実は面倒?」