『ルグゥウウ』
電磁力で加速された銃弾で眉間、心臓を撃ちぬかれた熊の魔物は地響きを立てながら倒れた。
「・・・銃身にゆがみなし」
熊が完全に動かなくなったのを確認するとハジメは銃の状態を確認し、ホッとする。
「刀真君から貰った電気銃“八重”を参考に、銃を作ってるけど素材の問題か電磁砲を何発か撃つと銃身が歪んじゃうんだよな~~~」
ハジメは左腿のホルスターに収めている自分で作った銃を引き抜き、右手に持つ銃を見比べて呟く。
「な~~~にぶつぶつ言ってるんだ?」
呟いているハジメに熊の解体を終えた刀真が声をかける。
「刀真君、ごめんね。魔物の解体を任せちゃって」
「気にすんな、俺がやったほうが早いからな」
熊から手に入れた魔石をボールをまわすように指先で回しながら答える刀真。
「ハジメの最終試験も終えたことだし、早速次の階に行きたいところなんだが。ちょ~~~と寄り道していこうか」
「寄り道?」
「気になるところがあってな」
千癒の問いに刀真は簡潔に答え歩き出す。暫く歩いてやってきた場所は、
「此処って」
「あの時」
初めて真のオルクス迷宮の魔物を強さを目の当たりした場所だった。
「刀真様、こんなところに何を?」
「言っただろう?気になるところがあるって。・・・・・・ハジメ」
「何、刀真君?」
「錬成を使って穴を掘って行ってくれないか?」
「いいけど。何があるの?」
「それは俺も知らん。けど、俺のセンサーがここにお宝に近い何かがあるって言ってるんだ」
言われた通り刀真が指定した場所に錬成を使って穴を開けていくハジメ。その間、ロクサーヌ、ライザ、千癒の3人は周囲の警戒を行う。暫く掘り進んでいくと青白く発行する鉱石が出てきた。更にその鉱石から液体らしきものが流れ出ている。
「・・ライザ。何も入ってない試験管ってあるか?」
「え?あるけど」
「1つくれないか」
「ちょっと待って」
刀真に声をかけられたライザは試験管入れも兼ねているベルトからからの試験管をとり刀真に渡す。試験管を受け取った刀真は鉱石から流れ出る液体を試験管に入れると液体を解析、鑑定する。
「・・・・こりゃあ大当たりだな」
「何かわかったのとーくん?」
「あぁ、この液体、正式名称は“神水”と呼ばれるもので、飲めばどんな怪我も病も治るらしい。さすがに無くなった腕等を元に戻すことはできないが効果は絶大。さらに飲み続ける限り寿命が尽きないっていわれており、別名“不死の霊薬”とも呼ばれているらしい」
「王国の図書館で見た覚えがあるよ。これがそうなんだ」
ハジメは興味深そうに試験管に入っている神水を見る。
「1.5ℓのペットボトルまでたまっていたなんてな。ライザ、時間ができたら普通の回復薬に神水を混ぜたらどうなるのか調べてくれ」
「任せて」
「じゃあ、攻略と行きますか」
多少の寄り道もあったが、刀真、ロクサーヌ、ライザ、千癒、ハジメの5人は本当のオルクス大迷宮の探索を始めるのだった。
「あっという間に50階層にまで来ちゃったね」
「油まみれの階層やら、薄い毒霧で覆われた階層やら、迷宮なのに密林!?等々、色々あったけどな」
「このスイカに似た果物おいしい。トレント様様」
「美味しすぎて限界まで討伐しちゃったけどね」
「甘未は正義。世界は違えど共通の常識」
おいしそうに食べる女性陣を見て刀真とハジメはその時の光景を思い出す。密林の階層で出会ったトレントに類似した魔物に実った果実。甘未に飢えていた千癒が口にして固まり、気になったロクサーヌとライザも実を食べて同じように固まった。その実は甘く、瑞々しく、そして何より美味しかったのだ。
一心不乱に実を食べた3人は食べ終えると、1流の狩人の目となり階層にいるトレントを狩りつくす勢いで襲い掛かり、全ての実をとったのだ。その光景を端から見ていた刀真とハジメはトレントに同情し、合掌したのだった。
「さて、糖分を補給したところで話し合いを始めよう。議題はこの階層で見つけた扉についてだ」
補給を終えた刀真はここまで回った階層にはなかった扉について話す。
「装飾された荘厳な両開きの扉。そして、その扉を守るように体の半分が壁に埋まった2つの彫刻。あの扉の奥に何かがあるのは確実だね」
「・・・パンドラの箱」
「パンドラの箱・・か。言いえて妙だな」
千癒の言葉に刀真は頷く。
「もしかしたら見たこともない素材があるかもしれないから」
錬金術師としての観点から開けたいライザと、
「何もなかった道中、もしかしたら迷宮攻略のターニングポイントになるかもしれない」
迷宮攻略の新たなきっかけとなるかもしれならいから開けようというハジメ。
「危ないから開けない。とーくんが決めて」
刀真に丸投げする千癒。
「開けないほうがいいと思いますが、刀真様の判断に従います」
何が起こるかわからないので開けないほうがいいというが最終的な判断は刀真に任せるロクサーヌ。
