彼女は単なる魔法少女   作:うさぎ最高

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 食堂にはもう既になつみお姉さんとレテとコトイリ以外の全員が椅子に座っていて、朝ご飯の用意も終わっていた。

 

 みさきお姉さんが小首をかしげる。

 

「捺実さんはどうしたの?」

「鍵を戻してくるって」

「あぁ、そうなの。」

 

 返事をしつつ、席について、机の上の食事を眺める。

 少し黒みがかった小麦色のトースト、少量のマーガリンと青いジャム、黄色いスクランブルエッグとそれに突き刺さっている赤いベーコン、輪切りのキュウリ。混ざらないように、間隔をあけて、心なしか縁が金色の平皿に並べられている。

 

 鐘が八回続けて鳴った。なつみお姉さんはまだ来ない。

 

「捺実さん、遅いわね。……その内来るでしょうし、先に食べ始めちゃいましょうか。」

 

 みさきお姉さんが手を合わせようとすると、うしおお姉さんが日記帳を取り出し、鍵を差し込んで捻った。

 魔法少女の変身特有の輝きが発され、収まる。

 

「汐ちゃん……?」

 

 隣の席にいるはぜきお姉さんの困惑も何ともせず、うしおお姉さんはパラパラと日記帳を捲り、お目当てのページを見つけたのか、そこに別の所に挟んでいた栞を移動させる。そして唱えた。

 

「『今日は間違い探しを楽しんだ。(フィンガーシュピッツェンゲフュール)』」

 

 盛大に顔が歪んだ。すぐにまた日記帳を捲り、別のページに栞を差し込む。

 

「捺実が、第一校舎の方で何かに襲われている。行かなきゃ。『一位は歩さんだった。(シュネルフッスィヒ)』」

 

 そう言って、食堂のガラス戸にぶつからんばかりの勢いで、うしおお姉さんは飛び出していった。

 レテも服を魔法少女のそれに切り替えて、後を追う。

 

「コトイリ」

「阪本捺実は()()無事ですよ。相手はあの人型マスコットのようですね。」

「来ないって話じゃなかったの。」

 

 レテ達を追いかけてきたみさきお姉さんは、ワイン色の左肩の布がないドレスを着ている。魔法少女の衣装なのだろう。

 みさきお姉さんの非難がましい口調を受けて、コトイリは不思議そうに返した。

 

「そのはずなのですが、おかしいですね。何かしらの誘導でもあったのでしょうか。」

 

 第二校舎を出ると、第一校舎の方から声が聞こえる。迷わず第一校舎に飛び入り、奥に見える人影へ向けて走る。人影は二つしかない。

 

「それ、意味ないよ」

「これを消すのか。聞きしに勝る厄介さだな。」

 

 追いついた。状況を見る。その場には無数の半透明な薄緑色の蝉が飛び交っていた。蝉はうしおお姉さんが指示を出しているように見え、制服姿のマスコットの人にくっついては消えていた。

 

「なつみお姉さんは……」

 

 いた。なつみお姉さんはうしおお姉さんの足元で倒れている。慌てて近付くが、死んではいないみたいだ。胸が上下に動いている。

 

「あ、美味しそうだった子」 

 

 マスコットの人の視線がこちらに向いたのを感じる。鳥肌が立つ。逃げたくなる。

 それを押し殺して目を合わせた。

 

「……あなたを元に戻す」

「何それ」

 

 床を蹴って、きょとんとしているマスコットの人に向かって日傘を振った。避けない。そのままマスコットの首に当たるが、何の痛痒も感じてなさそうだ。

 

「レテさん!その人に物理攻撃は効かないようだ!」

 

 マスコットから距離を取る。思わず攻撃してしまったが、レテのするべきことはそうではない。

 

「酷い。……でも、いっぱいある」

 

 マスコットが見回りの時のように、不気味な作り物みたいな笑みを浮かべて、レテの方にぬるりと移動してくる。

 

 深呼吸。日傘にレテを纏わせ、それに新しく要素を加える。キラキラ、光、星のような宝石のような輝き。それらをレテは備えている。だって、レテは魔法少女だから。

 

「うっ、目が……」

 

 きらきらになったレテを、マスコットの人の方にだけ集めると、光となってマスコットの目を眩ませた。

 

 その隙に、日傘に使えるレテを全部集める。

 

「足りない?」

「……足りません。」

 

 これだけじゃ、やっぱり足りないのか。予定通り、レテ自身からもレテを取り出す。集める。

 

「あ、目、大丈夫になってきた」

 

 集め切る前に、マスコットの人が動いた。至近距離。詰めてきて、口を開ける。

 

 一か八かで魔法を発動して突っ込んでしまおうか。実行しようとして、止めた。視界の端に、薄緑色の光がちらついたからだ。

 

「『僕を庇って彼女は死んだ。(フロインドシャフトべツィーウンゲン)』」

 

 飛んできた半透明の蝉達がレテの前に列を成し、壁を作る。

 

「さっき食べたじゃん。学習してないの?」

 

 マスコットが蝉の壁に触れる寸前、ピアノの音が流れる。

 

「『猫達の悲鳴(ラ・グアリジョーネ)』」

「……あれ、違うやつだ」

 

 レテを日傘の石突に込める、詰め込む。

 

「レテ、もういいです。十分ですよ。」

「そう」

 

 集めたそれらを一気に魔法に変換して、留まらせた。

 

「ごちそうさま。次はあなただよ」

 

 気付けば壁は無くなっていて、マスコットはレテの目の前に立っていた。ピアノの旋律の中、歪みきった空間がはっきりと見える。

 

 マスコットの喉奥に、日傘を突き刺した。

 

 コツンと何か硬い物に当たり、魔法がそれを溶かして、レテの欠片がそれを壊して、ずるりと歪みは崩れて正常になった。

 

 制服姿のお姉さんの身体から力が抜けて、倒れようとするのを待機していたコトイリが支えて、床に寝かせる。

 

「……終わった、の?」

「レテはしっかりと、人型マスコットをマスコットたらしめている部分を固定前に戻し、破壊までしましたよ。」

「じゃあ、この人は助かったのか。」

「見たところ問題なさそうではありますけど、加工前の状態しだいですね。」

 

 お姉さん達とコトイリが話している。それを認識できた。

 

 大丈夫なようだ。レテは、今の状況が分からなくなるぐらいに致命的な忘れものはしていない。ある種、賭けに勝ったといえるのかもしれない。

 

「そういえば、なつみお姉さんはどうなったの」

「捺実は保健室に寝かせてきたよ。レテさんがこの人の相手をしてくれていたお陰さ。」

 

 うしおお姉さんがレテの頭を撫でる。子供扱いされているようで、あんまり良い気分ではない。

 それが顔に出ていたのかもしれない、うしおお姉さんはすぐに撫でるのを止めた。

 

「レテ、レテ、大丈夫ですか。」

「問題ないと思うよ。あ、でも」

「どうしましたか。」

 

 お腹が鳴る。焦っていたようなコトイリの雰囲気が弛緩した。

 

「レテちゃん、お腹空いたのね。……まあ、朝ご飯前に飛び出してきちゃったし、そうもなるか。」

 

 半ば呆れたようなみさきお姉さんに、抗議の意を込めて、朝ご飯の必要性を説く。はいはいとあしらわれ、続けようとすると、うしおお姉さんが提案をした。

 

「朝ご飯、保健室で食べないか?」

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