うしおお姉さんの、保健室で朝ご飯を食べるという提案は受け入れられた。朝食がワンプレートで持ち運びやすそうなのが、関係していたのかもしれない。
みさきお姉さんと一緒に、食堂に戻ると、はぜきお姉さんが待っていた。はぜきお姉さんはレテ達を一瞥すると、ほっと息を吐く。
「無事解決したみたいね」
「うん」
「えぇ。レテさんのお陰で、犠牲になっていた子も何とかなったみたい。」
「……あれ本当だったのね」
どうやら、はぜきお姉さんも制服のお姉さんを助け出す方法を聞いていたらしい。みさきお姉さんも、レテが日傘を喉に突き刺した時驚いてなかったし、うしおお姉さんがちゃんと伝えてくれていたのだろう。
「それで、麗さん。朝食を保健室で食べることになったから、皿を持っていきたいの。」
「分かった。一人二皿かしら」
みさきお姉さんは、そうねと返事をしたものの、何か考え込むような仕草をする。そして、レテの名前を呼んだ。
「どうしたの、みさきお姉さん」
「ちょっとやる事があるから遅れるわ。私の分は自分で持っていくから、麗さんと一緒に他の四皿をお願い。」
「わかった」
「麗さんも、それでいい?」
「大丈夫よ。でも、あんまり遅れないでね」
「勿論。」
頷いて、みさきお姉さんは厨房の方に入っていった。
レテ達とはぜきお姉さんが取り残される。
「さて、行きましょうか。」
二皿を持ち上げるはぜきお姉さんに対し、レテは不器用で、一皿しか持てなかった。しょうがないのでもう一皿をコトイリに持たせる。
「……あんたって、実体あるのね」
「ある時とない時があります。」
第二校舎から渡り廊下、渡り廊下から第一校舎、それらの繋ぎ目にある段差に気を付けつつ、保健室にたどり着いた。
「待ってたよ。さあ、入って。」
うしおお姉さんに扉を開けてもらって、保健室の中に入る。
保健室は細長く、扉を開けた正面にはデスクとか椅子とか棚があるのだが、右手側には壁にくっつけられるようにしてベッドが並んでいるようだ。
そして、デスクと扉の中間に、五台の学校机が向き合うようにくっつけて配置されている。はぜきお姉さんがそこに朝食の乗ったプレートを置いた。レテやコトイリもそうする。
「捺実の分も持ってきたんだね。」
「あら、いらなかった?」
うしおお姉さんの首が左右に振るわれる。
「もう直、目が覚めるだろうから。むしろありがたいよ。」
足音。開け放された扉から、みさきお姉さんが入ってきた。なぜか二皿持っている。
机の上に一皿置いて、もう一方は保健室の先生用だったのだろうデスクに置いた。
「遅くなってしまったわね。さ、食べましょうか。」
そうして、四人が席についた。手を合わせる。朝ご飯がやっと始まった。
さて、トースト、スクランブルエッグ、キュウリ。どれから食べようかと悩む。……やはり、ここはトーストだろうか。
トーストを一齧りする。カリカリになった耳と、パリパリの表面、それに微かな甘みが合わさる。
千切り取った一辺を、マーガリンに触れされる。油分が追加されて美味しい。
「レテって油が好きですよね。」
「適度な油は全ての人類が欲する所だよ」
千切る、今度は青いジャムと一緒に食べる。当然のようにブルーベリーだ。しっかりと甘く、時折混ざっているブルーベリーの粒を噛むと果肉が溢れ、お得感がある。
キュウリを数枚口に入れる。時間が経ったせいか、水分が失われた、青臭いパリパリとした何かになっているが、口直しの用程度なら果たせる。
スクランブルエッグに目を向ける。黄色に白が混ざったそれは、液体のようであり固体のようでもある。スプーンで掬い、口に運ぶと卵の味がいっぱいに広がった。そこで、ベーコンも口の中へ。塩気と卵の相性は良く、とても美味しい。
