何を聞かれるのかと身構えていたけど、せいかお姉さんの質問は他愛ないものだった。
好きな食べ物、好きな動物、座右の銘などを聞かれて答えて聞かされた。車に乗り込んだ時の気まずい雰囲気は消え失せていた。
ナビが目的地周辺ですと告げる。
シートベルトを外して、車のドアを開けると、ずいぶんと寂れた場所だ。名古屋はそれなりに栄えていると聞いたけど、魔物が発生するようになってからは廃れてしまったのだろうか。
「初めて見た。ここが名古屋なんだ」
せいかお姉さんが吹き出す。面白いとこなんてあったかな。ひとしきり笑った後、息を整えながらせいかお姉さんはレテに話す。
「レテさん、ここは名古屋ではございませんの。米原といいまして、ここから新幹線に乗って名古屋まで行くことになりますわ。」
……だからせいかお姉さんは吹き出したのか。頓珍漢なことを言ってしまったことに気付き少し恥ずかしくなる。
「ところでコトイリさん、ここからは民間人の目もありますわ。魔物が現れるまでは姿を消して下さりまし。」
「承りました。レテ、これから私は暫く姿を消しますが、側に存在はしているので危ないと思ったらすぐに呼んで下さい。」
「はーい。」
コトイリの姿が薄れて消えていく。
「せいかお姉さん、なんでコトイリが見られると困るの?」
疑問を口に出すと、駅の方に向かいながら説明すると言われた。
せいかお姉さんが行く方へとついて行く。
「コトイリさんが、というよりは魔法少女の使い魔を民間人に見せたくありませんの。もっと言うと、魔法少女が誰かということが知られたくないのですわ。」
「個人情報の保護ってこと?」
「そうですわね。魔法少女の姿ならいざ知らず、変身もしていない状態では銃やナイフで簡単に死んでしまいますもの。」
せいかお姉さんは右手で銃を撃つまねをしたり、手刀で自分の胸を突いたりする。駅が近いのか、道の向こうから来た人とすれ違った。
「だから希少な
せいかお姉さんはそう締め括った。目の前には茶色の三角屋根がちょこんと乗っている、少し見上げた辺りに米原駅と白文字が装飾された建物が見える。
建物の中は普通に駅だなという感じで、改札機や切符売り場の窓口などがある。せいかお姉さんは新幹線の切符を買ったみたいだ。子供用の切符を渡される。
切符を改札機に差し込んで通る。せいかお姉さんも隣の改札機を通り抜けた。駅構内でも人は疎らだ。赤青白の文字が踊る発車標は東京行きの新幹線が後一分でやって来ることを示している。
線路を眺めていると、さっきまでいた魔法少女協会本部の方にも線路が伸びているのが分かる。別に車で一時間かけてこっちに来なくてももっと近い駅があったのでは、という疑問が頭に浮かんだ。
「線路、来た側にもあるみたいだけど、ここが一番近い駅なの?」
「うーん、まあ実質そうですわね。魔法少女協会本部周辺は車の中でした話の通り、異次元エネルギー濃度が高いですわ。その分魔物も発生しやすくて危険なので、民間人は立ち入り禁止になってますの。もちろんそこには駅員さんも含まれますわ。ですので、駅自体は存在していても利用することはできなくって、車でここまで移動する必要があるのですわ。」
一分過ぎたのか、新幹線が構内に走ってきた。指定席なので、目の前の号車に入ってから少し移動する。席をみつけると、せいかお姉さんが窓側の席を譲ってくれた。
窓越しに流れては消えていく景色をぼーっと見る。緑色の木が生えては消え、電線が永遠に続くかと思うと途切れる。景色への興味が薄まってきたせいか、それとも朝早く起きたのが仇となったか、眠くなってきた。
視点が目の先から外れていく感覚とともに、レテは意識を手放した。
◇◇◇
レテは新幹線の中にいる。
その新幹線が通る線路の上、もうすぐレテ達を乗せた新幹線が通り過ぎるだろう場所に濃く濃いエネルギーの塊が
あれが異次元の重なりってやつなんだろう。そう思った。
渦巻いて、周りからエネルギーを引き付けるその姿は台風のようだ。動いていないけど。
エネルギーの塊はまだぼやぼやふわふわしていた。輪郭がない、もしくは濃さが足りないのだと誰かがささやく。
突如エネルギーが縮まった。それは気体が固体になる瞬間を思い出させる。
エネルギーの中心には光り輝く薄桃色のブレスレットがあった。
◇◇◇
「レテさん!レテさん!起きて下さいまし!」
「……ん、せいかお姉さん?」
レテの肩を大きく揺さぶるせいかお姉さんは焦りと困惑が入り混じったような顔をしている。レテが目を覚ましたからか、その顔から焦りは薄まりつつある。
せいかお姉さんは真剣な様子で口を開く。
「レテさん、よく聞いて下さいな。魔物が現れましたわ………………しかも、私達の目の前に。」
『逃げて下さい。魔物が発生しました。落ち着いて、逃げて下さい。』
運転手さんのものだろう放送、周りの観客の騒ぐ声、走る音、キィーンと鳴り響く高音。なぜレテは起きなかったのだろうと思う程の喧騒に気付く。いやほんとなんで目を覚まさなかったんだろう、こんなに煩いのに。
「レテさん、思っていた形ではございませんが、この際仕方がないですわ。ささっとコトイリさんを呼んで変身してくださいまし。
魔物に対抗するため、レテは服を魔法少女のものに切り替えた。