「ここがあたしの部屋だ。」
レテとコトイリとあゆむお姉さんは魔法少女寮という名の校舎、その二階にある教室の扉の前に立っていた。
扉には張り紙がされており、それはまだ十分に白く新しくみえる。
張り紙にはマジックのようなもので大神歩とだけ記されていた。
「レテの嬢ちゃん、あんたの名前って漢字はどうなってるんだ?」
あゆむお姉さんは腰の辺りから黒のマジックペンを取り出しながらレテに質問する。
その質問に、レテはどう答えればよいのか分からなかった。
レテはレテでありそれ以外の何でもない。強いて言うならレーテーというのもレテのことを表す名前だ。それは
「……知らない」
レテがやっとのことで絞り出した返事はそれだけだった。
あゆむお姉さんは何かを考えるような仕草をして、それからレテの頭をぐちゃぐちゃと撫でた。
「そうか、じゃあこう書いとくな」
張り紙の大神歩という文字の下に、同じくらいの大きさで「れて」という名前が書き加えられる。──そして下から伸びた鶏の手が一回り小さい字で「コトイリ」という文字列を追加した。
見る、盛大なドヤ顔をしている。消して、と言うと残念そうにはしたもののちゃんと消した。
あゆむお姉さんにも魔法少女としての契約者がいるだろうに、その人が名前を書いていないという事実をちゃんと考えて欲しい。
……それにしても、書く時も消す時も両方とも何も使っていなかったけれど魔法なのかな。
扉が横にスライドする。部屋の中が見え、そこにはこれまで本でしか見たことがないものがあった。
「ダンベルだ……」
そう、ダンベルがあった。それだけじゃない。ランニングマシンにバーベルが付いたベンチプレス用のベンチ、他にもよく分からない器具が沢山。兎に角いわゆる筋トレ器具が所狭しと並べられていた。
これ寝る場所とかあるのかな……。
「おう、よく知ってるな。レテの嬢ちゃんはまだ身体が出来上がってないから使うんじゃねえぞ」
「言われなくても使わない……」
どうやら部屋の中に入る時は靴を脱ぐようで、あゆむお姉さんは入ってすぐ左にある二段の靴箱の上段に履いていた靴を入れた。レテも脱いで同じ靴箱の下段に入れる。コトイリはマットレスで足を拭っていた。それ意味あるのかな。
入って右を向くと、部屋のそれぞれの角に向かい合うようにクローゼットと机、畳んだ布団が配置されている。さすがに部屋の全部に器具がある訳ではなく左はトレーニング用の空間、右は生活するための空間というふうに分けているようだ。
これ他の人の部屋はどうなってるんだろう。同じとかない……よね?
あゆむお姉さんは右側の壁の真ん中上に掛けられている時計を見て、口を開いた。
「あの時計、今は六時過ぎを指しているよな」
「うん」
「七時になったら晩ご飯だ。十分前集合だからそろそろ移動し始めた方がいい」
「うん」
「あたしは今から着替えるから、ちょっと待っててくれ」
「はい」
あゆむお姉さんはクローゼットに向かっていった。
何もしないのは暇だから、レテがこれから使っていくだろうクローゼットと机を見に行く。
クローゼット、木で出来ているだろう普通の茶色いクローゼット。上は両開き、下に二段引き出しがある。
上を開けてみると黒いハンガーだけが4本掛けられている。下は、上の段には何もなかったけれど、下の段には防虫剤と書かれた袋が入っていた。
机、木でできているだろう縦横1:2ぐらいの茶色の机。引き出しとかは無いけど、金属製の棚が下にくっついている。後脚も金属製。
学校机というやつかもしれない。
そうこうしていたら、あゆむお姉さんが着替え終わった。上は白のタンクトップ、下は青の長ズボンだ。
そして、お腹が六つに割れている。ムキムキだ。トレーニング器具がこんなにある辺りで薄々思ってたけどあゆむお姉さんは筋肉がムキムキな人だった。
時計を見れば六時四十分ちょうど。
どこで食べるか分からないけど、十分以内に着く場所であって欲しい。
遅れるのは嫌だから。