キュウリを全て食べる。トーストに残りのマーガリンを全部のせた。ブルーベリージャムはもう無かった。
余ったトーストをスクランブルエッグに突っ込み、ベーコンも合わせる。少しジャンキーな感じになったトーストはとても良い味がした。
「ごちそうさまでした」
ぼーっと辺りを見る。席が全て埋まっていた。いつの間に。
「なつみお姉さん」
レテが声をかけると、頭が上げられた。
「あ、レテちゃん。聞いたし、見たよ。やったんだね。」
頷く。なつみお姉さんは笑った。
「怪我とか大丈夫なの」
「そんな心配しなくてもいいのに」
「するだろうよ。捺実、君は倒れてたんだから。」
「……そうだよね。レテちゃん、僕は特に怪我とかしてないし、痛いところもないし、大丈夫だよ。」
「なら、良かった」
ふと、ベッドの方から物音がする。制服のお姉さんが起きたのだろうか。
少し話し、はぜきお姉さんとレテとコトイリが行くことになった。はぜきお姉さんは行方不明者の資料を熟読していて、コトイリはどうして元に戻れたのか説明できる。レテは実行者だし、コトイリの緩衝材でもある。
制服のお姉さん、山田さんは手前から見て三番目のベッドに寝かせられているらしい。見に行くと、さんは起きていて、ベッドに腰掛けていた。
はぜきお姉さんが話し出す。
「山田麻衣さん。こんにちは。私は櫨木麗、魔法少女協会本部で事務員をしているものです。ご自身に何が起きたのか、覚えていらっしゃるでしょうか。」
「……覚えています。全部。私がどんな風になってたか、私が何をしたのか」
大きく、ため息を吐く。
「それで、なんですか。これから私は死刑代わりに、モルモットにでもなるんでしょうか。魔法少女協会の協会長は頭のおかしいマッドサイエンティストだって聞きますし」
「あなたはご家族から行方不明者届が出されています。ですので、警察に連絡後、ご家族の下に戻ることになるかと思います。」
「そうですか。で、本当は?」
「本当も何も、さっき言ったことそのままです。」
警戒心が強いのか、罪悪感が強いのか、山田さんは言うことを信じない。何度も聞き返すので、はぜきお姉さんは疲弊してきているようだ。
コテンとコトイリが首を傾げて、不思議そうに言葉を紡ぐ。
「なぜそんなに否定するのですか。」
「だって、おかしい。私は死ぬか、捕らえられて研究されなければならない。それ以外は許されていない」
はぜきお姉さんと、思わず顔を見合わせる。明らかに異常だ。
「許されていない、とは。」
「そうしないといけない。そうでないと、私はダメ」
「やけに時間がかかっていると思ったら……準備してきてよかったわ。」
「みさきお姉さん」
いつの間にか、レテ達の後ろにお皿を持ったみさきお姉さんがいた。お皿の上には、卵とベーコン、それにレタスが挟まったホットサンドがある。
「あなたなら、本当のことを教えてくれますか」
山田さんは目覚めた直後よりも、どこか虚ろになっているように思えた。目に光は無く、単調な物言いは、口調は違えどマスコットになっていた時の様子が思い出される。
「えぇ、そうね。」
みさきお姉さんは少し屈み、ホットサンドを手に取って──山田さんの口に押し込んだ。
当然、暴れる。しかし、一部を飲み込んだ途端、様子が変化した。無表情が驚きに代わり、どこか無機質だった暴れ様は的確に加害者、つまりみさきお姉さんを排除するような動きに変わった。
呆然と見ていると、山田さんは何とかみさきお姉さんを跳ね除けた。ホットサンドも引き抜かれ、盛大にむせながらも周りを見渡している。
「あれ、私……え。実験は?ここどこ?」
混乱している山田さんを見て、みさきお姉さんは満足げに頷いていた。