彼女は単なる魔法少女   作:うさぎ最高

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山田麻衣の回想

 魔法少女協会本部の保健室、それと()()()()()()異次元の一部。そこにソレはいた。

 

「あーあ。解除されちゃいましたか。遐ゥカ螟ァ蜊の実験室、行ってみたかったんですけどねぇ……」

 

 ソレは全てが有り全てが無い異次元で、確固たる目的を持って活動するもの。異次元生命体。

 

「アレもアレですよ。折角変えてやったのに、吸収するのは使者様ばっか。確かにそれでも目的は達成できます……けど!」

 

 叫びに共鳴するように、空間がゆがみ、うねり、ひずみ、そして現れる。文字列が躍る中、数多の魔物が威を示し、魔法少女がずたずたに引き裂かれる。

 

「どうせなら!どうせなら、彼奴等を吸えばいいのに!拡散を邪魔する彼奴等を!」

 

 ソレの理想が空間に現れる。

 

 場所は人々の溢れる都市へ変わり、魔物が暴れ回る。本来とは打って変わって、対処する魔法少女の幻影は無力なものへと貶められていた。その結果、都市は無であり有となる。

 

「あ。……片付けしなきゃいけませんね。」

 

 興奮が収まったソレによって、異次元の状態は元に戻った。

 

「うーん。それにしても、なんで失踪した貴方がそこにいるんでしょう。」

 

 疑問を確かめるためか、他の重なった層越しに、ソレは再度保健室を覗き見る。

 

「ねぇ、同朋(どうほう)菴ィ懈撫ク?」

 

 ソレの視線は、兎と鶏が混ざった奇妙な使い魔へと向けられていた。

 

  ◆◆◆

 

「あの……迷惑かけてしまって、本当にごめんなさい」

 

 机にぶつからんばかりの勢いで、山田さんが頭を下げる。

 

「いいって。実害は出なかったし。むしろ、魔物が減って助かったよ。だから頭上げて」

 

 向いに座っている、すっかり元気になったなつみお姉さんがなんでもなさそうに答える。

 

 正気に戻った山田さんは、くっつけられた学校机の一つに座らされていた。うしおお姉さんがどこからか、新しく一台持ってきたらしい。レテは向いの教室が怪しいと見ている。コトイリも賛同していた。

 

 山田さんが頭を上げると、すかさずみさきお姉さんがホットサンドの乗った皿を差し出す。それの端は唾液で濡れており、歯型も付いていた。

 微妙な顔をしていたが、ホットサンドをそんな風にしたのは自分だと言うことに思い当たったのだろう。素直に食べ始める。

 

「ご自身に何が起きたのか、覚えていらっしゃるでしょうか。良ければ教えていただきたいのですが。」

 

 はぜきお姉さんが問いかける。山田さんは頷く

 

「分かりました。でも、期待しないでくださいね。あんまり覚えていませんし」

 

 そう言って、山田さんはホットサンドを食べながら、話し出した。

 

「私の記憶は、実験が終わってからここのベッドで起きるまでの部分がすっぽり抜け落ちています。皆さんの言う、マスコットだった時の記憶がないんでしょう」

「えぇ」

 

 はぜきお姉さんは相槌を打つと共に、メモを取る。

 

「……実験?」

 

 みさきお姉さんが怪訝そうに言う。

 レテは山田さんが正気を取り戻した時のことを思い出した。あの時も、実験とやらを気にしていた。

 

「はい。実験です。魔法少女になれると」

「山田さんは、魔法少女になりたいのか。それなら普通に申請をすれば良かったのでは?」

「汐さん」

 

 はぜきお姉さんがたしなめるように、うしおお姉さんの名前を呼ぶのとほぼ同時、山田さんはゆるゆると左右に首を振る。

 

「両親からの許可が降りなかったんです。昔は、そうじゃなかったらしいですけど、今は親からの許可が必要なんですよ」

「へー、説得とかできなかったの?」

 

 なつみお姉さんの質問に、また首を振る。

 

「お母さんに、どうして魔法少女になりたいのって聞かれた時、私は答えられませんでした」

「今なら分かります。私、皆から褒められたかったんです。何も優秀なとこがない、普通の人の私でも、魔法少女になって魔物を倒せば無条件で賞賛されるかなって。……バカですよね」

 

 自嘲に満ちた笑いを浮かべる。なんと返せばいいのか分からない。

 他のお姉さん達もそうだったようで、保健室を静寂が支配した。

 

「その、続きをお願いできるでしょうか」

 

 はぜきお姉さんが絞り出すように言う。笑みを引っ込めて、山田さんは目を左上にやる。

 

「……学校からの帰り道、どうしたらお母さんを説得できるかなって考えてたら、ぶつかっちゃって。慌てて前を見ると、男の人と目が合いました。」

「その人に謝ると、突然言われたんです。魔法少女になりたいだろう、実験に参加したらなれるって。戸惑っていると、これは政府が認可したものだとか、許可書を見せられたりとかして、素質があるとも言われちゃって、じゃあやりますって言ったんですよ」

「明らかな詐欺じゃん」

「はは、そうですね。明らかに騙されてました。……男の人はそうかとだけ言って、気付いたら私は知らない部屋にいました。簡素な白い待合室みたいな。他にも5、6人くらい私と同じぐらいの女の子がいたと思います」

「その人達は、この写真と似ていますか。」

 

 はぜきお姉さんは机からファイルを取り出し、開いて山田さんに見せる。いつ、机に仕舞ったんだろう。

 

「……そっくりです」

「分かりました。ありがとうございます。続きをお願いできるでしょうか。」

「はい」

 

 一つ、深呼吸をした。顔に恐怖の色がちらついてくる。

 

「待合室っぽいとこには扉が一つだけあって、そっちの方からは僅かな悲鳴が聞こえてきていました。しばらくして、止んで、扉が開いて名前が呼ばれます。扉は少ししか開かないので、部屋の様子はよく見えなかったのを覚えています。二人が行って、私は三番目でした」

 

 呼吸が荒い。目がよく動いている。何かに怯えている人の様子だ。

 

「扉を通ったら、手術台があったんです。ただ、病院とかとは全然違くて、いる人は白衣でも無かったし、なんかそもそも人っぽくもなかった。それに部屋でもなかった。手術台と、歪んだ球みたいな何かと、人っぽいものが三つ。それで、私は手術台に置かれて、人っぽいのが手を差すんです!」

「体中を差しては抜いて差しては抜いてここは違うとかまだマシだけど駄目とかそれが気持ち悪くって私を奪っていくみたいで思わず悲鳴がでて、うるさいなって、もういいと歪んだものが顔に迫って。…………あの人達はあれを私の口に入れたかったんですよ。だけど、思ったよりもそれは大きかったんです、だから、入らなくって、刃が迫って、いたくていきもできなくなるしずるずるいうしそれもわたしをもっていくしさけていたくっておしこまれ」

 

 食べやすさを考慮してか、今度は細い棒状だった。見た感じ乾燥フルーツを混ぜ込んで焼いたパンに見える。美味しそうだ。

 山田さんは落ち着きを取り戻して、言う。

 

「…………えっと、そんな感じでした」

 

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