魔法少女というのは出張の多い仕事?のようだ。
十年くらい前。『重ね合わせ』、魔物が現れ始めた原因だと文脈から推測できる、が発生した直後は日本全土で頻繁に魔物が発生していたらしい。その頃は魔法少女を只管増やして全国各地に配置して、魔物に対応していた。
今は魔物が現れることも少なくなり、魔物がいつどこで発生するかも予測できるようになって、魔法少女で居続けたい人達だけが魔法少女として残された。
もう今では十数人しかいない魔法少女がずっと同じ所にいて魔物の発生に対処できるわけが無く、魔物の発生予測に合わせて移動し、魔物が現れたら倒して次の発生予測地点に向かう。そういう風に魔法少女は働くものだそう。
ご飯を食べながら聞いたみさきお姉さんの話をまとめるとこんな感じだった。
「勿論レテさん一人で行ってもらう訳では無いわ。今、レテさんの隣の席にいる浦西さんと一緒に名古屋に向かってもらいます。」
「安心して下さいませ。何が起こっても絶対にフォローいたしますわ。」
お茶碗にこびりついたお米の最後の一粒を箸で削って食べる。それで最後だ。他の人達も食べ終わっているみたい。
みさきお姉さんが両手を揃える。
「では、皆さん。ごちそうさまでした。食器はいつも通りあそこのカウンターに置いて下さいね。」
食堂のガラス戸と反対側の方には、厨房が見えるカウンターがある。そこに置くのだろう。自分で置きに行きたいので、前と同じことが起こらないようにコトイリとしっかり目を合わせる。
コトイリは分かりましたというように頷いた。その瞬間、レテの目の前から食器が消え失せて、右目の端に何かが現れた。
「そういうの止めて」
「……レテはそんな事しなくていいんです。」
「レテはしたいんだけど」
コトイリは押し黙る。
目覚めた時からコトイリはどこか過保護気味だ。以前はそんなんじゃなかったのに、どうしてこうなったのかな。
……以前?
霧が一瞬だけレテを覆った。
◇◇◇
食器をカウンターに持って行こう。お茶碗の上に漆器、漆器の上にほうれん草の小皿、小皿の上にコップを重ねて、それらをさらに魚の角皿の上に乗せる。
バランスを崩さないようにしてカウンターの前まで移動する。カウンターは少し高かったけれども、きちんと置けた。
時刻は七時半を過ぎたところ。明日の朝は早いと聞いたので、もう寝たほうがいいかもしれない。ああ、でも、お風呂にまだ入っていなかった。そう思って、あゆむお姉さんを探そうした時、せいかお姉さんが話しかけてきた。
「レテさん。ちょっとそこのあなたのマスコットとお話させてもらっても宜しいかしら。」
無言で側にいたコトイリをせいかお姉さんの正面に突き出す。
「私に何か用ですか。」
「ええ、さっきは鐘の音に遮られてしまったから。」
確かに七時の鐘が鳴る前、せいかお姉さんは何かを言おうとしていたように見えた。ご飯中には話しかけてこなかったから、気のせいだと思ってたけど。
せいかお姉さんは一度、大きく深呼吸してから口を開いた。
「レテさんと契約している異次元生命体、あなたにとってレテさんはどういう存在ですの?」
コトイリは目を瞬く。
「先ほど聞こうとしていたことはいいのですか?」
「はぐらかさないで下さいまし。」
お姉さんはピリピリとした雰囲気を纏っている。それをコトイリは気にも掛けていない。
「別にはぐらかしていませんよ。そうですね、レテが私にとってどのような存在か、それは大変難しい。様々な言い方があります。」
「だから、はぐらかさないで。」
「せっかちですね。うーん、月並みな言葉ですが、ずっと一緒にいたい存在というのはどうでしょうか。」
「それがあなたの答えですの。」
「その通りです。あぁ、そうそう、私にはコトイリというれっきとした名前があるんです。どうやら暫く同行することになりそうですから、今後はそう呼んで貰いたいですね。」
せいかお姉さんはその蒼い目を細めて、何かを考え込んでいるように見える。
「そう、ですのね。では、コトイリさんそれにレテさんも、ごきげんよう。」
せいかお姉さんは去って行った。そういえばせいかお姉さんの部屋は何階のどこにあるのだろう。
辺りを見渡すともう誰も居ない。
いいかげんお風呂に入りたいところだけど、お風呂場の場所を知らない。あゆむお姉さんは部屋の中に居るだろうし、お風呂の場所は聞けば教えてくれるかな。……もしかしたらあゆむお姉さんはすでにお風呂に向かっているかもしれない。さすがにそんなことはないか。
せいかお姉さんが行った方を眺めるコトイリに声をかけようとして、止まる。
ずっと一緒にいたい存在、か。レテとコトイリはさっき会ったばかりなのに?
疑問と共に靄がかかる。
どうでもいい事を気にしないように、もっと深く、深く水を被る。きっともうすぐ馴染んでこんなことは考えないようになるだろう。
私はあなたとずっと一緒にいたいです、とコトイリが言った。
それにレテはなんて返したのだろうか。