ピピピ、と鳴る目覚まし時計の頭を叩く。
目を開けると知らない天井。隣を見ると、両側を刈り上げた髪型のお姉さん──あゆむお姉さんが眠っている。
ここは校舎、いや魔法少女寮の割り当てられた部屋か。
時計の針はちょうど午前六時を指している。せいかお姉さんは六時二十分までに校庭に出るように言っていたのでそろそろ起きて、用意を始めたほうがいいだろう。
身を起して、布団の上からどいて、その布団を畳んで部屋の隅に置く。服は浴衣になっていたので昨日と同じワンピースに切り替える。……それ以外にやることがない。
時刻はまだ六時五分。もう少し寝ていてもよかったかもしれない。
ぼーっとしていてもしょうがないので、部屋を出る。あゆむお姉さんに小声で行ってきますと言って、静かに扉をスライドさせた。階段を下る。校舎の正面の扉から風が吹いてきているようで、少し寒い。
校庭を見渡すと、左手側に車が三台並んでいるのを見つけた。その近くにはせいかお姉さんもいる。
車は手前側から、大きい黒いやつ、小さめの青いやつ、そして白いトラックだ。トラックは荷台に屋根がないタイプ。
「あら、ずいぶんと早くいらっしゃいましたわね。……お召し物が昨日と同じもののように見えますわ。ちゃんと着替えなさい。」
同じだと何が困るのかな。別にそこまで大変じゃないから変えるけど。服をまた切り替える。
「……今どのようにして着替えましたの?」
「普通に切り替えて」
そう言うと、せいかお姉さんは何かを考え込むようにして、それから息を吐いた。
「ここはエネルギー濃度が高く、魔法が使いやすいですが、他の場所ではそうはいきませんわ。次からは横着せずきちんと着替えない。」
返事は?と言われたので、はいと返す。けれど、せいかお姉さんが何を咎めているのかは分からなかった。
二人で青い車に乗り込む。せいかお姉さんはキーを回して車のエンジンをかけた。そして開け放たれた校門から出る。後ろでははぜきお姉さんが手を振っていた。
誰もいない静まり返った街中でただ車の駆動音がする。沈黙が気まずい。
「レテ「せいかお姉さ」ん」
話し出しが被った。とても気まずい。
「あー、レテさんからどうぞ。」
「あ、うん。その、せいかお姉さんがさっき言ってたここはエネルギー濃度が高いってどういうこと?」
「…………レテさん、あなたは魔法少女や異次元エネルギーについてどういうことをご存知でしょうか。」
「魔法少女はキラキラしていてふわふわしていて、女の子の憧れで、人に迷惑をかける魔物をやっつける人達。そんぐらいしか知らない」
せいかお姉さんはハンドルを片手で動かしながら、もう片方の手で頭を抱えるという器用なことをする。
「あー、テレビなどを見たことはございますの?」
「たぶんない」
レテの言葉を聞くと、せいかお姉さんの眼は遠いところを見つめ、思考を整理しようとしているのか小さな声でボソボソと何かを呟いている。
「君が手に余ると感じるのでしたら、私がレテに説明いたしましょうか。」
コトイリが現れた瞬間、ハンドルが右に回り、それとほぼ同時に大きくキキィーとブレーキ音がなる。ギリギリ家屋には衝突していない。
「出てくるのなら言って下さいまし!危うく衝突するところでしたわ……!」
「おや失礼。さて、レテにはどこから話しましょうか。」
「まだ、
せいかお姉さんが考えるような仕草をしているコトイリを睨む。コトイリもせいかお姉さんを睨み返す。道路から少しだけ斜めにはみ出した車の上で、二人は周りの空気が電気を帯びているのではないかと勘違いするくらいに、互いを睨んでいた。
……コトイリには悪いけど、昨日専門用語多めでレテを半ば置き去りにしていたことを思うと、せいかお姉さんに説明してほしいな。
「レテはせいかお姉さんから教えてもらいたい」
「レテ……どうしてですか……?」
「昨日の事少しだけ根に持ってる。それに、コトイリは関係ないところまで延々と話し続けそうだから」
コトイリは落ち込んでしまった。
しょうがないので、せいかお姉さんの目の前で浮いているコトイリを引き寄せて、膝の上に置く。そして撫でる。
「せいかお姉さん、お願いします」
「え、ええ。」
せいかお姉さんは車を少し後退させ、道路に真っ直ぐにして、再び進ませる。
どうせ駅に行くまで一時間程かかるのだし、と言って、話し始めた。
「魔法少女というのはね、何らかの方法で異次元エネルギーを身に纏うことができるようになったもの、または異次元エネルギーを身にまとっている状態のもののことを指しますの。」
「異次元エネルギーってなに?」
「異次元エネルギーは『重ね合わせ』によって、地球と重なってしまった異次元から漏れ出るエネルギーですわ。そこにいるコトイリさんは異次元の出身になりますのよ。」
なにが誇らしいのか全く分からないけど、コトイリはドヤ顔をする。
「さて、この周辺の異次元エネルギー濃度が高いというのは、『重ね合わせ』が最初に発生した地点で、異次元が多重に重なっているからですわ。」
「『重ね合わせ』は地球を異次元が布のように覆う現象。その布がどこかに引っ掛かって多重になってしまうと、異次元からエネルギーが漏れやすくなってしまいますの。それは異次元が多く重なってる程、頻繁に多量に。そして──魔物が発生する。」
「それを防ぐために発生してしまった魔物を倒し、異次元が重なってしまったポイントに攻撃を加えて重なりを解消するのが魔法少女の仕事ですの。」
「と、話が逸れてしまいましたわね。疑問は解消されましたか、レテさん。」
「あんまり、『重ね合わせ』が最初に発生した地点だから異次元が重なるっていうのがよく分からない。」
「なるほど、では少々待って欲しいですわ。」
せいかお姉さんは車の運転を止めて、座席の間の物入れからハンカチと五百円硬貨と爪楊枝を取り出す。五百円硬貨の上にハンカチを乗せたかと思うと、ハンカチを戻して、ティッシュを一枚取り出した。
「別に地球平面説を支持している訳ではございませんが、この硬貨を地球だと思って下さいまし。」
せいかお姉さんが硬貨の端にティッシュをふわっと丸めた物を乗せて、それを爪楊枝で突き刺す。
「さて、レテさん。破いてしまってもよいのでこのティッシュを出来るだけ原型を保ちつつ爪楊枝から外してみて下さい。」
言われた通りに、爪楊枝から刺さっているティッシュを取り外そうとする。
ティッシュの破片が車内に舞い、なんとかいくつかの穴が空いてしまった一枚のティッシュを手の上に乗せる。
「よく出来ました、レテさん。ところで、今爪楊枝にはティッシュの欠片がいくつか突き刺さったままですわよね。これが今のこの場所の状態です。異次元はこのティッシュよりももっと硬いという違いはありますけど。」
「何となくわかった」
それは良かったですわとせいかお姉さんは微笑み、口を開く。
「では、次はレテさんが