開ける2人、開けない2人。同票のため判断は刀真にゆだねられた。
「結局決めるのは俺なのかよ」
「まぁ、刀真君がこのパーティーのリーダーだからね」
「ん」
最終的に自分が決めることに刀真がため息をつく。
「(ハジメのいう通りここまで何もなかった迷宮にあった不自然な扉。ハジメのいう通り開けることは迷宮探索の転機になることは間違いない。問題なのは中に何があるかだ)」
自分達に吉をもたらすものなのか、凶をもたらすものなのか分からない。しかし、日本にはこんな言葉がある。
「(“毒を食らわば皿まで”ってか)・・・開けよう」
刀真が扉を開けること決めた。開けることを決めるとハジメの錬成で壁に穴を開け、扉のある区画の近くに簡易拠点を作り、武器や道具の点検を行い、万全の状態で挑めるよう、早めに休んだ。
そして翌日、体力、気力ともに回復した一行は件の扉へと向かう。
「しかし、見事な扉だな」
「天然でできた・・・訳じゃないよね」
何事もなく扉の前までやってきた刀真達は見事に装飾された扉を見て人に手によって作られたものなのだと理解する。
「どうだハジメ?何かわかりそうか?」
「・・・・・ごめん。こんな式見たことない」
「っと、なると相当古いって事になるな。中央にある2つの窪み、掘られた魔物の石碑。答えは1つしかなさそうだな」
今ある情報から答えを導き出した刀真は扉に触れる。刀真が扉に触れた瞬間、扉から電撃が迸り刀真の手を弾き飛ばした。
「刀真様!?」
「大丈夫だ。千癒、頼めるか」
「ん」
ロクサーヌが慌てながら刀真に安否を確認するが、刀真は問題ないと言い千癒に治療を頼む。
すると、
‐オォオオオオオーーー!!‐
野太い雄叫びが部屋、階層に響きわたる。
その雄叫びを聞き、刀真と治療をしている千癒以外が臨戦態勢に入り、周囲を警戒する。雄叫びが響く中、遂にその正体が動き出した。
「・・ベタ過ぎない?」
「捻りがない」
扉の両側に掘られていた石像が周囲の壁を砕きながら動くのを見て、ハジメと千癒が呟く。
石像だった魔物の見た目はファンタジーゲーム定番の一つ目の巨人“サイクロプス”と瓜二つ。魔物は未だに埋まっている半身を壁から強引に抜け出すと、無粋な侵入者である刀真達を排除しようと何処からから持ち出した大剣を振りかぶる。
「朧・龍断」
だが、魔物が大剣を振り下ろすよりも早く、手の治療を終えた刀真が刀を思いっきり振り上げ、剣圧で魔物を真っ二つにした。
「初動が遅い。ロクサーヌ」
「はい」
あっという間に相方が倒されてしまったことで動くのをやめてしまった魔物。そんな隙を見逃すほど甘い考えを持った者はこの場にはいない。刀真の言葉を聞くやいや、ロクサーヌは“雷公”を纏い、一瞬で魔物の頭上に移動すると、
「朧・疾風雷覇」
両腕を交差させた後、勢いよく水平に剣を振るい魔物の首を斬り伏せようとしたが、魔物が一瞬光ったかと思うと皮膚が剣を弾いた。
「な!?」
剣が弾かれたことにロクサーヌは驚く。魔物は小馬鹿にしたように口元を歪めた後、身動きのできないロクサーヌを捕まえようと腕を伸ばす。だが、
「“天歩”」
ロクサーヌは一度目の踏み込みで魔物の腕を躱し、2度目の踏み込みで魔物の懐まで一気に潜り込み、
「“壕脚”」
強化された足で魔物の顎を思いっきり蹴り上げ、魔物を仰向けにひっくり返した。
「朧・疾風雷覇」
蹴りの反動を利用して空中で1回転したロクサーヌは“天歩”を使って再び魔物との距離を一瞬で詰め、剣を水平に振るい今度こそ魔物の首を斬り払った。
門番の魔物を倒した刀真達は魔物を捌き体内にある拳大の魔石を取り出す。
「考えが確かならこれで正解のはずだ」
取り出した魔石を扉の窪みに合わせるとピッタリと嵌り込んだ。直後、魔石が赤黒く輝き魔法陣に魔力が供給される。
「これまたお約束な展開だね」
扉を守っていた者が扉を開ける鍵となる。ゲームでお約束な展開にハジメは苦笑いする。
そして、何かが割れる音が響き、光が収まる。同時に部屋全体に魔力が行きわたり周囲の壁が光、光がない迷宮に明りがともる。
「・・・んじゃ、開けるぞ?」
全員の確認を取ると刀真は扉を開いた。
扉の奥は光一つない真っ暗闇で大きな空間が広がっているのが音の反響で分かる。手前の部屋の明かりに照らされて少しずつ全容が分かってくる。
部屋は大理石のように鮮やかな石造りでできており幾本もの太い柱が規則正しく2列に並んでいる。そして部屋の中央付近には巨大な立方体の石が置かれ、部屋に差し込んだ光に反射して光沢を放っている。
「ん?」
「何かある?」
その立方体を注視していた刀真達は何か光るものが立方体前面中央あたりから生えているのに気が付いた。
それが何なのかを確認すべく刀真はハジメ達を扉付近で待機させ、近づこうとすると、
「・・・・だれ?」
弱弱しい声が聞こえてきた。